MENU

十一 財を得て財に頼らず

会社経営上、より多く資産をもつことは望ましいことで経営基盤の強化にも欠くことはできない。

また、多くの資産が生み出す果実は収入源となり、トータルコスト引き下げにも役立ち競争力強化の役割を果たす。そのため企業は競って資産の増加に努めるわけで好ましいことといえる。

ただ、ここで戒めたいことは、それに頼ってはならないということである。その昔、ある繊維会社の社長と話し合ったとき、その鼻息の荒いのに驚いたことがある。

「世間では、首きりだ、倒産だ、と四苦八苦しているが、うちでは何千人かの従業員が一年二年遊んでいても立派に給料は払える」とうそぶいていたが、十年後には身売りしている。土地を切り売りしても経営できる、といっていたが一括で売らねばならなくなっている。いうまでもなく、資産に頼って、時代の変化に対応しなかったからである。

また、私の銀行時代のことである。

ある中堅会社社長から借入れ申込みがあった。担保余力も乏しい。しかし、個人所有の書画骨とうなど家宝としているものは捨て売りしても一億円はある。ただ、それを売るわけにはいかない、という。しばらく話した後、極力売掛の回収を急いでやりくってみますということで帰った。それからしばらく音沙汰なし。一ヵ月後に現われた社長曰く「私が売掛回収にとび回っている間に家内が、画商をよび集めて、全部売ってしまった。それでピンチをきり抜けた」と話していた。

後日、その夫妻とあるパーティーで会ったとき奥さんがこう話していた。

「主人は古美術マニアで集めているが、会社がつぶれたら、それらをおく場所もなくなるのに売ろうともしない。たぶん未練があって売れないのではないかと思って、私が売りました。

それに、いまから、ああいう物に目を細めているようでは、いつになっても会社の芽は開かないでしょうから。でも、色紙一枚だけは残しておきました。 ″色即是空″と書いてある色紙です」

「奥さんが社長になられてはどうです」といったら「余計なこといわんで下さいよ」と。私の知人がもと勤めていた会社の業績は長年赤字つづき、売上げも伸び悩んでいるが払込資本金の二十倍相当の借金を抱えて気息奄奄。それというのも土地を持っていたからだ。年々土地が値上りするため、担保余力が増える、増えるをいいことにして借金してきたからである。

これらはいずれも物財に頼った悔いといえる。

昔から知っているいくつかの地方都市の目抜き通りは、地主・金持ちが軒を並べていたものであった。由緒ある店構え、看板を掲げて、ご主人は何人もの丁稚小僧を顎で使っていた。

近年では一軒も見当らない。なかには、近代的店舗を建て、昔丁稚であった人が社長に納まっているものさえある。丸々相続税に取られたはずもない。端的にいえば、財産頼りに暮らしている間に時代にとり残されたのである。

あるところに、地主村といわれる地域がある。何ヘクタール、何十ヘクタールという田地持ちが、昔ながらの門構えを誇り、雇われている者などはすべて呼び捨て、大猫同様に扱われていたものである。

近年では主従逆転。主の中には夜逃げした者もある。それにしても時代の進歩にとり残されたといえよう。現代のように進歩の激しい時代、競争の厳しい時代に生き残るためには物財を持つ者、持たない者ではスタートで大差がつくことになる。しかし、それに頼っているようでは物財のない者に追い越されることになる。この話は二十年はど前になる。

プロセールスマンでトヨタ自動車のナンバーワンといわれた中村賢作氏と対談したことがある。

「昨年は七百五十六万円稼いだが今年は一千万円に挑戦するつもりだ」といっている。年は三十才を過ぎたばかり。当時としては中堅会社の社長クラスの所得である。

「そうした根性はどうしてでるのか」

「私は茨城の結城高の普通科を出て、ガソリンスタンドのパート、自動車修理見習いとセールス体験はない。主任の肩書きはあるが一匹狼、固定給は月四千円でないに等しい。決まった得意先もない。ないないづくし。なにもなければ、攻撃だけが飯の種。もっている者は守ることから考える」といっている。乱世を生き抜く力は無から出るとでもいえようか。財を得て財に頼らず、玩味したい言葉である。

おギ^

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次