ユーザーインの発想に立てば売れる製品はできますが、儲かる製品になるかどうかはまた別です。有望なアイデアを儲かる事業に育てるためには、損益管理が必要です。
これは至極当然のことですが、原価管理、損益管理ができていない会社は多い。
「あなたの会社は、どの製品でいくら利益を上げていますか」と尋ねても、即答できない社長が結構います。
アイリスのように、年間1000以上の新製品を出しながら、高い利益率を出し続けるには、「正確な損益管理」と「確実な計画実行」の仕組みが必要です。
アイリスでは前述のように中長期の目標は立てませんが、それは確からしい予測が不可能だからです。対して、予測できる近距離のことは徹底的に細かく管理します。
予算がない会社
アイリスでは、各部門の現場を仕切る幹部社員がボトムアップで年度事業計画を策定します。営業なら営業、開発なら開発と、部署ごとに計画を作り、それを合算したものが全社計画になります。
具体的には、10月の幹部研修会で翌年の事業計画のたたき台を各部署が発表し、12月に全体計画の調整を経て、1月の幹部研修会で年度計画が発表されます。
事業計画を作る過程ではトップが事業の大きな方向性を示しますが、担当者はビジネスチャンスを狙って積極的な計画を立てるので、私や社長はどちらかというとブレーキ役です。
一般には経営企画室のような部署が計画を策定することが多いと思いますが、アイリスでは各事業部の幹部に任せます。
計画に主体的に取り組むには、社員が考えたほうがいいからです。その上で各部署は毎月、損益を細かく分析します。
実際に走ってみて計画と実績の差異が目立つなら、四半期または半期ごとに、向こう1年間の計画を立て直します。
年度の計画修正に加え、その時点からの向こう1年間の計画を作り直すのです。会社は決算年度で動いているのではありません。
12月決算だとしたら12月までの数字が前年や予算を超えればいい、予算を超えたなら今期中に経費を使い切ってしまおうなどという思考に陥りがちですが、ユーザー目線で見れば全く関係のないことです。
もちろん、赤字になれば金融機関からの資金調達に影響は出るでしょうから、会計年度を全く意識しなくていいと言うつもりはありません。
上場企業ならばより神経質にならざるを得ません。ただ、事業活動は本質的には会計年度で動いているのではないと理解することが必要です。常に1年先を見据えるのです。ちなみにアイリスでは、予算という概念がありません。
開発部門などのコストセンター(経費は使うが、収益を計上しない部門)についても、年間でこれくらいの経費を使います、という予算がない。
予算をぶんどるとか、そういうやり取りはなく、必要なものがあれば、必要なときに買えばいいというスタンスです。
会社の都合で予算の総額や部門の割当てを決めるというのは、それはユーザーにとってはどうでもいい話です。
ユーザーのために作りたい製品があり、そのために必要な経費で、しかも損益を細かくシミュレーションした上での金額ならば、それは使うべきお金です。
ユーザーのニーズに合っていて、たくさん売れれば、経費をかけただけの利益が得られるのです。
ユーザーの事情から離れたところで会社の予算を決めて、本当に必要なのかどうかも曖昧なまま資金を投じるほうが合理的ではないはずです。
開発社員が3年間は損益管理
アイリスの利益管理は、発売3年以内の新製品が営業利益ベースで10%以上の利益を出すことを第一優先に考えます。
特徴は開発社員が製品発売以降も利益管理をする点でしょう。
利益管理を事業責任者や営業担当者が担うと、目標に達しないと「製品が悪いからだ」と開発のせいにしがちです。
責任転嫁は組織運営上の大きなロスです。
社内の力をストレスなく需要創出・利益創出に連結させるには、開発担当者に利益管理をしてもらうのがベストです。
開発担当者は試作品作り、部品調達、原価計算、価格決定と、企画立案から製品発売に至るまでの仕事を一貫して担当します。
その過程でかかった製品ごとの開発費も細かく計算し、製品発売後も3年間、開発担当者が責任を持って損益をチェックします。
開発段階から、数字については厳しく言われます。
売上高に占める開発費をあらかじめ設定し、仮に4%計画の製品の開発費が6%で推移しているなら、「もっと付加価値を上げて」と指示が飛び、3%なら「人を増やしてきめ細かく開発したほうがいいのでは」と検討を迫る。
開発段階から利益を考え、開発の進め方を調整するのです。
アイリスでは全部門長が参加する月次会議を開いており、ここに開発社員も出席。
発売後の製品の売上高と開発費用などを比較し、自分たちが作った製品がどれくらいの黒字を出しているか、はたまた赤字なのかを社内の全部門と情報共有します。
1年間で1000個以上の新製品が出ますが、3年分は開発部門が個々の製品の利益率を追尾するのです。
個別製品の付加価値は、売り上げから開発費と製造原価を引いたもの。
製造原価には原材料の仕入れと工場の製造コストが含まれます。
リレー型の開発体制を取っている普通の会社では、開発部門は作ったらお役御免で、損益管理まですることは少ないでしょう。
このような仕組みをつくれば、当然、開発者は開発にかけるリードタイムを意識するようになります。
開発にかける人件費は期間に比例するからです。
会社全体としてはプレゼン会議が開発のスピードを上げる動力になっていますが、開発現場では製品ごとの損益管理をすることで、開発のスピードアップが図れます。
そもそも技術者は、自分が持っている技術を発揮することに関心を置きすぎです。
技術そのものが売り上げに貢献したり、努力が売り上げに比例したりするわけではありません。
ユーザーの役に立つ製品を開発して初めて、売り上げが上がるのです。
だから開発者が、自らのユーザーイン視点が正しかったかどうかを、毎月の損益管理を通して確認する仕組みはとても重要なことだと考えています。
「PDC」で止まらせない
営業部隊も、得意先別の損益などを月次会議で発表します。営業にかかる人件費や経費、営業サポート部門の経費も頭数で計算します。こうすると、個々の損益が手に取るように分かります。
これとは別に、ホームセンターやドラッグストアなど販路ごとの損益管理もします。利益が出ていない新製品があれば課題を抽出し、それに対してどうするかを細かく議論していく。
実績の評価よりも、それを踏まえて何をどう変えていくのかが大事です。アイリスでは、どんぶり勘定を一切しません。
原価計算をしなければどこに問題があるのか、本当に儲かっているかどうかが分からない。それはマネジメントの基本中の基本です。
本書のテーマである真の効率以前の問題であり、原価計算ができなければ、当然のことながら、いずれの経営が効率的かという検討すらできません。
利益計画に対しての達成率は毎月出します。
新製品を出しても初年度は小売店、そして消費者の認知が進んでいないため、目標には届かないケースも多い。
2年目、3年目に向けてどう周知・拡販をしていくのかが勝負です。売れない製品をボーッと何もせず続けても意味がない。
売れなくてもすぐにはやめませんが、販促や価格の改定などをしても計画値とかい離している状態が改善されない場合は、製品のリニューアルを行います。
プレゼン会議しかり、アイリスではこうした計画達成のためのプロセスを、すべて会議で進めます。
会議が無駄だという論調もありますが、それは定期的なルーチン業務であったり、出席しても議論がなされない内容だったりするからでしょう。
経営陣と同レベルの情報を共有し、計画達成に向けて徹底的に議論するアイリスの会議は、それ自体が事業活動のエンジンです。
確実に結果を出すため、会議では必ず議事録を取ります。話し合った要点、浮かび上がった課題、その課題を誰がいつまでに解決するのか。これらを議事録に残す。
そして会議後に議事録を配り、やるべきことをメンバーに確実に取り組ませる。議論を目標に向けて連続させることが重要です。宿題の結果は、次の会議の冒頭で発表してもらいます。
報告会で終わる会議では意味がありませんし、遅々として議論が前に進まない会議はやめたほうがいい。
どんな組織でも、気を許したら、PDCAが、PDやPDCで止まります。しかし途中で止まってしまっては決して達成率は上がらず、社員のモチベーションも低下します。
だから、会議で議事録を取るなど、C(確認)やA(改善)を確実に促す仕組みを取り入れなくてはいけないのです。
物事をゴールまで押し詰める習慣がついた社員は、計画の立て方、改善提案の質が上がり、PDCAが驚くほど高速で回るようになります。
数値のない目標は認めないどんな仕事でもそうですが、自分自身で創意工夫したことが高い成果を出すとうれしいもの。
人は「やらされ仕事」は本気でやりません。でも、自分が作った計画なら、やる。それが評価されると、もっとやる。それが人間の性です。
そのためアイリスでは部門・チーム単位でも数値計画を立て、細かく採算管理をしています。数字にしないと、どれくらい実行したかが判然としないからです。営業部門、開発部門はもちろん、サポート部門、間接部門なども数字で目標を立てます。
例えば広報・PR部門なら、ある製品の認知度が何パーセントだったものを今年は何パーセントまで上げる、家電メーカーとしてのブランドポジションをどのぐらいまで上げるといった数値目標に落とし込みます。
数値がない目標は認めません。
数値で見ることで計画の達成度を細かくチェックできますし、自分の努力・工夫が数字に表れることで社員のモチベーションにつながるからです。
改善の手を直接打つのは、社員たちです。社員は毎月、自分の仕事ぶりが損益として全社員の目に触れるのですから、安穏とはしていられない。
赤字なら頑張ろうと思うし、黒字ならもっと利益を伸ばそうと考える。数字をオープンにすれば、社員は自ら知恵を絞るのです。正確な赤字把握が改革の前提私は連結決算には反対です。
企業グループの実態を正しく知るという連結決算の目的は理解できます。でも、連結決算をいいように使い、赤字会社が目立たないように装うケースもある。
連結決算は投資の目安としては便利ですが、個別事業の損益が見えにくく、赤字部門の対策が後手に回りかねない。
早く手を打てば、会社を潰さなくて済んだケースもあるはずです。分社化したグループ会社にも、競合する企業が存在します。
製造か販売かなどにより利益率は異なりますが、原則は、同種の企業以上の利益率を出すことが基本です。アイリスはそうした損益管理を曖昧にせず、事業や製品のブラッシュアップを常に繰り返してきました。
アイリスの〝新製品打率〟は6割です。
当たったら売り上げ規模が数十億円になるような〝ホームラン商品〟よりも、生活の中の不満を発見して、新しい提案を加えた製品の開発を優先していることもありますが、やはり強みは仕組みです。
ユーザーインで全部門が同時に製品開発に向き合う。そして製品発売後は、月次会議でやはり全部門が同時に改善プランを練り、確実に実行する。この仕組みの成果です。
利益管理においては、特異なことをする必要はありません。利益を出すために何をすればいいのかは実は皆、分かっているからです。必要なのは正確な利益の把握。部門別・製品別などどこまで利益を細かく算出できるかです。
管理というのは能力や手法ではなく、それを徹底的にやりきる執念にかかっているのです。
ここまで、いかなる時代環境でも必ず利益を出すために、アイリスが長年かけて築いてきた仕組みを説明してきました。
こうした仕組みを確立すれば、より大きなビジネスチャンスをつかむ可能性を引き上げられます。
本章では、アイリスの「ジャパンソリューション」と「グローバル展開」について、仕組みと絡めながら説明していきます。
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