事業を始める者は誰もがその事業を伸ばしたいと考えます。それに間違いはありません。 しかし、ほとんどの社長は無理をしています。 会社の利益は大切なものです。 儲けることも重要な仕事です。 また、儲からなければその会社の意味もありません。 小さな会社の社長も、中堅どころの会社の社長も、気持ちは同じでしょう。みな、事業を拡大するために日々働き続けています。 しかし、なんのために事業を伸ばし、拡大を望むのでしょうか? もちろん、会社を安定させるため、家族や社員によりよい生活を送らせたいという気持ちから、また儲けることによって社会貢献したいと考えたりもするでしょう。 しかし、このような社長のお話がありました。「最初は五千万円くらいの年商でした。三年後に一憶二千万円、五年後に二億円となり、十年後は六億円まで事業を伸ばしました。自分でもよく頑張ってきたと思います。社員も十名から六十名となり、社員旅行ではバスを二台チャーターしました。 ただ、十五年経ったいま、改めて振り返ると、利益率が減っていることがわかりました。売り上げが五千万円のころの利益率は五十%以上あったのですが、売り上げ一億二千万円で利益率三十%。六億円で二十%、六億円を超えたときは十%以下になってしまいました。もちろん、事業が拡大したためのやむを得ない数字だと思いますが、いまは、恐ろしくて、恐ろしくて夜も眠れなくなりました」 これは自然なことです。 売り上げを伸ばせば社員を増やさねばなりません。 それにつれて経費なども数倍、数十倍となります。毎月の人件費や支払いなどを考えると、膨大な費用に膨れ上がります。 その社長は、次のような話をしてくれました。「私は会社経営が恐ろしくなりました。現在も仕事は順調なのですが、改めていままでの経営を振り返ると、よくここまでやってきたという半面、もうここが限界だと感じました。私は自分の目の前にいるハエを払いのけることができなくなった。それはすなわち、経営者としての私の限界ということです。 私は幹部と相談して、会社を譲る決心をしました。私は現在七十歳です。後進に譲るときがきたのだと思いました。残念ながら子どもがいませんので、
後継者は幹部の中から決定しました。この決断は正解だったと思っています。いま、私は二、三人の小さな会社の社長になり、元の会社から仕事をもらうようになりました。私は生涯現役を目指し、楽しく仕事ができるようになりました。なによりも、夜ぐっすり眠れるようになりました」 会社の寿命は三十年から四十年といわれていますが、創業三十年、五十年と続けている会社はたくさんあります。また、七十年、九十年、百年などの老舗もあります。 ただ、経営者は年齢とともにいずれ引退を迎え、二代目、三代目にバトンタッチしていかなければなりません。会社を譲る、子どもを二代目に据える、第三者を代表にする、 M& Aで吸収合併を図る、売却してしまう、会社をたたむ、などのさまざまな選択があります。 ところが、後継ぎがいない、残った借入金や資産の処理の目途が立たないなどで、事業継承が困難な会社もあります。余剰資金が残されていれば問題はありませんが、中小企業のほとんどが経営難に追われているのですから、会社を譲ることは現実的にはむずかしい問題です。 しかし、会社を譲る場合、新しく起業したい者、なにか新しくチャレンジしたい者にとっては、事業内容や実績をそのまま活用できるというメリットがあります。ですから、会社を譲る場合は、業種や資産などではなく、会社内容と業態が大切なポイントとなります。 また、七十歳であろうが、八十歳であろうが、そのまま仕事から引退してご隠居となる人生の選択もよいことですが、引退後はできる範囲で世の中に貢献する人生の選択も素晴らしいことです。 人は誰もが千差万別で貴重な体験や経験を持っています。 売り上げ第一主義、利益追求主義だけの経営ではなく、体験や経験を活かした小さくとも楽しい仕事のできる会社を作り、生涯現役を目指す経営もよいかもしれません。 ただし、その会社もいずれ誰かに譲ります。 そうすれば、会社は永遠に残り続けます。
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