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処遇と人件費

目次

【5ー1】人件費の改革:社員個々の給料は上げるが、人件費の総額は下げよ。

売上も利益も右肩上がりに伸びていく経済成長期が終焉を迎えたいま、国定費の大部分を占める人件費の増加は、そのまま収益の圧迫につながる。しかし一方で、いくら経営環境が厳しくなるからといって、人件費をただ抑えればよいというものではない。

昨今、「ブラック企業」の話題がマスコミに取り上げられている。経営のコスト要因だけをみて、「使い捨て」と呼ばれるような人の用い方をして利益を追求するやり方が、世間から指弾されているが、私には、そういう会社は一時の繁栄に終わって、数年先の存在も危ういように思われてならない。

そこで社長には、ある意味で単純な、しかも過去のやり方にこだわらない発想が必要となってくる。

その一つの発想は、社員個々の給料は上げるが、会社の人件費は総額で下がる方策を考えられないか、ということである。

「いま100人の社員でやっている仕事を、半分で同じようにできる仕組みをつくれたら」、あるいは「100人でやっている仕事の儲けを倍にできたら」…、このように単純に考えてみることで、「社員の給料を上げ、同時に会社の増益も達成する」という、悩ましい経営課題の明快な解決策が見えてくることがある。

賃金原資の効率的な分配や増員計画だけなら、人事や総務担当長の仕事で同時に、社員の処遇を高めてさらなる増益に結びつける責任者」であり、「固定費としての総人件費の抑制」と「社員一人当たりの人件費の引き上げ」を矛盾なく両立するために、全体の事業計画とリンクさせて、総人件費をコントロールしなければならない。

そのためには、自社の人件費総額の「中身」と「質」について早急に見直し、具体的な手を打つことだ。文字通り、会社の生き残りをかけて「人件費の革新」が迫られているのである。

佐藤肇著「社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営」より

【5ー2】中小企業の賃金の鉄則:中小企業の賃金は、「もともと少ない原資を、少ない人数で分ける」のが鉄則である。

中小企業の賃金は、「もともと少ない原資を、少ない人数で分ける」のが鉄則である。ここに、中小企業経営の面白さがある。

もし予定以上の利益が出たら、少ない人数で分ければ、1人の分け前は大企業のサラリーマンの比ではない。だからやりがいもある。ところが、小さなパイを大勢で取り合えば、社員の生活の向上など望むべくもない。

この鉄則に則れば、中小企業は「仕事を増やして人を増やそう」という発想を、もう捨てるべきなのである。パイを大きくするため増益を狙うには、増員もまた必要な場合もあるが、昨今の厳しい経営環境のなかで安易に人を増やすと、意図した利益が出なくなった途端に企業体力を一挙に弱めかねない。

人を増やさず儲からないものを捨てれば、売上は減っても利益率は上がり、会社におカネが残る。増員して売上を伸ばすより、よほど楽に経営できる。

佐藤肇一決断の定石」CDより

【5ー3】経営の情と理:社長と社員のホンモノの信頼関係は、経営の「情」と「理」のベストミツクスから生まれる。

私は、社長と社員のホンモノの信頼関係は、経営の「情」と「理」のベストミックスから生まれると考えている。

中小企業の社員の力を最大に発揮させる要因は、「この社長のもとで働いていれば、 一生安心だ」という信頼感である。この信頼感に給料という形で具体的に報いることが何よりも大事なのだ。

だからといって、情に流されて安易に賃上げをしても、数年先には利益を食いつぶして会社の存続そのものを危うくしかねない。

「経営はバランス」とよく言われるが、処遇と人件費においても、固定費としての人件費総額の抑制と、社員一人当たりの人件費の引き上げとが、社長のアタマのなかで矛盾なく組み込まれていなければならない。

佐藤肇著「社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営」より

【5ー4】総人件費を膨らませないモノサシ:社員の待遇改善が社長の思いつきにならないために、「人件費係数」を明確に把握せよ。

社長が社員の処遇に対して「情」と「理」のベストミックスを実現するツールとして、「人件費係数」をおすすめする。

人件費係数とは、人件費総額を月額給料の総額で割ったもので、給料に換算して何力月分の人件費総額を、社員の待遇のために支払っているかを示す指数である。

たとえば、給料12カ月分に対して、福利手当(住宅手当や家族手当など)を0・2カ月分、賞与4カ月分、退職金1カ月分、福利厚生費(慶弔金、誕生日会などの費用)0。21カ月分、これらに法定福利費(労災保険、健康保険、厚生保険)1・75カ月分を加えて19。16カ月分となれば、人件費係数は19。16だ。

どのくらいの人件費係数が適当かは、 一概に言えない。世間水準の給料を前提にあえて言えば、大体が19〜20前後におさまっているのではないだろうか。つまり、自社の総人件費を考えるときは、給料月額のおよそ19カ月分の人件費を要するということを、頭に入れておかなければならないということである。

皆さんの会社の人件費係数の推移は、どうであろうか?・過去5年間の人件費係数を算定してみて、もし下がり続けていれば、特殊な理由がないかぎり、社員の待遇が悪化していると考えなければならない。

逆に、人件費係数が上がったということは、社員の待遇改善に結びついたということである。

しかし人件費係数が上がるということは、社員数が同じなら人件費総額がモロにアップするというシビアな面があることも、決して忘れてはならない。すなわち、人件費係数は社員の待遇改善を計るモノサシであるとともに、社長が総人件費を膨らませすぎないための経営のモノサシでもある。

人件費係数がたとえば18だから、何となく情緒的に来年から20にするなどという安易な対応は、絶対にやってはいけない。そうしないと、社員の待遇改善という情に流されて、肝心の総人件費が野放しになり、収拾がつかなくなってしまうからだ。

そうならないためには、ここ数年の人件費係数の推移を正しく把握して、これから5年かけて社長としてどう改善していくか、事業計画の目標利益範囲内で、中長期の人件費計画にまとめることである。

結論として、5年間でせいぜい1カ月アップをメドにすべき、というのが私のアドバイスだ。思いつき経営は、厳に慎むべきである。

佐藤肇著「佐藤式先読み経営」より

【5ー5】自社の適正人員枠:社員の適正数は「労働生産性」が決める

社員の生活向上や待遇改善を考えるとき、経営の「理」として重要なことは、社員一人当たりの稼ぎを増やさないままに人を増やし、給料を増やしていったら、会社は間違いなく人件費倒産に追い込まれる、ということである。そうならないためには、「社員一人当たり、いくら稼いだのか」ということを、きちんと把握しておかなければならないことになる。そのモノサシが、「労働生産性」である。

労働生産性=年間付加価値十平均社員数

労働生産性は、平均社員の数で年間付加価値(売上総利益または粗利益)を割ったものだ。「平均社員数」とは、期首人員と期末人員を足して2で割った、その年度の平均人員数である。つまり社員一人当たり、いくら付加価値を稼いだかという数字だ。

ここではっきりさせておきたいことは、労働生産性のアップを無視して、社員の待遇改善も増員も何もあったものではないということである。

儲けが多ければ社員も増やせるし、待遇の改善もできる。しかし、過剰な社員を抱えておいて待遇改善を考えるなど、百害あって一利もない。当たり前のことだが、多くの社長が、この当たり前の理屈を忘れている。

先の算式を変形すれば、

平均社員数=年間付加価値十労働生産性

となり、社員の適正数は、年間付加価値と労働生産性からおのずと決まる。

つまり、労働生産性は、「あなたの会社は、儲けの割に人数が多すぎる」「儲けに対して、過剰あるいは割高な人員を配している」と教えてくれる指標なのである。

言うまでもなく、会社は、ボランティア組織でもなければ、仲良しクラブでもない。会社は、自らの力で付加価値を稼いで、それを人件費というカタチで社員に分配する。

「自助努力」が企業経営の原則だ。そのためには、「労働生産性の把握なくして、人件費のコントロールなし」である。

佐藤肇著「社長が絶対に守るべき経営の定石50項」より

【5ー6】目標労働生産性の設定 労働生ぎヒ2ヨ三性は昇給率の2倍を目標とせよ。

「自社の収益改善のため、労働生産性の目標をどのように立てればよいか」

とお悩みの経営者は、直前期の労働生産性に、今後5年間の昇給率合計の2倍を掛けた数値を、5年後の目標労働生産性としていただきたい。

つまり、社員の給与を社長の希望通りに上げたいのならば、少なくとも、その2倍の伸びで労働生産性を高めていかなければならないということだ。

昇給率が3%アップなのに一人当たりの儲けも3%アップでは、会社は成り立たない。だから、社員の給料が毎年3%ずつ上がるなら、社員はその2倍の付加価値を稼いでもらうことが義務となる。

とはいえ、労働生産性は昇給率の2倍を目標とせよと言うと、「2倍とは、日標として高すぎるのではないか」と驚かれる方もいる。しかし、これは十分に達成可能な数値である。

たとえば、年間の昇給率目標が1・5%の会社ならば、労働生産性の目標値は、5年後の昇給率7・5%の2倍、すなわち15%のアップだ。

「労働生産性15%アップ」というと非常に高い目標に思えるが、単純に案分すれば、1年で3%ずう労働生産性を向上していけばよいことになる。年間3%のアップは、私の経験からしてそれほど難易度の高い目標ではない。

これを、毎年10%、20%ずつ上げろと言えば、社員は「社長、それは無理ですよ」となる。

しかし、「お前たちの給与を毎年1・5%上げていきたい。そのためには、どうしても達成しなければならない目標なんだ。それに、予定外の儲けが出たら、その分を必ず賞与で還元するから」と話せば、「よし、3%ずつなら何とか達成できそうだ。そのかわり、社長も俺たちの給料を約束通り上げてくださいよ」と社員も頑張ってくれるはずである。

経営とは、厳しいものである。社員を甘やかして経営がうまくいくなら世話はない。やはり、社員に経営の厳しさを理解させたうえで、積極的に協力してもらう。そのかわり、協力に対しては大いに報いてあげる。

この相関関係を前提として初めて、中小企業の労働生産性向上は成り立つものだと確信している。

佐藤肇著「佐藤式先読み経営」より

【5ー7】本当のリストラとは 「労働生産性の向上」が先、「増員」は後。

これからの時代、増収増益、つまり売上を伸ばし、同時に利益も伸ばすような教科書的経営は、並大抵なことではできるものではない。よって、売上が期待通りに伸びなくても、「増益」だけはしっかり確保する経営が要求されることになる。

そういうなかで労働生産性を高めるには、①年間付加価値を増やす、②平均社員数を減らす、③その両方をやる、の3つしかない。

そして、①のキーワードは、仕事の徹底的な見直し、つまり「事業の再構築=リストラ」、② のキーワードは、人の徹底的な見直し、つまり「組織の再構築=リストラ」と「人件費の変動費化」である。

つまり、社員の生活向上を考え、同時に自社の事業繁栄を願うならば、社長として自社の「リストラクチャリング」と「人件費の変動費化」に強くならなければならないということだ。

これまで強気一辺倒で成功を収めてきた社長なら、「そんな弱気な。儲かる新規分野にどんどん進出していって、売上拡大を図るべきだ。そのために必要な人員を積極的に投入していかなければ、増益どころか、縮小均衡になってしまう」と反論されるかもしれない。

お説もっともだが、これまでのように向こう見ずでやっていたら、必ず痛い目にあうことになる。儲けの薄い商品、成長率の低い分野で事業を続けたままでの新規拡大策は、自殺行為に等しい。

儲からなくなっている仕事は捨てる。そうしておいて、余った人員を有能なものから優先的に、現在の儲け頭の事業や力を入れるべき事業に重点的に再配置するべきだ。

ここで労働生産性が上がって、初めて、増員も待遇改善も可能になると心得るべきだ。あくまで「労働生産性の向上が先、増員は後」である。

労働生産性が下がっているのに、増員や待遇改善などという虫のいい話は、民間会社である以上、できない相談だ。これは事業経営の鉄則である。

佐藤肇著「社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営」より

【5ー8】要員計画の誤解 「要員」計画は、「増員」計画ではない。

多くの会社では、「要員計画」と言わずに「増員計画」としている。社員は減らすものではなく増やすもの、という前提だ。しかし、労働生産性を高める体質を築くためには、増員を考える前に、 まず正社員の減員を考えるという姿勢を貫くべきだ。「人をむやみに増やさない」という原則を貫くことが大事である。

ところが、現実には、仕事もないのに、とりあえず人を採用するという乱暴な会社がいまもって少なくない。もし退職者が出ようものなら、条件反射のように補充採用をしてしまう。しかも、若い社員は頼りないからと、1人どころか2人同時採用する例もある。これでは、いつまでたっても社員構成の質を変えられない。

佐藤肇著「佐藤式先読み経営」より

【5ー9】経理部長が定年退職したら:銀行の支店長に、中小企業の経理部長は務まらない。

経理。総務をみていた部長が定年退職したが、かわりがいない。困った困ったで、金融機関に相談したら、待ってましたとばかりに余剰人材を紹介してくれる。ところが高給を払って三顧の礼で迎えた人材が、職場に馴染まない。

よくあるのは、取引先の信用金庫の支店長を自社の経理部長にと迎える例だ。しかし、銀行の支店長に帳簿つけから何から、細かい経理実務はできないため、中小企業の経理部長はとても務まらないのだ。

これは営業部長でも工場長でも同様である。大企業と中小企業とでは仕事の仕方が違うのだから、大企業をスピンアウトした人間を中小企業に迎えても、残念ながら8割方はうまくいかないのである。

ゆえに、自社に見合った働きをしてくれる幹部は、若手の頃から時間をかけて社内で育てていくことが、 一見遠回りに見えるが最良の道である。

佐藤肇「決断の定石」CDより

【5ー10】労務構成の質を変える:給与の高いベテラン社員が退職する場合こそ、人件費を減らす最大のチャンス。

どこの会社にも言えることだが、高給をとっている社員の定年退職やベテラン社員の退職は、社員構成の質を変える絶好のチャンスである。ところが、退職者が出たら人件費を減らすチャンスだと考える社長は、意外に少ない。

部長が定年で辞めるとしても、少なくとも3年くらい前から後継者を育成するか、若い人でもこなせる仕事の仕組みを用意しておけば、何も高い給与を払ってヨソから引っ張ってこなくても十分に間に合う。そうすれば、部長と若い社員の給与差額がそのまま人件費の原資増となる。

つまり、売上利益が期待通りに伸びなくても、労働生産性を高めることのできる体質を築くためには、「その仕事を、若い正社員の登用でまかなえないか」「正社員ではなく、契約社員でまかなえないか」「社外委託・嘱託委託できないのか」などなど、慎重に検討すべきである。

佐藤肇著「佐藤式先読み経営」より

【5ー11】人事の基本ポリシー:地位が人をつくる。ポストが空いたら、どんどん若手を登用せよ。

わが社では、ベテランの社員が退職したら、若い戦力に置き換えることを、第一に考える。人件費抑制の面からだけでなく、組織は平均年齢が上がると、ロクなことがない。

私の人事における基本的な方針は、「地位が人をつくる」だ。ポストを上げてやれば、自然とその地位に見合う人間に育つ。

若者には成長の伸びしろがあり、馬力もある。だから、経験不足を懸念せずに、どんどん若手を登用すればいい。それが組織の活性化につながり、業績の向上を成し得る。

それでも、「やはりそれなりの業務経験がある人でないと」と心配ならば、「非常勤顧問」という手がある。

まず、将来の幹部候補となるような優秀な若手を選んで、その部の次長にする。そして、大企業の部長職を定年退職した人物に頼み込んで、非常勤の顧間につけるのだ。だいたい月に2回、15〜20万円程度の月給を払えば、不足はないはずだ。

彼には若い次長と定期的に打ち合わせをさせ、「方向はこれで間違いないからこれでやりなさい」、あるいは方向が違うと、「軌道修正しなさい。こっちへもう少し人を入れて、仕事を急がせないと後で困るよ」と新米次長の力不足を補助してもらい、事業全体に対するアドバイスをしてもらう。

こうすれば、中小企業では逆立ちしても得られないような素晴らしい能力の持ち主が、極端に安い費用で戦力になってくれる。若い次長にしても、現場の進行には口出しされないからむしろノビノビできる。良いことずくめではないか。あるいは、有能な経営コンサルタントを活用する手もある。

コンサルタントに2カ月に1度会社に来てもらい、アドバイスを受ける。多少の料金の違いはあるだろうが、高卒の初任給18万円に賞与を加えた年間260〜280万円の顧問契約で、有能なコンサルタントも戦力に加えることができる。

2カ月に1回会社に来てもらって、朝から夕方まで経営を診てもらえば、右も左もわからない新入社員の何倍もの働きをしていただけるはずだ。

いずれにしても、高給をとっている部長が退職したら、人件費削減の面からも、若手社員本人のキャリアアップの面からも、組織の活性化の面からも、チャンスが来たと思うことである。

佐藤肇「決断の定石」CDより

【5ー12】パート活用の実際:「10トンの金型の変更を女性パート社員が楽々やっている」

人手不足が恒常化するなかでは、安くて有能なパートや再雇用シエアといった労働力を、もっと積極的に活用すべきである。

私の会社の例では、かつてピーク時に女子社員が213人いたものを、漸次パート化していって、5年後に96人にまで減らしていったことがある。

その分、もののコストがぐ―んと下がり、付加価値の増加分を人や設備に再配分して、会社の勢いをさらに増した経験がある。いまは、経理部門でもパートの方に活躍してもらっている。「よく経理をパートに任せられますね」と驚く方もいるが、この頃では経理部門をそっくり外注化する大会社もある時代だ。

要は、パート活用の仕組みづくりの問題ではなかろうか。いまはパートにも正社員ほどではないにしてもボーナスを支払っている。パートの人件費係数は18を超えている。それでもパート切り替えによる、付加価値増の波及効果は、業種業態にかかわらず、十分検討するに値するものだ。

ヨソでこういう話をすると、「それはおたくのような細かい商品だから女性パートでいけるんだ。うちみたいな何トンもの大きいものをつくっていると、パート化なんて、とてもとても」とすぐに反論である。

わが社は中国の大連に690トンの機械を動かしている工場がある。そこの作業者は全員女性だ。これまでは危険で重くて男でもつらかった、5トンから10トンもある金型の変更を、女性がやっている。

それは女性でもできるようにと、クレーンやテーブルを工夫して、機械の力で重くて大きいものでも操作できるようにしてあるからだ。作業者はネジをしめるだけc

もちろん、よその国だから男でもつらい仕事を女性にやらせているわけではない。仕事を単純化し、作業環境を変えていく。そうすることによって、これまでの常識ではパート化が考えられなかったものが、パートでできてしまうのだ。要するに社長の執念の問題である。

とにかく、これからはパート社員に対する考え方を、根本的に考え直すことである。パート社員を繁忙期のクッションとして採用するとか、雑用に使うだけでは、宝の持ち腐れになってしまう。

パート社員のもっている能力をフルに活かすことのできる仕組みと上手な運用のやり方を、皆さんの会社にもぜひ確立していただきたい。

佐藤肇著「社長が絶対に守るべき経営の定石50項」より

【5ー13】思いつき:人事は厳禁 せっそく人事に拙速は、最悪。

こと人に関する制度の改革には、十分な時間をかけることだ。「人事に拙速は、最悪」と、ぜひとも心得ていただきたいのである。

社員にヤル気を求め、長く勤めてもらいたいと、「よかれ」と思ってこれまでの人事制度を変えたり、賃金体系に手を入れたりする。しかし、思いつきで事を急ぐと、かえって逆効果になることは多いものである。

たとえばいま、少子高齢化や人口減少といった経営環境の変化により、企業は従来の賃金カーブを見直す時期に来ている。わが社でも役職者にかぎつて55歳で役職から退いてもらう「55歳役職定年制」を設けているが、その導入と運用は、社員の生涯にわたる生活安定を保障すべく、30年前から複合的かつ着実に進めてきたものである。

簡単に説明すると、わが社の賃金体系は、部長職や課長職は56歳から定年までの5年間、給与が2割から3割減るよう設計している。ただし、中高年社員のモチベーションが著しく低下しないよう、独自の早期退職者優遇制度も設けている。

これは、45歳で勤続年数が20年以上の退職者には、退職金のほかに25カ月分の給与と同額の特別退職金を支給するという「転身支援制度」であり、最大で3500万円ほどの退職金となる。

45歳といえば、気力体力ともに新しいことを始めるのに遅すぎるということはない。55歳で役職定年を迎えて賃金が下がることがあらかじめわかっている状況で、別の道を歩みたいという者にはできるかぎりの経済的援助をしてやりたいという想いから、55歳役職定年制の実施と同時に、この転身支援制度も始めたのである。

さらに、転身支援制度の20年前から実施している「持ち家支援制度」もある。銀行との提携による低金利融資を用意し、社員のほぼ100%が55歳までに住宅ローンの返済が終えられるようにしているのだ。

これらの複合的な制度によって、「56歳から給料が減って生活費に困る」というような社員は出てこない。もちろん、こうした処遇は長い期間をかけてコツコツと内部留保を厚くしてきたからこそ、可能になったことでもある。

要するに、まずは、人に関する「将来のあるべき姿」をしっかり見定めることだ。そのうえで、理想像に着実に近づけるために毎年達成すべき目標を具体的に決め、長期計画として明示する。これこそが、社長のやるべき人件費コントロールの要諦である。

佐藤肇著「佐藤式先読み経営」より

【5ー14】11通りの雇用形態で対応する:人件費をうまくコントロールするために「正社員か、パート・アルバイトか」という 単純な採用をしないこと。

できるだけ人を増やさずに、付加価値を伸ばしていくためには、人を採用するにしても、「雇用の多様化」について十分に研究して、「正社員か、パート・アルバイトか」という単純な採用をしないことだ。わが社ではいま、じつに11通りもの雇用形態を設け、年齢や職能レベルによって、きめ細かく処遇を変えている。

たとえば、正社員ではあるが有期契約の人を「スタッフ社員」と呼び、無期契約の正社員と違って退職金がないかわりに、毎月の給与に退職金月割り換算分を加えて支払うが、おおむね正社員の給料の8掛けに退職金相当分を加えて、正社員の90%の給与としている。

そのほか、パート社員も年齢や職務の違いで処遇を変えた「準社員A」と「準社員B」に区分し、アルバイトについても55歳までは「契約社員A」、56歳から60歳までは「契約社員B」、61歳以降も継続雇用を希望する方は65歳までを「契約社員E」と区分している。

一般に、全員が全員、生涯雇用の正社員になりたがると思われるかも知れないが、介護や子育てでフルタイム勤務の難しい人、あるいは専門職の仕事が好きな人たちは、「無期契約の正社員にどうか」とすすめても、「いや、いまのままがいいです」という人たちも意外に多いのである。

こうした正社員以外の方々に気持ちよく、能力を活かしてイキイキと働いてもらうために一番大事なことは、「同じ仕事を、正社員と同じ職場で同時にやらせない」ことである。たとえば、30歳の正社員(月給30万円)と38歳のパート社員(月給20万円)が、机を並べてまったく同じ仕事をしているならば、問題化して当然だということである。

正社員には、日報作成や営業努力や残業義務があるが、パート社員にはないというように、必ず差がなければならない。

また、パート社員やアルバイトに「安い給料でヤル気を出せ」というのもムリな注文だ。賞与もそれなりに支給し、入社初年度から有給休暇が認められる制度も設けている。

要するに、雇用を多様化して人件費をコントロールしていくためには、従来のような「正社員か、パート・アルバイトか」という単純な労務管理ではなく、誰もが納得できる賃金・人事の制度が必要になるということだ。

そのうえではじめて、「正社員30歳で30万円/スタッフ正社員27万円/準社員20万円/契約社員14万円」というように、人件費をコントロールすることが可能になるのである。

佐藤肇著「社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営」より

【5ー15】5年後の自社の人件費:来年の人件費ではなく、5年後の人件費をつかめ。

毎年、春闘の頃になると、「佐藤さんのところでは、いくらにするの? 何%にしたの?」と聞いてくる経営者が必ずいらっしゃる。

業績好調であればベースアップを物価上昇以上にはずんで、「いい会社に勤めたものだ」と社員から言われたいのは山々だ。とはいえ、今年はどうする、来年はどうするではなく、「自社の現在の人件費が、5年後にいくらになるか」を考えている社長は、ほとんどいないのではないだろうか。

ここで、自社の5年後の人件費を試算してみよう。仮に、社員100名で総人件費が年間5億円の会社があったとして、昇給や社会保険の負担増などで年2%ずつ人件費がアップしていくと、5年後の総人件費は5億5200万円となる。

社員を1人も増やさなくても、5年間で自動的に約5000万円も人件費が増えてしまうのである。この2%の賃上げという数字の重みは、5回電卓を叩き、自ら人件費を計算してみた社長にしかわからない。

経営で一番大事なことは、会社の今後を大きく左右するような数字を社長として正確に把握し、常に頭に入れておくことである。そうすれば、事業経営の方向性を間違えることなど絶対にない。

5年後の人件費を試算することによって、何もしなければ加速度的に増え続ける人件費に対して、どのような手を打つべきかという発想と創意工夫が、社長であるかぎりひとりでに出てくるはずである。

だから、これをきっかけに「正社員を臨時雇用者で代替した場合、定期昇給率や人件費係数を変えた場合…人件費はどうなるか」と、条件設定をいろいろ変えて、自社の内実にそった5年後の人件費を試算し、具体的な実現計画を立ててみることだ。

その場合に単年度計画はありえない。人件費の変動費化ひとつを取り上げても、半年や1年でできることではない。労働生産性の向上にしても、人件費係数の引き上げにしても、3〜5年間の期間を見て計画しなければ実現は不可能だ。

必然的に、3〜5年間の中。長期計画とならぎるをえない。事業の再構築を成功させ、社長の従業員に対する処遇のポリシーを具体的に実現させるためには、それなりの期間が必要である。

であれば、いつまでもダラダラしている猶予はない。「気づいたいまが、計画を立てる最高のチャンス」と思うことだ。

佐藤肇著「社員の給料は上げるが総人件費は増やさない経営」より

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