増分計算とは
企業は、客観情勢の変化に対応して生き残るために、絶えず新たな戦略的な決定を行なってゆかなければならない。戦略的とまではいかなくとも、市場戦略を推進するための戦術転換もしばしば行なわなければならない。
そのような決定をする場合に、財務的に何がどう変るか、収益はどうなるのか、ということを事前に正しく把える必要がある。
それにもかかわらず、多くの会社でこの計算法を知らず、そのために当然打たなければならない手が打たれないというケースは非常に多いのである。
反対に、間違った計算をしてしまったり、思い違いによる誤った決定をしてしまう例も多い。
それらの誤りの代表的なものをあげてみると、
一、全部原価計算による誤り
二、付加価値率(粗利益率)の高いほうが収益性がよいと思いこむ
三、パーヘッド(一人当り)だけを考えてグロス(全体)を考えない誤り
四、決定による増加費用だけを考えて収益増を見落す
五、費用を節減することだけしか考えず、これによる収益減を忘れてしまうというようなことであるc
誤った決定による損害は大きい。単なる損害だけでなく、それが、企業の将来に大きな影響を及ぼすのである。
だからこそ、社長は正しい決定を行なうための正しい計算法を知らなければならないのである。
その正しい計算法が、「増分計算」である。この計算法は極めて簡単で、経理的な素養など、殆ど必要としない。
増分とは、「ある決定によって変る部分」のことである。これはすでにのべた通りである。決定によって増加する部分がク増分クであり、減少する部分はクマイナスの増分クである。
増分の基本的計算法は、
練ヽ力財―練つ瑯コ=鯨ゆ朝」誅
である。この計算式自体は極めて易しいのであるが、これを前向きに行なう段になると、どう計算したらいいか分らなくなってしまう。そこで増分を計算せずに、益率やパーヘッドだけで間違った判定をしてしまうのである。そこで、前向き計算に不馴れな方々のために、本章でいろいろなケースによって、正しい増分計算を解説してみたいと思う。
売上高の増減で、経常利益はどう違ってくるか
売上高が増えれば利益も増え、減れば減るということは、売上高以外の条件が変らない場合には、間違いなくそうなる。
それは間違いないとして、では、どれだけ変るのだろうか。売上高が一割増えれば利益も一割増え、売上げが一割減れば利益も一割減るのだろうか。この辺のところになると、よく分らない人が殆どである。
よく見かける図に、たとえば来期売上予測が一割増す場合の損益試算に、現在の売上げに対する現在の経費率を使う人はけして少なくない。
これは明らかに誤りである。というのは、変動費は売上高の増減に比例して増減するが、固定費は売上高の増減に比例して増減しないからである。こうした場合に、変動費と固定費の性格を知っていれば正しい計算ができる。ひとつやってみよう。
〈第38表)は、利益計画の時に私がよく行なう試算である。利益計画の目標に対して、売上高が一〇%増加した時と、 一〇%減少した時の計算をしてみたものである。付加価値率四〇%は、製造業として平均的な数字である。
一この程度の増減は当然考えられるのであるが、その結果は果して予期した通りであったかどうかである。
売上高の増減に比例して付加価値は増減する。しかし、内部費用は変らないし、営業外収益も費用も、変らないのである。(厳密に計算すれば、多少の増減はある)
まず、経常利益を比較していただきたい。売上げ一割増加の場合には、八千万円の利益が一億二千万円と、金額にして四千万円、率にして五〇%増である。反対に、売上高一割減の時は、利益が四千万円と半減し、減少率は五〇%である。売上高の一〇%の増減が、経常利益になると、これだけの大きな差を生むのである。
売上高が上昇すると、それ以上に大幅に経常利益が増え、反対に売上高が落ちると、落ちた率以上に大きく経常利益が落ちこむのである。そして、経常利益の増減の割合は、想像以上に大きいのである。
売上高の一割の増減など、起る可能性は大きいことを考えれば、売上高を確保することがいかに大切であるかが、よく分るのである。一割の売上高の増減で、これだけの利益の変動があるのなら、利益を倍増するにはどれだけの売上高になるだろう、というのを試算してみたのが「試③」である。
この計算法は、まず経常利益欄に倍増利益一億六千万円をおき、上の方へ逆算してゆけばよい。この場合に、内部費用の増分の見積りは、売上高が分らないので難しい。この場合は、増分は一応無視して変らないものとし、売上高を計算する。そうすると、付加価値が四億八千万円となり、付加価値率四〇%なので必要売上高は十二億円となる。増分売上げが二億円だと分れば、これを実現するための内部費用の増分はいくらになるかの計算は易しい。普通、売上高の三%程度であり、五%を超えることはまれであると思ってよい。この〈第38表)では、これを五%とし、増分修正前利益から、増分の一千万円を引き、増分修正後経常利益として、一億五千万円となっているのである。この例では売上高を三割増すと、利益倍増となるのである。あなたの会社ではどうなるか、計算してみることをおすすめする。
損益分岐点の計算も簡単にできる。「試④」がそれである。計算法は、経常利益を「ゼロ」とおくと、付加価値は、内部費用と営業外収支が変らないから、二億二千万円となり、売上高は八億円となる。何と簡単な計算式ではないか‥これなら誰にでも分るのである。この計算法は、損益分岐点の計算式と全く同じなのである。蛇足を加えよう。
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というように変形してゆけば分る。変形後の分母の付加価値率は、利益計画ですでに計算してあり、付加価値から経常利益を引けば固定費であることはいうまでもない。そして、経常利益も付加価値も利益計画に数字が出ているからであるc
ところで、売上高の少しの変動で経常利益が大きく変ることは分ったが、その変る度合はどうか、という疑間を持たれる読者もおられると思うので、その点の説明をしておくことにする。
これは、極めて簡単な法則に従って変動するのである。それは、売上高の増減額に付加価値率をかけた金額― うまり、売上高の増減による付加価値の増減額だけ、経常利益が増減するということである。これは、売上高が変っても、固定費が変らないから、付加価値の増減がそっくり経常利益の増減となるのである。
損益分岐点を基点としていうならば、損益分岐点を上廻る時は、上廻った売上高に付加価値率をかけたものだけ経常利益がでるし、下廻った場合には、下廻った額に付加価値率をかけた金額だけ赤字になるのである。
この表でいえば、損益分岐点売上高八億円を上廻る、一億円毎に四千万円(一千万円毎に四百万円)ずつの経常利益が生れ、損益分岐点を下廻る売上高の場合は、その反対になる。
以上は、売上高が変っても固定費が変らない場合である。売上高の増減によって固定費も変る場合は、その分だけ経常利益額が変るのはいうまでもない。しかしその変り方は、普通の場合にはごく僅か――売上高の増減の三%程度であり、天下の大勢に変りはない。固定費が大きく変る場合というのは、増減員、大型設備投資くらいのものである。
売上高の変動によって、経常利益が大きく変るのは、日本の企業の特色である。これは、終身雇傭制がそうさせるのである。石油ショックによって売上高が減ったにもかかわらず、直ちに減量ができないために、会社の中に多くの余剰人員― ‐つまり潜在失業者をかかえこんでいるために、利益が大幅に落ちてしまうのである。
外国では、売上高が減ればそれに応じてレイオフ(一時解雇)を行なうから、売上げが減っても、利益はそれに比例して減るくらいのものである。
この辺のところを、石油ショック後の予算編成の時に、大蔵省では売上高の減少に比例して法人税が減る、と思いこんでいたのではないかと思われるフシがある。日本の会計学者は無論、そんなことは分らない人が多く、経済官僚とて同様に分らないのであろう。
会計学者が知らないもう一つの証拠がある。それは、日本経済新間で定期的に発表している企業業績の分析記事の中に夕増益率クというのがある。「前期純利益が前々期の何倍になったか」という分析である。
昭和五十四年一月十九日付の記事に例をとってみると、四月期決算で増益率ランクが二番目のI工業と、ランクには入っていないS電工の業績を比較すると、上の表のようになる。
I工業は、極めて低い業績で、経常利益額も経常利益率も、ごく僅か上がっているだけである。この程度の変り方は、むしろ偶発的なもので、事業の革新などはなく、本質的な体質は変っていないと見るべきである。
それにもかかわらず、増益率が八〇〇%にもなっている。「増益率が大きいから、I工業が高収益型に変った」と思ったら大きな間違いである。しかしそのような思い違いをする公算はかなり大きいのである。
それに対して、S電工はもともと高収益、高業績だけに、売上高はI工業より三〇%ほど多いとはいえ、経常利益の絶対額も、経常利益率の伸びの絶対値もI工業より遥かに大きいにもかかわらず、増益率は、遥かに低くなっているのである。
夕増益率クというのは、業績向上の物差しらしいのだが、これでは物差しにはならないだけでなく、全く間違った指標といえよう。この点の理解を深めるために、モデルを使って検討してみよう。
〈第39表〉をご覧願いたい。A社、B社、C社のX期とY期の比較である。A社は、もともと極めて低業績であったために、ほんの僅かな利益増加が八、○〇〇%という大きな増益率となっている。C社は、もともと高収益会社なるが故に、Y期においては、あらゆる面でA社とは比較にならない業績向上を果しながら、増益率は一二七%と、ごく僅かしか上がっていないのである。B社は、A社とC社の中間の業績と業績向上なので、増益率もその中間である。
これを見ても、もともと増益率なるものはナンセンスであることがお分りいただけると思う。世の中には、専門家と称する素人がいて、見境もなく二つの数字の割算をして夕なんとか率″と名付けている例が多いのである。惑わされないように用心しなければならないのである。
むすび
一、売上高の増減による経常利益の増減は、増分売上げから生ずる増分付加価値と同額である
二、増分売上げに伴って増分費用が発生する場合は、増分付加価値から増分費用を差し引いた額だけ経常利益が増加する
三、増益率という考え方はナンセンスである
付加価値率の増減で経常利益はどう変ってくるか
付加価値率が高いほうが経常利益が大きくなることは分る。では、どれだけ大きくなるのか、反対に付加価値率が下がった場合にはどれだけ減るのだろうか。〈第40表)を見ていただきたい。これは、〈第38表〉の目標と同じ数字を使ってある。 ・
この場合に、付加価値率の変動によって変る付加価値額と同額だけ、経常利益が変動するのである。この点が分っていれば、このような表をわざわざ作らなくとも、
″増分クだけの計算をすればそれで済んでしまうのである。つまり、
訓トコロー×(ミぷ― 卜OS)=練ゆ〓けコ自前
となる。「あっ」という間に計算できるのである。また、社長たるものは、「あっ」という間に計算できるようでなければならないのである。
付加価値率の変化によって、もう一つ変るものがある。損益分岐点が、それである。付加価値率が上がれば損益分岐点は下がり、付加価値率が下がれば損益分岐点は上昇するのである。
付加価値率の経常利益に及ぼす影響は非常に分り易い。その分り易さが、逆に社長の考え方を固定させ、業績向上の機会を逃している例が実に多いのである。
付加価値率が高いほうが、会社全体の利益が大きいのは、付加価値率以外の条件が変らない場合であって、もしも何等かの条件が変ってくると、付加価値率の高いことが会社全体の利益を大きくするとは限らないのである。
それらの場合の主なものをあげると次のようになる。
一、閑散期に低い付加価値率で販売したとき
二、値下げによって大幅な売上増大が期待できるとき
三、増大する売上げを外注で賄うとき
である。右のような場合に、正しい判断をするための正しい計算ができなければなその正しい計算こそク増分計算クなのである。そして、付加価値率が高ければそれでよし、とするのではなくて、「会社全体でどうなるか」というふうに考えなければならないのである。
むすび
付加価値率の増減による経常利益の増減は、それによって生ずる増分付加価値と同額である。
季節変動をカバーする
T社は繊維業界の包装関係の事業を行なっていた。この業界は、何といっても秋冬物が主体を占め、春夏物の売上げは少ない。
T社はその売上げの七〇%近くを、冬物の仕事である上半期において達成し、下半期は夏物の季節のために、半分は遊んでいるような状態であった。閑散期にも仕事がないわけではないが、どうしても益率が低くなってしまう。
T社長の方針は、「粗利益率二五%以下の仕事はしない」ということであつた。「益率が低い仕事は儲からない。儲からない仕事はやらない」といって、益率基準以下の仕事は、ごく一部を除いて断わっていたのである。
私はT社長に、『その考え方は間違っている。現にあなたの会社は下半期は赤字ではないか。上半期で儲かるから下半期の赤字をうめて、通期では黒字になっているにしか過ぎない。下半期に売上げが伸ばせないといって、上半期でこれ以上売上げを伸ばそうとすれば、増員しなければならず、増員すればその分だけ固定費が増えて、下半期の赤字を大きくする。あなたの会社でやらなければならないのは、下半期自体で黒字になることだ。それには下半期には社員の時間が余るのだから、その時間を活用して収益を増大することだ』と勧告したが『益率二五%以下では赤字なのだから、赤字の仕事をすれば、なお赤字が大きくなる』といって乗ってこない。
個々の売上げの益率だけしか考えない、という誤りをおかしているのである。そこで、売上げと付加価値、変動費と固定費の説明をし、ク増分計算クのやり方を説明した。(第41表〉がそれである。
T社の損益計算書を、下半期と上半期に分けてみると、下半期の売上高は上半期の半分で、経常利益は赤字であり、上半期の経常利益が大きいことが分る。
ところで、もしも下半期の閑散期に粗利益率にこだわらずに、余剰労力で仕事をしていたらどうなったであろうか。
まず益率であるが、どの程度なら仕事がとれるかを聞いてみたら、三〇%くらいなら注文をとれるという。そこで、仮にこれを二八%とし、どのくらいの売上高を望めるかというと、三千万円〜四千万円くらいは固いという。そこで、売上高が三千万円増えたとして、下期の増分はどうなるかを計算したのが「下半期増分」である。増分粗利益八百四十万円、増分費用百五十万円、差引六百九十万円の経常利益増加である。
そうなれば、合計にみるように、経常利益が二千五百九十万円となり、経常利益率が五。三%から六・六%に上がるのである。しかし、粗利益率は三四・四%から三二・九%に下がっているのである。粗利益率にこだわることの誤りが分っていただけたと思う。
この増分を、損益計算書の上期に組込んでしまったのが、〈第41表②) である。
僅か三千万円の売上げを、粗利益率二八%と低い率で実現しただけで、下半期は黒字となっているのである。
前にものべたように、閑散期に新しい仕事をした場合には、固定費は殆ど増加しないために、たとえ収益率が低く収益は少しでも、その殆どが経常利益の増加となり、意外なほどの好結果を手に入れることができるのである。
しかも、低収益でいいということは、価格競争力が強いことを意味している。そのために、売上げの達成や受注成功の確率が高いのである。
季節変動に苦しんでいる会社は数多い。それらの会社で「閑散期には低収益売上げでも、業績寄与は大きい」ということを知らずに、半ばク宿命ク視したり、半分は諦めてしまって、真剣な努力をしないでいるのである。
むすび
一、閑散期には、増分売上げについては、付加価値率の低い商品であっても、その大部分は経常利益の増大となる。増分費用がわずかしか発生しないからである
二、(一〉の場合に、売上高に対する付加価値率は低下しても、経常利益率は上昇する
外注比率を高めると利益率はどうなるか
U社の経営計画のお手伝いをした時に、U社長は『収益性をよくし、利益率を上げるために、できるだけ外注品を内作に切換えていきたい』という。
M社でのお手伝いで、私は『社長は長期的な視野に立って我社の事業を考えなければならない』と至極当り前の提言をすると、M社長は『一倉さんの言うことは分るけれども、その前にやらなければならない合理化は、外注品を内作に切換えることだ。いま、我社はこんなにも多額の外注費を払っている』と。
J社長は『一倉さんは外注比率を多くせよというが、そうすれば、たしかに固定費の増加はないが付加価値率が落ちるので……どうも踏みきれない』とおっしゃるのである。
右の三つの例に見られるように世の社長族は″外注クすることが我社の収益性を落し、ひいては利益を減少させることだ、という非常に根強い考えをもっている。
これは完全に誤っているといってよい。外注を増加することは、あらゆる点からみて極めて有利なのである。それが分らないのは、会社の損益が外注によってどう変るかという計算をしてみないからである。というよりは、計算法が分らないからである、といったほうが正しいかも知れない。それが分らないために、原価とか、益率とか、外注費とかというものを、単独で考えてしまうからである。会社の損益というものは、常に「会社全体で考える」のが正しいのである。
では、外注を増加したら会社全体でどうなるかを計算してみよう。こういう時の計算は、いわずと知れた「増分計算」である。〈第42表)は、K社で増加する売上げを、オール外注で行なうよう勧告した時の試算である。
分り易くするために、外注金額を多くとったが、その結果を見ていただきたい。
まず第一には十億円の売上増大を全部外注品によって賄った場合の増分計算である。付加価値率一五%程度は普通の場合に可能な数値である。そこで増分付加価値が一億五千万円である。これに対して増分費用は増分売上げのための人件費増として、セールスマン五名増で一千五百万円、管理部門三名増で一千万円、計二千五百万円を見込み、経費の増分は運賃と営業経費で、普通の場合には売上高増加分の三%程度であるが、ここではその五割増の四・五%を見込んである。営業外費用も売上高増加の二%と、かなり大きな数字をみている。それでも六千万円の増分経常利益がでる。
増分経常利益率は六%にもなる。目標が五%であるから、 一%も高い。そして、日標と増分を合わせた経常利益率が五。四%と目標経常利益率を上廻るのである。ちょっと信じられないと思われるかも知れないが、間違いではないのである。外注分の付加価値率は低くとも、増分費用が少ないからである。
もしも、十億円の売上げを全部社内生産したら、設備投資と増員を行なわなくてはならない。その結果は、増分経常利益率は、六%よりは多少多いところへゆくだろうが、何よりも恐ろしいのは損益分岐点の大幅な上昇である。メリットとデメリットを比較したら、むしろデメリットのほうが大きいのである。
オール外注ならば損益分岐点はごく僅かしか上昇しないために、危険の増大もごく僅かである。
僅かな危険増大で、大きなメリットを手に入れることができるのである。
以上の例は、増分収益に対する増分費用の割合が六〇%にも達するという最大級の経費増の場合を試算したのであるが、反対に増分費用が最少の状態もあり得るのである。つまり、商品さえあれば、増員せずに三割や三割の売上増大は可能だという場合がこれに当る。この場合には、増分収益に対して増分費用は運賃と金融費用ぐらいである。しかも外注付加価値率が二〇% (このくらいはそう珍しいことではない)あったとしたら、その場合の増分売上げによる業績はどう変るだろうか。その増分売上げが一億円の場合を試算したのが〈第43表〉である。
何と、経常利益率は五・七%となり、さらに一億円の売上増大が可能な場合には、再増分が同じとしたら、再合計に見られるように、経常利益率は六・三%にもなるのである。
頭の中だけでは、なかなか考えられないほどの業績向上がそこにあるのだ。
両極端の場合をあげてみたので、こんどは読者自身の会社で考えられる、増分売上げと増分費用について、いくつかの場合の試算をしてみることをおすすめする。そこに、どんな数字が表われたかを、よく検討していただきたい。そして、それは外ならぬあなた自身の会社のモデルなのである。
そして、業績向上と同時に、市場占有率の上昇という夕一石二鳥クの可能性を探りだしてみることが大切であるc
多くの社長は、外注による付加価値率の低下が、会社全体の付加価値率を落すことのみを考えて、これが利益率を落すと早呑みこみをしてしまうのである。
たとえ付加価値率が落ちても、付加価値の絶対額は大幅に増え、それに比較して経費はいくらも増えないことを完全に見落しているのである。部分のみを考えて全体を考えないから、こうした思い違いをしてしまうのである。増分計算による会社全体の計算の重要なことを、よくよく認識していただきたいのである。駄目押しとして、十億円の外注再増加を計算してみた〈第42表〉その結果は、再合計のようになって、付加価値率はさらに落ちるが、経常利益率は五・六%とさらに上がるのである。
この〈第42表〉では、増分付加価値率一五%と最低線で計算してあるが、多くの場合にはこれよりは高いはずである。その時には、付加価値率一%上昇することによって、 一千万円ずつの経常利益が増えるのである。また、人件費と経費がこれ以下ですんだら、さらに経常利益が増えるのである。
むろん、この計算以上に人件費経費がかかる場合もあるが、増分経常利益が出ている限り、経常利益率は下がっても、経常利益の絶対額は上がるのである。その時は、経常利益率を守って経常利益の増加をあきらめるか、経常利益額の増大をとって経常利益率の低下は我慢するかは、社長が判断すべきである。しかし、私は多少の益率低下には甘んじて、外注増加をとるべきであるという考え方をもっている。経常利益の絶対額こそ重要だからだ。
外注比率の増加は、たんに財務的な数字だけでなく、二つの大きなメリットがあるc
その第一は、何といっても″市場占有率クの上昇である。これは、会社の将来に
対して有形無形の大きな力となる。そしてこれが、やがては利益増大の大きな力を生むのである。
もう一つのメリットは、景気変動や季節変動に対しての抵抗力が強くなることである。不況期や閑散期の売上減少は外注部分でかなり吸収できて、内作部分はその影響を全く受けないか、受けても僅かで済むのである。そのために、私は内作の二倍の外注をもつようにすすめている。内作「一」対外注「二」の比率の場合について、右のことを考えてみていただきたいのである。いかに安全度が高いかがお分りいただけると思う。外注比率増大の有利安全性にくらべて、内作中心主義の危険を考えてみよう。
季節変動の多い会社では、繁忙期に設備人員を合わせたら、閑散期の設備人員の遊休が大きくて、利益を喰われ、まずは低業績はまぬかれない。といって閑散期に合わせたら、繁忙期にはどうにもならない。そこで、繁忙期にあまり大きな売損じが起らない程度の中途半端な設備人員というあたりに落ち着いている会社が多い。
しかし、この売損じは、単なる金銭的なものではなく「市場占有率上昇の機会を .のがした」という大損害を受けているのである。このことを認識している社長はまことに少ないのである。
このことは、季節変動が少ない会社でもいえることである。売上げを増大したくとも、生産力がついてこなければ如何ともなし得ないのである。そして、生産力というものは、短期間には上げにくい要因が多くて、売上増大のチャンス到来にも、みすみすこれを逃すおそれがかなりある、ということである。反対に、不況で売上げが落ちると、すぐに設備人員が遊んでしまい、これが業績低下を招いているのであるc
むすび
一、外注比率を高めると、増分付加価値に対する増分費用の割合が小さいために、付加価値比率は低下しても、経常利益率は多くの場合に上昇する。経常利益率が下がるのは、増分売上げに対する増分経常利益率が、もとの経常利益率より低い場合だけである
二、外注比率を高めると、売上増大にもかかわらず損益分岐点の上昇が僅かなので、外部要因の変化に対応する弾力性が大きくなり、企業の安全度が増大する
三、外注比率を高めると、市場占有率の上昇が早く実現する
不採算の輸出をやめたらどうなるか
A社は、ある商品の専門メーカーである。商品の売上げは、数量的に国内三分の二、輸出三分の一であった。
国内占有率は九〇%にも達し、残りの一〇%はA社の商品とは直接競合しない低級品なので、実質的には一〇〇%の占有率といってよかった。
A社長の永年の悩みは、輸出の可否についてであった。輸出比率が年々高くなり、損益を計算してみると赤字だったからである。〈第44表〉がそれである。(数字はモデルなので、総売上高を一千万円にして、理解と検討の便を計ってある)輸出といっても、製造工程は同じなので、費用は営業外収支差を除いて、輸出は国内の半分となっている。営業外収支差は、輸出の方が少ないのは、「FOB」決済のためである。売価は輸出価格が安いので「三対一」になっている。
普通の損益計算書①では、検討に不便なので、これを書きかえたのが②の表である。(外部仕入れは材料費と外注費である)
経理部長は「輸出が赤だから、輸出はやめるべきである」という意見であり、労働組合も「赤字部門を背負っているために、給料はとにかくとしてボーナスが少ない」という考えをもっている。輸出課長は完全にジレンマに陥っていた。「自らの役割は輸出を伸ばすことであるが、努力すればするほど会社に対してはク赤字″を大きくする結果になる」と思いこんでいたからである。
社内の大勢は明らかに「輸出をやめるべきである」というのだが、社長にしてみると「たしかに赤字だということは分っているが、過去の経験からすると、不況時には、確実に輸出で助かっている。それに、国内は満杯なのだから、輸出を伸ばさなければ売上げが伸びない」という考えをもっていたのである。
A社長は私に「永い間、迷い続けているのだが、本当のところはどうなのか」というのである。
そこで私は、示された損益計算書を書きかえてみた。それが(第44表② 〉なのである。以下、②の表について話をすすめる。このような場合にク増分計算´が威力を発揮するのである。輸出をやめたら、どの数字がどう変るだろうか。
まず注意しなければならないのは、国内は実質占有率一〇〇%なので「輸出をやめても、そのかわりに国内売りを伸ばすわけにはいかない」ということである。
だから、輸出をやめると、まず第一に輸出売上げの二百五十万円がなくなり、外部仕入の七十五万円もなくなる。その結果は、輸出で得られていた百七十五万円の付加価値がなくなるのである。
では、内部費用のほうはどれだけ減るだろうか。ここに、終身雇傭の壁が現れてくる。輸出を減らしたからといって、ク減員クができないのだ。自然減など待っていては時間がかかりすぎる。だから輸出をやめても、人件費はまず減らないと思わなければならない。では経費はいくら減るか、ということになるが、これとてあまり大きな額は期待できないのは分る。しかし、そんな漠然としたことでは困るので、判定のための物差しが必要である。その物差しが増分付加価値(この場合には「百七十五万円減」)である。
収益が百七十五万円減るのだから、内部費用が人件費であれ、経費であれ、これ以上減った時に初めて輸出をやめたほうが有利なのだ。つまり、左記の不等式が満足させられる場合である。
Σ戦Ⅷコ露ヽ感∨ Fぶo小コ
社長に『この不等式が成り立ちますか』と聞いたところ、『いやあ、とんでもない。二十万円も減らないでしょう』ということで、数年来の迷いが一気に吹っ飛んでしまったのである。もしも輸出をやめたらA社は赤字転落してしまうのである。
伝統的な原価計算方式では右のような判定は不可能である。それどころか、判定を誤ってしまう。「百害あって一利なし」と私がいうのは、A社のようなことが起るからである。
読者はすでにお分りのことであるが、念のために説明すると、輸出品は赤字であっても、会社の利益に貢献していたのである。つまリク疑似出血クであって、輸出品に経費を割掛けた場合には、その負担能力が不足していただけである。輸出をやめれば、割掛けた経費は国内品に戻り、赤字転落するのである。
このようなケースは、単に輸出だけではなくて、クニ重価格クをとっている会社に共通の問題である。また、二重価格でなくても、低収益商品をかかえている場合にも当てはまるのであることは、賃率の節のところですでにのべておいた通りである。
″赤字クを単に赤字と考えずに、常に増分計算による「会社全体でどうなるか」を考えなければならないのである。
その、会社全体を考える時に、〈第44表〉の①と②で、どちらが便利かは、いうまでもない。②のように要約するのがよいのだ。従来の思想は「なるべく細分化したほうがよい」というのである。これは明らかに誤りである。次元の高い決定ほど、要約した情報でなければならないのだ。
セールスマンを増員したらどうなるか
C社は、堤缶詰のメーカーである。久しく過当競争による収益低下で赤字だったが、新商品の発売でやっと黒字に転換したばかりだった。
前期の実績は、〈第45表〉の実績欄の通りであった。この業界の付加価値率は低く、C社の率も三三%であった。営業外費用が多いのは、過去の赤字の後遺症である。
実績に見られる弱点は、明らかに営業力の不足である。というよりは、C社長の生産第一主義、コスト第一主義による営業軽視である。その証拠は、セールスマンがたった五名で、 一人当りの売上高が一億七千万円近いことである。これでは、まともな販売活動などできるものではない。(小企業にはこうしたタイプの会社が多い。これが、いつまでたっても成長も業績向上もできない原因である)
聞いてみると、案の定、問屋廻りだけで手が足りないのである。生産能力にはまだ余裕があるので、販売促進で業績向上を図ればよい。そこで、C社長を回説いた。『たまに問屋を廻っているだけでは、売上げが伸びる可能性はない。販売促進は夕蛇口作戦´(蛇口作戦については、「販売戦略篇」を参照されたし)でこそ可能である。だから、 一人のセールスマンを蛇口作戦に専任させて、その効果を試すのだ。これをク市場実験クという。蛇口作戦によって、間屋廻りの穴ができるが、これは他の四名が訪問回数を三割増加することによって補うのだ』と。
三カ月ほどで、実験地域の売上げが三倍に上昇した。これは、もとの数字が低かったことによるのであるが、その実績でなら、セールスマンを専任させても、おつりが来る売上げだったのである。
私は社長に、至急セールスマンを二〜三名増員し、蛇口作戦地域を広げることを勧告した。しかし、C社長は『現在セールスマン一人あたり一億七千万円近く売って、やっと僅かな利益がでる。そこへ、セールスマンを増員しても、 一人当り一億七千万円の売上増大はとても見込めない。だから増員などできない』というのである。 ・
ここに、C社長の大きな思い違いがある。私は『社長の思い違いだ。増員したセールスマンは、ほんの僅かの売上達成で十分にペイする。その点を検討してみましょう』ということになり、セールスマンニ名増員の増分計算をして、C社長にご覧に入れたのである。それが、〈第45表) の増分計算試算表である。
まず、増分費用として、セールスマン一人当り年間人件費はいくらかと聞くと、二百万円だという。いささか低いが、C社長がそういうので、そのままの数字を使うこととした。二人のセールスマンに必要な販売費を計算してもらったところ、自動車を一台ずうあてがっても、年間一人百五十万円で済むという。そこで、ゆとりをみて一人当り二百万円、計四百万円を計上してみた。つまり、人件費と同額の販促費である。これくらいみれば、まずは大丈夫である。
次に、売上増加による付加価値増加を、増分費用の五割増しの千二百万円という低い額に設定してみた。それに必要な売上高は三千六百万円である。それぞれの増分を合計して実績と比較してみた。(第45表)の下部の一人当りの欄がそれである。
まず経常利益率が四。三%と上昇する。そして、社員一人当りは、売上高も、付加価値も、経常利益も全部上昇する。それに反して、セールスマン一人当りは、売上高も、付加価値も、経常利益も全部低下するのである。
増員したセールスマン一人当り年間売上高千八百万円、一カ月当りにすると、タッ夕百五十万円の売上げで、会社の業績が向上するという、C社長にとっては考えてもみなかった結果が出たのである。そして、これは間違いではないのだ。C社長にその売上高の可能性を聞いたところ、どんなに悪くとも、その二倍くらいの売上げはできるという。それならば、この表以上の業績向上が期待できるのである。セールスマン一人当りの数字など、低くなっても、そんな事は全く考えなくともよいのだ。
それを、セールスマン一人当りの数字のほうを考えて、会社全体を考えないのは、全くの誤りなのである。そして会社全体を考えるのは、増分計算によって、かくも簡単にできるのである。
中小企業の大部分は甚だしい販売力不足か、かなりの販売力不足である。だから、セールスマンを増員し、蛇口作戦を展開することによって、業績向上の可能性が大きいのである。それも、増員したセールスマン一人当りの売上高は、まずは本人の人件費の三倍の付加価値を得られるならば、会社にとっては損になることはない。
必ず何がしかの業績向上に結びつくのである。セールスマンの増員は、その危険率は非常に低く、業績向上の可能性は大きいことを心して、安心して増員すべきである。
セールスマンの増員は安全で可能性が大きいのに反し、製造部門や管理部門の増員は、常にかなりの危険が伴うことを忘れてはならないのである。それは、損益分岐点の上昇をもたらし、少しの売上高減少でも、赤字転落する可能性を秘めているからである。
それにもかかわらず、多くの中小企業の社長は、危険な製造部門や管理部門の増員は安易に行ない、安全有利なセールスマンの増員は、なかなか行なおうとはしないのである。
費用の増加だけを計算して
私がお伺いするたくさんの会社で、収益性に関して、さまざまな誤りをおかしていることをのべてきたが、最も多いのは、費用の増加だけを計算して、それによって発生する収益を考えないことである。
どうも、 一つの決定によって起る収益増大と費用増加を同時に考えられないらしいのである。いくつか例をあげてみよう。閑散期につくりだめをしたらどうなるか
K社は建築用機材のメーカーである。官公庁需要が大きな部分を占めているために、冬場は忙しくて生産が間に合わずに売損いが発生し、夏場は工場がかなり遊んでいるのであった。『夏場に工場の余力があるのだから、つくりだめをして冬場に売ればよいのに』という営業部門の主張は『在庫が多くなって、その負担に耐えられない』という経理部門の主張によって、いつも却下されていたのである。私は『在庫負担が多いといって、それがどれだけか計算してみたことがあるか』と聞いてみると、それはやったことはない、というのである。会社の中には、こうして計算してもみずに「それはダメだ」というように決めていることは実に多いのである。日本人というのは、確かめてみたり、数字をはじいてみたりせずに、単なる感じや定性的な主張によって物事を決めつけてしまう、という悪いクセを持っているのだ。
私は『つくりだめの費用のほうばかり計算して、収益のほうの計算をしないのは間違いである。何がどうなるのかを計算した上で決定すべきである』とK社長に進言した。
私のすすめに従って、夏場のつくりだめの増分を計算したのが〈第46表〉である。まず第一に計算しなければならないのは、増分在庫である。その目標として、営業部門は十一月一日現在、完成品として八千万円の在庫がほしいという。完成品の平常在庫が三千万円だから、増分在庫は五千万円となる。
この五千万円の増分在庫は七月一日から生産を始め、十一月一日がピークとなり、以後は減少し、四月二十日で全部売ってしまう、という仮定を設けた。この仮定で、増分在庫の費用を計算してみた。
まず第一が金利である。増分在庫はゼロからピークまで五カ月、ピークからゼロまで五カ月だから、結局は五千万円を五カ月間在庫したのと同じになる。付加価値率四〇%だから、外部支払は在庫の六〇%の三千万円である。単名の金利を六・七%とすると八十四万円である。
第二には保管料である。借倉庫を当っているうちに、八十坪の貸倉庫がみつかった。ボロ倉庫ではあるが、商品は腐るものではないので十分である。魅力は家賃が安いことであった。 一カ月一坪当り千五百円であるという。増分在庫期間は十力月なので、 一年間丸借りとし、その家賃が年間百四十四万円である。第二には運賃である。K社の実績は売上げの下五%なので、これを二%として計算しても百万円である。
第四には損耗である。これを三%とみて百五十万円とする。以上の増分の合計が、四百七十八万円である。
次は増分収益である。付加価値率は四〇%なので、増分付加価値は二千万円となる。したがって、増分利益は一千五百二十万円程となり、七十万円を計算外の費用とみても一千四百五十万円である。
K社の年間経常利益目標が五千万円であるから、増分は何と、その二九%にも達するのである。
K社長は、この数字を見てビックリしてしまった。いままでの在庫論争など吹っ飛んでしまったのである。
早速つくりだめが決定された。あとはこれに要する資金である。増分資金は、五千万円の在庫に要する分が材料費率六〇%であるから三千万円、あとは増分費用の四百五十万円余りである。これは、増分計算書を添えた借入申込みに、 一発でOKをとりつけたのである。
これは大成功であった。営業部門ではスッカリ気をよくして、『一倉さん、来年は増分在庫を八千万円から一億円ぐらいにしたいですね』という、えらい鼻息であった。つくりだめが、K社の年中行事となったのはいうまでもない。
金利負担増加を恐れて売損じT社は事務用品と文房具の小さな卸問屋である。売上げは細かく、粗利益率は低く、業績は思わしくなかった。
収益向上策としては、大手のK社の商品をもっと売ればよいことは分っていた。品切れ常習品だったからである。というのは、K社以外の仕入れはサイトニカ月の支手でよかったが、K社は現金仕入れでなければダメだった。そのニカ月間の金利を考えて、在庫を極力押えていたからである。
私は『金利負担だけを考えていてはいけない。こういうものは、十分在庫を持って売った場合にどうなるかを計算して、本当に金利負担がマイナスになるかどうかをたしかめなければならない』と、T社長とともに増分計算をしてみた。計算は極めて簡単であった。
① 在庫を十分にとった場合(在庫一千万円)の金利負担増は、サイト三カ月を
現金とした上に、年間通してであるから、計十四カ月分の金利増でよい。金利七%
として、、 いo)ooo×・串¨‐・x(o・o『=∞【『山ぃ「J
となる。第二年目からは十二カ月七十万円の増分でよいのだ。
② 増分収益は年間売上増三千万円、粗利益率二〇%であるから、
∞ob8 ×o・No= E 8 +コ
③ 差引利益増加
ρ8o+コー∞葛+コ= い■∞ω+コ
である。
T社長は『安心してK社の商品を扱えます』ということになり、ケリがついたのである。
保冷車で売上増大を図りたいがS社はブロイラーの問屋である。S社長の悩みは、私のすすめでお客様(肉の小売店)を廻ったところ、「鮮度が悪い」といわれたことである。鮮度をよくすれば、もっと売上げを伸ばせることは分ったが、保冷車にすると、 一日二万円のドライアイスがいる。そのために踏みきれないことであった。市況が悪く、過当競争なので、この上のコストアップはできない、と思いこんでいたのである。ここでも私は『コストアップだけみていてはいけない。収益増加と天秤にかけてみることだ』と説いたc
二万円のコストアップは、付加価値率が三〇%以上あるので、六万円の売上げで賄える。それ以上の売上増加はその三〇%が利益増加なのである。配送車が八台であるから、 一台当りたった八千円の売上増でコストアップは賄えるのである。
S社長に、売上増の見込みを聞いたら、その三倍は間違いないということであつた。
利益率か資金効率か
A社は衣料品の小売業である。チェーン店を矢継ぎ早に増加しなければ、市場占有率の確保ができないことを痛感していた。
チェーン店を増加する際の方針として、土地を購入して店舗を新築するか、土地を借りて店舗を新築するか、それとも既存の店舗を借りるか、のうち、どれを主体にすべきかについて、ハッキリした計数による検討の必要にせまられていた。
もしも方針を誤ると、チェーン店の展開に支障を来すだけでなく、資金的なピンチを招くかも知れないからである。
そこで、社長は店舗面積を百坪と仮定して、前記の二つの場合の試算をしてみた。それが〈第47表)である。
三つの場合について、それぞれ投下資本、損益計算、財務比率の比較をしてみたのである。
投下資本は、当然土地を買った場合が一番多く、既存の店舗を借りた場合が一番少ないのである。これに対して、売上高経常利益は土地を買った場合が最も高く、借店舗の場合が最も低いのである。
さあ、ここである。利益率の高い方をとるか、投下資金の少ない方をとるかである。
この決定に必要な情報は財務比率である。これを見ると、経常利益率が高ければ投下資本回転率が低く、投下資本回転率が高いと、経常利益率が低いのである。フ」の場合の判定法は、経常利益率と投下資本回転率を掛け算して、投下資本利益率を出してみればいい。
一番下の欄がそれであるが、 一目瞭然、既存店舗を借りた場合が最も高く、土地を買った場合の三倍半もの効率である。
A社で決定した方針は、既存店舗を借りるのをまず第一とし、次は土地を借りて店舗新築、以上の二つがダメな時に限って土地を買うことにした。この決定は、あくまでも財務的な基準であって、いくら財務的に有利であっても、立地条件が悪ければこの基準は適用されないのは言うまでもないのである。
立地条件が悪ければ、当然のこととして経常利益の確保ができず、ひいては投下資本利益率も低下してしまうからである。
だから、立地条件に応じて投下資本と損益予測を行ない、予測投下資本利益率を計算し、これが基準(例えば一〇%)以下ならば出店しない、というような方針こそ重要なのである。
ボロ会社はこうした計算をせずに、何でも彼でも土地を買い、店舗を建てて、地代や家賃を払わないようにすることが多いのである。なるほど、地代家賃を払わなければ、経常利益率はよくなるが、資金的に大きな支障を来すことを忘れているのである。
多額の蓄積があり、市場占有率のあまり必要でない業種― 宝飾店とか美術工芸店とかのように、 一つの地域にごく少数しかない業種――ならば、資金効率が悪くともよい場合があるが、市場占有率を争い、チェーン店の展開が必要な業種では、投下資本利益率(会社全体でいえば総資本利益率)の大きいことこそ絶対的な重要度を持っていることを、クレグレも忘れてはならないのである。
これを忘れると、ちょっとした見込み違いや不況による売上減で、思わぬ資金不足を起す危険が大きいからである。ある程度の利益さえ出ていれば、あとは資金が優先し、市場占有率上昇のほうが重要なのである。
新商品開発費をどう回収するか
M社長は、自らいろいろな新商品をつぎつぎと開発してゆく。しかし、それらの新商品は性能は優れているのだが、価格設定が間違っているために、いつも売上げがあがらない。これを営業部門の営業努力の不足であると決めつけるので、営業部門は閉口していた。M社長は自らの考案に酔い、ひとりよがりの値付けをし、商品には市場価格― うまり世間相場があることを認めようとしないのである。
ある時に開発した新商品に対する社長の考え方は、市価一千八百円のものを「三千五百円で売れ」というのである。「従来の市価一千八百円のものはプラスチック製であるが、我社のは鋳鉄製だから品物が違う。変動費が一個当り一千八百円、粗利益率四〇%を確保して、その上に一個当り五百円の開発費を割付ける」というのである。するとその製品の価格は、となるのであるc
開発費はいくらにみているのかというと、人件費五百万円、研究費七百五十万円、計一千二百五十万円であるという。
いくら性能が優れているといっても、世間相場の倍に近い。そのために、売上実績は発売以来二年以上もたっているのに、いまだに一カ月五十個か百個である。この売上げペースでゆくと、開発費だけを回収するには、金利を除いて次のようになるc
回力当ヨ(コ)
酬凝瑯
二回態6苗朝こ琳× Hヾコ0副卜洋
【い)い〇〇コ‐‐
「﹈ 【時)uOO
肝「『ω・0
(∞bOOコーF∞〇〇コ) ×8 0 葛〇
回収期間は七十三カ月余り、つまり六年かかるのである。金利を見ると、年利六%として、であるから、さらに十四カ月ほどのびて七年余りかかるのである。
私はM社長に、この数字を示し、さらにプラスチックにした場合(十分に使用に耐えられるのである。鋳物としたのは社長の天動説にしか過ぎないのである)の計算式を示して、社長にプラスチック製にすべきであることを勧めたのである。プラスチックにすると、変動費が千四百円となり、営業部門の意見では性能がいいから、二千円ならば年間二万個は売れるというのである。そこで、価格政策を加味して売価を一千九百六十円としてみたら、次のようなことになったのである。何と一年一カ月、金利を見て一年ニカ月である。
私はM社長に『いくら優れた商品であっても、高すぎてお客様が買ってくれなければ何にもならない。開発費を一個当りに割掛けるというようなことをするのは誤りである。開発費は、あくまでも売れる価格で売った場合の利益によって回収する、と考えなければならない』ということを説明して、やっと了解をとりつけたのである。結果は上々であった。ほぼ予測通りの売上げがあったのである。
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