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六 厳、慈の使い分け

部下を率いる要領は、厳しすぎては萎縮し、慈愛にすぎても、緩み怠る懸念もでてくる。時と場合によって、厳、慈の用い分けが必要ではないかと思う。

また、厳しさに片寄らず、厳しさの中に、部下を思う心がなければならず、部下への慈愛に片寄らず、その中に厳しさがなければならない、ということである。よく、怒り叱ることはないが、なんとなく恐いといわれる人がある。備わった威厳があるからだし、激しく怒り、叱るが、どうも憎めないという人がある。慈愛の心が潜んでいるからである。

街道一の親分といわれた清水の次郎長は、激しく叱ることもあったが、決して人前で叱ることはなかった、という。子分の立場を考えてのことだ。

維新の大立者勝海舟が、次郎長に向かって「子分のうち、親分のために死ねる人は何人いるか」ときかれ、「一人もいませんが、私は子分のためならいつでも死ねます」と答えたという。子分も死ぬ気になるだろう。統率の妙は、まず、部下の心をとらえることによるともいえよう。

別項でものべたが、東漢の光武帝は、降将たちに、日頭ではなく態度で示して「赤心を推して人の腹中におく」といわせて心服させている。部下の心情を察して誠意を示すほど部下の心をとらえるものはないようである。

魏の呉起は、 一人の兵士が腫れものができ苦しんでいるのを見て自ら口を寄せて膿を吸いだしてやった。それを伝え聞いた兵士の母親は泣きだしてしまった。わけをきくと「先年あの子の父親も呉起将軍から膿を吸いだしてもらいました。その後、父親は出陣しましたが、将軍の恩義に報いようとして、敵にうしろを見せることなく戦い、ついに討ち死にいたしました。その息子も同じく膿を吸ってもらい、あの子の生涯も終ったようなものと考え、つい泣いてしまったのです」。

呉起は将軍の地位にありながら作戦中は、起居、飲食すべて最下級の兵士と同じくしたという。

言志四録に次のような文句もある。

「人主は最も明威を要す。徳威惟れ威なれば則ち威なれども猛ならず。徳明惟れ明なれば則ち明なれども察ならず」(君主は徳明と徳威が肝要。徳威は徳の備わった威厳であるから、威であっても暴威ではない。徳明も徳の備わった明察であるから苛察ではない。 つまり、細かいことは見て見ぬふりをするがよい)。

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言志四録に次のような文句もある。「敬を持する者は火の如し。人をして長れて之れを親  o6

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しむべからしむ。敬せざる者は水の如し。人をして押れて之れに溺るべからしむ」(敬の心  .をもつ人は火のように人をおそれさせるが、親しめる人として尊敬される。敬のない人は水のように親しみやすいが、人から威厳がなく、侮られてしまう)。この一言は統率者として、あるべき心得のすべて、といってよい。

よく、威厳を示すために、大言壮語したり、居丈高に振る舞っている人がある。これは縫いぐるなを着た虎でしかない。

虎といえば、虎の威を借る狐の話もある。狐が虎に食われようとしたとき、狐が言った。天帝は狐を百獣の長と定めている。もしこの私を取って食えば、天命に背いたものとして罰せられよう。それが、うそと思うなら、私の後についてくるがよい。私の姿を見て逃げださない獣は一匹もいないはずだ。

なるほど狐のあとについていくと獣という獣が逃げだした。狐が恐ろしいのではなく後からついてくる虎が恐ろしかったのである。現代でも狐を気どっている者もいないではない。

トップの条件でものべたが、上に立つ者の最高の条件は仁徳、人格なのである。これの備わっている人からは徳威、つまり、徳から自然に、にじみでる威厳がある。この厳は、尊敬、敬慕の念をもって受け入れられても、抵抗、離反で迎えられることはない。これが、統率の妙といえるのではないかと思う。

言うこと考えること、なすことのそれぞれ違う多くの人を使うということは、仁、智、勇のある者で、大衆からみても頼りになる人、引っばっていくことのできる力のある人、言い換えれば統率力のある人といえるだろう。

優れた人々さえ用いられない、いわゆる統率力のない者が身を亡ぼすことは、むしろ当然といえるのである。

やはり言志四録に「人君たる者は、臣なきを患うることなく、宜しく君なきを患うべし。即ち君徳なり。人臣たる者は、君なきを患うることなかれ。宜しく臣なきを患うべし。即ち臣道なり」(君主たる者は、部下に賢臣のいないのを憂えず、明君のいないことを憂えるがよい。これが君主の徳である。臣たる者は、明君のいないのを憂えず、自分が賢臣であるか否かを憂えるがよい。これが臣の努める道である)とある。これも「敬」からでたもので、こうした心がけである限り、統率力は自然に養われてくる。

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