マーケティング分析とは
事業というものは、市場に対する活動である。したがって、市場に関する情報と、その市場に対して我社がどのように行動しているかの情報こそ、社長にとって絶対不可欠のものである。
※事業というものは、
まず、外部の情報であるが、これは、さまざまな刊行物や調査活動によるものを総合し分析しなければならない。
しかし、この点については、すでに「販売戦略・市場戦略篇」でふれているので、本書ではふれないこととし、「我社の市場活動」の状況の分析に焦点を合わせていきたい。
この「我社の市場活動」の分析を、「マーケティング分析」と呼ぶこととする。
本書でとりあげる分析は、次のようなものである。
- 市場の地位分析
- 売上高年計および半年計
- 売上高ABC分析
- 商品別売上高ABC分析
- 得意先別売上高ABC分析
- セールスマン訪問状況分析
- 商品総合分析
- 売上状況分析
右のような分析は、どの会社でもあまり行なわれていない。
私のすすめで分析を行なってみると、社長にとってはいままで考えてもみなかったような意外なことを発見することが数多くあるのだ。以下、右のそれぞれの分析項目についての説明に移ることとする。
市場の地位分析
占有率の確保こそ、利益とともに企業存続の根本条件である。このどちらが達成できなくとも、会社は最後にはつぶれてしまうのである。そして、占有率を確保できない限り、利益を出すことはできないのである。
ところが、中小企業の社長は、その占有率に対する関心が意外なほど低いのである。それは、占有率に関する認識の足りなさだけではなくて、占有率がつかみにくい点を見逃すわけにはいかないのである。
中小企業の属する業界では、占有率を正しく把えられるような情報は、まず手に入らない。しかし、工夫次第ではかなり的確に我社の市場地位を知ることができるのである。
それは、各社の売上高比較による「ランク表」である。占有率でなくランクで代用するのである。それが「ランチェスターグラフ」である。〈第53表〉がそれである。
同業で、特にマークしなければならない会社の年商額(これは興信所の調査報告で分る)を、同一のグラフに線グラフとして書き込むのである。
会社によって決算月が違うけれども、これは無視して差支えない。
表中のA社は年商額が大きいので同一目盛では書き込めないので、右目盛として十倍の目盛をとり、この目盛で記入してある。
こうしておくと、なかなか便利な点がある。A社の売上線付近にもしも左目盛の会社があれば、その会社の売上高はA社の十分の一である。B社がこれに近いのである。またE社はA社の約二十分の一程度であることが分るのである。
売上げの最も低い「当社」というのはK社で、この分析をした時に、このような売上線が現われた。当社とは、そのK社のことである。
私はK社長にこのグラフを示して『あなたの会社は占有率が年々下がっている。ランクも下がっている。倒産に向ってバク進している姿がこれである』と警告を発した。K社長にとっては、これは大ショックだったのである。
この表に、我社の利益計画の目標売上げをプロットして、その前年と点線で結んでみると、それで、占有率又はランクが上昇するかどうかの見当をつけることができるのである。
グラフというものは、このように前向きに利用することができる。そして、これが本当の使い方なのである。
ところで、このグラフは単純な各社の総売上高の比較表である。そこで問題は、各社の商品構成や市場構成が違うということである。
これが分らなければ本当の意味での比較はできないからである。たしかにそうではあるが、それではそのようなことを知る手段があるのかというと、数字的につかむことは不可能といえよう。
この場合に大切なことは「完全情報ではないから役に立たない」と否定してはならないということである。
企業が手に入れることのできる情報で、完全なものなど皆無なのである。
その不完全な情報に、他のさまざまな情報を加え、とにもかくにも我社の地位を推測するのである。このような態度こそ社長として大切なのである。
あとは、この推測をもとにして戦略を練るのである。というと難しいようであるが、このようなことは大ていの社長がランチェスターグラフを呪みながらできるのである。
このランチェスターグラフに、各社の年度別の経常利益率を併記すると、これまた社長を考えこませる情報が手に入る。
特に社長として痛感させられるのは、「内部の資料」ばかり見ていたウカツさなのであることは間違いないのである。
全社的な占有率(又はランク)がつかめたら、その次には細分化された占有率の分析が必要である。
業務用品や消費財の場合は地域別占有率、生産財の場合には商品別占有率が重要である。
このような数字をつかむのは、かなりの難しさが伴うが、努力すればそれだけのことがあることは確かであり、やがてはこの努力が報われる時が来ることは間違いないのである。
地域別占有率は、これをランチェスターマップに視覚化するのもよい。ランチェスターマップというのは、地域別に、普通の場合は都道府県別に色分けし、これに地域毎の総人口又は世帯数、総需要、我社の占有率、などを付記するとよい。
商品別占有率は、我社の全商品を一表にまとめて、全社的な検討に便利なようにするのがよい。これには年度別の総需要、我社の売上高、我社の占有率などの項目を記入するのである。必要とあらばグラフ化してもよい。
何れにせよ、市場の地位に関する分析は、最も重要な分析項目であることを肝に銘じて、労をいとってはならない。
その分析によって明らかになった数字とその傾向を、十分に検討し、我社の市場戦略を立て、その結果の測定をし、さらに新たな戦略樹立を行なわなければならないのである。
売上年計と半年計
売上高は市場活動の物差しとして、最も重要なものである。これを常に監視しない社長は一人もいないことも間違いない。しかし、果して本当の意味で、売上げの状況を正しくつかんでいるだろうか。答は「ノー」である。
というのは、売上げは月々の数字をつかんでみても本当のことは分らないのである。月々の数字は、いろいろな偶発的な要因によって大きく変動する。季節変動がある会社では、繁忙期と閑散期の数字を比較しても意味はない。
右のような、いろいろな変動を全部消し去って、売上高を正しく把える方法がク売上年計´である。そして、年計以外には正しく売上高をつかむことは不可能なのである。
そして、私がお伺いする前に売上年計をつくっていた会社には、まだぶつかっていないのである。強いていえば「Zチャート」をつくっていた会社があるが、その意味を聞いても知らなかった。「Zチャート」などは遊びにしかすぎない。月別、累計、年計と一つの表にまとめてZ型にして喜んでいるだけなのである。月別や累計を見ても意味がないのだ。余分なものをくっつけて、かえって分らなくしてしまっているのである。必要なのは年計だけである。
年計についての説明は、すでに「経営戦略篇」で行なっているので、ここでは年計の定義― 二年間の売上累計を一カ月ずう移動して累計する(移動累計)― だけにとどめて、本篇では年計の対象と表の作り方をのべることとする。
年計の対象としては
- 一、総売上年計
- 二、主要商品別売上年計
- 三、地域別売上年計
- 四、得意先別売上年計
が主なものである。その他は応用問題として、店舗別、営業所別、輸出と国内、民生用と工業用、官公需と民需、直営とフランチャイズなどなど、自らの会社の実情と必要性に応じて行なえばよい。菓子間屋などでは商品別がとりにくいものは「仕入先別仕入年計」という便法もある。
年計は、数表だけでなく「グラフ化」したほうがよい。
総売上年計は、単独のグラフとする必要はない。それぞれの年計グラフに記入すればよい。
商品別売上年計を代表として説明すると、グラフは時系列グラフであるから、線グラフとし、 一年毎でなく何年でも連続してゆくのである。商品別(商品群でもよい)に一品毎に一枚のグラフにしてはいけない。これでは全社的な関連が分らなくなるから、必ず一枚のグラフに作表対象商品のすべてを記入するのである。この表に総売上げも記入する。この場合に、目盛の単位を変える(例えば十倍とする)のがよい。これは、ランチェスターグラフのところで説明したことと同様である。
もう一つは、縦横の目盛の比率に気をつける。よくおかす誤りは、線が極端に立つような縦目盛(金額目盛)をつけることである。だから、一度書いたものを見て、縦目盛の単位を修正するのがよい。それは、やや売上げを誇張するくらいがよい。
もう一つ大切なことがある。このグラフは毎月記入してゆくのであるから、二年くらいは記入できるように、表の右側と上側に余裕をもたせておくのである。記入の余地がなくなったら、用紙を貼り足すのである。
年計グラフの見かたについては「経営戦略篇」でものべてあるし、後述もするが、それはとにかくとして、 一度作って眺めていただきたい。必ず「ハハア」とか「意外だ」というようなことを発見するはずである。
年計は、売上げに関するものだけでなく、内部の数字にも適用できる。つまり、付加価値(粗利益)、人件費、経費、経常利益などについてもである。むろん、 一つの表に記入し、売上高も記入して相互の関係を見てゆくのである。
次は「半年計」である。年計が季節変動を消してしまうのに対して、「半年計」は季節変動を明らかにするものである。だから、季節変動の少ない会社は作る必要はない。
計算法は「六カ月間の売上累計を、 一カ月ずつ移動する」のである。これをグラフにすると、 一年を一サイクルとする波型になる。波の頂点を含むさかのぼった六カ月が繁忙期であり、底を含むさかのぼった六カ月が閑散期である。閑散期は、事業活動が不十分な期間であり、収益は低下するが固定費は減らず、そのために、この期間は赤字になる場合が多い。
閑散期というのは、その事業にとっては宿命的なものだけに、これを埋めることは難しい。思いきって考え方をかえ、増分計算の章の「季節変動をカバーする」を思いだして、低収益事業であっても、増分収益が増分費用を上廻る限り取組むべきである。
売上高ABC分析
自然現象は「正規分布」(釣鐘状分布)する。ところが、社会現象は正規分布せずに「パレート分布」をする。
「パレート分布」とは、イタリーの社会学者パレートが、イタリー人の個人所得を調べていた時に発見した分布で「国民所得の大部分は少数の人々によって占められ、大部分の人々で僅かな所得しか得ていない」というク偏リクの現象である。
事業経営という社会現象では、いろいるの面でこのク偏リクの現象が現われる。
売上げにおける偏りの現象を、商品と得意先について分析したものが「商品別売上高ABC分析」と「得意先別売上高ABC分析」である。
「経営戦略篇」では、パレート分布を「九五%の原理」という表現で触れている。いわく「半数の商品又は得意先で、売上高の九五%が占められ、残りの半数の商品又は得意先で、売上高の五%を占めるにしかすぎない」と。
この分析は、個々の商品又は得意先について、年間売上高の多い順に累計してゆき、総売上高の八〇%までを「Aグループ」、九五%までを「Bグループ」、残りの五%を「Cグループ」という分け方をする。そのために「ABC分析」という言葉が広く使われているのである。
〈第54表〉が「商品別売上高ABC分析表」の様式である。これは毎年一回作れば十分である。
順位というのは、年商額の順位である。商品名は、必ず全商品とする。これには意味があるのだ。よくやるのが、少額売上げについて「以下何種類」とすることだ。表の格好だけつけるのならそれでよいが、格好のよし悪しではなくて、実際に使う場合に必要なのである。
まず第一には、売上高の、問題にならないほど少ない商品がいかに多いか、ということが見ただけで分ることである。これは、社長自身の意思決定にも、社員に説明して納得させる場合にも役立つ。
第二には、切捨て商品を一つ一つ検討しなければならないからであり、そして第二には、切捨て決定商品を順位番号で明確に指定できるからである。
金額欄は千円単位で十分である。経理の資料ではないのだから、小さな単位までは不要なのである。売上比率というのは、この表で計算した総売上げを一00%とした比率である。
個別というのは、個々の商品の総売上げに対する比率であって、これは比率らいまでで、あとは記入してもたいした意味はない。
累計というのは、上位からの累計売上げの総売上げに対する比率である。これも全部記入する必要はない。記入するのは
ベストテン
- 一、上位五0%のところ
- 三、上位八0%のところ
- 四、上位九五%のところ
- 五、上位九八%のところ
というのが大体のメドであろう。
でき上がった表を見ると、たいがいの社長が「ヘェー」という。少数の商品でこんなにも多くの売上高があるのか、少額売上げの商品がこんなにもあるのか、という感想がこの「へー」なのである。
九五%の原理といいながら、九八%のところにも累計比率を入れるのは、九五%以下は切捨て検討の対象商品とするのであるが、五%は心理的に多く感ずるから、まず下位二%の商品を検討することにしたほうが気が楽だからである。「全部切捨てても二%なのだ」という気楽さである。格付の欄には、商品の重要度による格付を記入する。
「AA」「A」「B」「C」「D」というような要領である。次は「得意先別売上高ABC分析」である。
〈第55表〉がそれである。基本的には商品別と同じであるが、この表を利用して、セールスマンの得意先訪間の分析をするのである。この表作成の留意点は、商品別と全く同じなので省略し、セールスマンの訪問回数に移ろう。
セールスマン訪問状況分析
セールスマンの顧客訪間の実態をつかんでいる社長は殆どいない。セールスマンの管理は営業部門の長の仕事だと思っているらしい。これほど大きな認識の誤りはない。
会社の中の「ムダ」で、何が大きいといっても、セールスマンの使い方のムダほど大きなものは絶対にない。それも、他のムダとはケタ違いの大きさなのである。その「ムダ」を思い知らされるのが、この分析である。
表の「セールスマン訪問回数」を、営業日報から拾い出して記入してみてもらいたい。これは必ずしも一年間でなくともよい。しかし、最低ニカ月くらいは必要であるc
営業日報の訪問記録の信頼度はあまり高くない。本気でこの日報を見るものはいないので、訪問しても記入しなかったり、訪問しないのに訪問したと記入することは珍しくないからだ。といって、全く使いものにならないほど信頼度が低いわけでもないし、これ以外にはないのだから、そのつもりで使うより外にないのである。
下部の突き出しに、総訪問回数と一人一日当りの訪問回数を記入し、それを検討していただきたい。
まず第一の驚きは、一人一日当りの訪問回数の少なさである。これを見ると、セールスマンが如何に怠けているかを思い知らされ、次には、個々の得意先に対する訪問回数を見れば、社長が想像していた訪間と、あまりにも隔りがあるのに驚くはずである。セールスマンというものは、社長が訪問してもらいたいと思っている会社は訪問せず、あまり訪問しなくともよいと思っている会社を頻繁に訪問するものなのである。
また、ABC分析の分類に従って、〈第56表) のグループ別訪問回数表を作ってみれば、なおのこと、何とも奇妙な実態が浮び上がってくるのである。
現在僅かな売上高しかない、そして将来も売上増大の見込みの最も少ない「Cグループ」に対する訪問回数が意外なほど多く、訪問一回当りの売上高にいたっては、話にもならない少額だということである。
さらに、セールスマン一人一人の総訪問回数と、 一日当りの訪問回数を計算し、経験年数との関係を検討するのである。そこに、どんなことを発見するだろうか。
検討を加えれば加えるほど、セールスマンの不思議な生態が浮び上がってくるのである。そしてそれは、セールスマンが悪いのではない。明確な方針を示さず、正しい指導を怠っている社長自身の責任なのである。
社長の市場戦略にもとづく計画訪間を実施することにより、セールスマンを三倍にも五倍にも増員したのと同様の効果を期待できることを知ってもらいたいのである。
商品総合分析
「商品の原価は計算できない。計算できるのは収益である」ということは、すでに何回ものべている。しかし、商品の収益だけ押えればいいかというと、それでは不十分である。
それは、単なる収益性のよし悪しだけではなく、会社全体から見ての重要度、市場における地位などを見なければならないし、その将来性の見通しも必要である。
また、収益をあげるために投入された企業の資源― ‐人・物・金・時間― の状況も分析しなければならない。それらのいろいろな要件を分析し、これを総合して検討するための分析表が〈第表〉の「商品総合分析表」である。
この表にまとめてあるような考え方と見方をしてこそ、はじめて正しい判定や方向づけが可能なのである。この第表について、若千の説明をしてみよう。
表の頭に、会社全体の状態を、損益計算、業界混成、賃率の二つのサイドから示している。これで会社の輪郭を見るのである。その下に個々の商品の分析をしてある。
- ○ 売上高は、商品毎の売上金額と、総売上高に対する個々の売上げの比率である
- ○ 付加価値高は、個々の商品の金額と、総額に対する比率を記入する
- ○ 賃率は、絶対額である
- ○ 収益性ランクは、健康商品は「A」、貧血商品は「B」、出血商品は「C」とする。
- ○ 市場の地位は、占有率又はランクである
- ○ 将来性は、矢印でノ↓ヽのように表示すると分り易い
- ○ 開発投資は、ハッキリしなければ概略の推定を記入する
- ○ 投入人的資源は、人数か全体を一〇〇%とした%ででも表示したらよい
- ○ 投入資金は、設備については、個々に分けられない場合は強いて記入しなくともよいだろう。専用機などがある場合は、減価償却費と金利である。在庫、売掛け、受手などについては、それぞれの総額を一〇〇%とした比率か、投下資金の金利額又は比率などのうちのどれかにすればよい
- ○ そして、最後に「判定」である。これは商品の類型で表示するとよい
この総合分析表は、実際に作ってみると、面倒臭いのは夕賃率´計算くらいで、その他は意外なほど短時間で済むのである。というのは、これは経理の資料ではないのだから、正確な数字を必ずしも必要としない。ある程度以上の信頼度があればいいのだから、概算、推定の値でよい。どうしても分らないものには「不明」と記入すればよいのである。
気を楽にもって作成してみることをおすすめする。この表の特色は、我社の商品について、パノラマ的に全体の構成とその位置づけを知ることができると同時に、個々の商品の特性を明らかに知ることができるところにある。
それなるが故に「ウーム」と唸るようなことを発見するかも知れない。特に「シンデレラ」の発見の可能性は、決して低くはないのである。
売上状況分析
売上状況分析とは、一口でいえば「お客様の好みの変化」を知るための分析である。
お客様の好みは、ちょっと見には変らないように見えて、その実は徐々に、そして確実に変ってゆく。その変化の方向を正しく把えて、それに対応してゆかなければ生きてゆけないのが会社である。
その変化は徐々にではあっても、一年たつとかなリハッキリしてくるものである。
だから毎年、 一年間のデータをとって比較することが大切である。実例で考えてみよう。
T社は、家具問屋である。T社の業績は、ここ数年間低下の一途を辿っていた。
T社の方針は、回転率の高い商品を揃えることであった。回転率の高い商品といえば、どうしても裾物になってしまうのである。その裾物の売上げが最近鈍化しているのである。
私は「ははあ」と思い当ることがあった。それは、この方針にはお客様の好みの変化は全然考えられていないということである。
そこで、洋服タンスをサンプルにとり、プライスゾーン別の売上本数を二年間の年度別売上表にして比較してみた。それは上のようなものであった。
この表は、お客様の好みがハッキリと高級化の方向に進んでいることを物語っているのである。念のためにたしかめてみると、二万四千円以上の品物は、最近品切れが多くなっているということだった。
お客様の好みの変化に気がつかずに、裾物に力を入れていたために売上げが伸びなかったのである。「安価な品物のほうがよく売れる」という単純な先入観だけで品揃えをしていたのが間違いだったのである。
大切なことは、過去の経験から生れた先入観ではなくて「お客様の好みはどう変りつつあるのか」という態度なのである。
デザインとか、色柄のようなものは、その変化のスピードが早いので、特に注意していなくとも自然に分る。
しかし、ゆっくりと変るもの、例えばプライスとか、好みの変化ではないが、日本人の体格がよくなってゆくためのサイズの変化などは見過し易いのである。
好みのク味クの変化もこの例である。戦後は一貫してク甘味´のうすいほうにお客様の好みが変っているにもかかわらず、外食産業の多くの経営者は、この点に注意を払わず、コックや板前まかせという怠慢によって甘味の強いものを売って、どれだけ売上げを落しているか分らないのである。
ある洋菓子のメーカーにお手伝いした時に、駅でつかまえたタクシーの運転手が女性で、行先を告げると『あそこのお菓子は皆がおいしいといいますよ。私もよく買って食べます』という。おいしいというのは、甘味がほどよいことだという。他の会社の菓子は「甘すぎておいしくない」ということであった。
このような分析は、自社のデータからは得られない。定期的な他社品との比較試食を行なうことによって味の違いを知り、興信所の調査からでも売上げの伸びの状況を調べて、味との関連を知る手がかりをつかむべきであろう。
「顧客の要求の変化をどうしたらつかめるか」という設問こそ、常に発せられなければならないことを心してもらいたいのである。
コメント