はじめに「超ブラック企業」だった武蔵野はどうして「超ホワイト企業」に変われたのか?「おちこぼれ集団」を優良企業に変えた「2つ」の要因株式会社武蔵野(ダスキン事業/経営サポート事業)は、2000年と2010年の2度にわたって、「日本経営品質賞」(公益財団法人日本生産性本部が創設した企業表彰制度)を受賞しています。はじめて日本経営品質賞にチャレンジしたのは、1997年。当時の武蔵野は、天下に隠れもない「おちこぼれ集団」でした。幹部16人中、正社員で入社したのは、わずか2人。残りの14人は、はじめは腰掛けのアルバイト。学歴でいえば、大卒が2人、中卒が2人。中卒は、部長と課長でした。残りの10人は高卒ですが、大卒に近い高卒ではなく、いずれも、「かぎりなく中卒に近い高卒」です。しかも、幹部16人中5人は、元暴走族でした。Xくんは、「世代を超えた伝説の特攻隊長」として名を馳せ、「一生、自動二輪に乗れない」という強者です。三多摩地区全域をシメていたスケバンもいます。彼らが上手なのは、「運転」くらい。「運転が好きだから」という理由で入社した社員もいます。そして、元暴走族の猛者たちに「やくざより怖い」と恐れられたのが、武蔵野の社長、小山昇です。わが社のレベルの高さがうかがえます(笑)。経営サポート事業本部の久木野厚則部長は、入社21年目の社員です。彼が武蔵野の面接に来たとき、わが社の現実に「目を疑った」といいます。なぜなら、「ダスキンの会社なのに会社が驚くほど汚かった」「玄関の脇で5、6人の社員がたむろして、タバコを吸っていた」「みんな頭に剃り込みが入っていた」からです。ガラの悪い社員の中には、今の役員の西野與一もいました(笑)。日本経営品質賞にチャレンジすると決めた以上は、手の施しようのないおちこぼれ集団を変えていかなければなりません。そこで私は、「2つ」のことを考えました。
ひとつは「社員教育に力を入れる」ことです。「経営計画書」と「環境整備」を取り入れて、「社員の価値観を揃えること」に注力しました。経営計画書とは、会社の経営方針、数字、スケジュールを明文化したルールブックです。社員が「どう行動すればいいのか」に迷ったら、経営計画書が道標となります。私は「人間心理を無視して経営をしてはいけない」と考えています。社員は「面倒なことはやらない。都合の悪いことはやらない」のがまともです。だとすれば、「面倒なことでも、都合の悪いことでも、やらざるを得ないルール」を決定するのが社長の務め。このルールを1冊の手帳にまとめたのが、「経営計画書」です。会社は、「個人のわがままが許されない場所」です。会社は、野球と同じで団体戦。社員は、野球選手と同じです。野球の最中に、「今日、オレは気分が悪いから、球は捕らないからな」と手を抜くことは許されません。巨人から阪神にトレードされた選手が、「オレは縦縞のユニフォームは嫌いだから、巨人のユニフォームを着る」というのも許されません。なぜなら、ルールや守るべき義務が決まっているからです。個人のわがままを許さないためにも、会社のルールを明文化した経営計画書が必要です(経営計画書の詳しいつくり方については、拙著『経営計画は1冊の手帳にまとめなさい』/KADOKAWAを参照してください)。環境整備とは、仕事をやりやすくする「環境」を「整」えて、「備」える。わが社は、毎朝の掃除(整理整頓)を「環境整備」と呼んでいます。ひとりの例外も、1日の休みもなく、全社員に職場の整理整頓を義務づけています。掃除は、元暴走族も、大卒も、全社員が同じ土俵のうえで平等にできるため、「社員の気持ち」を揃えることができます。しかも、やればやっただけ成果が見えるので、「自分たちでもやれば、できる」という手応えを感じ取ることができます。社員のやる気は、「お金で買う」のが正しいもうひとつが、「人事評価制度の見直し」です。私がいくら「頑張れ」と口酸っぱく言ったところで、武蔵野の社員は動きません。私が「これをやりなさい!」と命じれば、一応、口では「はい!」と返事をします。ですが、社員の「はい!」は「やります!」の意味ではありません。「聞こえました」の意味です。聞こえたからといって、やりはしません。では、どうすれば社員は「やるようになる」と思いますか?「お金」で釣ればいい。
社員にとって、愛はお金。誤解を恐れずに言えば、社員のやる気は「お金」で決まる。社員のいちばんの関心は、「頑張ったあと、どれだけお金がもらえるか」です。「これをやったら、あなたに1000円あげるから」「これをやらないと、賞与が低くなってしまうよ」「これだけ業績を出せば、給料がこれだけ上がるよ」と、ルール(評価基準)を決めておけば、わが社の社員は、「お金がほしい」という不純な動機から、「嫌々ながら」「しかたなく」「面倒だと思いながら」も、頑張ろうと思う。これが人間の心理です。かつての武蔵野では、社員よりもアルバイトのほうがコミッションは多かった。そのため、アルバイトの多くが社員になりたがらなかった。「優秀なアルバイトを社員としてスカウトしたい」と思っても、なかなか社員にはなってくれない。そこで私は、スカウトに力を入れるため、既存社員にアルバイトを口説かせることにした。どうやって口説かせたか。そのときも、お金で釣りました。「アルバイトをひとり社員にできたら、B評価の人はA評価、A評価の人はS評価、S評価の人はSS評価とみなして賞与を多く払う」ことにしたと。するとわが社の社員は、アルバイトを飲みに連れ出しては、「社員にならないか」と口説きはじめました。そうやって社員を増やしてきた。かつての武蔵野は、「武蔵野以上にザ・ブラックな会社はない」と揶揄され、「株式会社ブラック企業」と呼ばれていました。ところが現在では、「超ホワイト企業」に生まれ変わっています。2015年度は、「過去最高売上」「過去最高利益」を達成し、経常利益は5億円(販売促進費を6億円使っているので、実質的な利益は11億円)です。平均76時間あった残業は、業務改善によって「平均35時間」にまで減っています。どうして、漆黒の超ブラック企業だった武蔵野が、超ホワイト企業に変われたのか。わが社が、高収益体質を実現できたのは、「人事評価制度を明確にして、社員のやる気をお金で買ったから」にほかなりません。社員が給料に文句を言うのは「評価基準」が明確でないから武蔵野の人事評価制度は、頑張った社員と、頑張らなかった社員の差をつける制度です。年齢や職責にかかわらず、頑張れば頑張っただけ収入も増える。それがわが社の人事評
価制度です。ある年は、賞与をいちばん多くもらった人と、いちばん少なかった人の差が「72倍」もありました。役員の佐藤義昭は、賞与が一気に「20倍以上」増額した。前期は20万円だった賞与が、翌期には「410万円」に増えました。一方、頑張らなければ、「賞与ゼロ円」もあり得るのが武蔵野の怖いところ。曽我公太郎は、武蔵野初となる「賞与ゼロ円」の提示を受けた社員です。成績を出せずに評価が低かった上に、「禁煙手当」(タバコを吸っていた)や「安全運転手当」まで支給されなかったため(座席ベルト装着義務違反をおかしていた)、計算してみると、わずかに「1万円未満の端数」があっただけ。すると曽我は「じゃあゼロでいいです……」と開き直った。そして、奮起。この悔しさを原動力に、現在は部長です。一方、彼の妻の曽我都生子部長は、賞与が前期に比べ、半額になったことがあります。理由は、半期で始末書を2枚提出したから。武蔵野の経営計画書には、「始末書半期2枚提出者は賞与半額」という方針が明記されています。柔道では「技あり2本で1本勝ち」になりますが、わが社では、反省文2枚で「始末書」に、始末書2枚で「賞与半額」に繰り上がるしくみです。中嶋博記は、「224万円」あった賞与が、翌期には「8400円」にまで下がりました。約267分の1の減額です。本人は、「東京タワーからバンジージャンプをしたほうがよかった」と言っていましたが(笑)、それでも私に、「賞与をありがとうございます」とメールを送ってきました。また、本部長だった中嶋を「勉強不足」を理由に降格させたことがあります。武蔵野において、「責任を取る」とは、経済的な損失を被ることを意味します。そこで、中嶋を本部長から部長に降格させて、給料を下げました。賞与を含めると、年収は200万円ダウン。ですが2年後に本部長に復帰。本部長から降格して返り咲いたのは、武蔵野史上はじめてのことです。私はかつて、過去最高益を上げながら、社員の賞与を「小与」にしたことがあります。「今年の冬のボーナスはさぞかし高額だろう」と期待していた社員は、落胆したはずです。ですが、当時の武蔵野には、小与にしなければならない理由があった。そのころ、武蔵野はある都銀から「貸しはがし」にあっていた。銀行が貸してくれない以上、多くの現金を手もとに残しておく必要があります。会社は赤字でも倒産しないが、現金が回らないと簡単に倒れてしまう。
そこで私は、「賞与は前年の90%とする」ことを社員に伝え、さらに、こうつけ加えた。「なおかつ、支給額の半分をわが社に貯金してください」つまり、過去最高益を上げた年の賞与を「前年の45%にしてほしい」と頼んだわけです。もちろん、社員に「貯金」してもらった賞与の半額分は、資金繰りが改善したら支払うことを約束しました。賞与が大きく減額になって、社員は不満を持った。それでも社員の納得を得ることができたのは、・わが社が「人事評価制度」を公開していること・私が一時の気まぐれで減額を決めたのではないことを社員が理解していたから。中小企業の多くは、評価体系がありません。社長の「どんぶり勘定」や「鉛筆ナメナメ(数字をイジる)」で、給料も賞与も決まります。評価体系があっても、機能していない。給料と賞与に明確なルールがなく、社長の好きなように決まったら、社員が納得できるはずはありません。ですがわが社には、人事評価の基準が経営計画書に明示されてある。だから賞与がゼロになっても、半額になっても、罰金を取られても、何度も降格しても、社員がやる気を失わないのです。中小企業の社長の9割は「鉛筆ナメナメ」している「鶴見製紙株式会社」(製紙/埼玉県)の里和永一社長は、かつて、「どんぶり勘定」「鉛筆ナメナメ」の典型的な社長でした。「中途で新しい社員が入ってくると、『辞めてほしくない』という理由で、賞与を多く払っていました。昇給も賞与もその場しのぎで決めていたので、社員が増えるたびに例外をつくって、やがて、既存社員との整合性が取れなくなったんです。私は、『社員は、自分の賞与額を他人に教えない。秘密にしておく』と思っていたが、そんなことはなくて、『オレはいくらもらった』とか『いくら給料が上がったんだ』と教えあっていました。すると当然、『あいつのほうが社歴が浅いのに、オレのほうが安いのはおかしい』という不満が出てくる。次第に、社長と社員の信頼関係が壊れてしまったんです」(里和社長)里和社長のところに、「何であいつのほうが、オレより給料が高くなるんだ!」と直談判してきた社員もいたそうです。「理由を明確に説明できなくて、もう、しどろもどろです(笑)。しかたなく、文句を言
ってきた社員に賞与を上乗せしたら、また整合性が取れなくなってしまって(笑)。人事評価制度を導入したきっかけは、新卒採用です。『自分の評価がどのように決まるのか』『賞与の金額はどうやって決まるのか』を明確にしておかないと、せっかく新卒を採用しても、長く勤めてはもらえないのではないか、と思ったんです」(里和社長)「どんぶり勘定」をやめて人事評価制度を導入したことで、里和社長は「会社が明るくなった」と言います。「人事評価制度をつくったことで、一本筋が通った、と言いますか、拠り所が見つかった気がします。会社が明るくなったのも、やはり、人事評価制度を導入したからだと思います」(里和社長)「頑張ったらいくらもらえるか」がわからないと、社員は頑張れない「株式会社テイル」(飲食/京都府)の金原章悦社長も、鉛筆をナメていました。「私はすべてがいい加減で(笑)、アルバイトを雇用するときも、中途社員を雇用するときも、『お給料はいくらほしい?』と聞いて、その金額をそのまま承認していたんです。なぜなら、そうしないと人が採れないし、人を育てる実力もなかったからです。人を育てる実力がない以上、仕事ができる人を雇うしかありません。だから、言い値で採用していたわけです。賞与の支払いも、いい加減です。私は、『鉛筆ナメナメ』の典型で、自分で言うのもなんですが、ナメ方がいやらしい(笑)。社員ではなく、社長の自分に都合がいいように数字をイジっていたんです」(金原社長)金原社長は、会社の利益が上がっているのに、「業績が悪くて利益が取れない」と噓をついていた。なぜなら、自分の懐を温めたいから。「けれど社員は、私を見れば、それが噓だとわかります。私はいい車に乗っているし、いい服を着ているわけですからね。だから、給料を支払うたびに、社員が辞めていくんです。けれどあるとき、目が覚めました。社員のひとりから、こんなことを言われたんです。『僕は結婚したいが、結婚しても大丈夫ですか。ここで働いていて、将来はありますか?』。彼のこの言葉が胸にグサっと突き刺さりました。私が鉛筆をナメることは、社員一人ひとりの人生をナメる(バカにする)ことと同じだった。そのことにようやく気づいた」(金原社長)
多くの社長は、社員に「頑張れ、頑張れ」と言いますが、「頑張ったら、これだけもらえる」という「頑張った先」が見えなければ、社員は頑張れません。「人事評価制度がないとき、私はいつも、眉間にしわを寄せていました。なぜなら、すぐに社員が辞めてしまうからです。でも今は、そんなことはありません。私が毎日、ニコニコ明るくしていられるのは、人事評価制度をつくったおかげで、社員がやる気を出してくれたからです」(金原社長)社員にとっていちばんの関心事は、「給料」と「人事」です。社長の個人的な好き嫌いや胸先三寸で人事評価を決めれば、社員はやる気をなくして辞めます。「給料」と「人事」に関する基準をつくり、運用していくのが社長の仕事です。曽我公太郎のように賞与がゼロ円になっても、中嶋博記のように267分の1に減っても社員が暴動を起こさないのは、次の3つが明確になっているからです。「どうすれば給料が上がるのか」「どうすれば賞与が増えるのか」「どうすれば昇進できるのか」賞与が下がっても、更迭されても、数字を残せば元に戻ることができる。そのことをわかっているから、武蔵野の社員は、減額や更迭を経験しても明るい。「人事評価制度を明確にする」ことは、人事評価の基準や方針を「経営計画書に明記する」ことでもあります。「郡中丸木株式会社」(不動産/福島県)の鈴木宗稔社長は、「経営計画書を作成することで人事評価の方針が明確になり、その方針によって評価制度の基準がつくられた」と話しています。「この経営計画書の方針がすべての基準であり、核になっています。頑張った社員と頑張らない社員の差をつけると明言しているから、社員もつらいと思う。でも、つらさを感じながらも、社員は方針を守り、頑張って社員が成績を出したら、しっかりと応えるのが社長の責任です。『お金はない』とは言えません。人事評価制度を経営計画書に書くことは、社長が自らを追い込むことです。ある意味、社長もつらい。けれど、社長も社員もルールを守るから、会社の一体感が生まれると思います」(鈴木社長)「人事評価制度を導入するセミナー」に参加した「内藤建設株式会社」(不動産/岐阜県)の内藤宙社長は、「環境整備とPDCAと人事評価はセットだと思う。この3つをやらないと会社はよくなりません」と言います(PDCAについては、拙著『儲ける社長の
PDCAのまわし方』/KADOKAWAをご参照ください)。同じセミナーに参加した「株式会社ダスキン諏訪」(ダスキン/長野県)の永由郊一社長は、給料テーブルが完成してよかった。これでまともな運用がスタートできる」と話していました。本書では、武蔵野の経営計画書に明記された「社員に関する方針」と「人事評価に関する方針」を中心に、「人事評価制度のつくり方と運用のポイント」について、できる限りわかりやすく解説していきます。人事評価制度の運用の〝キモ〟は、部下の評価について社長が鉛筆をナメないこと。社長がこんな楽なしくみはないのです。本書が、みなさまのお役に立てることを願っています。最後に、本書の制作にご助力をいただいた藤吉豊さん、KADOKAWAの鯨岡純一さんに心よりお礼申し上げます。株式会社武蔵野代表取締役社長小山昇
『儲ける社長の人事評価ルールのつくり方』
もくじ
はじめに
Chapter1人事評価制度を「今すぐつくる」ことを決定する
●最初から「正しい人事評価制度」をつくろうとしない●社員全員が満足する評価制度は、つくれない●チャンスは平等に与え、成績によって差をつける●「残業時間の減少」を人事評価に連動させる
Chapter2基本給は「過去の実績」に基づいて決定する
基本給①基本給は、等級制度。「賃金テーブル」をつくって計算基本給②等級を上げるには、「3つの昇格要件」を満たす必要がある基本給③上司は、「独断」で部下の昇格を決めていい基本給④上司は、たとえ1点差でも部下の成績に「順番」をつける基本給⑤「変わるもの」と「変わらないもの」を明確に分けるグループ手当①「等級制度」に「グループ制」を併用して、社員の実力を正しく評価するグループ手当②どうして「部下を持たない管理職」にも管理職手当を支払うのか?
Chapter3賞与は、「半期の成果」に基づいて決定する
賞与①賞与の額は、「半期ごとの成果」によって決まる賞与②業績が良いときは幹部を優遇、業績が悪いときは幹部を冷遇賞与③「4つ」の項目を点数化して評価を決める賞与④評価シートでは、「人」ではなく「人の行動」を評価する賞与⑤給与は「お客様」に感謝、賞与は「社長」に「ありがとう」賞与⑥「賞与の額がもっとも少なかった社員」に賞与を袋詰めさせるその他の手当①/家族手当社員にとって最大の福利厚生は「年収が上がること」その他の手当②/家族手当配偶者と子どもがいる社員には家族手当を支給その他の手当③/禁煙手当禁煙すれば、年収が「60万円」アップ?その他の手当④/安全運転手当安全運転をした社員に「年間12万円」の手当を支給その他の手当⑤/特別手当社員を辞めさせないために「特別手当」を支給●給料体系勉強会を開催し、「10年後の自分の給料」を計算させるコラム●人事評価制度がない会社は、何から始めればよいのか?
Chapter4頻繁に「人事異動」することを決定する
●定期的な人事異動は、「赤字」という病気を防ぐ特効薬●「成績の良い人」を中心に人事異動をする●人を動かすときは、早すぎても遅すぎてもダメ
●武蔵野が半数近い社員に「課長職以上」の肩書きを与える理由●仕事ができる者同士、仕事ができない者同士で組織をつくる
Chapter5定期的に部下と「面談」することを決定する
●毎月1回、上司と部下の個人面談を義務化する●評価確定面談では、社員に自己採点、自己評価をさせる●部下を「えこひいき」する上司が正しい●社長は「部下がつけた評価」を変えてはいけない●定年退職後、本人と会社の希望が合えば、嘱託社員として働ける
Chapter1人事評価制度を「今すぐつくる」ことを決定する
最初から「正しい人事評価制度」をつくろうとしない「正しいルール」があることよりも、「ルールがあること」が正しい人事評価制度をつくるとき、多くの社長が「どの社員からも不満が出ない『正しいルール(評価基準)』をつくろう」と考えます。ですが、この考えは間違い。「ルールがあること」が正しいのであって、はじめから完璧なルールをつくることはできません。ざっくりでもいいからとりあえずつくって、運用してみる。そして、不都合があったら、変えればいいです。プロ野球が「セ・パ交流戦」や「クライマックスシリーズ」を導入したのは、時代に合わせてルールを変えたから。ルールは、変えるのが正しい。武蔵野の評価制度も、試行錯誤と改変を繰り返しています。わが社の給料体系は、賃金管理研究所の「弥富式」をベースにしています。ところが、弥富式は、もともとは大企業向けに考案されたしくみだったため、中小企業の武蔵野では、うまく運用できませんでした。そこで、「プロセスと成果を評価の対象とする」といった弥富式の基本思想や「賃金テーブル」の考え方を生かしながら、時代、会社の規模、事業内容に合わせてつくり変えてきたのです。ルールは、お客様の要求や時代に合わせて変えるかつてわが社では、「売上」で個人の評価をしていました。「売上を上げた社員」を高く評価して、たくさん賞与を支払っていた。ところが、わが社の社員は、社長よりも頭が良かった。手っ取り早く成績を上げるために、何をしたと思いますか?じゃんじゃん「値引き」をして、商品を売っていた。しかも、「原価(仕入れ価格)を下回る価格」で。売上が上がれば、それだけ会社は損をする。原価割れをするから。けれど、社員の賞与は増える。成績が上がるから。そのことに気づかず、「会社に損をさせれば自分の評価が上がる」しくみをつくったのは、社長の私が無知だったからです。社長はバカでもできますが、社員は頭が良くないとできません。評価のしくみの欠点を突くのは、まともな社員です。
そこで現在は、ルール(評価基準)を変更して、粗利益額と営業利益の2つの利益で評価しています。「株式会社後藤組」(建設・不動産/山形県)の後藤茂之社長は、「頑張った人には頑張った分だけお金を払うほうが公平である」と考え、武蔵野の人事評価制度を導入しました。後藤組にはそれまでも人事評価制度はあったが、「賞与の成績配分の幅が少なかった」「主観で評価する部分があった」などの理由で、思うように運用ができなかった。「武蔵野さんが『相対評価で評価している』と聞いて、『そんな会社がこの世にあるのか』とびっくりしました。しかも、頑張った人と頑張らない人の賞与は2倍以上違うので、『それは私好みだ』と思って、四の五の言わずにすぐに導入したんです」(後藤社長)ところが、建築業界とダスキン(武蔵野)では、単価が違いすぎるため、次第に整合性が取れなくなった。「今までは、去年の自分と今年の自分の成績を『率』で比較し、売上の伸び率で評価を決めていた。去年の売上が3億円だった社員が、今年は3億3000万円売り上げたら、10%アップしたことになります。一方、去年の売上が5000万円だった社員が、1億円売り上げたとしたら、100%アップです。売上の総額を見ると前者のほうが高いのに、『率』で評価していたので、後者のほうが評価が高くなっていたのです。『これはおかしい』と思って小山さんに相談すると、『バカ!後藤さんのところは率で考えたらダメ。額でやらないと』と教えられ、徐々に修正していきました」(後藤社長)実際に運用をしないと、「不都合がどこにあるのか」もわかりません。後藤社長のように、とりあえず「四の五の言わず」に運用して、整合性が取れなかったら修正をすればいい。最初から正しい制度をつくることはできません。社員のやり方、働き方は、ルールによって決まる「どのようなしくみをつくるか」で、社員の働き方は変わります。わが社の境幸二は、企画力も営業力もある優秀な社員です。企画力だけなら本部長の由井英明と1、2を争います。にもかかわらず、「課長」になれず、一般社員のまま。入社して5年、一度もA評価を取っていない。境に確認したところ、「自分も化石のようですが、あとにも先にも一度だけ、A評価を取ったことがある」と言っていた。私はまったく覚えていませんが(笑)。
そんな境に、子どもが2人います。やることはちゃんとできる(笑)。それなのに、仕事はやりません。「境は、やる気になれば課長以上の力があるのに、どうしてもっと頑張らないのか?」長らく私も疑問に思っていたが、とうとう「頑張らない理由」に思い至りました。境は妻子がいるので、支給される手当(家族手当など)を足すと、独身の課長がもらう「管理職手当」よりも多くなっていた。独身課長よりも給料がいいから、境が「頑張る必要はない」と考えるのも無理はありません。「しくみ」は本当におそろしい。当時、境が頑張らなかったのは、頑張らないしくみをつくった私の責任です。日本のお家芸である柔道が、オリンピックで勝てない理由のひとつは、「世界のJUDO」のルール改正に対応できなかったからです。以前、オリンピック競技の関係者から、「オリンピックに出場する上位10人は実力が拮抗していて、だれもが金メダルを取る実力を持っている。その中で金メダルを取れる確率が高いのは、違反にならないギリギリで戦える選手」という話を聞いたことがあります。もしも日本の柔道の選手が、わが社の社員のように「ルールの欠点」を熟知したら、ルールの隙をついて勝利を手繰り寄せることができたかもしれません。会社経営もスポーツと同じ。ルールによって本人たちの頑張り方も、会社の業績も変わります。
社員全員が満足する評価制度は、つくれない社員が不満に思うのは、評価制度ではなく、「もらった額」人事評価制度をつくると、「どうすれば、自分の給料が上がるのか」「どうすれば、自分は課長や部長になれるのか」が明確になるので、社員は一応、納得します。ですが、納得をしたからといって、満足しているわけではありません。「納得」と「満足」は違います。給料(お金)は、命の次に大切なもので、少しでも多くもらいたいと思う。だから、そう簡単には満足しません。どんなルールをつくっても、「頑張っているのに、どうしてオレの給料は安いのか?」と不満を口にする社員が必ず出てきます。武蔵野が人事評価制度をつくって10年間運用していたが、多くの社員が不平不満を口にしました。1999年に社員アンケートを実施すると、80%以上の社員が「現在の給与体系は不満だ」と思っていたことがわかった。そこで、社員主導の「給与体系変更チーム」を立ち上げて、新たな人事評価・給与体系を作成し、実行しました(課長、部長、本部長の中で、それぞれ「賞与をいちばん多くもらっている人」と「いちばん少ない人」の計6人、さらに役員を加えた7人で構成)。ところが、翌年のアンケートでは、「75%」の社員が「以前のほうがよかった」と回答したのです。このアンケートの結果から、わかったことがあります。それは、「社員は、人事評価や給与体系のしくみに不満があったわけではない。同僚と比べて自分の給与・賞与が少ないことに納得していなかっただけ」ということ。ルールに不満があったのではない。「もらった額」が不満だったのだ。相対評価である以上、「人事評価に不満な社員」は必ず存在するわが社の人事評価制度は、半期ごとの相対評価です。相対評価とは、同じグループ(役職)に属する社員を比較して、評価結果に順位をつけるやり方です。賞与額、昇給額、昇格・昇進は、すべて、相対評価の成績によって決定しています。会社の業績が良くても、悪くても、必ず順位がつきます。S(高評価)→A→B→C→D(低評価)に分けてあり、同一グループごとに、・S評価/(全体の)5%
・A評価/(全体の)20%・B評価/(全体の)55%・C評価/(全体の)15%・D評価/(全体の)5%の割合になっています。この数字を見ると、人事評価が良い「A評価以上の社員」が全体の「25%」。人事評価が良くない「B評価以下の社員」が全体の「75%」になっています。じつは、人事評価が良くない「B評価以下の社員」と、新しく導入した制度に不満を持っている社員(「以前のほうがよかった」と答えた社員)の数字がほぼ一致していた(75%)。このことから、社員の不満の矛先は、制度やルールではなく「もらった金額」に向けられていたことがわかりました。どんな基準をつくっても、相対評価である以上、全社員が満足する給与体系はつくれません。結局は、成績を上げないかぎり、A評価以上を取れない。課長職以上の古参社員は、「評価制度がどのように変わろうと、あまり関係がない」と考えています。どういう制度になっても、「自分の成績を上げなければ、給料も賞与も増えない」ことがわかっているからです。「給料に不満がある社員」を集めて、評価制度を改善させる給料や人事に対して「文句を言ってくる社員」と「文句を言わない社員」では、「文句を言ってくる社員」のほうが優秀。なぜなら、文句を言うのは、問題意識を持っているから。そこで私は、社員から給与の不満が上がると、「文句を言ってきた社員」を集めて、改善案を策定させます。ところが改善案は、そう簡単にはまとまらない。社員一人ひとりの考え方は違い、部署ごとの利害関係があるからです。ようやく改善案ができても、それで終わりではありません。「本人自らが社内を啓蒙」してまわり、全社員の理解を得て、実行させなければなりません。文句を言ったばかりに面倒なことを押しつけられるのは嫌だから、しだいに社員も文句を言わなくなります。「面倒だし、まぁいいか」とあきらめる。これがわが社の「文句を言わせないしくみ」のひとつです。
私としては、どんどん文句を言ってきてほしい。そうすれば、わが社の人事評価制度の精度がどんどん高まります。しかし、文句を言ってくる社員はいない。なぜなら、「給料が安い」と文句を言えば、自分の首が締まるから(笑)。郡中丸木株式会社の鈴木宗稔社長は、「人事評価制度を導入したからといって、社員全員が満足するわけではない」と実感しています。「評価制度がないときは、『どうして評価制度がないのか』と文句を言い、評価制度をつくればつくったで、『何でオレの賞与は下がるのか?おかしいんじゃないか?』と不満に思う社員がいます(笑)。ただ、『社長が適当に評価を決めたわけではない』ことが社員もわかっているから、一応は、納得する。また、当社は、評価制度のつくり込みを幹部社員に行わせたので、評価が低いからといって、私に矛先を向けることができないんです。社員が自分たちでつくったしくみだから、金額が低くても納得するしかないわけです」(鈴木社長)社員全員が納得する給与体系をつくることはできない。しかし、給与体系を明確にすることに関しては可能。大切なのは、「だれもが納得する人事評価制度をつくること」ではありません。いい加減でもいいから基準をつくって、「どうすれば評価が上がるのか」を社員に明確に伝えることです。
チャンスは平等に与え、成績によって差をつける「頑張っても、頑張らなくても評価が同じ」なら、頑張らない社員がまともわが社は、「すべての社員にチャンスを与え、成績によって差をつける。学歴による差別はしない」が評価の基本方針です。中途入社も新卒も、まったく同じ条件で働くことができます。だから、公平。男女による差別もない。武蔵野は完全に男女平等で、どちらかというと、女性のほうが優秀です。社員の上田紗友美と尾崎未佳、小林ひかりは、1年で課長になりました。しかも上田は、5年で部長です。これは過去最短。年齢、性別、学歴にかかわらず、「頑張れば頑張っただけ収入が増える」のが、わが社の人事評価制度の特徴です。降格しても、賞与が下がっても、頑張れば戻るし、きちんと数字を上げれば、それだけ高い評価を得るしくみです。場合によっては、「新入社員のほうが、課長より賞与が多くなる」こともあります。新卒で入社した海老岡修は、最初の評価はAだった。しかし、感想文を紛失してB評価となったが、次の期に落ち込まずに奮起。S評価となり、先輩社員より多い賞与を手にした。「公平」とは、「一部だけに手厚くしない、偏らない」ことではありません。その逆。「公平」とは、「差をつけてあげる」ことです。しっかりやってもやらなくても成績や結果で差がつかないのは、「不公平」です。頑張っても、頑張らなくても評価が同じだとしたら、頑張らない社員がまともです。武蔵野の評価制度は、社員を「区別」するしくみ中央官庁の場合、キャリア(国家公務員総合職試験/旧国家Ⅰ種試験の合格者)でなければ、事務次官にはなれません。叩き上げでは、トップに立つことはむずかしい。国家公務員総合職試験の受験資格には、学歴による制限はありませんが、試験の難易度が高いため、トップレベルの大学出身者しか合格できないのが実情です。つまり実際は、トップレベルの大学出身者でないと、官僚として上を目指すことはできない、ということです。出世に関しても、学歴が重要視される傾向にあるようです。これは学歴による「差別」と解釈できます。けれど、わが社の仕事に、大学名は関係ありません。2016年度入社の新人、鈴木海人は、青山学院大学の出身です。
鈴木が「青学は箱根駅伝で優勝したから、ぜひダスキンを使ってください」と大学名をアピールしたところで、「青山学院大学卒だから」という理由で商品が売れることはありません。武蔵野にあるのは、「差別」ではなく「区別」。中卒、高卒、大卒で、入社時の等級や号俸(その級の中のどれくらいの位置にいるか)は異なりますが、これは区別です。中卒でも、高卒でも、昇級や昇進に制限はありません。チャンスは平等に与えています。わが社の賃金テーブルを見ると(49ページ参照〔*〕)、中卒は「Ⅰ等級1号俸」からはじまります。中学を卒業して15歳で武蔵野に入り、毎年「A評価」を取り続けます。「A評価」を取った社員は、翌年、基本給が「5号俸」上がるのがわが社の決まりで、22歳になったときは「Ⅱ等級11号俸」、23歳になったときは、「Ⅱ等級16号俸」になります(新卒の最初の評価はB評価とし、4号俸上げる)。一方、大卒は、「Ⅱ等級12号俸」からはじまります。新卒は仕事ができない分、最初の評価は「B評価」として計算しています。「B評価」だと、基本給は「4号俸」上がるのがわが社の決まりで、23歳になったら、「Ⅱ等級16号俸」になります。つまり、「A評価」を取り続けた23歳の中卒と、2年目の23歳の大卒の基本給は同じになる。わが社には、「大学卒でありながら、20年間一般社員のまま」の人間もいれば、西野與一のように、「高校を1年で中退した元暴走族で、取締役にまでなった社員」もいます。こうした人事ができるのも、学歴による差別をしていないからです。
社員の賞与額に「差」をつけないと、優秀な社員が辞めてしまう「株式会社丸山自動車」(自動車販売・整備/新潟県)の丸山勇一社長は、かつて、「社員同士の差をつけないことが正しい」と考えていました。「格差をつけないほうが、チームがまとまる」と考え、社内がギスギスしないように鉛筆をナメて、「成果を上げていない社員にも、それなりの賞与を支払っていた」そうです。丸山社長のこの考えは、間違い。「『一身上の都合』で辞めた社員がいたが、辞めたあとに、本当の退職理由がわかりました。彼が辞めたのは、一身上の都合ではなくて『頑張っても差がつかない。頑張っても年収が上がらないから』でした。彼と同じ理由で辞めていった社員がほかにもいたことを知って、『差をつけなければいけない』ことに気がついたんです」(丸山社長)丸山自動車が、武蔵野の人事評価制度を導入したのは、2014年。導入して日は浅いですが、「たとえ1点でも差をつける」しくみに変えたことで、社員の中に「うかうかしていられない」という緊張感が出てきています。「やる気のある社員は『よーし』という気持ちになったと思います。頑張った人、成果を出した人が評価されるしくみで、いい人が辞めない。この評価の基準が浸透すれば、『頑張った人が辞めない会社』になる気がします。もちろん、成果が出ないと賞与も給与も増えませんが、降格しても頑張れば元に戻すといった敗者復活戦(復帰できるしくみ)を用意すれば、今期の評価が低いからといって、腐ったりする社員はいなくなると思います。この制度を導入してから、賞与額が2倍になった社員もいます。面談で金額を伝えたら、『ええ!』と興奮気味に驚いていました(笑)。全部奥さんに取られたみたいですけれど(笑)」(丸山社長)「株式会社米沢牛黄木」(食肉・飲食/山形県)は、大正時代より店を構え、創業93年になります。黄木修太郎社長は、創業から「93年」も経っているのに、「どんぶり勘定」で給料を決めていました。その結果、「やる気のある社員が辞めていった」そうです。頑張っても、頑張らなくても評価に差が出ないなら、やる気のある社員が辞めて、「居る気のある社員」だけが残る。黄木社長が人事評価制度を導入したのは2012年ですが、それ以降、とくに「大卒」の定着率が上がりました。10人いる大卒は、ひとりも辞めていません。「頑張れば頑張っただけ評価されるから、社員にとって、やりがいがあります。相対評価
だから、当然、C評価を取る人も出る。でも、半期でいったんリセットされ、新しく全員が同じスタートラインに立てるので、社員は腐らずに頑張れると思います」(黄木社長)多くの社長は、頑張っていない社員にも、「ゼロ円ではかわいそうだ」と、賞与を2~3万円支払います。けれど、それでは社員は辞めてしまう。なぜなら、中途半端だから。頑張った人にはたくさん支払い、そうでない人には払わない。「頑張った人と、頑張らなかった人の賞与に格差をつける」のが正しい。中途半端な人事評価をするほうがよほどかわいそうです。チャンスは平等に与え、そして成績によって差をつける。これが本当の「公平」です。
「残業時間の減少」を人事評価に連動させる前年同月よりも総残業時間が減ったら、賞与を増やす武蔵野は、「不要な残業を減らす」方向で業務改善を進めていて、「残業時間の減少」を評価に連動させています。普通の会社は、「その日の仕事は、どんなに時間がかかっても、その日のうちにやれ」と社員に命じますが、武蔵野の幹部は、「できなかったら、次の日にやれ!」と命じています。2013年までは、月100時間近く残業していた社員が6人いて、残業時間の平均は、社員ひとり当たり「76時間」でした。そこで私は、2015年5月の経営計画発表会で、「今期は残業時間を45時間以内にする」と発表しました。「45時間以内」という数字に根拠はありません。新聞に「月に45時間以上の残業は違法」とする判例が掲載されていたことを覚えていたので、それに則って、「適当」に決めました。「平均76時間」あった残業時間を45時間以内にするのは、並大抵のことではない。社員はだれひとり、実現できるとは思っていなかった。ところが、実際は、「目標値の45時間」を下回り、「平均35時間」にまで減っています。しかし、残業時間が減ったからといって、社員が喜ぶとはかぎらない。残業手当が少なくなるので、可処分所得(個人所得から税金や社会保険料などを差し引いた手取り収入)が減るからです。わかりやすく言うと、月20万円の給料をもらっている人が、約200時間の残業をすれば、給料が2倍(40万円)になる。だから社員にとっては、「残業がない会社」よりも「残業がある会社」のほうがいいわけです。社員は、「残業が多すぎるのは嫌だけれど、可処分所得が減るのはもっと嫌だ」と考える。だから、残業を減らしすぎると、社員が辞めます。そこでわが社は、前年同月よりも自分の部下の総残業時間が減って、それでも業績が下がらなかったら、賞与を増やす決まりにしています。残業削減によって浮いた財源は、ベースアップと賞与に使うこれだけ残業時間を減らすことができたのは、積極的なIT投資にあります。アルバイト・パートも含め、全従業員にタブレット端末(iPadmini525台)を支給した。金額にして、「ウン千万円単位」の投資です。
ですが、単純に時給を1000円とすれば(実際には、残業代はもっと高い)、月40時間で4万円。2ヶ月で8万円です。タブレット端末を1台8万円で買っても、2ヶ月でもとが取れる計算です。実質的な償却は2ヶ月で終わるから、残る10ヶ月は純利益になる。また、残業が減れば水道光熱費も減る。2015年は、残業が減ったことで、「1億円」の経費削減に成功しました。この1億円の財源を会社の利益にすると人が辞めるので、次の2つの原資としました。・賞与を120%に増やす・基本給の金額を上げる(ベースアップ)残業削減によって増えた利益を社員に還元すれば、可処分所得が減らないので、社員は辞めません。そして、さらに残業を減らす工夫を続けました。私が「今度は残業時間を20時間にする。まだまだ縮める」と言ったら社員は震え上がっていましたが、わが社が「残業を減らしながら、過去最高の増収増益」を達成できたのは、「残業時間の減少」を人事評価に連動させ、浮いたお金を社員に還元しているからです。
Chapter2基本給は「過去の実績」に基づいて決定する
基本給①基本給は、等級制度。「賃金テーブル」をつくって計算武蔵野の給料は「4つ」の要素から成り立っているわが社の「給料」は、次の4つから成り立っています。①基本給(過去の実績/等級によって決まる)②グループ手当(管理職手当/属するグループによって決まる)③賞与(どういう成果を出したかで決める)④その他手当(福利厚生費として支払う)そして、「基本給は年功序列、グループ手当は能力、賞与は成果」と、支給の意味合いをはっきりさせています。等級によって基本給の額が決まり、グループによって管理職手当の額が決まり、半期の成果で賞与の額が決まるのが、わが社のしくみです。そこで、人事評価制度を理解しやすくするために、社内用語を統一しています。・昇格/等級が上がる・降格/等級が下がる・昇進/グループ(役職)が上がる・更迭/グループ(役職)が下がる・昇給/規定により基本給が上がる大事なのは、「年功序列」(基本給)と「能力」(グループ手当)を分けて考えることです。賃金テーブルのヨコ軸は「等級」まず、「基本給」ですが、わが社は、「賃金テーブル」をつくり、基本給を計算します。賃金テーブルは、「等級制度」です。「等級制度」は、社員を役割や責任、スキルなどによって区分することです。等級で区別しておけば、「それぞれどういう仕事(役割)を担っているのか」がわかりやすくなります。賃金テーブルのヨコ軸は、「等級」です。わが社は、人事評価の要諦をまとめた「人事評価基準書」があります。人事評価基準書には、各等級の役割について、次のように明記してあります(一部、抜粋して紹介)。
【実務階級】◎Ⅰ等級/一般社員に該当比較的短期間に習得できる定型業務を担当する。業務マニュアルや経験者の指導に基づいて任務を忠実に遂行する。◎Ⅱ等級/一般社員に該当応用動作をともなう定常的な業務(日常業務)を担当する。自分の担当範囲に責任を持ち、自己の経験と判断を加味して成果を出す。【管理・専門階級】◎Ⅲ等級/課長に該当複数の定常的な業務(日常業務)を含む、計画的・応用的な業務を担当する。幅広い裁量や創意工夫により、お客様の期待に応え、業績に貢献する。◎Ⅳ等級/部長に該当※業務管理責任職と業務統括スタッフに分かれる・業務管理責任職担当業務の責任者として上司を補佐しながら、最適な組織目標を設定・実行する。・業務統括スタッフ関連分野の専門職の責任者として、課レベルで扱う専門ノウハウに関する開発や意思決定を統括する。◎Ⅴ等級/本部長に該当※部門経営責任職と部門統括スタッフに分かれる・部門経営責任職会社の基幹事業、中枢機能の責任者として、経営首脳の意思決定を補佐する。担当部門の経営方針、事業計画を立案し、業績と成長性を確保する。・部門統括スタッフ部で扱う専門分野全体に関する戦略的意思決定を担当する。高度な専門的立場から、経営首脳の意思決定を補佐する。◎Ⅵ等級/取締役に該当◎Ⅶ等級/常務に該当◎Ⅷ等級/専務に該当◎Ⅸ等級/会長・副社長に該当◎Ⅹ等級/社長に該当※経営計画書には、「Ⅵ等級」まで明記
基本給②等級を上げるには、「3つの昇格要件」を満たす必要がある「昇格ポイント、評価、条件」の3つを満たすと昇格対象になる「どうすれば自分の等級が上がるのか」、昇格要件を明確にします。・昇格ポイント・評価・条件の3つの要件を満たすと、「昇格」の対象となります(69ページの図を参照〔*〕)。昇格とは「等級が上がること」です。「Ⅰ等級」は、「評価」の項目だけです。・昇格ポイント/なし・評価/3年間でA評価2回、またはS評価1回・条件/なしつまり、3年間でA評価2回、またはS評価1回を取れば、「Ⅱ等級」に上がれます。「Ⅱ等級」からは、「昇格ポイント」の項目が加わります。・昇格ポイント/40ポイント・評価/直近1年以内にS評価またはA評価・条件/なし武蔵野では、半期ごとの評価によって、昇格に必要なポイントを決めています。たとえば、「A評価」を取ると「5ポイント」です。「Ⅱ等級」から「Ⅲ等級」に上がるには、「40ポイント」必要です。上期も下期も「A評価」を取ると、1年で「10ポイント」になるので、早い人は「4年でⅢ等級」に上がれます。ただし、「40ポイント」に達していても、「直近1年以内にS、Aの評価」がないと上がれません。過去には、「100ポイント」以上あったのに、上がれなかった社員がいます。末竹秀男と八木澤学です。彼らが上がれないのは、「直近1年以内にS、Aの評価」がないからです。八木澤学は、その後奮闘してⅢ等級になりました。「Ⅲ等級」からは、「条件」の項目が加わります。「決められたことで成果を出す」ことです。
「Ⅳ等級」の条件は、「新たな稼ぎをつくる」ことです。昇格ポイントが「50ポイント」以上あって、さらに、「直近1年以内にS評価またはA評価」があっても、「新たな稼ぎ」をつくっていなければ、「Ⅴ等級」にはなれません。以前、志村明男部長がⅣ等級に昇格したとき、賞与評価面談で彼に「自分の評価は何か?」と聞きました。彼は「A評価」と言いましたが、私は「新たな稼ぎをつくっていないからB評価」と伝えると、彼は「すみません」と言った(笑)。わが社の社員は、新規事業や新規開拓をやらざるを得ないのです。「抜擢」と「昇進」は、何が違うのか?武蔵野は、昇格ポイントに関係なく昇格することを「抜擢」と呼んでいます。抜擢は実力主義とし、年齢や勤続年数にとらわれず登用します。普通の会社では、一般社員を課長にすること(若手社員を重要な役職に就けること)を「抜擢」といいますが、わが社は違う。抜擢とは「基本給が上がる」ことです。基本給が上がらないかぎり、抜擢とはいいません。一般社員から課長になると、基本給は変わらずに管理職手当が変わる場合は、「抜擢」ではなく、「昇進」といいます。【抜擢の対象者】・S・S評価を受けた社員・特別な功績が認められた社員そして、会社が赤字であろうと、「毎年ひとり以上」は抜擢します。業績が悪いのは社長の責任であって、社員の責任ではない。業績が悪いからといって抜擢をためらうと、社員は頑張れません。それに、抜擢して社員の基本給を上げても、会社が赤字なら賞与の総支給額が下がるの
で、抜擢して上がった分の金額は調整できます。抜擢にふさわしい人材がいなかったり、だれを抜擢すべきか迷ったりしたときは、サイコロに名前を書いて振ります(笑)。「そんないい加減なことでいいのか?」と思われるかもしれませんが、それでいい。サイコロで選ばれても、「抜擢され、新しい仕事をする」うちに実力がつきます。結果が残せずに降格(基本給が下がる)になったら、なおいい。なぜなら、失敗の経験が人を育てるからです。多くの社長が「アイツはまだ若いから」と言いますが、若さは、抜擢する理由です。抜擢して、まずやらせてみる。やらせてみてから考える。ダメだったら、また戻せばいい。わが社は、「一度抜擢され、降格した経験のある社員」が、確実に早く出世します。これまでの抜擢は、S・S評価では飛山尚毅ひとりだけ。特別な功績では高梨昌俊、上野朝之、青野真介です。
基本給③上司は、「独断」で部下の昇格を決めていい上司の申請がなければ、良い成績を上げても昇格できない昇格は年1回行っています(12月の役員会にて決定)。前項で、「昇格ポイント、評価、条件の3つを満たすと、昇格の対象となる」と書きましたが、対象となっても、昇格できるとはかぎりません。3つの要件(昇格基準)を満たしていても、「上司の申請」がなければ、昇格できないルールです。私は上司に「生殺与奪権」を与えています。上司から「この人を上げてください」という申請がないと、3つの要件を満たしても、上の等級には上げません。つまり、「部下を生かすも殺すも、上司次第」です。会社は、団体戦。個人のわがままを許しては戦いに勝てない。ですから、上司の言うことをきかない部下は、昇格できないのが正しいのです。「上司の申請」がない社員は他の上司に配属を変えます。過去に、「マッタ」をかけられたAは、上司を変えた翌年に昇格しています。評価は、評価基準に基づいて上司が行いますが、ダメな上司は、部下に「差」をつけたがりません。部下3人で、A評価、B評価、C評価をひとりずつにしない。ダメな上司は、3人とも「B評価」にする。なぜなら、そのほうがラクで、差をつけると部下に嫌われるから。ですが、たとえ1点でも「差」をつけるから、上司も部下も成長できる。部下を3人とも「B評価」にするような課長は、わが社では部長にはなれません。見て見ぬふりをするから。反対に、B評価の部下をC評価に落とすことができる上司は優秀。「C評価に落とす」ことが、部下を成長させるきっかけになることを知っているからです。「ずっとB評価」の社員は、成長しません。採用部長の荒谷直子は、たった1点の差でC評価になったことがあります。このとき、荒谷は悔し涙を流した。その悔しさを原動力にして頑張り、その結果、部長になった。C評価を取っていなければ、荒谷は部長になっていなかったでしょう。荒谷の上司の上野朝之(当時課長)は優秀です。だから部長になれたのです。部下同士の社内恋愛に気づかない上司には、罰を与える
以前、五十嵐善久(当時課長。現在部長)と岡理恵の2人が内緒で付き合っていたことがあります。2人の関係に最初に気づいたのは、私です。五十嵐は実力があったので第2支店の店長を任せていたが、どういうわけか、成績が右肩下がりでした。私は「あれ、おかしいな?」と不思議に思った。「仕事に集中できないのは、彼女ができて、浮ついているからではないか?」私はそう仮説を立てた。そして、ラスベガス研修中に、かまをかけてみたのです。「おまえ、別れた奥さんに、まだ未練があるのではないか?」離婚歴のある五十嵐に、そうハッタリをかました。すると五十嵐は、まんまと私の思惑に乗って、「いや、今はちゃんとお付き合いしている人がいますから。それも、社外の人です」と告白した。五十嵐に、外部の女性と付き合う時間はなかったはず。そこで私はピンときた。「五十嵐は噓をついている。五十嵐の彼女は、同じ支店の中にいる」社員同士の恋愛は、定点観測をしていたら察知できます。雰囲気が変わった女性社員がいたら、プライベートで変化があった可能性が高い。やがて、五十嵐の相手が同じ支店の岡理恵だとわかりました(その後2人は結婚。岡は五十嵐の奥さんとなり、3人の子どもの母です。155ページ〔*〕に写真があります)。私は社内恋愛をすすめているので、2人が結婚することに異論はありません。ですが、同じ支店の店長と部下との付き合いは、他の社員に対して、しめしがつかない。周囲は「岡さんは五十嵐店長の彼女だから」と気を遣いますし、岡が仕事で成果を上げれば、「五十嵐さんが手心を加えたのでは?」と疑心暗鬼になる。だから、2人の配属を変えたわけです。とばっちりを食らったのは、五十嵐の上司である由井英明と、岡の上司である佐藤義昭です。2人の仲に気づかなかったのは、部下のことを良く見ていなかった上司の責任。当時、由井と佐藤は、私の直系の部長でした。そこで「管理不行き届き」を理由に、由井と佐藤の2人の評価を「同点」にした。同点ということは、2人を一緒にA評価にするのも、B評価にすることも、C評価に落とすこともできる。私は2人を「C評価」にして、賞与を前回より40万円減らしました。こうした独断が許されるのは、上司が直系の部下に対して、「生殺与奪権」を持っているからです。社長賞、優秀社員賞は、社員の憧れです。上司はがんばった部下を優秀社員賞に3月にノミネートします。2009年、経営サポート事業部の滝澤美佳子課長は当然ノミネートされると思っていましたがされませんでした。「エー!?」と思ったので、私は上司のA部長に聞いた。彼は「滝澤に優秀社員賞を取らせ
たくない」と即答した。正しい。私は滝澤の人事異動を決行。翌年、滝澤は見事に優秀社員賞に輝いた。今では営業サポート、コールセンターを束ねる部長です。
基本給④上司は、たとえ1点差でも部下の成績に「順番」をつける評価に差をつけなければいけない「3つ」の理由「評価」とは、順番をつけることです。春子さんは201点、夏子さんは200点。秋子さんは199点とします。春子さんと夏子さん、夏子さんと秋子さんの差は「1点」しかありません。多くの社長が、「1点しか差はないのだから、評価は全員Bでいいだろう」と考えます。ですが、1点しか差がなくても、A、B、Cと順番をつけるのが、わが社の評価のやり方です。これは運動会の徒競走と同じ。順番のつかない徒競走など、覇気が失われるだけ。人事評価も、社員が全力を出すには、仕事ぶりに順番をつけなければなりません。武蔵野は、上司が部下の成績に差をつけざるを得ないしくみが「3つ」あります。①部下に「A評価以上」の評価をつけないと、「部下」が昇格できないわが社の昇格要件の中に、「昇格ポイント達成者でAを取った人を中心に昇格する」とあります。つまり、部下を昇格させるには、A評価を取らせないとダメです。武蔵野は相対評価なので、全員にA評価をつけることはできない。これが、評価に差がつくしくみです。②部下に「A評価以上」の評価をつけないと、「上司」が昇格できない上司は、「新人や後輩を育てたこと」が高く評価されます。ですから、部下にA評価以上を取らせないと、自分も昇格できません。③評価に差をつけると、部署全体の賞与支給額が増える春子さん・夏子さん・秋子さんという2グループの部下3人を「全員B評価」にする場合と「A・B・C評価ひとりずつ」の場合、賞与の配分点数はどうなるでしょうか(賞与の支給額については101ページ参照〔*〕)。2グループは、A評価=200点、B評価=140点、C評価=100点です。すると3人の合計点は次のようになります。・「全員B評価」の場合/420点・「A・B・C評価ひとりずつ」の場合/440点
「A・B・C評価ひとりずつ」のほうが配分点数の合計が多くなるようにしています。配分点数で賞与の支払額が決まるので、評価に差をつけるほど、部署全体の賞与支給額が増えるしくみとなっています。降格しても頑張れるのは、「復活するしくみ」があるから昇級評語(上期、下期の評価を踏まえて決定した1年間の評価)が3回連続「C評価」の場合は、降格対象として12月の役員会で審議します。降格とは、等級が下がることです。普通の会社では、ひとたび降格すると、なかなか上には上がれません。したがって、等級が下がった社員はやる気をなくし、退職してしまう。けれどわが社では、降格したからといって退職するような社員はひとりもいません。なぜなら、「復活のしくみ」が明確になっているから。降格しても、下の等級で「3年以内にA評価」を取れば、昇格ポイントに関係なく、復帰できます。これは、相撲の番付と同じ。大関は角番で負け越すと、大関から陥落します。でも、次の場所で10勝5敗で勝ち越せば、自動的に大関に復帰できます。降格すれば、もちろん悔しい。それでもわが社の社員が明るいのは、「たとえ降格しても、数字を上げれば復活できるしくみ」があるからです。降格者は、過去に50人を下りません。
基本給⑤「変わるもの」と「変わらないもの」を明確に分ける賃金テーブルのタテ軸は「号俸」賃金テーブルのタテ軸は、「号俸」です。基本給を見るとその等級の中のどれくらいの位置にいるかをあらわしています。武蔵野は、中卒(15歳)を「Ⅰ等級1号俸」と規定しています。「義務教育を修了した人」が「本来の新卒」と私は定義しています。ですから、高卒も大卒も、賃金テーブルの体系上は「中途採用」です。号俸は、評価によって上がります。1年間の評価(昇給評語)がS評価は6号俸、A評価は5号俸、B評価は4号俸、C評価は3号俸、D評価は2号俸上がります(ただし、新卒の最初の評価はB評価とする)。さらに「社長賞」を取ると「5号俸」、「優秀社員賞」を取ると「3号俸」上がります。A評価の社員が社長賞を取ると、翌年、基本給が「10号俸」、優秀社員賞を取ると「8号俸」上がります。1号俸あたりの「ピッチ」(1号俸でいくらの差をつけるか)は、等級によって異なります。「仕事ができる人」に手厚くするのが方針で、等級が上がるほど、ピッチの金額は高くなります。65ページ〔*〕の賃金テーブルを見ると、Ⅰ等級のピッチは「1370円」です。Ⅰ等級5号俸と、Ⅰ等級6号俸の差額は「1370円」になります。Ⅱ等級であれば、ピッチは「1720円」。Ⅱ等級5号俸と、Ⅱ等級6号俸の差額は「1720円」です。49ページ〔*〕の賃金テーブルの「Ⅰ等級25号俸」の金額と「Ⅱ等級1号俸」の金額は、どちらも「17万4240円」で同じです。金額を同じにしているのは、「中卒で入って、5年間A評価を取り続けられるような人材は、一般社員の中でもⅡ等級にしてもいいのではないか」と考えているからです。「Ⅱ等級26号」と「Ⅲ等級1号俸」も同じ金額(21万6990円)です。Ⅱ等級で「5年間A評価」を取り続けられる人材は、「課長(Ⅲ等級)にしても、最低でもB評価を取れるのではないか」と考え、このような賃金テーブルにしています。「ベースアップ」とは、「Ⅰ等級1号俸」の金額を上げること人事評価基準は時代とともに変化しますが、考え方の基本は、「変わるもの」と「変わらないもの」を明確に分けておくことです。「変わらないもの」は、しくみ。「変わるもの」は、賃金テーブルの数字です。
わが社は、「中学校卒業生」を「新卒」と定義し、高校、短大、大学卒業生は、給与体系上は「中途入社」にあたります。この新卒(中学校卒業生)を「Ⅰ等級1号俸」とするしくみは、「変わらないもの」です。ですが、「Ⅰ等級1号俸」の基本給の金額は「変わるもの」です。武蔵野は、「Ⅰ等級1号俸」の金額を上げること(賃金テーブルを変えること)を「ベースアップ」と呼んでいます。「Ⅰ等級1号俸」の金額が上がれば、当然、2号俸以降の金額が上がります。反対に「Ⅰ等級1号俸」の金額を下げることを「ベースダウン」といいます。「春闘で基本給を一律5000円上げた」といった企業もありますが、これはベースアップではなく「ベア」です。「ベースアップ」と「ベア」は違います。・ベースアップ「Ⅰ等級1号俸」の金額を上げて、賃金テーブルを変える・ベア基本給を全員、一律の金額で上げるベースアップは上級社員が優遇され、ベアは下級社員が優遇されます。基本給は「年功序列」が正しいわが社の基本給は、年功序列。基本給を年功序列にするのも「変わらないもの」です。勤続年数の長さは、会社の貢献度に比例します。入社25年の石川克裕は、入社3年で課長になった。小嶺淳が入社1年で課長になるまで最短でしたが、課長職は自分の気が進まないという言い訳をしながら得意の手抜きをする。課長と平社員を3往復繰り返し、課長職では他を引き離して基本給が一番高い。同じ仕事を同じ職責の社員に与えたら、10年選手よりも20年選手のほうが基本給は高くなる。勤続20年の「課長」と、勤続3年の「部長」を比べた場合、「課長」の基本給のほうが高い(役職手当は部長職のほうが高い)。勤続3年の「部長」の基本給のほうが高ければ、古参の課長はやる気をなくします。そうならないためにも、基本給は「年功序列」が正しい。給与体系が決まらないのは、「変わるもの」と「変わらないもの」を一緒に考えてしまうから。まずは「変わらないもの」を明確に決めておくことが基本です。中途入社の社員は「C評価」で採用し、その後、基本給を読み替える中途入社の社員は「中途採用一覧表」を利用し、「C評価採用」を基本にしています。なぜかというと、A評価やB評価で採用した場合、次の評価で評価を落とすとやる気をなくすからです。ですから、とりあえず「C評価」で採用して、「最初の評価でB評価以上」を取った場合は、基本給の読み替えを行っています。読み替えは、A評価は「プラス2号俸」。Bは評価「プラス1号俸」として、採用時にさかのぼって号俸の差額を支給しています(ただし6ヵ月分とする)。
差額がいくらになるのかを自分で計算させると、「こんなにたくさん戻ってくるのか!」とやる気を出す。これも社員を頑張らせるしくみです。
グループ手当①「等級制度」に「グループ制」を併用して、社員の実力を正しく評価する基本給の計算は「等級制度」で行い、実際の運用は「グループ制」で行う当初、武蔵野の給与体系は、「等級制度」をベースに「Ⅰ等級=新入社員」「Ⅱ等級=中級社員」「Ⅲ等級=課長」「Ⅳ等級=部長」として運用していました。ところが、会社が成長するにともない、不都合が生じてきた。「Ⅱ等級の若い社員が課長クラスの実力を持っているのに、Ⅱ等級26号俸に届かないためⅢ等級にできない(課長の仕事をさせられない)」とか、「仕事は一般社員と変わらないのにⅣ等級にいるために部長手当を支給する」といった、しくみの矛盾が表面化してきました。そこで私は、基本給は等級制度をベースに計算しながら、運用面のしくみとして、「グループ制」を追加しました。グループは次の「6つ」に分かれています。・1グループ/一般社員(現在のⅠ等級で、中途入社の短大・専門・高校・中学卒)・2グループ/一般社員(大卒・中途入社の短大・専門・高校卒で実務経験が多い人)・3グループ(2・5グループ)/課長(2・5グループは管理職候補生。3グループで評価し、2年以内にA評価1回で3グループになれる)・4グループ/部長・5グループ/本部長・6グループ/役員こうしておけば、「Ⅱ等級の一般社員でありながら、課長クラスの実力を持っている社員」を「Ⅱ等級3グループ」として課長にすることができます。逆に、Ⅳ等級の部長でも、課長レベルの仕事しかできないのなら、「Ⅳ等級3グループ」にすることができます。そして、課長や部長といった「職責(現在どのような仕事をしているか)」に応じて、「グループ手当(=管理職手当)」をつけます。【グループ手当】・2・5グループ(3グループ候補生を2グループから選抜/4万円・3グループ/4万円・4グループ/6万5000円・5グループ/9万円・6グループ/12万円
「格上」と戦った社員は、手厚く評価する3グループ(課長の仕事)には、Ⅱ等級の社員、Ⅲ等級の社員、Ⅳ等級の社員がいます(ひとつ上のグループには行けるが、2つ上のグループには行けないルール)。わが社の相対評価は「グループごと」に行うから、Ⅱ等級の社員は「格上」(Ⅲ等級/Ⅳ等級)の社員と戦わなければなりません。すると、Ⅱ等級の社員は、こう考えます。「2グループにいればA評価を取れるのに、3グループにいると評価が下がるかもしれない。それは嫌だな」そこで、格下の社員が格上と戦った場合は、「1号俸分、基本給を多く昇給させる」ようにしました。Ⅱ等級の社員が3グループで戦って、年間で「B評価」を取ります。「B評価」は、基本給を「4号俸」上げるのが決まりですが、「1号俸分余計にプラス」して、「5号俸」上げます(これは、2グループで「A評価」を取ったのと同じ)。若い人が上のグループで仕事をすると、下のグループで仕事をするよりも「給料が1号俸分ずつ余計に上がっていく」しくみです。一方、Ⅳ等級なのに3グループで仕事をしている社員は、「逆」になります。Ⅳ等級の社員が3グループで「B評価」を取ります。「B評価」は、基本給を「4号俸」上げる決まりですが、Ⅳ等級の社員が格下(Ⅲ等級/Ⅱ等級)と戦っている以上、評価も厳しい。4号俸から1号俸分減号して、「3号俸」しか昇給しません(実際に、Ⅳ等級が3グループで仕事をするということは、極めて少ない)。わが社は「成績がいい社員」ほど辞めません。なぜなら、頑張れば頑張るほど評価が上がり、基本給も、管理職手当も増えるからです。
グループ手当②どうして「部下を持たない管理職」にも、管理職手当を支払うのか?管理職は部下と一緒に現場を回らないと、手当がもらえない経理課長が営業部長になると、この部長は現場のことがわからないため、部下にトンチンカンな指示を出します。そうならないように、「他事業部へ管理職として異動したとき」は、自分の部下と一緒に現場に出て、「部下から仕事を教えてもらう」のが決まりです。現場に、50回ないし100回同行しなければ、管理職手当をもらうことはできません。同行実施後に、手当を支給しています(昇進日にさかのぼって差額も支給)。すると社員は、「早く手当をもらいたい」から、早く現場に出るので、早く仕事を覚えます。また、50回ないし100回も上司と部下が現場に行くと、上司が仕事を覚えるだけでなく、上司と部下のコミュニケーションがよくなります。わが社は、部下のいない管理職が存在するわが社の管理職に、次の2つのタイプが存在します。①部下を持つ「ライン」の長②部下を持たない「スタッフ」の長武蔵野は、部下を持たない課長も、部下を持たない部長もいます。久保田将敬、丹智之、三根正裕は、部下を持たない「スタッフ」の部長です。なぜ彼らには部下がいないのか。この3人には、共通点があります。部下を持たせると、1ヶ月以内に必ず部下とケンカする(笑)。だから、ラインの長には向いていません。ところが、スタッフとして個人で仕事をやらせると、社長賞を取るほどピカイチの成績を残します。久保田将敬は2015年度の社長賞です。他の社員では聞き出せない「お客様の本音」を引き出すのが抜群にうまい。久保田将敬部長の右に出る社員は一人もいません。だから、部下のない長にも、管理職手当を支払います。ですが、部下を持たない管理職に手当を払うと、「同じ課長なのに、部下を持つオレと、部下がいないあいつの手当が同じ金額なのは許せない」という意見が出かねない。そこで、3グループ(課長)なら、管理職手当のほかに「店長手当(1万円)」を支給して、差をつけています。
Chapter3賞与は、「半期の成果」に基づいて決定する
賞与①賞与の額は、「半期ごとの成果」によって決まる「配分点数」×「賞与単価」=賞与額基本給は過去の実績で、手当は職責(課長、部長など)で決めるが、賞与は、「半期(上期、下期)ごとの成果」で決めます。賞与の基準は等級ではなく、「グループ」です。武蔵野の賞与は、基本給比例配分ではありません。入社1年目の社員も、入社10年目の社員も、同一グループごとに相対評価で差をつけ、「半期、頑張ったほうがたくさん賞与をもらえる」しくみです。成果に応じて、「S評価」「A評価」「B評価」「C評価」「D評価」に分け、賞与額を決めます(評価シートを使用し、社員の成績を点数化します)。1グループから4グループまでは、「相対評価」です。同一グループ(職務)の中で、S評価(グループ全体の人数の5%)、A評価(20%)、B評価(55%)、C評価(15%)、D評価(5%)の割合です。会社の業績にかかわらず、必ず、A25%、B55%、C20%の比率で差をつけます。社員が「10人」なら、まず、全体の上位25%の社員をA評価とします。すると「2・5人」なので、四捨五入して、3人をA評価とします。次にC評価を決めます。Cは20%で、2人がC評価。残りの5人がB評価です。そして、A評価の中でもっとも成績の良い社員をS評価、C評価の中でもっとも成績が悪い社員をD評価にしています(S評価に該当する社員がいないときは、S評価はなし。その場合はD評価も出さない)。こうして、業績にかかわらず、頑張った社員と頑張らなかった社員の賞与に差をつければ、業績が悪くても、社員のモチベーションを保つことができます。また、競争意識が働くため、緊張感を持って仕事に取り組みます。賞与額は、「成績別グループ別配分点数表」によって決められた各人の点数と、「賞与単価(1点当たりの金額)」によって決まります(101ページ〔*〕)。3グループの社員がA評価を取ると、配分点数は「280点」です。賞与単価(1点当たりの金額)が「1500円」とすれば、「280点×1500円=42万円」です。
3グループでB評価だと、配分点数は「200点」、S評価は「400点」です。S評価とB評価の差は「2倍」になっています。基本的に、成果を出した人と出なかった人では、「倍の点差」がつきます。S評価とD評価だと4倍、SS評価とE評価だと8倍も差がつきます。最初に支給総額を決め、賞与単価はあとから計算する最初に「賞与の支給総額」を決めて、1点当たりの賞与単価は、支給総額から計算します(1点当たりの単価は、2001年までは同じでしたが、今はグループによって異なります)。「株式会社凪スピリッツ」(飲食/東京都)の生田智志社長は、「賞与の総額を最初に決めるので、頭が整理される」と話しています。「今までは、Aさんにいくら払おう、Bさんにいくら払おう、Cさんにいくら払おうと、個人の支給額を決めてから足し算をしたが、今は最初に総額を決めるので、予算を立てやすく、明快です。当初は、総額をいくらにしていいのかわからず適当に決めたが(笑)、どのように賞与を配分しても、はじめに決めた額を超えないのはおもしろいと思います」(生田社長)会社の業績がよければ、支給総額が増えます。支給総額が増えれば、1点当たりの賞与単価も上がり、賞与の額が増えます。だから社員は、会社のために頑張るのではなく、「少しでも多く自分の賞与を増やそう」という理由で頑張るわけです。丸山自動車では、賞与のしくみを変えたことで、部門間の壁がなくなり「横の連携」が
取れるようになったといいます。「1点当たりの賞与単価が上がらないと、賞与は上がりません。では、どうすれば賞与単価を上げることができるのかというと、会社全体の利益を上げるしかありません。『丸山自動車の業績が良くなれば、個人の賞与も上がる』ことを理解してからは、部門の壁を越えて、社員みんなが協力するようになりました。これまでは『オレは車検部門だから販売部門のことは知らない』『オレは営業だから、サービスのことは知らない』といった対抗意識があったんです。ですが現在は、『車検部門でも車の販売紹介の役に立てるのではないか』と考え、横の連携が取れるようになりました。個人の賞与額を上げるには、自分だけが頑張ってもダメで、会社全体が良くならないといけません。社員がそのことをわかってきたと思います」(丸山社長)本部長以上の賞与は、絶対評価で決まる幹部(本部長以上)は、数字が人格です。ですから、5グループ(本部長)以上は、絶対評価。本人自身の成績で評価します。比較するのは、過去の自分です。前年よりも業績が上がれば、「B」以下にはなりません。前年よりも業績が下がれば、良くてB評価(悪ければC評価)です。「数字データと半期の自己アピールを提出し、役員会の『独断』で決める」と経営計画書に明記しています。ようするに、絶対評価は、社長の人事権と同じ。社長は、本部長に対して生殺与奪権を持っているわけです。普通の会社は「独断で決める」とは書けませんが、わが社は、「独断」というルールがある。佐藤義昭の賞与が、前期の20万円から410万円(約20倍)にアップしたのは、理由はともあれ、わが社の役員会が、佐藤の数字を「独断」で評価した結果です。
賞与②業績が良いときは幹部を優遇、業績が悪いときは幹部を冷遇本部長でも、一般社員より賞与額が低くなることがあるわが社は、業績が良いときは、「幹部優遇(新人冷遇)主義」で、業績が悪いときは「幹部冷遇(新人優遇)主義」を基本とします。業績が良いときは管理職に厚く賞与を配分し、業績が悪いときは厳しく配分します。・業績が良いとき/1点当たりの賞与単価を上げる・業績が悪いとき/1点当たりの賞与単価を下げる(ただし、1・2グループの一般社員の賞与単価はできるだけ固定する)賞与単価の表(101ページ〔*〕)を見ていただくと、上のグループほど「賞与単価の最低額と最高額に幅がある」ことがわかると思います。上のグループにいくほど、「優遇と冷遇の差」が開くようになっています。・3グループ750円~1800円(差は1050円)・5/6グループ100円~2500円(差は2400円)会社の業績が悪く、・5グループの1点当たりの単価/100円・1グループの1点当たりの単価/1250円とします。このとき、5グループの本部長は、S評価を取っても、「100円(1点当たりの単価)×800点(配分点数)=賞与8万円」です。一方、1グループの一般社員は、C評価を取っても、「1250円(1点当たりの単価)×70点(配分点数)=賞与8万7500円」になります。A評価を取った本部長よりも、C評価の一般社員のほうが賞与額は高くなるのです。新人が辞めるのは、賞与をたくさん払うから会社の業績が良くても「新人を冷遇」するのには、意味があります。課長クラス(3グループ)以上の社員であれば、武蔵野のルールをわかっているから、「わが社には、天国もあれば、地獄もある」ことを承知しています。だから、賞与額が極端に下がっても、文句を言いません。「今期は下がったが、来期は頑張ろう」と、半期ごとにリセットし、気持ちを切り替えることができます。
課長クラス以上の社員が「テレビを買うときにボーナス払いを使わない」のは、「ボーナスがありえないほど下がる可能性がある」ことを身をもって知っているからです(笑)。ところが新人社員は、人事評価のしくみをよく理解していないため、「賞与が減ると文句を言って、辞めてしまう」ことになりかねません。「減る」と文句を言うのであれば、最初から「減らさない」ようにすればいい。そのためには、会社の業績が良くても、極端に新人の賞与額を上げないことです。業績が良いときも、悪いときも、「1点当たりの賞与単価」をできるだけ固定に、さらに、配分点数の差を少なくしておけば、賞与額が大きく下がることはありません。6グループのA評価とB評価は、配点点数に240点の差があるが、1グループは40点しかありません。私は一度だけ、「会社の業績が良かったら、決算賞与を払う」と経営計画発表会の壇上で社員に約束したことがあります。わが社の社員は俄然やる気を出し、業績を上げ、決算賞与を手にすることができました。ところが翌年、私は決算賞与を出さなかった。社内は、ブーイングの嵐。つまり、社長は、安易に社員が喜ぶことをやってはいけないのです。
賞与③「4つ」の項目を点数化して評価を決める職責下位の社員は「プロセス重視」、職責上位の社員は「業績重視」わが社は「評価シート」(120~121ページ〔*〕)に基づいて、半期ごとに、A、B、Cと評価を決めます。評価シートに評価項目が定められていて、次の「4つ」の項目で「点数」を付け、この点数を参考にしながら、個人の評価を確定します。①業績評価点②プロセス評価点③方針共有点④環境整備点①業績評価点業績評価は、粗利益額と営業利益で算出し、対前年度比で点がつけられます。②プロセス評価点仕事の基本行動・態度に関する次の「6項目」を評価します。1仕事の責任を自覚し、常にお客様第一の姿勢で仕事を行ったか2会社や上司の方針を十分理解していたか3仕事遂行上の工夫改善や能率向上に努めたか4上司や同僚との仕事上の報告・連絡・相談は的確であったか5幅広くレベルの高い仕事ができるよう能力の向上に努めたか6実行計画(個人)を常に意識して仕事を行っているか職責下位の社員は「プロセス重視」、職責上位の社員は「業績重視」です。職責が低い人は、一所懸命やれば、良い評価を得られますが、職責が高い人はいくら一所懸命やっても、結果が出なければ良い評価を得られません。4グループ以上は、業績評価点の配分が高いので、結果がすべてです。「毎日パチンコをやりながらも、数字を上げる社員」と「まじめに一所懸命仕事をしているが、数字を上げられない社員」では、前者が評価されます。わが社の猿谷欣也。猿谷は出張に行くと、あるパチンコ店の近くにホテルを取って、仕事が終わったら、毎日パチンコを打ち続けていました。それでも、数字を上げていたから、文句はありません。猿谷はA評価でした。ところが猿谷は、調子に乗りすぎた。あまりにもパチンコにのめり込みすぎて、今度は
C評価に落っこちたのです。その後、猿谷はどうしたと思いますか?パチンコ店から5キロ以上離れた場所にホテルを予約するようになりました(笑)。そして、真面目に仕事に取り組んで結果を出し、本部長になった。「遊んでいて成績が上がった幹部」と、「一所懸命やって成績が上がらない幹部」では、「遊んでいて成績が上がった幹部」を評価する。これが武蔵野のルールです。内勤部門はプロセス評価重視と思われがちですが、営業部門と同じで売掛金の回収・経営サポートのお手伝いなど、数字で評価されます。わが社が重視するのは、能力の高さより「価値観」を共有すること③方針共有点早朝勉強会、政策勉強会、バスウォッチング、オリエンテーション、社員旅行など、「価値観を共有」するための勉強会や行事に参加した回数をポイントにします。久保田将敬は前期はA評価でした。ところが社長賞を受賞した期はB評価に落っこちた。その理由は、「勉強会を2回サボった」からです(1回サボると3点減る)。たかが「勉強会をサボったくらいで」と思われるかもしれませんが、「勉強会の参加回数を評価に連動する」のがわが社の決まりで、久保田も認めるしかありません。①「お金よりも自分のやりがい」を大切にする「高い能力の社員」②「お金がほしい!」と不純な動機で働きながら、「他の社員と価値観が同じ社員」の2人がいたら、武蔵野に必要なのは、「②」の社員です。
わが社は、能力よりも、価値観(考え方)を共有できることを重視しています。能力のある社員を集めても、価値観が揃っていなければ、組織はバラバラになります。武蔵野が庄司恭輔(2016年度の新入社員)を採用したのは、庄司と私のストライクゾーンが一緒だった(価値観が一緒だった)からです。とんまなことをやるような人材でないと、武蔵野には合いません。飲み会で酔いつぶれて迷惑をかける。大歓迎です。人に迷惑をかけたことがないエリートはいりません。価値観が揃っていると、「同じ優先順位で行動する」ことができるため、少しくらい能力が劣っていても、組織力を強化することが可能です。高校野球の名門校で、1年のときからレギュラーを取っていた選手がいます。この選手の親が転勤して、甲子園予選で万年1回戦負けの弱小高校に転校したら、どういうことが起きると思いますか?レベルが違いすぎて、やる気を失います。会社も同じ。会社のレベルよりも優秀な人材を採用すると、やる気をなくして辞めます。わが社のような中小企業は、戦力を分散して持っておけません。ライバルとの戦いは総力戦。だから、方針を共有し、社員の価値観を揃えておく必要があるのです。④環境整備点わが社は、毎朝、全社員に30分間の「環境整備」を義務づけています。環境整備とは、「仕事をやりやすくする環境を整えて備えること」です。作業分担表に全員の担当が決まっており、その部分を30分間ピカピカに磨き込みます。環境整備は、業務時間内に行われるので、給料が支払われます。ボランティアではなく、強制です。手順も決められています。また、定期的にチェックをして(4週間に1回の環境整備点検)、賞与評価に反映させています。「株式会社松尾モータース」(自動車販売・整備/兵庫県)の松尾章弘社長は、武蔵野の
人事評価制度を導入するにあたり、「営業から不満が出るかもしれない」と考えたそうです。営業マンのインセンティブをなくして、営業も、サービスも、事務もすべて同じ賃金テーブルを使うようになれば、営業が納得しない可能性がありました。ところが、結果的には、不満を挙げた社員はいませんでした。「わが社は、年間で1500台販売していますが、トップの営業マンは、ひとりで400台売るんです。インセンティブをつけず、400台売る人間も100台売る人間も同じ賃金テーブルを使い成績を評価することになっても、不満は出ませんでした」(松尾社長)不満が出なかったのは、環境整備によって、社員の価値観が揃ったからです。普通の営業マンなら、「インセンティブはなくなるし、自分は400台売る実力があるから、この会社を辞めてほかに行く」と考える。けれどこの営業マンは、「この会社でなければ、売上を上げられない」ことがわかっていた。だから、文句を言わなかったのです。「彼が数字を出せたのは、松尾モータースの売るしくみとまわりのサポートがあったからです。彼はそのことを理解していたから、インセンティブがなくても文句を言わなかった。制度を新しくつくるときは、社員の価値観が揃っていたり、会社の文化ができていたりしたほうが定着しやすい。環境整備などの取り組みをして、社内のコミュニケーションを円滑にしておくと、人事評価制度は運用しやすくなると思います」(松尾社長)業績だけで評価をすると、社員の評価が偏ってしまうまた、米沢牛黄木の黄木修太郎社長は、「武蔵野の人事評価制度は、業績だけで評価するわけではないので、使いやすい」と話しています。「業績だけで評価すると、実績の足りない社員やキャリアの浅い社員は、どうしても評価が低くなってしまいます。ですが、勉強会に出るだけで方針共有点をもらえるし、整理整頓をするだけで環境整備点がつく。勉強会に出たり、掃除をするだけなら、キャリアが浅くてもできます。また、禁煙手当や安全運転手当なども、年齢や社歴とは関係なく、だれでも心がけ次第でもらうことができます。そう考えると、この評価制度は、若い社員でも評価してもらえる制度だと言えると思います」(黄木社長)
賞与④評価シートでは、「人」ではなく「人の行動」を評価する数値化すれば、「人格」ではなく、「やったこと」を評価できる評価シートは、社員の行動を数字であらわすための道具です。ファジーなモノは、数値化して評価します。上司と部下の評価面談で、評価シートを使って数値化することで明確にするのです。社員が評価項目を自己採点し、点数の上にポストイットを貼って上司に渡します。次に、上司が採点をします。部下と上司で点数が違うときは、上司の点数を優先しますが、その際にかならず点数の違いを説明します。以前、「2.プロセス評価」の中の「4.上司や同僚との仕事上の報告・連絡・相談は的確であったか」の項目で私に0点を付けられた西野興一、斉木修、上野朝之などは目が点になっていました。実行しても、報告がないのはやっていないことと同じです。このしくみによって、ファジーなものが数値化できます。「株式会社小田島組」(建築・土木/岩手県)の小田島直樹社長は、評価シートを取り入れたことで、「社員の指導のしかたが変わった」と言います。「評価シートは、『行動を評価するしくみ』だと思います。評価シートを使って数値化するようになったことで、『人』ではなくて、『やったこと』を評価できるようになりました。業績評価、プロセス評価、方針共有、環境整備の合計点が400点とします。この400点は、その社員の人格に対する評価ではありません。『やったこと』に対する評価です。たとえC評価でも、上げた数字がたまたまC評価だけであって、人格がC評価なわけではありません。そのことがわかってからは、感情的にガミガミと怒ることがなくなりました」(小田島社長)数値化すれば、人ではなく『こと』を叱ることができるので、「どうすれば点数が上がるのか」「評価を上げるには何が足りないのか」を具体的に指示できるようになります。「A評価を取りたい社員には、『方針共有に関しては大丈夫だけれど、今のあなたの環境整備のやり方だと絶対Bにしかならない。環境整備の点数をあと5点上げるとAになる可能性がある。ではどうすれば環境整備の点数が上がるのか』といったことを具体的にアドバイスできるようになりました。
前回の評価で、YさんとTさんは、業績評価点も、プロセス評価点も、方針共有点も同点でした。違ったのは、環境整備の点数だけ。それもたった3点の差です。ですが、3点違っただけで、評価は大きく変わります。YさんはB評価で、TさんはD評価です。B評価とD評価では、賞与の額が30万円違います。たった3点で賞与が30万円変わるのですから、社員も真剣に話を聞くようになります」(小田島社長)小田島社長は、人事評価制度を「行動を評価するしくみ」であると同時に、「社員に夢を持たせるしくみ」であると考えています。「この間、30歳で課長になった社員がいます。課長だと年収は500万円くらいになります。岩手県では、30代の平均年収は370万円くらいなので、それに比べると、高給なほうです。すると若い社員は、『自分もそうなりたい』と夢を持つようになって、その夢の実現のために『A評価を取りたい』と思うようになります。社員が夢を持てるのは、とても大切なことです。頑張って成果を出しても報われなかったら働きがいがありません。わが社の社員が明るくて、イキイキしているのは、数字さえ残せば、きちんと評価してくれることがわかっているからだと思います」(小田島社長)
賞与⑤給与は「お客様」に感謝、賞与は「社長」に「ありがとう」賞与は労働対価ではなく、利益の一部配分である会社は、業績が赤字でも、社員に「給与(月給)」を支払います。給与の原資は「お客様」です。お客様が自社の製品やサービスを買ってくださるから、売上が上がり給与が払える。ですから社員は、お客様への感謝の心を忘れてはいけません。では、「賞与」はだれが払っているのでしょうか。賞与を払っているのは、「社長」です。わが社では、「毎月の給与」と「賞与」を次のように規定しています。・給与/労働対価・賞与/利益の一部配分(業績によっては支給しないことがある)お客様が賞与を払ってくださるのなら、会社の業績にかかわらず、賞与を払うことができます。ですが実際は、賞与を出せる会社と、出せない会社がある。賞与は、労働の対価ではありません。賞与は、成果(利益)の再分配です。黒字だから賞与を出せる。利益が少ないときは、賞与ではなく「小与」になります。赤字が続いて利益が出なければ、分配することはできません。会社が黒字なのは、社長の腕がいいからです。会社が赤字なのは、社長の腕が悪いからです。社長が「黒字にする」と決定し、決定が実現できるように幹部が中心となって実践する。だから利益が上がり、賞与を出せます。ほとんどの社員は、「賞与がもらえるのは、自分が頑張ったからだ」と考えます。もちろん、賞与にはそういう側面もある。しかしそれ以前に、「社長が頑張って会社を黒字にしたから」こそ、社員は賞与をもらうことができるのです。私が社長になってしばらくの間は、賞与を出してもお礼を言う社員はひとりもいませんでした。それどころか、「額が少ない」と文句を言う社員ばかり(笑)。ところが現在では、賞与支給日になると、社員、アルバイト、パートからたくさんのメールが届きます。
「社長、賞与をありがとうございました!」社員が「賞与が少ない」と文句を言うとしたら、それは、「賞与は社長が支払うもの。労働対価ではない」ことを明確にしていない社長自身に責任があります。武蔵野の経営計画書は、「規定通りの賞与を受ける条件」について次のように明記してあります。だから、わが社の社員は、仮に「賞与がゼロ円」になっても受け入れることができます。【規定通りの賞与を受ける条件】※業績によって支給しないことがある。あくまでも成果(利益)の再分配①会社が黒字で推移している②正社員として6ヶ月間を経過している(支給日に在籍していなくても支払う)③前年よりも粗利益額が上回っている
賞与⑥「賞与の額がもっとも少なかった社員」に賞与を袋詰めさせる賞与は現金、手渡しで支給するわが社は、「賞与は現金(万単位)で支給する。端数は口座振り込みとする」のが決まりです。しかも、部長と課長の中で、「賞与の額がもっとも少なかった社員」が、「他の社員のボーナスを袋詰め」(賞与支給袋に現金を入れる作業)をすることになっています。社長室に鍵をかけ、全社員の賞与の袋詰めをします。金額に間違いがないよう2回、3回とチェックを行います。袋詰めをしながら「こいつがこんなにもらっているのか」「次は絶対いい評価をとってやる!」と思わせ、次の半期に向けての闘志を燃やさせるしくみです。賞与の袋詰めをした社員の中で、会社を辞めた社員はひとりもいません。2回連続で袋詰めをした社員もいません。悔しさを力に変え、次の大きな成果へとつなげています。賞与を手渡すときは、まず、いちばん金額が多い社員の賞与で受け取る練習をします。練習したら引っ込めて、「あなたの賞与はこっちです」と本来の本人の賞与を渡します。そうすると、「いちばん金額が多い人の賞与と、自分の賞与の厚みの差を実感することになり、『いずれは自分も、厚みのある賞与がほしい!』とやる気を出す。前回、もっとも多く賞与をもらった佐藤義昭の金額は「410万円」でしたから、厚みの差は歴然です。賞与を全額奥さんに渡す社員は、出世できない武蔵野の社員の中で、「もらった賞与を全額奥さんに渡す社員」は、その後、出世して
いません。賞与を50万円もらったら、10万円を抜き取り、「40万円」だけ渡す。そして、抜き取った10万円を部下との懇親のために使う。「部下のために奥さんに賞与をごまかすことができる上司」は、出世します。わが社の総務は、賞与袋を1000円で売っています(笑)。社員は新しい袋を買って、金額を書き換えて、奥さんに渡す。これが正しい賞与の使い方です。わが社のT部長は、結婚以来、ずっとこの習慣を続けていました。ところが、「ネコババ」が奥さんの知るところとなった。奥さんは「夏の賞与は必ず明細と一緒に持ってきてちょうだい!」と激怒した。T部長が賞与をごまかし続けてきたのは、感心できることではなかったかもしれない。しかし、感心できないことをするのが人間。私は、T部長が新卒社員やパート・アルバイトと飲みに行き、コミュニケーションを取っていたのを知っています。T部長の稼ぎが彼自身の懐を潤さないのは、わが社にとっても困る。そこで私は、T部長の自宅に、次のハガキを送りました。「このたびの賞与100万円は、家族の協力と、部下の協力と、キミ自身の努力によるものです。賞与はすべて奥さんに渡したようですが、キミを支えてくれた部下の労もねぎらいなさい。それをしなければ、今後の出世はあり得ません」ハガキを読んだ奥さんは大慌てで、T部長にこう言ったそうです。「明日、貯金を下ろして渡してあげるから!」竹内英喜・井口直課長など、多くの結婚式の祝電に「○○さん、賞与の半分は小遣いにしてください。動機が不純だと男は頑張る。男は同僚や上司・部下との付き合いが大切です」と私は明記しています。奥さんがしっかりと守ってくれているのが嬉しいです。
その他の手当①/家族手当社員にとって最大の福利厚生は「年収が上がること」手当を増やして、社員の年収を上げる社員の福利厚生で、「わが社には、スキーをする社員が多いから、苗場のリゾートマンションを法人契約しよう」と考える社長がいます。ですが、スキーをする人は苗場だけでなく、蔵王にも、志賀高原にも行きたいのです。だから、リゾートマンションを購入したところで、年に何回も使わない。お金をかけた割には固定資産が増えて、財務状況に影響します。私は、福利厚生のためだからといって、リゾートマンションを所有しようとは思わない。「最大の福利厚生は年収が上がること」。これが私の基本的な考え方です。だから、「手当を増やして、社員の年収を上げる」ように尽力します。小田島組の小田島社長は、意図的に手当を支給したり、不支給にしたりすることで、社員のやる気をうながしています。武蔵野の社員はみなお金が大好きですが(笑)、小田島組には、「僕、お金には困っていません」と殊勝なことを言う社員がいたそうです。そこで小田島社長はどうしたか。その社員(Aくん)を「遠くの現場」に行かせた。「小田島組では、本社から遠くにある現場で働く社員に、月に5万円程度の手当を出しています。私は『お金には困っていない』というAくんを、1年ほど遠い現場に行かせて、毎月5万円の手当を支給しました。年間で60万円です。すると、お金に余裕のあるAくんは、贅沢な生活をするようになった。1年たったあと、私はAくんを近くの現場に戻し、手当の支給をやめました。すっかり贅沢を覚えたAくんにとって、手当がなくなるのは痛いですよね。そうなると、頑張って仕事をして、評価を上げるしかない。Aくんは、ようやく本気になって仕事をするようになりました」(小田島社長)
その他の手当②/家族手当配偶者と子どもがいる社員には家族手当を支給家族が増えるほど、ひとり当たりの家族手当を厚くする配偶者と子どもがいる社員に、「家族手当」を支給します。子どもの手当は、「第4子」まで、「18歳」の誕生日を上限にします。【家族手当】・配偶者/5000円・第1子/1万円・第2子/1万5000円・第3子/2万円・第4子/2万5000円※1グループと2グループ社員の子どもの手当は半額子どもが増えれば、それだけ育児にお金がかかるので、子どもの数が多くなるほど、支給額を厚くしています。「奥さんと3人の子どもがいる3グループ以上の社員」なら、家族手当は「5万円」(5000円+1万円+1万5000円+2万円)になります。家族手当が厚いから、この7年間で退職した管理職はゼロです。中途入社は、入社した年は、「奥さん」の分だけ。次の年は「奥さんと子ども1人分」、さらに次の年は「奥さんと子ども2人分」を支給します。1年ごとに1人分ずつ増やしていくしくみです。いきなり3人分の手当を支払うと、不公平感を覚える社員があらわれます。能力も勤続年数も同じ2人の社員がいて、「独身か妻帯者か(子どもがいるか)」の違いで、給料の額が最初から大きく変わってしまうからです。第3子が生まれた社員には、「1、2グループ/30万円」「3グループ以上/50万円」を支給して、ささやかな少子化対策をしています。家族に増減が生じたときは、「スピード決済」というグループウェアにて各自で申請します。ですから、家族がいるのに家族手当が支給されていないなら、それは「申請を忘れた」からであり、評価制度の勉強を怠った自分の責任です。総務のせいではありません。会社は、ぶら下がり健康器ではないから、ぶら下がっていても給料は増えません。わが社の人事評価制度は、「勉強をしていない社員が損をするしくみ」です。
その他の手当③/家族手当禁煙すれば、年収が「60万円」アップ?武蔵野は、喫煙者が管理職になれない世間はいま、禁煙・嫌煙の流れに大きく傾いています。わが社もその例に漏れず、本社も、支店も、禁煙です。わが社は、喫煙者を管理職にしません。喫煙者でも入社はさせますが、タバコをやめないかぎり、管理職にしません(勤務時間外も含めて禁煙が条件)。禁煙を勧める理由は、「健康が第一だから」です。タバコに「百害あって一利もない」ことは医学的にも十分証明されており、副流煙は非喫煙者の健康まで害することがわかっています。内川大輔が、飲み会の席で「僕、課長になりたい」と言いました。そこで私はこう言った。「おまえは課長にならなくていいんだ。死ぬまでタバコを吸ってろ!」内川は翌日から、タバコをやめた。かつての武蔵野は、管理職の85%が喫煙者でした。私は、悪癖をやめさせるために、「禁煙手当」を支給することにした。「禁煙する」と宣言した社員には、即座に30万円支給する。その後、1年間吸わなかったら、さらに30万円払う。禁煙するだけで、年収が「60万円」アップする夢のしくみです。もともと喫煙していなかった管理職には別途、手当を支給しました。ところが、武蔵野の社員はレベルが高い。だれひとり「禁煙する」とは言わなかった。喫煙者同士の鉄の結束です。お金がもらえるからとホイホイタバコをやめるほど、ヤワな社員はいませんでした。最初に禁煙に踏み切ったのは、妻の入院でお金が必要になった内野伸一課長でした。その後、「禁煙、禁煙」としつこく連呼する私に根負けして、幹部がひとり、またひとりとタバコをやめていったが、最後までやめなかった最古参の社員がいます。狐塚富夫です。そこで私は、狐塚の名刺の肩書きに、こう入れた。「部長(タバコをやめたら)」ところが、です。こんな恥ずかしい名刺を持たせても、タバコをやめようとしません。私は、狐塚の奥さんの誕生日に合わせて、次のようなメッセージを書いたハガキを狐塚に送りました。「おまえがタバコをやめたら賞与が30万円増える。課長から部長になれば、手当も、賞与
も増え、100万円以上収入がアップする。奥さんの誕生日にブルガリのネックレスをプレゼントできる」効果なし。狐塚はタバコをやめる素振りをまったく見せません。しばらくして、安曇野での研修を終えたときです。私は狐塚を捕まえ、声をかけました。小山「おまえ、今日は何の日か知っているか?」狐塚「いや、何の日かわかりません」小山「今日はオレの誕生日だ」狐塚「おめでとうございます」小山「おまえはオレにずっと世話になっているだろう。病気したときとか、結婚したときとか。だから、プレゼントを寄こしなさい」狐塚「そうはいっても、今は何も持っていません」小山「いや、あるに決まっているだろう」狐塚「持っていません」小山「これからボイスメールで『禁煙します』と、全社員に向けて宣言しろ。それがオレへのプレゼントになるから」こうして狐塚はようやく観念した。社員に禁煙を宣言し、ついにタバコをやめたのです。違反をしたら「手当の3倍の額」を返金するわが社の禁煙手当は、・1および2グループ/年間10万円・2・5グループ/年間15万円・3グループ以上/年間20万円です。しかし、違反をしたら、「手当の3倍の額」を返金するのがルールです。丹智之部長は、「はい、禁煙します」と言って手当をもらったが、私に現行犯で2度目の逮捕をされました。「吉祥寺第一ホテル」の裏でこっそり吸っているのを私が見つけたのです。もうひとり、現行犯で捕まったのが、本多研です。「本多が喫煙を続けている」という情報が私のところにも入ったが、状況証拠ばかりで物的証拠がなかった。そこで私は一計を案じ、現行犯逮捕する方法を考えた。本多に「亡くなったお母さんに、お線香を上げさせてほしい。今からおまえの家に行こう」と声をかけ、本多の自宅を訪問した。
ありました。タバコの吸い殻と、ライターがごっそり、30個くらい(笑)。現行犯逮捕です。かばん持ちで同行していた「株式会社末吉ネームプレート製作所」(印刷/神奈川県)の沼上昌範社長は「ここまでやるのですか。私はまだまだ甘いです」と語った。タバコにまつわるエピソードは、まだまだあります。私は社員との懇親会は「社長と飲み歩き会」を除き、二次会に参加しませんが、どうしても現行犯逮捕したく、丹智之(当時課長、現在部長)と、上岡佳之(当時課長、現在部長)、S部長を連れてキャバクラに飲みに行ったときのこと。私は、「丹と上岡が隠れてタバコを吸っているのではないか」と疑っていました。そこで、罠を仕掛けることにした。お店の黒服に声をかけて、「タバコを吸う女の子だけ席につけてほしい」とお願いしたのです。すると、女の子たちはバンバン、ガンガン吸ってくれた。当然、丹と上岡とSは吸いたくなったはずです。けれど、隣には小山昇がいて吸えない。私は、丹と上岡とSがガマンできなくなったころを見計らって、トイレに立ちました。私はトイレが長く、社員もそのことを知っています。一度席を立つと、たいてい「5分」は戻りません。丹と上岡は、「今がチャンス!」とばかりに、タバコに火をつけました。「3分あれば一服できる」と考えたのでしょう。「シメシメ」と思ったはずです。でも、私のほうが一枚上手でした。トイレに行ったフリをして、2人の様子を監視していた。彼らがタバコを吸い出して、私は席に戻りました。彼らは私を見て、何と言ったと思いますか?「小山さん、ズルい」私はすぐに切り返しました。「バカ。ズルいのはおまえたちだろう。手当をもらっているのに吸っているんだから」丹は1度目の現行犯逮捕でした。「禁煙させるために、お金と労力をかけるのはもったいない」と思われるかもしれませんが、私はそうは思いません。会社の存続より、部署の成績より、「上司としての方針徹底」が優先です。でも社員の健康はもっと大切です。社員に禁煙させると決めたら、会社が潰れてでも禁煙させる。「小山が『やる』と言ったら、必ずやる」その姿勢を示すことも大切です。
その他の手当④/家族手当安全運転をした社員に「年間12万円」の手当を支給交通事故を防ぐコストは惜しまないわが社の事業の柱は、「ダスキンの代理店業務」です。配達や集金などで車を使い、社員は、自らハンドルをにぎってお客様のもとに向かう機会が多い。車を使うことをやめるわけにはいかない以上、交通事故を未然に防ぐ必要があります。事故件数「前年対比20%減」がわが社の目標です。そこで武蔵野の経営計画書に、4ページにわたって「運転に関する方針」が明記されています。「道路交通法を守る」「歩行者優先で安全運転する」「常に看板をかかげて運転していると肝に銘じ、安全運転をする」といった基本的なことから、・雨の翌日は必ず洗車する・ダッシュボードにものを置かない・朝礼時「車両への挨拶」を行う・本社を出る際は、左折禁止とする・携帯電話はハンズフリーも禁止するなど、細かい規定を決めています。そして、「運転に関する方針」を守った社員には、「安全運転手当」を支給します。【安全運転手当】・年間12万円(社員)・年間6万円(パート/アルバイト)※勤続年数によって支給率を変更する社員の運転講習に力を入れて、入社1年未満の社員と配達中に違反・事故を起こした社員には、年に4回、安全運転講習会を開催して受けさせます。わが社では「縁石に乗り上げた」とか、「車庫入れに失敗してボディをこすった」といった小さなものまで「事故」としてカウントしますから、かなりの数の社員がこの研修を受けることになります。この安全運転講習会の経費は、相当かかりますが、「交通事故を未然に防ぐためのコストは惜しんではならない」と私は考えています。
その他の手当⑤/家族手当社員を辞めさせないために「特別手当」を支給幹部社員が「持ち家」を買うときには、「最大100万円」を支給するわが社は、「特別手当」として、該当者に次の「3つ」の特別手当を支給します。【特別手当】①持ち家購入手当②永年勤続手当③帰省手当①持ち家購入手当10年以上勤続している「幹部社員(4グループ以上)」が持ち家を購入した場合、「持ち家購入手当」を支給します。(6グループ)A評価以上/100万円B評価/80万円C評価/60万円(5グループ)A評価以上/80万円B評価/60万円C評価/50万円(4グループ)A評価以上/60万円B評価/50万円C評価/40万円ただし、支給には次の「2つ」の条件があります。・事前に社長の許可を得る・購入する物件の所在地が本社から通勤1時間以内家を買うときに、どうして社長に許可を得る必要があるのか。それは、持ち家購入手当が「社員を頑張らせるしくみ」のひとつだからです。C評価の部長が「家を買いたい」と言ってきても、私は許可しません。「これこれこうすると、A評価が取れる。そうすれば、支給額は5割増しになる。評価が上がれば賞与の額も上がる。そうすれば年収が増える。それに、あなたが頑張れば会社の業績も上がる」持ち家の購入を考えている社員は、「できるだけ多くの額を支給してもらいたい」と思っています。だから、一所懸命頑張る。
許可が必要な理由は、もうひとつあります。社員が不動産業者と交渉するより、私が交渉すれば、例外なく安く購入できるからです。値引き額「100万円以上」は12人で、トップは久木野厚則の「350万円」。2位は上野朝之の「300万円」です。「本社から通勤1時間以内」の物件にかぎっているのは、「通勤時間が長くなれば長くなるほど、仕事をする時間が減る」からです。体力的にも疲れる。だから1時間以内にしています。普通は、貸し付けるケースがほとんどですが、わが社は支給します。だから、返さなくていい。貸し付けた社員が懲戒免職で退職しても、お金を返さないし、返してもらうならば管理も大変で、その手間を省くためにも気持ちよく支給します。10年以上勤続した社員には「海外旅行」をプレゼントする②永年勤続手当5年、10年、20年、30年、40年勤続の役員および社員に手当を支給します(支給額は5年は5万円、10年以上は10万円)。「永年勤続手当」は、個人の成績を問わず、「会社にいれば、だれでも表彰を受けることができる」ので、平等な手当です。また、10年以上勤続の社員が、「海外旅行」に2人で行くときには、本人と、一緒に行く配偶者に、それぞれ「10万円」ずつ(計20万円)支給します。「国内旅行」は支給しません。「海外旅行」は特別感があるので、奥さんも喜びます。この権利を行使しない場合は、繰り越すことができます。勤続20年のときに、常務取締役滝石洋子は夫婦で40万円をもらいました。わが社の社員は噓がうまいので、「旅行に行った」と言いながら「行かない」ことが考えられる。そこで「旅行の申し込み書」や「現地で撮影した写真」を提出し、「本当に行ってきた」ことを証明させます。「親への感謝」を伝えに帰省した社員には、交通費を支給する③帰省手当新卒社員が、入社後に「最初の給料」をもらったら、「親に挨拶に行く」のがわが社の決まりです。ゴールデンウィーク中に帰省して、「両親に感謝の言葉」を伝えれば、交通費を支給します。北海道・釧路出身の平岡佑理には、「釧路までの交通費は会社が持つので、実家に帰って親に挨拶をしてきなさい。え?親が酒飲み?じゃあ手土産を買っていいよ。『魔王』(焼酎)でも買って、それを親と一緒に飲んでこい」と言って釧路に帰らせました。また、別の社員が部長に昇進したときは、「実家に帰って、親に新しい名刺を見せてこ
い。その様子を写真に撮ってくれば、会社で費用を支払ってあげるから」と言って、実家に帰らせたこともあります。親はいくつになっても、子どもの成長を喜ぶものです。けれど多くの社員は、親に感謝をしません。だから私は「社員自身にとって良いこと」を強制しています。「会社が交通費を負担する必要はない」という意見もあるかもしれませんが、私は「会社が負担する」ものだと思っています。帰省手当は、社員を辞めさせないしくみのひとつです。社員が「会社を辞めようかな」と迷って、親や兄弟に相談します。そのとき、もしかしたら、「おい、よく考えろ。親に魔王を飲ませてくれる会社は武蔵野以外ない」「交通費を負担してくれるなんて、社員思いの会社だ」と家族が引き留めてくれます。平岡佑理のお母さんは私のツイッターをフォローして応援してくれています。もし社員が辞めて新しく人を採用すると、交通費以上の出費(採用コスト)がある。そのことを考えれば、交通費や食事代を支払うくらい、安いものです。
給料体系勉強会を開催し、「10年後の自分の給料」を計算させるルールが「ある」からといって、ルールを「理解」しているわけではない社員にとって最大の関心事は、「自分の給料」です。お金は、命の次に大切なもの。それなのに、「どうすれば、自分の給料が上がるのか」を知っている社員は少ない。人事評価制度を明確にすれば、社員の不満はなくなる。そう思って、経営計画書に「人事評価に関する方針」と「社員に関する方針」を明記していますが、それにもかかわらず、「給料が少ない」「賞与が少ない」と不満を口にする社員もいます。なぜ、不満が出るのか?それは、「経営計画書を読んでいない」から。ルールをつくっても、だれも読まない。読まないけれど文句は言う。経営計画書を読んで、自発的に勉強するような人材は、わが社にはいません。以前、全社員勉強会で若手社員に、「10人の部署で、A評価は何人ですか?」と質問したところ、「3人」と答えられた社員はひとりもいなかった。ルールが「ある」ことと、ルールが「周知されている」ことは、違うのです。そこで武蔵野では、給料体系を勉強する「給料体系勉強会」を開催し、出席を義務づけています。勉強会への参加は人事評価の対象(3回出席)になってます。参加しないと賞与が下がる。だから社員は、しかたなく出席する。3回の出席の義務づけは、「1回参加しただけでは、理解できないから」です。はじめてのことは、ちんぷんかんぷんで何を言っているかわからない。けれど、勉強会は、社員がわかっても、わからなくても、やることが正しい。そんな社員でも、自分の評価が出て、面談を受けて、人事評価を下されたあとに再度勉強をすると、「あぁ、そういうしくみになっていたか」と理解ができる。給料体系勉強会では「10年後の自分の給料」を計算させます。自分の基本給をベースに、人事評価が10年間「オールA評価」だった場合と、「オールC評価」だった場合の、10年後の給料の違いを計算します。自分の給料で計算するので、全員が真剣です。10年間、「オールA評価」の社員と「オールC評価」の社員では、給料に150%(1・5倍)の差が出ます。累計で計算すると、「オールA評価」と「オールC評価」では「1000万円以上」も
違うことがわかります。「努力したくない。でもたくさん給料がほしい」はありえないでは、どうすれば「オールA評価」を取れるのか、どうすれば給与をたくさんもらうことができるのか。答えは明白。努力をするしかない。基本的に、多くの社員が「働きたくない」「ラクして高い給料をもらいたい」と考えています。これが正しい社員。ですが、「ラクして高い給料をもらえる会社」など存在しません。とくに若い社員は、そのことがわかっていない。できるだけいい大学に入学したい。でも、勉強したくない。これは矛盾しています。いい大学に入りたいなら、勉強をしなければいけません。勉強をしたくないなら、それなりの大学でガマンしなければいけません。「いい大学に入学できた」のは、それは「努力の証」です。会社でも同じ。努力なしではA評価は取れない。「10年後の自分の給料」を計算すると「頑張れば、給料が増える。頑張らなければ給料が増えるのが遅い」ことがわかる。だからわが社の社員は、「たくさん給料がほしい」という不純な動機で頑張るわけです。給料体系勉強会では、毎回テストを行い、「テストの点数がいちばん悪かった社員」が「次回の講師を務める」ルールです。講師をすれば、嫌でも勉強します。また、課長職以上になるには、給与体系を熟知していなければいけません。2001年までは、課長昇格試験に、「賞与計算の実務」「昇給・昇格の実務」などが含まれていた。部長の久木野厚則は3回も試験に落ち、やけ酒がたたり、一ヶ月の病院送りになっています。どれほど営業成績が良くても、この試験に合格しなければ、課長にはなれません。
Column人事評価制度がない会社は、何から始めればよいのか?「株式会社マイプレジャー」(通信ソリューション/三重県)の河内優一社長の会社には、人事評価のしくみがありませんでした。株式会社武蔵野の「実践経営塾」(武蔵野のしくみのすべてを公開する経営者セミナー)に参加して、「人事評価制度」を学んだ。賢い河内社長は武蔵野の「人事評価制度」をそのまま真似た。真似は最高の創造です。人材育成においてもっとも有効なのは、うまくいっている会社のしくみを、そのまま真似することです。ですが、武蔵野の人事評価制度はレベルが高いので、丸ごと真似することはできません。そこで、「マイプレジャーで真似できそうなところ」だけ真似をします。評価シート(120~121ページ参照〔*〕)●社長や上司の主観で評価をすると社員はやる気をなくすので、業績評価、プロセス評価、方針共有(勉強会の回数)といった評価の項目を決め、点数化する。評価の項目が多いと面倒になるので、できるだけ少なくしておきます。●この評価シートの点数を評価の目安とします。基本給(49ページ参照〔*〕)●武蔵野の賃金テーブルを真似て、基本給を決めます。中卒を「新卒」とし、Ⅰ等級1号俸にします。高卒はⅠ等級16号俸、専門学校卒と短大卒はⅡ等級2号俸、4大卒はⅡ等級12号俸とします。●Ⅰ等級1号俸の金額は、最低賃金や所定労働時間を参考にして決めるか、武蔵野の賃金テーブル(65ページ〔*〕)の数字をそのまま真似します。●ピッチ(1号俸でいくらの差をつけるか)も、とりあえず武蔵野の賃金テーブルに倣って運用をしてみて、あとで調整します。飲食業やレジャー産業は仕事に年齢差が出ないのでピッチを短くする。●号俸の上がり方は、相対評価の成績によって決めます(年間の成績がA評価なら5号俸上げる、B評価なら4号俸上げるなど)。●武蔵野もはじめは「グループ制」を導入しなかったので、最初は「等級」だけで運用しました。●等級に求められる能力や職務を定義し(Ⅲ等級は課長、Ⅳ等級は部長など)、資格要件を満たした社員は等級を上げます。
手当●管理職(課長、部長、本部長など)に就いている社員には、管理職手当を支払います。●そのほか、家族手当や安全運転手当など、必要に応じて手当を決め、支給します。賞与(98ページ参照〔*〕)●社員の半期の成績を相対評価し、一定の割合でS評価、A評価、B評価、C評価、D評価を決めます。評価は、評価シートの点数を参考にして決めます。●賞与に使う総額を決定します。●一点当たりの金額は最初は全員同じにします。●賞与配分点数表(101ページ〔*〕)を使って、全員分の配分点数の総合計を算出します。●賞与単価を計算します(賞与に使う総額÷配分点数の総合計)。●賞与金額を計算します(賞与配分点数×賞与単価)。社員が増えるまでは(目安は25人以上)、人事評価制度を社員に公開しません。なぜ公開しないのかというと、「優秀な人材が取れなくなる」からです。あとから入ってきた新人のほうが高い給料だったら、既存の社員はおもしろくない。また、環境整備などの社員教育が行き届き、社員の価値観が揃ってから公開したほうが、不満は少ないからです。公開しなくても、基準をつくっておけば、社員に対して「どうしてこういう評価になったのか」を自信を持って説明できます。最初から正しい人事評価制度はつくれないから、不都合が生じてきたら、制度を変えていけばいい。大切なのは、適当でも、根拠がなくても、手探りでも、よくわからなくてもいいから、とりあえず「ざっくりとした人事評価のしくみ」を決めて、運用してみることです。
Chapter4頻繁に「人事異動」することを決定する
定期的な人事異動は、「赤字」という病気を防ぐ特効薬人事異動をしない会社の「5つ」の弊害わが社は、定期的に人事異動を行います。5年以上、同じ部署で働くことはありません。営業系の若手社員は、ひとつの職場での在籍期間を3年、事務系は5年として他の部署に転属させ、多くの経験を積ませます。事務系の部長クラスは、一度、営業の体験をさせる。とくに経理部長には、営業課長を経験した人を登用しています。どうして頻繁に人を動かすのか?同じ仕事をさせ続けると、次のような弊害が起きるからです。【人事異動をしないことによる弊害】①無理・無駄・ムラが放置される同じ仕事を長く続けていると、新鮮味が薄れ、すべて「風景」になり客観性を失います。結果として、無理・無駄・ムラに気づかず放置してしまう。②仕事が属人化する「属人化する」とは、「ブラックボックス化する」と同義です。「この件は○○さんに聞かないとわからない」「あの仕事は△△さんでないとできない」と、「人に仕事がつく」と、モンスター社員に育ったり、仕事がブラックボックス化して不正の温床になりかねません。また、その人が病気で休んだり退職をしたら、仕事が回りません。③ひとりの上司の固定的な評価から逃げることができない無能な管理職が幅を利かせることになります。長くその部署に置いておくと、「幹部」が「ガン部」になる。④組織が「赤字病」にかかる数年に一度の組織変更は、会社を「赤字」という病気から守る最良の薬です。組織をつくるときは、はじめに「病気にならない組織」を作成して、あとから人を割り振るのが正しい。人を見て組織を変えると、帯に短したすきに長しで、何もできない。⑤新しいことに挑戦しなくなる同じ部署に長くいると、自分は仕事ができると錯覚してしまう。また、過去の体験にし
がみつき、変化や失敗を恐れるようになる。会社の「業績が良いとき」は、どうしても、社員の気持ちは緩みます。2015年、わが社は、過去最高売上、最高利益を達成し、賞与は前年の120%増し、残業も「76時間」から「35時間」に減りました。すると社員は、「うちの会社は、大丈夫だ」と安心して、スピードが落ちてしまう。そこで私は、幹部の危機感をあおるために12月の繁忙期に50%を「人事異動」しました。この1年間で、「本部長」と名前が付く人は、ひとりの例外もなく、全員、異動です。すると、新しい職場と今の職場の引き継ぎをしなければならないから、真剣になる。「うちの会社は、大丈夫だ」という気の緩みがなくなります。大規模な人事異動を断行すると、一時的に現場は混乱します。ですが、組織を活性化させるためには、人事異動によって会社を変化させることが重要です。変化とは、人を変えることです。人事の最終決定は「社長」が行うわが社は、いわゆる「人事部」はありません。20年以上前に廃止しました。新卒・中途採用や、昇給・昇進などにまつわる事務手続きや各種査定は、人事部の代わりに「総務部」が担当しています。人事部がまだあったころ、仲が良さそうに見えた「TくんとSくん」を同じ部署に配属したことがあります。2人は卓球仲間で、休みの日も一緒に卓球をしていました。そこで当時の人事部長が、「2人はコミュニケーションも取れているし、一緒にしたら業績が上がるのではないか」と考え、私も承認しました。ところが実際は、その逆。このコンビの成績は、ズルズルと落ちていったのです。よくよく調べてみると、実は「さほど仲が良かったわけではない」ことがわかりました。「仲が良さそう」と「仲がいい」は違う。2人が一緒にいたのは、「卓球の相手をしてくれる社員がほかにいなかった」から。人事部は、会社全体・社員全体を把握することができず、良くも悪くも社員の表面的な部分しか見ることができない。そのことに気がついた私は、人事部を廃止しました。現在は、幹部数名に「人事異動案」をつくらせ、彼らの意見を踏まえながら、最終的には社長の私が決定します。「案」は幹部がつくり、最終決定は社長がする。
これがわが社の人事異動の基本的な考え方です。
「成績の良い人」を中心に人事異動をする「仕事ができる人」ほど頻繁に異動させる人事異動は、「職場のナンバーワン、あるいはナンバーツー(成績の良い人、昇格した人)」を動かすことが慣例です。武蔵野の管理職の新人は、ダスキンホームサービスの課長です。そこでA評価を取って勝ち上がると、ダスキンビジネスサービスの課長になります。ダスキンビジネスサービスでA評価を取ると、次は、「経営サポート事業本部」の課長です。そこで揉まれながら、既存営業部門でA評価を3回取ると、ダスキン事業部の部長に栄転します。普通の会社は、「仕事ができない人」を動かします。しかしわが社では、「仕事ができる人」ほど頻繁に異動させます。専務取締役の矢島茂人は、「入社後の10年間で9回」移しました。仕事ができる人は、何をやらせてもすぐに習熟する一方で、同じことを長く続けさせていると、飽きてしまう。彼らのモチベーションを下げないためにも、定期的な人事異動が必要です。私は「ダメな人は何をやらせてもダメ、できる人は何をやらせてもできる」という考えです。世間の多くの会社は、「ダメな人」をなんとかしようとして、あっちこっちに動かしますが、それは時間とコストの浪費です。ですが、ナンバーワン、ナンバーツーを動かすと、「2・6・2の法則(集団が形成されると、上位2割、中位6割、下位2割の割合で3つのグループに分かれる。上位2割がいなくなっても、残りの8割に優劣が生じて、再び2・6・2の割合に分かれると考えられている)」によって、下の人たちが優秀になり、後ろにダメな人が入ってきて、常に組織が活性化します。だから層が厚くなる。ナンバーワン、ナンバーツーを抜かないと下が伸びない。下を伸ばすためにも、上を異動させたほうがいいわけです。社員に「失敗の経験」を積ませるのは、社長の仕事成績の良い人は、高速配転がいちばんです。多くの部門を担当させ、多くの失敗経験をさせることで、10年後、花が咲いて実が穫れます。人間は失敗からしか学ぶことができません。上司やお客様から叱られ、恥ずかしい思いをして、ようやく一人前になる。学生時代は「記憶力」で勝負をしたが、社会に出ると、「経験」で勝負することになる。その経験をさせるのは、社長の仕事です。成績が悪い人は、その場でずっと習熟させて、「5年に1度」ぐらいのスパンで異動す
ればいい。若い人は、「つらい仕事はやりたくない。でも課長になりたい」と言います。それは、「勉強はしたくないけれど、いい学校に入りたい」と言うのと同じ。そんなことは不可能です。人は、キツイ仕事をさせないと育ちません。だから私は、「新しい仕事」をどんどんさせています。新しいことをやれば、必ず失敗する。でも、「失敗とは、自分のキャパシティーを広げること」であり、「実力とは、失敗の数」です。新しい部署で新しい仕事をする。経験がないから失敗をする。「なぜ失敗したのか、どうすれば次はうまくいくのか」を考え、改善する。こうして人は成長します。人の成長なくして、会社の成長はありえない。そして人の成長は、失敗なくしてありえない。だから私は人事異動を行って、作為的に、無理やり、失敗をさせています。人事異動を拒否した場合は、評価を下げるわが社は、人事異動の回数を評価しています。回数を評価しないと、人を動かせません。社員が、人事異動(または出張)を拒否した場合は、評価を下げます。A評価を取った社員から、「何で僕はA評価を取ったのに一般社員なのですか?」と言われたときに、「おまえは動いていないからだ」と、人事異動の回数が少ないことを理由に昇進を見送ったこともあります。「人事異動は社長の権限だから、社員は拒否できない。その代わり、人事異動に応じた回数が多いほど、評価する」人事異動に聖域はない。これが、私の考え方です。
人を動かすときは、早すぎても遅すぎてもダメ元部下や同期を「上司」にすることも必要私は意図的に、「同期の社員を上司」にしたり、「部下だった社員を上司」にすることがあります。同期や元部下が自分の上司になれば、「悔しい」と思い、「早く成績を上げて別の部署に異動しよう」と頑張ります。上田紗友美は、武蔵野史上、過去最短の5年で部長になりました。上田の部下には、同期入社の長妻圭一郎課長と、上田が経営サポート事業本部にいたときの元上司、雨倉浩彦課長がいます。元上司の雨倉は、ホームサービス(ダスキン事業部)の課長の中では、いちばん実務経験があります。真面目にやればA評価が取れるのに、「適当にやっていても、オレはCにならないから」と言って、手を抜いていた。そこで私は、雨倉の上司に上田を異動させた。するとどうでしょう。上田が上司になったとたん、雨倉の目の色が変わりました。「オレは絶対に違うところに行く!」と頑張り、A評価を取ると、同期の長妻も、「同期の上田が上司なのは、嫌だ」と言って頑張っている。雨倉と長妻が成績を上げるのは、「上田には負けたくない」と思っているからです。高梨昌俊本部長が武蔵野に入社した当時、高梨の上司は、市倉裕二でした。その後、高梨は特別な功績が認められて抜擢され(社内で、日本経営品質賞の獲得を目指すプロジェクトの事務局長を務め、受賞に貢献したのが理由)、部長になります。市倉は、高梨に先を越され、悔しがっていた。そこで私は、市倉をダスキン事業部から経営サポート事業本部に移して、「既存事業の課長と戦って3年間でA評価を3回取ったら部長にする」と伝えた。すると市倉は、馬車馬のように頑張って部長に昇進した。現在、市倉はダスキンクリーンサービス事業部統括本部長で、高梨の上司です。53年の歴史をもつダスキン事業の売上を更新中です。悔しさは、人を動かすエネルギー。だからこそ、社員に悔しい思いをさせることも必要です。「カモ」を投入して、B評価社員のやる気に火をつける武蔵野はグループ内の相対評価で、A評価の社員(成績が良い社員)が昇進していなくなると、B評価以下の社員はやる気を出します。上がいなくなれば、「次は自分がA評価を取れるかもしれない」と思うからです。
ダスキンホームサービスの一般社員(2グループ)だった守屋篤が、A評価を取って課長(店長)となり、異動することになった。すると、残った2グループの社員は、「守屋という目の上のタンコブがいなくなれば、次は自分がA評価を取れる」と思い、守屋の異動を喜びます。一方、すでに3グループにいる課長たちも、守屋を歓迎します。けれど、課長たちが守屋を歓迎するのは、守屋の昇進を素直に喜んでいるからではありません。「カモが来たから」です。新任の課長よりも「今いる課長」(つまり、自分たち)のほうが実力は上です。しかも、3グループの中で優秀な課長が「部長」となって4グループに上がるとなれば、「強い課長がひとり減り、弱い課長がひとり増える」ことになる。つまり、A評価を取るチャンスが増える。だから歓迎するわけです。配属を変えると、人のやる気が変わります。だれを、いつ、どのように配属し、どのタイミングで昇進させたら頑張るようになるか。人を動かすときは、早すぎてもダメで、遅すぎてもダメです。水をあげすぎると根が腐り、あげないと枯れてしまう。そのタイミングを見極めるのは、社長の力量です。
武蔵野が半数近い社員に「課長職以上」の肩書きを与える理由石を投げたら課長に当たる。投げなくても課長に当たるわが社は、社員・パートタイマー・アルバイト・外交員750名の組織です。社員210名中、「課長職以上」が80人以上います。「石を投げたら課長に当たる。投げなくても課長に当たる」のが武蔵野です。この80人以上の中で、過去7年以内に辞めた人は、八木澤学、ただひとりです。ですが、辞めた八木澤も今は戻ったので、実質ゼロ人です。昔、Oという常務が、「武蔵野の課長は、世間の係長以下ですよ」と皮肉った。そこで私が、「おまえは常務だけど、普通の会社では課長だよ。うちの会社は人材の層が薄いから、おまえを常務にしているんだぞ」と言い返すと、Oは黙ってしまった。他の会社で課長になれない人材でも、武蔵野なら「課長」の名刺を持てます。「課長」の名刺を持てば、本人の責任感が大きく増します。それに、役職が高いと、まわりの見る目が変わるから、本人も気持ち良く仕事ができます。課長が増えれば、当然、管理職手当(グループ手当)を支払うことになり、多くの社長は、「人件費の総額が上がる」と考えます。ところが、経験上、そうはならない。なぜなら、何年仕事をしても「C評価」以下の成績しか取れない社員が、いつの間にか辞めてしまうから。では、辞めた社員はその後どうなるかというと、他の会社で活躍します。わが社でC評価だった社員も、武蔵野で鍛えられた経験は財産になる。だから、他社で管理職として活躍している。2・5グループは、課長候補です。3グループの社員との相対評価になる。2年以内にA評価を1回取ると、課長になれる。考え方は、大相撲の入れ替え戦と同じ。大相撲では、「十両上位の好成績者」と「幕内下位の成績不振者」が入れ替え戦を行いますが、わが社も、2・5グループが3グループを負かしたら、課長になれるしくみです。更迭しても、すぐに復帰できると思えば、社員は卑屈にならないグループが下がることを「更迭」と呼びます(グループが上がることは「昇進」)。4グループの部長が更迭され、3グループの課長になった。
「更迭をすると社員のモチベーションが下がるのではないか?」と思われるが、そんなことはない。更迭されても、「3年以内にA評価」を取れば復帰できるからです。課長(2グループから上がってきた課長)が部長になるには、「A評価を3回」取らなければいけない決まりです。ですが、部長から更迭されて課長になった社員は、「3年以内にA評価を1回取る」だけで部長に上がれます。3回取る必要はありません。1回だけで復帰できます。直近1年で4グループに復帰したのは、井上岳志・菊地富夫・上岡佳之の3人です。更迭者を優遇しているのは、「腐らせないため」。次に結果を出せば、すぐに復帰できる。だから社員は更迭されても卑屈になりません。八木澤学は、昇進と更迭を繰り返し、「3回課長に昇格して、3回降格した」社員です。それでも八木澤が腐らずに4回目の課長に復帰したのは、「復活するしくみ」が明確だからです。昔の私の大失敗は、古参の課長をA評価がなくても下駄を履かせて部長に昇進させたことです。一人の例外なく退職をした。可哀想なことをしたと反省しています。
仕事ができる者同士、仕事ができない者同士で組織をつくる頑張っているのに「A評価」が取れない「2つ」の理由「4大卒」は「Ⅱ等級1グループ」で採用し、入社3年以内にA評価を1回取ったら、2グループに昇進させます(入社3年を超えた場合は、A評価を2回取らなければいけない)。「短大卒・専門卒・中途社員」はA評価2回、またはS評価1回で2グループに昇進させます。1グループから2グループへの昇進では基本給も手当も変わりませんが、グループが上がれば、社員の「嬉しさ」が違います。1グループから2グループへの昇進はそれほどむずかしくありませんが、それでもなかなかA評価が取れない社員がいます。「A評価が取れない」理由には、おもに次の「2つ」が考えられます。①仕事が合っていない(その仕事に向いていない)②上司と部下の実力差がありすぎる①仕事が合っていない(その仕事に向いていない)単純な仕事ではA評価が取れないのに、複雑な仕事に変えたとたん、A評価が取れる社員がいます。ダスキン国分寺支店ビジネスサービス課長加藤肇は経営サポート運営部でセミナーの運営をしていたが、なかなかA評価が取れないので、難易度の高い実践経営塾(社長が参加するセミナー)に変えたら、生き返ってA評価を取った。人には得意・不得意があるから、一所懸命仕事をしているのに結果が残せないのは、不得意な仕事をさせているからです。そんなときは、人事異動を行って仕事を変えてあげる。そうすれば結果を出せる。②上司と部下の実力差がありすぎる上司が優秀すぎると、部下はやる気をなくします。同じように、部下の実力が上司よりありすぎても部下はやる気をなくします。上司と部下の間に実力差がありすぎる場合、・仕事ができない部下は、仕事ができない上司の下に配属させる・仕事ができる部下は、仕事ができる上司の下に配属させると、個人も組織も活性化して業績が上がります。このことを多くの社長はわかっていません。
多くの社長は、「仕事ができない部下は、優秀な上司の下に配属させたほうが成長する」と考えます。しかし、これは間違い。「優秀な上司には優秀な部下をつける。仕事ができない上司には仕事ができない部下をつける」ほうが正しい。なぜなら、同等の力を持っている人同士で組織を構成したほうが、切磋琢磨しやすいからです。大相撲の番付を例に考えると、わかりやすいと思います。横綱と序二段が同じ土俵で相撲を取ったら、序二段はいっこうに勝てない。でも、序二段同士なら、勝てる確率が高くなるから頑張るのです。営業所も、A評価以上の社員を集めた営業所と、B評価・C評価の社員を集めた営業所に振り分けます。B評価・C評価を集めた営業所の中でも相対評価が行われるから、「自分も頑張ればA評価を取れるかもしれない」と希望を持ち、一所懸命に仕事に打ち込みます。逆に、「A評価以上」の人ばかり集まった営業所では、それまで一度も挫折を味わったことがない若い社員に、苦い思いをさせ更迭の経験をさせることができます。優秀な社員と力のない社員を戦わせても意味がありません。優秀な社員は小さく固まるし、力のない社員は「どうせA評価以上は期待できないから、頑張ってもしかたがない」とあきらめムードに包まれます。仕事が合っていないなら、「得意な仕事」ができるように異動させる。上司と部下の実力差がありすぎるなら、上司を変える。こうすることで、伸び悩んでいる社員の成長をうながすことができます。
Chapter5定期的に部下と「面談」することを決定する
毎月1回、上司と部下の個人面談を義務化する個人面談は、質よりも量を重視する社員一人ひとりが、「自分の人事評価」について納得するために、わが社は「評価面談」を実施しています。面接を行って、「どこが良かった」「どこが悪かった」「こうすればもっと良くなる」と具体的に示唆することで、人事評価が下がった社員も不満を持つことなく、「次回は絶対に良い評価をもらおう」と頑張るようになります。評価面談には、次の2つのタイプがあります。①直属の上司と部下の個人面談②社長と社員の評価確定面談①直属の上司と部下の個人面談上司と部下の個人面談は、「毎月1回、必ず実施する」ことを義務づけています。コミュニケーションは、回数です。半期に1度の面談では、社員の気持ちをカバーすることはできない。半期に1度、1時間の面談より、1回10分でいいから、毎月面談をしたほうが上司と部下の価値観が揃います。「面倒だ」といって面談をしたがらない部下と上司がいるが、1回の面談につき「500円」支給するので、「500円」ほしさに嫌々ながらも面談をします。また、面談をしていないのに、「した」と噓をつく社員もいるから、面談をしたら、評価シートに上司の判子を押させています。判子がなければ、「面談をした」とは認めないので、評価が下がります。多くの会社では、面談が上司の説教大会になりがちです。そこでわが社は、お説教にならないように、前述した「評価シート」の数字を見ながら面談をします。部下はまず、それぞれの項目について自己採点をしてふせん紙を貼って上司に出し、上司も、部下の点数を採点します。そして、お互いの採点結果をすり合わせて、「点数の違い」について話し合います。部下と上司では「見ている視点」が違うから、当然、点数に差があります。その差を埋めることで部下は成長します。何かを検討するときに時間が長くなると、それだけ不確定要素が増えて、不公平で不正確になる。面談は、短ければ短いほど正確です。株式会社凪スピリッツの生田智志社長は、人事評価制度をつくったことで、「思わぬ副産物があった」と話しています。それは、面談です。
「給与体系が明確になったことで、社内のコミュニケーションがとても良くなりました。月に1度、上司が部下と面談をすることで、上司は、『社員が今、何を考えているのか』『現場では何が起こっているのか』が把握しやすくなった。また、部下にしても、『上司が自分のことを見てくれている』ことがわかるから、結果的に、鍋蓋組織(横一列の組織)からピラミッド型の組織に変われた気がしますね。これまでも、飲み会などを開いて、上司と部下の接点をできるだけ持つようにしていましたが、面談を習慣化したことで、質の高いコミュニケーションがとれるようになりました」(生田社長)②社長と社員の評価確定面談わが社の幹部社員(2・5グループ以上)は、年に3回、社長の私と面談をします。半期ごとの「賞与面談」が2回と、「昇給面談」が1回です。「賞与面談」は7分、「昇給面談」は3分です。評価シートを見ながら、①業績評価点②プロセス評価③方針共有点④環境整備点と、合計点の確認です。「昇給面談」は2回の評価の確認と昇給評語の確定。新しい号俸が決まり、賃金テーブルを自分で見て新基本給を確認します。だから、時間はかかりません。評価確定面談では、私と社員のほかに、直属の上司も同席させています。なぜ上司を同席させるのか。それは、社長と社員の1対1では社員が緊張するし、また、上司がいちばんその社員のことをよく知っているからです。上司が座っていれば、社員の緊張も和らぎます。それに噓がつけない。社員は自分が損をすることを言いたがりません。1対1で面談をすると、社員は「どうせ小山さんは現場のことはわかっていないし、少しくらい数字を偽ってもバレないはずだ」と考える。けれど上司がいれば、噓がつけない。業績を誇張しようとすれば、上司から「おまえ、違うじゃないか」と横槍が入ってくるからです。
評価確定面談では、社員に自己採点、自己評価をさせる評価確定面談(賞与面談)の流れ評価確定面談(賞与面談)は、次のような流れで行います(経営サポートパートナー会員向けのプログラム「人事評価セミナー」で、私と社員の賞与面談を見学することができます)。ある幹部が、「これではオレたちは上野動物園の『猿』ではないか」とかみついた。「何を言っているんだ、お金を取って見学させているから『パンダ』だ」と私が言ったら黙りました(笑)。【賞与面談の流れ:ひとり7分間の場合】①自己採点「前期と比べて、今期は100点満点中何点だと思うか」と自己採点させます。私は、前回の自己採点の点数をノートに書き残しているので、「今回の点数が、前回よりも上がったのか、下がったのか」を確認します。このとき、「0点」「50点」「100点」はつけてはいけない決まりです。「0点」は「賞与はいらない」という意味ですし、「100点」は「完璧」という意味です。どちらも、ありえません。100点を認めてしまうと、次期の評価が「100点」だとしても、「点数は変わらない」ので、「成長していない」=「B評価でいい」と自分で認めていることになります。「50点」は、どっちつかずの数字なので「51点」か「49点」に直させます。すると、武蔵野の社員は自己評価が甘いので、9割が「51点」にします。後藤組の後藤社長が賞与面談をしているとき、ある社員が、「自己採点は100点。評価はSSです!」と自信を持って言い切ったことがありました。後藤社長がその社員に「何も悪いところはないのか」と聞くと「ありません」と答える。ですが後藤社長は、彼に「B評価です」と伝えました。彼は不満を口にしましたが、評価基準が明確になっている以上、後藤社長の評価は正しい。後藤社長は彼にこう言った。「キミは学生時代に野球部にいたからわかると思うけど、今のキミが言っていることは、『ストライクは4つまでにしろ』と言っているのと同じだ。野球のルールは三振であって、四振なんてありえるわけがない。後藤組は、こういうルールでやっている。そのルールの結果、キミがB評価だった。このルールを飲めないのなら、よその会社に行くしかないよ」(後藤社長)彼は評価を受け入れ、今も頑張っている。
②社員の振り返り最初の5分は、社員が今期を振り返り、「良かったこと」「悪かったこと」「どうすれば改善できるか」について話をします。話す時間の長さも、その社員を評価する目安になります。一所懸命頑張っていれば、話すことはたくさんある。5分間話すことがない社員は「業績が悪かった」とわかります。たいてい2分くらいで終わってしまう。反対に、業績が良い社員は、「自慢をしたくなる」ので、話が長くなります(5分以上話す社員には、「はい、打ち切り」と声をかけます)。③評価シートの点数の確認評価シートに基づき、「①業績評価点」「②プロセス評価点」「③方針共有点」「④環境整備点」の点数をすり合わせ、合計点を社員に答えさせます(最近では、「残業を減らす取り組みができているかどうか」も点数化し、合計点に反映させています)。④評価を確定する合計点が出たら、「では、人事評価は何だと思いますか?」と私から質問をし、社員に「自分の評価」(A、B、C)を答えさせます。私の評価と社員の評価が一致すれば、評価が確定します。ですが、わが社の社員は自己評価が甘いので、評価がA評価と思う社員は、A評価と言います。前回B評価の社員は「A評価」と言います。C評価の社員は、「B評価」と言います。もし、この評価が正しいとしたら、わが社には、C評価とD評価がいないことになる。自己評価は本当に甘い。そこで、自己採点で前回よりも点数が下がっているにもかかわらず、自己評価を上げてきた社員には、次のような説明をしています。「あなたは前回A評価でしたね。そして今回もA評価だと言う。けれど、前回よりも自己採点が○点も下がっているのに、どうしてA評価だと思うのですか?B評価ですよね」B評価に落ちるのは悔しい。けれど、自己採点の点数を低くつけたのは、自分自身です。だれも悪くありません。だから、B評価に落ちても文句を言えません。⑤賞与額の計算評価が確定したら、賞与がいくらになるのかを、その場で計算させます(配分点数×賞与単価で算出した金額に手当を加えた額)。そして、前回よりもいくら上がったか(下がったか)を社員に答えさせます。
昇進する予定の社員には、「上のグループでA評価を取った場合は、賞与がいくらになるか」も計算させます。(例)3グループ/1500円賞与単価×280点A評価の配分点数=42万円4グループ/1900円賞与単価×400点A評価の配分点数=76万円すると、賞与の額が大きく変わることがわかる。だから、やる気になるのです。⑥評価の説明と、アドバイス「環境整備の点数があと5点上がると、A評価になれる」「業績評価点があと2点上がれば、A評価になれる」といったように、「自分のどこが悪くて評価を下げたのか」「どうすれば評価が上がるのか」を具体的に伝えます。「社長との面談」に、人事評価制度の極意がある「株式会社関通」(物流・倉庫/大阪府)の達城久裕社長は、社員とのコミュニケーションを円滑にするために、次の「2つ」のことに注力しています。ひとつは、環境整備点検です(環境整備がきちんと行われているかを確認する作業)。月に1度、社長自らが全拠点を回り、環境整備の実施状況をチェックしています。その際、倉庫内で働く従業員全員に声をかけて、社長と従業員の距離を近くするように心がけています。そしてもうひとつが、「面談」。達城社長は、「人事評価制度でもっとも重要なのは、面談である」と考えています。
「上司と部下が行う毎月の面談はもちろんですが、社長が直接社員と話をする年2回の賞与面談と年1回の昇給面談がとくに大切です。ひとり5分程度の短い面談ですが、この時間が『社員の離職防止につながっている』と言ってもいいくらいです。『どうしてこの評価になったのか、どうすれば評価を上げることができるのか』を社員に具体的に説明できるから、たとえ評価が低い社員でも納得させることができます。全員が同じ道具(評価シート)を使って面談をするので、お説教になることもありません。A評価が取れなくても、それはその社員の『能力がないから』ではなくて、人事評価制度のしくみを知らないからです。だから、そのことをわからせてあげて、『自分にもできる』という気持ちにさせてあげることが大切です」(達城社長)面談は、社長にとっては社員のやる気を高める場であり、社員にとっては、次の半期に向けて「気持ちを切り替える場」です。「評価は半期ごとです。今期がC評価でも、明日からまた頑張れば翌期はA評価を取ることができる。だから社長との面談は、社員にとって気持ちをリセットする場ですね。どの社員も、面談を終えると晴れ晴れとした表情になっています」(達城社長)
部下を「えこひいき」する上司が正しい「課長になりたい」と手を挙げた社員をえこひいきする個人面談は、上司が「自分がえこひいきをする部下」を見つける機会です。多くの社長は、「社員をえこひいきしてはいけない」と考えますが、それは視野が狭すぎる考え方です。上司は「自分の言うことを聞く部下」をえこひいきするのが正しい。多くの社長は「えこひいき」の概念を間違えています。そもそも会社経営は、「お客様から、えこひいきをしてもらうための活動」です。ライバル会社より、わが社をえこひいきしてもらう(選んでもらう)から、業績が上がります。「えこひいきをしてはいけない」という考えは、「ライバル会社にお客様を取られていい」と言っているのと同じです。成績の良い部下は、「お客様からえこひいきされている部下」と解釈することができます。したがって、「お客様からえこひいきされている部下」を上司がえこひいきするのは、当然です。成績を出している部下をえこひいきしなければ、部下はやる気をなくしてしまうでしょう。面談をする課長は、自分の部下の中から「だれをえこひいきして、課長に昇進させるか」を考えています。えこひいきする部下を見つけるときのポイントは、「部下が自分から手を挙げるか、どうか」です。上司は、「僕は課長になりたいです!だから一所懸命頑張ります!」と自分から言える積極的な部下をえこひいきします。「上に上がりたい」と自分から手を挙げる社員は、「上司の言うことを聞かないと、上に上げてもらえない」ことがわかっているので、指示に従います。「上司に言われた通りにやる」ほうが仕事を早く覚えるし、成績を上げることができます。「上に上がりたい」という気持ちがない社員には、時間をかけない。手を上げない社員は放っておく。それが武蔵野のルールです。上司の指示にしたがったほうが、成功確率は上がる私はこれまで、多くの社長の指導をしてきました。しかし、指導しなかった社長もいます。
指導しなかったのは、「相談だけして、実行をしない社長」です。私は、「相談に乗ってほしい」という社長に対し、次のように言い続けています。「相談をする前に、私が指導したことを、その通りやるか、やらないかを決めてください。私が『こうしろ』と言ったら、あなたには、『はい』か『イエス』か『喜んで』の3つの選択肢しかない。それでも相談しますか?その中から選ぶ覚悟があるなら、話を聞きます。その覚悟がないなら、時間はつくりません」自分の考えを捨てられない社長は、会社を危険にさらします。いくら相談をしても、それだけでは変わりません。人も会社も「実行して変わる」のです。「自分のやり方で成果が出なかったから、成果が出ている小山昇の言うとおりにしてみよう」と素直になれる社長は、その後、大きく変わります。上司と部下も同じ。上司は、部下よりも、成果を出しています。だとすれば、成果が出ている上司の言う通りにしたほうが、うまくいく確率が高い。だから、上司に言われた通りにやる社員は、結果的に早く昇進できる。部下をえこひいきすることが、部署の実力アップにつながるえこひいきをすると、部署の実力を底上げすることができます。ひとつの部署に、Aさん、Bさん、Cさん、Dさん、Eさんの5人の部下がいます。普通の会社の課長は、この5人を分け隔てなく、まんべんなく教育しようとします。ですがこれだと、ひとり20%ずつしか力を掛けられないため、人が育ちません。ところが、Aさんを超えこひいきして、80%の力を掛けて教育すれば(残りは5%ずつしか掛けない)、Aさんは短期間で成長します。Aさんが成長したら、今度はどうするかというと、課長はBさんをえこひいきして、力をつけたAさんに「Cさんの教育をさせる」(Cさんをえこひいきする)のです。すると、Aさん、Bさん、Cさん、3人の実力が上がることになります。そして、力をつけたBさんにDさんの教育をさせ、CさんにEさんの教育をさせると、結果的に5人すべての実力が上がります。部下のひとりをえこひいきすることによって、結果的にシナジー効果が働き、部署全体が強くなるのです。
社長は「部下がつけた評価」を変えてはいけない部下がつけた間違った評価は正しい武蔵野が、給与も賞与もすべて公開できるのは、「部下がつけた評価を私が変えないから」です。社長にも聖域はない。昔、こういうことがありました。6人の部下を持つU部長が、その中のひとり、S子の成績が悪いのを見かねて佐々木大志課長(当時)、大森隆宏課長(当時)、小林哲也課長(当時)、品田洋介課長に指示して、S子の応援をさせました。狙い通りにU部長はS子をA評価にした。5人の部下が「納得いかない。バカらしくてやっていられるか」となるのは当然です。彼らは、部長の命令にしたがってS子を応援しました。その結果、S子の成績は上がったが、実は、このえこひいきには、U部長のS子に対する私心が含まれていたのです。U部長はS子に「A評価」をつけて、部長の指示にしたがった5人の部下の評価を下げた。当然5人は、釈然としません。「好きな女性の評価を上げるために、オレたちをダシに使った」「S子が頑張れたのはオレたちのサポートのおかげなのに、オレたちの評価が低いのはおかしい」などと思った。では、そのことを知った私は、S子の評価を下げたと思いますか?いいえ。私はS子を「A評価」とした。そのかわり、私情を持ち込んだU部長の評価を下げました。評価面談終了後に、由井英明(当時部長)をU部長の代わりに担当させました。最初から正しい評価ができる人はいない多くの社長は、部下がつけてきた評価(上司がつけた一般社員の評価)を「そうは言っても」と言って「鉛筆ナメナメ」をしています。つまり、もっともらしい理由づけがないまま、点数を補正する。ところが、私の場合は、部下がつけた点数を絶対にナメません。たとえ上司の評価が間違っていたとしても、補正することはありません。なぜなら、
「部下がつけた間違った評価は正しい」と考えているからです。最初から部下の評価を正しくできる人は、武蔵野にはいません。間違った評価をしていい。間違いに気づいて、次に直せれば問題ありません。評価を間違えたことで、部下に対して申し訳ないと思うとともに、自分の未熟さを知ることができます。そしてさらに、「一度出した決定は覆せない重いもの」であることを覚えさせる。そうやって上司は「正しく評価する力」を身につけていくのです。
定年退職後、本人と会社の希望が合えば、嘱託社員として働ける武蔵野が退職金を支払わない理由武蔵野に、退職金制度はありません。そのかわり、嘱託社員(正社員とは異なる契約によって勤務する非正規雇用)としての再雇用制度があります。退職金がある会社とない会社では、多くの社員が「退職金のある会社のほうが、いい会社」だと考えます。ですが、それは違います。退職金がなくても、嘱託社員として再雇用してくれる会社のほうがいい会社です。わかりやすく言うと、500万円の年収がある人が、定年退職するときに1000万円の退職金をもらっても、2年でなくなってしまう。ところが、嘱託社員として再雇用されれば、年収は下がっても、2年以上働くことができます。斉藤健一は、定年退職してからもう10年です。狐塚富夫は9年、伊藤修二は4年です。年金を加えると、正社員だったときの「3分の2ぐらいの収入」を得ています。だから、退職金をもらうよりも、嘱託として働くほうが得です。それに、定年退職後に家でブラブラしているよりも、仕事をしていたほうが、本人も充実した毎日を送れる。斉藤健一は「人事評価制度を導入するセミナー」の講師。狐塚富夫は「誰でもできる経理システム導入」と「実践経営塾経営計画書作成・長期計画・資金運用」のチェック講師です。伊藤修二は「経営計画短期短期計画」のチェック講師として活躍していますので3人ともなくてはならない人材です。斉藤健一については、斉藤が部長・役員時代に、私の指示を具現化して武蔵野の人事評価制度の土台をつくった大功労者でもあります。本人たちには、死ぬまで働けとハッパをかけています。朝、起きて仕事ができることに感謝です。ただし、だれもが嘱託社員になれるわけではありません。経営計画書に、「本人と会社の希望が合致するときは、等級嘱託として働くことができる」と明記しています。本人が「定年退職してからも武蔵野で仕事がしたい」と思っても、会社がノーと言ったら働けないから、実態は「本人と会社の希望」ではなく、「会社の希望」です。
定年退職の年齢が60歳とすると、普通の会社の社員は、58歳ぐらいから仕事をやらなくなります。ところが武蔵野の社員は違う。嘱託社員として雇用してもらうには、会社に認めてもらう必要がある。会社に「雇用」してもらわなければなりません。だから60歳までめいっぱい頑張ります。無事に嘱託社員になれても、喜んでばかりはいられません。嘱託社員は、「1年ごとの契約」ですから、翌年も契約してもらえるように、頑張って仕事をする。だからわが社は、「おじさん社員」ほど、張り切って仕事をしています。退職日は、その社員の「誕生日」に決めています。「3月31日」を退職日にする会社もありますが、それでは、3月31日に一度に社員が辞めてしまう。すると、4月1日以降の仕事のやりくりができなくなります。しかし、誕生日を退職日にしておけば、退職する社員が分散するので、業務に支障をきたしません。退職金制度をなくしたのも、社員のやる気を引き出すしくみです。
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