はじめに
武蔵野の増収増益は、パートによって支えられている私の会社に、「パート出身」の常務取締役がいます。滝石洋子です。年収50万円でスタートした滝石の現在の年収は、1500万円です。彼女は勤続39年。各家庭にダスキン商品を交換に行くシーダー(外交員)として働きパート課長を経て、部長昇格を機に社員になりました。仕事をはじめてすぐに、新規契約を50件取ってきた滝石は、入社1年で150名のパートをまとめる統括マネジャーになった。「小山が、会社のことも仕事のこともよく
中核に据えて、戦力化してきたからです。パート全員が突然辞めた!しかし、はじめからパートの協力を得られていたわけではありません。20年ほど前、私が社長になった当初の武蔵野は、魅力的な職場とは言い難く、多くのパートが去っていきました。私は27歳のとき、武蔵野の創業者、藤本寅雄と衝突をして会社を辞めました。その後、株式会社ダスキンの社員を経て、「株式会社ベリー」という貸しおしぼりの会社を設立しました。ところが、「ベリー」の経営が堅調になった頃、病気療養中の藤本から、「会社に戻ってほしい」と頼まれた。そして1987年、私は、自分の会社の社長をしながら、武蔵野(当時は、「日本サービスマーチャンダイザー」でした)に常務として再入社しました。社長と常務の二足のわらじです。私が会社を離れていた間は、I部長(女性)が業務用部門の部長となり、私が担当していたときよりも売上を伸ばしていた。「私は、小山さんの売上を超えたのよ」得意げに言うI部長に、私はカチンときた。「ケンカを売られた」と思った私は、そのケンカを買うことにしました。再び業務用部門を任されることになった私は、自分の会社(ベリー)よりも武蔵野の仕事を優先して売上を伸ばし、半年後には、I部長の鼻を明かしたのです。I部長は、相当頭にきた。プライドを傷つけられたはずです。小山昇に対する憤りもあったでしょう。その後しばらくして、I部長は、私がまったく想像もしなかった方法で、やり返してきました。何の前触れもなく、ある日突然、家庭用部門のスタッフ(社員とパート責任者)を全員引き連れて(約10人)、会社を辞めたのです。現場は、混沌とした有様です。その場をしのぐために、業務用部門にいたK(元常務)を呼んで、「今日から家庭用部門の担当になれ。はい、君は本部長!」。アルバイトだった伊藤修二(定年後に委託勤務)を呼んで、「今日から社員になれ。はい、部長!」。中卒のYを呼んで、「今日から社員になれ。はい、課長!」と指示を出して仕事と責任を与え、なんとか乗り切りました。I部長を追い込んだのは、私の配慮が足りなかったことが原因です。先輩であるI部長に「私がいない間、業務用部門を支えてくださってありがとうございました」と感謝を伝えるべきだった。I部長がいなくなったあと、それはもう大変な思いをしましたが、「スタッフが半分以
わかっていない私に『統括マネジャーになれ』と言うので、『この人、何を言っているの?』といぶかしく思っていたら、小山がこう続けたんです。『仕事は今の半分で、給料は今の倍にする』って。私は『本当ですか!』と前のめりになりながらも、まだ信用できなかったので、近くにいたパートをひとり連れて、『小山さんが、私の仕事を今の半分にして、でも給料は今の倍にする』と言っているから、あなたも一緒に聞いて。証人になってね』とお願いしました。本当に、その通りになりましたね(笑)」(滝石)また、パートから部長に昇進し、社員の課長2名を従えていた女性もいます。佐々木佳那です(ご主人の定年退職に合わせ、佐々木も退職)。私の会社「株式会社武蔵野」(以下武蔵野)にはかつて、「事務管理部門」と呼ばれる部署があり、佐々木の発案で、「営業サポート」と名称を変えました。すると、事務管理部門のパートが「営業的な発想」で考えるようになり、仕事の質も、売上も、お客様満足度も上がりました。業務マニュアルを「新人用」と「ベテラン用」の2つに分けたのも、佐々木です。佐々木は「扶養の範囲内で仕事をする」という意向を持っていたので社員にはならなかった。ですが、武蔵野が2000年度、「日本経営品質賞」を受賞できたのは、現場を知る佐々木が、パートの戦力化を推し進めたおかげです。武蔵野は、ダスキン事業と経営サポート事業(経営コンサルティング)の2本柱で、15年連続増収、過去最高売上・過去最高益を更新しています。全従業員数は約800名。そのうち、正社員は230名。パートは約550名です。わが社の増収増益は、パートのみなさんによって支えられていると言えるでしょう。もっと言えば、5年前、武蔵野の売上は「40億円」でした。今期は「60億円」(2017年3月実績)です。わずか5年で150%成長したのは、パート・アルバイトを経営の
上辞めても会社は潰れない。けれど、お客様が半分以上いなくなったら、会社は潰れる」ことがわかったのは、いい経験でした。パートの大量離職の責任は、小山昇にあったパートが離反したのは、この1回ではありません。部門の女性半分が、「脱走していなくなった」こともあります。私がブロック部門を引き継いだとき、その部門には、女性が中心となるAグループとBグループの2つの派閥があり、実力が拮抗していました。Aグループをとりまとめていたキーマン(派閥のドン)から、「どっち(のグループ)を取るの?」と言われた私は、黙っていた。するとある日、Aグループが全員、いなくなっていたのです。当時の私は、女性の心理や女性特有の感性をわかっていなかったので、私自身が持っている「男の心理と男の感性」で女性パートをマネジメントしていました。でも、それがいけなかった。ダスキンのシーダー(外交員)のチーフとして頑張っていたパートが「辞めたい」と言ってきたときも、「どうぞ。いいですよ」と軽く返事をしました。すると辞めたとたん、彼女は、「小山昇に辞めさせられた」と言いふらしはじめた。新しく採用したパートの家にまで押しかけて、「武蔵野はひどい会社だから辞めたほうがいい」とけしかけた。その結果、噂が広まって人がどんどん辞めてしまい、それから1年半くらいは、パートの採用に苦戦しました。彼女が「辞めたい」と言ったのは、「長年頑張ってきた私の頑張りを認めてほしい」「『あなたは会社に必要だ』と言って引き止めてほしい」という気持ちの裏返しだったのに、私は気がつかなかった。女性心理がわかっていなかった私は、たくさんの失敗をしました。ですが、数限りなく失敗を繰り返し、試行錯誤を重ねた結果、「パートが社員と同等以上に力を発揮する会社」に変わることができたのです。従業員満足度約9割の「超異常」な会社わが社は、1999年以降、毎年、従業員アンケートを実施しています。パートの声をいち早く汲み上げて、現場改善に役立てるためです。パートの戦力化に取り組み、雇用環境を改善した結果、現在では、「87・7%」のパートがわが社に満足しています(参照)。2000年には、パートの満足度が「19%」しかなかったことを考えれば、「87・7%」という数字は、「超異常」です。かつての武蔵野は、パートの雇用環境が悪く、超・超・超ブラック企業と呼ばれていました。そんな武蔵野が「超異常で、超健全な会社」に変わることができたのは、パート心理
(女性心理)に基づいた「しくみづくり」に取り組んできたからです。
【パート戦力化のための主な取り組み】・「経営計画書」に「パート・アルバイト・契約社員に関する方針」を明記し、給与、賞与、人事評価のしくみを透明化する・実力のあるパートにはポジション(役職)を与えるなど、社員とパートの差別をなくす・パートを経営に参画させ、自主的に現場を改善させる・社員教育の回数を増やして、会社の価値観を共有する・パート全員にタブレット端末(iPadminiなど)を配布して、残業時間を減らす・飲み会、食事会、懇親会など「楽しいイベント」を定例化して、パート同士のコミュニケーション量を増やすパートを大切にしない会社は、生き残れない2017年度税制改正大綱において、「配偶者控除」の廃止そのものは見送られました。しかし、2018年1月から、世帯主の所得からの満額控除(38万円)が適用される配偶者の所得の上限が、「103万円以下」から「150万円以下」に引き上げられます。私は、上限額の引き上げによって、「優秀なパートはこれまで以上に評価される(稼げる)ようになる」と考えています。現在、武蔵野のパートの賞与は「上限12万円」ですが、「上限20万円」にすることもできる。すると、優秀なパートを採用することも、優秀なパートの離職を防ぐことも可能になります。つまり、これからの時代は、今まで以上に企業間の人材格差が生まれる。そして、「パートを公平に評価する会社」に人材が集中します。また、安倍政権は、誰もが活躍できる「一億総活躍社会」の実現のため、「働き方改革」を掲げています。改革の主軸となるのは、非正規雇用者(パート)の待遇改善と長時間労働の是正です。正規雇用者と非正規雇用者の間には、賃金や能力開発機会などの面で大きな差があるのが実情です。武蔵野は、すでに何年も前から、非正規雇用者の待遇改善に取り組んでいます。わが社にとってパートは貴重な戦力であり、パートの雇用環境を整えたことが会社の成長につながったからです。パートを「社員の手足」や「使い捨ての駒」としか考えない会社は、競争力を失い生き残ることはできないでしょう。右肩下がりの時代でも成長を続けるには、「パートを大切にして、戦力化する」ことが不可欠です。
本書では、武蔵野の「経営計画書」に明記された「パート・アルバイト・契約社員に関する方針」の内容を軸に、わが社で実際に働くパートの声や、武蔵野がコンサルティングをしている経営サポートパートナー会員の成功事例などを通して、「パート戦力化」のしくみを紹介していきます。まず序章で、「パートの戦力化」の重要性と、社長の心がまえについて解説します。続く第1章~第5章では、「パートの戦力化」を実現するために必要な「ルール」「人材育成」「モチベーションアップ」「コミュニケーション」「採用」の5つのポイントから具体的な方法を解説します。本書が、ひとりでも多くの経営者の助力となれば、嬉しく思います。最後に、本書の作成にご助力いただいたクロロスの藤吉豊さん、執筆の機会をくださったKKベストセラーズの戸谷静香さんにこの場を借りて御礼申し上げます。2017年6月株式会社武蔵野代表取締役社長小山昇
儲かりたいならパート社員を武器にしなさい
目次
はじめに
序章パート社員は、一緒に夢を実現するパートナーである
パートを戦力化すると会社が儲かる
パートは「時給を高くして、短時間働いていただく」のが正しい/高時給・短時間労働の4つのメリット/パートは、「一緒に夢を実現するパートナー」
パートと社員の区別をなくしなさい
パートにも、社員と同じレベルの仕事を与える/パート戦力化の鍵は、社員とパートを差別しないこと/パートの資質を見極められないと、戦力を無駄にする/会社は、もうひとつの「家族」である/パートに、若手社員を「子ども扱い」していただく/歩のない将棋は負け将棋
第1章優秀なパートを育てたいなら「会社のルール」を教えなさい
「理解」させればパートは最大の協力者になる
「会社のルール」を教えることが戦力化の第一歩/パートの文句は、向上心のあらわれ/パートが会社を辞める「3つ」の理由/女性は、何よりも不公平を嫌う/どうして給料が下がったのに「嬉しい」と言えるのか/ルールが明確になっていれば、差をつけてもいい/女性は、仕事を正確にする能力が高い
会社の方針を「共有」、そして「実行」させる!
経営計画書を全従業員が共有し、絆を深める/新人パートは入社1ヵ月以内にオリエンテーションに参加させる/パートに自部門の実行計画を立てさせる/多数決で決めさせてはいけない/自分たちで計画をつくるから、仕事が楽しくなる
なぜ武蔵野のパートはハイレベルな提案ができる?
常務、滝石洋子を驚かせた提案とは?/「メリーメイド小金井支店」が、「売上全国第1位」を達成した理由/個人の売上目標を明確にして、やる気をうながす/社員からパートになった従業員から見た武蔵野の働き方
社長の覚悟がなければパートの戦力化は成功しない
社長が変わればパートが変わり、会社が変わる/パートがやる気を出さないのは、すべて「社長」の責任/会社がいちばん苦しいときに賞与を払う/あいまいな返事はせず「できる、できない」をはっきりさせる/パートの声を無視して、現場改善はできない
第2章パートの能力は「しくみ」で最大限引き出せる
都合の良い時間に働いてもらう
パート全員にiPadを支給して、空中戦を仕掛ける/なぜ75歳のパートまでもがiPadを使いこなせるのか?/残業改革に取り組む理由を説明し、協力を仰ぐ/ダブルキャストで臨機応変に対応する/有給休暇の日数は、パートが自分で管理する
人は動かせば動かすほど成長する
強制的に環境を変化させる/人事異動は「モンスターパート」や「派閥」を生まないしくみ/勉強嫌いのパートに勉強させる奥の手/新しい体験を与えて失敗させることこそが人材教育/パートを動かす「100回帳」
「パート課長」「パート部長」をどんどんつくる
問題意識の高い人にポジションを与えなさい/管理職を選出するときは、最古参に声をかける/役職につきたがらないパートは、口説き落とす!/99%のパートが落ちる口説き文句/潔癖すぎる人は、管理職に向いていない/夫婦仲が悪い女性を課長にしてはいけない
現場重視のしくみづくりが生産力アップの近道
個人のスキルを「数字」で見える化する/小さな改善の積み重ねで生産力アップ/外部委託よりもパートの戦力化に利がある理由
第3章やる気は「お金」で買いなさい
お金のルールが明確だとパートは辞めない
愛はお金/給与はお客様が払い、賞与は社長が払う/時給は、「少額ずつ、定期的に上げる」ほうがパートは辞めない/賞与額も「足し算」で決める/「価値観の共有」が何より重要
パートが高いモチベーションで働けるしくみ
「お楽しみ会」での非日常体験がモチベーションになる/忘年会の会費は「高いほう」が喜ばれる/「表彰制度」はパートの励みになる
第4章職場のトラブルはすべてコミュニケーションで解決できる
「社長の声かけ」がパートのモチベーションになる
パートをほめるときは、全員に、同じだけほめる/洋服の「色」をほめるだけでも、パートは喜ぶ/従業員アンケートを取ると、社長の心が折れる/飲み会や懇親会の回数が多いほど、社内のコミュニケーションは良くなる/飲み会に、社長も積極的に参加する
コミュニケーションの量に比例して組織は強くなる
言いたいことを言える環境づくりを/パートと社員のコミュニケーションが良くなれば、会社が儲かる
職場で揉め事を起こさせない武蔵野のしくみ
メリーメイド事業部にロッカーがない理由/仕事の揉め事の多くは、プロセスの違いが原因/武蔵野の法律は「小山昇」/女性同士の職場では、100%揉め事が起きる
どうして「女性組織の長」は出世が早いのか?
武蔵野では「女性組織の長」を経験しないと、部長になれない/女性組織の潤滑油
コラム満足度が高い「がんばったパート・アルバイト懇親会」
第5章「価値観」重視で採用しなさい
「能力」で採ってはいけない
能力が高い人よりも、価値観が合う人を採用する/能力があっても、仲間と仲良くできない人には辞めてもらう/パートにも、新人採用の決定権を与える
「採用」ではなく「定着」が最優先!
新しい人を採用するより、今いるパートを辞めさせないことが先決/会社がヒマなときに採用したパートは、辞めやすい/お世話係を導入して早期離職を防ぐ
「高待遇」じゃなくてもパートは集まる
求人広告のメインコピーには、自社の強みを打ち出す/働く理由は「お金」だとはかぎらない/「不人気業種」でもパートが集まる方法/シニア世代を積極的に採用し、戦力化する
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