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信用調達、金融調達は極力なくそう

ここまでの話でも十分にわかっていただいたように、在庫や売掛金は、できるだけ少なく

することだ。また、受取手形はいっさい、受け取らないようにしたい。これを肝に銘じるこ

とが大切である。

総資産はたくさん持ってはいけないのである。なぜいけないのかというと、貸借対照表に

は右側があるからだ。貸借対照表の右側には負債・資本の部と書いてある。つまり資金を調

達する側(部)である。貸借対照表の左側に書かれている資産の部にある、例えば売掛金や在

庫などをはじめ、工場や機械・備品などすべての資産を調達する源泉である。この財産(資産)

はどこからか調達してくるわけだ。もちろん、その財産を全部自己資金でまかなって、右側

が資本金と利益だけであれば何も言うことはない。だが、そのような会社は見たこともない

し、現実に一社もない。どの会社も貸借対照表の右側は資産を調達したための負債と資本金

が書き連ねてある(三二四ページの図表316を参照)。

負債のなかには買掛金や未払金などがあげられているが、ほとんどの会社の場合は、負債

の大部分は短期借入金と長期借入金である。そして「資本の部」のところに長・短借入金とは

比べものにならないほんのわずかな金額が、当期利益金と記されている。

例えば当期利益が五〇〇万円と記されているとすると、「この会社は一年間で五〇〇万円

儲けたのだなぁ」ということがわかると同時に、その五〇〇万円をどのようにして稼いだか

がわかるように書かれているのが損益計算書である。

具体的に言うならば、売上げからこれだけの原価。人件費を使って五〇〇万円の利益を上

げたという説明書である。その結果、あなたの会社の財産はこのようになっていますよ、と

いうのが貸借対照表というわけである。だから、当期利益が、資産の総合計に対して一〇%

以上の利回りになっているかどうかが評価の基準になるのである。

「わが社の収益性はいいなぁ」

「総資本一〇億円に対して一〇%に当たる一億円の利益が出ている」

収益性がいいか悪いかの判断はまず、この比率を見るのである。「一〇%どころか、 一%し

か出ていない。どうしたらいいのか」というように。貸借対照表の右側の、資金調達つまり

負債の部分が拡大すればするほど、利回りは悪くなる。

もちろん、商売なり事業の内容によって負債が一時的に増えぎるを得ない場合はある。

「先生、そんなことを言われますが、うちの商売はシーズン商品を扱っているのです。栗

は秋にしかできません。その時期に一年分の原料(栗)を全部仕入れなければなりません。し

かもこのごろは日本での栗の収穫量はだんだん減ってきているので、中国の四川省など海外

から買い付けねばならないケースが増えているんです」

というような場合は、どうしてもそのための資金調達額がぐ―んと大きくならぎるを得な

い。こうした事情はそれぞれの会社の事業なり商売によって違ってくるが、工事会社の場合

も、大きな仕事をしたら、下請けに支払うお金が当然膨らむ。

このように事業や商売によっては負債が増えるのも納得できるが、その場合でもできるだ

け知恵を絞り、工夫をして、この調達資金つまり負債をどうしたら少なく抑えることができ

るかを考えることがトップとしては大切である。必要なものは必要なんだからといって放っ

ておけば、右側の負債は限りなく増えていってしまう。それが買掛金で増えていくのならま

だいいのだが、現実には支払手形や短期借入金なり長期借入金で増えていく。借入金が増え

ると、会社が仕事をしていようがいまいが、その借入金には三六五日必ず金利がついてくる

し、支払日にはきちっと支払わねばならない。これが怖い。ひとつ間違えると、会社の命取

りになりかねない。このことを真剣に考えていただきたい。

「いま、金利が安いから」

「いま、支払い能力があるから」

と決して安易に考えないことである。借入金を一年で返すつもりで、実際に実行すればい

いのだ。気を許すと、借入金は一〇年、 一五年と返済期間が長引きがちになる。それに会社

の業績がず―っと期待どおり維持できるという保証はない。

繰り返して言うが、大切なことは、従来の損益計算書中心の考え方を総資本利益率中心に

改め、つねに総資産を減らすよう努力することである。もちろん、誰もが利益を出そうと考

えている。あの商品を仕入れて、あの得意先に販売してという具合に、具体的な事業なり商

売の方法については誰でも考えるのだが、その際、肝心な総資産については考えない。銀行

なり外部の取引先が「おたくの財務諸表を見せてください」と言うのも、実はこの他人資本が

どの程度あるのか知りたいからだ。しかも、少し長期的に会社の自己資本と他人資本の推移

を見て、経営の状況を把握するのが目的である。

「一期分では困ります。三期分見せてください」と言うのもそのためである。さらに「すみ

ません、専務さん、これらの表の内容をご説明いただけますか」と言われる。そのときに損

益計算書なら説明できるけど、貸借対照表は説明できないというのでは困るのである。

例えば三期分の財務諸表を見た相手は、「おたくは土地を購入されましたね」と聞いてくる。

見ればすぐにわかるのだから、当然のことである。また「機械、これも増えていますね」と。

いつ、どこで、どういう機械が増え、さらに建物が増えていることも一日でわかる。それだ

けでなく、土地や機械、建物を買ったり建てたりしたために支払手形が増えていること、商

品の販売代金を現金でなく手形で受け取っていることもすぐにわかる。仮に粉飾決算しても、

一期分ならともかく、三期分の財務諸表を見れば、その実態がバレてしまう。

ともかく、強い会社、倒産しない会社は、余分な土地、建物、機械、受取手形を持っていない。

さらに、オールキャッシュの現金商売に徹している会社ほど強い。また実際に「在庫なし」と

いう会社だってある。

いい例が、あのトヨタ自動車である。実はトヨタ自動車は、昭和三二年(一九四七)ごろに

倒産しかかっていた。「なんとか助けてくれ」と国に駆け込んだこともあった。だが当時、政

府は「日本は戦争に負けたのだから、自動車の生産はビッグスリーが存在するアメリカに任

せるという国際分業が望ましい。日本は自動車などつくるべきではない」という方針だった

ので、トヨタの願いにけんもほろろの態度で聞いてくれなかった。住友銀行へも頼み込んだ

が、断られた。

そのときに救いの手を差し延べてくれたのが、三井銀行と日銀だった。そこでアメリカの

ビッグスリーに対抗するために、トヨタは新しい経営手法を考えた。自動車産業は、工場の

土地・建物・機械設備はもちろん、協力会社や下請け会社から仕入れたさまざまな部品を入

れるための広い倉庫が要る。これら部品は自動車が出来上がるまでは在庫商品である。しか

し、この在庫を持たなければ、在庫を入れておくための倉庫も広い土地を持たなくてもよい。

こうした課題解決法として、その後数年かかって開発したのが、皆さんもよくご存じの「か

んばん方式」である。おわかりのように、この「かんばん方式」は、 一つには在庫をいっさい

持たずに経営しようという考え方からスタートした。その分、貸借対照表では在庫を調達す

るのにかかる支払手形や買掛金などの負債が不要となる。文字どおり「在庫なし」経営で強み

を発揮できるわけである。

鈍感な経営者は気がついていないが、怖いのは金利水準の変動である。バブル不況で低金

利へ移行したときには、支払金利額が減って多少の恩恵を受けたはずである。しかし、日銀

の方針で一夜にして金利が上がると、たちまちキャッシュフロー(市中に流れる現金)の動

きが遅くなる。高金利時代にはそれが速くなると、昔から言われてきた。

以上、私は持論を申し述べてきたが、「先生の論法はキャッシュフロー重視主義ですね」と

よく言われる。この本では、できるだけわかりやすく心がけたので、難しい横文字は使わず、

キャッシュフローという言葉も使うのを避けてきた。

だが、フロー(流れ)、つまり貸借対照表(バランスシート)の貸方と借方での現金の流れ

をよくチェックしていくことは、この世に事業なり企業が誕生して以来、長いこと企業経営

の基本であった。そこでは借りたものはキチンと返すのが信用であったはずで、売上げ、取

引額、借入金の大きさを誇るのではなく、約束の履行を誇ったものである。さらに約束より

早く返却するのが、ほめられたことであったはずである。ところが、昨今、早く返せば銀行

は困るという。日本の金融取引は、これらの約束。信用を軽視するおかしな風潮に変わって

しまった。今日、金融業界が抱えている複雑で深刻な苦しみの一つは、ここからきている。

洋の東西を問わず、よい会社、強い会社は在庫を減らし、売掛金残高を減らし、運転資金

を増やして、土地・建物・設備を中心とした有形資産の増加をできるだけ抑えて、回転中心

の経営を実行しているのである。

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