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会社を託す勇気

2代目がプラモデルを赤く塗ったときに  次の社長になる人物が成長してきて、そろそろ自分は身を引く時期だなと思っても、会社と自分が一心同体になっているような社長さんは、なかなかその決断はできないもののようです。  私は、会社をなかなか手放せないという悩みを抱えておられる社長さんが感情コンサルにこられると、よくこんなたとえ話をします。「社長さんが、真っ白に塗装したロボットのプラモデルを大ヒットさせたとします。その商品で一世を風靡した社長さんは、そのプラモデルの会社を 2代目社長に譲りました。するとほどなくして、 2代目社長が、そのプラモデルを赤く塗り替えてしまったとき、黙っていられますか?  それとも、『おいおい、待てよ!  それは白だろ!』って口を出しますか?  そうなったとき、『まあ、赤でもいいか……』って思えることが、本当の『手放し』です」  自分が心血を注いだ会社です。  簡単には手放せないかもしれません。   100年続いた老舗の羊羹屋さんの社長が、社長の座を譲った途端、新社長がドーナッツの開発をはじめたとき、「ウチの強みは羊羹だぞ」って口を出すか、それとも、「それも時代か……」って新社長を認めるか。  会社を託すとは、そういうことなのだと思うのです。  もし、「新社長のヤツが、あの大ヒットした白いプラモデルを赤くしやがったんだ」って嘆く前任の社長さんが感情コンサルにこられたら、私は、まず前の社長さんにご自身のこれまでの頑張りを一緒に振り返り、ねぎらっていきます。「あのプラモデルをゼロから作るのは本当にたいへんだった。それでも、細部にこだわってよく作ったよな……。最初に売り込みにいったときは、無視されたっけ……。それでも、やっと店に置いてもらって、子どもたちに口コミで広がったんだ……。よく売れたよな……。本当によくやってきたな、私は」  白いプラモデルを赤く塗られても、自分が否定されたわけではありません。でも、自分を認めていないと、カチンときてしまう。  でも、こうやって自分で自分を認めることができれば、それまで会社と一心同体だったものが、「もういいか」って、会社と自分を分離することができます。「自分はもう、やるだけのことはやったから、あとは、次の社長、好きに頑張れや」って、手放せるようになるのです。  自分のことを認められない人は、人のことも認められません。  そして、自分のことを認められた人は、人のことも認められます。ある企業人の、素敵な「引き際」  この章の最後に、私が感動した、ある方の「引き際」についての話です。  その方は、誰もが知る、ある大手企業の専務さんで、周りからは次期社長と言われていました。  ところが、社長の地位を目前にして、突然、会社を辞めてしまったのです。  その方をよく知っていた私は、驚いて理由を尋ねました。  すると、さわやかな笑顔でこうおっしゃったんです。「いや、社長というのはたしかに名誉かもしれないけれど、僕は自分の時間を大切にしたかったんだよ。実はね、死ぬまでにこれを完成させたいんだ」  見せてくださったのは、中山道を自分の足で歩いて作成した手書きの地図でした。「社長になったら忙しくなって、死ぬまでに完成させられなくなってしまうからね……。僕は、これまでにずいぶん会社に貢献してきたから、あとはもう、自分の好きな人生を歩きたいと思ったんだ」  お話をうかがい、私は、その引き際のあまりの潔さと鮮やかさに感動しました。そして、なんて、ご自身の人生と真摯に向き合っておられるのだろう、と胸がいっぱいになったのです。  人は、誰でも 100パーセント死んでいきます。  この「死」というものを意識したとき、自分の「生き方」も意識できるのではないでしょうか。  社長さんにとって、会社とその社員は大切なものであるのは間違いありません。  でも、人生は、会社がすべてではありません。  臨終のとき、「『もっと会社を大きくすればよかった。もっと、お金を稼げばよかった』と後悔する人はいないけれど、『もっと、自分の人生を歩けばよかった』と後悔する人は多い」と、知人の看護師さんから聞いたことがあります。  後悔しない人生を歩むには、自分の「喜びの感情」を思い出すこと。  そして、この元専務さんのように(この方は、その後、地図を完成させたのちに、お亡くなりになりました)、自分にウソをつかないで生きることだと思います。

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