相談にお見えになる経営者のなかには、「息子に会社を継いでもらいたいのだが、実は会社の内容がよくなくて、いまのままで継がせたのでは息子に気の毒だ」と率直に実情を吐露する方もいます。
しかし、そこから力強く立ち上がる例もあります。
京都ではただ 1軒となった和傘の老舗は、ついに年商 100万円まで落ち込み、明日にも倒産という危機に瀕してしまいました。
五代目を継いだ新社長はこの逆境にかえって奮起し、長年培ってきた技術を生かし、現代に、そして世界に通用するものをつくれないかと模索。
照明具のシェードという新事業に進出し、いまでは「入手するまで 2年待ち」というほどの人気ブランドに成長させています。
福岡市にある「 M石油株式会社」はその名のとおり、燃料販売が主事業です。
創業から 90年余。
現社長で 4代目。
長く続いてきた秘訣は「いつも今より新しい」という会社のポリシーに表れているといえるでしょう。
同時に、「なんでもやる」も創業者から受け継がれてきた DNAだそうで、実際、現在もガソリン、重油などの販売のほか、喫茶店もやれば書店もやるという多岐展開です。
多岐展開ならば、どれかが必ず次代の成長分野になり、会社の命脈を将来に続ける力になるはずです。
❖常に新しい方向性を探る、これが経営者の仕事 長く続く企業の本質とは何でしょう? 古くから受け継いできたものを大事にする一方、常に時代に合わせて変化し続けてきたことに尽きるといえないでしょうか。
直近の例では、トヨタがソフトバンクと提携し、今後は脱自動車、「すべての人に安心、快適なモビリティをお届けする」事業に進化していくことを宣言しています。
もともとトヨタは自動織機メーカーとしてスタートした企業です。
昭和初期に「これからは自動車の時代だ」と看破した二代目社長が自動車産業への参入を決意。
そこから今日の、世界的な自動車メーカー・トヨタの歩みが始まったのです。
会社の名前は変わらないけれど、事業内容はがらりと変わった例では「富士フイルム」のケースも広く知られています。
2000年ごろから始まったカメラのデジタル化にともない、フィルム市場は 10年間で 10分の 1まで縮小するという大激変に見舞われます。
このとき、富士フイルムは創業以来の大変革を行い、今日では医療、化粧品、液晶ディスプレイ、 ITの企業になることで生き残りに成功、売上は 2000年当時の 2倍以上に発展させています。
一方、同じ時期に、以前は富士フイルムをしのぐ世界的フィルムメーカー・コダックは 2012年に倒産してしまいました。
富士フイルムの劇的成功は「企業とは変化対応業である」ということを強く感じさせます。
❖柔軟な〝発想〟ができる社長は成功する「トヨタ、富士フイルムのような世界的な企業の話を聞かされたって、うちのような中小企業では参考にならない」と考えているとしたら大間違い。
こうした巨大企業でさえ、時代とともに事業内容を大きく変革し、その結果、さらに巨大化していくという道をたどって今日がある、ということを学び取ってほしいと思います。
中小企業であればいっそう小回りが利き、変革しやすいはずです。
「朝令暮改」、つまり、いうこと、考えることがくるくる変わることは、かつてはいけないことだとされていました。
しかし、変化の波が激しく、しかもそのスピードがこれまでのどの時代にもなかったほど速い現在では、経営者の考えが柔軟で、行動に移すのが速い企業ほど、生き残り、そして今後の発展の可能性は大きいのです。
❖後継者と共に進化の方向を語る機会をもち、自然に継承へと進んでいく 私の父は、私が大学生のころから仕事に巻き込み、卒業後、私は否応なしに、父の仕事を継承する道を歩み出していました。
最近は、成人後も子どもを自由にさせておいたり、留学をさせたりする経営者も少なくありません。
こうして自社の経営や将来について話をする機会も設けないまま、ある年代になると、そろそろ会社を継いでくれないかといい出すのでは、継承することに難色を示すのも無理はないでしょう。
子どもが小さいときから、会社の将来について、夢や新たな可能性などを語る機会を設け、後継者となる子どもと夢を共有できれば、次世代も自然に会社の先行きに関心を抱くようになるはずです。
継承にも下準備があり、手順があるということです。
私は親と外食するときの会話は、いつも商売の話ばかりでした。
そこで商売とは何かを自然に身につけたような気がします。
歌舞伎界など伝統芸能の世界のように、小さいときから培った素養は身体に刻み込まれていくものです。
なお、子どもが複数いる場合、会社に入れるのは 1人にするようにしましょう。
複数入れると、いまは仲良く力を合わせていても、長い間には確執が生まれないとはかぎらないからです。
ほかの子どもには別会社をつくって、そちらの経営を任せるなどの方法を考えるといいと思います。
▼いまの会社は次世代が継承したくなる企業だろうか。
また、次世代が若いころから会社の新たな可能性について話すなどして継承者の気持ちを引きつけていく。
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