卸売業でいえば資材・倉庫などの倉庫関係のための土地、これを拡大すれば、資産回転率
は一挙に低下し、経営は悪化の一途をたどろう。
大きな売上げ予算を立て、商品をどっさりと仕入れれば、商品の回転率は悪くなる。担保
力は土地に付くといったところで、無駄ではないかと思う。基本的には借入金を意識したり
当てにするのはよくないことである。歴史も浅く、創業以来の蓄積の少ない企業ほど、土地
とか建物を所有してはいけない。それよりも、むしろ原則として借地、借家でいくべきなの
である。
とくに回転率を向上させようとすれば、借地、借家で経営する方針を堅持すべきである。
大企業でその実例を見ると、イトーヨーカ堂とダイエーの経営手法の違いが、この問題を如
実に示している。
ダイエーの場合は、店舗を出すにも必ずといっていいほど土地を購入する。ダイエーが進
出するという話がでると、その影響で周辺の土地は値上がりし、ダイエーは地価の合み資産
が増加する。この含み資産を増した土地を担保に銀行から融資を受け、土地を買い増しす
る。これを繰り返して土地をはじめ総資産を膨らませていくのがダイエーの経営手法の柱に
もなっている。
これに対しイトーヨーカ堂の場合は、出店に際しても基本的には借地、借家でいく戦略を
貫いている。このためダイエーの店が一店舗しかできない間に、イトーヨーカ堂は五店舗ぐ
らい出店できる。土地の買収には金も時間もかかるからだ。
私が強調する「早く売れ」という原理。原則から言うと、基本的には借地、借家。自己資本
が高まった段階ではじめて土地を購入すればよいのである。この両社を比較すると、先にも
触れたように、利益率の面でもつねにイトーヨーカ堂がダイエーを大きく上回っている。
以前、岩手県の千田正知事の依頼で開発診断をしたとき、同県の流通センターを視察し
たことがあった。東北自動車道が完成しており、それぞれのインターチェンジの付近には流
通センターというか、市内の問屋が進出して営業する段取りが進んでいた。同地での講演の
前にセンターを案内してもらい、率直な感想としてこう言った。
「一年後には、おそらく半数ぐらいは倒産の憂き目を見ているのではないでしょうか」
と。 一年後に再度訪れたとき、私の悪い予感は当たり、そのとおりの状況になっていた。「一
年前、どうしてわかりましたか」と質問された。
そこの進出企業は、どこも広いスペースをゆったりとっており、舗装された共有の通路、
事務所はどこも近代的な明彩に輝いていた。旧市内にいたころは、事務所をはじめ狭いスペー
スの暗い、汚いような雰囲気だったのに。そうしたところでやっていた商売が、いきなり近
代化ということで、より広く、より明るく、より立派になったので、従業員もよリモラール
の向上が期待されたと思う。さらに県の助成もあるなど、従来の不満は一挙に解消したよう
だった、さて、移転して新しい経営がスタートしてみたら、経営上の矛盾が一気に爆発する
結果になってしまったわけである。
というのは、固定資産回転率を予測すれば、当然のことであったと言える。要するに、広
い土地の借入金は別にしても、市場が拡大していないのに土地だけ広げて、いわゆる分子の
売上高が一〜二年で急増することは考えられるはずがなかった。移転に際しては、ライバル
企業より貧相な建物は建てられない、従業員のプライドを傷つけるような事務所では移転じ
た意味がない等々、どの経営者も肝心の経営戦略よりもミエが優先してしまった結果という
ことになるのではなかろうか。
経営トップの頭の中には、おそらく総資産回転率という考えも数字も皆無だったのではな
いだろうか。また、移転しただけでは、売上げが増えるという保証は何もないことを、実際
にどのように考えていたのか、疑間に思わぎるを得ない。顧客は建物を見て注文をしてくれ
るわけではないのである。
さらに、広大な敷地になったため、仕入れも営業も売れないものまで持ってきても、いっ
こうに苦にしない。だから商品の回転率は上がらず、むしろどんどん下がる一方という結果
になりかねない。旧営業所では、狭いので置き場所がないから叩き売ってでも現金化したの
に、広い新営業所では、そんな気持ちも働かない。
モノを現金化することが商売というのであって、仕入れて倉庫に入れて置くことを商売と
は言わない。先ほどあげた例のように、少しずつ建て増ししていく工場を、幹部が「貧乏性
で長期展望がないので、こういう建て方をしているんです」と自虐的な言い方をするのはもっ
てのほか。経営というのはそのほうが正しいし、よいのである。
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