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会社にはいかない

はじめにこれからリモートワークのような「新しい働き方」が増える──。こうした話を、毎日のように耳にすることが増えてきました。ただ、私はこの「新しい働き方」という言葉が好きではありません。というのも、「新しい働き方」と言われることでどこか特別なこと、ほとんどの会社には関係がないことのように聞こえてしまっているのではないか?また、「リモートワーク」という働き方が、とても特別なものに見えてしまっているのではないか?と感じることが多いからです。私が取締役COOをしている株式会社キャスターは、全国45都道府県、日本を含む16か国に700名以上のメンバーがいますが、ほぼ全員がリモートワークをしている会社です。2014年の創業以来、6年間ずっとこの働き方です。いわばリモートワークの専門家と言えると思いますが、私の感覚ではオフィスが渋谷や大手町からSlackやチャットワークなどのチャット上に移転しただけで、ほかの会社と何一つ変わらない普通の会社だと思っています。実際に、会社の就業規則や雇用契約も、何らほかの会社と変わりません。もちろん、社員も今までずっとリモートワークをしてきたわけではなく、ほとんどは弊社に転職してきたときに初めてリモートワークになった人ばかりです。リモートワークになるとコミュニケーションに齟齬が起きる……リモートワークだと社員の評価が難しい……リモートワークだとチームビルディングができない……そんな声をたくさん聞いてきました。でも、一歩立ち止まって考えてほしいんです。オフィスで働いているときは、コミュニケーションの齟齬はなかったのでしょうか?オフィスで働いているときは、社員の評価は完璧にできていたのでしょうか?オフィスで働いているときは、本当に上手くチームビルディングができていたのでしょうか?もしそうなのであれば、これだけ世の中にエンゲージメントに関する研修やサービスが出てきたり、マネジメントやチームビルディングに関する書籍が出版されたりはしないはず。つまり、リモートワーク「だから」できないのではなくて、もともと難しいことなのです。会社は多くの人の集まりでできています。考え方や価値観は当然多様になるので、全員が等しく理解することは難しい。事業も順調なときばかりではありません。そのような課題が起きている理由は決して「働いている場所」ではありません。実際に、私自身5年間、リモートワークで会社を経営してきましたが、「リモートワークならでは」の課題というものに出会ったことはありません。リモートワークは魔法の働き方でもなければ、特別なものでもない。リモートワークを導入したからといって急に業績がよくなることもないし、生産性が上がることもありません。あくまで、「ただの働く場所の選択肢」なのです。だからこそ、会社も個人も当たり前にやるべきことをやればいいだけ。ただ、ちょっとした「コツ」がいるだけなんです。本書ではその「コツ」と、それを支える考え方をお伝えすることでリモートワークに対する誤解を解き、誰でも、どの会社でもできることをお伝えできればと思っています。

目次はじめに第1章「700人全員リモートワーク」の会社は、どのようにして生まれたのか?リモートワークは特別なものではない「場所が離れただけで人材の価値が変わる」不思議リモートワークの人材を自分たちで雇用する働きたい人が働きやすい会社にしようみんなが乗れる船を作る「何をやれば評価されるか」を見える化する最も簡単な方法は、場所を自由にすることリモートワークを続けてみてわかった、いくつかの〝幻想〟第2章「会社に出社しない」働き方の本当のところリモートワークを始める最初の一歩システムとセキュリティ対策最大の障壁は「マインド」経営者がマインドをどう変えられるか「リモートワークで弱肉強食になる」は半分正解、半分間違いこれからは、「当たり前のことが当たり前にできる人」が重宝される「リモートワーク=アウトプットだけ出していればいい」は間違いリアルなコミュニケーションと、デジタルなコミュニケーションメンバーによってコミュニケーションの方法を変えていく「察してほしい」と思うのはあきらめよう第3章「仕事とお金」のリアルな話「リモートワーク=ママ」じゃない!正社員至上主義からの脱却お金のリアルな実態キャスターの「働き方」第4章求められるのは「邪魔をしない」マネジメント多様性を認めない会社は、生き残れないメンバーシップ型からジョブ型へ一人ひとりの価値観を尊重するそれぞれの「会社との距離感」を認める必要なのは「フラットな評価」と「自ら行動すること」あなたは上司としての役割をわかっていますか?雑談をどう生み出すか?信頼関係は「接する頻度」で決まる第5章「リモート時代」の会社はどうあるべきか会社は「ムラ化」する「従業員満足度」は、本当に必要なもの?「理念への共感」は、いらない部下は上司をとてもよく見ているリモートワークは「経営戦略」第6章これからの働き方、これからの生き方男性の働き方が変わらなければ、世の中は変わらないこれからは夫婦で成果を上げていく誰もが柔軟に働くことができる社会に「働き方」と「キャリアプラン」を分離する私たちの「生き方」が変わっていく仕事は生きている限り続いていくおわりに

はじめにこれからリモートワークのような「新しい働き方」が増える──。こうした話を、毎日のように耳にすることが増えてきました。ただ、私はこの「新しい働き方」という言葉が好きではありません。というのも、「新しい働き方」と言われることでどこか特別なこと、ほとんどの会社には関係がないことのように聞こえてしまっているのではないか?また、「リモートワーク」という働き方が、とても特別なものに見えてしまっているのではないか?と感じることが多いからです。私が取締役COOをしている株式会社キャスターは、全国45都道府県、日本を含む16か国に700名以上のメンバーがいますが、ほぼ全員がリモートワークをしている会社です。2014年の創業以来、6年間ずっとこの働き方です。いわばリモートワークの専門家と言えると思いますが、私の感覚ではオフィスが渋谷や大手町からSlackやチャットワークなどのチャット上に移転しただけで、ほかの会社と何一つ変わらない普通の会社だと思っています。実際に、会社の就業規則や雇用契約も、何らほかの会社と変わりません。もちろん、社員も今までずっとリモートワークをしてきたわけではなく、ほとんどは弊社に転職してきたときに初めてリモートワークになった人ばかりです。リモートワークになるとコミュニケーションに齟齬が起きる……リモートワークだと社員の評価が難しい……リモートワークだとチームビルディングができない……そんな声をたくさん聞いてきました。でも、一歩立ち止まって考えてほしいんです。オフィスで働いているときは、コミュニケーションの齟齬はなかったのでしょうか?オフィスで働いているときは、社員の評価は完璧にできていたのでしょうか?オフィスで働いているときは、本当に上手くチームビルディングができていたのでしょうか?もしそうなのであれば、これだけ世の中にエンゲージメントに関する研修やサービスが出てきたり、マネジメントやチームビルディングに関する書籍が出版されたりはしないはず。つまり、リモートワーク「だから」できないのではなくて、もともと難しいことなのです。会社は多くの人の集まりでできています。考え方や価値観は当然多様になるので、全員が等しく理解することは難しい。事業も順調なときばかりではありません。そのような課題が起きている理由は決して「働いている場所」ではありません。実際に、私自身5年間、リモートワークで会社を経営してきましたが、「リモートワークならでは」の課題というものに出会ったことはありません。リモートワークは魔法の働き方でもなければ、特別なものでもない。リモートワークを導入したからといって急に業績がよくなることもないし、生産性が上がることもありません。あくまで、「ただの働く場所の選択肢」なのです。だからこそ、会社も個人も当たり前にやるべきことをやればいいだけ。ただ、ちょっとした「コツ」がいるだけなんです。本書ではその「コツ」と、それを支える考え方をお伝えすることでリモートワークに対する誤解を解き、誰でも、どの会社でもできることをお伝えできればと思っています。

リモートワークは特別なものではない私が取締役を務める会社、株式会社キャスターでは、約700人のメンバーほぼ全員がリモートワークをしています。この事実に物珍しさを感じる人は少なくないようで、これまでにさまざまなメディアから多数の取材依頼をいただき、テレビ番組でも紹介されるようになりました。そうして注目していただけるのは、率直にありがたいことだと思っています。ただ私自身は、キャスターが注目されればされるほど、内心ではモヤモヤした思いを抱えるようになっていたのも事実です。限られた字数の記事や、限られた放送時間の番組では、「700人ほぼ全員リモートワーク」のインパクトばかりが強調されがちです。一方で、キャスターという会社がなぜこの体制を実現できているのか、その背景や本質はあまり伝わっていないのではないかと感じていました。私たちの取り組みを知って、「キャスターという変わった会社が、変わったことをやっているだけでしょ?」と思う人もいるかもしれません。あるいは、「リモートワークでも支障なく業務を遂行できる、優秀な人ばかりが集まっているんでしょ?」「ほかの会社が真似できることではないよね」といった感想を持つ人もいるかもしれません。約700人のメンバーほぼ全員がリモートワークである。そんな会社は、現在の日本企業の中で特殊な存在であることは事実でしょう。しかし、本書を手に取ってくださっているあなたがもし、キャスターに対して「特別な人たちが集まる特別な会社」という印象を抱いているとしたら、冒頭で明確に否定したいと思います。キャスターは、ごくごく普通の経歴の人たちが集まり、成果を出し合って成長してきた会社だからです。ポイント700人いてもリモートワークは可能特別な能力を持つ人はいない。ごく普通の人たちばかり

「場所が離れただけで人材の価値が変わる」不思議キャスターは「リモートワークを当たり前にする」というミッションと、「労働革命で、人をもっと自由に」というビジョンを掲げて2014年に創業しました。会社のメンバーは最初から今の形態で、つまりそれぞれが離れた場所でリモートワークをしています。なぜ、このようなミッションとビジョンを掲げたのか。背景には、代表取締役の中川祥太が前職時代に感じていた疑問があったのです。中川は当時、顧客企業の業務やビジネスプロセスを受託するBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)を手がける会社に勤めていました。新しいプロジェクトや事業を立ち上げる際には、社外からも広く人材を集めて専門業務を担当してもらう必要があります。そこで彼は、一つひとつの業務に対応できる人材を全国から見つけられるクラウドソーシングのサービスを活用し、出会った人たちに仕事を発注していました。クラウドソーシングで発注する仕事の中身はさまざまですが、多くの場合、それは業務プロセスを細分化して切り出された「一部の作業」でした。エクセルのシートにデータを入力して、セルを一つ埋めれば1円をもらえる。そんな報酬設定も珍しくはなく、決して割がいいとは言えない作業も多々あります。そうした仕事を次々と発注していく中で、中川はあることに気づいたのです。仕事を引き受けてくれている人たちの中には、「普通に働いて成果を出せる人たち」がたくさんいるのだと。当時の中川の基準で思い浮かぶ「普通の働き方」とは、東京などの大都市圏の企業に勤め、フルタイムの正社員として毎日オフィスへ出勤することだったと思います。しかし、実際にクラウドソーシングで仕事を発注する相手の中には、もともと東京で正社員として働いていたという人も数多くいました。かつては月給で30万円以上を受け取っていた人が、何らかの事情で実家のある地方へ帰ったり、在宅で働かざるを得なくなったりして、収入を得る手段としてクラウドソーシングに集まっていたのです。その人たち自身の能力は何ら変わっていないのに、東京など大都市圏のオフィスへ毎日出勤できないだけで収入が下がってしまう。そんな社会が、はたして正常だと言えるのだろうか?この疑問を出発点にして、中川は「最初から全員がリモートワークをする会社」を作ったのでした。ポイントやるべきことをやって成果を出す人は、どこにでもいる働く場所が変わると給料が変わる、不思議な現実

リモートワークの人材を自分たちで雇用するリモートワークを当たり前にしたい。その思いで動き始めたキャスターですが、ミッションを実現するための事業作りは一筋縄ではいきませんでした。最初に思いついたのは、「リモートワークの人材を派遣する」という人材派遣業。顧客企業の業務をリモートワークで担当してくれる人を募集し、マッチングさせていくというアイデアでした。しかし、この構想はすぐに継続不可能だと思い知ります。理由は単純。「リモートワークの人材を派遣してほしい」と考える会社は、ほとんどなかったから。市場にはすでに、オフィスなどのオフラインの現場へ人材を派遣してくれるサービスが浸透しています。「同じようなスキルなら、リモートワークより出勤してくれるほうがいいよね」となってしまうのです。2020年の現在でも、そう考える企業のほうが圧倒的に多いのではないでしょうか。そこでキャスターは、自分たちでリモートワーク人材を雇用することにしました。リモートワークを当たり前にするために、まずは在宅のままでも正社員として働ける環境を作ってしまったわけです。そうして雇用した人たちに活躍してもらうため、企業から「オンラインアシスタント」の業務を請け負う事業を始めました。オンラインアシスタントが担当できる業務は、多岐にわたります。秘書としてメール返信やスケジュール調整など日々のタスクを担当したり、採用を手伝ったり、経理記帳や請求書発行などのお金まわりの事務をこなしたり、ウェブサイトの運用代行や制作を引き受けたり……。こうした業務に、キャスターでリモートワークをする人材が対応していきます。このサービスはおかげさまで評判を呼び、「キャスタービズ」として現在の基幹事業となりました。キャスター代表の中川が前職でBPOに携わっていたことは、前述した通りです。2014年当時、既存のBPOサービスは大企業を主な対象とするものばかりでした。そうしたBPOサービスの会社は渋谷などの都心部に本社を構え、高い家賃を払っているケースがほとんど。そのため、顧客への単価設定も高額になりがちで、必然的に大企業をターゲットとせざるを得なくなっていたのでしょう。それに対してオンラインアシスタントは、既存のBPO会社であればとうてい成し得ない、小さいロットで仕事を受注することができたのです。そのため、単価は東京水準、でも提供するロット(稼働する時間)が小さいため、クライアントが支払うのは月額10万円程度、というBPO事業を作ることができました。全員がリモートワークであれば広いオフィスは必要なく、人材募集のしやすさや通勤の利便性を考慮して都心部に本社を構える必要もありません(実際にキャスターの本社所在地は、宮崎県西都市です)。そのためキャスタービズは、中小企業やベンチャーにも選ばれていきました。加えて私たちは、中小企業ならではのニーズにも気づきました。小さな組織では「フルタイムの人材までは必要ないけれど、ちょっとだけ手伝ってほしい」という微妙な段階のニーズがたくさんあるのです。そこで、「月に30時間だけ業務をお手伝いする」といったサービス形態が生まれました。私は以前、働き方ファームという会社を一人で経営していたので、まさに「ちょっとだけ手伝ってほしい」という経営者の気持ちはよくわかります。また、中小企業は業務を外部に依頼すること自体の経験が乏しく、最初はなかなかオンラインアシスタントに的確な指示を出せないもの。そこで、担当者をその企業専属にして、チャットでいつでもコミュニケーションができる状況を作りました。社員と同じように接し、同じように仕事を依頼することができる。違うのは、その人がオフィスにいるのか、自宅などの離れた場所にいるのか、という点だけなのです。このようにして、「リモートワークを当たり前にする」というミッションの実現を目指し、場所にかかわらず働ける人を増やすために、キャスターは事業を開発してきました。ポイントリモートワークであれば小ロットの仕事も受注できる広いオフィスや都心に本社を構える必要がない違いは働く場所だけ

はじめにこれからリモートワークのような「新しい働き方」が増える──。こうした話を、毎日のように耳にすることが増えてきました。ただ、私はこの「新しい働き方」という言葉が好きではありません。というのも、「新しい働き方」と言われることでどこか特別なこと、ほとんどの会社には関係がないことのように聞こえてしまっているのではないか?また、「リモートワーク」という働き方が、とても特別なものに見えてしまっているのではないか?と感じることが多いからです。私が取締役COOをしている株式会社キャスターは、全国45都道府県、日本を含む16か国に700名以上のメンバーがいますが、ほぼ全員がリモートワークをしている会社です。2014年の創業以来、6年間ずっとこの働き方です。いわばリモートワークの専門家と言えると思いますが、私の感覚ではオフィスが渋谷や大手町からSlackやチャットワークなどのチャット上に移転しただけで、ほかの会社と何一つ変わらない普通の会社だと思っています。実際に、会社の就業規則や雇用契約も、何らほかの会社と変わりません。もちろん、社員も今までずっとリモートワークをしてきたわけではなく、ほとんどは弊社に転職してきたときに初めてリモートワークになった人ばかりです。リモートワークになるとコミュニケーションに齟齬が起きる……リモートワークだと社員の評価が難しい……リモートワークだとチームビルディングができない……そんな声をたくさん聞いてきました。でも、一歩立ち止まって考えてほしいんです。オフィスで働いているときは、コミュニケーションの齟齬はなかったのでしょうか?オフィスで働いているときは、社員の評価は完璧にできていたのでしょうか?オフィスで働いているときは、本当に上手くチームビルディングができていたのでしょうか?もしそうなのであれば、これだけ世の中にエンゲージメントに関する研修やサービスが出てきたり、マネジメントやチームビルディングに関する書籍が出版されたりはしないはず。つまり、リモートワーク「だから」できないのではなくて、もともと難しいことなのです。会社は多くの人の集まりでできています。考え方や価値観は当然多様になるので、全員が等しく理解することは難しい。事業も順調なときばかりではありません。そのような課題が起きている理由は決して「働いている場所」ではありません。実際に、私自身5年間、リモートワークで会社を経営してきましたが、「リモートワークならでは」の課題というものに出会ったことはありません。リモートワークは魔法の働き方でもなければ、特別なものでもない。リモートワークを導入したからといって急に業績がよくなることもないし、生産性が上がることもありません。あくまで、「ただの働く場所の選択肢」なのです。だからこそ、会社も個人も当たり前にやるべきことをやればいいだけ。ただ、ちょっとした「コツ」がいるだけなんです。本書ではその「コツ」と、それを支える考え方をお伝えすることでリモートワークに対する誤解を解き、誰でも、どの会社でもできることをお伝えできればと思っています。

働きたい人が働きやすい会社にしようここで、少しだけ振り返ってみたいと思います。2020年に入ってからは、新型コロナウイルス感染症が企業活動に大きな影響を与え、「リモートワーク」「テレワーク」「在宅勤務」といった言葉が毎日のように聞かれるようになりました。好むと好まざるとにかかわらず、自分自身や身近な人がリモートワークに変わったという人も少なくないでしょう。しかし、キャスターが創業した2014年当時は、リモートワークという働き方はほとんど注目されていませんでした。そうした状況の中でリモートワークを前提に雇用を進め、ミッションを追いかけるために事業を作ってきたわけです。さらに言えば、キャスターは市場調査というものをほとんどやらない会社です。いつも「こっちの社会のほうがいいじゃん」という考えから出発して、事業や制度を形にしてきました。当時の私たちが出していた求人情報は、見方によっては相当怪しいものだったかもしれません。というのも、設立して間もない会社がリモートワークの正社員を募集していて、かつ月給は東京近郊のオフィスで働く仕事と大差ない条件を提示していたからです。しかし実際に募集を開始すると、短期間に全国から400件近い応募者が集まりました。私たちが想像していた以上に、「場所に縛られることなく能力を発揮して働きたい」と望んでいる人がいたのです。その頃に入社して現在も活躍している人はたくさんいますが、職務経歴や事情はさまざまです。大企業で転勤族として働いていたある人は、「もう転勤のたびに転職したくない」と言ってキャスターに来ました。子育て中のため「出勤するのであれば、保育園への迎えを考えると16時までしか働けない」という人もいます。また、「通勤や人間関係に必要以上のストレスを感じたくない」という理由で、この仕事を続けている人もいます。混雑した通勤電車に日々揺られていると、なかなか気づくことができないかもしれませんが、世の中には、満員電車に乗ると体調が悪くなってしまうという人も一定数いるのです。私自身も人混みが苦手で、できるだけ満員電車には乗りたくないと考えているタイプ。そのため、通勤がないワークスタイルを重視する人の気持ちは、よくわかります。これらはあくまでも一例ですが、キャスターでは本当にさまざまな経歴の人たちが活躍しています。働く場所の壁をなくしただけで、私たちが想像していた以上に多様な会社が作られていったのです。ポイント「場所に縛られて働きたくない」人は多いリモートワークにすると多様な人材が集まってくる

みんなが乗れる船を作るそんなふうに多様なメンバーが集まるキャスターでは、「なぜキャスターで働くのか」について、一律な答えを求めることは全くしていません。キャスターで働く理由は「仕事内容が面白いから」でもいいし、「働いている人たちが好きだから」でもいい。「会社の理念に共感するから」「自分の趣味の時間を大切にしたいから」、あるいは「石倉秀明と働いてみたいから」でもいいのです。リモートワークという新しいルールで働くときに必要なのは、一人ひとりの役割を全うしてもらうことだけ。それ以上の条件は何もいらないと考えています。各個人はそれぞれ多様でいいし、多様であることを、私たちは普通のこととして受け止めています。キャスターのミッションは、「リモートワークを当たり前にする」です。当たり前というのは特別な人だけではなく、どんな人でも場所に関係なく、働けるようにするということです。それを考えると、キャスターにいる理由は多様であれば多様であるほどいい。そっちのほうが、多くの人にとってここにいる理由があるということですし、結果的にミッション達成に近づきます。わざわざ場所を分散して働いているわけですから、オフィスにいるときのようにみんなが同じものを目指さなくても、会社という同じ船に乗れるのではないかと思うのです。私はよく、「会社は個人の邪魔をしないことが一番大切」だと話しています。できるだけシンプルな人間関係で働きたいと考える人がいる一方で、いろいろな人と話したり飲みに行ったりというウェットな環境で働くのが好きだという人もいますよね。成長のためにどんどん新しい仕事に挑戦したいと考える人もいれば、とにかく待遇や勤務条件が安定してさえいればいいという人もいます。そうした個々の理由に対して、会社が一つの枠を押しつけることはしません。そのほうが、多くの人にとって「ここにいることが心地よい」という状態を作れるからです。キャスターで働くそれぞれの理由を邪魔しない、ということです。考えてみれば従来の会社は、働く個人に対して知らず知らず何らかの価値観を押しつけてしまっていたのかもしれません。しかし、価値観やルールが単一になると、そこからはみ出してしまう人は存在しづらくなってしまいます。会社組織には暗黙のルールのようなものも生まれがちですが、それに当てはまらない人がいづらくなってしまうようでは、組織として弱いと思いませんか?同じオフィスに全員が集まって働いていても、一人ひとりの考え方や価値観はバラバラのはずです。それぞれが違う人間である以上、当たり前のこと。その事実を、従来の会社は無理をして隠してきたのかもしれません。そもそも、私たちはこれまで「会社」というものを過信していたようにも思います。会社とは目に見えない存在であり、結局のところはそこに集まる人々の集合体でしかないのです。100人の組織で、100人すべてが入れ替わってしまえば、その会社は全く別の存在になってしまうでしょう。それにもかかわらず、「うちの会社はこうだ」と決めて、みんなをひもづけたがるのは、なぜなのか。同じオフィスで働いているときなら、その会社らしい行動をする人、何となくその会社っぽいと感じられる人の姿が目に見えます。上司としては、模範的な社員として、ほかのメンバーに真似をさせやすいという利点もあるでしょう。「こうあってほしい」とイメージしている人物像に重なる人がいれば、マネジメントはしやすくなるものです。同じ価値観を持っていたり、同じ考え方をしていたりするほうが、説明コストは低いですよね。しかし、リモートワークが当たり前になってくると、物理的に普段の姿が見えにくいため、「こうあるべき」「こうでなければならない」という一律のイメージを模倣してもらうことは、きわめて難しくなります。人は実際のところ、そんなに同じではないのです。自社のメンバーに同質性を感じるのなら、それはもしかしたら誰かが我慢していたり、無理をしていたり、噓をついていたりする上で成り立っているのかもしれません。キャスターの根幹にあるのは、そんな考え方です。人それぞれ、好きにやってくれればいいのです。ポイント求めるのは、それぞれが役割を全うすること会社は個人の邪魔をしてはいけない

「何をやれば評価されるか」を見える化する前述のように考えていくと、「仕事へのコミットメントの度合いまでバラバラになってしまうのではないか」と懸念を抱く人がいるかもしれません。でも、よく考えてみてください。「仕事へのコミットメント」とは、何でしょうか?頻繁に使われる言葉ではありますが、実に抽象的だと思いませんか?営業パーソンの例で考えてみましょう。Aさんは「やる気があるように見えるけれど、月に50万円を売る」人です。対してBさんは「やる気はなさそうに見えるけれど、月に200万円を売る」人。どちらを高く評価するでしょうか。そのときの基準は「やる気」でしょうか、それとも「売り上げ」でしょうか。やる気、というのはとても曖昧な尺度です。「一生この会社にいます!」と言う人も、「今は都合がいいから在籍しているだけです」と考えている人も、どちらも会社内には存在しているものだと思いますが、その気持ちと売り上げという成果に直接つながっているとは言えないケースも多々あります。私自身は、評価の際、その人の人格と仕事の成果を分けて考えるべきと考えています。キャスターでは、事実を大切にします。その人がやったことや、やっていること、実際に残した成果を重視します。やる気がありそうに見えようが見えまいが、50万円の成果と200万円の成果なら、後者をより評価します。と、このように話すと、「石倉さんはドライなんですね」と言われることもあるのですが……。はたしてそうでしょうか。「あいつは仕事ができないけれど、いいやつなんだよ」。そんな温情査定が存在することを、古きよき日本企業の美点だととらえる人もいるでしょう。しかし私は、それは決して人に優しい会社などではないと考えています。なぜなら、「何をやれば評価されるか」が見えないから。「ハートフルに見せかけたディストピアなんじゃないか?」とさえ思います。自分は頑張って成果を出しているはずなのに、そんなに成果を出していない同僚と評価が変わらない。その理由を上司に聞いても「いや、あいつも頑張っているしさ」のように曖昧な答えしかない。何をすれば評価されるのかが曖昧なまま、働き続けなければならない。そんな世界のほうが、よほど人に優しくないと思うのです。それに比べれば、事実で評価する会社はわかりやすい。社員にしてみれば、何をやるべきかが明確で、感情論で会社から邪魔されることなく、成果を出せばきっちり評価されるわけですから。ポイント「やる気」は評価に直結しないその人の人格と仕事の成果は別物事実だけ評価するほうが優しい

最も簡単な方法は、場所を自由にすること一人ひとりが居心地のよさを感じ、その人らしく働ける。そんな会社を作るために必要なことは何でしょうか。一つの方法としては、満足してもらえるだけの給与を支払うことかもしれません。しかし中小企業や創業期の企業では、高い給与水準を確保することは容易ではありません。そもそも給与水準は、会社そのものの経営努力はありますが、どの産業に属しているかによって左右されてしまう面があるのも事実です。それに対して「働く場所を離す」ことなら、多くの業種・業界において、自分たちの仕事のやり方を変えればできるようになるはずです。都会であれ地方であれ、住んでいる場所によっての賃金格差もなく、実際に残した成果によって評価される。そんな組織を作ることで、働き方にまつわる多くの問題を解決できるのです。従来、都市を形成するときには、働くための場所を作って人を集め、余暇の時間を満たす娯楽の手段を充実させていくことが、効率的なやり方だったのだと思います。しかし、人の価値観や生活環境が多様になっていくにつれ、その基本設計の歪みが目につくようになってきました。会社へ通勤するという行為を前提に考えると、住む場所の範囲も自ずと規定されてしまいます。株式会社ザイマックス不動産総合研究所が発表した「首都圏オフィスワーカー調査2019」によれば、東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県に住み、首都圏オフィスへ通勤する人の平均通勤時間(片道)は49分となっています。何とか通勤できる範囲の場所が、その人にとって本当に心地よい場所であるとは限りません。仕事によって、生活そのものも固定されてしまう面があるのです。しかし、働く場所が自由になれば、仕事と生活を切り離すことができ、それぞれが本当に心地よい場所で暮らすこともできるようになります。とはいえ、企業の多くは「場所を自由にするのは難しい」と思うかもしれません。コロナ禍の真っただ中でも、リモートワークを導入できないオフィスワーカーはいました。また、緊急事態宣言が解除されるとほぼ同時に、オフィスへ呼び戻された人も少なくありませんでした。しかし、そもそも、「なぜ、オフィスで働かなければならないのか」「なぜ、オフィスへ戻っていかなければならないのか」。この素朴な疑問に、答えられますか?私は社外の人に対して「オフィスにいなければできないことって、何があるんでしょう?」とよく尋ねますが、納得できる明確な答えは返ってきません。かろうじて耳にするのは、「空気感の共有」でしょうか。空気を読む、察して動く……。多くの企業では、互いの姿が見える前提で、ふんわりとした感情の機微をつかむことが求められます。そうした空気感を共有することは、私も大切なことだと思っています。人間は文字情報だけではなく、視覚や触覚などさまざまな感覚器官の機能を使って物事を判断しているので、その一部が遮断されることで不安になる気持ちは、よくわかります。しかし、リモートワークでもコミュニケーションがとれなくなることはないし、空気感を共有できなくなるわけではありません。それでも、物理的に姿が見えなくなることは、不安をもたらします。「隣の部署で大変なことが起きているようだ」とか、「あの人は仕事を抱えすぎていて大変そうだ」とか、「今日の社長は機嫌がいいな」といった、ふんわりとした情報を得られなくなってしまうように感じるのです。ここでポイントとなるのは、姿「だけ」が見えなくなるということでしょう。姿が見えなくなるだけで、相手の仕事が見えなくなるわけではありません。もともとオフィスに集まって働いているときだって、全員がずっと同じ空間にいるわけではありません。ずっと外回りを続けている営業の人もいれば、1日の大半を会議室で過ごしている人もいます。お互いに、今日1日何をしていたかなんて、見えているわけではないのです。オフィスに出勤しているというだけで、相手の姿が見え、空気感を共有できているように思っていただけなのかもしれませんね。ポイント会社に行くために住む場所を変えるのはナンセンス「姿が見えない=相手の仕事が見えない」ではない

リモートワークを続けてみてわかった、いくつかの〝幻想〟同じように、働き方全般に言えるのは「みんなが何となく当たり前だと思い込んでいること」が浸透し、あたかも定説のように語られていることだと思います。2014年の創業から6年にわたってリモートワークを続けてきたキャスターでは、そうした定説のいくつかが幻想にすぎなかったと気づきました。ここでは、4つの幻想をピックアップしてお伝えします。①「優秀な人は東京に集まっている」という幻想これは、明らかな幻想です。事実として、キャスターの部門責任者以上の顔ぶれを見ていると、東京在住ではない人のほうが多数派です。キャスターはほぼ全員リモートワークなので、採用時に居住地を考慮することは一切ありません。そのため、自然と社員の居住地は日本の都道府県における居住人口比と同じような割合になっていくのですが、東京の人ばかりが優秀だと感じたことはありません。東京に優秀な人が多そうに思うのは、単純に人口が多いため、確率論的にそう見えるだけなのではないでしょうか。フラットに採用し、実力で勝負してみると、そのことが明らかになってきました。日本のトップ1%にあたるような超優秀な人は、中央官庁や大企業の本社が集積する東京で働いているのかもしれません。しかし残りの99%、働いている人のほとんどを占める層に関して言えば、東京でもそれ以外でも、何ら変わらないと思っています。ちなみに、キャスターでは居住地と仕事内容も関係ありません。そもそも仕事を依頼するときに、メンバーがどこに住んでいるかは一切考慮していません。例外的に、海外在住の場合に時差を考慮する程度です。②「対面じゃないと信頼関係が作れない」という幻想これを信じている人は、非常に多いのではないかと思います。少なくとも一度は物理的に顔を合わせて話をしないと、信頼関係を作れないのではないか、と。結論から言うと、対面じゃなくても信頼関係は作れます。そもそも信頼するかどうかは、「こちら側の問題」なんですよね。これは第2章でも詳述しますが、まずは自分が「相手を信頼する」と決めること。リモートのやりとりでは、それが欠かせないと思います。キャスターの場合は、初めての顧客と新しいプロジェクトを始めるときにも、基本的には会いません。そのかわり、最初の1週間はとにかくコミュニケーションを増やすようにしています。人間は、単純接触を繰り返しているうちに相手に親近感が持てるようになるもの。アメリカの心理学者ロバート・ザイアンスが提唱した「単純接触効果」でも知られていますね。実際に会う、会わないではなく、プロジェクト開始後の接触回数のほうが業務への影響度が大きいと実感しています。リモートワークが当たり前になるこれからの世の中では、一度も会ったことがない人を仲間に引き入れるという場面も増えていくはずです。問われるようになるのは、「会わずに人を信頼する力」です。③「会わないとクリエイティブな仕事ができない」という幻想何気ない雑談から新しいアイデアが生まれるのは、よくあることです。社員同士の偶発的な会話が生まれやすいように設計されたオフィスも、増えてきています。では、対面して会っていないと、雑談はできないのでしょうか。キャスターの結論としては、場所の問題ではないと考えています。オンライン会議でもチャットのやりとりでも、雑談をする手段はいくらでも確保できます。「会わないとクリエイティブな仕事ができない」というのは、単純に、会うこと以外の方法に慣れていないだけではないかと思います。キャスターの場合は、チャットを使って雨あられと雑談が繰り広げられています。オンラインゲームをしているような感覚で、チャットで次々と誰かに話しかけられることもあります。イメージしていただきたいのは、オフィス空間によくある6人程度の島。みんなが席に着いているときには、業務関連の報告をしたり相談をしたり、他愛のない雑談をしたりと、いろいろな会話が繰り広げられていますよね。これを、リモートでもやっているだけです。リモートワークになると業務の話しかしない人もいますが、それでは確かにクリエイティブなアイデアが生まれにくくなるかもしれません。大切なのは、オフィスで繰り広げられていた会話をそのままオンライン上に持ち込むことです。④「リモートワークは優秀な人のもの」という幻想これも、多くの人が抱いている幻想なのではないかと思います。リモートワークで仕事を回していけるのは、特別なスキルを持っている人や、素晴らしい職務経歴を有している人だけだと考えていないでしょうか。私は、リモートワークにおいては、相手を安心させられることが最大の価値になると考えています。安心感が得られるというのは、「その人に任せれば、やるべきことをちゃんとやってくれる」と信頼できること。約束を守り、役割を当たり前に果たしてくれることが大切なのです。その意味では、リモートワークにおいては「優秀」の定義も変わります。よく成果という言葉を使いますが、ここには2種類の意味がありますよね。誰しもの記憶に残るような大きな結果も成果だし、当たり前のことが当たり前に動いているということも重要な成果です。そしてよくよく考えてみると、世の中のほとんどの仕事は、後者でできていることがわかります。「当たり前のことが、きちんとできる」リモートワークでは、その事実が再評価されるのです。だから、リモートワークは決して特別な人のものではありません。キャスターの中で活躍している人、評価されている人も、当たり前のことがきちんとできているメンバーです。その成果は軽視され、職務経歴書にも書き表しにくいものでした。実際に前職までの職務経歴はバラバラで、一般的にはあまり市場価値が高くないとされるようなプロフィールの方もたくさんいます。そんな人たちが、キャスターでは中心戦力として活躍し続けているのです。ポイント優秀な人はどこにでもいる信頼関係を築くには、「相手を信頼する」と決めることオンラインでもコミュニケーションは十分とれる評価されるのは、約束を守り、役割を当たり前に果たす人

リモートワークを始める最初の一歩第1章では、キャスターがどのようにして「700人ほぼ全員リモートワーク」の会社を作ってきたのか、これまでの歩みとともに紹介しました。ここからは私たちが会得してきたノウハウを交えて、これからリモートワークを本格的に始めようとしている会社や、コロナ禍を機に取り組み始めたリモートワークを定着させようと考えている会社の役に立つよう、具体的な取り組みについてもふれていきたいと思います。まずは、労務管理から。これは、いきなり出だしからつまずいてしまうような内容となりますが……他社の就業規則を目にすると、「オフィス以外での労働を認めない」といった趣旨の定めを設けている会社が意外と多くて驚きます。当然、このままではリモートワークを始めるなんて、検討さえできません。「まさか」と思うかもしれませんが、念のため、自社の就業規則を再確認してみることをおすすめします。また、「リモートになると、場所だけではなく、働く時間も自由になる」と当たり前のように考えている人がいますが、これは間違いです。働く個人の側も、マネジメント側も、場所と時間を一緒くたにしてとらえてしまっているケースがあるのです。たとえば、会社の定時が「9時から18時」と決まっていて、その条件のもとで働くことが雇用契約で定められているなら、オフィスにいようが自宅で働いていようが、その時間内で働くことに変わりはありません。「働く時間が自由になる」というのは、別の制度を運用した上でのこと。ここは、しっかりと線引きをしておくべきでしょう。キャスターの運用は、シンプルです。社員がチャットにログインすれば、それはオフィスへ出勤してタイムカードを押すのと同じ意味になります。そしてチャットで「今から始めます」と報告してもらい、業務が終了したら「終わりました」と報告してもらう。こうして、チャット上に記録される情報と、別でクラウド勤怠ツールに入力している出退勤の時間と照らし合わせて確認します。ちなみに、有給休暇は社員であれば、入社半年後に10日付与します。その際、その人が週何時間勤務か、などで日数を減らすといったことはしていません。あくまでも、社員一律です。ポイントリモートワークで自由になるのは働く場所だけリモートワークの勤怠管理は特別なことをする必要はない

システムとセキュリティ対策次に確認すべきは、自社のシステムやセキュリティの対応状況でしょう。会社のパソコンを持ち帰り可能にしているか。やむを得ず個人のパソコンを使う場合は、アカウントをしっかり管理できる状態になっているか。社員の自宅のWi‐Fi環境は整っているか。業務がクラウドでできるようなツールはそろっているか……。こうした環境を整えるためのコストは、従来のオフィス賃料や通勤交通費と同等に必要不可欠だと思います。リモートワークではインターネットにつながらないと仕事にならないし、パソコンをはじめとした必要な機器が使えない状態では、何もできません。とはいえ、この環境整備の段階で立ち止まってしまう企業が多いのも、事実です。リモートワークの議論を見ていて感じるのは、「最初から完璧にやろうとしすぎではないか」ということ。キャスターのように、日常業務をすべてリモートワークで回している会社と同じ体制を最初から整えるのは、はっきり言って無理だと思います。「最低限の準備をして、まずは始めよう」という姿勢でなければ、リモートワークに踏み出すことは難しいのではないでしょうか。まずはやってみてから、必要に応じて微調整していけばいいのです。オフィスで働いているときと同様に、やってみてからうまくいかないところを改善していけばいい。もう一つ、よく聞かれる懸念点としては、セキュリティ面の問題があります。キャスターは、一般財団法人日本情報経済社会推進協会が運営するプライバシーマーク、いわゆる「Pマーク」を取得していますが、同じ立場の他社から「うちはPマークを取得しているので、リモートワークが難しいんですよ」といった話を聞くこともあります。言うまでもなく、個人情報をはじめとした重要情報を守り、外部へ流出しないように対策をすることは、現代の企業にとって必須事項。セキュリティについて細心の注意を払うことはもちろん大切です。では、セキュリティ対策とは具体的にどんなことを指すのでしょうか。「リモートワークは、セキュリティ面で不安がある」と言う人は、起こり得るリスクや、優先順位を整理できていない傾向があるようにも感じます。たとえば、「自宅で仕事をしていた社員が外部からハッキングされる」という事態が起きる可能性はゼロではありませんが、実際にはきわめて低いでしょう。むしろ、企業におけるセキュリティの事故は、社員によるミスやうっかりが原因となっていることが大半。つまり、働く場所の問題ではなく、「人や仕組み」の問題です。「メールを誤送信してしまった」「飲み会の帰りにパソコンが入ったかばんをなくしてしまった」……。そんな、ちょっとした不注意から、大きな問題に発展してしまうこともあります。そう考えると、セキュリティ対策での優先順位は明白です。パスワード漏洩などを防ぐため、キャスターでは何かのサイトにログインする際に、直接パスワードを教えることをせず、LastPassというパスワード管理ツールを使い、それ経由であらゆるサービスにログインしたり、権限を制限したりしています。大企業では「飲み会にパソコンを持って行かない」というルールはほぼ常識になっていると思いますが、中小企業ではいかがでしょうか?セキュリティ面の問題の多くは、人のミスや仕組みの不備によって起こります。発生確率の高いリスクを検討し、整理して、ルールを守ってもらうしかありません。オフィスに出勤していると、自席のパソコンを開いたままトイレに立っている人を見かけませんか?外部も含めてさまざまな人が出入りする場所に、重要書類を置いている様子を見かけませんか?そうした日常風景を放置していながら、リモートワークのときにだけセキュリティの問題を殊更に強調するのは、ナンセンスだと感じます。キャスターの場合は、まずPマーク取得企業として求められている諸要件を遵守しています。その上で、リモートワークで発生しがちなリスクを検討し、「カフェなど不特定多数の人が出入りする場所で打ち合わせをしない」「業務で使うパソコンやスマートフォンには、プライバシーフィルターを貼る」「自宅以外の場所で働くときは事前に申請する」「フリーWi‐Fiには接続しない」などのルールを定めています。ポイントシステム環境を整えるコストは必要経費セキュリティについては発生しがちなリスクを検討し、ルールを定めて社員をしっかり教育する

最大の障壁は「マインド」近年では、業務を効率化し、チームワークの向上を助けてくれる便利なツールがたくさん登場しています。キャスターでも、SlackやChatwork、GSuiteなどのツールを活用して日々の仕事を進めています。何か特別なものを使っているわけではありません。日本中、どこへ行ってもほぼインターネットはつながっているし、パソコンも安く購入できるようになりました。リモートワークを始めるにあたって新たに投資しなければいけないものは、実はそんなにないのです。自社にある機器を改めて活用してみたり、目的に合ったツールを探したり、ちょっとした費用補助を出したり。その程度の工夫だけで、リモートワークを始められる体制が整う企業も少なくないと思います。それなのになぜ、リモートワークへの対応を難しいと感じるのか。私は、最大の障壁は「マインド」にあると感じています。いつもは目の前にいた上司や同僚、部下の姿が見えにくくなる。リモートワークの新たなやり方に対応していく必要がある。結局のところ、そうした変化に対して不安を感じる気持ちがボトルネックになっているのではないでしょうか。コロナ禍によって強制的にリモートワークに切り替わってしまった人は、「オフィスなら当たり前にできていたことができなくなった」と不満に思うかもしれません。そう感じるのは、オフィスで働くことが当たり前、オフィスで働くことが正しいと思い込んでいるからかもしれません。ポイントリモートワークへの対応を難しくしているのは、自分自身の不安な気持ち他人の姿が見えなくても、仕事はできる

経営者がマインドをどう変えられるかマインドの点から考えると、経営者のマインドという意味でも同じだと思います。経営者にとっては、コスト面で考えれば、リモートワークには山のようにメリットがあるはず。ツールもインフラもある。コスト面の魅力もある。もしかすると、働き方が柔軟になることで採用力が高まるかもしれない。それにもかかわらず踏み出せないのは、仕事のやり方や事業のあり方を変えることへの不安が重くのしかかっているからでしょう。求められる経営者のマインドについて、もう少しだけ深掘りさせてください。私は世の経営者に対して、どうか気づいてほしいと強く思っていることがあります。それは、「無意識のうちに強者の側に立っている自分」という立ち位置です。日本企業では長らく、オフィスに出社してフルタイムで働くことが基本ルールとなっていました。雇用形態の違いで言うならば、正社員と呼ばれる人たちの多くが、この基本ルールに則って働いています。近年は実現性がどんどん怪しくなってきていますが、終身雇用という名の安定感を得やすい働き方でもありました。反面、一度でもルールから外れてしまうと昇進ができなくなってしまったり、新しい環境を求めて転職しようとしても、選考過程で評価されなかったりするという現実もあります。たとえばですが、いったん子育てや介護などで仕事を離れ、再度就職する際、戻れたとしてもマミートラックのような周回遅れとして会社側から認識されることがある。選考過程では、「また辞めることがあるかも」「あてにできない」という評価をくだされ、働くことに対して信用を得られず、選考から漏れてしまう。そのような事態はたくさんあります。私の周囲でも、一度正社員を離れ、フリーランスになったり、派遣社員になったりしたことで、もう一度正社員に戻るときに本当に大変な思いをしたという人は、たくさんいます。オフィスに出社してフルタイムで働く──。本人が望んでいても、これができない人は、実は世の中にたくさんいます。小さなお子さんがいたり、家族の介護のために時間が必要だったり、あるいは私のように満員の通勤電車が絶望的に苦手だったり。そんな人たちに対して、基本ルール(正社員でフルタイムの勤務)に則って働ける人たちは、それだけで「安定した身分を得られる強者」なんです。そして、このルールの中で昇進争いを勝ち残ったり、独特な才覚を発揮して起業したりしてきた経営者は、強者の最たるものだと言えるのでは……。私はそんなふうに考えてきました。無意識に強者の最上層にいる経営者は、基本ルールに則って働けない人たちのことを、どこまで想像できるのか。はっきり言ってしまえば、経営者は当事者意識を最も持ちにくい立場だと思います。最もルールを変える必要性を感じにくい立場だと思うのです。しかし今は、コロナ禍の影響を受けて、一気にルールチェンジを迫られています。これまでの基本ルールは崩壊しかけていて、新たなルールのもとで戦う準備を始めなければならなくなりました。経営者の心理的障壁が低いはずはありません。でも、こう考えてみるとどうでしょうか。新しいルールを否定するのではなく、これまでのルールを否定するのでもなく、どちらも選択できるようにすればいいだけ。新型コロナウイルスに対しては十分な感染防止策を図り、世の中の状況も見きわめながらではありますが、「出社して働きたい」と考える社員には出社させてあげればいいのです。一方で「自分は出社できない、出社しないほうが働きやすい」と考える社員には、リモートワークをする選択肢を用意するといった、そのハイブリッド型もあり得るかもしれません。一つしか方法がないよりも、二つ、三つと、より多くの選択肢を持てたほうが、組織作りの可能性は広がっていくはずです。リモートワークのための環境整備と、考え方は同じです。「できるところから少しずつやればいい」のです。ポイント毎日出社してフルタイムで働くことができない人は、大勢いる終身雇用の正社員は、安定した身分を得られる強者働き方は、その人自身が選択できるようにしていく

「リモートワークで弱肉強食になる」は半分正解、半分間違いオフィスに出社してフルタイムで働ける人は、本人が自覚していようといまいと、無意識のうちに強者の立場を得ています。そして、オフィスに出社できない人だけではなく、オフィスに出社してもフルタイムで働くことができない、総合職じゃない、正社員じゃない……これらの人々はすべて強者のルールから外れ、仕事ができるできないに関係なく、会社という組織の中では弱者の立場に追いやられていました。それが、従来の日本企業で続けられてきた働き方の現実です。しかしリモートワークが当たり前となれば、これまで強者だった人が必ずしも強い立場のままでいられるとは限りません。強者と弱者がそっくり入れ替わってしまうこともあり得るのです。私はよく、従来の働き方とリモートワーク中心の働き方を比較する際に、「サッカーとフットサル」にたとえています。サッカーとフットサルでは、チーム全員でパスをつなぎながらゴールを目指すという本質は変わりません。しかし、それぞれのルールを見ていくと、プレーするピッチの広さや使用するボールの大きさ、チームを構成する人数、選手交代の方法など、さまざまな違いが見られます。これは、従来の働き方とリモートワークにも通じる部分があります。似ているし、共通する部分はあるけれど、全く違う競技の中で、従来とは異なるルールのもとで戦うわけですから、強者と弱者の定義が変わるのは当然のことなのです。サッカーのチームで常にレギュラーだった人が、フットサルのチームでもレギュラーになれるとは限らないように、リモートワークの世界ではビジネスパーソンとしての経験値がそのまま生かせるとは限りません。「リモートワークができるのは、特別なスキルや経験を持つ人だけなのではないか?」と思う人もいるかもしれませんね。実は、かつての私もそう考えていました。私はキャスターに参画する前に、ディー・エヌ・エーという会社で人事担当を務めていました。当時の私は「本当に優秀な人以外、リモートワークは難しいのではないか」と考えていたのです。しかしキャスターに来てから、「リモートワークで活躍している人=オフィスで働いていたときに華々しく活躍していた人とは限らない」ということに気づきました。たとえば、キャスターには、ある著名な起業家のオンライン秘書を務めている女性がいます。前職時代の彼女は、子育てをしながら時短勤務で事務職に就く「どこにでもいそうな普通の人」でした。職務経歴書に誇らしく書けるようなスキルや資格があるわけでもありません。しかし、顧客からはその丁寧で迅速な仕事ぶりを大絶賛され、キャスター社内でも高く評価されています。「自分には特筆すべきスキルがないから、リモートワークになったら活躍できない」と思っている人には、ぜひ知ってほしいと思います。普通の人が普通のことをして大絶賛されるのが、リモートワークの事実なのです。ポイントこれまでの強者と弱者が入れ替わる可能性があるリモートワークに特別なスキルや経験は必要ない

これからは、「当たり前のことが当たり前にできる人」が重宝される繰り返しになりますが、従来の働き方における強者は、オフィスに出社してフルタイムで働ける人でした。その上で、正社員で働いていることが社内で出世するための前提条件ともなっていました。実際のところ、時短勤務やリモートワークを続けたまま昇進して取締役になったという人の話は、ほとんど聞きません。従来のルールを満たした上で、特筆すべきスキルを持っていたり、周りとの関係性を築くことができたりした人だけが選ばれ、さらに特別な強者となっていました。しかしそれは、みんながオフィスに集まることができ、目に見える範囲で働いていることが前提でした。リモートワークの世界では、強者の条件が変わります。これからの強者は、当たり前のことが当たり前にできる人、そして仕事で関わる相手に安心感を与えられる人なのです。理由は明確です。リモートワークのマネジメントをする上での一番の敵は、疑心暗鬼に陥ることです。「目の前にいない部下が、家でちゃんと仕事をしているのだろうか?」。そんなふうに疑い始めると、キリがありません。コロナ禍でリモートワークが注目されるようになると、在宅勤務をする部下を監視するためのツール活用法が脚光を浴びるようになりました。Zoomを1日中つなぎっぱなしにしたり、ウェブカメラで定期的に働いている様子を撮影したり……。個人的には、こうした方法には全く賛同できません。リモートワークがうまくいかなくなる最大要因の疑心暗鬼を、さらに加速させてしまうやり方だからです。実を言うと、キャスターにも苦い失敗経験があります。創業したばかりの頃は、マネジメントのために一人ひとりの作業内容を日々報告させていたのです。しかし気づいてみれば、その報告作業が会社全体の業務時間の3分の1を占めるまでにふくらみ、社員の残業時間も大幅に拡大してしまっていました。その反省から、作業報告をすべて廃止し、各々に任せることにしました。結果的に、作業報告自体をすべてやめても、何も問題は起きませんでした。管理するのではなく、単なる監視になってしまう。それが、疑心暗鬼に陥ったマネジメントの恐ろしい部分です。ちょっと考えてみてください。オフィスに集まって働いているときでも、社員一人ひとりの仕事の状況なんて、逐一見られるはずがないと思いませんか?上司が会議に参加している間は、フロアで働いている部下の様子は見えません。営業のように外に出ている時間が長い職種の人が、出先で何をしているかなど、把握できるわけがありません。GPS機能のある携帯電話を使って位置情報を確認すればいい?それこそ、単なる監視になってしまいます。そんなふうにマネジメント側を悩ませてしまうリモートワークだからこそ、強者となれるのは当たり前のことが当たり前にできる人、そして仕事で関わる相手に安心感を与えられる人なのです。具体的に分解して考えてみましょう。リモートワーク時代に必要なのは、仕事の基本と言えるもの。「約束を守る」「わからないことがあれば質問する」「仕事が終わらないなら早めに相談する」「表と裏で違うことを言わない」などといった事柄です。言葉にすると当たり前のように感じるかもしれませんが、リモートワークで誰かとともに仕事をする上では、非常に重要なことなのです。なぜなら、こうした基本を実行してくれる人は、離れた場所にいても仕事を進めてくれている安心感があるし、その仕事の状況が見えるから。仕事の状況が見えないと、いざミスやトラブルが発生してしまったときに地獄を見ることになりかねません。ブラックボックスになっていた業務の蓋を開けてみると、取り返しがつかないことになっていることもあります。そういえば以前に、キャスター社内でこんなやりとりがありました。私が、ある部署をマネジメントしていたときのこと。とある女性メンバーにサブマネジャー(一般の会社でいう副部長のようなポジションです)を任せることにしたのです。彼女はある日、「なぜ私にサブマネジャーを任せてくれたんですか?」と質問してきました。私は「よくないことが起きたら、最初に報告してきてくれる人だから」と答えました。これこそ、マネジメントをする立場である私が与えてもらっていた安心感だったのです。「この人に任せておけば、まずいことが起きてもすぐに教えてくれる」。そう思える人を重用していきたいと考えるのは、当然のことですよね。ポイントリモートワークの一番の敵は疑心暗鬼に陥ること信頼すべきは、仕事の基本に忠実な人よくないことを真っ先に教えてくれる人を信用せよ

「リモートワーク=アウトプットだけ出していればいい」は間違いこうした日頃のやりとりを大切にするために必要な視点を、もう一つ挙げておきたいと思います。リモートワークについて話をすると、たまに「アウトプットさえ出していればいい」という考え方をする人と出会うことがあります。オフィスで働いていないのだから、管理者からあれこれと指示を出されて動くのではなく、自分で考えて成果を出さなければならない。だから、最終的なアウトプットさえ明確に出せていればいいのだ、という考え方です。合理的だと感じる方も多いかもしれません。しかし私は、この考え方は大きく間違っているのではないかと思っています。この議論には二つのポイントがあります。一つは、「別に1日8時間労働にこだわらなくてもいいじゃないか」と考える人が多いということ。これについては、本章の冒頭で書いた通りです。たしかに毎日8時間働く理由はありません。しかし、会社の定時が決まっていて、その条件のもとで働くことが雇用契約で定められているなら、オフィスであろうが自宅であろうが、その時間内で働くことに変わりはなく、自由な時間で働いていいわけではありません。リモートワークはあくまでも「場所の縛りをなくしただけ」の働き方であって、時間の縛りをなくすためには、裁量労働制など、別の仕組みを導入する必要があります。さらに考えていけば、より本質的な事実にぶつかります。世の中のほとんどの仕事において、たとえば1日3時間程度の短い時間でフルタイム以上の成果を出せる人は、ごく限られた人だけだと私は考えます。ほとんどの人の場合、一定の労働時間と成果は比例関係にあります。短時間でも大きな成果を出せるというのは、非常にレアなケースではないでしょうか。もう一つの論点は、「アウトプットさえ出していればいい」という考え方には、チームで一緒に働く人や、自身の仕事を評価する人の視点が欠けているのではないかと感じることです。リモートワークでもチームで働いていることには変わらず、みんなとコミュニケーションをとりながらチームの成果を最大化するために働いていく。それにもかかわらず、コミュニケーションをとらずにアウトプットだけでいい、となるはずがない。そうした関係性の中で働くときに、途中経過が見えない仕事の進め方をすることは、大きなリスクをはらんでいます。前述したように、リモートワークで疑心暗鬼にならずに働くためには、日頃のコミュニケーション量を増やすことが必要です。姿が見えにくいリモートワークでは、アウトプットが素晴らしいことも大事ですが、途中段階でのコミュニケーションのほうが大切なのです。よりシンプルに考えても、同じチームで働いているのに普段何をしているのかわからず、ほとんどコミュニケーションをとれない相手は怖いですよね。ポイント定時が決まっているのなら、勤務時間内で働くことに変わりはないアウトプットさえ出せばいい、という考えは間違い信頼はコミュニケーションと行動でしか得られない

リアルなコミュニケーションと、デジタルなコミュニケーション当たり前のことが当たり前にできる。仕事で関わる相手に安心感を与えられる。これができるかできないかは個人の資質にもよりますが、チームの状態が個人の行動に与える影響も見逃せません。よくないことも安心して報告できる空気を、チームとして日常的に作っていくことが大切です。その意味では、リモートワークによってコミュニケーションの手段が変わるところに、大きな可能性があります。新人時代や若手時代を思い出してみてください(現在進行形で若手の方は、よりリアルに感じられるかもしれません)。日頃から怖いイメージを持っている上司のもとで働き、忙しそうにしている姿を見てなかなか声がかけられなかったという経験は、誰しもあるのではないでしょうか。それがリモートになると、オフィスで対面していないがゆえに「怖い」「忙しそう」と感じなくなり、部下がどんどん話しかけてくれるようになる効果もあるのです。これは、逆のパターンも考えられます。部下の顔色を見て接することや、飲み会でモチベーションを上げていくことを得意としてきた管理職の人は、リモートだと強みを生かしづらくなるかもしれません。すでに多くの人が実感していると思いますが、オフィスでの対面のコミュニケーションと、文字を中心としたデジタルのコミュニケーションでは、得られる情報量にかなりの差があります。対面の場合は話す内容だけではなく、「相手が笑っている」「その場にやわらかい雰囲気がある」といった付帯情報に五感でふれながら互いの気持ちを察することもできます。しかし、デジタルの文字中心のコミュニケーションには、そうした付帯情報がほとんどありません。対面での会話であれば、相手の反応を見ながら言い回しを考えたり、場合によっては話をする場所を変えたりといった工夫もできます。デジタルのコミュニケーションではそうした考慮が不可能に近く、伝える言葉もストレートな表現になりがちです。こうしたコミュニケーションの特性の違いを理解し、「1回で得られる情報は不足していて、伝わりきれないもの」と理解し合っていることが、リモートワークには欠かせないと思います。デジタルのやりとりでは「どうしてこんなに素っ気ない返信が来たんだろう?」「もしかして怒っているのかな……?」などと心配になってしまうこともあると思います。しかし、ここで勝手に相手の感情を推測し始めると、どんどん疑心暗鬼に陥ってしまいます。そうなると最悪の場合、相手が怖くなってコミュニケーションすらできなくなってしまう、ということも起こるのです。リモートワークをしていて、交換している情報量が足りないと感じたら、遠慮なく「やりとりの回数そのもの」を増やしていくべきです。キャスターではよく、「思ったこと、感じたこと、考えていることは全部言おう」と言っています。私自身が日頃のリモートワークで気をつけているポイントも、いくつかお伝えしたいと思います。立場上、社内でのやりとりの相手はほとんどが部下になるということもあり、デジタルの文字コミュニケーションでは「!」などを積極的につけたり、スタンプを多用したりして、自分の感情をできるだけ誤解されないよう、わかりやすく伝えるようにしています。同時に、自分の意図を相手に端的に伝えることも、強く意識しています。たとえば、部下に注意をしなければならないと思ったときは、文章の冒頭に「注意です」と書いてからコミュニケーションを始めています。そうすることで、相手はこちらの意図を汲みやすくなり、行き違いやトラブルも減る。こうしたひと手間を惜しまないことが大事です。ポイントデジタルでは、1回で得られる情報が限られる情報量の不足は、やりとりの量で解消できる自分の意図をはっきり伝えるには、ひと手間かける

メンバーによってコミュニケーションの方法を変えていく「リモートワークになって、メンバーとのコミュニケーションが大変になった」管理職を務める人から、よく聞こえてくる声です。今まさに悩んでいるという方は、「従来はどうやってコミュニケーションをとっていたのか」を振り返ってみてもいいかもしれません。メンバーとたくさん話すことでコミュニケーションを成り立たせていたのなら、デジタルのやりとりを増やしてみればいい。単純に、メールやチャットで自分の意図を伝えることに苦手意識を持っている人もいるでしょう。その場合は、コミュニケーションの手段ばかりにとらわれず、自分に合ったやり方を試行錯誤してみることも有効です。たとえば、「1日1回、朝の30分にZoomでのミーティングタイムを設ける」といった方法もあります。オフィスにおける朝礼の代わりです。大事なことはオンライン会議で会話して、ほかの要件はメールやチャットにするなど、段階を踏んで新しいコミュニケーションに慣れていくのもいいでしょう。部下も一人ひとり、得手不得手があるはずです。ストレートに「どんなコミュニケーション手段がいいか」を聞いてみるというやり方もあります。私はいくつかの組織を見ているのですが、特性はそれぞれ違います。bosyuチームの場合は、メンバーのほとんどがエンジニアということもあってか、みんなオンライン会議のコミュニケーションよりもテキストで語るほうが饒舌になります。だから、会議は週に1回、30分だけしか行いません。逆にそのほかの部門では、オンライン会議で話したいというメンバーが多いため、頻繁に会議を行っています。このようにしてさまざまな方法を試していけば、チームにとって何が最適なコミュニケーション手段なのか、徐々に見えてくるはずです。同時に、コミュニケーションの中身についても振り返っていく必要があります。たとえばキャスターのとある部署では、2ヶ月に1回のペースで「会議体のあり方を振り返る会議」を開いています。頻度や時間は最適か、アジェンダは適切かといった項目について話し合い、柔軟に会議体を見直してきました。これを繰り返して、わかってきたことがあります。未来に向けてみんなで考えなければならない類の会議などは、答えが出るまでの期間は定例開催にしたほうがいい。というのも、参加者がそのタイミングに向けて自らの考えをまとめるようになるからです。ポイントいろいろ試して、そのチームに合ったコミュニケーションの方法を見つける考えを持ち寄る会議は答えが出るまで定期開催

「察してほしい」と思うのはあきらめようリモートワークにおけるデジタルなコミュニケーションでは、それぞれが自分の置かれた状況を発信する責任を負うことになります。オフィスにいるときなら、自分が忙しくて大変なとき、隣の席に座っている人が状況を察して手を差し伸べてくれたかもしれない。しかし離れた場所にいる相手には、何も発信しないまま自分のことを察してもらうことは不可能です。こう書くと、ずいぶん難しいことのように感じるかもしれませんが、やるべきことはシンプルです。困っているときには自分から、「困っています」とチャットに書き込むだけ。キャスターで新人を迎え入れる際は、入社初日にオリエンテーションを行います。その場で私は、こう伝えています。「今日からは、仕事で人に察してもらおうとするのはあきらめてください」「私もみんなのことを察することができるとは思っていません。だから、思ったことや考えたことはテキストにして、すべて発言してください」「思ったことはすべて書く」これは、リモートワークのコミュニケーションでは非常に大切なことです。職場におけるコミュニケーションには三つの種類があります。「業務連絡」と「仕事に関する相談」、そして「雑談」です。オフィスでは、この三つの会話が繰り広げられ、関係性や空気感が作り上げられています。場所が離れていても、この三つを持ち込むことが大切なのです。リモートワークを経験した人にはうなずいていただけると思うのですが、リモートになった途端、コミュニケーションが一つ目の「業務連絡」ばかりになってしまうということがよく起こります。これでは単純に息が詰まってしまうし、気づけば「ちゃんとしたことしか発信しちゃいけないんだ」という雰囲気を広げることにもつながりかねません。そして、結果的にはオフィスにいたときよりもコミュニケーションが減ってしまいます。そうならないために、私は雑談を特に重視していて、雑談専用のコミュニケーション手段をたくさん設けています。たとえば、オンライン会議でミーティングをする際にも、最初の10分間は雑談タイム。普段は話す機会が少ないであろう、違う職種の人たちをZoomのルームに振り分け、雑談できるようにもしています。真面目に仕事を回していくことはもちろん大前提。ですが、何気ない会話から生まれる「ゆるい雰囲気」も大切にしていきたい。それが「ここでは何でも発信していいんだ」というみんなの安心感につながり、コミュニケーションの量が増えれば増えるほど、新しいアイデアが生まれる機会も増えていきます。リモートワークでの雑談は、とてもとても大切なのです。ポイント思ったことはすべて書いて伝える業務連絡だけだと息が詰まる。アイデアも出てこなくなる直接顔を合わせないからこそ、雑談が大事になる

「リモートワーク=ママ」じゃない!「リモートワークって、子育て中のママがやるものでしょ?」少し前までは、世の中全体に何となく、そんなイメージが漂っていなかったでしょうか。小さな子どもがいる人、あるいは家族の介護をしなければならない人、地方に住んでいる人……。オフィスに出社して働くことができない人の代替手段として、リモートワークが考えられていたように思うのです。でもよく考えてみれば、これはちょっと変な話。なぜ、「出社できる人」が標準なのでしょうか。オフィスで働く人が主であり、リモートワークをする人は従。無意識のうちに、そんな関係性を規定していませんか?「うちの会社には在宅勤務制度があるので、子育てママも働きやすいんです!」そんなふうに悪気なく言う人にも、よく出会います。本当に悪気はなく、無意識に言っているのだと思いますが、それはオフィスに出社して働く自分たちを標準としてとらえた考え方であることを、意識すべきだと思います。ここに気づかなければ、誰もがその人の働きやすいように働く環境は作れません。キャスターの社員の男女比は女性が多く、現在1:9。男性はまだ少ないですが、業務委託でチームリーダーをしていたり、時短で働いていたりするメンバーもいます。その点は、キャスターならではだと思います。また、社員のうち、おおむね3分の1が既婚・子持ち、3分の1が既婚・子なし、そして残りの3分の1が独身と、きれいに分かれています。特に子育てママが多いというわけではありません。キャスターの働き方について男性に話すと、「とてもいいですね!妻に勧めます」という反応が返ってくることがよくあります。私はいつも、「いいと感じるなら、奥さんじゃなくて、あなた自身がリモートワークをすればいいのに」と思ってしまうのです。なぜ、リモートワークは奥さんがやる前提なのか。男性は、リモートワークを自分の働き方だととらえていない人が非常に多いと感じます。たとえばですが、いざ子どもが生まれるとなったときに、自分がリモートワークや時短勤務に変えようと思った男性は、多くはないのではないでしょうか。本当に無意識のうちに「働き方を変えるのは女性で、男性の自分は関係ない」と思ってしまっているかもしれません。今、この本を手に取ってくださっている男性の中で、ドキッとしている人がいてくれたら嬉しいです。リモートワークは女性がやるもの、子育てママがやるもの。そのイメージは、もしかしたら社会全体で作り上げてきてしまったものなのかもしれません。なぜ、出社することにこだわってしまうのか。理由は単純で、従来はそれしか方法がなかったからでしょう。男性の多くは、オフィスに出社して、正社員として働くこと以外の選択肢を、想像したことさえないのではないでしょうか。ポイント「リモートワーク=ママ」ではない男性にとっても働き方は、自分事

正社員至上主義からの脱却「正社員」という言葉を使いましたが、雇用形態についてのイメージも凝り固まってしまっていると思います。雇用形態といっても、法律上は有期雇用か無期雇用、つまり雇用期間に定めがあるかないか以外の違いはありません。それにもかかわらず、日本ではいつしか「正社員が主であり、それ以外は従」といった空気が作られてきました。「正規雇用」と「非正規雇用」というくくりで分ける考え方にも、その空気が現れています。正規雇用の正社員に対して、非正規雇用には契約社員やパート・アルバイト、派遣社員など、さまざまな働き方があります。個人事業主としてフリーランスという働き方を選択している人も増えたのではないでしょうか。少々乱暴な分け方ではありますが、「正社員とそれ以外」で比較してみると、現在の日本ではリスクとリターンのバランスがおかしくなっていることに気づきます。働く個人の立場で考えると、今の日本では正社員でいるほうが何かと有利なのは事実です。正社員がなかなか解雇されにくいのは、ご存じの方も多いでしょう。それに加えて、賃貸住宅への入居や住宅ローンの申し込みなど、一定金額を長期間支払い続ける前提の契約を結ぶにあたっては、「正社員かそうでないか」が、審査の成否を分けることがあります(実際の審査には、勤務先の企業規模や業種、業況なども影響するはずですが、ここでは割愛します)。今が正社員であるほうが生きやすい時代であることは、否定できません。個人からすれば、正社員はリスクが小さく、リターンが大きい働き方だったと言えます。しかも今の日本では、雇用形態があたかも身分制度のように機能しています。第2章でもお話ししましたが、一度正社員として勤めていた人でも、正社員を辞めて違う働き方をしていた期間が長いと、正社員として転職することが難しくなってしまうという現実もあります。もちろん個人差のある話ですが、企業の採用プロセスにおいて、書類選考の段階で弾かれてしまいやすくなる側面がまだまだ残っているのは事実でしょう。一方で、企業の視点から考えてみると、ちょっと違った現実が見えてきます。正社員と正社員ではない人、企業がどちらかを採用するとしたら、リスクが高いのは圧倒的に前者、つまり正社員です。日本の労働法制上、企業は、雇用期間の定めのない正社員として人を採用してしまうと、なかなか解雇することができません。正社員ではない働き方であれば、その多くは雇用期間を定めて採用をするため、企業側のリスクは低くなります。いわゆる非正規雇用で働く人が増加してきたのは、こうした構造に要因があると考えられます。そして非正規の働き方は、雇う側の企業としてはリスクが低いけれど、働く側の個人としてはリスクが高いという状況につながっているのです。企業としてのリスクが低く、個人としてのリスクが高い非正規よりも、企業としてのリスクが高く、個人としてのリスクが低い正規のほうが給与が高い。なんだかバランスが悪いですよね。そう感じるのは、私だけでしょうか。リスクとリターンのバランスや、市場原理だけ考えれば、「正社員は無期雇用だけど、給料は上がらない」「契約社員は有期雇用だけど、仕事の難易度に応じて給料が上がる」といった仕組みの会社があってもいいと思います。つまり、正社員という働き方がベーシックインカムのような機能を持つ、ということ。「収入が増えなくてもいいから安定した立場で働き続けたい」という人は、正社員を選べばいい。「次々と新しい仕事に挑戦して収入も増やしていきたい」と思う人は、正社員以外の働き方を選ぶという未来。雇用する側はもちろん、働く側もそんなふうに個々人が選択でき、多様な働き方でキャリアアップを目指せる世の中にしていくことが、私の一つの目標です。ポイント個人から見ると、正社員はリスクが低く、リターンが大きい個々に応じて働き方を選択できる仕組みを作る

お金のリアルな実態お金に関する話として、キャスターの給料事情についてもふれておきます。キャスターでは、居住地はもちろん、年齢によっても給料が変わることはありません。仮に全く同じ役割で、全く同じ仕事量をこなしているとすれば、東京に住んでいても沖縄に住んでいても給料は同じです。この話をすると驚く人も多いのですが……そもそも、住んでいる場所や働く場所、年齢が違うだけで、給料が変わるほうがおかしいのだと思います。最低賃金の金額が都道府県別に異なるように、今の日本では一般的に、東京と地方では給与水準が違います。しかしそれは、物価水準などの影響を受けているだけであって、人材の質の問題ではありません。それなのに、Aさんという人が同じ仕事をする場合でも、東京から地方へ移り住んで転職をすると、給与が下がってしまいます。リモートワークになると、なぜかさらに給与が下がってしまう例もまだまだ多く見られます。大企業の場合は、全国転勤がある総合職と地域採用の人の間で給料が違う場合もあります。こうした現実も、リモートワークが当たり前になり、住んでいるエリアではなく、能力や成果に応じて給与が決まる仕組みが当たり前になれば、変わるかもしれません。キャスターで働く人の実例を挙げてみると……。たとえば、東北地方や九州地方在住で、年収約500万円を超えている社員も多数いますし、事業部長等の管理職に就いている社員(全社で10名以上います)は、住んでいるエリア関係なく、東京のスタートアップ企業の管理職並みの報酬になっています。それ以外にも、週3勤務だけれど高い成果を出して年収600万円強という社員も存在します。そのほかのメンバーも原則、東京の給与水準をベースに、住んでいるエリアに関係なく、役割とその成果に合わせて給与を設定しています。自分の働ける場所で働いて成果を出す。社員はみんな、それをごく当たり前にしているだけですが、この働き方によって、自由に使える時間が、出社して働くよりもはるかに増えています。では、それぞれの給与はどのようにして決まっているのか。制度としては非常にシンプルで、会社が「こんな結果を求めています」と役割を提示し、それがどの程度果たされたかによって給与額を決めるという流れです。「結果という事実だけ」で評価する給与制度を運用しています。たとえば、経理職であれば「この半期で月次決算を3営業日で締められるようになる」という目標に対して、3営業日で締められたかという「結果だけ」で判断します。文字にすると何だかドライに感じるかもしれませんが、私はこれこそが本当の意味でフェアであり、働く人に優しいやり方なのだと信じています。やるべきことが明確で、求められている結果を出せばきちんと評価される。そんな環境でなければ、人が頑張り続けることは、難しいと思うのです。この給与制度は、雇用形態や働き方にかかわらず、公平に評価できるという面でも私たちの会社に適していると感じます。この給与制度を運用していくにあたり、キャスターでは事業ごとに必要な役割を洗い出し、ある程度の業務モデルを固めた上で、半年に1回のペースで一人ひとりに対する目標設定とフィードバックの場を設けています。公平で的確な評価をするために必要なのは、明確な目標設定です。これはキャスターに限った話ではなく、あらゆる企業に共通することだと思います。目標設定がきちんとできていないのに、評価できるはずがないのです。会社内での評価のフィードバックにおいては、上司が部下を説得することに時間と労力を割いているケースも多いのではないでしょうか。「あなたの今期の評価はこうでした。その理由は……」という説明をするために、情緒的で不明瞭な理由を交えて延々と語りかける。このようなフィードバックをしていては、部下はいずれ評価に納得できなくなり、「同期のあいつはこんなに評価されているのに、なぜ俺は評価されないんだ」といった不満を抱くようになっていきます。そうなってしまう理由は、明確です。そもそも、漠然とした目標設定を行っているのです。目標設定がふわっとしているから、評価もふわっとした曖昧なものになる。そして、評価者による主観が大いに入ってしまうという欠点もあります。たとえば、営業職の業績など定量的な項目は評価に値する成果を残しても、日々の行動や言動やスタンスがイマイチだと上司が感じたから給与は上がらない、のような曖昧な評価が続けば、部下がモチベーションを失ってしまうのも無理はありません。キャスターでは、一人ひとりに明確な目標設定を行い、その目標に対する結果に基づいて評価を決めています。そして、評価を経て決定したそれぞれの給与額は、会社の経営状況などとあわせて、全社にすべて公開しています。全員が閲覧できる状態で給与額の一覧を共有しているのです。これを聞いた社外の人は、みんな驚きます。一般的には、社員全員の給料を共有するなんて、あり得ないのかもしれません。キャスターの場合は、「どの役割の人がどんな結果を出すと、いくらになるのか?」という評価の仕方、給与の決め方が公開されていて、それに沿って評価しているので、あえて公開しなくても、ほぼ全員の給与がわかってしまうようにはなっています。それに加えて、会社として、誰かの一存で恣意的な評価をしているわけじゃないことを示すためにやっている、という面もあります。同時に、会社の経営状況もフルオープンで情報共有しています。決算の数字も毎月全公開。役員の報酬額や、それぞれが持っている株数もすべて共有しています。ポイント給与は結果という事実で決定する一人ひとりに明確な目標設定を行う

給与も経営状況も、すべて全社員に共有

キャスターの「働き方」ここまで書いてきたように、キャスターでは従来型の雇用形態の区別ではなく、個々人の役割を果たすことを前提として、柔軟な働き方を実現しています。いくつか具体的な事例を紹介したいと思います。◎「週10時間の稼働」で新規事業開発(業務委託契約)創業初期に新規事業を立ち上げた際に、大きな役割を果たしてくれた人の例です。その人は以前、大企業に勤めていたのですが、子どもを預けられる保育園がなかなか見つからず、柔軟に働ける場所を探していました。当時の私は、複数の事業を管轄しており、事業設計などの実務はできるものの、サービスを具体化するための人員が足りていないという状況でした。そこで、週10時間(1日2時間の目安)稼働の業務委託契約で力を借りることにしたのです。それから1年半ほど活躍してもらい、二人目の子どもが生まれるタイミングでいったん契約を終了。しかし、機会があれば、また一緒に仕事をしたいと思っています。ちなみに報酬は、週40時間のフルタイムで働いてもらった場合の金額(役割からすると年額で600万円ほど)から週10時間稼働にあてはめて換算し、月額で12万円ほどでした。会社ができたばかりの頃では、優秀な人材に対してでも年収600万円を提示するのは厳しいところですが、月に10万円強であれば捻出できます。他社を見ていると、新規事業を立ち上げる際にすぐに即戦力を入れようとする企業が多いと感じますが、「でも、あまりお金は出せないから月給30万円くらいかな」といったオファーになりがちです。新規事業の推進を任せようとする人材に、月給30万円の提示ではなかなか振り向いてもらえないでしょう。しかし、フルタイムにこだわらず柔軟な働き方で参画してもらえば、優秀な人を見つけられる可能性は高まるのです。もちろん地方の中小企業でも、こうした人と出会える可能性はあります。◎週3日は正社員、残り2日はフリーランスこんな働き方をしている人が、キャスターには何人もいます。正社員として働きたいけれど、自分の活動もしたいという希望をかなえてもらっているのです。現在bosyuのPRを担当してくれているメンバーも、週3日だけ正社員として働き、ほかの日は全く違う仕事をしています。会社側としての考え方は、シンプルです。役割を見て、この人だったら任せられると思う人が週3日を希望しているなら、それに応えるというだけ。「正社員は週5日勤務でなければならない」という前提はありません。重要なのは、「適任かどうか」なのです。一般的に正社員を採用するとなると、適任かどうかではなく、週5日働いてくれるかどうかをまず前提条件とする会社が多いですよね。それは、はたして意味のあることなのでしょうか。よく「適材適所」という言葉が使われます。私は、この考え方は間違っていると思っています。本当に必要なのは逆の順序で、「適所適材」ではないでしょうか。まず考えるべきは、「適所」です。会社の中で、誰かに果たしてもらいたい役割が生まれるからこそ、必要な人材を探すわけですよね。誰かにお願いしたいと考えている仕事が100だとして、適材である人が50しかできないのであれば、残り50をやるための方法を別に考えればいいのです。100できる人を見つけるとなると、余分に多くの時間がかかってしまう。多くの企業は、任せたい役割が明確になっていなくても、まず「適材」を見つけようとします。こうなると、合理的な理由がなく、実は働く本人の希望と合致していないかもしれないのに、「とりあえず会社にフルタイムで在籍してもらうこと」を前提にせざるを得ないという状況が発生してしまいます。働く個人の希望は、さまざまです。「キャスターの仕事は面白そう」と感じてもらっていたとしても、そのウェイトがどれくらいか、どこまでキャスターの仕事にコミットできるかは、それぞれで事情が異なるはず。「フルコミットしてほしい」というのは、会社側の願望でしかありません。会社との距離感は人それぞれでも、みんなが有機的に動いて成果を出してくれれば、問題はないはずです。それ以上のことを個人に求めようとするのは、会社のエゴでしょう。◎業務委託契約の事業部長この事業部長は自分自身でも会社を経営していて、ビジネスは軌道に乗っています。その経験を生かしてもらいたいと考え、ある事業を任せました。実は、私自身もキャスター入社当初は自分で立ち上げた会社の経営もしていたのですが、キャスターでは管理職であってもフルタイムとは限りません。適任であれば、管理職でも業務委託契約で稼働してもらうことがあります。「この事業を伸ばしてください」という業務をお願いしているだけなのです。考えてみれば、世の中のさまざまな現場が同じような仕組みで動いているんですよね。テレビ番組の制作現場には、会社員やフリーランス、協力している制作会社から派遣されている人など、さまざまな立場の人が入り乱れて働いています。建設現場には、一人親方と呼ばれる個人事業主がたくさんいて、それぞれの技能を生かしています。この本を作るにあたっても、編集者やライター、デザイナーな

ど、さまざまな立場や所属の人が関わっています。そうした意味では、キャスターで実践されている働き方は、別に珍しいものではないのです。営業や人事、経理、総務といったホワイトカラーの業務であっても、さまざまな立場の人が混じり合い、協力して仕事を進めていけるはずです。ここまで述べてきたように、一つの会社の中には、さまざまな希望を持つ別々の個人が働いています。会社そのものはミッションを達成し、社会へ貢献するために存続していくべきだと思いますが、そこで働く一人ひとりが「ずっとここにいたい」と思うかどうかは、全く別の話です。会社との距離感も、コミットメントの度合いも、どれくらいのスパンでつきあっていくのかも、すべては人それぞれ。経営者や管理職の立場では不都合な事実かもしれませんが、それが本質でしょう。かくいう私自身も、キャスターにずっといないかもしれません。ずっと、会社役員でいたいという願望もありません。もちろん、自分で作った事業や会社には愛着を持っていますが、それらは私個人の所有物ではありませんし、私という個人も会社に所有されているわけではないのです。キャスターの「中にいる一人である」というだけです。「会社は自治体のようなもの」だと考えると、わかりやすいかもしれませんね。自治体(市区町村)へは基本的に自由に出入りすることができ、そこに住んでいる理由を問われることもありません。引っ越したい人は引っ越せばいいし、住む理由は人それぞれで構わない。税金を収め、ルールを守って暮らしてさえいれば、個人は何一つ束縛されません。会社も、実は同じなのではないかと思うのです。ポイント柔軟な働き方は、雇用側も働く側も「win‐win」になる大事なのは、働く日数ではなく、適任かどうか会社も個人も束縛されない働き方

多様性を認めない会社は、生き残れない日本企業のマネジメント層は、多様性が乏しい。これは、ずっと以前から指摘されてきた事実です。厚生労働省が発表している「平成30年度雇用均等基本調査」によれば、管理職に占める女性管理職の割合は「部長相当職」で6・7%、「課長相当職」で9・3%となっています。これに「係長相当職」を加えた合計でも約32%と、マネジメント層においては、女性の比率がまだまだ低いことがわかります。現状のマネジメント層を担っているのは、オフィスに出社して正社員として働き続けてきた男性。平たく言ってしまえば「おじさんたちの世界」です。単一の働き方しか経験しておらず、社会人になってから、その会社でしか働いたことがないという人も少なくないでしょう。これでは、世間の認識や新たな動きから少しずつずれていってしまうのも、無理はありません。リモートワークが当たり前になる時代に、マネジメント層には何が求められるのでしょうか。オフィスに出社して長時間働くことができ、会社の命令であれば、転勤もいとわない。その前提条件のもとで出世コースに乗ってきた人が、現在の日本企業のマネジメント層におけるマジョリティです。また、働く場所や時間の制約を受けるような不利な立場に置かれることは、ほとんどの人が経験していないでしょう。マネジメント層のほとんどの人は、自分たちが有利な立場にいるという意識はないと思います。そのため、リモートワークの普及によって生まれる新たな常識から「ナチュラルにずれていく」のです。これまでの働き方では、基本的に「オフィスに出社して働く」ことが原則であると考えられていました。仮に社内でリモートワークをする人がいても、「例外を認めている」という認識で接していたのではないでしょうか。「基本は出社でフルタイムだけれど、例外的に自宅で働くスタイルも認めるよ」と……。本書の中で繰り返し述べていますが、リモートワークを例外として、主従の「従」としてとらえる感覚は、ウィズコロナと言われる時代には、もはや捨てなければならないと思います。ポイント日本のマネジメント層の大多数は、正社員の男性マネジメント層は、ナチュラルに考えがずれている

メンバーシップ型からジョブ型へ近年、働き方改革のトレンドが進む中で、「メンバーシップ型」と「ジョブ型」という二つの類型から日本企業の働き方を考える議論が盛んになってきました。メンバーシップ型では、個人の役割や勤務地などの諸条件を限定せずに人材を採用します。日本で長く行われてきた新卒一括採用は、その典型例だと言えるでしょう。対してジョブ型では、必要な役割と求める成果を定義した上で、それに見合った能力やスキルを持つ人材を採用します。求めるのは「役割を遂行すること」であり、当人の働き方ではありません。その意味では、リモートワーク時代にマッチしているのは、どちらかといえば後者のジョブ型であると言えるかもしれません。ところで、このジョブ型雇用の考え方はどんな背景から生まれてきたものなのか、ご存じでしょうか。ジョブ型雇用は、世界的な人事・経営コンサルティング会社であるヘイグループの創業者、エドワード・ヘイが提唱した理論で、1960年代のアメリカでは、この理論をもとにした人事制度が急速に広がっていきました。当時のアメリカは、人種差別の撤廃を目指す公民権運動の真っただ中にありました。人への評価(この人は認めるか、認めないか)の側面が強いメンバーシップ型雇用では、人種や出自によって社内での評価が左右されてしまうことも多かったのです。簡単に言えば、白人は有利に評価され、白人以外は不利に評価される事態が横行していました。そんな問題点を乗り越え、人種や出自にかかわらず、個人の能力に基づいて評価される多様性のある組織作りを目指したのが、ジョブ型雇用の出発点でした。人種差別という強烈な現実がベースとなって生まれたジョブ型雇用は、組織内に多様性をもたらすための制度だと言えます。現代の日本においては、オフィスに出勤できる正社員という特権階級だけではなく、いろいろな人が能力に基づいて働くことができる職場を作るために、取り入れていけるのではないでしょうか。ポイント「メンバーシップ型」から「ジョブ型」へ移行ジョブ型は誰にでも平等で、組織内に多様性をもたらす

一人ひとりの価値観を尊重する現代社会では、社会を構成する一人ひとりの価値観の違いが明確となり、多様性を認めて個々を尊重し合うことが、コンセンサスとなりつつあります。そんな時代に、単一の価値観に縛られた企業集団が、価値を提供できるはずがありません。これからの企業にとって、人材の多様性を実現することは必須だと言えるでしょう。同じ町に暮らしている人でも、もっと局所的に言えば同じマンションに住んでいる人でも、それぞれが違う価値観を持って生きている。それが現代社会の当たり前なのに、会社の中では認められないという現状は、やはりおかしいと思うのです。世の中はすでに多様になっているのに、会社だけがそれを認めない。こうした「自然に逆らっていること」が、さまざまな歪みにつながっているのではないでしょうか。オフィスに出社できる正社員がマジョリティだと第2章でも言いましたが、もちろん「自分はオフィスに出社して正社員として働きたい」という人の価値観は尊重されるべきです。同時に、「自分は自宅でリモートワークをしたい」と考える人の価値観も、尊重されるべきなのです。コロナ禍でリモートワークを導入した企業では、「オフィス派」と「リモートワーク派」の違いを顕著に感じられるようになっているのではないかと思います。オフィスで働くことができなくなったことを寂しいと思う人もいれば、逆に快適だと感じる人もいますよね。では、その違いはリモートワークを始めたことによって生まれたものでしょうか?私は、両者の価値観の違いは、もともと存在していたものが顕在化しただけではないかと思っています。同僚や上司とのコミュニケーション方法や、仕事をする上での環境について、人によってとらえ方が異なるのは当然です。何を快適だと感じるかは、人によって違うのです。みんながオフィスに集まって働くことが当たり前だと思っていた時代には気づくことができなかったことも、離れて働くようになったことで見えるようになった。それだけのことではないでしょうか。キャスターの働き方の根底にあるのは、この考え方です。一人ひとりが違っていて当たり前。それぞれの役割を果たせていれば、ほかの何かで縛ることは一切しません。会社とのつきあい方もコミュニケーションの仕方も、個人が快適だと感じるものを選択できるようにしています。そう考えると、リモートワークのために新たなルールを作ろうとするのは、逆効果とも言えます。細かくルールを定めれば定めるほど、それぞれの「快適」の邪魔をしてしまう可能性があるからです。もちろん会社組織である以上、無秩序にはできませんが、個人を縛るルールは、なるべく最小限にしたいと思っています。ポイント何を快適と感じるかは、人それぞれ。お互いを認め合う役割を果たすことが最優先ルールは最小限にしたほうが、働く力を発揮できる

それぞれの「会社との距離感」を認める会社には多様な価値観の人材が集まっていて、会社とのつきあい方も人それぞれ。その前提に立てば、「会社との距離感が遠い人」も認めざるを得なくなります。経営者やマネジャーの立場で考えると、これは難しい問題です。一個人の感情として「みんなに会社のことを好きでいてほしい」と思う気持ちはよくわかります。会社へのロイヤリティー(忠誠心)が低い社員がいることをよしとする経営者やマネジャーは、ほとんどいないでしょう。しかし、会社へのロイヤリティーを一方的に個人に求めるのはおかしな話です。社員に「この仕事は面白い」「もっとこの会社に貢献したい」と思ってもらえるように動くのが、マネジメントの本来の役割だからです。かく言う私自身は、いつも「会社との距離感が遠い人材」でした。私は以前にリクルートグループの企業に勤め、営業職や営業マネジメントを経験しました。リクルートでは四半期に一度、優秀な成績を収めた人を表彰する「キックオフミーティング」というイベントが開かれます。私自身も何度か表彰される機会があったのですが、目立つ場所に登壇するのが嫌で、できれば出たくない。周囲には「みんなで飲みに行って盛り上がるのが大好き」という人たちがたくさんいて、そういう人はキックオフミーティングのあとに飲みに行くのですが、私はほぼ参加せず、隠れるように帰っていました。そんなふうに一体感が好きな社風を持ちながら、日々のマネジメントでは「お前はどうしたいの?」と問いかけ続け、徹底的に個人の自主性を重んじる。リクルートは、本当に面白い会社だと思います。私のような人間が一定レベルで認めてもらえていたのは、あの会社だったからこそかもしれません。普通なら、私のような人間はあまり評価されないように思います。「スタンスが悪い」といった、謎の言葉を投げかけられて……。とはいえ、私のような感覚で、会社との距離感を保っている人材は少なくないはずです。マネジメント層の立場では、社内イベントへの社員の反応を見て感じることも多いのではないでしょうか。2019年の年末には、SNS上で「忘年会スルー」という言葉が飛び交いました。メディアでは、「『業務ではない飲み会イベントに、強制的に参加させられるのは嫌だ』と考える人が増えている」として、世代論のように印象づける論調もありましたが、私は違うと思います。もともと、社内イベントに強制的に参加させられるのは嫌だと考えている人が、一定数いたのでしょう。今はそうした人たちの声が、インターネットやSNSによって見えやすくなっただけだと思っています。ちなみに最近では、「やたらとオンライン飲み会を開催したがる上司」に悩んでいる人も少なくないと聞きます。外で飲みに連れ出されたときには「終電があるので……」と切り上げることもできますが、オンライン飲み会では、なかなか逃げるタイミングを見つけられない。そもそも、「自宅のプライベート空間に上司が入ってくる感覚がして嫌だ」と考える人もいるようです。こうした話を聞いて「最近の若者はスタンスが悪い」と感じる方は、もうその考え方を捨てましょう。私は、忘年会や普段の飲み会、社内イベントなどをすべて否定するわけではありません。好きな人は、どんどん参加すればいいと思います。だけど、それを強要する必要は一切ない。人とのつきあい方と仕事の成果をごちゃ混ぜにして、「スタンスが悪い」という謎の評価をくだす必要もないはずです。ポイントマネジメントの役割は、働く人に「仕事が面白い」と思われるように動くこと社内イベントは強要しないつきあい方と仕事の成果を同列にしない

必要なのは「フラットな評価」と「自ら行動すること」マネジメント側の考え方を変えただけでは、従来の職場の常識を取り払っていくのは、難しいかもしれません。職場には、少なからず同調圧力が働いている場合もあるでしょうし。個人の価値観を大切にして行動した結果、「あいつは空気が読めない」と陰で言われてしまう人もいます。よくある話としては、「上司が遅くまで仕事をしているから帰れない」と部下が感じてしまうのも、同調圧力が働いているからです。こうした空気を一掃するのは簡単ではありませんが、結局は「そんなこと、気にしなくてもいいんじゃない?」と、上司が言えるかどうかにかかっているのではないでしょうか。上司が自ら行動していくことは、とても大切です。上司がさっさと帰るようにすれば、それだけで職場の残業時間を大幅に減らせるかもしれません。これは、私自身もマネジメント側として意識していることでもあります。キャスターは、ほぼ全員がリモートワークをしていて、小さなお子さんがいる場合は、基本的に保育園や幼稚園などに預けてもらうことを前提としていますが、緊急事態宣言時のように家に小さな子どもがいる状況だと、在宅勤務の難易度は一気に高まります。全く別物だと言ってもいいくらい難しい。子どもの面倒を見ながら働くことについて、「普段と比べて100%の力を発揮できない」と悩む人もいます。それは、私も同じです。私の子どもも普段は保育園に行っていますが、緊急事態宣言時は保育園も自粛になってしまい、子どもが毎日家にいる状態でした。家で仕事をしていると、子どもはどうしても「パパ、パパ」と言って絡んでくるものです。ここで無理をしても仕方がないので、スケジュールが2時間ほど空くタイミングがあれば、子どもと一緒に近所の公園へ出かけて遊ぶようにしていました。出かける前にはチャットに、「子どもと一緒に公園へ行ってきます!」と書き込みをします。こうすることで、「あ、役員もそうしているし、そんなふうに動いても大丈夫なんだ」とみんなが思ってくれるようになる。これは私の個人的な動きとしてだけではなく、社風としても、もともとこういった行動は「どんどんどうぞ!」という感じなんです。そのため、当たり前と思っている人も多い。ただ、役員である私が率先してやっていると、「本当にそういうことをやって大丈夫なんだ。安心しました」「石倉さんが、そうやって動いてくださるから、ありがたい」などとチャットで知らせてきてくれる人もいます。なんでも遠慮なく言える空気を作ることは、絶対に必要です。第2章で「リモートワークでは雑談が大切」と書きましたが、上司は特に、積極的に雑談したほうがいいと思います。部下は上司の行動をよく見ていて、上司自身が思っている以上に影響を受けています。役割に応じて一人ひとりの仕事を評価し、「会社とのつきあい方は人それぞれでいい」と伝える。そして言うだけではなく、実際にフラットな評価をし、早く帰ったり、ちゃんと休みを取ったりする。こうした「行動」が大切です。当たり前だと思うかもしれませんが、言行を一致させることは簡単ではありません。だからこそ、強く意識しなければいけないのです。ポイント無言の同調圧力を払拭するのは上司の仕事なんでも遠慮なく言える空気を作る部下は上司の行動をとてもよく見ている声をかけるだけではなく、自ら率先して行動!

あなたは上司としての役割をわかっていますか?一人ひとりの価値観を認め、「スタンス」や「マインド」という解像度の粗い項目ではなく、仕事そのものを見て、部下を評価していく。多様な働き方になった今、どうマネジメントしていくかは喫緊の課題だと感じている人も多いかと思います。マネジメントを実践していくにはまず、上司の役割、マネジメント層の役割は何なのかという基本に立ち返る必要があります。マネジメント層として働いていても、「あなた自身のミッションは何ですか?」と問われて、明快に答えられる人は、案外少ないのではないでしょうか。その原因は、さらに上にあるのかもしれません。課や部といった組織が、何を成し遂げれば「合格」なのか。それを経営層とすり合わせる機会を持てているでしょうか。部下一人ひとりの目標設定が明確にできていても、チーム単位では急に雑になってしまうことがあります。また、会社の目標やミッションとの接続が曖昧になっている職場も多いのではないでしょうか。「マネジメントとは、何をすることなのか?」「自社のマネジメントとは、何を指すのか?」これらが明確になっていないと、管理職の役割も曖昧になり、気づけば「メンバーを見張る係」としてしか機能していない、ということにもなりかねません。本来であれば、マネジメントを担う管理職は会社の方針を理解し、与えられた業績目標を踏まえた上で、自分たちのチームが何を大事にしていくのかを経営層とすり合わせなければならないのです。しかし、現実にはそれができていない管理職も多い。理由として考えられるのは、十分な情報が下りてきていないことです。私は、人が自走するためには「何をすればいいかを考える」能力に加えて、「決めていい」という権限、そして「決めるため」の十分な情報が必要だと考えています。どれだけ裁量が与えられても、情報がそろっていなければ、自分自身で考え、判断することはできません。管理職になると、よく「経営者になったつもりで考えろ」と言われますよね。しかし、情報共有がなされない組織でこれを言われても、困り果ててしまいます。経営者と同じ情報を持っていないのに、経営者のように考えられるはずがないからです。もしも今、情報共有がなされていない場合、まずは自分が持っている情報をメンバーに全部開示して、メンバーが自走できる環境をサポートすることです。そうすると、自ずと結果が出るので、それを実績として掲げて上司にもっと情報を下ろすようにお願いしてはどうでしょうか。そこまで実行している人を無下にするような経営者は、さすがにいないと思います。ポイントマネジメント層は今こそ、自分の役割を明確に情報は常にメンバーに開示情報が経営者から開示されないときは、出した成果を元に情報を引き出していく

雑談をどう生み出すか?本書を手に取ってくださっている方には、自社でリモートワークを実践しつつ、そのマネジメントに悩んでいる人も多いと思います。その悩みは、どこから生じているのでしょうか?リモートワークを続けていくことの、何が難しいのでしょうか?私の経験上で言えるとすれば、リモートワークがうまく機能しない企業の多くは、「リモート」の部分ではなく、「ワーク」の部分に問題を抱えています。わかりやすく言うと、同じオフィスで働いていたときには、互いの姿や行動が見えていたために顕在化されにくかった問題が、浮き彫りになったのです。日頃、意識することはあまりないかもしれませんが、私たちが長年慣れ親しんできたオフィスは、非常によく練り上げられた空間です。私は人類の大きな発明の一つだと思っています。業務に関する指示や相談だけではなく、偶発的な雑談も生まれる。オフィスは、そんな場所として設計されています。しかし、第2章でもお話ししましたが、これがリモートになると、業務連絡や相談のコミュニケーションは動いても、雑談が抜け落ちてしまうというケースが多々あります。雑談は、とても大切です。誰しも、人間関係ができあがっていない状態の相手に仕事の相談をするのは大変だからです。これは、感覚的に理解していただけると思いますが、普段から雑談をしている相手には、「ちょっといいですか?」と気軽に相談できますよね。また、姿が見えない状態で働いていると、相手の体調が悪いときなどにもすぐに気づくことができません。体調が悪いときには、自分自身ですぐに申告してもらわなければ、業務上の問題が埋もれてしまいます。そして、いざ蓋を開けてみたときには、取り返しのつかない状態になっていることがあるのです。だからこそ、雑談を通して何でも言える空気を保つことが必要なのです。チャットが中心のコミュニケーションの中で、いかにして雑談を生み出していけばいいのか。オフィスでは無意識にやっていましたが、チャット上では意識的に雑談が起きるように設計していかなければならないわけですが、事は単純ではありません。「チャットスペースに雑談用のチャンネルを作ったけれど、ほとんど使われない」というケースもよく聞きます。その理由は単純で、「さあ、雑談してください!」と言われても、なかなかできるものではないんですよね。雑談が気軽にできる空気は、その場に参加する一人ひとりが互いの行動や言動を見て、「雑談をしてもいいんだ」と感じることで生まれていきます。上司から積極的に雑談をしていくことが大切なのは、そのためです。オフィスではあまりにも自然に雑談が生まれていたため、リモートワークで雑談がしにくくなることを、「場所が離れたせい」にしてしまいがちです。でも、本当はそうではないのです。「リモートだと難しい」と感じることは、きっと「リモートじゃなくても難しい」はず。オフィスで働いていたとしても、上司が「仕事中に雑談なんかするんじゃない」という空気を出していれば、当然ながら、気軽に雑談ができる空気にはなりませんよね。リモートワーク以前からこの状態であれば、チャット上で雑談などできるはずがありません。ポイントリモートになると、雑談が抜け落ちがちまずは上司自らチャットを立ち上げ、自ら雑談していく雑談がないところに、仕事の相談は生まれない

信頼関係は「接する頻度」で決まるもう一つ、私がリモートワークを続けてきたことで得た、大きな発見についてもふれさせてください。よく「リモートワークでは信頼関係を築きにくい」という人がいます。これも、「リモート」ではなく、「ワーク」の部分に問題があります。人との関係性を築いていく際には、対面しているかどうかではなく、「高い頻度で」「いろいろな話題で」会話をしているかどうかが問われるからです。これは、キャスターが展開する事業の中でも実感する出来事がありました。オンラインで採用業務を請け負うサービスがあるのですが、あるときお客さまから「担当者の対応に不満がある」とクレームが入りました。ただ、話を聞いてみてもお客さまと約束している業務は行っているし、成果も出ています。ただ、そのお客さまが忙しい方だったこともあり、遠慮して必要最低限の連絡しかしていないことが判明しました。そこで、次の日からチャットで朝の挨拶に始まり、直接業務に関係ないことを含めて、とにかく細かく頻度高くコミュニケーションをとるようにしたのです。それを繰り返しているうちにお客さまから「キャスターさんは社外の人だと思わず接している」とお言葉をいただくまでに信頼が回復したのです。ただ、実は提供していた業務は何も変えていません。淡々と業務をこなしていくだけの場合と、雑談を含めていろいろな会話をお客さまと繰り広げていくやり方を比較した場合では、後者のほうが圧倒的に満足度は高く、解約率が下がることがわかってきました。日常生活に置き換えても、コミュニケーションには頻度が重要であることを感じられると思います。たとえば、5年ほど会っていない友人と再会したとしましょう。毎日のようにLINEでやりとりしている相手だったら、5年ぶりに会っても久しぶりな感じはしないはずです。あるいはSNS上でつながっていて、日頃から相手の投稿を見ているだけでも、同様の効果があると思います。一方、1年会っていないだけの友人でも、日頃のやりとりが全くない場合には、ずいぶんと疎遠になってしまった感覚を持つのではないでしょうか。コミュニケーションの頻度は、親近感や信頼に直結しているのです。ポイント「仕事の話だけ最低限話す」。これでは、人との良好な関係性は築けない関係性をよくするには、いろんな話題を数多く

会社は「ムラ化」する第3章の終わりに、「会社は自治体のようなもの」だと書きました。自治体(市区町村)へは基本的に自由に出入りすることができ、そこに住んでいる理由を問われることはない。引っ越したい人は引っ越せばいいし、住む理由は人それぞれで構わない。税金を収め、ルールを守って暮らしてさえいれば、個人は何一つ束縛されません。リモート時代の会社は、そんな自治体のような立ち位置になっていくのではないかと考えます。集合体としての最低限のコンセプトと、いざというときに会社の権限を発揮する条件だけを決めておく。そんな組織です。昭和的価値観では「社員は家族だ」という考え方が大切にされてきました。確かに、会社に属してオフィスへ出勤し、毎日8時間をともに過ごしていると、家族のように互いの行動が見えるようになります。そして、「こうでなければならない」というルールや価値観が出てくることが増え、その場所に縛られるようになっていく。しかし、そんなふうに縛られている会社の中にあっても、働く一人ひとりの本来の価値観は多様です。今は副業やフリーランス、リモートワークなどの働き方の選択肢が増え、インターネットによって情報にふれやすくなりました。その上、価値観の幅も広がっている。そうした意味では、昔よりも多様な価値観に沿って行動しやすい時代になりました。今後も、この流れは加速していくはず。会社を構成する人たちが一つの価値観に偏っていくことは考えにくく、「やっぱり正社員がいいよね」「週5日のフルタイムがいいよね」と考える人の割合も減っていくのではないかと思います。当然、会社が一つの価値観やスタイルで人を束ねることは難しくなっていくでしょう。価値観が多様であるにもかかわらず、一つの価値観やルールに染まることを求めていった場合、何が起きるか。会社が掲げる価値観やルールに同意できない人は、続々と静かにその場を去っていくようになるはずです。最近では「1on1」という言葉が注目され、会社において社員一人ひとりと向き合っていくことの重要性がよく指摘されています。しかし私は、こうしたアクションが必要になること自体、無理に一つの価値観にまとめようとした結果の産物であるようにも感じるのです。もとより「人それぞれでいい」という会社であれば、あえて1on1に時間を費やす必要はないのではないかと思います。多くの会社はこれまでずっと、「うちの会社にいるべきなのはこんな人だ」という条件を設定し、それに見合う人を探し続けてきたのでは?採用情報ではよく「求める人物像」という項目で表現されます。考えてみると、人材を募集するときに人物像まで求める日本企業の慣習は、世界的にはとても珍しい。ジョブ型雇用が一般化した国で採用時に交わされる「ジョブ・ディスクリプション」(職務記述書)には、人物像など書きません。キャスターで採用を行うときに私が求めるのは、「その役割を果たせそうか」という点に尽きます。もちろん、周囲のメンバーとあまりにも合わなければ業務に支障が出てしまう可能性もあるので、キャスターという集合体で過ごすための最低限のルールはあります。しかし、それは本当に基本的な、人として守ってほしい内容。最低限求めているのは、「所属する会社をよくするための責任がある」と自覚していること。決して難しいことではなく、挨拶をするとか、噓をつかないとか、ゴミをちゃんと捨てるといった、「みんなが過ごす場所を快適に保とう」といったレベルのことです。bosyuチームの場合も、募集要項に記載しているのは「インターネットが好きな人」「文章を書くのが苦手じゃない人」といった、役割を果たすために必要だと思う要件のみ。「○○でなければならない」という押しつけは、一切ありません。人事の役割としては、短期的あるいは中期的に採用計画を立て、確実に埋めていくというミッションもあるでしょう。経験的に「自社で育てやすいのはこんな人だ」と定義し、採用基準として設けている会社もあると思います。それらをすべて否定するつもりはありませんが、会社や仕事との距離感まで決める必要はあるのでしょうか?「とはいえ、社員には会社のことを好きでいてくれないと困る」と話す経営者や人事担当者もいます。それは、なぜなのか?なぜ、会社のことを好きでいてくれないと困るのか?もしかするとそれは、経営者や人事担当者の感情論にすぎないのかもしれません。自治体の場合は、住民に地元を好きでいてもらい、長く住んでもらう、多くの人に住んでもらうために頑張るのが仕事です。同じように、経営者や人事担当者も、社員に会社を好きでいてもらうために頑張るのが仕事のはず。社員が会社を好きだと感じる理由は、人それぞれです。「社長が好き」「同僚が好き」「働き方が自分に合っている」「条件がいい」など、いろいろな要素があるはずです。あの人はなぜ、この会社にいるのか?背景にあるものを理解することが大切だと思いますし、その理由を否定しない、メンバー一人ひとりが会社にいる理由を邪魔しないことが大事だと思っています。たとえば、キャスターでは逆に会社から何かを働きかけることはほとんどありません。あるのは、メンバーがパフォーマンスを最大限発揮できない状況になる障壁を取り除くための制度を用意するくらい。会社全体で集まることもしませんし、会社主催の飲み会なども設置することはありません。

キャスターには30以上の部活動があるのですが、それもメンバーが作りたいときに勝手に作れるようにしています。やりたい人がやれるようにする。やりたくない人はやらなくてもいいようにする。これを基本姿勢にしています。絶望的に会社が嫌いな人は、もう去っているはず。残ってくれている人には、それぞれの何かしらの理由があるのです。世の中が多様になっていて、個人の価値観も変化しているのに、会社だけがそれを受け止められないでいるようでは、組織として成長していくことはできないでしょう。ポイントこれからの会社に必要なのは、コンセプトと権限を発揮する条件決めだけ会社や仕事との距離感は、各々に任せる経営者や人事は、社員にもっと会社を好きになってもらう努力をする

「従業員満足度」は、本当に必要なもの?近年、人事領域では「エンゲージメント」という言葉が頻繁に聞かれるようになりました。マーケティングの世界では「企業やブランドへの愛着、思い入れ」という意味で使われるエンゲージメントですが、人事においては「会社への愛着、思い入れ」という文脈で用いられます。エンゲージメントを高めることで従業員満足度を向上させ、よりよい組織を作ろう……という言説をよく見かけるわけですが、でもよく考えてみたら、なぜ従業員満足度を向上させる必要があるのでしょうか?従業員満足度が高まれば業績が上がるという見方があるものの、私は因果が逆で「業績のよい企業はより社員に還元できるようになり、結果的に従業員満足度が高まるだけでは?」と考えています。どんなに会社のことが好きで仕事が気に入っていても、事業がうまくいかずにどんどん給与が下がっていき、どんどん仕事をする環境が悪くなっていけば、高かったエンゲージメントは下がっていくはず。つまり、エンゲージメントは会社や組織がうまくいった結果「高まるもの」であって、高めるものではないと思っています。なぜ私がここに疑問を持つかというと、従業員満足度を高めるという目的のもとに、一つの価値観を押しつけようとしている会社も見受けられるからです。「こうあるべきだ」という価値観を押しつければ押しつけるほど、それに合わないと感じる人を排除する結果につながってしまう。その人にとっては楽しい仕事であり、人間関係も問題がないにもかかわらず、会社の求める価値観と合わないことで、「自分は、ここにいてはいけないのかもしれない」と感じてしまうのです。そう思わせてしまうのは行動指針かもしれないし、職場の空気かもしれないし、1on1の場で上司が発した、ちょっとした一言かもしれません。一つの指針を置いて、その満足度を測りにいくことは、外れる人を排除する行為でもあることを忘れてはならないと思います。自治体においては、たとえば犯罪が減るとか、道がきれいになるといった「みんなが等しく満足できる」政策はいいのですが、個別の層に向けた政策でみんなの満足度を上げようとすると、その政策に該当しない人の不満を生み出してしまう一方です。これは、会社の施策にもあてはまります。キャスターでは「ベビーシッターの利用に補助を出す」という制度があります。これは、子育てをしている人にとってはありがたい制度で、子育てをしていない人が損をするものではない。誰にとっても、不満のない施策です。同様に、「現在の部署が合わないと思えば、手を挙げて異動できるギブアップ制度」というものもあります。これも、誰にとってもメリットのある制度として運用されています。しかし、それ以外の個別の層に向けた施策は行いません。たとえば、「飲み会をやろう」といった呼びかけは絶対にしません(仮に呼びかけたとしても、私をはじめ、役員は誰も参加しないと思います(笑))。もちろんキャスター社内にも、よく一緒に飲みに行く人たちのつながりはあります。飲み会が好きな人は、好きな人同士でやればいいのです。それを邪魔することは、一切ない。私自身は「社員旅行は絶対に参加したくない」タイプです。事業やチームのために非日常的な空間で議論をする場を持つのはアリですが、親睦を深めるという目的のもとに参加を強制する社員旅行には、絶対に行きたくありません。「社員旅行が大好き」という人ももちろんいるでしょうが、私のような考えの人も、一定数はいるはず。いろいろな会社の採用情報を眺めていると「イベント好きなメンバーが集っている会社です!」「昨年の夏は○○島へ行ってBBQをしました!」と紹介されているのを目にしますが、本当にみんな好きで参加しているのかな、と考えてしまいます。みんなを旅行に連れていって、日頃の頑張りを労いたい。一緒に楽しい時間を過ごすことで、会社への愛着を高めてほしい。経営者としてはそうした思いからイベントを実施するのかもしれませんが、こうした施策が逆効果を生むこともあるということです。会社がやるべきことは、事業を成長させ、結果的に働いている一人ひとりが、その会社にいる理由を尊重される環境を作ることです。施策を打つなら、「誰も損をしないこと」に限定すべきです。しかし多くの会社には、そうではないもの、逆効果かもしれないものを企画して、手間ひまをかけて運営している実態がまだまだあります。ポイント「従業員満足度の向上=価値観の押しつけ」になる可能性がある施策は「誰にとってもメリットがあるもの」「誰にとっても不満がないもの」を

「理念への共感」は、いらない従業員満足度やエンゲージメントと並んで、人事領域でよく見かけるのが「理念に共感してもらう」「理念を浸透させる」ための施策にまつわる議論です。企業経営にとって、間違いなく理念は重要。ただ、これも一つの価値観を押しつけ、誰かを排除してしまう原因となり得ることを認識しておくべきです。理念は重要ですが、「理念に共感している人しか、その会社にいてはいけない」わけではない。キャスターは、「リモートワークを当たり前にする」というミッションと、「労働革命で、人をもっと自由に」というビジョンを掲げています。しかし、キャスターで働く人たちが理念をどのように受け取っているのかは、人それぞれでいい。理念とは別の部分で、たとえば「子育てと仕事の両立をあきらめなくてもいい」という「事実」に魅力を感じて働いている人もいるし、それでいいんです。そもそも、理念とは何のためにあるのか。経営者や役員が意思決定をする際に、決定する指針になったり、軸としてぶれないようにするためには必要です。たとえば、キャスターで新規事業を行う場合、「これは、リモートワークを当たり前にすることにつながるのか?」と考えるところから、事業や戦略が生まれます。私が考えている「強い会社」の条件の一つに、「人がどれだけ自然と入ってきてくれるか」があります。会社とは、集まった人材が多様であればあるほど強くなっていくものだと思っています。さまざまな人材が集まるときに、理念とは、その会社に入る一つのきっかけにすぎません。「理念に強く惹かれて入社した」という人も、もちろんいるでしょう。一方、「理念に共感していないわけではないけれど、別の部分に惹かれた」という人だっているでしょう。理念への共感を求めるあまり多面的な人材が集まらず、結果として会社が弱くなり、理念を追いかけることができなくなってしまうようでは本末転倒です。キャスターで働いている人の中には、以前まで何社も経由し、1年おきくらいに転職を繰り返してきたような人も、少なくありません。そうした人も、「キャスターなら自分を邪魔しないから」という理由で、会社を好きでいてくれて長く働いてくれています。その人が大切にしていることを、会社が否定しない。「やるべきことをやれているんだから、いいじゃん」で終わる。この姿勢があるからこそ、多様な人材が集まってくれるのです。もし、「キャスターの理念に共感してほしい」と語りかけ、そのための施策を前面に打ち出していたら、その人たちはとうに会社を去っていたかもしれません。なぜ多くの会社は、社員に理念を浸透させて、共感を得たいと考えるのか。もしかすると、それは個人レベルで「自分のことを理解してほしい、好きになってほしい」と思うことと一緒なのかもしれません。人は誰しも、他者に自分のことを好きでいてもらえたら安心するもの。会社でも同じことが言えるのかもしれません。「この人は淡々と働き成果を出しているけれど、いつ辞めるかわからない」という社員よりは、「私はこの会社が大好きなんです!」と言ってくれる人のほうが安心するという経営者や人事担当者は多いでしょう。しかし今は、インターネットやSNSを通じて「自分の会社より楽しそうにやっている会社」がいくらでも見つかる時代。隣にある青い芝生が見えやすい時代には、人の価値観は移り変わりやすく、選択肢は増え続けていきます。そんな状況を踏まえれば、社員みんなに会社を好きでいてもらうための方法は、一つの価値観を発信し続けることではないと思います。「みんなで同じ価値観を共有しなければいけない」「みんなが理念に共感していなければいけない」「みんなが行動指針やバリューを体現していなければいけない」そんなふうに考えすぎて、苦しんでいる経営者が多いようにも感じます。やればやるほど、なぜか人が離れていく。そしてまた苦しんでいく。抜け出しようがない負の連鎖にはまってしまっている会社も、少なくありません。「こうしなければいけない」という概念にとらわれすぎるから、結果的に「みんなで理念浸透のための合宿をやろう」といったことにつながっていくのでは?それをきっかけにして会社を去る人がいることなど、想像さえしていなかったかもしれません。しかしこれは、今の時代のリアルだと思います。会社とは個人の集まりであり、集まった個人の総和でしかない。本当は概念でしかない「会社」を主語にして、「みんなが会社の考えに合わせなさい」と呼びかけるやり方は通用しなくなってきています。大切なのは、「個人」を主語にして、「みんなが会社にいられる理由をどれだけ増やせるか」ということなのです。ポイント理念に共感していなくても、会社を大事に思う社員はいる会社を強くするのは、多様な考えを持つ多くの人たちの力

社員それぞれの会社にいる理由を大事にする

部下は上司をとてもよく見ているリモートワークになって、「社員の姿が見えなくなった」と経営者や管理職が不安に思うのと同様に、社員一人ひとりの中にも「経営陣の意見や考えがわからなくなった」という不安はあるはず。経営者が社内と社外で違うことを発言していると、その不安は一気に増幅されていく可能性があります。外部向けに出しているメッセージや、インタビューで答えている内容が、実際に社内でやっていることとずれている。これは組織にとって致命傷になりかねません。できないことは言わない。絶対に、言っていることとやっていることは同じである必要があります。当たり前かもしれませんが、リモート時代にはより一層、重要になってきているように感じます。たとえば、私はこの章の中で「飲み会には行かない」と書いています。そんな私がもし、社内では社員を飲み会にどんどん誘っているような人間であれば、いずれツイッターなどに書かれて、リアルな姿を暴かれてしまうでしょう。言行一致させるのは、さほど難しいことではありません。「こうあるべき」と考えることをやめればいい。「○○すべき」という考えが先に立ってしまうと、人はその理想に合わせて、本当は思っていないことを話すようになってしまいがちです。私自身は、世の中で注目されてきたり、主流とされつつあったりする考え方にふれると、「本当にそうなの?」と問いを立てるようにしています。私たちが創業した2014年、世の中にはキャスターのような会社はありませんでした。今もなお、ロールモデルとなる会社はありません。ロールモデルがないから、既存の人事論をあてはめることができず、自分たちで一つひとつの方法を考えていくしかなかったという事情もあります。でも実際のところは、世の中のほとんどの会社は私たちと同じように、ロールモデルなど持てないのではないでしょうか。「リクルートやメルカリが、素晴らしい組織運営をしている」とは、よく言われること。しかし、みんながリクルートやメルカリのようになりたいと考えているわけではないでしょう。世の中には、経営者も会社もたくさんあります。考え方は、人それぞれでいいのです。ポイント部下に対しても、できないことは決して言わない自分に対して「こうあるべき」で縛らないどこにもロールモデルはない

リモートワークは「経営戦略」人口減少社会を迎えた日本では、人材を集めること自体が極端に難しくなってきています。しかし、リモートワークによって多様な働き方を認めれば、これまでは出会えなかったような人材が集まってくれる可能性もある。リモートワークを当たり前にしていくことは、会社が生き残っていくための重要な経営戦略となり得るのです。価値観がバラバラの人材が集まる組織は、変化の激しい時代ほど強みを発揮します。攻めるときには、みんなが同じ価値観で同じ方向を見ているほうが強い。しかし調子が悪いときや変化が大きいときには、同じ価値観で同じ方向しか見ていない組織は、どんどん瓦解していってしまう可能性もあります。逃げるときは、同じ方向ではなくみんながバラバラに逃げる。そんなふうに変化に対応していける組織が、強いということです。だから私たちは、働く場所はもちろんのこと、働く理由や価値観も分散させてきました。リモートワークを取り入れることには、もっとわかりやすいメリットもあります。それは、企業にとって莫大な固定費の一つである「家賃」を大幅に減らせること。キャスターは宮崎県西都市に本社オフィスを構えていますが、これも含めた全社での家賃コストは月間で数十万円ほど。できたばかりの数人のスタートアップの家賃より安いと思います。700人が働く会社としては、あり得ない数字でしょう。そして何より大きいのは、「採用力の向上」です。キャスターでは創業初月から月に数百人、今では毎月1000人を超える方から入社の応募があります。ほとんどが自社ホームページからの応募なので、コストはほぼゼロです。バックオフィスのアウトソーシング業務で、給与も大企業に比べたら、まだまだ決して高いわけではない。そんな中でも毎月そのくらいの応募が来るほど、場所を問わず働くことでキャリアを築きたい、という人は多いのです。新型コロナウイルスの感染拡大はさまざまな業界に影響をもたらしていますが、キャスターは本書を執筆している2020年8月時点で、そこまで大きな影響は受けていません。これはひとえに、「出勤をしないことを前提としたビジネス」を作り、顧客に価値を提供してきたから。事業継続計画の上でも、リモートワークは重要なポイントとなるのではないでしょうか。キャスターの場合は、設立当初からリモートワークで働くことを前提に事業を作ってきました。結果として、場所に依存する事業やビジネスモデルは展開できないというデメリットはありますが、そのデメリットを差し引いても余りあるくらい経営上のメリットは大きいと感じています。経営戦略としてリモートワークを実行し続け、私がマネジメント面での最大のメリットだと感じているのは「情報の透明化」が大きく進んだことです。リモートワークになると、チャットなどを通じた文字によるコミュニケーションが増えます。そうなると、個別のやりとりだけではチーム全体に情報を共有するのに時間がかかりすぎてしまうため、必然的にオープンな場所でコミュニケーションをとっていくことになります。日常生活では、友人や家族などの単位で使う「グループLINE」がわかりやすい例ではないでしょうか。必要な情報は、一度に共有できるほうが便利ですよね。マネジメント側にとっては、「日頃の仕事やコミュニケーションの経緯が形として残る」という大きなメリットがあります。オフィスでは、社員同士の小さなやりとりの一つひとつは形に残りません。それが記録されるのは、リモートワークのいいところだと思います。マネジメント側がこれまで得られなかったリアルな現場情報が、チャットを見ていれば得られるようになるんです。自分の部署では、メンバーのみんなが1日どんなふうに過ごしているのか。どんな出来事が起きているのか。すべての会話を聞いて把握するのはオフィスでは不可能ですが、リモートワークでは可能なのです。メンバーからの報告を受ける際のクオリティも、如実に変わってきます。通常、人が何かを報告するときには、無意識のうちに自身の「解釈」を織り交ぜてしまうもの。しかし、マネジメント側が事実として起きていることを客観的に見られれば、不正確な報告を受けて判断を誤ることもありません。また、マネジメント側からメンバーへ発信したときに、すぐにみんなの反応を確認できるため、意思決定が素早くできるようになるといった効果も実感しています。「見える」ことによるメリットは、非常に大きいのです。ポイントリモートワークはリスク分散でもある最大のメリットは、採用のしやすさと情報の透明化意思決定のスピードアップという効果

男性の働き方が変わらなければ、世の中は変わらないリモートワークができて、フレックス勤務ができて、中には「週3日の正社員」もいて……。そんなキャスターの働き方について話すと、男性の中には「とてもいい会社ですね、妻に勧めたいです」と言う人が必ずいると、第3章でお話ししました。なぜ、男性は無意識のうちに、「自分には関係のない働き方だ」と考えるのか。「自分はオフィスに出社して、週5日で働くものだと思っていませんか?」「リモートワークは、それができないときの補完的な手段だと考えていませんか?」もしあなたの会社が、コロナ禍を経て出社とリモートワークの間で揺れ動き、しょっちゅう方針転換をしているようなら、背景には意思決定する人たちの「自分たちには関係ない」という意識があるのかもしれません。キャスターでは女性メンバーが多いものの、「女性だから」「ママだから」採用しているわけではありません。とはいえ、女性からの応募が多いのは事実です。結婚や出産、子育て、介護など、ライフステージが変わったときに働き方を変えようと考えるのは、残念ながら現状では、圧倒的に女性のほうが多い。「妻の転勤によって会社を辞めることになった夫」の話は、ほとんど聞きませんよね。「子どもが生まれて時短勤務に切り替えた夫」の話も、あまり聞きません。オフィスに出社して週5日働くことが昇進などの条件になっているままでは、世の中はいつまでたってもフラットにならないと思います。第3章でもお話しした通り、業務委託のまま事業部長をやっている男性メンバーがいます。このメンバーの奥さんは日系の超大手企業で働かれていてオフィスに通勤しているのですが、このようなパターンはかなり稀なケースです。男性の働き方が変わらなければ、世の中は変わらないのです。日本では、まだまだ「男性と仕事」「女性と家庭」をセットにとらえる考え方が根強いと感じます。これを切り離さなければ、男性の働き方は変わりません。育児休業を取得する男性は少しずつ増えてきましたが、その裏側では「戻ってきたときに居場所がなくなるかもしれないよ」と上司にささやかれるようなケースもいまだに耳にします。全国への転勤ができない人は総合職から外され、出世コースの外に置かれてしまうという企業も多い。こうした考え方が残る企業は、もしかすると今でも『サザエさん』や『ドラえもん』に出てくる家庭が標準的だと思っているのでしょうか。マイホームを購入して、夫は外で働き、妻は専業主婦になる。そんな高度経済成長期のモデルを、まだ引きずっているのでしょうか。直近で実施された国勢調査(2015年、総務省統計局発表)によれば、夫婦共働き世帯は64・4%と、全体の3分の2を占めていることがわかります。もはや専業主婦がいる世帯は少数派なのです。女性がこれだけ社会進出をして実際に働いている実態があるにもかかわらず、「家庭のことをやるのは妻」という前提がまかり通っているのは、おかしな話です。これまでは、男性は「働き方を変えなければならない場面」に出くわすことが、ほとんどありませんでした。新卒で入った会社に勤め続け、定年退職までずっと働き方を変えない。そのことに疑問すら持たなかった人も、多いのではないでしょうか。社会の変化を受けて、当然のように「もっと女性が働きやすい職場を作ろう」という動きが起き、大企業を中心にさまざまな制度が整備されてきました。どうしても女性にしかできない出産の前後のことを考えれば、こうしたサポートがあることはとても大切だと思います。しかし、もっと突き詰めて考えていけば、男性も女性もフラットに、柔軟に働ける社会を作ることが理想であり、本質的に求められることだと思うのです。妻がリモートワークをしていても、夫が遅い時間まで帰ってこないという働き方のままでは、家事や育児の大半は結局のところ女性に押しつけられてしまうでしょう。しかし、夫も家を拠点にしてリモートワークができるようになれば、生活を設計するモデルそのものが変わっていくはず。男性の働き方が変われば、女性の働きやすさも変わる。結果的に、社会全体の自由度も高まっていく。私はそう信じています。ポイント世の中の3分の2は夫婦共働き世帯妻だけがリモートワークでは、妻の家事・育児負担は増えるだけ性別に関係なく、誰もが働きやすい働き方へ

これからは夫婦で成果を上げていく夫婦で互いに働き方を柔軟に変えられるようになれば、キャリア設計の面でも大きなメリットがあります。どちらかが学び直すことも、どちらかが生き方を見直すことも、これまでより大胆に挑戦できるようになるのではないでしょうか。私自身の話をすると、実はわが家は夫婦でリモートワーカーです。もともと妻はアパレル会社で働いていて、育休後に復帰したのですが、子どもが保育園に行き始めると毎週のように風邪を引いたり体調を崩したりすることが多く、なかなか仕事自体に行くことができませんでした。すでにそのとき私はリモートワークをしていたので、「二人ともリモートワークで働くことで、なんとかできるのではないか?」となり、キャスターに入社することになりました。事務職の経験がなかった妻ですが、リモートワークという働き方にチャレンジすることで、新しいキャリアを築いていっています。人生100年時代と言われる今は、変化に対応しながらキャリアチェンジに挑んでいくことが求められる時代。その中で、学び直しができる環境を持っていることは、大きな武器となります。企業が変化を余儀なくされているように、個人のキャリアも一直線上では描けない時代となりました。私はキャリア相談を受ける機会も多いのですが、そのたびに「遠くを見ずに足元を見る、目線を下げる」ことをアドバイスしています。変化が少ない時代なら遠い将来まで見通せるかもしれませんが、今はそうではありません。変化に強い人とは、どんなお題であれ、自分に課されたミッションに応え続けられる人。求められるものが変わり続けるのであれば、先を見通そうとするのではなく、目の前のことをやり続けるしかない。何が求められるようになるかはわかりませんが、求められたことには一つひとつ対応していく。そうして、あとから振り返ったときに「ああ、自分は変化できていたんだ」と実感できる──。それが「遠くを見ずに足元を見る、目線を下げる」。これからのキャリアの築き方だと思っています。ポイント夫婦それぞれが学び直しができる環境を作る学びはもちろん、生き方を見直すことも、大きな武器どんな状況でも、目の前のことを一つひとつ着実にこなす

誰もが柔軟に働くことができる社会に個人レベルでも変化が求められている時代なのに、相変わらず会社が「出社して週5日働いてほしい」という価値観のままでは、人が集まらず会社として成長を阻害する要因になりかねません。企業は今、人事制度を根本から見直すタイミングに来ていると思います。2019年頃から、「終身雇用制度の崩壊」が現実味を帯びて語られるようになりました。日本を代表する大手メーカーも、「終身雇用の維持は難しい」と公式に発言するほどです。ところで、現在の日本では正社員は終身雇用とほぼ同義なのに、なぜ「正社員は終わり」ではなく「終身雇用制度は終わり」という表現になるのでしょうか?それは、単純に「ずっと雇い続けることが難しい」というわけではなく、「終身雇用とセットの定期昇給を維持するのが厳しい」というのが本質なのだと思います。現状の日本の労働法規では、一度上げた給与を下げるような「不利益変更」は非常にしにくいように設計されています。一方では、労働者を守る名目で解雇についても厳しく規制されているため、企業としては正社員を採用するリスクを避け、正社員以外の雇用形態(いわゆる非正規雇用)での採用を増やすことで、リスク調整を図っている側面があります。こうした現状を踏まえて「解雇規制を緩和すべき」と主張する人も多いのですが、私はそうは考えていません。今の段階で解雇規制を緩和すると、真っ先に解雇の対象とされてしまうのは「生産性が低いのに給料が高い」正社員。会社内ではベテランの域に差しかかり、子育ての真っただ中で、住宅ローンを抱えている人も多い。そうした人たちを解雇する動きが加速すると、ローンの支払いに困窮し、リーマン・ショックの端緒となったアメリカのサブプライム・ローン問題のようなことが起こりかねません。そう考えていくと、必要なのは、正社員という働き方を一種のセーフティネット的存在にすることだと思います。「正社員として長く働ける、ただし給料はあまり上がらない」という前提にして、安定を求める人の受け皿とする。逆に「1年契約の有期雇用だけど、成果に応じて給料はどんどん上がる」という制度を広げ、挑戦する人の新しい働き方として定着させていく。後者はもちろん、働く場所を問われず、役割に応じた成果でフラットに評価されることが前提です。多くの会社にとって、現在の人事制度を維持していくことは、経営的にどう考えてもナンセンスでしょう。経営者としては給料を上げ続けることが難しいのはわかりきっているのに、一方では正社員の給料を下げることも非常に難しい。このジレンマの中で、会社経営は苦しくなる一方です。社会全体で見れば、学歴や能力、スキルにかかわらず働ける場を作ることは大切なこと。しかし今は、サービス業や介護などの産業がその調整弁になってしまっています。いわゆる、非正規雇用で働く人が多い業界です。本来なら、そこそこ高学歴で、新卒で大企業に入れるような能力のある人に、積極的にこれから圧倒的に需要が高まる介護や医療、サービス業などに参画してもらい新しい挑戦を続けてほしいところなのですが、今は逆になっています。安定ルートから外れてしまった人が、非正規と正規の壁を超えられないまま、不安定な環境に置かれ続けているのです。極論を言えば、雇用形態という概念そのものが、もはや邪魔なのかもしれません。原則として多くの労働力を必要とするサービス業や介護などは正社員の仕組みを残すべきかもしれませんが、それ以外はすべて、「全員1年契約」くらいの潔さで柔軟に働ける社会を目指していったほうがいいようにも思います。ポイント正社員は一種のセーフティネットに全員有期雇用で成果に応じて給料アップという働き方

「働き方」と「キャリアプラン」を分離する近年では企業に雇われるのではなく、フリーランスとして独立し、個人で勝負する人も増えています。しかし、第2章でもお話ししましたが、一度フリーランスになると正社員にはなかなか戻れないという現実があるのも事実です。フリーランスとして働いていた人が正社員になろうと考え、人材会社に登録しても、エントリーの入り口の書類の時点でなかなか通らない。理不尽なようですが、これが現実です。同じことは派遣社員やパート・アルバイトとして働いてきた人にも当てはまります。正社員として転職しやすいのは、正社員としてのキャリアを積み上げてきた人ばかり。残念ながら、今の日本では正社員であることが特権階級のようになっています。本来であれば、人の能力やスキルと雇用形態は関係ないはずです。それでも今は、働き方とキャリアプランがセットで扱われてしまっているのです。この弊害はいたるところにありますが、正社員とそれ以外との格差はどんどん広がっていきます。どんなに能力があっても契約社員や派遣社員だからという理由で重要な仕事を任せてもらえなかったり、社内でも異動できる部署が限られていたりすることも少なくありません。そうなると、新たなスキルや経験を積む機会が正社員に比べて格段に減ってしまう、というような「機会格差」はどんどん開くことになります。この現状では、個人が働き方を変えるのは大きなリスクを背負った、あまりにも重い選択となってしまいます。企業はまず、働き方とキャリアプランを切り離すことを進めていただきたいと思います。これは人事制度上の話なので、すぐに変えられるはず。現実には、多くの会社の人事制度や採用シーンで、働き方とキャリアプランがセットになってしまっています。先進的に見えるベンチャー企業でも、無意識のうちにそんな制度を設けてしまっていることがほとんどです。給与制度や評価制度といったキャリアプランにつながる規定と、働き方を切り離していく。そうすることで、「実はこんな働き方がしたかったんです」と打ち明ける人がどんどん社内に現れるかもしれません。キャスターでは、自分で雇用形態や働き方を自由に選択・変更できるという制度があります。結果として、フルタイムだった社員が週3社員になったり、週2の業務委託だったメンバーがキャスターにもっとコミットしたいとなってフルタイムの社員に転向したりなど、そのときの個人に合わせた働き方を選択しながら、社内で引き続き活躍してくれています。こうした制度がなければ、働き方を変えたいと思った人は転職しなければならなくなってしまい、会社としても大きな損失となります。一方、働く個人にとっては「キャリアプラン」と「働き方」、どちらも得られるようになる制度なのです。キャリアプランと働き方をトレードオフにしない。これがリモートワークを当たり前にするための、現実的で大切な第一歩です。ポイント「働き方=キャリアプラン」ではない会社が規定を変えなければ、働き方は変わらない

私たちの「生き方」が変わっていく新型コロナウイルスの影響を受け、急遽リモートワークを導入することとなった企業では、新しい発見が続々と共有されているのではないかと思います。個人レベルでは「以前よりも生活にゆとりが生まれた」と感じている方も多いのではないでしょうか。リモートワークになると、通勤時間が削減できます。人によっては1日あたり2~3時間が浮いたというケースもあるでしょう。月に20日出勤していたとすれば、月間で40~60時間の削減。もはや、もう一つ別の仕事ができてしまうレベルです。実際にその時間で副業を始めたり、趣味の時間を充実させたり、新しいことを学び始めたり、家族との時間をたくさん取ったり。コロナ禍で、私たちはさまざまな生活の変化を経験しました。コロナ禍が、人類全体にとっての大きな不幸であったことは間違いありません。医療従事者や、運輸・小売など生活必需品を供給してくれる人々の努力によって、どうにか私たちの日常生活が維持されています。その前提を踏まえた上で誤解を恐れずに言えば、この時期に働き方や生活のあり方を見直し、幸福度を高めることができた人も少なくはないと思います。私たちはこの経験を、どのように将来へつなげていくべきなのでしょうか。700人ほぼ全員がリモートワークをしているキャスターでも、リモートワークが合わなくて辞める人はいます。あくまでも傾向ではありますが、その中には「オフの時間が充実していない人」も多かったように感じます。リモートワークは、オフの時間を軸にした充実度が大きく影響する働き方だと言えるのかもしれません。働き方を多様にしていくと、「どんなふうに暮らしていくか」が日々の充実度に直結していきます。ウィズコロナと呼ばれ、リモートワークが当たり前になってくるこれからの時代は、仕事以外の時間をどう過ごすのかが、ますます重要になっていきます。リモートワークには、オンとオフの境目を曖昧にしてしまうという弱点もあります。家で仕事をしていると、いつでもオンになれてしまいますよね。だからこそ大切なのは、「いかにオフになれるか」。そして、いざオフになったときに、仕事以外にやることがないという状況だと辛いかもしれません。本書を通じて、リモートワークは従来の働き方とはルールが異なる、別の競技であると繰り返しお伝えしてきました。これからは、オフィスへ出勤する人、リモートワークで働く人、それぞれが自分の得意なやり方に合わせて働けるようになってくると思います。こうした変化の中で私たちが迎えつつあるのは、「個の時代」と言われているものです。スキルや経験を生かして、企業に属さずとも仕事をしたり、今まで企業でなければできなかったようなプロジェクトを個人でやってしまったりするような人もたくさん出てきています。それも、自宅にいながらなど、場所を問わずに。「働く」という領域での本当の「個の時代」は、これから本格的に進んでくると思っています。企業でなければできないと思われていたことが、個人にもできるようになっていく。具体的に言うと「個人で仕事を生み出し、ほかの個人がその仕事をやる」ケースが一気に増えてくると思っています。ご承知の通り、現在はどのような働き方であれ、「企業が仕事を生み出して個人が受ける」という形がほとんどです。高い知名度と発信力を持つ一部の強者はオンラインサロンのような新しいプラットフォームから仕事を生み出していますが、それはごく限られた人しか成し得ていません。本当の意味での個の時代には、特別なスキルや経験を持たない人でも、個人で仕事を生み出せるように、作れるようになっていくことが必要だと思っています。そうすれば、会社員として生きていくことが難しい人でも、誰か気の合う5人から仕事を受けて生きていくことができるかもしれない。個人が仕事を生み出せるようになれば、働き方のバリエーションは一気に拡大していくのです。個人の強みとは、「n=1」でもビジネスを成立させられることです。誰か一人のためだけの仕事でも、個人なら成り立つ。これは、企業には真似できません。こうした思いから、私たちは、個人が何でも募集できるサービス「bosyu」を立ち上げました。このプラットフォームの中では、「フリーランスの人にデザインや執筆を手伝ってほしい」といった募集もあれば、「バーベキューのメニューを一緒に考えます」「Zoomで悩みを聞きます」といった個人の「できること」まで、さまざまなことが仕事になり、新しい仕事が生まれています。ポイント働き方が多様になれば、日々の満足度が上がる誰でも個人で仕事が生み出せるようになる仕事が増えれば、組織に合わない人も生きやすくなる

仕事は生きている限り続いていく個人のキャリアに関する話題の中では、よく「自分自身の市場価値を高めよう」と語られます。ちょっと強い言い方になってしまいますが、私はこうしたメッセージは「呪いの言葉なんじゃないか」と思っています。市場価値といえば、あたかも世の中に共通した人材価値の定義があるように感じられますが、実際はそんなことない。そもそも年収はものの価格とは違い、市場原理では決まっていないのです。「市場価値が高ければ年収が上がる」というわけではありません。たとえば、動物虐待に遭っている犬を保護して里親を探す仕事をしている人がいます。1年間に1万頭を保護できれば、社会的な価値はものすごく高いでしょう。しかし、その人の年収がとても高いかというと、そんなことはない。一方で、世の中には、法律をぎりぎりの線でかいくぐるような詐欺まがいのビジネスも存在します。そうした仕事で荒稼ぎし、一般的な会社員の水準よりもはるかに多くの収入を得ている人もいる。つまり、仕事の「価値」と「成果」と「収入」は、実は全く比例しないのです。価値とは、ほかの人がなかなか提供できないこと、つまり「希少であること」です。しかし、みんなが市場価値の高い人、多くの人に認めてもらえる人になろうとすればするほど、逆に希少性が下がり、その価値はコモディティ化してしまうものです。私はそうした不毛な争いをするのではなく、「早く競争から下りる」ことが大切だと思っています。市場価値という実在しないものではなく、現実として「自分のことを認めてくれる人」を見つけられるかどうかのゲームで戦うほうが、よほど勝算があると思うのです。そして、自分にとっては普通のことでも、それを価値に感じてくれる、喜んでくれる人というのは必ずいるものです。bosyuは、多くの人がそのゲームに参加できる社会を目指しています。みんな、仕事というものを重く考えすぎているのかもしれない。「たかが仕事」と考えれば、ずっと簡単になるのに──。キャスターでのリモートワークや、bosyuでの新たな挑戦を通じて、私はそんなことを考えるようになりました。「働く」という言葉の語源をご存じでしょうか?これには諸説あり、正解を特定できているわけではないのですが、私はある一つの説を信じています。それは「はた(傍)を楽にする」というもの。自分の近くにいる誰かを楽にしてあげる。助けてあげることが「働く」ということの原点であり、人の役に立つことすべてが「仕事」なのだという考え方です。電車でたまたま乗り合わせた誰かに席を譲るのも仕事だし、誰かのためにご飯を作ることも仕事。仕事とはもともと、その程度のことだったのではないでしょうか。それなのにいつの間にか私たちは、仕事の要件をどんどん複雑にし、難しくし、簡単には変えられない(と思い込んでいる)定義を作って、仕事に縛られるようになってしまった。人は、誰かに何かをしてもらうときよりも、誰かの役に立てたときのほうがうれしく感じるのではないか、とも思っています。私は席を譲ってもらうことより、誰かに席を譲れたときのほうが誇らしい気持ちになります。誰かからプレゼントをもらうことより、誰かに何かを贈りたいと考えているときのほうが楽しい。自分自身で仕事を生み出していくことは、その感覚に近いのかもしれません。「はたを楽にする」ことで、自分も幸せになる。そんな小さな思いから個人が仕事をたくさん生み出せるようになり、連鎖していけば、結果的にこれまでにない多様な働き方を創出して、それぞれがそれぞれの思いのままに生きていける世の中になると信じています。ポイント「市場価値=年収」は全く無関係働く原点「人の役に立つかどうか」を考える

おわりに「石倉さんは都内に住んでいるのに、なんでこういった働き方をしているんですか?」メディアの取材やイベント登壇などで、聞かれることが多い質問です。たしかに、私は東京都内に住んでいますし、リモートワークでなくとも働くことはできます。実際に、キャスターを経営するまでに数社で会社員を経験していますが、当たり前のように毎日オフィスに出社していましたし、なんならリモートワークの必要性を感じたこともありませんでした。ただ、人材業界や人事として仕事をする中で、「働き方」を取り巻く社会のルールや当たり前に疑問を感じていたことは事実です。なぜ、スキルは変わらないのに住む場所が変わるともらえる給与が変わってしまうのか。なぜ、同じ人がオフィスに出社している場合とオンラインで働いている場合で与えられる仕事が変わったり、賃金体系に差が生まれたりするのか。なぜ、同じ仕事をしているのに時短だと出世しにくい会社が多いのか……。このような「なぜ」に対して、いくら考えても納得できる回答を自分では出せませんでしたし、どなたに聞いても答えられる方はいませんでした。「今までそうだったから……」そんな理由で語られることも多々ありました。そうした理不尽がまだまだたくさんある社会に、自分の娘は出て行って働くのか。そう考えたときに、この現状を変えなければいけないと強く思いました。娘が社会に出るときには「パパが若い頃は、まだみんな電車で会社に行くのが当たり前だったんだってね。今みたいに選べないとかありえないよね」と言われるような社会にできたらいいな。そして、「その社会になったきっかけを作ったのは、パパの会社なんだよ」と将来伝えることができたら本望。それが、冒頭の質問の答えです。しかし、リモートワークに限らず、多様な価値観や働き方が当たり前になる社会を作ることは、とても難しいことです。社会に根づいた習慣を変えることになるのですから当然です。それは、私たちキャスターをはじめとした一部の会社だけで、できることではありません。一人ずつ、一社ずつと少しずつでも、多様な価値観や考え方に合わせて働くことを「当たり前」にして、そうした働き方が「不利」にならない人を増やしていくしかありません。本書を読んでいただき、少しでも共感していただけるようであれば、ぜひ一緒にその社会を作っていく仲間になってください。リモートワークにしたけれど、課題がある……リモートワークに移行したいけれど、なかなか上司が承認してくれない……そんな悩みを持つ方は、ぜひご連絡をください。一緒に解決策を考えていきましょう!令和2年9月吉日石倉秀明

会社には行かない6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方底本発行日2020年10月2日初版発行電子書籍発行日2020年10月2日著者石倉秀明発行者小林圭太発行所株式会社CCCメディアハウス〒141‐8205東京都品川区上大崎3丁目1番1号http://books.cccmh.co.jp©HideakiIshikura,2020

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