クロスコミュニケーションとは?
ディズニーの組織力は理念の浸透によって生み出される
ここまで、ディズニーのオペレーションを支えるマニュアルや仕組み、それを浸透させるための「アニキ制度」についてお話ししてきました。
しかし、これは全体の6割、つまり「デューティー」に関する部分です。本当に大切なのはその上にある4割、そう「ミッション」の部分です。ディズニーの強みは、なんといってもその組織力にあります。
この組織力を生み出すためには「デューティー」と「ミッション」の両輪が必要なのです。ディズニーランドのミッションは「ギブoハピネス」。これは、一般的な企業の経営理念にあたるものです。
ディズニーでは、この理念が末端のアルバイトキャストにまでしっかりと浸透しています。
ゲストがいつ訪れても幸せな気分になれたり、現実を忘れられるのは、現場のキャスト全員が「ギブ・ハピネス」という理念を深く理解し、それに基づいて接客しているからです。
その結果、2009年のリーマンショックの直後でさえ、東京ディズニーランドは入場者数を伸ばしました。
これができていなければ、どんなにマニュアルを充実させても、ゲストを魅了する感動のサービスは生み出せませんし、継続的に業績を伸ばすこともできなかったはずです。
理念と聞くと、組織の下にいけばいくほど、現実から遠く離れた「きれいごと」のように感じる人が多いのが現実です。
逆に、経営層に近づけば近づくほど「理念が浸透しない」「社員が同じ方向を向かない」「組織が活性化しない」という悩みを抱えている人が増えます。
しかし、どんな会社でも理念を浸透させることができなければ、社員が同じ方向を向くことはありませんし、たとえ今業績がよくても、いつかそれを継続するのが困難になります。
じつは、ディズニーでは、こういった問題も仕組みで解決しています。ディズニーランドには前章でお伝えした「ブラザーシステム」と並んで、「クロスコミュニケーション」という優れた仕組みがあります。
この仕組みを使って、末端のアルバイトキャストにまで「ギブ・ハピネス」という理念を浸透させ、強固な組織を築いているのです。
本章ではクロスコミュニケーションとはなんなのか、それがどのように運用されているのか、どうすれば自社に導入することができるのかということを解説していきます。
すべての人が本音で語り合う場を作る
クロスコミュニケーションは言わば、職場に出入りするいろいろな人を半ば強引にコミュニケートさせる手法です。年齢、性別、職歴、職位、国籍。そういったものをすべて取り払い、クロスさせ、フエイス・トウ。フェイスのコミュニケーションを交わす時間を作る仕組みです。
ディズニーランドでは、さまざまな形でクロスコミュニケーションが行われていますが、その一例を紹介すると、オンステージ、バックステージで体験した「いい話」を、キャスト同士で30分ほど語り合う場が設けられていました。
仮に20人のカストーディアルが参加する終礼があつたら、5人程度の小さなグループに分かれ、ゲストとのコミュニケーションのなかで起きたポジテイブな出来事、キャスト同士の対話から生じた発見、デューティーのなかでの驚きなど、職場の仲間に伝えたい「こういう経験をしたよ」という内容を話し合います。そのときに大切なのは「とにかく本音で話す」ということです。
たとえば、私がジャングルクルーズのアトラクションキャストをしていた際、終礼でアニキを中心にクロスコミュニケーションを行ちたときのこと。
キャストの一人が、「ジャングルクルーズに必要な笑いってさぁ……」と語り始めました。
すると、アニキが「笑いにもいろいろと種類があるだろう」と広げ、集まっていた5、6人が「ディズニー映画の笑いは」「落語の笑いは」と各々の考える「笑い」について話をし、「それはわかる」「こういう笑いもあるのでは」と盛り上がったのを覚えています。
クロスコミュニケーションで話す内容は、こうした一見、実作業とはかけ離れたようなテーマでもかまいません。
もし仕事に直結した話をしたいのなら、テーマを「仕事をしていてうれしかった経験」などとすれば、より現場に近いエピソードがいくつも出るようになるでしよう。
重要なのは、立場の違いを取り払い、誰もが気軽に語り合える場を作ること。そして、テーマがその企業の掲げる理念につながっていることです。
「僕は今日、こういう経験をしました」という話に対して、「同じこと、俺もあるよ」と共感が広がっていき、上司は「現場ではこういうことが起きているのか」と知ることができます。
実際、私がカストーディアル部門で若手のリーダーだったときには、終礼でのクロスコミュニケーションを宝の山のように感じていました。
アニキの語る体験談が、ほかのキャストの気づきのきっかけになることもあれば、昨日今日パークデビューしたばかりの学生アルバイトの素朴な問いかけが、部門全体のデューティーを改善させる大きなヒントになったこともあります。
何より、クロスコミュニケーションの最大の効果はお互いがお互いを知り、尊重し合い、認め合うことで組織を活性化することにあります。
それによって「キャストの○○さんもがんばっているから、俺もやろう」という気持ちが生まれて社員が同じ方向を向いて仕事をするようになるのです。
スタッフの心のなかの言葉は口にしてはじめて人に伝わります。身近にいる同僚、部下、先輩、後輩を巻き込むだけでも状況は大きく変わるはずです。
そして、それが永続性のあるモチベーションヘとつながり、自然と仲間をいたわり合う集団へと変化し、組織が活性化していきます。
クロスコミュニケーションは導入しやすい教育システム
クロスコミュニケーションはブラザーシステム(アニキ制度)とともに、ディズニーランドの人材育成の要となっています。
ポイントはどちらもフェイス・トゥoフエイスのコミュニケーションの機会を増やす点にあります。
そして、2つの人材教育の要のうち、さまざまな職場ですぐに取り入れることのできる手法が、クロスコミュニケーションです。
朝礼、夕礼、終礼などを行っている職場はあると思いますが、毎月の数値目標を確認したり、代表者が短いスピーチをしたり、一方通行でのコミュニケーションが中心ではないでしようか。
そうした場をクロスコミュニケーションに変えていく。誰かが一方的に話すのではなく、グループ内で自由に発言し合う。その日にあったうれしかったことなど、ポジテイブな話題をクロスさせていく。
通常業務とは別に、誰もが「なぜ、この仕事をしているのか?」という本質的なことを話し合うことができれば最高です。
最初は照れくさく感じているスタッフも、お互いに話し、聞くうちにほぐれていきます。毎日、こうした場と時間を作るのが難しい場合、年に何度か自然とコミュニケーションがクロスする機会を作っていくのがいいでしょう。
さて、このクロスコミュニケーションを取り入れると、どうして現場まで理念が浸透し、組織が活性化するのでしょうか。次項からその理由を説明していきましよう。
「理念ってなんだ?」を深掘りする
自分はなんのために働いているのかが明らかになる
ディズニーにおいて「アニキ制度」がマニュアルを浸透させ、デューティーの達成度を高めることでチームカをアップさせる仕組みならば、「クロスコミュニケーション」はキャストのミッションヘの意欲を刺激し、浸透させるために行われています。
ディズニーランドでは、新人研修の時点でウォルトの理念について1日半かけて学びます。そこで基本はおさえるものの、理念の浸透という意味ではまだまだです。
「ギブ・ハピネス」という言葉を本当に自分のものとするためには、現場でのアニキからの指導に加え、折々に行われるクロスコミュニケーションが欠かせません。
「カストーディアル部門でのギブ・ハピネスはこうだから、レストルームの掃除の仕方はAからDまでの手順があって、便器はこういうふうに磨き上げるのだ」「商品部でのギブ・ハピネスはこうだから、ミッキーマウスのぬいぐるみの足は必ずクロスさせて陳列するのだ」。
こうしたマニュアルに紐づけられたミッションを語り合うなかで、1日半かけて学んだことの真髄が徐々に浸透していくのです。
たとえば、マジカル・チャンスと呼ばれるゲストとのやりとりのなかで感じた喜びなどを語り合い、共有することは、最終的にディズニーランドのミッションである「ギブ・ハピネス」への理解を深めます。
そして、年齢も職域も性別も異なるキャスト一人ひとりが本音をぶつけ合うことは、「なぜ、あなたがここで働いているのか?」「なぜ、この会社があるのか?」という本質と向かい合う絶好のチャンスにもなるのです。
ディズニーランドの研修では、「あなたの役割はなんですか?」(くぎ■こo費日aot)といぅ問いかけを念頭において行動するよう教え込まれます。
この言葉はフロリダにあるディズニー本社の研修マニュアルでも最初に出てくる重要なフレーズで、「あなたの役割はなんですか?」は「あなたの会社はなんのためにあるのか?」という問いでもあります。
忘れがちなことだから、考える時間を設ける
ディズニーランドの場合、その答えはウォルト・ディズニーの掲げた「ギブ・ハピネス」という理念です。つまり、「あなたの役割はなんですか?」=「すべてのゲストに幸せを届けること」となります。
しかし、いくら「常にこの問いかけを念頭において行動しなさい」と指導されても、忙しく業務をこなし、仕事に慣れてくると、うっかり理念の部分が置き去りになってしまうものです。
実際、仕事には「生きるため」「生活費を稼ぎ出すため」にするもの、という側面があるのはたしかです。しかし、それだけではいつかモチベーションが湧かなくなってしまうときがやってきます。
そして、モチベーションの湧かないまま続けている仕事は、いつしかたんなる作業となってしまい、型どおりにすませれば十分、というあきらめや思考停止につながります。
組織のなかにそうした状態のスタッフが増えれば増えるほど、活力は失われ、お客様を喜ばせることも難しくなっていくことでしょう。だからこそのクロスコミュニケーションです。
生きるためのお金を稼ぐために働いているとき、「あなたの役割はなんですか?」と問われても、答えはすぐには出てきません。
思いつくのは、家族のため、子どものため、かもしれません。もちろん、そういった理由も立派なものです。それでもなお問いたいのは、仕事において生きがいを感じる瞬間があるかどうか。
あなたがその仕事をしている意味は、あなたにとってどこにあるのか。自己実現、自己成長といったキーヮードとも深くかかわるこうした問いに、あなたはどう答えるのか。
日々、普段どおりに働いていると置き去りにされがちな、こうした問いかけ。
事務の女性はどう考えているのでしょう?総務の課長は?先ほど、オフィスにやってきたコピー機の営業マンなら?あるいは、すばらしい経営理念を掲げた社長室に座っているあなたの会社の社長はどう答えるのでしょうか。
クロスコミュニケーションは日頃、間うことのないあなたやほかのスタッフのミッションについて考える時間となるのです。
仕事の本質を理解すれば社員のモチベーションが業績や給与に左右されなくなる
もし、何かきっかけがなければ、年間のうち「自分の役割とは?」と問い直す時間などわずかなものです。
あなたの働く会社が事業を行っている理由、理念を意識して仕事をしている日が1年のうち何日あるでしようか。
たとえば、コピー機のメーカーは「あなたのビジネスをより効率化します」と宣伝しています。
ならば、コピー機の営業マンは本気で「御社のビジネスを効率化したいから、僕はここに来たんです」と言えるはずです。
ところが、たいていの場合、「やばい、今月は売上足んねえから、今日はあと3件まわんなきゃ」と焦りながら駆けまわっているのが現実でしょう。
そして、1台売れた、1台リース契約が取れたといった結果によって、やる気や自己評価が上下動していく。そして、「よくやった自分」へのご褒美に生ビールを飲む。それも働くことの喜びではあります。
しかし、その喜びは個人の業績や、それに対する対価である給与に左右されてしまいます。業績や給与が下がればモチベーションも下がってしまうということです。
そこで、ビールを飲みにいくのではなく、その時間を使ちて「コピー機があなたのビジネスをより効率化します」というミッションの意味を深掘りしてみませんか?効率化するとはなんだ?便利になるとはどういうことだ?お客さんがそうなることに対して自分ができるのはどんなことだ?と。
これを自問自答ではなく、グループでやろうというのがクロスコミュニケーションです。
「なんのため」「誰のため」に働いているかが明確になることで、モチベーションと業績を切り離して考えることができるようになるのです。クロスコミュニケーションは場を選びません。
朝礼や夕礼の際はもちろん、社員旅行や納会など、昭和の中小企業でならば普通に行われていた会社の行事を活用すれば、スタッフ間のコミュニケーションを深める場になります。ただし、テーマの設定は欠かせません。
全員が漠然と集まり、お酒を飲んでガス抜きするのではなく、理念に紐づけたテーマを設定したうえで、オリエンテーリングや模擬ミーティングなどのメニューを用意し、スタッフをチーム分けして語り合うこと。
具体的な方法は後ほど説明しますが、そんな仕組みを会社の行事に盛り込んでいけば気負うことなく、クロスコミュニケーションを実践することができるはずです。
繰り返し行うことで仕事の本質を理解させる
ディズニーランドの場合、朝礼、終礼などの場で頻繁にクロスコミュニケーションの機会があります。その都度、テーマはありますが、最終的に深掘りしているのは「ギブ・ハピネス」についてです。
ゲストにとってのハピネスとは?そもそもハピネス、幸せってなんだ?どんなときにギブ・ハピネスできたと感じるか?ギブ・ハピネスを業務のなかで実現するには?などなど……。
何度となくフェイス。トウ。フェイスのコミュニケーションを行い、その回数を増やすことで繰り返し、繰り返し、ウォルト・ディズニーの掲げた理念を深掘りしていく。
すると、一般的にはなかなか浸透しにくい経営理念、事業を行っていく意味、社会貢献といったミッションが、社員一人ひとりのなかに浸透していくのです。
それが自分の携わっている仕事の意味や価値を自覚させ、モチベーションを高める原動力となっていきます。
「なぜ、自分はここで働いているのか」という本質をつかみ、目的意識を持って働いている状態になったとき、人は持てる最大限の力を発揮してくれます。
キャストの9割がアルバイトで構成されているディズニーランドが、あそこまでレベルの高いおもてなしを実現できるのは、クロスコミュニケーションによってウォルトの理念が、キャストの心のなかに深く浸透しているからなのです。
創業者について深掘りする
理念を理解するためのヒントは創業者の想い
「クロスコミュニケーションは理念の深掘りの場でもある」と言われて、ピンとこない人もいるのではないでしょうか。
それは理念と実際の業務がかけ離れているからかもしれません。
その結果、どうも理念として掲げられた言葉が絵空事のように思えたり、きれい事を言っているだけにすぎないと感じてしまう。
その感覚は私にもよくわかります。
また、会社の経営理念は、抽象的なものも多く、その裏にどんなメッセージが隠されているのかがわかりづらい場合もあります。
私自身、オリエンタルランドに入社して仕事を始めたころ、日々のデューティーと担うべきミッションとの間に溝を感じて悩んだもの。
ギブ・ハピネスが大事なのはわかるけれど、押し寄せるかのようにやってくるゲストの数に圧倒され、1日をしのぐので精一杯という日々でした。
そんななかでふと思いついたのが、「ギブ・ハピネス」と言い出した張本人、ウォルト・ディズニーという人のことを調べよう、というアイデアでした。
実際、ウォルトの理念は知れば知るほどおもしろく、創業者の考えが隅々までいき届いているディズニーランドというテーマパークのすごさを改めて感じたものです。
そこで、私はウォルト・ディズニーの研究サークルを立ち上げ、参加したキャストみんなでディズニーの秘蔵映画を鑑賞したり、ウォルトが書いた冊子を読んだり、アメリカのディズニーのマニュアルを分析したりと、理解を深めていきました。
また、参加したキャストが仕事中の体験談を語り合うクロスコミュニケーションも実施。当時はそれがクロスコミュニケーションだという自党はありませんでしたが、会議室の利用制限時間が過ぎても終わらず、社員寮に集まって徹夜で話すようなこともたびたびありました。
ディズニーランドには「ワンマンズ●ドリームⅡザ・マジック●リブズoオン」というショーがあります。
このワンマンズとはウォルトのことで、ミッキーマウスの誕生も含めた一人の男の夢を見せるショーになっています。創業者をテーマに据えたショーがあるのは、そこに伝えたい強いメッセージがあるからです。
「与えることは最高の喜びなのだ。他人に喜びを運ぶ人は、それによって自分自身の喜びと満足を得る」「科学技術が進めば進むほど、人々は孤独になり分離する。私は人々が互いに感動し、心がひとつになる場所を作りたいのだ」
なぜ、ディズニーランドを作ったのかという根幹にかかわるこうした言葉をはじめ、ウォルトの考えは、どれだけ勉強してもしきれないほどの深みを持っていました。
そして、創業者であるウォルトに興味を持つ仲間は多く、研究サークルは回を重ねるごとに参加人数が増え、ときにはオリエンタルランドの役員やァメリカのディズニー本社から出向している責任者まで顔を出すようになっていったのです。
創業者の想いが社員のミッションヘとつながる
この取り組みが多くの人を惹きつけたのは、理念を示す言葉に加え、ウォルト・ディズニーという創業者の生き方を研究したからだと思います。
この経験を踏まえて言えるのは、クロスコミュニケーションのテーマとして創業者を選ぶのは、理念の浸透に非常に効果的だということです。
創業者とは、世の中に何もなかったところに、今私たちが働いている会社を作り上げた人。
そこには必ず、なんらかの「想い」があったはずです。
彼や彼女が何を追い求めて事業を始めたのか。
創業者の原点を知ることは、会社の原点を知ることであり、理念の始まりを理解することでもあるのです。
つまり、創業者について深掘りするクロスコミュニケーションは、ミッションとはなんたるかを学ぶ理念教育の場となるのです。
そして、参加した一人ひとりは深堀りをするなかで、自分の担うべき役割について再認識していくのです。
それも部門や年齢、職歴などを超えて語り合うことでひとつの商品やサービスにもさまざまな見方があることもわかつていきます。
研究開発部にとっては深い意味のある作業も、営業部門の社員には重要性が伝わっていない。
あるいは営業部門のこだわりが、ほかの部門に理解されていない。
そんな饂齢が埋まっていくのもクロスコミュニケーションの効果と言えるでしよう。
創業者の人生を紐解いていくことは、そのまま経営理念の本当の意味を学ぶことにもつながっていきます。
あなたの会社の始まりはどのようなものでしたか?創業者の人生を深掘りすると、そこに必ずあなたが仕事するうえで指針となるヒントが埋まっています。
あいさつ運動や理念の唱和では、組織は活性化しない
一方通行のコミュニケーションは偽物
私が研修先などでクロスコミュニケーションについてお話しすると、先方の担当者から「うちは、あいさつ運動や理念の唱和をしていますよ」と言われることがあります。
毎朝行う理念の唱和、毎週火曜日のあいさつ運動、週2回の木曜日は社員全員での朝の掃除。これでコミュニケーションを深めています、と。
あいさつ運動とは、社員の出社時に上司と担当者が玄関前に立ち、強制的にあいさつを交わすわけです。
お互いに「おはようございます」「おはようございます」と言い合って、上司が「きみは声が出てないねえ」などとチェックする。
あるいは朝礼で代表者が前に出て、大声で「おはようございます」と言い、それに合わせて全員が経営理念を唱和するといった運動です。
そのほか、「オアシス(おはようございます、ありがとうございます、失礼します、すみません)運動」が職場で推進されるケースもあります。
ただし、残念ながらこうした運動はディズニーの基準で考えるコミュニケーションとは言えません。
強制的に発するあいさつや理念の唱和は、一方通行のコミュニケーションにすぎず、言わされて言う人間も、間かされて答える人間も、よそよそしいまま。
それでいて上司が横から「声が小さい」とやるのですから、お互いの距離が近づくことなどありませんし、理念が浸透することもありません。
そういった訓練で身につけた元気のいいあいさつが、社外のお客様の心に響くかと言うと、甚だ疑間です。偽物のあいさつは、たんなる声出しにすぎません。
クロスコミュニケーションの目的のひとつとして一体感のある場作りという視点で見ても、あいさつだけでは足りないのです。とはいえ、ディズニーランドでもあいさつは重要なものだと考えられています。
たとえば、ゲストにとってパークの第一印象となるメインエントランス。ここで働くチケツトレセプションのキャストは、元気のいいあいさつでゲストを迎えます。ただし、普通のお店のように「いらっしゃいませ」とは言いません。
朝は「おはようございます」、お昼は「こんにちは」、夜は「こんばんは」です。なぜ、「いらっしゃいませ」ではないのか。
そこにはフェイス・トウ・フエイスのコミュニケーションを重要視してきたウォルト・ディズニーの考えがあります。
たとえば、キャストが「いらっしゃいませ」と出迎えた場合、ゲストはなんと答えたらいいのか困ります。まさか「いらっしゃいました」と言うわけにもいきません。
だから、あいさつは「おはようございます」であり、「こんにちは」であり、「こんばんは」です。第一声が「こんにちは」ならば、言われたほうも「こんにちは」と返しやすい。
これは、ウォルトがはじめてディズニーランドを作らたときから受け継がれている伝統です。
彼は、ゲストとのコミュニケーションが生まれやすい言葉を使うことを大切にし、コミュニケーションが一方通行となってしまうことを嫌いました。
ちなみに、ゲストがアトラクションやショップなどから出るとき、あるいはパークから我が家へと帰るときに使う言葉は、「いつてらっしゃい」です。
すると、ゲストは「いってきます」と答えることができ、ここでもコミュニケーションが生まれます。
そして、多くのゲストはキャストの見送りを受けながら、またディズニーランドに帰ってこようという気持ちになるのです。
朝礼のスピーチでも相互のコミュニケーションが大切
うちの会社はスタッフ間のコミュニケーションが足りないからと、朝礼でのスピーチを取り入れる企業もあります。「なんでもいいから1分間、みんなの前でスピーチしましょう」と。その場で好きなことを話せるのはよほどの話し上手くらいのもの。
ほとんどの人は、みんなの前でスピーチとなったら、あたり障りのない話題ですませるはずです。しかも、聞いている側はその日の仕事の段取りを考え、上の空。
オフィスに外から電話がかかってくれば、スピーチ中でも「はい。○○です。ただいま、朝礼中でして……」なんてことにもなるでしよう。
そんなスピーチの場に共感の広がりなどありません。
コミュニケーションに欠かせないはずの共感や参画意識の芽生えなどなく、右から左へ聞き流し、1分間喋ったというアリバイができるだけです。大切なのは対話が双方向であること。あいさつには心を込めてあいさつを返す。
1分間のスピーチであれば、真剣に耳を傾け、共感を返すこと。「おうおう、それ、わかるなぁ」と、そんなひと言だけでも話し手は救われた気持ちになるはずです。
逆に黙って聞き流すような一方通行のコミュニケーションは、お互いの関係をよりギスギスさせることでしよう。
飲みニケーションは避ける
また、「うちは飲みニケーションで親睦を図っています」と冗談混じりに言われることがあります。たしかに、多様な人が語り合うという意味では共通点がないわけではありません。
ただし、決定的な違いがひとつあります。それは、クロスコミュニケーションには、愚痴や陰口の入り込む余地がない点です。
たとえば、「お客様の目線で『ITでオフィスを元気にする』を実践し、信頼に応え続けていきます」という経営理念を掲げている企業があるとします。
クロスコミュニケーションでこれを語る場合、総務部門の社員も、営業部門の社員も、技術部門の社員も加わって、「ITでオフィスを元気にするってなんだ?」というようなところから意見を出し合っていきます。
「元気にする」ってなんだ?活気が出てくるってことか?賑やかになるってことか?効率が上がって残業が減るってことかもしれないぞ、と。
さまざまな意見が飛び交うなかで、当然、ネガティブな言葉を発する参加者も出てきます。
「元気にするって言ったってさ。今の日本経済の状態じゃ、限界があるよな」「お客様目線も給料分で精一杯だよ」など、勢いづいていたクロスコミュニケーションに水を差すような声によって、語りの場が一気にガード下の赤ちょうちん的なニュアンスに変わってしまうことになりかねません。
そこで、ブレーキをかけるのがクロスコミュニケーションに欠かせない存在のファシリテーターです。
「みなさんの身のまわりで、ITによって変わったことってどんなことがあるのでしょう?」と、ネガテイブな話題を受け流し議論を軌道修正していくのです。
ファシリテーターの役割については、本章の最後で詳しく紹介しますが、居酒屋での飲みニケーションではこうはいきません。
一度ネガティブな話題が出ると、酔いも手伝って「愚痴大会」のような雰囲気になってしまいます。飲み会が悪いわけではありませんが、クロスコミュニケーションは、アルコールの力に頼らずに行いましよう。
ディズニーの「クロスコミュニケーション」を職場に導入するには?
コミュニケーションの場はこうして整える
ここでは、クロスコミュニケーションについてまとめていきます。まず、クロスコミュニケーションの目的は、参加する人たちの間に共感を広げること。そのための仕組みとして場作りやテーマ設定があります。
そして、場作りの大前提は参加者をクロスさせること。
年齢、性別、職位、部署など、あらゆる肩書きをシャッフルし、クロスさせながらいくつかのグループを作っていきます。
ですから、可能であればクロスコミュニケーションに経営層のポジションの人間も加えていきたいものです。
彼らが現場の生の意見に触れる場は思いのほか、少ないもの。
ディズニーランドでは本部の人間が、キャストをもてなす「キャスト感謝デー」などが、経営層を交えたクロスコミュニケーションの場として機能していました。
重要なポイントは、あらゆる枠を超えて前向きのコミュニケーションを続け、理念を体感に変えていくこと。
それが創業者の考えを浸透させていくのです。
また、クロスコミュニケーションでは必ず、議事進行を担う司会者的な存在(ファシリテーター)を置きます。
会社でのクロスコミュニケーションの場合、どうしても職位によって発言に遠慮が生じてしまいがちですから、ここはフアシリテーターが自信を持って自由に語り合う場であることを説明しましょう。
飲みニケーションでの「今夜は無礼講」とは違い、本当の意味で無礼講であると示すことが大切です。
続いて、各グループの人数ですが、奇数の組み合わせが望ましく、1チームにつき5人が適正です。
なぜ、奇数がいいかと言うと、意見が三分されないからです。
偶数の場合、3対3、2対2と真っ向から対立し、対話が深まっていかないケースが多々あります。
その点、奇数ならば1対2対2、3対2など、適度なズレが生じるので、対話が行き詰まりにくくなるのです。
会場の設えとしては、テーブルは取っ払い、床に車座、ないしは椅子を円形に並ベて全員の顔が見える状態を作ることをおすすめしています。
また、メモやホフイトボードなども用意せず、各々が自分の頭のなかにある知識と感情をベースに語り合っていくようにしましよう。
場の設えが整つたら、次はテーマの設定です。
どんなことをクロスコミュニケーションで語り合うのか。
理念の深掘りと言っても難しく考えることはありません。
仕事の本質、理念につながるテーマというのは、案外、日常的な問いかけによって掘り起こすことができるものです。
普遍的かつ前向きなテ‥マ設定を心がけましよう。
たとえば、「仕事を通じてうれしかったことはなんですか?」という質問をテーマにしてしまってもいいでしょう。
これを各グループで、まずは全員に1エピソードずつ披露してもらいます。
「あのとき、こんな対応をしたら、お客様がすごく喜んでくれてうれしかった」「手が空いた時間に、社内の内線番号の名簿を作り直して部内で配つたら、みんなから感謝されて、うれしかった」現場に根差したちょっといい話がいろいろ出てくればしめたものです。
次の質問で「そもそもうれしいってなんですか?」「楽しいとうれしいって一緒かな?」と突っ込んでいけば、本質に迫る深掘りが進んでいきます。
重要なのは正解を出すのが目的ではないということ。
小さく話をまとめるのではなく、各々が自分の言葉でテーマについて語り、考えを深めていくように心がけます。
答えよりもプロセスを重視してください。
テーマ設定の注意点
テーマに関して、もうひとつ注意すべき点は、後ろ向きなテーマを設定しないことです。
極端な話、「仕事を通じてつらかつた経験を教えてください」「つらいってなんですかね?」と始めてしまったら、場は自然とネガテイブなエピソードばかりになっていきます。
「会社の問題点を洗い出す」といったテーマも、議論がネガティブになりがちですので、避けたほうがいいでしょう。
愚痴は居酒屋で、クロスコミュニケーションはポジテイブに、です。
クロスコミュニケーションの最終目的は、参加者から「そうそうそう」とか、「わかるわかる」とか、「僕も同じ」「私も同じ」という言葉が出ることです。
逆に言うと、こうした共感の言葉が出てこない場合は、そのクロスコミュニケーションがうまくいっていない証拠。
また、現場の業務に関連するエピソードを語ってもらっていると、結果的にネガテイブな方向に流れることも少なくありません。
「そもそもさ、会社がさ、あそこの部署が問題でさ……」と。
そういうやりとりがひとつのグループで出始めると、徐々に会場全体へ伝播していき、雰囲気が停滞し始めます。
そうした場合、ファシリテーターは、話してもらいたいのがポジテイブなテーマであることを再確認する意味でも、一度、空気を入れ替えるように「仕事を通じて笑顔になるシーンつてどんなときですか?」といった明るい話題を振ってみるべきでしよつちなみに、クロスコミュニケーションに欠かせないファシリテーターの技術については次項にてまとめて紹介いたします。
ぜひ、参考にしてみてください。

ファシリテーターに必要な7つの心得
クロスコミュニケーションを行うにはファシリテーターの養成が必須
本章で紐解いた、ディズニーランドがキャストに理念を浸透させていく仕組みであるクロスコミュニケーション。
もし、あなたの働く職場にクロスコミュニケーションを導入するならば、必ずクリアしなければならないことがひとつだけあります。
それは、場をまわす役割を担うファシリテーターを育てることです。
ディズニーランドのようにすでに仕組みが根づいている組織ならば、朝礼、終礼の場が自然とクロスコミュニケーションの場に変わることもあります。
しかし、これからはじめて導入していくという場合、職場にいるあらゆる属性の人々をクロスさせるだけでひと苦労です。
なぜ、上司が部下と同じ立場でグループに加わり、話をしなければいけないのか。
どうして照れくさいような問いかけについて、みんなで語り合わなければいけないのか。
誰かがきちんと説明しなければ、照れ屋の日本人はなかなか積極的に発言してくれません。
ましてや経営理念や創業者の考えといった仕事の本質にかかわる話題を気負いなく語り合ってもらうには、ある程度、話をリードしてくれる人が必要です。
そこで、あなた、あるいはほかの仲間がファシリテーターという役割を理解していきましよう。
そして、クロスコミュニケーションが職場に根づくまで、ファシリテーターが中心となって自由な語らいの場を盛り上げていかなければなりません。
ここでは、ファシリテーターに必要な7つの心得をご紹介していきます。
この心得を参考にして適任者を選んだり、あなた自身がフアシリテーターとなって、クロスコミュニケーションに取り組んでいきましょう。
一ファシリテーターの心得一1常にポジティブな方向を目指す
私たちはどうしても物事の原因を追及したがる生き物です。
「取引先のあの部長が……」「クレームをつけてくるお客さんにも問題がある……」「そもそも組織が縦割りになっているから……」などなど。
自分たちを正当化するための理由を見つけ出し、大丈夫だと言いたい、安心したいという心理があります。
ファシリテーターにとって最も大切な心得は、そうした圧力をうまく受け流し、常にいい方向へ議論が進むよう心がけることです。
テーマはどうあれ、飲み屋の愚痴のような会話にならないよう、ズレてきたなと感じたら空気を入れ替えるような問いかけを投げかけましょう。
クロスコミュニケーションにとって大事なのは、発言している本人が「俺」「僕」「私」という主語を使い、テーマについて「こう思う」「こう考えている」「こう感じている」と自らの考えを語ることにあります。
そして、それぞれの発言が重なり合うなかで、ひらめきが生まれ、「おまえ、おもしろいことを言うな」「そんな考え方もあるな」「わかる、わかる」「そうだよな」と共感が広がっていく。
それが理想的なクロスコミュニケーションのあり方で、そのためにはポジテイブな語りの場であることが必要条件となります。
もちろん、参加者のなかには無口な人もいるでしょう。
内気な人もいるはずです。
それでも人は基本的に何かを発信したいと願っています。
どんなに無口な人も、話したいことを胸のうちに秘めているものです。
ファシリテーターは、そういった人たちの何げないひと言に耳を傾けましょう。
小さな声で発せられた言葉に興味を持ち、「おもしろそうですね、その話」と関心を示していく。
私の経験上、日頃、自ら話す機会を作ろうとしていない人ほど、一度、扉が開けば多くのことを語ってくれます。
ファシリテーターは扉をノックするだけでいい。
扉が開けば、後は自然と多くの言葉が溢れ出してきます。
いい方向に流れていきそうな言葉の種火を見つけたら盛り上げ、責任転嫁と自己正当化に向かいそうな言葉の種火は見つけしだい消火してしまう。
この2つがファシリテーターの大きな仕事です。
その場にいるみんなが、今どちらに向かっているのか。
ポジテイブなのか、ネガテイブなのか。
ファシリテーターは常に気にかけていなければいけません。
ファシリテーターの心得一2プロセスを整理させる
「仕事上、うれしいと感じたこと」など、テーマに沿った発言がなかなか出てこない場合は、クロスコミュニケーションに参加しているメンバーそれぞれに、これまでのプロセスを整理してもらうことが効果的です。
たとえば、どういう経歴で現在のポジションになったのかを語ってもらいます。
支店長職ならば、そこに至るまでのプロセスを振り返り、要所要所で思い出に残っている出来事を挙げてもらいます。
過去を振り返り、整理すると、「あのときちょっと身体を壊しちゃって、○○さんに助けてもらった」「上司と真っ向からぶつかったけど、最終的にはいい企画になった」など、ひとつくらいはハイライトとなっている出来事が出てきます。
そうした思い出を語ることで、その人だけしか知ることのできない本人語りが始まるのです。
これは特に40代、50代の中高年層に効果的。
私が、とある証券会社でクロスコミュニケーションを行ったとき、最初は誰も語ろうとせず重苦しかった場が、この手法で活発な語り合いに発展しました。
プロセスを整理して過去を語ってもらうことで、役職などのしがらみから離れ、素の人物像が浮かび上がっていくのです。
ファシリテーターの心得一3ストーリーを準備する
半分は質問を用意して、もう半分は現場で柔軟に対応する。ある程度のストーリーを準備して本番に臨むことで、各グループの語り合いがスムーズになっていきます。
これは、事前に大まかな質問を決めておき、相手の答えによって、さらに深く切り込むような質問を重ねていく「半構造化インタビュー」という手法をクロスコミュニケーションに応用したものです。
ファシリテーターとしての事前の準備は、会社や創業者の歴史をさかのぼることから始まります。
創業者の考え方、想いとはどういうものだったのかを事前に調べ、予習しておきましょう。
こうした下調べをベースにしながらテーマを設定していくと、クロスコミュニケーションの現場で話の方向性がズレ始めたと感じたとき、修正すべき方向が見えるようになります。
また、会社の歴史を調べることで、参加者の入社した前後の状況などがつかめ、個々の話を引き出すときに役立ちます。
たとえば、「Aさんが入社されたとき、会社は苦しい状況でしたが、社内はどんな印象でしたか?そこからどういう変化がありましたか?」「一方、Bさんが入社されたときは、業績の回復期でしたが、入社後に印象的だった出来事はありますか?」など。
日々の業務のなかで忘れてしまいがちな、過去の出来事を話してもらうことで、記憶が整理され、本人が話をしやすくなる効果が期待できます。
会社との出会い、入社、お客様との印象的だった出来事、昇進、はじめての部下、転勤、これまで最も大きな喜びを感じた仕事など、ビジネスパーソンとして誰もが必ず経験している軸があります。
ファシリテーターがこうした軸を具体的にイメージしながら、クロスコミュニケーションの場にいることで、散漫な会話になってしまったときに語り合いの内容を修正していくことができるのです。
区ファシリテーターの心得一4ダイバーシティを尊重する
多種多様な参加者をクロスさせるのがクロスコミュニケーションですから、フアシリテーターは全員を平等に扱い、多様性(ダイバーシテイ)を尊重しなければいけません。
差別、区別なく、当然ながら好き嫌いで参加者を区分けすることもなく、フラットな状態でクロスコミュニケーションの場に臨みましょう。
ファシリテーターの心得一5「あるある」を引き出す
クロスコミュニケーションを行っているグループから自然と「あ―、それ、あるある」「わかる、わかる」という言葉が聞こえてきたら、ファシリテーターは小さくガッツポーズをしていいと思います。
自然に広がっていく共感は承認につながり、発言者のモチベーションを高め、チームの一体感も引き出してくれます。
仕事でうれしかった瞬間のエピソードを話し、それを「わかる」と聞いてくれる仲間。
そこでお互いがばちんと絆で結ばれるのです。
もし、それぞれの部門が違い、ほとんど話したことがない相手だとしても、クロスコミュニケーションの場での「わかる、わかる」だけで、意外といいヤツじゃないかと思えてしまう。
いつもは口うるさいと感じている上司が、「それ、あるなぁ」と呟けば、100回褒められるよりも満たされる。
私たちにとっては承認欲求が満たされる瞬間というのは、それほど大きな作用があります。
そして、チーム内での絆が深まることで、自分はここにいていいのだという実感が増し、所属する組織へ貢献したいというモチベーションヘとつながっていくのです。
区ファシリテーターの心得一6全員が共有できるテーマを選ぶ
クロスコミュニケーションでは、テーマ設定もまた全員にクロスしていなければいけません。
誰かはよく知っていて、誰かはよく知らない。
誰かの発言の権利が大きくなる、ならない。
そういったテーマを選んでしまうと、コミュニケーションが閉じていき、語り合いは広がっていきません。
たとえば、「来年はどんな会社にしていきたいですか?」というテーマにした場合、一見、前向きな話になりそうですが、新入社員や若手社員にとっては語りにくい内容となります。
あるいは、間接部門のように売上の数値目標を立てない部門で働くスタッフが参加している場で、数値に関するテーマを取り入れるのもおすすめできません。
クロスコミュニケーションのテーマは、すべての人間が根源的に共感できるようなものにしましょう。
うれしい、楽しい、笑顔になった、喜びを感じた、など。
ウォルト・ディズニーの「子どものために映画を作ったのではない。
誰の心にもある子どもの心のために作ったのだ」という言葉を借りれば、大人になっても消えることのない、子どもの心を刺激するようなテーマこそ、クロスコミュニケーションにふさわしいのです。
区Jファシリテーターの心得一7ムダに喋らず、間を大切に
ディズニーでのクロスコミュニケーションでも、時折、ファシリテーターの独演Lなってしまうケースがありました。
テーマを発表し、参加者が話しやすいようにと考えたのでしょう。
「まずは自分の経験から話します」と語り始めたものの、止まらない。
そのうち熱くなってしまい、「こういう想いで仕事に取り組みましょう」と結論づけてしまうという……。
特に男性のリーダータイプの人がファシリテーターになったとき、やってしまいがちな失敗です。
語り合いを先頭に立って引っ張り、自分が正しいと思っている結論に導いてしまう。
これはリーダーシップとしては正しいことかもしれませんが、自由な語り合いの場での共感を目的としているクロスコミュニケーションにおいては、やりすぎです。
浸透させるべき理念は、ファシリテーターの考えではなく、経営理念や創業者の考え方。
語りたい気持ちは、自分が一人の参加者としてクロスコミュニケーションに加わったときのために取らておきましよう。
たとえば、参加者の発言を受けて、「ということは、こういうことですね」「換言するとこうなりますね」とまとめてしまうのもNG。
仮に、そのまとめが的確だとしても、まとめるべきは参加者です。
「あるある」「わかる」「なるほど」を引き出す言葉を参加者が自ら口にするから、満足感があり、理念や考え方が腹落ちするのです。

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