「中国人の一人ひとりは一匹のドラゴン(龍)である。日本人の一人ひとりは一匹の蟻であ
る。ところが龍の中国人が一〇〇人集まれば一〇〇匹の蟻になってしまうのに対し、日本人
は一〇〇人集まれば一〇〇匹の龍になってしまう」と、中国人の友人が私に笑い話をしてく
れた。
この話は、同一民族である日本人が団結したときの強さを巧みに言い表わしている。これ
は終身雇用制、年功序列賃金、企業内労働組合を三本柱とする日本的経営にも当てはまる。
そこでは従業員同士、および従業員と経営者もまったく一心同体である。自分のことばかり
を考え、己が利益を第一優先に言葉を発する者は仲間ハズレにされる。社長以下、一般社員、
パート社員の全員までが一糸乱れず、経営課題を我が事として当たる「カイシャ人間」という
集団の姿は、かつて共産国のマスゲームを初めて見たときに感じたのと同様に、狂気の沙汰
としか異国の人々には思えないのだろう。
関西のある大手家電メーカーの人事部長と人材の斡旋で話し合ったときのことである。
「わが社は関東で一万人、関西で七〇〇〇人の余剰人員を抱えているんです」
と打ち明ける。ヘー、そんな状態だったら一日も早く工場閉鎖するべきではないかと言う
私に、
「関東の某自動車メーカーのように実際に大赤字が出たら、主力工場であろうと閉鎖でき
ますが、売上げ一兆円から見れば雀の涙ほどの三〇億円や四〇億円とはいえ、利益が出てい
る間はそれができないのです」
工場閉鎖はトップが決断すればできることである。またそれが経営者の仕事のはずなのに、
と重ねて言う私に、
「おそらくわが社のトップは、わかっていても、それができないのです」
との答えが返ってきた。いまや、冷蔵庫や洗濯機など、日本人が愛用している自物家電やA
V機器は、台湾や香港をはじめ東南アジア諸国でつくられる時代になったことは、どの家電
メーカーのトップもよく知っている。だが、かつての円高ショック時に造船会社が現業部門
をすべて分社化した例があるように、経営状態がどん底までいかないと、この家電メーカー
同様、日本企業は厳しい手を打たない。この会社は二〇一一年、パナソニックに吸収された
三洋電機である。
その一つの理由として、日本の経営者は皆ヒューマニティーが強すぎることがあげられる。
たしかに人柄のいい人ばかりである。だがその結果は、かつての日本軍のように、最後まで
ギブアップせずに頑張り続け、とどのつまりは水杯を酌み交わしたあと、バンザイ突撃で玉
砕してしまうのである。
経営者にしてみれば、このような最悪の事態はできるだけ避けたいのだが、生半可な人柄
のよさやヒューマニティーが、実はかえってアダになることが多い。多くの社員から「社長、
社長」と呼ばれ、賞与を渡しては「ありがとうございました」と言われていることは気持ちが
いいし、それを望む人が多いのもわかる。
だが、いまや大企業といえども、日本国内では製品研究、商品開発、デザイン、企画、販
売システムなどの付加価値の高い知的労働分野やソフト面の開発にもっぱら重点を置き、生
産活動は人件費の安い海外ヘシフトし、それに伴って市場開拓も国外へ重点を移さないと
やっていけない。 一刻も早く固定費の削減や製造コストの低減を実現することが迫られてい
る時代になった。海外での事業活動はもちろん、国内でも高賃金の日本人労働力だけに頼っ
てはいられない。
一方、中小企業は、総じて賃金水準が低く人件費が大企業をかなり下回っていることもあっ
て、危機感はまだ薄い。実際には週休二日制の導入の遅れなどから就労日数。時間、さらに
残業も多く、そうなると人件費も高くなるはずだが、残業代の把握もいい加減で、就労時間
どおリキチンと払っていないところがほとんどだからだ。
そのためか、中小企業は急な注文があったときや盆・暮れなどの紋日(特別の繁忙日)には、
いまでも社長自ら先頭に立ち、もっぱらマンパワーをフルに発揮して仕事をこなす。社員に
は人情味たっぷりに接しながら巧みにリーダーシップで引っ張る。仕事をやり遂げたら「あ
りがとう― これで酒でも飲んでくれ、ご苦労さん!」と言って一杯振る舞う。このような
人心収橋術というか、ファミリー的な労働力が、クいざ″というときの決め手になっている。
経営者自身、「わが社の宝は、この一心不乱、真面目に働く従業員です」とおっしゃる。
だが、いつまでこのような手法が通用するのだろうか。すぐそこまで迫っている二一世紀
には、零細事業所で働く人は一時的には集まっても、長期的には不足することは間違いない。
経営者の人徳や義理、人情でこれまでどおり働いてくれるか、非常に疑問だ。 一刻も早く、
こうした中小・零細企業的体質から抜け出さなければやっていけなくなる。
人件費が大企業に比べて総じて安いだけでなく、中小企業は多額の設備投資もしないので、
減価償却費、支払金利も少ない。事務所の管理費をはじめ、販促費や交際費などの販売管理
費もケチケチしているので、固定費は少ない。しかし、売上げボリュームが小さいため、仕
入れ原価は大企業に比べ、つねに高くなる。
これからの厳しい時代を生き残るためには、大企業のように売上げを増やすことで仕入れ
原価を低減させ、粗利益の改善を図らねばならない。同時に現在のマンパワーを機械、シス
テム機器、ソフトウエアに置き換えて、売れるときにはタイミングを逸しないように一気に
製品をつくり、儲けるときにはごく短期間で儲けられる体質へと切り替えることが必要だ。

これからは中小企業といえども人力に頼る経営から
脱して、設備力、システムカの強化を長期的な経営
課題にしなければならない。
現在の中小企業と大企業の利益構造をイメージ的
に表現すれば図表211のようになるが、中小企業
も、より大企業に近い経営体質への転換を迫られて
いる。
ところで、銀行から設備資金を借り入れる際の金
利も、中小企業と大企業との差は以前ほど不利では
なくなっている。また設備投資自体もリースやロー
ンなどさまざまな形態がとれるようになったし、機
械の操作方法やメンテナンスなどの面でも中小企業
の技術レベルで容易になっている。そう考えると、
いまは中小企業も大企業のような高固定費・低変動
費型構成に移行できるチャンスである。まして、零
細企業だからといって安い人件費で人が使える時代は過ぎ去っているだけに、真剣に取り組
むべきだ。
受注下請型産業の場合は営業力で受注を拡大することで、見込み産業では企画力、商品開
発力を強化して商品力に磨きをかけることで、それぞれ販売量を増やして仕入れ原価、材料
原価を引き下げていかなければならない。
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