人材採用は一番大切な仕事
群れ効果情熱のある人間は情熱を口にしないラーニング・アニマルを採用するLAXテスト斬新な発想は多様性から生まれる絞りを広げる誰もが〝スゴイ人〟をひとりは知っている面接のスキルは最も重要面接時間は三〇分に意見をまとめる縁故採用(あるいは昇進)は許さない採用の質を犠牲にしてまで埋めるべきポストはない破格の報酬レーズンは放置し、M&Mを放出せよ愛する者には旅をさせよ(ただし手を尽くしてから)解雇はつらいよグーグルの「採用のおきて」キャリアの選択――F-16を選べ
人材採用は一番大切な仕事
二〇〇〇年二月のある日、ジョナサンはグーグルのプロダクト部門の責任者候補としてセルゲイ・ブリンの面接を受けるため、マウンテンビューに向かっていた。
面接は形式的なものだろう、と思っていた。
エキサイト@ホームのシニア・バイスプレジデントという当時の仕事には満足していたので、転職すると決めたわけではなかった。
ただ、自分はネット検索と広告のエキスパートだし、ベンチャー・キャピタル、クライナー・パーキンスのパートナーで、グーグルとエキサイト@ホームの取締役を務めていたジョン・ドーアの推薦と来れば、採用は決まったようなものだと考えていた。
セルゲイは面接の大部分を、自分を口説き落とすのに使うんじゃないか――。
ベイショア・パークウェイの人であふれかえったオフィスに到着すると、セルゲイに案内されて会議室に入った。
軽く挨拶を交わすと、セルゲイはお気に入りの質問をぶつけてきた。
「ぼくが知らない、何か複雑なことを教えてくれないか?」。
本気モードの面接が始まったことに驚いたものの、スタンフォード大学の経済学者を父に持ち、名門クレアモント・マッケナ大学で経済学を専攻したジョナサンは、さっそくホワイトボードを使って「限界費用と平均費用は、平均費用の最低点で交わる」という経済法則を証明しはじめた。
それから費用関数と収入関数を使って、会社の生産量と利益を最大化するような最適生産量をはじき出す方法をデモンストレーションすれば、セルゲイを虜にできるだろう(少なくともこの話題は経済学徒の睦言にはうってつけだ)。
ただ、まもなくセルゲイがローラーブレードをいじったり、窓の外を眺めたりしはじめたので、自分の答えが彼の問いを満足させるものではないことに気づいた。
セルゲイにとって自分の話には何も得るものがなく、経済法則には少しも興味がなく、また天才的な数学能力でホワイトボードに書かれた経済学の公式などとっくに解いてしまったのかもしれない。
すぐに戦術を変えなければ。
そこでジョナサンは経済学の講義をやめ、新しい話題を持ち出した。
「求愛のテクニック」である。
まず、自分が妻を初めてデートに誘った方法をケーススタディとして、〝釣り針をおろす〟方法の解説から始めた。
セルゲイはようやく話に興味を示し、ジョナサンはまんまとオファーを勝ちとった。
大企業の幹部に「あなたの仕事のうち一番重要なものは?」と尋ねると、ほとんどの人が反射的に「会議に出ること」と答えるはずだ。
さらにしつこく、「いやいや、一番退屈なものではなく、一番重要なもの」と聞けば、ビジネススクールで学んだ経営の基本を並べ立てるだろう。
「優れた戦略を立て、事業機会をとらえてシナジーを生み出し、競争が一段と激化する市場でも着実に業績を向上させること」といった具合に。
同じ質問を一流のスポーツチームのコーチやゼネラルマネジャーにしたらどうだろう?彼らも会議にたくさんの時間を割くが、一番重要な仕事は「最高のプレイヤーをドラフトで獲得するか、スカウトするか、あるいはトレードで持ってくること」と答えるだろう。
優秀なコーチは、どれだけ優れた戦略を立てても、優れた人材の代わりにはならないことをよくわかっている。
それはスポーツだけでなく、ビジネスでも同じだ。
優秀な人材のスカウトは、ひげを剃るのに似ている。
毎日やらないと、結果に出る。
経営者の場合、「あなたの仕事のうち一番重要なものは?」という問いへの正解は「採用」だ。
あの日、ジョナサンを面接していたセルゲイは、真剣そのものだった。
ジョナサンは当初、それは自分が幹部候補で、入社したらセルゲイと仕事をする機会が多くなるためかと思っていた。
だが入社して、グーグルの経営者はすべての候補者を同じぐらい真剣に面接することを知った。
相手が駆け出しのソフトウェアエンジニアであろうが、幹部候補であろうが、グーグラーは最高の人材を確実に採用するために最大限の時間と労力をかける。
そんなことは当たり前だと思うかもしれない。
だが、たいていの企業幹部は自身もおなじみの採用プロセス(履歴書、電話によるスクリーニング、面接に次ぐ面接、オファー、交渉に次ぐ交渉、そしてオファーの受諾)を踏んで採用されたにもかかわらず、入社した途端に他人の採用には一切かかわろうとしなくなる。
採用は担当者の仕事だとばかりに。
履歴書の審査は、若手社員か人事部門の誰かに任せておけばいい。
面接は面倒な仕事だ。
フィードバック・シートに記入するのは時間のかかる気の進まない作業で、金曜の午後まで先延ばししがちだが、そのころには面接の細部はすっかり忘れている。
こうして、他の面接者がもっとましなレポートを書くことを期待しながら、自分は適当なフィードバックを書いて提出する。
組織内での地位が上がるほど、幹部は採用プロセスから遠ざかる傾向があるが、本来はその逆であるべきだ。
インターネットの世紀には、採用を重視すべきもう一つの、さらに重要な理由がある。
従来型の採用モデルはヒエラルキー型だ。
人材を必要とする部門のマネジャーが部下のインプットにもとづいて合格者を選び、幹部がそれを自動的に承認する。
ただインターネットの時代には、こうして入社した社員はコラボラティブ(協業的)な環境で、大きな自由度や透明性の下、地位とは無関係に働くことになる。
つまりたったひとりのマネジャーの判断が、社内の幅広いチームに影響をおよぼすのだ。
ヒエラルキー型の採用がうまくいかない理由はもう一つある。
経営者(そして経営本の筆者)は「自分より優秀な人材を採用すべきだ」とよく言うが、ヒエラルキー型採用プロセスではそうしたことはまず起こらない。
「コイツは優秀だから採用しよう」という合理的な判断は、「コイツが入社したらオレが無能に見えて昇進できなくなり、子供には負け犬と思われ、妻は愛想を尽かしてカフェのイケメン店員と駆け落ちし、オレはすべてを失うんじゃないか」という感情的な思惑の前に敗北する。
要するに、人間の本能が邪魔をするのだ。
グーグルの創業者たちは初めから、最も優秀な人材を採用しつづけるには、産業界ではなく学術界のモデルを見習う必要があることを理解していた。
大学は通常、教授に採用した人間を解雇しないので、専門委員会を立ち上げ、教員の採用や昇進の検討に膨大な時間を費やす。
私たちが採用はヒエラルキー型ではなく、委員会によるピア型が好ましいと考えるのはこのためで、候補者の経歴が空きポストと合致するか否かにかかわらず、とにかく優秀な人材を採用することに集中する。
エリックは、シェリル・サンドバーグにふさわしい仕事がないにもかかわらず、採用のオファーを出した。
ほどなくしてシェリルは法人営業チームの立ち上げという職務を担当することになったが、それは入社した彼女自身が作ったポストだ(言うまでもなく、シェリルはその後グーグルを離れ、フェイスブックのCOOとなり、ベストセラー作家の仲間入りも果たした。
スマート・クリエイティブを採用すると、やがて社外でさらにすばらしいチャンスをつかむ者も出てくる。
この点については本章の後半でさらに詳しく述べる)。
ピア型の採用プロセスで重要なのは、組織より人だ。
ポストを埋めることよりスマート・クリエイティブを採ること、マネジャーの思惑より会社全体の利益が大切なのだ。
「人材は会社の最も重要な資産」というのは言い尽くされた言葉だが、そう口にするだけでは資産と呼べるだけのスマート・クリエイティブのチームはつくれない。
メンバーを採用する仕組みを見直す必要がある。
さいわい、仕組みの見直しは誰でもできる。
ここまで述べてきた変革のなかには、既存企業がすぐに実行するのは難しいものもあるが、採用の方法はいつでも変えられる。
問題は、きちんと採用するには多大な労力と時間がかかることだ。
だが、これほど価値のある投資はない。
群れ効果すばらしい人材の集まる会社は、すばらしい仕事を成し遂げるだけではない。
さらに多くのすばらしい人材を引き寄せる。
最高の従業員は群れのようなものだ。
お互いについていこうとする。
最高の人材を何人か獲得できれば、その後まとまった数を確保できるのは間違いない。
グーグルは充実した福利厚生で有名だが、スマート・クリエイティブが集まってくるのは無料の食事や会社の補助つきのマッサージや緑豊かなキャンパスのためでも、ペット同伴で出勤できるためでもない。
最高のスマート・クリエイティブと一緒に働きたいからだ。
この〝群れ効果〟は、プラス方向にもマイナス方向にも働く。
Aクラスの人材は同じAクラスを採用する傾向があるが、BはBだけでなく、CやDまで採用する。
だから妥協をしたり、誤ってBの人材を採用すると、すぐに社内にBのみならずCやDまで入ってくることになる。
そしてプラスかマイナスかにかかわらず、群れ効果が最も強く出るのは、従業員にスマート・クリエイティブが多く、会社がまだ新しいときだ。
この場合、一人ひとりの重みが相対的に高くなる。
初
期に採用される従業員は、社内で目立つ存在だ。
また優れた人材が集まる環境では、自然とアイデアが共有され、発展していく。
こうした傾向は常に見られるが、会社の初期段階ほどとくに顕著になる。
プラスの群れ効果は、意図的につくりだすことができる。
「あなたは優秀、だから私たちが採用します」というグーグルの初期の採用広告には、「よし、自分を必要としているこの会社に行ってやろうじゃないか!」という反応を引き出す狙いが込められている。
目的はグーグルの採用基準がきわめて高いことを世に知らせることだ。
結果的にこれは応募者の意欲をくじくどころか、優れた人材を引き寄せるのに威力を発揮した。
ジョナサンはかつて、自分が採用した人材の履歴書をまとめてデスクに置いておき、獲得したい人材が現れると、未来の同僚がどんな人々か伝えるためにそれを見せた。
とくに優秀な社員の履歴書だけを選別したのではなく、それまで採用した全員分である。
スマート・クリエイティブはまさにそういう集団に加わりたいと思うものだ。
だから採用の基準を思い切り高くし、それを世間にアピールしよう。
これがとくに重要なのは、プロダクト部門の人材を採用するときだ。
彼らはとてつもないインパクトを生み出す可能性を秘めている。
だからプロダクト部門の採用プロセスには細心の注意を払おう。
最強のプロダクト部門を生み出すプロセスを確立できれば、その効果は会社全体に広がっていく。
目的は、妥協への甘い誘惑に負けない採用文化を醸成することだ。
会社の急成長が続くカオスのなかでは、そうした誘惑がとみに強くなる。
情熱のある人間は情熱を口にしないスマート・クリエイティブの明確な特徴は、情熱があることだ。
何かに対して、強い思い入れがある。
ただ、本当に情熱的な人間は「情熱」という言葉を軽々に口にしない。
どうすれば〝本物〟を見分けることができるのか。
私たちの経験から言って、求職者はたいてい情熱のある人が評価されることを知っている。
だから「私が情熱を感じるのは……」と言って旅行、フットボール、家族など一般的な話題を持ち出すのは危険なサインだ。
面接中に「情熱」という言葉を乱用することにしか情熱を感じない人物である可能性が高い。
情熱家はそれを表に出さない。
心に秘めている。
それが生き方に表れてくる。
粘り強さ、気概、真剣さ、すべてをなげうって没頭する姿勢といった情熱家の資質は、履歴書でははかれない。
また必ずしもすでに成功しているとは限らない。
何かに本物の情熱を抱いている人は、最初はうまくいかなくても努力を続ける。
情熱家に失敗はつきものだ(私たちがスポーツ選手を高く評価するのはこのためだ。
スポーツは敗戦から立ち直る方法を教えてくれたり、少なくともその機会をたくさん与えてくれる)。
情熱のある人間は、自分の興味があることについては際限なく語りつづける傾向がある。
興味の対象が仕事にかかわる場合もある。
たとえば「検索を完璧にすること」は、一生やりつづけても、まだ困難で日々やりがいを感じられるような仕事の一例だろう。
興味の対象が趣味のこともある。
アンドロイドの創業者アンディ・ルービンは、ロボットが大好きだ(現在はグーグルが立ち上げたばかりのロボット事業を率いている)。
グーグルのエンジニアリング部門の初代トップであったウェイン・ロージングは望遠鏡に、エリックは飛行機と空を飛ぶこと(そして飛行機の操縦にまつわる話をすること)に情熱を感じる。
こうした一見仕事とは無関係の情熱が、会社に直接的な恩恵をもたらすことも多い。
アンドロイドの天文学アプリ「スカイマップ」を使うと、スマートフォンが星図になる。
これは数人のグーグラーが自由時間(あとで詳しく説明する「二〇%ルール」)に開発したものだ。
コンピュータ・プログラミングが好きだからではなく、熱狂的なアマチュア天文学者だったからだ。
私たちが感心したグーグルへの応募者のなかには、サンスクリット語の研究に情熱を持っていた人や、古いピンボールマシンの修理が大好きという人もいた。
何かに深い興味を持っている人は話がおもしろい。
だから面接をするときの私たちの哲学は「ムダ話をさせるな」ではない。
むしろ、求職者が興味のあるテーマについては〝ムダ話〟を奨励したいと思っている。
情熱家が話を始めたら、とにかく真剣に聞こう。
とくに「情熱を追求するスタイル」に注意を払うのだ。
たとえばスポーツ選手には情熱のある人が多いが、ひとりだけで黙々と競技するトライアスロンやウルトラマラソンの選手と、グループでトレーニングする人ではどちらが好ましいだろうか。
孤独なのか社交的なのか、排他的なのか協調的なのか。
仕事上の経験を語るときには、たいていの人はこうした問いの〝正解〟を意識している。
一匹オオカミと一緒に仕事をしたいと思うような人はいないだろう、と。
しかし、自分の情熱があることについて話していると無防備になりやすいので、人となりをつかみやすくなる。
ラーニング・アニマルを採用するあなたの会社の従業員について考えてみよう。
自分より優秀だと心から思えるのは誰か。
チェスやクロスワードパズルで対戦したくない相手は?自分より優秀な人間を採用せよ、という格言があるが、どれだけ実行できているだろう。
この格言はいまも妥当性を失っていないが、その意味は考えられている以上に深い。
もちろん優秀な人はいろいろなことを知っていて、凡庸な人より高い成果をあげる。
ただ、大切なのは優秀な人が「何を知っているか」ではなく、「これから何を学ぶか」だ。
フューチャリストのレイ・カーツワイルもこう言っている。
「情報技術は指数関数的に成長している。
だが私たちの未来に対する直観は、指数関数的ではなく直線的だ」。
私たちの経験から言っても、指数関数的な発想のもととなるのは〝地頭〟だ。
知力こそ、変化対応能力の最も有効な指標である。
ただ、知力だけでも足りない。
とびきり優秀な人でも、変化のジェットコースターを目の当たりにすると、もっと安全なメリーゴーラウンドを選ぼうとするケースはやまほどある。
心臓が飛び出しそうな体験、つまり過酷な現実に直面するのを避けようとするのだ。
ヘンリー・フォードは「人は学習を辞めたとき老いる。
二〇歳の老人もいれば、八〇歳の若者もいる。
学びつづける者は若さを失わない。
人生で何よりすばらしいのは、自分の心の若さを保つことだ」と言った。
グーグルが採用したいのは、ジェットコースターを選ぶタイプ、つまり学習を続ける人々だ。
彼ら〝ラーニング・アニマル〟は大きな変化に立ち向かい、それを楽しむ力を持っている。
心理学者のキャロル・ドゥエックは、これを別の言葉で表現する。
「しなやかマインドセット」だ。
能力は生まれつき決まっていると考える人は、状況がどれほど変化しようと、ひたすらその能力を誇示しようとする。
だが、しなやかマインドセットの持ち主は、努力すれば自分の持ち味とする能力を変えたり、新たな能力を開花させることができると考える。
人は変われる。
適応できる。
むしろ変化を強いられると、心地よく感じ、より高い成果をあげられる。
ドゥエックは実験によって、マインドセットを変えることで、まったく新しい思考や行動が引き起こされることを明らかにした。
自分の能力は変わらないと考えていると、その自己イメージを維持するために「到達目標」を設定する。
一方、しなやかマインドセットの持ち主は「学習目標」を設定する。
学ぶこと自体が目標になると、くだらない質問をしたり、答えを間違えたりしたら自分がバカに見えるのではないかなどと悩んだりせず、リスクをとるようになる。
ラーニング・アニマルが目先の失敗にこだわらないのは、長い目でみればそのほうが多くを学び、さらなる高みに上れることを知っているからだ。
特定のポストのために人を採用をするときには、過去に同じような仕事で実績をあげた人を選びがちだ。
だが、これではラーニング・アニマルを採ることはできない。
どんな採用情報を見ても、応募資格の筆頭に来るのは「当該分野の経験があること」だ。
製品Xのデザイン責任者なら、製品Xの開発経験五~一〇年以上、それに製品Xの関連学位保持者であることが必須とされる。
知力より専門能力を重視するのは、明らかな間違いだ。
とくにハイテク業界ではそう言い切れる。
あらゆる業界では急速な変化が起きており、いまあなたが採用しようとしているポストに求められる役割もすぐに変わるはずだ。
昨日までの先端的プロダクトが明日には陳腐化するような時代に、スペシャリスト採用にこだわると裏目に出る可能性が高い。
スペシャリストが問題を解決するとき、その手法には自分の強みとされる専門分野ならではの偏りが生じがちだ。
それでは次々に生まれる新たな専門分野のソリューションに太刀打ちできないこともある。
優秀なゼネラリストには偏りがなく、多様なソリューションを見比べて最も有効なものを選択することができる。
ラーニング・アニマルを見つけるのは容易ではない。
ジョナサンお得意の手法は、応募者に過去の失敗を振り返ってもらうことだ。
二〇〇〇年代初頭には、よくこんな質問をした。
「一九九六年に、君が見逃したインターネットの重要なトレンドは何かな?君の推測が当たった部分、はずれた部分はどこだろう?」。
これは見かけ以上に難しい質問だ。
応募者は自分が予測したことを明確にし、現実に起きたことを分析し、両者の比較からわかったことを述べなければならない。
そして自分の失敗を認めなければならない。
「私の最大の欠点は、完璧主義すぎるところです」といった月並みな発言は通らない。
答えを適当にでっちあげ
ることは不可能だ。
この質問は他の分野にも応用できる。
直近の重大な現象を引き合いに出せばいい。
大切なのは、応募者に予知能力があるかではなく、どのように思考を組み立て、また失敗から何を学んだかを見定めることだ。
この質問にきちんとした答えが返ってくることはめったにないが、それができる人はラーニング・アニマルの可能性が高い。
もちろん、いきなり「私には特別な才能はない。
ただ情熱的なまでに好奇心が旺盛なだけだ」と言い出す応募者もいるだろう。
これはアルバート・アインシュタインの自己分析で、彼なら即座に採用になったはずだ(「情熱的」という言葉を口にする過ちなど、相対性理論を考案したという成果に比べれば取るに足らない)。
ラーニング・アニマルを採用できたら、彼らに学習を続けさせよう。
すべての従業員に、常に新しいことを学ぶ機会を与えよう。
直接、社業の役に立たないことでも構わない。
そして身に着けた能力を発揮してもらおう。
本物のラーニング・アニマルならそれを少しも苦痛に感じないはずだ。
むしろ進んで研修をはじめさまざまな学習機会に参加する。
そういう反応をしない人には注意したほうがいい。
おそらく、ラーニング・アニマルの皮をかぶった偽物だ。
LAXテストここまで情熱、知力、ラーニング・アニマルのマインドセットが、採用候補者に欠かせない資質であることを述べてきた。
もう一つの重要な要素が人格だ。
単に親切で信頼感があるというだけでなく、多才で、世界と深くかかわっている人間、つまり「おもしろい」人間だ。
以前は面接中に人格を判断するのは、もっとずっと楽だった。
レストランでランチやディナーを食べながら、ときには一杯やりながら面接することが珍しくなかったからだ。
テレビドラマ《マッドマン》でもおなじみのスタイルだ。
こういう場では候補者の素顔を観察することができる。
ガードを緩めたとき、どんな姿を見せるか。
ウエイターやバーテンダーにどんな態度で接するか。
人格の優れた人は相手の立場やお酒の入り具合にかかわらず、敬意をもって接する。
最近はあまり候補者を酔わせる機会がないので、とくに面接の前後の様子をしっかり観察する必要がある。
ジョナサンはビジネススクールの二年生だったとき、大手コンサルティング会社の面接を受けた。
ポジションを争った相手は、才能があり由緒正しい家柄で(名前はホズワース・ボズワース三世だったと思う)、ジョナサンよりはるかに立派な経歴書の持ち主だったうえに、ルックスも上だった。
ジョナサンに勝ち目はなかった。
採用されるのは絶対にボズワースだ。
面接開始を待つ間、ジョナサンはアシスタントとおしゃべりをしていた。
相手はジョナサンの出身地であるカリフォルニアに旅行するつもりだという。
そこでジョナサンはどこに行って、何を見たらいいよ、と事細かにアドバイスした。
翌日、このコンサルティング会社から採用オファーの電話がかかってきた。
ジョナサンは何かの間違いか、あるいはふたりとも採用が決まったのかと思ったが、そうではなかった。
面接官によると、ボズワースが採用されなかったのは秘書に失礼な態度をとったからだという。
「君のことは感じがいいと言っていたよ」。
私たちも面接をしたあとには、たいていアシスタントに候補者の印象を聞き、その答えを参考にする。
「ボズワース・ルール」とでも呼んでおこうか。
ただ、人格と同じくらい重要なのは、候補者がおもしろい人物かどうかだ。
同僚と一緒に、ロサンゼルス国際空港(LAX)で六時間足止めを食ったとしよう(エリックはいつも一番不愉快な環境のたとえとしてLAXを使う。
ロンドンやアトランタでも構わないが)。
その同僚と楽しく会話をしながら過ごせるだろうか。
有意義な時間になるだろうか。
それとも退屈な相手との会話を避けようと、さっさと機内持ち込み荷物を開けてタブレットを取り出し、メールなどのチェックを始めるだろうか(テレビスターのティナ・フェイは「LAXテスト」の代わりに、《サタデー・ナイト・ライブ》のプロデューサー、ローン・マイケルズの評価基準を使うという。
「午前三時にトイレで鉢合わせしたくない人間は雇うな。
みんな会社にいるんだから」)。
グーグルでは面接のフィードバック・シートの四つのセクションの一つとして「グーグラーらしさ」という項目を設け、LAXテストを採用プロセスのなかに正式に取り込んでいる(他の三つの項目は「全般的な認知能力」「職務関連の知識」「リーダーシップの経験」だ)。
「グーグラーらしさ」には、野心、意欲、チーム重視とサービス重視の姿勢、傾聴・コミュニケーション能力、行動力、優秀さ、対人能力、独創性、誠実さなどが含まれる。
(ラリーとセルゲイはCEOを探していたとき、極端なLAXテストを実践した。
候補者を週末、旅行に連れ出したのである。
エリックはもう少し現実的だった。
「はっきり言って、一緒にバーニングマンに行く必要はないよ。
代わりにディナーはどうだい?」)斬新な発想は多様性から生まれるLAXテスト、グーグラーらしさテスト、あるいは〝午前三時のトイレテスト〟に合格した人物なら、会話の相手としておもしろく、尊敬できるだろう。
ただ、好きになれる相手とは限らない。
LAXで一緒に足止めを食った相手が、あなたとは何の共通点もなく、むしろ政治的立場が逆だったらどうだろう。
それでも知力、クリエイティビティ、そしてグーグラーらしさの条件の面であなたと同等(あるいはそれ以上)の人物なら、刺激的な会話は成り立つはずだし、会社にはふたりとも必要だ。
一緒にビールを飲みたいと思うような相手と働きたい(あるいはそういう経営者の下で働きたい)という人は多い。
ただ正直に言うと、グーグルで最も優秀な社員のなかには、絶対一緒にビールを飲みたくない人もいる(頭からビールをかけてやりたい人も何人か……)。
だが、嫌いな相手とも一緒に働かなければならない。
なぜなら「いい人ばかり」の職場は均質的なことが多く、職場の均質性は悪い結果を招きやすいからだ。
視点の多様性、すなわちダイバーシティは会社が近視眼的になるのを防ぐ、きわめて効果的な政策だ。
人種、性的志向、身体的障害などさまざまな面で多様な人材を採用することは、道徳的に正しい行為であるのは間違いない。
ただそれ以上に、企業戦略的に見た場合のほうがはるかに大きな意義がある。
バックグラウンドの異なる人々は世界を違う目で見る。
女性と男性、白人と黒人、ユダヤ教徒とイスラム教徒、カトリックとプロテスタント、退役軍人と民間人、同性愛者と非同性愛者、ラテン系と欧州系、クリンゴン人とロミュラン人、アジア人とアフリカ人、車いすを使う人と使わない人――こうした視点の違いは、まったく新しい発想を生む。
多様な人材が同じ職場で働くことで生まれる幅広い視点には、はかり知れない価値がある。
すばらしい才能の持ち主の外見や行動は、あなたとは違っていることも多い。
だから誰かを面接するときには、自分の先入観を自覚し、目の前の相手がすばらしい成功をつかむための情熱と知性と人格を持っているかだけに意識を集中しよう。
同じことが、入社した社員のマネジメントについても言える。
能力主義を徹底するため、採用と同じようにパフォーマンス(成果)の評価も客観的データ中心であるべきだ。
意識するだけでは、性別、人種、肌の色などの影響を排除することはできない。
社員の評価には実証的かつ客観的な方法を確立する必要がある。
そうすれば出身や外見にかかわらず、一番優秀な社員が評価されるようになる。
絞りを広げる情熱と知性、誠実さと独自の視点を持った理想の候補者は間違いなくどこかにいる。
問題はどう見つけだし、獲得するかだ。
この重要な鎖は、四つの輪でできている。
発掘、面接、採用、報酬だ。
発掘から始めよう。
これはどのような候補者を探しているか、明確に定義するところから始まる。
グーグルの採用パートナーであるマーサ・ジョセフソンはこの作業を「絞りを広げる」と表現する。
絞りを変えることで、カメラの画像センサーに入る光量が変わる。
採用担当者の多くは絞りを狭くする。
いま求められている仕事をきちんとこなせそうな、特定の分野で特定の仕事に就いている特定の人のなかから候補者を探そうとする。
だが優秀な採用担当者は絞りを広げて、当たり前の候補者以外からも適任者を探そうとする。
あなたがすばらしい人材のそろう他社から、何人か引き抜きたいと思っているとしよう。
相手の会社もそれを察知し、優秀な社員をがっちり囲い込んでいる。
だが、あなたが絞りを広げ、現在求められる仕事だけでなく、将来求められる仕事もこなせる人材に目を向ければ、隠れた〝宝石〟を見いだし、いまの雇用主以上のチャンスを提示できるかもしれない。
本当はプロダクト・マネジメントをやりたいのに、エンジニアリング部門から異動を認めてもらえないエンジニア、セールスに挑戦したいのに、空きがないという理由でチャンスをもらえないプロダクト・マネジャーなど。
あなたがリスクをとり、彼らに新しい職務への挑戦を促せば、優れた人材を獲得できるだろう。
彼らがあなたの会社を選ぶ理由は、あなたがリスクをとる姿勢を見せたからにほかならない。
リスクをとる意欲のある人々は、まさにあなたが求めているような主体的選択をするものだ。
たとえば、ソフトウェアエンジニアの採用を検討しているとしよう。
あなたの会社のコードはすべてある特定のコンピュータ言語で書かれている。
ただ、だからといってその言語に通じた人材を選ぶ必要はない。
どの言語を使っているかにかかわらず、一番優秀なエンジニアを採用すべきだ。
そうすればJAVAでもC言語でもPython(パイソン)でもGO(ゴー)でも、必要なものをさっさと身に着けるだろう。
また求められる言語が変われば(実際、変わるだろう)、誰よりも早く適応するだろう。
スーパーコンピュータの先駆者であるセイモア・クレイは、あえて経験の乏しいエンジニアを採用した。
そうすれば「通常は不可能と思われていることすら知らない人材が集まる」からだ。
グーグルのAPM(アソシエイト・プロダクト・マネジャー)も、同じような目的の制度だ。
これはマリッサ・メイヤーがジョナサンのチームのディレクターだったころ、新卒のとびきり優秀なコンピュータ科学者を採用するための制度をつくれ、というトップの指示で立ち上げたものだ。
こうした制度自体は珍しいものではない。
新卒者を雇用する企業は多い。
それだけなら簡単だ。
難しいのは、彼らに本物のプロジェクトで、本当に影響力のあるポストを与えることだ。
スマート・クリエイティブはこうしたポストを与えられると張り切るが、リスクを避けたがるマネジャーはそれを嫌がる。
「あいつらは何の経験もないじゃないか」(それはプラスだ!)、「失敗したらどうするんだ?」(失敗はするだろうが、私たちには想像もつかないような成功を収めるだろう)といった具合に。
APM第一号となったブライアン・ラコウスキのおかげで、この制度は順調に船出した。
ブライアンはスタンフォード大学卒業と同時にグーグルに採用され、すぐにGメールのプロダクト・マネジメントという大役を与えられた。
リード・エンジニアだったポール・ブックハイトと直接やりあう立場だ。
ブライアンは現在、アンドロイド担当チームの責任者となっている。
もちろんGメールの実績は文句のつけようがなかった。
私たちにもしくじった経験はある。
あるときサラー・カマンガーは、マーケティング部門の若手社員の優秀さに感心し、APM制度に登用したいと主張した。
だが、その若手社員はAPMの条件であるコンピュータ科学の学位を持っていなかった。
サラーは、この社員はプログラミングを独学で学び、「エンジニアと緊密に連携して、プロダクトを出した経験もある」と訴えたが、ジョナサンをはじめとする複数の幹部が絞りを広げることを頑として拒み、登用は認められなかった。
ケビン・シストロムというこの若手社員はその後グーグルを退社し、インスタグラムの共同創業者となった。
その後、一〇億ドルで会社をフェイスブックに売却している。
礼にはおよばないよ、ケビン!絞りを広げる方法の一つは、候補者の「軌道」を見ることだ。
グーグルの元社員、ジャレド・スミスは最高の人材はキャリアの軌道が上向いていることが多い、と指摘する。
その軌道を延長すると、大幅な成長が見込める。
優秀で経験豊富でも、キャリアが頭打ちになった人はたくさんいる。
こうした候補者については、どんな成果を期待できるかがはっきりしている(これはプラスだ)が、予想外ののびしろがない(これはマイナスだ)。
年齢と軌道に相関はないことも指摘しておくべきだろう。
また自分で事業を経営している人、あるいは型にはまらないキャリアパスを歩んでいる人には、軌道という指針は当てはまらないこともある。
企業のヒエラルキーの上になるほど、絞りを広げるのは難しくなる。
重要なポストの採用では、必ずといってよいほど経験が決め手になる。
実際、経験は大切だが、こんにちではほとんどの業界で環境が激変しており、過去の経験だけでは成功できない。
企業は幹部を採用するとき、経験を過大評価する傾向がある。
才能あるスマート・クリエイティブには何ができるかに、もっと注目する必要がある。
たとえば二〇〇三年、私たちは経営陣を整える取り組みの総仕上げとして、人事部の責任者を探しはじめた。
五〇人近い候補者を面接し、その多くが従来の意味での人事業務ですばらしい実績を上げていたが、グーグルが必要としている任務への適性を備えている候補者は見つからなかった。
グーグルは産業史上、先例のないスピードで成長していたため、候補者たちが身に着けていた〝標準的な経験〟が役に立つとは思えなかった。
私たちが求めていたのは、グーグルが従来の会社とは次元の違うスピードで前進できるような、拡張性のある採用エンジンをつくってくれる人物だった。
適任者探しは長引いた。
「宇宙物理学が専門の、ローズ奨学生を探してみたらどうだ」とエリックはあるとき提案した。
議論の結果、宇宙物理学の専門家ならこの任務に必要な知識はあるかもしれないが、おそらくグーグルに入社して経営幹部になろうとは思わないだろう、という結論に達した。
「わかった、それなら法律事務所のパートナークラスにしよう」とセルゲイが提案した。
それから間もなく、ジョナサンは大物弁護士がセルゲイのオフィスで必死に契約書を作成している場面を目撃した。
セルゲイが〝課題〟を出したのだ。
質の高い、包括的でおもしろい契約書をつくってくれ、と。
三〇分後、候補者は「セルゲイ・ブリン氏は一ドルおよびその他の約因により、悪魔に魂を売り渡す契約を締結する」とする「契約書666」を完成させた。
とびきり質の高い、おもしろい契約書だったが、この弁護士は採用されなかった。
専門性が足りない、と判断されたためだ。
弁護士もダメとなったため、ヘッドハンティングを手伝ってくれていたマーサ・ジョセフソンが、正しい条件の組み合わせは「マッキンゼー&ローズ奨学生」ではないか、と提案し、ショーナ・ブラウンを連れてきた。
結局、私たちはショーナに事業運営の実績がないにもかかわらず、その責任者として採用した。
ショーナの採用が大成功だったため、ジョージ・レイエスという優秀な最高財務責任者(CFO)が二〇〇八年に退任すると決めたとき、エリックは再びマーサに「ショーナ級の人材をもうひとり頼む」と伝えた。
そこでマーサが見つけてきたのが、マッキンゼーのパートナーでローズ奨学生だったパトリック・ピシェットで、二〇〇八年にCFOを引き継いだ。
(グーグルが有能な人材を求めるのは、幹部クラスだけではない。
ある年、ショーナがロンドン支社でローズ奨学生の集まりを開き、ジョナサンはそこでスピーチをすることになった。
マウンテンビューでの面接に進む人をどう選ぼうかと考えていると、廊下でセルゲイと鉢合わせした。
相談すると、セルゲイは答えた。
「なんで選ぶ必要があるんだい?全員雇えばいいじゃないか」。
その場ではとんでもない、と思ったが、よくよく考えると、それほどとんでもない話ではなかった。
そのときの集まりに出ていたローズ奨学生の何人かは、のちにグーグルで大活躍した)絞りを広げることはリスクをともなう。
失敗することもある。
優秀だが経験の乏しい人は、それほど優秀ではないが経験のある人よりも、採用当初のコストが高くなる。
上司となるマネジャーはそうしたコストを避けたがるかもしれないが、大義のためにはそんなつまらない懸念は捨てるべきだ。
すばらしく優秀なゼネラリストを採用するほうが、会社にとってははるかに価値がある。
誰もが〝スゴイ人〟をひとりは知っているたぶんあなたにも、めちゃくちゃすごいことを成し遂げた知り合いがひとりはいるだろう。
K2に登頂した、アイスホッケー選手としてオリンピックに出場した、ベストセラー小説を出した、働きながら大学に通って優等学位で卒業した、最近個展を開いた、(本物の)非営利団体をつくった、四カ国語を操る、特許を三つ持っている、趣味でつくったアプリがランキングの一〇〇位以内に入った、バンドでリードギターを弾いている、ステージでブルーノ・マーズと踊ったことがある、など。
あなたがそういう人をひとり知っているなら、他の人も同じようにそういう知り合いがいる、と考えるのが合理的だ。
ではなぜ、採用を担当者だけに任せるのだろう?全員がそのスゴイ知り合いを連れてくるべきではないか?常にずばぬけて優秀な人材が集まってくる、優れた採用文化を醸成する第一歩は、候補者を発掘するうえで採用担当者が果たす役割を正しく理解することだ。
ポイントは、候補者の発掘は採用担当者の独占的業務ではない、ということだ。
誤解しないでほしい。
私たちは優秀な採用担当者が大好きだ。
しょっちゅう彼らと連絡を取り合うし、その優れた知識や努力には感謝している。
ただ人材を探すのは全社員の仕事であり、この認識を会社に浸透させる必要がある。
採用担当には採用プロセスの管理を任せるが、採用活動には全員を動員すべきだ。
会社が小さいうちは、これは簡単だ。
全員が採用にかかわるのが当然だからだ。
ただ、企業の規模が大きくなると、マネジャーは誰を採るかより、どうやって必要な頭数を確保するかばかりを考えるようになる。
私たちの経験では、社員数五〇〇人前後がターニングポイントだ。
「多くの人員をまわしてもらうこと」のほうが、「最高の人材を見つけること」より頻繁に話題にのぼるようになる。
後者は採用担当に任せておけばいい、というわけだ。
だが、そんなことはない。
採用を採用担当者に丸投げすると、採用担当者はよりすぐりの人材を探すのをやめて、月並みあるいはそれ以下の人材で手を打つ危険がある。
質の悪い人材を採用しても、ツケを払うのは自分たちではなく、会社だからだ。
とびきり優秀な社員の数を二倍にするのは、じつは簡単だ。
ラリー・ペイジがよく言うように、全社員がひとりずつ、優秀な人を連れて来ればいい。
会社が採用を完全に他人任せにすると、社員の質は低下する。
採用を全社員の担当業務に含める、簡単な方法がある。
結果を測るのだ。
紹介者の数や、面接をした数を数えよう。
フィードバック・フォームを記入するまで
にかかった時間も測ろう。
社員に採用イベントに協力を呼びかけ、どれくらいの頻度で協力したか記録しよう。
そうした結果を合算し、パフォーマンス・レビューや昇進の参考データとするのだ。
採用は全員が取り組むべき仕事なので、このように成績をつけるのが一番だ。
面接のスキルは最も重要採用の基準を高くするほど、面接プロセスは重要に、そして難しくなる。
面接は相手をよく知る機会であり、履歴書よりはるかに大切だ。
名門大学でGPA三・八という申し分ない成績を収め、陸上競技もしていたという輝かしい履歴書の持ち主が、面接をしてみたらおもしろみのないガリ勉で、独創的なアイデアなど何年も思いついたことがない人物だった、ということもある。
ビジネスパーソンが磨くべき最も重要なスキルは、面接スキルだ。
経営学の教科書やMBAコースでは、そんなことは言われなかったかもしれない。
CEOや大学教授、ベンチャー投資家は、成功するのに一番重要なのは人材だ、とよく言うが(実際そのとおりだ)、実際にどうやってその優秀な人材を獲得するかには触れないことが多い。
彼らが口にするのは理論だが、ビジネスは実践であり、面接という人工的かつ時間的制約のある状況で、候補者の能力を見定めなければならない。
それには特別な、そして高度なスキルセットが必要だが、はっきり言ってほとんどの人は面接が下手だ。
本章の初めに投げかけた「あなたの仕事のうち一番重要なものは?」という質問に戻ろう。
たいていの人は「会議に出ること」と答える。
実際、一日の大半を会議に費やす人も多い。
会議の良いところは、社内のヒエラルキーの上のほうにいる人間ほど、何も準備をする必要がないことだ。
会社のトップ(あるいはそこに限りなく近い人間)なら、準備はすべてまわりがやるので、会議に出て話を聞き、意見を言うだけでいい。
それを受けて、まわりの人間が対策を実行するので、トップは手ぶらで次の会議に向かうだけだ。
一方、質の高い面接をするには、そういうわけにはいかない。
準備が必要だ。
それはあなたが平社員であろうと、経営幹部であろうと変わらない。
きちんとした面接をするには、自分の役割を理解し、候補者の履歴書を読み、そして一番重要なこと――何を聞くか――を考えなければならない。
まず応募者がどんな人物か、また会社にとって重要な人材になり得る理由を自分で考えよう。
履歴書を読み、グーグル検索を使って応募者がこれまでかかわってきた仕事を調べ、その仕事についてもさらに検索をしよう。
パーティでの酔っぱらった写真など見る必要はない。
それより応募者に対する自分なりの評価をしよう。
興味をそそる人物だろうか?面接では事前調査で得た知識を使い、さらに深く探ろう。
候補者が答えるのに苦労するような質問を投げかけよう。
そのプロジェクトで最も難しかった点は何か。
あるいは成功した理由は何か?候補者が変化を主導する人物か、あるいはそれに追随する人物なのかを確かめよう。
面接の目的は、応募者とあたりさわりのない会話をすることではなく、相手の限界を確かめることだ。
とはいえ、過剰なストレスをかけるのは避けよう。
最高の面接は、友人同士の知的な会話のようなものだ(「いま、どんな本を読んでいる?」など)。
質問は間口の広い、複雑なものにしよう。
正解が一つではないので、相手のモノの考え方や議論の組み立て方を見られる(応募者が何を主張し、どのようにその正当性を主張するか)。
たくさんの応募者に同じ質問をぶつけて、答えを比較するといい。
応募者のバックグラウンドについて聞くときには、単なる過去の経験談ではなく、「そこから何を学んだか」を説明させよう。
履歴書をなぞるだけでなく、応募者に思考能力をアピールさせよう。
「何に驚きを感じましたか?」というのは、うまい聞き方だ。
よくある質問ではないので、用意してきた答えは使えない。
応募者は自分の経験を、これまでとは違った目で振り返らなければならない。
「大学の学費をどう工面しましたか?」「あなたのウェブの検索履歴を眺めたら、履歴書に書かれていないどんな一面が発見できますか?」というのも良い質問だ。
どちらも応募者について理解を深めるのに役立つはずだ。
かなり具体的なので、話を聞く能力、質問の理解力も測ることができる。
面接では「シナリオ問題」も役に立つ。
とくに上級ポストの人材を面接するときには、その人物が部下をどのように使い、信頼するかを見定める手がかりとなる。
たとえば「あなたが危機的状況に陥ったら、あるいは重要な意思決定を迫られたら、どうしますか」という質問は、候補者が必要なことは自分でやるほうがいいと思うタイプか、周囲の力を借りようとするタイプか見るのに役立つ。
前者は同僚に対して不満を抱きやすく、すべてをコントロールしようとするのに対し、後者はすばらしい人材を採用し、信頼して仕事を任せる可能性が高い。
また、この質問に対して一般論で答えるのは、問題を見抜く目がない証拠だ。
応募者はおもしろい回答、それが無理ならせめて具体的な回答をすべきだ。
マーケティングの教科書からコピペしてきたような答え、あるいは常識的な思考を映したような答えは、相手が凡庸で、物事を深く考える能力がないことを示している。
グーグルは応募者に、頭を使わないと解けない難問を出すことでも有名だ。
ただ、最近は面接中に難問を出さなくなっている。
質問(と答え)の多くがネットに流出し、候補者が複雑な問題を考える能力を知る手がかりにならなくなったからだ。
面接前に難問を徹底的にリサーチし、覚えた答えをその場で思いついたかのように語る能力を知る手がかりにはなるが、そしてそれは貴重な資質ではあるものの、私たちが求めているものとは少し違う。
難問を出すのはエリート主義だという批判も受けてきた。
こうした批判をする人に、はっきり言っておこう。
「そのとおりだ」と。
グーグルはできるだけ最高の人材を獲得したいと思っている。
「傑出した人材」と「優秀な人材」ではまったく違うと思っているからで、両者を見分けるためにあらゆる手を尽くしている。
それでもまだエリート主義的な採用が間違っていると主張する向きには、一つ質問がある。
「コインが一二枚あり、一枚だけ重さの違う偽物が混じっている。
天秤を三回だけ使って、偽物を見分けるにはどうすればいいか?」面接の準備をするときには、評価を受けるのは相手だけではないことを頭に入れておこう。
優秀な候補者は、あなたと同じくらい厳しい目で、あなたを評価している。
面接の最初の数分を、履歴書に目を通したり世間話をするのに使ったりすれば、複数の選択肢がある候補者(最高の人材はたいてい複数のオファーを受けている)は良い印象を受けないだろう。
第一印象はお互いに与え合うものだ。
自分から適切な質問をするよう心がけるのは当然だが、相手が的を射た質問をするかにも注目しよう。
良い質問をする人は、好奇心が旺盛で、頭がよく、柔軟でおもしろく、自分がすべての答えを知っているわけではないことをわかっている。
まさしく、あなたが求めているスマート・クリエイティブの条件だ。
面接のスキルを高めるには、練習するしかない。
だから私たちは若手社員に、面接する機会があれば積極的に活用すべきだと口を酸っぱくして言い聞かせている。
アドバイスに従う人もいるが、ほとんどは耳を傾けない。
もっと重要な仕事に時間を使いたい、と考えるのだ。
どれほどありがたい機会をもらっているのか、まったく理解していない。
「目を覚ませよ。
これは給料をもらって一番重要なスキルを伸ばすチャンスだ。
しかも、判断を間違っても、自分がそいつの上司になる可能性は低いなんて、これ以上うまい話はないじゃないか」と言っても、無視されてしまう。
社員に面接をさせるのは、子供を歯医者に行かせるのと変わらない。
もちろん、誰もが面接が得意というわけではないし、上達したいと思わない人が上達するわけがない。
グーグルでは「信頼できる面接官プログラム」を立ち上げた。
本当に面接がうまく、それが好きな人ばかりの精鋭チームで、面接の大部分は彼らがこなす(その結果として、パフォーマンス・レビューでは高い評価を受ける)。
このプログラムに挑戦したいというプロダクト・マネジャーは、面接のトレーニングを受けるほか、少なくとも四人の面接官が実際に候補者を面接する様子を見学しなければならない。
プログラムのメンバーになると、実際に行った面接、信頼度(直前に面接をキャンセルしたり、約束をすっぽかしたりしても問題ないと考えている人が多いのには驚かされる)、フィードバックの速さや質(面接から四八時間以上経過すると、フィードバックの質は明らかに低下する。
グーグルの最高の面接官は、面接の直後にフィードバック・フォームに記入する時間を確保している)など、さまざまなパフォーマンス指標で評価される。
評価は公開され、「自分のほうがうまくやれそうだ」と思う他の社員にも挑戦を促している。
つまり、このプログラムを通じて面接をしないことが自分の評価にマイナスになる、という意識を浸透させているのだ。
この結果、面接をすることは面倒な仕事ではなく特権になり、全社的に面接の質が底上げされた。
そして応募者がウェブにアップした、パーティの酔っぱらった姿などについてひと言。
重大な人格的欠陥を示すものでないかぎり、私たちはネット上の写真やコメントをもとに否定的評価を下すことはない。
すでに述べたとおり、グーグルが求めているのは情熱のある人で、情熱がある人はネットでかなり活発に活動する傾向がある。
これはデジタルメディアが好きだという証拠であり、こんにちの世界では重要な資質だ。
面接時間は三〇分に面接には少なくとも一時間必要なんて、誰が決めたのか。
面接が始まって数分もしないうちに、相手が会社あるいは特定のポストに向いていないことが判明するケースは少なくない。
残り時間をムダ話に費やす必要がどこにあるのか。
とんでもない時間のムダだ。
だからグーグルは面接時間を三〇分に設定している。
ほ
とんどの面接の結果は不採用なので、そこに時間をかけすぎるのは避けたいし、実際に優れた面接官のほとんどは三〇分もしないうちに不採用の判断を下している。
応募者が有望で、もう少し話を聞きたいと思ったら次の面接を設定すればいいし、その場で続きをやってもいい(面接後にフィードバックを記入する時間をあらかじめ一五分確保しておけば、それも可能だ)。
面接時間が限られているほど、会話の内容は〝プロテインたっぷり、脂肪分はちょっぴり〟に、つまりムダ話や無意味な質問の時間はなくなる。
本質的な議論に集中せざるを得ない(とくに面接官自身が!)。
たいていの会社では、採用面接は長すぎるし、また数も多すぎる。
グーグルでも創業初期に、ある候補者を三〇回以上面接したのに、それでも採否が決まらなかったことがある。
そんなのはおかしい。
そこでひとりの候補者を三〇回以上面接することを禁止するルールをつくった。
その後さらに調査してみると、四回目以降の面接は、「判断精度」を高めることへの貢献度が一%に満たないとわかった。
要するに四回目以降になると、それ以上面接をすることの増分費用が、追加的フィードバックがもたらす価値より低くなるということだ。
そこでルールを見直し、面接の上限を「五」という魅惑的な素数(少なくともコンピュータ科学者にとっては)に設定した。
意見をまとめる改めて念押しするが、面接官にとって面接の目的は「意見を形成すること」だ。
それも「イエス」か「ノー」かという、かなり強い意見である。
グーグルでは面接をした候補者を一~四の四段階で評価する。
平均点は三前後で、それを解釈すると「この人にオファーを出しても構わないが、自分以外の誰かが強く推す必要がある」という意味だ。
平均点として三というのは悪くないが、個人の判断としては単なる責任逃れである。
というのも、面接官自身が採用すべきか否か決められないので、他の誰かに判断を委ねていることになるからだ。
私たちは面接官に、態度を明確にするよう求めている。
たとえばプロダクト・マネジメントチームでは、「四点」という評価は「この人物はまさに今回募集しているポストに適任である。
この人を採用しないなら、私が承知しない」という意味になっている。
単に「この人物を採用するべきだ」と言っているのではない。
「この人物の採用を邪魔する者がいたら、私が直接出かけて行って、データをもとに激論を戦わせる!」と宣言しているのだ。
「私が承知しない」などとあえて厳しい表現を使っているのは、スマート・クリエイティブは誰が自分たちのチームに加わるかをとても気にするためだ。
それは新たな家族の一員を迎え入れるのに等しい。
面接は必ず一つの、個人的な判断につながるものだ。
煮え切らない態度は許されない、というのが彼らの価値観なのだ。
ただ「意見をまとめよ」という場合、「何に対しての意見か」を明確にする必要がある。
候補者の採否に関する意見であるのは明らかだが、どのようにその意見を形成するか、指針を示さなければならない。
グーグルでは候補者の評価を四つのカテゴリーに分解し、すべての部門で共有している。
所属がセールス、財務、あるいはエンジニアリングのいずれであるかにかかわらず、またどんな職務や地位に着くかを問わず、スマート・クリエイティブは四つのカテゴリーすべてで高い評価を受ける。
四つのカテゴリーは以下のとおりだ。
[リーダーシップ]私たちが知りたいのは、候補者がチームを動かすために、さまざまな状況で異なる筋肉をどんなふうに使ってきたか、だ。
そこには自らの職務あるいは組織でリーダーシップを発揮した経験のほか、正式なリーダーに任命されていなくてもチームの成功に貢献した実績が含まれる。
[職務に関連する知識]私たちは個別のスキルセットだけでなく、幅広い強みや情熱を持った人材を求めている。
また与えられた役割で成功するのに必要な経験や経歴を持っていることも確認したい。
とくにエンジニアリング部門の候補者については、コードを書くスキルや得意とする技術分野も確認する。
[全般的な認知能力]私たちは学業成績よりも、候補者がどのようなモノの考え方をするかに興味がある。
候補者がどのように問題を解決するかを理解するのに役立つような、職務関連の質問をすることが多い。
[グーグラーらしさ]私たちは候補者の個性を見極めたいと思っている。
そしてグーグルが、本当に候補者が輝ける職場なのかも確認したい。
このため曖昧さへの許容度、行動重視の姿勢、そして協力的な性向がみられるかを判断しようとする。
縁故採用(あるいは昇進)は許さない面接に関してありがちなもう一つの失敗は、採用を担当するマネジャーに判断を委ねることだ。
問題は、その担当者が採用した社員の上司である期間はせいぜい数カ月、あるいは数年であることだ。
人員配置が頻繁に変わるためである。
しかも、ずばぬけた成功を収める組織では、個々の社員にとって誰の下で働くかより、誰とともに働くかのほうがはるかに重要だ。
採用の判断の重要性を考えれば、新入社員が一年後にどうなっていようが構わないようなマネジャーの手に委ねておくわけにはいかない。
このためグーグルでは、採用の判断を採用委員会で決定する仕組みをつくった。
誰かを採用するには、委員会の承認が必要だ。
推薦者が誰であるかは関係ない。
委員会の判断は縁故や誰かの意見ではなく、データにもとづいて決める。
委員会のメンバーになる条件は、他の条件を一切排除して「会社にとって何が最適か」だけを基準に判断できること。
それだけだ。
委員会のメンバーは多様な視点を確保できるような構成にする必要があるが、効率的に運営できる人数にとどめなければならない。
せいぜい四、五人だろう。
メンバーの構成を最適化すれば、幅広い意見が得られるので、入社年次、スキル、強み、経歴の面でダイバーシティに配慮しよう(誰でも自分と似たような人を採用する傾向があるためだ)。
委員会形式とはいっても、その人物を採用しようとしているマネジャーに何の権限もないわけではない。
マネジャー、あるいはその部下の採用担当者は委員会の会議に出席し、候補者が次の面接に進めるか否かを決めることはできる。
つまり採用の「決定権」はないが、「拒否権」はあるのだ。
委員会形式をとることで、採用担当者が縁故者を合格させるのを防げる(縁故者が傑出した人材であれば話は別だが)。
二〇〇〇年代初頭、グーグルが数千人単位で従業員を採りはじめたころ、エリックとラリーとセルゲイは、新入社員の多くが優秀ではあるが、自分たちが求めているほどのレベルではなくなっていることに気づいた。
各部門が「どんな」採用活動をしているかは管理できないが、「誰を」採用するかは管理できるはずだ、と三人は考えた。
ラリーは、採用オファーを出す前に経営幹部が必ずそれを確認する制度を提案した。
それを受けてウルス・ヘルツルが考案した採用プロセスは、数段階の採用委員会の最上段に〝ひとり委員会(メンバーはラリーのみ)〟が乗っかるヒエラルキー構造になった。
こうしてラリーは数年間にわたり、すべてのオファーに目を通した。
これは採用にかかわる者全員に、会社にとって採用がどれほど重要か改めて示す効果があった。
このプロセスは効率より質を優先し、頭数の確保より選別を徹底することを念頭に設計された。
その後、できるかぎり効率化も進めたが、当時の方針はいまも変わっていない。
採用の質ほど大切なものはない。
このシステムにおいて唯一無二の価値を持つのが「採用パッケージ」だ。
候補者が採用プロセスを進んでいくなかで蓄積される情報が、すべてまとめられた書類である。
採用パッケージは包括的であると同時に標準化されている必要がある。
採用委員会のメンバー全員がまったく同一の情報を受け取り、それが候補者の全体像を示す内容になっているようにするためだ。
グーグルの採用パッケージはこうした目的(そしてすべてのオファーに目を通すラリーを満足させるという目的)を念頭に、エンジニアが設計した。
基本となるテンプレートは全社共通(すべての職務、国、職位に適用される)で、必要に応じて多少手を加えられるようになっている。
完成した採用パッケージは、あふれんばかりの「意見」ではなく「データ」が詰まっているのが理想だ。
両者の区別はとても重要だ。
採用を担当するマネジャーや面接官は、単に意見を述べるだけでは許されない。
その裏づけとなるデータを提示する必要がある。
たとえば「ジェーンは優秀だから、採用すべきだ」という発言は認められない。
「ジェーンは優秀だから採用すべきだ、その証拠にマッカーサー・フェローシップを受賞している」なら合格だ。
〝天才賞〟と言われるマッカーサー・フェローに選ばれるような候補者はまずいないので、すべての意見の裏づけとしてデータや実証的な観察結果を添えるのはなかなか難しい。
だが、そうした裏づけのないパッケージは委員会では相手にされない。
もう一つの大切なルールは、この採用パッケージは採用委員会が検討する唯一の情報源である、ということだ。
パッケージに含まれていない事柄は、検討されない。
このため採用パッケージを作成する人は、漏れのないように細心の注意を払わなければならない。
パッケージに情報を入れずに、インパクトを高めるために委員会の場で突然持ち出す、といったことは許されない。
〝奥の手〟を用意した人間は、間違いなく撃沈される(比喩的な意味で……と言いたいところだが)。
採用されるのは、パッケージの内容が最もすばらしい人材であって、採用委員会に強力な後ろ盾のいる人ではない。
最高のパッケージとは、よくできた役員会議の資料に似ている。
すべての主要事実が紙一枚に要約されており、その裏づけとなる資料が一式そろっている。
要
約にはその人物を採用するという判断の正当性を示す、客観的なデータやエビデンスがまとまっている。
一方、裏づけとなる資料には、面接の報告、履歴書、過去の報酬、推薦者情報(とくに社員の紹介である場合)、その他の参考情報(大学の成績証明書、特許あるいは受賞の証書、候補者の書いた論文あるいはコードのサンプルなど)が含まれる。
採用パッケージを作成するうえでは、細部が重要だ。
新卒者の大学のGPAは、アメリカの標準的な四段階評価によるものか、あるいはジュネーブ大学のように六段階評価のものか。
新卒者の場合、学年内での順位も重要な情報だ。
成績のインフレが進んでいるため「A」評価にはかつての価値はないかもしれないが、学年トップであることにはまだ価値がある。
パッケージは短時間で読めるようにフォーマットにも工夫が必要だ。
たとえば面接中の候補者の最も優れた回答と最もお粗末な回答にマーカーで印をつけて、目に留まりやすくするといった具合に。
しかし、すべてをフォーマット化する必要はない。
候補者が提出した履歴書は、そのままコピーしてパッケージに入れよう。
どのようなタイプミスやフォーマットミス(太字やイタリックの使い方など)をしているか、採用委員会のメンバー全員が確認できる。
このようにパッケージの隅々まで注意を払うことで、委員会のメンバーに候補者の細かな情報まできちんと伝わる。
しかし、純粋な数字データばかりのパッケージも〝噓〟をつくことはある。
面接をする人には、それぞれの偏りがある。
ある人にとっての「三・八」の評価は、別の人にとっては「二・九」かもしれない。
この問題を解決するには、さらに多くのデータを集めるしかない。
採用パッケージには面接官の過去の評価データ(実施した面接の数、評価の分散と平均点など)を必ず含め、採用委員会のメンバーが常に高い点数をつける面接官と評価の辛い面接官を認識できるようにしよう(採用パッケージにこうしたデータが含まれることがわかっていれば、面接官は評価に厳正な態度で臨み、きちんとした裏づけのある点数をつけるようになる)。
マネジャーのなかには、自分のチームのメンバーを選ぶ絶対的な権限を求める人もいる。
グーグルが委員会制度を立ち上げたとき、それを嫌がり、「辞めてやる」と息巻いた人もいた。
そういう人には辞めてもらって構わない。
自らのチームについてそれほど強力な権限を望むような人間は、おそらく会社にいないほうがいい。
独裁者的性質は、仕事のあらゆる面に顔をのぞかせるはずだ。
優れたマネジャーなら、委員会を通じた採用のほうが会社全体にとって好ましいことを理解できるだろう。
同じように、誰を昇進させるかもトップダウンの経営判断ではなく委員会を通じて決めたほうがいい。
グーグルではマネジャーは昇進の候補者を推薦し、審査の過程でサポーターとなることはできるが、決定権はない。
理由は採用のときと同じだ。
昇進の影響は全社におよぶので、その重要性を考えると個別のマネジャーに任せておくわけにはいかないのだ。
昇進については採用以上に、委員会ベースのプロセスが好ましい理由がある。
スマート・クリエイティブの多く(私たちの経験ではほぼ全員)が対立を避ける傾向があり、「ノー」と言うのが苦手だ。
委員会の場合、昇進を拒否するのは個人ではなく、顔のない委員会である。
些細な違いのようだが、これが昇進のインフレを抑えるのに驚くほど効果的なのだ。
(グーグルの人材管理については、本書には書ききれないことがまだたくさんある。
もっと詳しく知りたい、あるいは採用に限らずグーグルの人事全般についての考え方を知りたいという読者には、私たちの同僚ラースロー・ボックが近々出版する著書WorkRules!をお薦めしたい。
人事管理の責任者を務めるラースローは同書で、グーグルの創設初期に確立されたルールが、いかにしてあらゆるチームや企業が参考にできるシステムに発展したかを書く予定だ)採用の質を犠牲にしてまで埋めるべきポストはない質を重視するからといって、採用プロセスに必ずしも時間がかかるわけではない。
むしろ、ここまで説明してきたグーグルの仕組みは、採用を迅速化するためのものだ。
面接時間は三〇分、ひとりの候補者につき最大五回まで。
面接官には、面接が終わったらすぐに採用担当者に合格か不合格かを知らせるよう義務づけている。
採用パッケージは、合否を最終的に決定する採用委員会が一二〇秒以内に目を通せるようにデザインされている(実際、目を通す時間はきっかり一二〇秒計っている)。
こうしたルールによって、採用プロセスが迅速化し、たくさんの数をこなせるようになることに加え、曖昧さを排除できる。
これは候補者にとってもプラスだ。
何度も面接を繰り返し、結論を遅らせるのはフェアじゃない。
あなたが採用すべきスマート・クリエイティブも、さっさとことを進めたいと思うタイプだ。
ただし、採用には絶対に侵してはならない黄金律がある。
「採用の質を犠牲にしてまで埋めるべきポストはない」だ。
速さか質か、という二者択一を迫られる場面は必ず出てくるが、必ず質を選ばなければならない。
破格の報酬首尾よくスマート・クリエイティブを獲得したら、今度は報酬を払わなければならない。
ケタはずれの人材には、ケタはずれの報酬で報いるべきだ。
ここでも参考になるのはスポーツ界だ。
傑出した選手は報酬も傑出している。
プロチームでは、ベンチの端っこにすわるルーキーが数十万ドルの報酬に甘んじる一方で、スター選手が数億ドルの報酬を受けとることは珍しくない。
スターにそれだけの価値があるのだろうか?野球界の伝説、ベーブ・ルースはハーバート・フーバー大統領より年俸が高いのは正しいと思うかと聞かれて、こう答えた。
「いいんじゃない?去年は彼よりいい働きをしたと思うよ」。
もう少し、合理的に説明しよう。
スター選手には間違いなく、それだけの価値がある(期待どおりの働きをすれば、だが)。
なぜなら傑出したスポーツ選手には、常人の何倍もの成果をもたらす稀有な力があるからだ。
彼らが真価を発揮すると、とほうもないインパクトが生まれる。
スター選手はチームを勝利に導き、それはビジネスの面でも大きなリターンに直結する。
ファンが増え、観客が増え、ユニフォームや野球帽などグッズの売上も伸びる。
要するに、チームに莫大な収入をもたらすのだ。
こんにちのスマート・クリエイティブは、プロスポーツ選手とは似ても似つかない存在かもしれないが、一つ重要な共通点がある。
「とほうもないインパクト」をもたらす可能性だ。
スポーツ界の一流プレイヤーと同じように、ビジネス界の一流プレイヤーにも十分な報酬を支払うべきだ。
トップ選手に良い仕事をさせたいなら、彼らの能力を認めて破格の報酬を払おう。
だからといって新規採用者に言い値を払ってはいけない。
むしろ報酬カーブは低いところから始めるべきだ。
報酬以外の要素で最高のスマート・クリエイティブを惹きつけることは可能だ。
魅力的な仕事内容、優秀な同僚、大きな責任と機会、刺激的な企業文化や価値観、そしてもちろん無料の食事やペット同伴出勤は強力な武器になる(グーグルの創業初期に入社したあるエンジニアに、ペットのイタチ同伴で出勤することを認めたところ、報酬にはまったくこだわらなかった)。
ただし、彼らが入社後、抜群の働きをするようになったら、それにふさわしい報酬を払おう。
インパクトが大きい人材ほど、報酬は大きくすべきだ。
一方マネジャーは、破格の報酬を支払う対象を破格の働きをした人材に限定するよう心掛けるべきだ。
相手はプロフェッショナルであり、リトルリーグのコーチをするのとはわけが違う。
リトルリーグなら外野に座り込んで、試合中ひたすらタンポポや四つ葉のクローバーを摘んでいるような選手でもスタンディング・オベーションとトロフィーをもらえる。
すべての人間には基本的人権があり、生まれながらに平等だ。
しかし言うまでもなく、それは全員が仕事において同じような能力があるという意味ではない。
だから、あたかもそうであるように報酬を払ったり、昇進させたりするのはやめよう。
企業は従来、経営トップに近い人々(巨額報酬を受け取るCEOなど)、あるいは取引に近い人々(投資銀行家や営業マン)の報酬を手厚くしてきた。
しかしインターネットの世紀で最も重要なのは、プロダクトの優位性だ。
だから当然、最も手厚い報酬を受け取るべきは、最高のプロダクトやイノベーションの近くにいる人々だ。
つまり画期的なプロダクトや機能の開発に貢献した人材には、たとえ駆け出しの平社員であっても莫大な見返りで報いる必要がある。
職位や入社年次にかかわらず、ずばぬけた人材にはずばぬけた報酬を払おう。
重要なのは、どれだけのインパクトを生み出すかだ。
レーズンは放置し、M&Mを放出せよこれほどの手間暇をかけ、最高のスマート・クリエイティブを獲得するための採用プロセスを整えたら、彼らはどんなふうに報いてくれるだろう?そう、退社するのである!これは動かしようのない事実だ。
よくよく頭に入れておこう。
最高の人材を採用しても、その一部はもっと良い場所があることに気がつく。
ただ、これは必ずしも悪いことではない。
むしろ健全でイノベーティブなチームには避けられない副産物のようなものだ。
それでも彼らを引き留めるために全力
で戦おう。
スマート・クリエイティブをつなぎとめる一番の方法は、弛緩させないことだ。
彼らの仕事をおもしろくする新たな方法を常にひねり出そう。
アドセンスの開発に携わり、本書の冒頭で紹介した〝ムカつく広告〟対策にも貢献したジョージ・ハリクが退社の意向を漏らしたとき、エリックは自分のスタッフ・ミーティングに出席したらどうか、と持ちかけた。
こうしてジョージは、共同創業者とエリック直属の幹部だけが出席するミーティングに顔を出すことになり、専用のメーリングリストにも加えられた。
エリックをはじめ経営陣は、エンジニアリング部門の第一線からの意見をこれまで以上に聞けるようになり、ジョージも経営について多くを学んだ。
そこで見聞きしたことに刺激を受けたジョージはプロダクト・マネジメントチームに加わり、さらに二年間グーグルで働いた。
エリックがスタッフ・ミーティングに誘わなければ、得られなかったはずの貢献だ。
ジョナサンも自らのスタッフ・ミーティングを管理する人手が足りなかったとき、同じアプローチを採った。
通常、経営幹部はこの役割を秘書室長に任せるが、専従の室長を置くと社内政治が盛んになるだけだ。
そこでジョナサンは複数のAPMに半年ごとに秘書室長の役割を任せた。
通常のAPMの仕事のかたわら、自分の直属部下として働くようにしたのだ。
他のAPMには、社内サイトに掲載されるサイドプロジェクトに志願するよう奨励した。
たとえば二〇〇三年九月には、グーグルでプロジェクトがどのように遂行されているか、ラリー・ペイジが把握するのを手伝うスタッフが募集された。
あまり楽しそうな仕事とは思えなかったが、共同創業者と仕事ができるチャンスに複数の若手APMが手を挙げた。
このような特別任務を与える目的は、スタッフ・ミーティングを活性化するためでも、安い労働力を確保するためでもない。
優秀な人材の日常をよりおもしろく、やりがいのあるものにすることだ。
とはいえ、おもしろいサイドプロジェクトだけでは、優秀な社員を夢中にさせ、退社を思いとどまらせるには力不足なケースも多い。
とびきり価値のある人材については、その利益を組織の制約より優先しなければならない。
スタンフォード大学を卒業すると同時に、共同創業者たちに採用されたサラー・カマンガーが良い例だ。
サラーはアドワーズの開発に貢献し、その後プロダクト部門で数年間働いた。
ただサラーをゼネラルマネジャーに昇進させ、責任を拡大すべきタイミングになったとき、社内にふさわしいポストがなかった。
そこで経営陣は彼のためにユーチューブの責任者という新たな役割をつくった。
似たような例は枚挙にいとまがない。
優秀なスマート・クリエイティブに新しい挑戦をさせるべきタイミング、あるいは本人がそうした希望を口にしたときには、グーグルはそれを叶える方法を見いだしてきた。
大切な人物にとって最適な処遇を考え、組織のほうがそれに合わせればいい。
ジョブ・ローテーションのかたちで、社員が新しい役割に挑戦できる制度をつくってしまうという手もある。
ただ、やり方を間違えると、裏目に出るリスクもある。
グーグルのAPM制度(マーケティングと人材部門にもそのスピンオフ版ができた)は、一二カ月ごとに強制的に配置換えをする。
この仕組みは若手社員を対象にした小規模なプログラムとしては有効だが、会社全体で部署を超える配置換えを制度化するのは難しい。
そこでグーグルでは日頃から職務の異動を奨励し、それをできるかぎり簡単にするとともに、マネジャーの間で日常的に話題にするようにしている。
幹部は自らのスタッフ・ミーティングで議論するほか、他の部署を担当する幹部とも直接話し合う。
「君のチームに異動の候補者はいるか?」「どこに行きたがっているんだ?」「そこが彼にとって最適な選択だろうか?」といった具合に。
異動の議論では、対象者が優秀な社員であることが絶対条件だ。
異動させるメンバーを選ぶときのマネジャーは、ハロウィンでもらったお菓子を交換する子供と変わらない。
M&Mのチョコレートは絶対に譲らず、レーズンの小袋を他人に押しつけようとする。
そのマネジャーのチームには好都合かもしれないが、会社全体から見ればマイナスだ。
会社がやりがいと刺激を与えたい最も優秀な人材が、特定のチームに塩漬けにされる。
エリックがジョージ・ハリクをスタッフ・ミーティングに招き入れたのは、凡庸なジョージの能力をなんとか伸ばしてやろうと思ったからではない。
とびきり優秀な彼をなんとか会社につなぎとめたいと思ったからだ。
マネジャーにはレーズンを手元にとどめ、M&Mを放出させよう。
愛する者には旅をさせよ(ただし手を尽くしてから)優秀な人材にやりがいのある、夢中になれる仕事を与えても、やはりもっと青い芝を求めて去ろうとする者は出てくるだろう。
その場合、慰留の努力はスタープレイヤーとリーダーとイノベーター(それが同一人物とは限らない)に集中しよう。
彼らを会社につなぎとめるため、手を尽くすのだ。
こうした人材が退社すると、彼らを慕う部下が一緒に辞めるなど、波及効果が広がる可能性がある。
報酬が理由で退社するケースはめったにないので、慰留の第一歩はじっくり相手の話を聞くことだ。
退社を考える社員は話を聞いてもらいたい、必要とされ、大切にされたいと思っている。
話し合いをするとき、経営者は会社の代弁者になってはいけない(「残ってくれ!」)。
退社を考えているスマート・クリエイティブの立場に立とう。
社員、とくに若手は短期的思考になりがちだ(まだ学生時代のリズムが抜けていないのかもしれない)。
障害に突き当たると過剰反応して、新学期を迎えるたびに成績がリセットされ、まっさらなノートとともに再スタートを切れた日々を懐かしんだりする。
彼らがもっと長い目でキャリアを考えられるように、力を貸そう。
もう少しここにとどまったほうが、いずれ本当に退社するときにもっと大きな成功をつかめるのではないか。
退社することによる経済的デメリットをきちんと検討したのだろうか。
明確な資金計画はあるのか、退社によって失うものを本当に理解しているのか――。
退社を考える理由に耳を傾け、会社にとどまりながらダイリチウム結晶[訳注:スタートレックに出てくる宇宙船の燃料]を補充する方法を一緒に考えてみよう。
相手が話し合いを続ける気になったら、会社にとどまった場合のキャリア開発プランを提示しよう。
そうすれば会社の成功だけでなく、スマート・クリエイティブの成功を真剣に考えている姿勢を伝えることができる。
ずばぬけて優秀なスマート・クリエイティブは、自ら起業するために退社を考えることが多い。
それを思いとどまらせようとするのはやめ、「エレベーター・ピッチ」をさせてみよう(「エレベーター・ピッチ」というのはベンチャー・キャピタル業界の用語で、「投資家をうならせるような事業プランを三〇秒で説明する」という意味だ)。
「君の戦略的基盤は何だい?」「どんな文化をつくるつもりだ?」「私が投資家だったら、何を言う?」といった質問をぶつけて、満足な返事が返ってこなかったら、まだ起業の準備は整っていないサインだ。
私たちならそういう場合、会社にとどまり、仕事を続けながら自分のアイデアを育てていくようアドバイスする。
グーグルが出資したいと思うようなアイデアが固まったら、快く送り出してあげるよ、と(出資はしないかもしれないが!)。
これはなかなか断りがたい申し出で、多くの優秀な人材をつなぎとめるのに効果を発揮してきた。
また優秀なスマート・クリエイティブが、すでに他の会社から魅力的なオファーを受け取っているケースもある。
なかには「をしてくれなければ、退社する」といった脅迫的態度で交渉してくる者もいる。
その場合、勝負はすでについている。
脅迫的態度をとるのは、いまの会社への愛着がなくなっていることの表れで、たいてい絆を取り戻すのは困難だ。
しかし、まだ絆が残っていて、カウンターオファーを出したいという場合には、とにかく急いだほうがいい。
できれば一時間以内に出そう。
それ以降になると、相手はもう新しい会社に移る心の準備を始めてしまう。
そして言うまでもないが、大切なスマート・クリエイティブにとって退社するのが本当に最高の選択肢である場合には、送り出してあげよう。
ジョナサンのアップル時代の同僚で、リンクトインの共同創業者兼CEOであるリード・ホフマンの言うとおりだ。
「仕事を辞めるからといって、従業員との関係まで終わりにする必要はない。
大切な従業員が退社すると言ってきたら、まずは慰留しよう。
次に新しい仕事での成功を祈り、会社のOB・OGネットワークに温かく迎え入れよう」かつてグーグルに、ジェシカ・ユーイングというとても優秀な若手プロダクト・マネジャーがいた。
iグーグル(ユーザがグーグルのホームページをカスタマイズするためのツールで、二〇一三年に終了した)の立ち上げに貢献し、その後も活躍が期待されていた。
だがジェシカには、作家になりたいという強い情熱があった。
「君のキャリアがこれからどんな軌道を描くか、考えてみたかい?まだストックオプションの権利も獲得していないじゃないか」と私たちはアドバイスした。
それでも熟慮の末、ジェシカは退社した。
ジェシカ、しばらく音沙汰がないけれど、作品はまだかな?解雇はつらいよ自分がクビになるほどではないが、誰かをクビにするのもとてもつらいことだ。
経験者なら、哀れな社員を呼び出し、「もう会社に置いておけない」と告げるのがどれほど難しいことかわかるだろう。
すでに社員のほうでそれを予想していて、穏やかに受け止めるケースもあれば、逆上して手当たりしだいモノを投げはじめる者もいる。
腹いせに経営者を悩ませようと、労働法を盾に訴えてくる者もいる。
性格的な強さ、自信、大胆さなど、スマート・クリエイティブの魅力的な要素が、問題児を解雇する際には大きな障害となる。
だから、しっかり胸に刻んでおこう。
ダメ社員を解雇するような不愉快な事態を避けるには、最初から彼ら
を採用しないのが一番だ、と。
だからグーグルでは、採用プロセスを厳格にすることで偽陰性(本当は採用すべきだったのに、採用しなかったケース)が出るほうが、偽陽性(本当は採用すべきではなかったのに、採用したケース)が出るより好ましいと考えている。
あなたの会社の採用はどうか、テストしてみよう。
下位一〇%の社員を解雇し、代わりに新規採用者を迎え入れたら、組織全体のパフォーマンスは改善するだろうか。
そうだとすれば、そのような質の低い社員を合格させてしまった採用プロセスを見直し、改善する方法を検討したほうがいい。
もう一つ、テストがある。
退社したいと言われても、懸命に引き留めようと思わない社員はいるだろうか。
もし辞めてもいいと思う社員がいるなら、おそらく辞めさせたほうがいいだろう。
最後にひと言。
他人をクビにするのが好きな人もいる。
そういう人間には注意したほうがいい。
解雇は恐怖の文化を醸成し、それは間違いなく組織を蝕む。
「できないヤツはクビにすればいい」と言うのは、採用プロセスの適正化に十分な時間をかけない言い訳に過ぎない。
グーグルの「採用のおきて」●自分より優秀で博識な人物を採用せよ。
学ぶもののない、あるいは手強いと感じない人物は採用してはならない。
●プロダクトと企業文化に付加価値をもたらしそうな人物を採用せよ。
両方に貢献が見込めない人物は採用してはならない。
●仕事を成し遂げる人物を採用せよ。
問題について考えるだけの人物は採用してはならない。
●熱意があり、自発的で、情熱的な人物を採用せよ。
仕事がほしいだけの人物は採用してはならない。
●周囲に刺激を与え、協力できる人物を採用せよ。
ひとりで仕事をしたがる人物は採用してはならない。
●チームや会社とともに成長しそうな人物を採用せよ。
スキルセットや興味の幅が狭い人物は採用してはならない。
●多才で、ユニークな興味や才能を持っている人物を採用せよ。
仕事しか能がない人物は採用してはならない。
●倫理観があり、率直に意思を伝える人物を採用せよ。
駆け引きをしたり、他人を操ろうとする人物を採用してはならない。
●最高の候補者を見つけた場合のみ採用せよ。
一切の妥協は許されない。
キャリアの選択――F-16を選べ私たちはよくキャリアについてアドバイスを求められる。
駆け出しの起業家や大学を卒業したての〝ヌーグラー〟から頭角を表しはじめたスター経営者まで、誰もが自分のキャリアをどのように構築していくべきか、知りたいと思っている。
たとえば母校の卒業式でスピーチをする栄に浴したら(プリンストン大学とクレアモント・マッケナ大学のみなさん、聞いてますか?)、きっとこんなことを話すだろう。
●キャリアはサーフィンのようにジョナサンはビジネススクールの学生だったころ、プロダクト・マネジメントに関心があったので、その仕事ができそうな企業二社の説明会に出かけた。
一社はシャンプーや家庭用洗剤などを製造する大手消費財メーカーだ。
そこでは消費財業界のプロダクト・マネジメントは科学だ、と説明された。
土台となるのはフォーカスグループやプロダクトの売れ行きなど具体的なデータである。
担当者は「バックミラーを確認しながら車を走らせるようなものだ」と言った。
もちろん、それを優れた手法と考えての発言である。
次にジョナサンは、シリコンバレーの大手ハイテク企業の説明会に行った。
「シリコンバレーのプロダクト・マネジメントは、F-16戦闘機で巨岩がごろごろしている荒野を高度二メートル、マッハ二で飛び回るようなものだ。
しかも墜落したって、アーケードゲームで負けたぐらいのショックだ。
コインは山ほどあるしな」。
そいつはいいや!最高の業界とは、ポケットいっぱいのコインを持ってF-16戦闘機を飛ばせるところだ。
もちろん墜落しないように最善を尽くしながら。
ビジネスにおいて、とくにハイテク業界においては、優れた仕事をするだけでは成功できない。
巨大な波を少なくとも一つはとらえ、岸まで乗っていかなければならない。
大学を卒業し、社会に出ようとする若者は、まずどの会社で働くかを考え、次にどんな仕事をするか、そして最後にどの業界で働くかを考える傾向がある。
だが、キャリアの出発点においては、この順序はまるきり逆であるべきだ。
一番大切なのは、正しい業界を選ぶことだ。
なぜなら長いキャリア人生のなかでは何度か転職する可能性が高いが、別の業界に移るのはとても難しいからだ。
業界はサーフィンする場所(北カリフォルニアなら間違いなくマーベリックスが最高だ!)、企業は波だ。
常に最大かつ最高の波が来る場所に身を置くようにしよう。
企業の選択を誤ったり、あるいは最初の波(就職した会社)で厄介な上司に出会ってしまったりしても、すばらしい波が続々来るような業界にいるならまだ希望はある(サーフィンのたとえはこのくらいで)。
反対に、キャリアの出発点で間違った業界を選んでしまうと、社内で成長する機会は限られている。
上司も居座る可能性が高く、他の企業への転職を考えても売りになるスキルは身に着かない。
さいわいインターネットの世紀の地殻変動によって、サーフィンに適した業界が山ほど生まれている。
大きな成長が見込めるのはインターネット企業だけではない。
エネルギー、製薬、ハイテク製造業、広告、メディア、エンタテインメント、家電なども有望だ。
一番おもしろいのは、プロダクトサイクルの回転が速くなっている業界だ。
それによって破壊的変化のチャンスが増え、フレッシュな人材が活躍する機会も多いからだ。
だがプロダクトサイクルが長いエネルギーや製薬のような業界でも、とほうもない変化や機会が待ち受けている。
報酬面では、駆け出しのころはストックオプションなど株式関連の報酬は限られている。
だから特定の企業に賭けるより、正しい業界で専門能力を磨くほうが大きなリターンにつながる。
経験(そして年齢!)を重ねると、今度は正しい波(企業)を選ぶほうが重要になる。
その段階では、報酬パッケージに占める株式の割合が増える可能性が高いので、優先順位が逆転するのだ。
●技術の目利きを探せ正しい業界を選んだら、次は会社を選ぶ番だ。
そのときは〝技術の目利き〟の意見をよく聞こう。
これは一般人が気づく前に、技術の方向性やそれが業界に与える影響を見通す力を持った天才的なスマート・クリエイティブである。
ビル・ゲイツとポール・アレンは、半導体とコンピュータの価格が低下し、コンピューティングの未来を握るのはソフトウェアになることを見抜いたうえで、マイクロソフトを創業した。
チャド・ハーレイはビデオカメラと回線容量とストレージの価格下落によって動画エンタテインメントの在り方が変わることを見通し、ユーチューブを創業した。
リード・ホフマンはウェブの人と人とを結びつける力がプロフェッショナルにとって重要な意味を持つと考え、リンクトインを立ち上げた。
マーク・ベニオフは強力なソフトウェアが活きる場所はクラウドであることを見抜き、その考えに基づいてセールスフォース・ドットコムを起業し、ドットコムバブル崩壊のなかでもまったく揺るがなかった。
スティーブ・ジョブズはコンピュータを消費者が身にまとう時代が来ると予想した。
技術と時代がジョブズに追いつくまでに二〇年かかったが。
技術の目利きを見抜くにはどうすればいいか。
一つは経歴に注目することだ。
技術の目利きは、それを正式な仕事にするはるか以前から、技術への嗅
覚や起業家精神の片鱗を見せているケースが多い。
リード・ホフマンが初めての仕事を得たのは一二歳のときだ。
ゲームソフトのメーカーに、ゲームの改善案を説明書のコピーに書き込んで送ったことがきっかけだった。
別に仕事を探していたわけではなく、単にゲームをもっと良くしたかっただけだ。
マーク・ベニオフは一五歳で初めてコンピュータ・プログラム(プロダクト名は〝HowtoJuggle〟)を売り、当時人気のあったコンピュータ「アタリ800」向けのゲームを開発する会社を起業した。
ラリー・ペイジはレゴでプリンタをつくっていた(低解像度のドットマトリクス方式ではあるが、それでも立派)。
以上は有名な例だが、これほど知られていなくても洞察力に定評がある人はたくさんいる。
彼らこそ、一番いい場所で最高の波をとらえる人々だ。
そんな目利きを見つけ、目を離さず、その言葉に耳を傾けよう。
●キャリア計画を立てようキャリア開発には、努力と入念な計画が必要だ。
自明なことだが、私たちのところに来る相談者のなかで、それができていない人があまりに多いのには驚かされる。
ジョナサンはその場合、お気に入りのトム・レーラーの言葉――「人生は下水管のようなものだ。
何が出てくるかは、何を入れるかで決まる」――とともに、キャリア計画のエクササイズ一式を渡す。
そして、真剣にエクササイズをこなしたら、サポートすると約束する。
キャリア計画をつくるための簡単なステップを紹介しよう。
まず、現在ではなく五年後の自分にとって理想の仕事を考えてみよう。
どこで、何をしていたいか。
いくら稼いでいたいか。
仕事内容を書き出そう。
たとえばその仕事を転職サイトに載せるとしたら、どんな説明になるだろう。
今度は時計の針を四~五年進めてみよう。
あなたはその理想の仕事に就いている。
その時点の経歴書は、どんな内容になっているだろう。
その理想の職に就くために、その間あなたは何をしたのだろう。
理想の仕事を念頭に置きながら、自分の強みと弱みを評価してみよう。
そこにたどりつくために、どんなスキルを磨く必要があるのか。
この作業には他の人からのインプットが必要だ。
上司や同僚の意見を聞いてみよう。
最後に、どうすればその仕事に就けるのか。
どんなトレーニングや実務経験が必要だろう。
ところで、考えた結果、理想の仕事はいまの仕事だという結論に達したなら、それはあなたの野心が小さすぎるということだ。
もう一度エクササイズをやり直し、安易に手に入るようなものではなく、少し背伸びした目標を考えてみよう。
このステップを実践すれば、きっと効果がある。
やらなければ、ヨギ・ベラの名言を実践することになる。
「目的地がどこかわからないときは、注意したほうがいい。
おそらくそこにはたどり着けないから」●統計学は二一世紀を生き抜く武器統計データほどセクシーなものはない。
積極的に使いこなそう。
インターネットの世紀で最高に魅力的な仕事には、必ず統計学が必要になる。
それは限られたオタクの世界に限らない。
ハル・バリアンは「個人にとって間違いのない選択肢は、値下がりしているモノと補完性のある分野で専門性を磨くことだ」と指摘している。
データは、それを処理するコンピューティング能力とともに、確実に値下がりしている。
私たちはビッグデータの時代に生きている。
ビッグデータを理解するには、統計のプロが必要だ。
データの民主化は、それを分析できる者が勝者となることを意味している。
データは二一世紀の剣であり、それを使いこなせる者がサムライだ。
だから戦士たちよ、剣を研げ。
統計学を身に着けるのだ。
「数字は苦手なんだけど……」という人もいるかもしれない。
とくに後ろのほうに座っている、派手なカラーシャツを着たそこの君。
だが心配はいらない。
希望はある。
適切な質問を投げかけ、その答えを解釈する能力も、答えそのものを導き出すのと同じぐらい重要なスキルだ。
どんな業界で働いていようとも、適切なデータを適切に処理することが、正しい意思決定にどのように役立つかをきちんと理解する必要がある。
数字が得意な人々にどんな質問をするべきか、またその答えを活用する最適な方法は何か、学習しよう。
数字に強くなくても、賢明な選択のための数字の使い方を習得することは可能だ。
●資料を読むたいていの企業には、膨大な文書化された情報がアーカイブされている。
そのなかで最良のものを選び出し、読んでみよう。
グーグル社内で私たちにアドバイスを求めてくる人がいると、二〇〇四年のIPOのときに共同創業者たちが書いた手紙や、その後エリックとラリーが書いた社内向けの戦略メモに目を通すよう勧める。
そこにはグーグルの価値観や戦略が、最も明快かつ簡潔に書かれている。
だが、忙しいのでそんなものを読んでいるヒマはない、と思っている人が多い。
それは大きな誤りだ。
また、社内の資料だけで満足する必要はない。
ウェブには大量の情報があり、二束三文のものもあるが、すばらしい情報もたくさんある。
さまざまなツールを駆使して、自分が尊敬する筆者やサイトを活用する方法を考えてみよう。
同じような価値観を持つ優秀な人たちとサークルを立ち上げ、おもしろい本や記事の情報を交換しよう。
どんな分野でも、他の人々に一歩先んじる最高かつ最も簡単な方法は、それについて知識を深めることだ。
最適な方法は、文献を読むことである。
忙しくてモノを読む時間などないと言う人は多いが、それは自分の仕事について知識を深めることを重視していないと言っているのと同じだ。
自分の仕事について、誰よりも多くの資料に目を通しているのは誰か、ご存じだろうか。
経営者である。
だから経営者的な発想に切り替え、資料を読もう。
●エレベーター・ピッチを準備するあなたが廊下で上司の上司と顔を合わせ、いまどんな仕事をしているのか、と聞かれたとしよう。
いっそのこと、CEOにしてしまおう。
あなたはどう答えるだろうか。
これは単なる質問のための質問ではない。
いますぐ、やってみよう。
持ち時間は三〇秒だ。
うーん、あまり感心しない。
おそらくエレベーター・ピッチは練習していなかったのだろう。
練習しよう。
エレベーター・ピッチでは、あなたがいま取り組んでいる仕事、その根底にある技術的アイデア、想定される成果(とくに顧客にとってのメリット)、それが会社全体の事業でどのような役割を果たすか、といったことを説明しなければならない。
すべてについてよく考え、自信を持って話せるように練習しよう。
求職中の人もエレベーター・ピッチは用意すべきだ。
経歴書を要約するのではなく、その最もおもしろい部分を抽出し、自分がどんな仕事をしたいか、どのようなインパクト(顧客や会社にとってのメリット)を生み出せるかを語るのだ。
他の誰でもなく、あなたにしか語れない内容は何か。
●海外に出よ個人は特定の地域にしばられがちだが、企業はその規模や業務内容にかかわらず常にグローバルなものだ。
だからあなたがいまどこにいるか、また出身がどこであるかにかかわらず、機会があれば常に外へ出よう。
どこか別の場所で生活し、働くのだ。
勤務先が大企業なら、国際的な任務に志願しよう。
きっとマネジャーは歓迎し、あなたの従業員としての価値は高まるだろう。
仕事で海外に出ることができない場合は、旅をしよう。
そして海外に出かけたら、世界をあなたの顧客の目で見てみよう。
たとえば小売業で働いているなら、地元の店をいくつかまわってみるのだ。
メディアで働いているなら、地元の新聞を買ったり、ラジオをつけたりしよう。
せっかく海外に出張したのに、空港からホテルまで乗ったタクシーの運転手との会話以外、何の知識や情報も得ずに帰ってくる人があまりにも多い。
そうした運転手たちが、自らのグローバル企業の経営戦略への影響力を知ったら驚くだろう。
●情熱と仕事を結びつける私たちの誇る元同僚、シェリル・サンドバーグの言葉を引用しよう。
「自分の情熱と仕事を結びつけることができるのは、究極の贅沢です。
そして間違いなく幸せにつながる道でもあります」。
まさにそのとおりだ。
仕事に「惚れ込んで」おらず、単に「好き」というぐらいでは、能力を最大限発揮し、成功をつかむことはできないだろう。
言い古された言葉だが、真実である。
情熱と仕事を結びつけることは贅沢だという指摘も的を射ている。
お金がかかるという意味ではなく、なかなか手に入らないものなのだ。
たいていの人は自分の情熱が何かわからないか(キャリアの出発点で自分が何に情熱
を感じるかわかっている人がどれだけいるだろう)、わかっていても手が届かない(あなたが情熱を感じるのは木彫りの人形づくりでも、世界が必要としているのはエンジニアで、あなたの妻子が望んでいるのは安定した収入かもしれない)。
私たちがこのテーマをキャリアアドバイスの冒頭ではなく、最後に挙げたのはこのためだ。
自分が情熱を持てるものを見つけるのは、必ずしも簡単ではない。
社会に出る時点では、情熱どうこうより、単に仕事があるだけで満足かもしれない。
そしてキャリアを積んでいくうちに、そこが思っていたような刺激的な舞台ではないことに気づくのだ。
おそらく情熱と満足のいく仕事の、どちらも見つけられずに。
すべてを捨ててやり直すこともできなくはない。
「やあ、ぼくだ。
ところで今日仕事を辞めて、モンタナに農場を買ったよ」なんて電話をしたら、家族はどんな反応をするだろう?もっと堅実なやり方もある。
軌道修正するのだ。
「生まれ変わったら就きたい仕事」に近く、それでいて現在のキャリアパスからでも手の届く「五年後の理想の仕事」を考え、ゴールに設定してみよう。
適切なゴールを設定するという簡単な作業によってキャリアを好転させた人たちを、私たちはたくさん見てきた。
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