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人事評価の裏ルール【オリジナル】

 

人事評価の裏ルール

溝上 憲文. 人事評価の裏ルール (Japanese Edition) (Kindle の位置No.2192-2193). Kindle 版

まえがきリストラの基準となる「人事評価の裏ルール」とは?人が人を評価するということは本当に難しいものだ。誰もが納得する客観的な評価基準はないのであり、「評価は永遠の課題」というのが人事関係者の常識となっている。にもかかわらず評価は常に人生につきまとう。幼稚園や小学校のお受験に始まり、小・中・高校、そして大学と評価を伴いながら成長していく。その場合の評価は学校の成績であったり、スポーツの成績だったりすることが多い。しかし、会社に入る段階の評価においてはなぜか曖昧になる。多くの企業では大学の成績はほとんど評価の対象にならない。企業がこの人は優秀だと評価する基準は大学の偏差値と「人柄」の大きく2つである。偏差値の高い大学出身者は地頭力、つまり学習能力が高く、論理的思考力があると見なすのである。だが、もう一つの「人柄」は曲者だ。会社によっては、コミュニケーション力、協調性、チャレンジ精神、リーダーシップといった評価基準を挙げるところが多いが、極めて抽象的な基準にすぎない。じつはこの基準こそが、本書のテーマである「人事評価の裏ルール」と密接に結びついている。この「人柄」によってその会社に合うか合わないかを評価し、合わない人を排除しているのである。入社試験の一次面接では人事部ではなく、選ばれた一般の優秀な社員が行うことが多い。その際の評価基準としてよくいわれるのが「一緒に仕事をしたいと思うか」である。つまり、一緒に仕事をしたいとは思わない人を落としていくという裏ルールがすでに働いているのだ。これに関しておもしろい話を聞いたことがある。今、企業はビジネス環境の大きな変化の波にさらされ、新たな商品・サービスやビジネスモデルを生み出すイノベーター人材を求めている。だが、こういう人材はクリエイティビティがあっても得てして人間的な欠陥をどこか併せ持っている。たとえばアップル創業者のスティーブ・ジョブズにしても人間的には最低の人物だったといわれているが、創造性を発揮し、世界の一流企業に育て上げた。じつはそういう可能性を秘めた人材を通常の選考ルールとは別枠で採用する大手企業も少なくない。ところが、ほとんどが入社後に辞めているというのだ。大手消費財メーカーの人事部長はこう語る。「協調性はないし、人間的にはとんでもなくふざけたやつなんですが、異能・異才というか、何か天才的に光るものを持っている人を採用したことがあります。俗にいう、とんがっているタイプです。しかし、ある人間は職場の人間に嫌われて辞めてしまいました。ま

た、別の人間は力を発揮できるような仕事をさせてもらえずに、職場を追い出され、いろんな部署にたらい回しにされ、最後はリストラされてしまいました。こうした人材を受け入れる土壌がないために弾き出されてしまったのです。ベンチャー企業は別にして日本の大企業では人間としては最低でもイノベーターの可能性を秘めた人材を受容できる風土がないのです」なぜこういうことが起きるのだろうか。そこには表の評価とは異なる上司や周囲の「評価の裏ルール」が存在することを示唆している。どんなに天才的な資質・能力を持っていても「人柄」評価という裏ルールによって入社してもいずれ排除される。それが企業組織の中に組み込まれているのだ。そして人事評価の裏ルールが最も発揮されやすいのがリストラの場面である。リストラされるということは会社にとって不要な人材と見なされることであるが、どういう基準で判断が下されるのか、本人にも理解できないことも多い。筆者は1990年代以降に実施された大手企業や中小企業の様々なリストラの現場を含めて数多くの企業を取材してきた。取材した企業は倒産や合併・吸収された企業、人事・組織制度改革を実施した企業などゆうに1000社を超えるだろう。また、取材対象は経営者や人事担当者だけではなく、労働組合などリストラに遭遇した数多くの社員も取材してきた。本書はそうした企業取材で得た幅広い知見の中からリストラの対象となるのはどういう人なのか、その基準となる表の人事評価ではわからない〝人事評価の裏ルール〟の存在をできるだけ明らかにしていきたい。企業の今後の進路は5年先、10年先を見通すことが難しい時代に入っている。いつあなたに予想もしない事態が待ち受けているのかわからない。本書が厳しい時代を生き延びていくための処方箋につながれば幸いである。2015年10月溝上憲文

まえがきリストラの基準となる「人事評価の裏ルール」とは?第1章人事部長100人が、真っ先にリストラしたい社員切られる社員はどのようにして選ばれるのか?協調性のない一匹狼型社員仕事のピントが外れている非効率・非能率型社員効率がものすごく悪いタイプ真面目なだけ。ゴールを見ないで仕事を進めるタイプ挑戦意欲のない私生活重視型時間にルーズ、そもそもやる気がない社内OB化する社員成長意欲がない真っ先に切られる社員の基準とは?第2章世代別リストラの基準20代で会社に見捨てられる人会社の仕事の適性に合わない(採用ミス)精神的ストレスに耐えられないどの職場に配置しても評価されない30代で会社に見切られる人何年もルーティンワークをしている自分から進んで何かをやろうとしない営業成績が平均以下なのに態度がでかい自分の非を認めようとしない。ミスを他人のせいにする「これは自分の仕事じゃないんで」とすぐ言う40~50代社員で危ない人同じ仕事を今の地位のまま10年続けている朝早く出社し、夜遅くまで仕事をしている会議でメモをとるだけ、会議で発言しない関連会社に出向している英語ができない第3章性格で切られる社員の基準根暗な人ひとりよがりな人ズボラな人、ルーズな人

やさしくていい人、真面目な人空気が読めない人会話ができない人、表現下手な人時代遅れの資質・能力~コミュニケーション力、論理的思考力、企画立案力のない人~思考停止型社員はいらない人材育成法が無能社員を生み出す嫌われる性格はどのようにして出来上がるのか「そろそろ楽をしたい」40代が危ない何をしたいのかわからない目標喪失の社員は危ない年下の上司を嫌がる社員は危ない第4章管理職のリストラの基準部下に〝丸投げ上司〟はもはや絶滅危惧種「俺の背中を見ろ」では管理職失格独裁型上司の先は、行き場がない生真面目タイプが、やがて自分を滅ぼすモノカルチャー型管理職部下の成長をストップさせる「囲い込み」上司管理職は「サーバントリーダー」に徹せよ第5章営業、企画、開発職…切られる社員の基準【食品・飲料業界】顧客の課題を解決する営業手法を持っていない【消費財業界】顧客が何を望んでいるのか調査・分析する能力がない【百貨店・流通業界】変革思考を持たず、専門性を発揮できない【製薬業界】いまだに接待・饗応だけで受注を狙う【電機業界】変化に即応できず、行動力に欠ける人【総合商社】新たなビジネスをつくり出せない【化学業界】生産やマーケティングに関する知識・能力が欠如している【IT業界】顧客に対する提案能力がない第6章今日からでもできる会社から見捨てられない働き方の心得7カ条その一挨拶をしっかり。遅刻しないで勤務態度は良好を保て!その二誰にも負けない専門分野を2つ持て!その三会社の内外の人脈づくりに努力せよ!その四年下上司に逆らうことなく、低姿勢を保て!その五後輩の指導役に徹し、慕われる存在になれ!その六対話こそ重要、コミュニケーション力を磨け!その七嫌な仕事でも引き受ける職場の汚れ役になれ!

第7章リストラを回避する究極の手法その一ひたすら会社の情にすがるその二労働法の知識を吹聴し、会社を恐れさせるその三昔の上司にお願いして子会社に引き取ってもらうその四役員秘書と結婚する!?リストラ面談でどのように闘うのか会社が不利となる証拠をどのようにして集めるかあとがきなぜ、業績が好調なのに、リストラを実施する企業が増えているのか?解説なぜ、アナタはがんばって働いても会社に評価されないのか?俣野成敏(『プロフェッショナルサラリーマン』著者)

グローバルに展開する大企業も、地方経済を支える地元密着の中小企業であっても大学卒業後の採用時点では、全員が会社にとって必要な人材と思われて入社する。ところが、入社後10年、20年と経過するうちに、仕事に対する意欲や希望を失い、日々の仕事に身が入らなくなる人もいる。人事に言わせれば、期待はずれの不良資産社員と化していくことになる。そんな人に対して「人事評価の裏ルール」が発動される危険性が大なのだ。なぜ人は不良資産化していくのだろうか。昇進レースは入社後から始まり、30歳前後には「トップ10」と呼ばれる団子状態から抜け出した上位10%の先頭集団が形成される。しかし、全員が課長の昇進適齢期である30代後半まで順位をキープすることはまずない。なぜなら人事部は、本人を鍛え上げるために試練を与える様々な仕掛けを行っているからだ。たとえばその一つが専門性の異なる部署への人事異動だ。化学会社の人事部長はこう言う。「入社後からほぼ3年おきに部署を異動するジョブローテーションを実施しています。人事としては違う現場で仕事をして成果を出せるかどうかを見ているのです。その経験を通じて経営幹部候補となるゼネラリストを養成するのが目的です。その結果、成績が下がる社員もいます。あるいは部署の雰囲気に染まって成長意欲を失う社員もいます。その段階で将来有望かどうかを判断することになります」もちろん、実績を残せば30歳前後で課長代理に抜擢するケースも多いという。だが、仕事に対する意欲を失い、実績を残せなければ、これ以上成長しないと見なされ、重要な仕事も与えられずに取り残されていく。その間に同期との格差はますます開いていくことになる。会社はチャンスというリスクを与えながら、そこから這い上がってくる人間を取り立てていくのである。昔のように順風満帆に会社人生を送ることができない時代なのだ。あえて厳しい競争下に社員をさらし、それをくぐり抜けていく者のみを幹部候補として選別し、それから外れた者に対しても、再チャレンジの機会は与えるが、次は後輩世代と一緒に戦うことになる。そしてしだいにハードルは高くなっていく。その過程で心身ともに疲れ果て、脱落していく人もいる。結果的に会社への貢献度が少なくなり、人事評価も低くなる。会社はそうした人たちを「余剰人員」と呼ぶ。内閣府の調査では日本企業全体で450万人以上の余剰人員がいるといわれる。その数は正社員の2割近くにおよぶ。そして、このような仕事に対する意欲を失った「余剰人員」こそ、会社が経営不振に陥れば、真っ先にリストラされるのである。ではそういう社員とは具体的にどういう人たちなのだろうか。人事部員の話の中から浮かび上がった共通の人物像は以下の3つである。

①チームワークに不向きな協調性のない社員②ムダな仕事ばかりする非効率社員③仕事より遊びが大事な「私生活重視社員」このような社員はあなたの周りにも少なからずいるのではないだろうか。実際に人事はどう見ているのか。電機、食品、金融、小売、化学など10の業種の人事担当者にその本音を聞いてみた。切られる社員はどのようにして選ばれるのか?電機リストラ候補の選別に当たっては、最初に人事評価が低い人をリストアップする。パソコンに入力すれば、成績の悪い順から瞬時にプリントアウトできるから今は簡単だ。そのうえで各事業部門の会議で部長同士が集まって具体的な人選を行うことになる。だが、この会議が曲者。実際の会議ではいろんな〝事情〟が入り込んで、誰がクビを切られるのか、まったく予想がつかない。食品よくリストラ候補になるのは「貢献度が低い人」とか「将来も成長の見込みがない人」といわれるけど、本当の客観的な尺度というものはなく、そこには誰もが感じる〝暗黙の了解事項〟があるわね。簡単に言えば、職場の仲間内で囁かれている「あの人は仕事ができない」と思われている社員。一般的に組織の2:6:2の法則といわれる下位の2割の社員。上位の2割は会社の業績に対する貢献度が高い優秀層だけど、下位の2割は貢献度が低く、支払われる給与以下の仕事しかしない、つまり会社の足を引っ張っていると見られている社員よね。そして真ん中の6割は、それなりに仕事もして成果も出しているんだけど、とくに目立った成績を上げているわけでもない。安定期の会社を維持・存続させるのに必要とされている人たちのこと。金融2:6:2の法則は人事評価の分布とも重なっているよ。うちの昇給やボーナスを決定する人事評価のランクはS、A、B、C、D、Eの6段階に分かれる。平均的に言えば、Sはとびきり優秀な人であり、上位の5%、Aランクは15~20%、Bは30~40%、Cは20%、Dは15%、Eは5%という具合に分布するように設計されている。リストラする社員は、人事評価の悪い人の中から選ばれるが、第一のターゲットがこのDとEのつまり、評価が低い社員だ。小売仮に1割の社員を削減するとなると、従業員1万人の会社は1000人だけど、DとEは間違いなくターゲットにされる。うちはS、A、B、C、Dの5段階評価だが、下のDとCの評価の社員が対象になる。実際に該当するのは2000人ぐらい。リストラするのが1000人だと、2人に1人がリストラされることになる。ITリーマンショック後の不況では、人事評価が真ん中以下の社員から切ったが、今は真ん中以上の人も対象になっている。というのも、うちは上位のS評価と、

、、、C、Dの7段階に分かれているが、正直言ってC評価以下の人はすでに切っているから、残っているのはA、Bクラスしかいない。協調性のない一匹狼型社員小売人事評価という大枠の選別基準はあっても、実際はその中から誰がリストラの対象として選ばれるかはまったくわからない。それでも真っ先に辞めてほしい社員のタイプは大体一致しているな。一つは、職場の仲間との協調性に乏しく、組織やチームワークの仕事に不向きな社員だ。このタイプは本来なら、入社時の採用試験で真っ先に弾かれる人なんだが、うまくくぐり抜けてなんとか生き延びている。組織人として協調性があることは最低の条件だけど、入社後の仕事など、何らかの出来事をきっかけにわがままな性格に変わる人も少なくない。権利意識だけが強くて、できるだけ嫌な仕事を回避しようとする。チームや職場から疎まれているだけに、真っ先にリストラのターゲットにされるタイプだ。食品協調性がない責任回避型の社員は私も大嫌い。何かにつけて自分は責任がないのだと言い逃れをする社員が必ずいる。たとえば営業職であれば、「受注がとれないのは製品コストが高いからだ」と言って、生産部門を非難する。生産部門の人間であれば「製品コストが高いのは調達コストが高いから」と資材部門を非難するタイプね。自ら努力して解決を図ろうとせずに、売れない責任を自分以外の人間になすりつけてしまう。これは管理職でも同じよ。部長に課の成績不振の理由を説明している課長が「部下の○○君に任せたのですが、もっとやってくれると思っていたのですが、彼には期待外れでした」と部下に責任転嫁する人がいるけど、とてもこんな人に管理職を任せられない。間違いなくリストラ候補者よ。電機責任回避型の「自己中」タイプも百害あって一利なしだ。何かにつけて自分は責任がないのだと言い逃れをする。自分のミスは絶対に認めないが、他人のミスには厳しくあたる。営業部時代に、顧客との商談が不成立に終わり、任せた本人の責任を厳しく追及したことがある。すると本人の答えは「誰がやっても一緒じゃなかったんですか」。これには唖然とした。こんなやついらないと思ったね。化学責任逃れをする社員ほど必ずといっていいほどチームワークを乱すわね。ましてやチームを統率する管理職が責任をとらないとしたら、組織がまとまるわけがない。同様のタイプが、飲み会の席などで上司批判や会社批判を広言するタイプね。職場の飲み会の席で、自分のことは棚に上げて一方的に部下や上司、あるいは会社の批判をする社員がいるよね。まともな意見ならいいのだけども、だんだんエスカレートし、何々さんの給料が高いとか、役職が上のくせにといった嫉妬心

を丸出しにして攻撃する。こういった独善的で協調性のない人物をリストラしても誰も文句は言わないわよ。広告そういう社員に限って顧客や取引先とのトラブルが多いんだ。人一倍プライドが高くて、妥協することを知らない。クライアント先を訪門している最中に、一緒に行った後輩が気にくわないからと暴言を吐いてしまい、後から苦情が寄せられた社員がいる。こいつは取引先には行かせられないなと思ったよ。住宅チームで仕事をやっているという感覚が希薄なんだ。プロジェクトの一員であるという自覚がなく、自分だけ違う方向に向いている。自分の興味のある仕事はやるんだけど、それ以外は一生懸命にやろうとしない。与えられた仕事に対する文句だけは一人前だが、締め切りの期日がきても自分の仕事を放り出して手をつけようとしない。結局、それではチームとして困るので、同僚たちがその人の仕事を引き受けて期日に間に合わせることになる。それが当たり前のようになっている。チームにとっては百害あって一利なしのタイプは真っ先に追い出されるだろう。協調性というのは一見、仕事の成果とは関係ないじゃないかと思う人もいるかもしれない。しかし、どんな組織・職場であってもチームで仕事をする。その仲間に気を遣わなければ、いずれ周囲から疎まれて孤立し、やがて本人の居場所も失ってしまう。サラリーマンにとっては必要不可欠な資質なのである。仕事のピントが外れている非効率・非能率型社員化学仕事はやっているようでも、ムダな仕事ばかりする非効率・非能率型社員がどこの職場でも必ずいるもの。もちろん仕事に積極的かつ真剣に取り組んだ結果、他の人よりも効率が落ちるというのであれば、まだ見込みもあるんだけど、このタイプは性格的に何事に対しても「消極的」であり、仕事に対する「計画性がない」という特徴があるわね。典型的なのは、朝早く来て夜遅くまで仕事をしている社員。仕事の質ではなく、時間と量で勝負しているような社員は絶対にダメね。とくに若い女性には嫌われる(笑)。効率とスピードが問われる今の時代では、会社のお荷物的存在でしかない。電機そう。一番嫌われるのはムダな残業をしている社員だ。大体そういう社員に限って昼間の勤務時間中は仕事に集中していない。社員と余計なムダ話をしているか、外に打合せに行くと言って出かけるが、喫茶店などでムダな時間を過ごしている。行動に精彩を欠き、だらだらと仕事をして、結局仕上げるのが遅くなり、残業をすることになる。中には、夕方5時近くになって「さあ、仕事だ!」とエンジンがかかるやつがいる。目標達成意欲に乏しく、間違いなくリストラ候補者だよ。

金融とくに最近では、コスト削減の観点から残業をしている社員が一番嫌われている。非管理職の場合は、所定内労働時間を超えて残業すれば、25%以上の割増賃金を支払わなくてはならないからね。景気がよいときであれば、それだけ生産量も増えるから残業代も問題にならないけど、業績が悪い時期であれば利益を圧迫する要因になる。経営者の多くは、本来、勤務時間内に終わる仕事量を与えられているにもかかわらず、だらだらと残業するのは、残業代という金銭的利益を得るためだという不信感を持ってる。ITちなみに残業が多い人について、過去の行動を含めて分析した経済学者がいる。調査の結果、この経済学者は、学生時代に夏休みの宿題を期限ぎりぎりまで引き延ばした経験を持つ人ほど長時間労働が多いと分析しているが、なんとなく当たっているよね。その話を聞いてから、入社面接でも「中学、高校時代の夏休みの宿題はどのようにやっていたの」と聞くようにしている(笑)。製薬仕事をやらせても時間がかかるとか、期待通りの成果を出せない社員は本来なら、そこで奮起し、仕事のやり方を変えるなど努力する以外にない。でも本人もあきらめてしまい「自分は誰からも期待されていない」「自分はこんなもんだ」という意識にだんだんなってくる。結局、派遣でも代替できるようなルーティンワークの仕事に明け暮れることになる。結果的に自分の給料の分すらも稼げない不良資産社員になってしまう。昔は、そういう使えない社員は、会社の調査資料室といったわけのわからない部署に異動させて、面倒を見ていたこともある。だが、今はそんな部署もなければ飼っておく余裕もない。年齢に関係なく、たとえ30歳であっても辞めてもらうしかないね。効率がものすごく悪いタイプ食品東大卒で入社した社員がいたの。最初は周囲の期待に応えようとして一生懸命に仕事をこなそうとがんばり、それなりの成果を上げていた。常に120%の力を発揮し、高い評価を得て、30歳前後には同期の中でもトップクラスを走っていた。でも昇進レースは長いから、そのままトップを走り続けるのは相当難しい。30代半ばに達したとき、成績では劣っていた同期の社員が彼よりも高い評価を受けたことがある。すると、急に成績が下がり始めたのよ。タコの糸がプッツリと切れたようにやる気をなくし、以前のように積極的に仕事をする意欲も失ってしまった。それからは仕事も中途半端だし、締め切りを守らないということが続いた。結果的に自分はこれ以上無理だと思ったのかもしれないけど、希望退職に応じて退職したわ。電機確かに、自信やプライドを仕事などのトラブルをきっかけにして意欲を失い、二度とリカバリーできなくなる社員が少なからずいるね。とくに東大など一流大学出身者に比較的多い。今までトップを走ってきたせい

か、相手に抜かれてしまうと、そのショックが大きすぎて、抜き返そうとする気力がなくなってしまうんだ。でもそうした原因はともかく、仕事の効率が悪い人ほど上司に嫌われるし、うちの職場ではいらないということで、リストラの候補になってしまうのが現実だ。金融成長意欲を失った社員は、どんなにポテンシャルが高くても使いものにならないな。一言で言うと成果が出せる社員というのはビジネスマン型、成果が出ないのはサラリーマン型といってもいい。つまり、自律的に動くタイプか、受け身型かという違いだね。サラリーマン型、受け身型の中でも会社が必要のない社員として真っ先にリストラしたい社員は、自分の給料分しか働きませんというタイプだ。本人はそう思っていても、実際は給料以下の働きしかしていない。給料以外に会社は福利厚生など給与の1・5倍以上を支払っている。2倍稼いでも自分の食い扶持だけだ。そんなことも知らないで、俺は会社に貢献していると言っているやつはどうしようもない。仕事の効率が悪い、時間がかかりすぎると思っている人は、何度もそのことを職場で指摘されているはずだ。普通であれば、そういう認識を持っていれば、効率よく仕事をするにはどうすればよいのか、自分なりに考えて仕事のやり方を工夫する努力を重ねて、改善していくものである。しかし、いつまでも改善しない人は、そういう意識と努力をしていないと思われても不思議ではない。そしていつまでもダラダラ仕事を続けていけば、残業代コストのかかる不良資産社員と見なされて、追放されることになる。真面目なだけ。ゴールを見ないで仕事を進めるタイプ建設要領の悪い人ほど先入観と独断で物事を進めることが多い。自分がやっていることが本当に正しいのか、疑問も持たなければ検証することもない。それに対して、自分を客観視できる人は、柔軟性を持って物事を考えられる。一般的に言って、善し悪しが明確に判別できる物事などほとんどないのだから。物事は大体、よいか悪いかの中間ぐらいにあり、たいていの人はそんなにぶれた判断をするわけではない。柔軟性のある人は、判断の材料として過去の経験で学んだ知見を加味したうえで判断を下し、物事を解決していくことで自分なりの成功モデルを身につけるようになる。そうして解決した事柄を自分で検証し、それを踏まえて、さらに難度の高い問題に取り組み、解決しようと努力を重ねることで成長していく。ITそういうタイプは伸びしろもあり、まずリストラされることはない。いただけないのは真面目でコツコツやるタイプだ。もっと言えば「真面目で無能な人」。じつはこんな社員ほどやっかいで迷惑な存在はない。ドイツのワイマール共和国の参謀総長だったフォン・ゼークトが言っているの

だが、彼は軍人を有能か、無能か、勤勉か、怠惰かの4つの軸で4タイプに分けている。有能で勤勉な人は参謀タイプ、有能で怠惰な人は司令官タイプ、無能で怠惰な人は連絡将校タイプ。そして無能で勤勉な人は「銃殺」すべきと言っている。これは会社でも同じだ。不真面目で無能な人は、上司が言ったことを伝える役目は果たすのでまだいいが、始末におえないのは、真面目で無能な人だ。そういう人は、上司が口頭で言った企画をまとめてくれと言うと、「わかりました」と言って持ち帰り、自分でそれを加工し、余計な味付けをしてしまう。それこそ時間をかけてやるのだが、出来上がったものは上司の意図から全然外れたものになってしまう。こんなタイプは職場にも迷惑をかけるし、真面目でコツコツタイプというのが一番よくないね。建設なるほど。うちは真面目な人ほどリストラされずに残っている。コツコツとやる万年係長タイプだね。彼はがんばっているからといった理由をつけて、今までリストラ対象から外してきた。でも考えてみれば、そんな人間だけが留まっていては生産性も上がらないし、会社もおかしくなる。たぶん、会社の中では最後の絶滅危惧種になるだろう。要するに、仕事をするには真面目さしか取り柄のない人は使えないということだ。入社後間もない頃は、誰もが真面目さだけしか持ち合わせていないが、その後にいろんな経験を積んで自分なりの成功パターンを身につけていくものだ。ところがそうした意識を持たないで仕事をしていると、真面目=不器用のレッテルを貼られることになる。コツコツとやる万年係長タイプは、昔ならまだ許容されたが今では必要ない人と見なされる。人事担当者の言う「真面目で無能な人」にならないようにしたいものだ。挑戦意欲のない私生活重視型商社仕事に向き合う姿勢がいいかげんで、挑戦意欲に乏しく、仕事よりも遊びを優先する私生活重視型社員は、かつてなら植木等演じる「無責任男」に象徴されるサラリーマン像だった。最近では映画の『釣りバカ日誌』に出ていた西田敏行が演じるハマちゃん役に似ている。そこそこに仕事はするが、出世競争から外れて、私生活を謳歌するスタイルは高度経済成長時代においては、一つの憧れでもあっただろうけど、もはやそんな社員の存在は許されなくなっている。もちろん、私生活を犠牲にしてまで仕事をしなければならないということではない。仕事は就業時間内に効率よくきちんとこなし、それ以外は私生活の時間を充実させる。今流行している「ワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和・両立)」的生き方だ。しかし、現実は仕事と私生活の双方が充実した生き方をできる人はそれほどいない。どちらかといえば、私生活を重視するあまり、仕事の手を抜いてしまう人が結構いる。だが、会社はあくまで仕事優先であり、成果も出さないで仕事の手

を抜いて私生活を楽しもうという社員はハッキリ言っていらない。時間にルーズ、そもそもやる気がない食品成長志向のない私生活重視型とはどんな人かといえば、まず遅刻が多く、早くても始業時間ぎりぎりに来る。たとえば会社に遅れて出社しても、シャツはシワシワのままで髭の剃り残しもあったりする。しかもマンガ雑誌を片手に持って悪びれずに入ってくる社員。億劫なのか鞄も持ってこないし、仕事や勉強をしようという意欲が少しも感じられない人ね。それでいて、仕事がたまっていても残業はしないで、職場の仲間と飲みに行くのを楽しみにしているようなタイプ。本人は会社はあくまでも生活の糧を得るための場所と割り切っているのかもしれないけど、こちらが最も恐れるのは後輩や部下が彼に染まっていくこと。こういう社員は職場のモチベーションすら低下させかねない。化学そう。うちでは典型的なリストラ候補者よね。完全に出世をあきらめて、遊びや趣味にうつつを抜かし、いかにして仕事の手抜きをするかということだけを考えている。仕事は仕事、遊びは遊びと本人は割り切った生き方をしているつもりでも、遊びに夢中になると、仕事の中で必ず障害が出てくる。正直言って、そうした成長志向のない社員は年齢に関係なく、会社にいらなくなっている。業績がいい時代は目をつぶっていたけど、業績不振が続くと、間違いなくリストラ候補の筆頭に入ると思うわ。IT終業時間後に遊ぶのならまだいいが、仕事中に頻繁に携帯をいじっているやつとか、電話がかかってくる度にしょっちゅう席を離れるやつもいる。そうかと思うと、パソコンで私的な飲み会の案内文を作成し、周りから見られているのもかまわずに、勝手にコピーを使い続けているやつもいる。定められた労働時間を守っていないだけでなく、会社の財産を勝手に使うのは窃盗と同じだ。ただちにリストラするわけではないが、私的な流用については上司にしっかりと記録するように言ってある。希望退職募集が始まれば、退職勧奨の際の説得材料には十分になるからだ。最近のワーク・ライフ・バランス(仕事と生活の調和・両立)という言葉をはき違えている人も多い。本来は勤務時間中は仕事に集中し、効率よく仕事をこなして定時までに終えて、残りの時間は自分のための学習や家族との活動に注ぐ。それが結果的に仕事の充実にもつながるという考え方だ。そうではなく、仕事そっちのけで①遅刻を繰り返す、②身だしなみにルーズ、③勤務時間中に携帯をいじる、④私的なコピーを繰り返す──。遊びなど私生活重視タイプは必要とされないのだ。

社内OB化する社員金融人事担当者が頭を抱えている問題の一つが「定年前OB化」という現象だ。平たく言えば、会社に貢献すべきであるのにサラリーマン人生から心理的に卒業し、割り当てられた業務を大過なく処理して過ごす、あるいは懸命に仕事をしているフリをして、難しい問題は先送りすることだ。その結果、仕事の貢献度は年を追うごとに低下していくという状態になる。こんな社員はできれば一掃してしまいたい。広告昔はたくさんいたけど、今はどこも切っているから少ないと思うが、いることはいる。たとえば、夕方の4時頃から新聞を読み始める年輩の管理職がいる。終業時間近くになるとバサバサ大きな音を立てて新聞を捲り始めるのだが、なぜ、そんなことをやるかというと誰かが飲みに誘うのを待っているわけだ。結局、うるさくてしょうがないから、誰かが別の社員に「今日は、お前行け」と合図を送る。つきあうために皆がローテーションをつくって飲みに行っているらしい(笑)。住宅そんな社員は何も50代に限ったことではなく、40代や30代にもOB化している社員がいるよ。とくに若い世代でそうなっているのは会社にとっても重荷であるばかりでなく、本人にとっても不幸だ。不思議なのはそれでいて今まで辞めずにすんでいることだ。少なくともうちの会社では、そんな人の存在は誰もがおかしいと思うし、辞めないですむということはありえないね。会社がそういうぬるま湯的な環境を与えているからじゃないか。20年前、10年前と違い、経営環境がめまぐるしく変化する今日では、年輩者の昔の経験が役に立たなくなっている。相談相手にもならないし、会社のお荷物的存在でしかない。広告もちろん若い頃はがんばって仕事をしてきた人たちだし、憎めないキャラではあるんだ。以前は昇進年齢が遅かったので、それなりに活躍する場もあり、40代半ばに課長になり、50歳を過ぎて部長になっても、まだまだ勝負ができる年齢だった。でも今は若手の抜擢が進み、昇進が早くなるとどうしても取り残される中高年が増えてくる。その結果、居場所を失った人が発生しやすいというジレンマを抱えている。割り当てられた業務を大過なく処理して過ごす、あるいは懸命に仕事をしているフリをして、難しい問題は先送りする「社内OB化」している人はどこの会社にもいるのではないか。若い頃は仕事に燃えてがんばっていたが、仕事で大失敗した、同期や後輩に出世で抜かれた、職場の人間関係のトラブルなど、何らかの原因で仕事への意欲を失った人たちだ。本来なら転職して新たな道を探るのだが、今の居心地もさほど悪くないので留まっている。しかし、業績不振になれば真っ先に切られる人たちでもある。

成長意欲がない電機やはり年齢の若いうちに危機感を与えることが大事なんじゃないの。私の経験では、この社員は伸びるな、この社員は伸びないなという見極めは30歳前後ではっきりとわかる。伸びる社員というのは勉強に対する意欲があり見識も広く、それなりに意志も強いタイプが多い。チームワークで仕事をする際の人の話の理解力も早いし、自分なりに仮説を組み立てることができる力を持つタイプだ。一方、伸びない社員というのは、無理なく仕事をこなしつつ、適当に仕事をやっていればいいのだと考えてしまうタイプ。年功序列が崩れたといっても、まあ仕事もそこそこにやっていればいつかは課長ぐらいにはなるだろうという意識で仕事をしている人だ。実際に、どこまで偉くなりたいという目標もとくになく、それでもまあ給与ももらえているし、生活もなんとかなるし、いいんじゃないかと高を括っている人が結構いる。この時点で、すでに成長意欲を失っている。もちろん、会社の業績がよければ、生き延びることも不可能ではないが、業績不振になると、真っ先にリストラのターゲットになるのはこういう人たちだよ。化学こういうタイプは、このまま放置しておくと、不良資産化するのは目に見えている。会社としては早い時期に不良資産の整理をしようと考えるでしょうね。最近は30代のリストラも増えている。30代といえば、かつてならまだ〝伸びしろ〟があるということで、手をつけてこなかった。しかし、経営環境のめまぐるしい変化やビジネスモデルの変化のスピードが激しい中で、本人の成長をじっくりと待つ余裕はなくなってきている。食品私のこれまでの経験上、ビジネスマンのタイプは「野心家」「エリート」「凡人」の3タイプに類型化できる。今では凡人タイプは、会社として必要がなくなっている。社員が出世していくかどうかは、課長任用時から3年間の実績によって、その先を抜けていくのか、あるいは止まってしまうかの最終的な岐路になると思う。野心家の動機は自らの発意によるものだけど、エリートのそれは上司に与えられたミッションによるもの。凡人は生活者としての欲求からモチベートされると思っている。そして野心家ほど成長のスピードが早く、エリートはそれなりに成長を期待できる。しかし、凡人タイプは会社での成長志向が止まってしまう可能性がある。このタイプはいずれ淘汰されていくべき運命にあるわね。成長意欲があるかないかは30歳前後に見極められるという。その指標となるのが「偉くなりたいという目標もとくになく、それでもまあ給与ももらえているし、生活もなんとかなる」と考えている人たちだ。言葉に表さなくても、仕事に対する態度で見透かされる。課長になっても「ここまでくれば十分」という思い込みが、リストラのリスクを招くことになるのだ。

真っ先に切られる社員の基準とは?人事部の本音トークを聞いて、真っ先に切りたいのがどんな人なのか、ある程度理解できたのではないだろうか。ただし、ここに登場した人物は大手企業の人事部長が中心である。企業によっては、多少評価が低くてもリストラするのはかわいそうかもしれないと考える寛容な企業もある。企業に限らず人事担当者によっても、許容度は異なるだろう。では、大企業、中小企業など企業規模を問わずに「真っ先に切りたい人とは誰か」を挙げてもらおう。以下に掲げるのは、これまで取材した中小企業を含めた人事担当者がリストラしたい社員である。人事担当者は社員の日頃の些細な行動、発言までチェックしていることがよくわかるだろう。1.仕事に対して不真面目な社員・仕事をよくさぼる・忘れやすい。仕事に対する意識が低い・「これは自分の仕事じゃないんで」とすぐ言う人・行き当たりばったりで計画性がない。最後までやり遂げない・仕事をしているようなそぶりを見せつつ、遊んでいる・手抜きしているのが見え見えの人・自分から進んで何かをやろうとしない。簡単な仕事だからと後回しにする人・ただ先例にのみ従った仕事のやり方をする人・常に休憩時間をオーバーして休憩している人・時々惚ける。期限や時間を守れない・会社の看板を自分の看板と勘違いしている人・先例にないことはやらない人2.職場の雰囲気を乱す人・営業成績が平均以下なのに態度のでかい人・なんとか定年まで働ければ、と思っている人・仕事の手間をどうすれば効率的に省けるかを広言している人・無意味な出張を頻繁にする人、直行直帰が増加している人・非を認めない人。ミスを他人のせいにする人・自分から進んで何かをやろうとしない。簡単な仕事だからと後回しにして、突然大きなミスをする人・異性関係がだらしなく、朝が遅い人・「適当にやろうよ」と周囲に語りかける人・「忙しいので、できません」と部長に言う人・自分が置かれた状況がまったくわかっていない人

3.仕事の適性、能力に疑問な人・同じミスを繰り返す・派遣社員でもできる定型業務しかできない・遅刻や欠勤が多かったり、ムダな残業をしている・向上心がなく、消極的になっている・仕事を仕上げるのが常に遅い・有言不実行・できないのに仕事を抱え込みすぎる人・よく失敗し、焦っている人・会議で、ピントはずれな発言をして得意がる人・上司の言っていることが、さっぱり理解できない人・すべてにおいて覇気がない人・勤務中より、飲み会になると元気が出る人・頭の回転は遅いのに、ゴマすりだけはこまめにやる人・何をやっても中途半端。詰めが甘い人いかがだろうか。こんな人は職場に結構いるのではないだろうか。もしかすると、あなたにも思い当たる節があるかもしれない。こうしたあなたの言動は上司ばかりでなく、人事部にも情報が集まる仕組みになっている。リストラの時期になると、日頃の言動を含めて、社員からのヒアリングによってあらゆる情報を集めようとする。それが、リストラの道具に使われているのだ。

正社員というのは雇用が安定し、入社すればよほどのことがない限り安泰だと思っている人が多いだろう。もちろんパート、アルバイトなどの期間の定めのある有期雇用契約の人に比べればリストラされるリスクは低い。だが、正社員も常に給料分以上に稼ぐ力が求められ、それを判断する人事評価が半期、あるいは1年ごとに行われる。低い評価が続けば「使えないやつ」との烙印が押され、何らかの機会にリストラされる社員もいる。使えない社員とは会社や業種によっても違うだろうが、日本企業の人事部がよく口にするのは「貢献度が低く、将来的に成長が見込めない人」のことである。この点は外資系企業とちょっと違う。外資系企業の場合は、職務に必要なスキルがない人、求められるパフォーマンスを出せない人は即刻クビになる。それに対して日本企業は長期雇用を前提にした新卒一括採用スタイルであり、職業経験のない新人を会社が必要な能力を一から育成し、能力に見合う成果を継続的に出していける人が求められている。現在のパフォーマンス重視の外資系より緩いが、それでも期待される能力が身につかず、成果も出せない人は「将来も成長が見込めない」と見なされてしまうのである。それは何も中高年世代に限らない。新卒1年目から50代まで幅広く存在する。それでは「20代」「30代」「40~50代」と世代ごとにリストラされる社員とはどういう人なのか、具体的に見ていこう。20代で会社に見捨てられる人中堅電機メーカーの人事部長は近年の傾向として能力の見定めを早くしていると語る。「早い人は入社後3年で辞めさせています。本当は1年目の教育期間にうちの会社でやっていけるのかどうか見極めることができるのですが、辞めさせたいと思っても、さすがに1~2年でリストラすれば、それこそブラック企業のそしりを受けることになる。それでは早すぎるだろうということで一応3年を会社の育成義務期間とし、その結果で辞めてもらうようにしています」それでは20代でリストラされる人の共通点とは何か。以下の3つである。①会社の仕事の適性に合わない(採用ミス)②精神的ストレスに耐えられない③どの職場に配置しても評価されない①は明らかに採用時の選考ミスによるものだ。選考では本人のスキルではなく、学歴や地頭力などの資質、前向きで明るいかといった人柄を重視する。しかし、よくよく吟味して採用してもハズレ採用も出てくるという。電機メーカーの人事部長はこう語る。「内部の要請に応じて多めに採用するとどうしても歩留まり率が悪くなる。最初にわかる

のが10月の内定式。内定者の顔は覚えているが、話をするとどうもぎこちなく性格も暗い。面接では元気ではつらつという印象でしたが、大丈夫かなと思うこともあります。案の定、入社研修後に営業の配属先に送ると『とんでもない新人を寄越しやがって』というクレームがきます。どこがいけないのかと聞くと『覚えが悪いし、お客さんにまともに挨拶もできない。ちょっと叱るとふてくされる』と言う。なんとか面倒見てよとお願いしますが、変わらなければ早めの肩たたきも考えます」覚えは悪くても周囲に好感を持たれる人であればまだましであるが、誰からも孤立している人はアウトだと指摘するのはゲーム会社の人事部長だ。「仕事をするうえでの基本はチームワークです。先輩に教えてもらっても挨拶もできない、人に対する気遣いができない人は『なんだこいつは』と思ってしまう。入社間もないのに、飲みに誘っても、僕はいいですと断る、職場の行事にも参加しない社員は辞めてもらうしかありません」一言で言えば協調性のない人であるが、入社早々からそういう見方をされる人はおそらくどの会社でも必要ない人と思われるだろう。②の「ストレス耐性」のない人も同じだ。とくにメンタル面が弱い人が少なくないと語るのは流通業の人事部長だ。「入社後研修は泊まり込みで徹底して教育します。採用段階では学生さんにニコニコしながら応対しますが、会社に入り一人前の社会人に育てるには甘やかすわけにはいきません。それまでの好々爺のオジサンから鬼に変わり、朝から晩まで規律を重視した研修が続きますが、中には途中で欠席する人もいる。理由を聞くと、インストラクターに叱責されて精神的ショックを受けたという。本人は、親にもこれほど叱られたことはないと言います。よほど過保護の環境で育ったのでしょう。ああこれはダメだなと思ってしまう。研修後に『うちの会社には向かないので別の道を考えては』とアドバイスすると、すんなりと退職届を出してきます」あるいは研修後の配属先での先輩や上司の指導に耐えられずに早退や欠勤を繰り返し、最後に辞表を出す社員もいるという。一応、辞める前に話を聞いて、もし解決可能な問題であれば、助け船を出すが、本人に問題があるのであれば潔く辞める道を勧めるというのは電機メーカーの人事部長だ。「もちろん、先輩のパワハラがひどすぎて悩んでいる場合は、上司を通じて注意しますし、上司に問題があれば配属先を変えることもあります。そうではなく本人が仕事になじめない、そのために上司に厳しいことを言われてショックを受けたという人はダメですね。企業はある意味で競争社会です。今後の長い職業人生には様々な修羅場が待ち受けています。若いときからこんな調子ではとても耐えられないと判断してしまいます」こういう人たちは本人の性格もさることながら、仕事の向き、不向きや会社との相性も災いしているのかもしれない。一方的に会社のリストラがおかしいとまではいえない。仕事や会社に合わないなと思えば、早く見切りをつけて自分に合う会社を探すことも賢明かもしれない。じつは企業の体育会系出身学生の人気は昔も今も変わらないが、タフさが売り物の体育

会系出身の社員がうつ病になるケースもあるそうだ。信販業の人事課長はこんな事例を披瀝する。「毎年、結構な数の体育会系出身者を採用していますが、数年前から、あれっ、と思うケースが出てきている。一人は球技系のスポーツをやってきた社員ですが、入社2年目で突然うつを発症したのです。周囲に話を聞いても真面目で頼まれた仕事を嫌がることはなく、誰よりも精力的に仕事をしていると言います。どうして彼がと思うのですが、本人に聞くと『仕事の重圧に耐えられない』と言う。体育会系といえば上下関係が厳しく、上の命令に逆らうことなく一生懸命に働くというイメージがありますが、彼も上からの仕事の依頼は断ることもなく、どんなにつらくてもそれを呑み込んでしまうクセがあったそうです。会社に入っても同じように呑み込んでしまうので周囲にはメンタル不調の兆候に誰も気づかない。その結果、突然バタッと倒れてしまう。自分一人で悩んで我慢しようとする。最近は体育会系出身者の耐久性が落ちてきているようです」結果的に彼は会社に勧められるままに退職の道を選んだという。会社の出世レースから弾かれて最初にリストラされるのが③のタイプである。20代後半から30歳にかけて訪れる。理由は定かではないが、突然、成長が止まってしまい、誰からも評価されない人だ。建設会社の人事部長はこう語る。「若くして成長が止まる社員がいます。彼らに共通するのは何にも考えていないというか、自分の目の前の仕事をやっているだけなのです。また、偉くなりたいという意識も持っていない。誰もが入社するときは、ある程度偉くなりたい、あるいは社長にまでなりたいと思って入るでしょうし、そういう意識で競争がスタートする。ところがそういうマインドを失った社員は絶対に伸びることはありません」働くことに対する意欲がなくなってしまうわけではない。自分はこの程度でよいと線引きしてしまう人だ。しかし、自分はよくても周りが期待している以上、成果を発揮しなければ会社に留まることはできないのだ。よく「自分はほどほどでよい」と言う人がいるが、40代、50代ならまだしも20代はせっかく会社が教育投資して育て上げ、これからその分以上に稼いでもらいたいと期待しているのだ。その段階で〝一抜けた〟ではすまされない。希望退職募集の応募年齢を30歳以上に設定したことがあるIT企業の人事部長はこう指摘する。「入社後8年も経てば、会社の戦力として能力を発揮してもらいたいが、それができない社員もいます。今はダメでも今後化ける可能性があるという人もいますが、そんな人が35歳ぐらいから伸びたという話はあまり聞かない。会社にとって早く見切ったほうが、不良債権化して被る損失を早めに処理するという意味でもメリットがあると考えています」長期雇用が前提といっても、使えない社員を長年飼っておく余裕は今の会社にはない。30歳前後でも見捨てられる時代なのだ。30代で会社に見切られる人

30代といえば、会社の中では第一線での活躍が期待される世代であり、その働き方によって将来の給与、出世などの処遇が決まるといっても過言ではない。20代が助走期間とすれば、能力や成果をどのように発揮するかが大きく問われてくる。そしておそらくこの時期にふるいにかけられ、経営幹部候補、職務遂行タイプ、不要人材の3つの区分に分かれることになる。不要人材とは、成績が悪いだけではなく、行動面においても消極的な面が目立ち、職場に悪影響を与える人のことである。そして不要人材のレッテルを貼られると、会社の業績悪化や合併などの機会にリストラ候補者となる人である。では人事担当者は具体的にどんな30代社員を不要人材候補として見ているのか。まず、仕事の進め方について次のような人を挙げている。・指示された仕事の内容を忘れやすい。仕事に対する意識が低い・行き当たりばったりで計画性がない。最後までやり遂げることが少ない・提出期限や時間を守れない・同じ仕事でも他の人よりも遅く、しかもケアレスミスが多い。無意味に業務に時間をかける効率の悪い・何年もルーティンワークをしている・自分から進んで何かをやろうとしない。簡単な仕事だからといって後回しにする思い当たる人がいないだろうか。これは仕事の能力の問題というよりも仕事に対する姿勢の問題だろう。仕事の内容を忘れやすい、計画性がないというのは、そもそも仕事に対する意欲の欠如の表れである。意欲があればどうすれば効率的かつ確実にやれるのか、今までの仕事の方法を見直し、改善しようと考えるはずだ。意欲を失った人は業務量が増えれば増えるほどケアレスミスが多くなり、しまいには難易度の高い仕事も与えられなくなる。やる仕事といえば誰にでもできるルーティンワークしかなく、会社が危機的状況に陥れば、リストラされて賃金の安い派遣社員に置き換えられるだろう。次に挙げるのは本人の行動が周囲に迷惑や悪影響を与えている人である。また、そのことに本人も気づいていない場合が多い。・担当した顧客からのクレームがとにかく多い・営業成績が平均以下なのに態度がでかい。自分を過大評価して同僚に見下したような態度をとる・自分の非を認めようとしない。ミスを他人のせいにする・頭の回転が遅くて、ゴマばかりする顧客からのクレームが多いのは、コミュニケーション不足か、顧客対応を適当にやっているからだろう。社内ならまだしもビジネスに直結する取引先のクレームが多いのは致命的だ。即刻担当を外して異動させるのが一般的だ。そして二度と重要な仕事を任せられる

ことはないだろう。同僚を見下すような態度がでかい人はどんな職場にもいるだろう。おとなしい人が多いほど目立つし、とくに後輩にとっては迷惑な存在である。とくに体育会系出身の営業系に多いタイプかもしれないが、こうした豪放磊落なタイプは成績優秀だからこそ大目に見てもらえるものだ。成績は振るわないのに威張ってばかりいる人は職場で最も煙たがれる。ゴマすりはどこの会社にもいる。とくに目上の人に対しては、すればするほど相手を心地よくさせるものだ。しかし、特定の相手だけ、しかも利害関係のある人にゴマをすっていると、周囲の不興を買いやすい。しかもあまりにも見え透いたゴマすりは上司ですらも辟易する。昔ならゴマすりや忠犬ぶりを示す人はある程度まで出世することができた。その場合でも普通の成績をキープしている必要があった。しかし、今やラインの課長に昇進するには、ポスト不足もあり、人事評価が常に上位ランクに位置していないと候補者にもなれない時代だ。ましてや成績が普通以下なら間違いなくリストラ要員となる。やることをやってからゴマをするのはよいが、単なるゴマすりは箸にも棒にもかからないのだ。30代半ばといえば入社15年目の中堅だ。会社ではなくてはならない存在だが、その余裕からか何でも言いやすい気分になるものだ。ついつい言ってはならないことを口走ったり、行動に出したりするものだ。人事担当者に30代社員について「この人はリストラ要員だな」と思ったセリフを挙げてもらった。さすがに人事部は見逃していない。以下は禁句の言葉だ。・「誰がやっても一緒」という言葉は印象的だった・「これは自分の仕事じゃないんで」とすぐ言う・「なぜ私がこの仕事をしなければいけないんですか?」「忙しいからできません」・自分のことは棚に上げて「○○は給料が高いくせに」「役職が上のくせに」と、やっかみめいたことを言う・「課長の言っていることがわかりません!」と言う・「給料に見合った仕事をしないとばからしい」・「なんとか定年まで働ければ……」・「今の仕事に向いていないかも」・「辞めたい……」口に出さないまでも誰もが一度は思ったことがあるかもしれない。しかし、誰かに言った言葉は人事部の耳に入りやすい。「言葉は身の文」ではないが、日頃の行動を表していると思われてしまう。以前にも述べたが、リストラの対象になるのは現在のパフォーマンスよりも「将来にわたって成長する伸びしろがあるか」である。これらの発言は成長意欲を失い現状に安住している人の言葉だ。こんな言葉を吐く人は「もう限界かな」と思われてもしょうがないだろう。ましてや「今の仕事に向いていない」「辞めたい」などの発言は、待ってましたといわんばかりに肩たたきされるのを誘っ

ているようなものである。とくに注意したいのは上司に対する反抗的言動である。「忙しいからできません」、あるいは「課長の言っていることがわかりません!」と言われてムッとこない上司はいないだろう。その場は「あ、そう」と収めても「こいつ、いつかこの職場から追い出してやる」と思われても不思議ではない。では営業部長が提案した企画に対して「部長、それではかえって複雑になります。ここはこうしたほうがスムーズに進むと思いますが」と逆提案した場合はどうなのか。この場合は非常に微妙だ。管理職の中には様々なタイプがいる。機械メーカーの人事部長に「部長が提案した方針に、常に口答えする部下と逆にその提案をフォローしてくれる部下とではどっちがよい部下ですか」と聞いたことがある。人事部長は一瞬考えて「私の場合は、正当な反論ないし優れた提案なら、そっちの部下を大事にするようにしているが、一般論として言えば、部長の意見に同調し、サポートしてくれる部下がかわいいでしょう。とくにプライドが高い部長であれば、口答えすれば、一発でアウトでしょうね。部下が優秀であればあるほど気に障るものです」と言った。触らぬ神に祟りなしである。本来なら、自分は違うと思えば堂々と主張すべきなのだが、相手によりけり。相性が悪いと思って余計な反論はしないほうが無難だ。40~50代社員で危ない人40代になるとほとんどが管理職適齢期を迎える。しかし現実には部下を持つラインの管理職に全員がなれるわけではない。管理職になれない人は、スタッフ職ないし一担当者、あるいは「専門課長」「担当課長」といった肩書を与えられる人もいるが、要するに名ばかり管理職と呼ばれる人たちだ。日本経済は低成長期に入り、国内市場が収縮しつつある中で多くの企業が海外に活路を見出そうとしている。当然、国内の管理職ポストが増えることはない。そうした中で最大の問題となっているのが企業の人口構成の中でボリュームゾーンといわれるバブル期入社組の存在だ。一般に1988年から1992年にかけて採用された社員のことをいう。22歳で入社した人は2015年に46歳から50歳になる。バブル期には大手銀行では約2000人近くも採用したところもある。他の大手企業でも大量の社員を採用し、その多くが今や中高年になっている。企業の人口ピラミッドは35歳から40歳前半層がやせ細り、45歳以降が異常に膨れあがっているといういびつな構造になっている。このまま放置しておけば、バブル入社組は5年後には51歳から55歳、10年後には56歳から60歳になる。この年齢は最も人件費が高い層であるわりに、第一線での活躍を退いた世代でもある。与える仕事も限られており、いわば会社にとっては〝金食い虫〟でもある。流通業の人事部長は「バブル期に入社した社員で管理職についていない社員はほとんど必要ないといってもよい。全員が管理職になれないので常にリストラ予備軍です。リーマンショック後のリストラでは40代後半以降の世代を中心に人員を削減しましたが、今後の

ターゲットは間違いなくバブル入社組です」と言い切る。すでにリストラに着手している企業もある。住宅関連会社では2014年初めに社員の年齢構成のゆがみを正常に戻す改革プランを策定し、着手している。同社は30代前半から40歳までの社員が極端に少なく、45歳から50代前半が突出しているといういびつな構造になっている。そのために2020年までの5年間に健全なピラミッド型にするのが大きな目的だ。その中には社員を増やすことも視野に入っている。当面は30代社員を増やすことにしている。「このプランは少なくとも2020年までは好業績が続くという前提に立っています。まず、30代の中心層については、契約社員として働いている人を正社員に登用します。さらに中途採用数を毎年増やして徐々に補強していく方針です。同時に新卒の採用数を来期から今年の1・5倍増で採用していく計画であり、社員数が少ない20代、30代を増やします」(同社人事課長)では40代以降の社員はどうするのか。管理職以外については2つに区分する。1つは技術やスキルが若手に伝承されていないという危機感を持っており、今の仕事の継続と並行して若手の教育担当者として業務を担ってもらうようにする。選別に際しては指導能力の有無が問われる。人事課長は「スキルをあまり教えたくない独自色の強い一匹狼タイプは向かない。後輩に対して自分のスキルを丁寧に伝授できる人が向いている」と指摘する。では指導力に欠ける人、一匹狼タイプはどうするのか。ずばりリストラである。「40歳以降については毎年恒常的に20人程度を常備している退職優遇制度を使って、肩たたきして減らしていきます。もちろん社員数が多い年代については退職加算金を厚くしています。今は景気がよくなってきたので、退職してもらう場合の退職加算金も多めに出せる余裕があります。また、早期退職の募集をかけると、無理して肩をたたかなくても自然に手を挙げる人も多いので、あまり人事は苦労していません。個別に面談し、退職を誘いかけても『わかりました』と言う人が多い。これを機会に田舎に帰って仕事をしたいという人、あるいは独立して起業するとか理由は様々ですが、毎年10人以上は希望して辞めていきます」(同社人事課長)一般的に希望退職募集を実施すると、優秀な社員の流出が懸念される。しかし、同社は応募できるのは「会社が認めた者に限る」という条件をつけている。そして残ってほしい人が応募してきたら慰留することにしている。今のところは順調だが、好業績が続けば2020年には目標とする人口ピラミッドになる予定だという。筆者は、少ない人数を毎年のように定期的に削減する手法を「常時リストラ」と呼んでいる。その手法は住宅関連会社のように退職優遇制度を使って個別の社員を退職に追い込むやり方もあれば、人事評価の低い人を対象に、再チャレンジの機会を与え、それでも目標を達成できない人をリストラする手法もある。また、IT企業では年末に行う次年度の要員計画会議で、各部門に「リストラ候補者名簿」を提出させて、そこから具体的なリス

トラ候補者を絞り込んでいる。その仕組みについて人事部長はこう語る。「事業の先行きを考えて、会社全体の人員が増えないように各部門の要員管理を徹底しています。会議では部門ごとに新卒が何人欲しいのか、同時に部門の定年退職者が何人いるのかを集計します。たとえば定年退職者は3人だが、新卒が6人欲しいという部署があれば、原則として現役社員から3人減らすことを義務づけています。もちろん、部門の人件費総額も考慮にいれますが。そうするとうちの部署に必要ないという社員が毎年20人ほどリストアップされてきます。人事部としては、その人たちについて他の部署で必要とするかを打診し、どこにも引き取り手がない場合は最終的に退職してもらうようにしています」最終的には毎年15人程度の行き場のない人が発生するが、退職勧奨するか、あるいは給与が安くてもいいという人は総務部門の仕事か、関連会社に出向させることもあるという。リストアップされる人のほとんどは自覚している人が多いらしいが、中には「えっ、なんで俺が」とまったく理解していない人もいる。人事部長は「上司は日頃から注意しているはずなんですが、そういう人間に限って、上司はバカだと思っているから質が悪い。自分が悪いのではなく、上司の見る目がないから自分の評価が低いんだと思っているやつがいる」と語る。上司の評価が低いだけではなく、どこの部署からもお呼びがかからないのは典型的なリストラ要員だろう。40代以降の非管理職社員はほとんどがリストラ候補との発言があったが、ではどんな人なのだろうか。少なくとも以下の2つの要件に当てはまる人は要注意だ。・同期入社の中で、あなたよりも2段階上の役職者がいる・同じ仕事を今の地位のまま10年続けているたとえば40代以降になれば同期のトップクラスが部長に昇進することは珍しくない。おそらく2番手グループは課長になっている。もしあなたが2段階下の係長、あるいは課長補佐であれば明らかに出世が遅れている。そしておそらく先頭を走る同期を追い抜くことはできないだろう。年功的な処遇制度を持つ日本企業では、役職ごとに最低滞留年数を設けている。たとえば課長は5年、次長は5年という具合に。あなたが45歳の係長で、運よく46歳で課長になれたとしても、最短で次長になるのが51歳。さらに最短で部長になるのは56歳だ。最短で昇進するのも極めて困難であり、もし会社が55歳の役職定年制を設けていれば課長止まりのまま、56歳で一兵卒に転落するかもしれない。2番目の同じ仕事を10年も続けているということは、前述したようにもはや職場や会社はあなたに何も期待していないことを意味する。もし期待しているならば、新規事業部署などに配置し、会社の成長の一翼を担ってほしいと考えるだろうし、あるいは難易度の高い仕事を与え、それを克服してもっと成長してほしいと考えるだろう。ところで、40代以降の非管理職の誰もがリストラ候補だとすれば、その理由は何でもあ

りということにもなる。実際にちょっと驚くような理由でターゲットになる人もいる。以下、列挙しよう。・扶養家族が多い、通勤手当が多い・朝早く出社し、夜遅くまで仕事をしている・会議でメモをとるだけ、会議で発言しない・関連会社に出向している・英語ができないリストラ対象者の選別に当たっては、最初に人事評価が低い人をリストアップし、そのうえで人事部や各部長が入る部門長主催の会議で絞り込むという手順を踏む。しかし、実際の会議ではいろいろな〝事情〟が入り込み、誰がクビを切られるのか、まったく予測がつかないのが実状だ。昔なら「彼は妻と大学に通う子どもを抱えているので生活も大変になるから対象者から外そう」という恩情的な判断を下す会社もあった。最近は妻子持ちを理由に優遇されることがなくなっている。電子部品メーカーの人事部長はこう語る。「リストラ候補者全員の氏名と給与、それに通勤費、家族手当、住宅手当を加えた一覧表を会議に提出しました。じつは人事としては独身者から選ばせようという意図があり、あえて扶養家族がいることを示す表を作ったのです。すると、上席役員がリストを見て、家族手当を筆頭に諸手当が多い社員に退職勧奨者の印をつけていく。役員に『彼は家族を抱えているんですが』と言うと、『家族がいる、いないは関係ないだろう。家族が仕事をするわけではないんだから』と一蹴されました」もちろん会社によって違うかもしれない。だが、厳格なコスト管理の時代に入り、家族手当、住宅手当などの属人的手当が廃止される傾向の中でもはや家族持ちだからとお涙でリストラを避けることはできないのだ。2番目は昔の典型的なもうれつ社員だ。もちろん、今でも夜遅くまで長時間働く社員ほど仕事ができると見なされる風潮も残っている。しかし、それはある程度の優秀な成績を残している社員であり、管理職にもなれず、漫然と仕事をしている社員はいらないと語るのは建設業界の人事課長だ。「これまでうちでは真面目な人ほどリストラされずに残っています。典型的なのが、朝早く出社して夜遅くまで仕事をしている社員。コツコツとやる万年係長タイプに多い。これまで彼はがんばっているからといった理由をつけてリストラから外してきた。でもそんな人間が留まっていくと、生産性も上がらずに会社はおかしくなってしまいます。仕事の質ではなく、時間と量で勝負しているような社員は必要ありません。効率とスピードが問われる今の時代ではお荷物でしかありません」真面目さだけが売りで、生産性やパフォーマンスが低い社員はいらないといえば確かにそうかもしれない。じつは会議でメモをとる人もその範疇に属する人だ。IT企業の人事部長は仕事の進め方が不器用な人と指摘する。

「会議などで、議論をしている最中に一生懸命にメモをとっている人がいます。メモというのは他人の話を聞いて、これは自分に生かせると思ったらとるものです。一字一句きれいに書いて机の中にしまい、後でメモを見ても自分の思いがこもっていないからほとんど意味がありません。速記者ならともかく、最初から傍観者を決め込んでいるとしか思えない。メモをとるタイプは議論や話をしていても何かに関連づけて考えることが下手なのです。また、そういうタイプに限って会議の席では一言も発言しないし、質問にもまともに答えられません」会議の少人数化、短縮化など今ほど効率性が叫ばれているときはない。外資系企業では、重要な会議で一言も発言しない社員は会議のメンバーから外されることがよくある。当然、上司には無能な社員と見なされる。それは日本でも同じなのだ。関連会社に出向している人が一概にリストラされるわけではない。本人の成長を促すため、あるいは現場を知るためにあえて出向させるところも多い。だが、そんな社員とは別に親会社の人員が余っているために関連会社に出向している社員も少なくない。これまでは出向社員もいずれは親会社に戻ることができたし、戻れなくても親会社の給料で定年まで会社人生をまっとうすることができた。だが、今はほぼ不可能になりつつあると語るのは重電メーカーの人事課長だ。「親会社の人員調整弁としてこれまで関連会社に出向させる慣例が長く続いてきました。新たな事業展開で必要になれば、呼び戻して再び活用していたのです。ところが、本体の事業そのものが国内では伸びず、海外にシフトする中でそれほど必要性がなくなっています。その事情は関連会社も一緒です。出向している社員を、使える社員と使えない社員に線引きし、パフォーマンスの悪い社員がどんどん戻されている。ある会社の社長は『3月末でお返しします』と言ってくる。こちらは『社長、そんなこと言わないでなんとかあと1年お願いします』と言っていますが、〝返品〟が増えています。すでに同業他社では希望退職募集でリストラしたところもありますし、うちも時間の問題です」かつてはグループ企業を含めた企業内労働市場で余剰人員を抱え込むことができたが、今はそれが機能しなくなっているのだ。出向社員のリストラがいつ起きてもおかしくない状況にある。英語ができない人、と聞いてピンとくる人もいるだろう。最近はグローバル企業を中心に、昇進・昇格候補者の条件としてTOEICの一定の成績を課すところが増えている。英語ができなければ昇進もできないし、昇進しなければいずれリストラ候補者となるリスクが高まる。また、リスクはそれだけではない。外資系企業による買収や合併などのM&Aによって、英語力が大きく左右することもある。2000年代半ばに日系化学メーカーと米系企業が合弁会社を設立し、多数の社員が親会社から移籍した。米系会社が65%の資本を持っていたが、当初は給与制度など労働条件は親会社と同じ体系だった。ところが3年後に米本社がグローバル経営を軸に直接経営に乗り出してから職場は大きく変化した。同社に移籍した社員はこう語る。「それまでは日本流の完璧な年功序列人事制度から終身雇用でした。ところが米国本社の

方針で世界統一の人事制度に変えるということで大挙してアメリカ人がやってきました。そして2年目に社員の賃金体系がアメリカ型の成果主義にガラリと変わり、従来の部長や課長が降格する事態が発生しました。その決め手になったのが英語力です。グローバル経営を目指す以上、英語力は必須になりました。一方、若手でも英語ができる社員はマネージャーに抜擢されるだけでなく、グローバル要員として米本社に派遣される社員もいました。私は多少英語ができたおかげで降格することもなく、海外赴任も経験しましたが、英語が不得手の同僚のほとんどがリストラされて去っていきました」いついかなるときに英語が必要になるかわからない。英語ができないことは会社員にとってリスクとなる時代に入っている。

どこの職場にも浮いている社員が1人や2人はいるものである。どちらかといえば「あいつはどうしようもないな」と周囲から疎まれている人、嫌われている人だろう。なぜそうなってしまったのだろうか。もともとの資質や性格がそうだったからなのか、あるいは何らかのきっかけで変わってしまったのかもしれない。もちろん、その人の性格は生まれながら持っているものもあれば、その後の人生で形づくられる場合もある。しかし、性格そのものはその人の個性であり、非難されるべきものではないだろう。でもその性格や気質から生まれる行動で周囲から嫌われたり、結果的に会社にいられなくなったりする人がいるのは確かである。ではどんな性格(表れる行動)の人がリストラの対象者になりやすいのか。その基準となるのが成績など実績を重視する定量的評価以外で評価する「人事評価の裏ルール」である。20代から50代の人事担当者100人に裏ルールによって切られる性格面の特徴について答えてもらった。なるほど、これでは仕方がないなと思う人もいれば、こんな人もリストラされるのかと意外な答えもあった。大きく分類すると、以下の6つに集約される。①根暗な人②ひとりよがりな人③ズボラな人、ルーズな人④やさしくていい人、真面目な人⑤空気が読めない人⑥会話ができない人、表現下手な人確かにこんな人はどこの職場にもいそうだ。友達としてつきあうのであれば多少は我慢できるかもしれないが、チームワークを組んで成果を上げることが求められる職場では足を引っ張る存在として疎まれるかもしれない。では人事担当者は具体的にどんな人をイメージしているのか、個々に見てみよう。1.根暗な人・内気でおどおどしている人(30代)・気が弱く対人関係が苦手な人(50代)・はっきりしない、落ち込みやすい人(40代)・弱くてもろい、引っ込み思案な人(20代)・自分に自信が持てない。消極的、悲観的、ネガティブな人(20代)・他人の批判ばかりしているわりに自分の意見を言えない人(40代)・すぐに腐ってしまう人(40代)・自分も他者も愛せない人(50代)

じつは「暗い人」というのは人事担当者にすこぶる評判が悪い。その反対である「明るい人」は、新卒採用や中途採用でどんな人を採りたいですかという質問で真っ先に出てくる言葉だ。金融業の人事部長は「サラリーマンなら暗いというだけで評価が下がります。昇進させても部下を率いることはとても無理ですし、大事な顧客にも紹介できないし、重要な仕事を任せようとも思わない」と指摘する。また根暗イコール消極的と見られがちだ。同時にここに出てくるように「自分に自信が持てなくて、悲観的、ネガティブな人」が多く、すぐに腐ってしまう一方で他人の批判ばかりしている人もいる。もちろん、何かに失敗し、一過性の自信喪失なら誰かが手を差し伸べれば救いようもあるかもしれないが、常態的にそうだと誰からも嫌われるようになる。会社が危機的状況になると、そういうタイプからリストラ候補に挙がるのも頷ける。2.ひとりよがりな人・協調性がない、失敗を隠したがる人(50代)・自分勝手、向上心がない、社交性がない人(30代)・自分に甘く、傲慢な人(50代)・他人を蹴落として上に上がろうとする人(40代)・ひとりよがりで自己評価が高い人(30代)・とにかく気が短い(50代)・不満が多く文句ばっかり、言い訳ばっかりしている人(30代)周囲と歩調を合わせて仕事をすることができない人だ。こういう人は最も始末が悪いと指摘するのは電機メーカーの人事課長だ。「もちろん一プレイヤーとしてはよい成績を上げる人もいます。だが、それが継続的に上げられるかといえば周囲の協力なしには達成できなくなるものです。とくに部下や後輩に嫌われ、仕事をサポートしてもらえなくなれば仕事にも行き詰まってしまう。いずれ息切れして成績も落ちるが、怖いのはプライドが高いためになんとか成果を上げようと法律に抵触するような行為をしてしまうこと。誰も気づかないので後で会社が大きな痛手を被ることになることもあります」独善的な人ほど「他人を蹴落として上に上がろうとする人」になりがちだ。その典型的な手口は人の悪口だ。このタイプが最も信用できないと語るのは食品業の人事部長だ。「飲み会の席でここだけの話ですがと、同僚や自分の上司のミスを告げ口する人がいます。本人は気に入られようとしてやっている行為なんですが、聞くほうはいい気持ちはしない。こいつはもしかすると自分の悪口も言いふらしているんじゃないかと思ってしまう。しかも社内では『あいつはこんな悪口を言っていた』と、言われた本人に伝わるもの。結果的に誰からも信用されなくなります」独善的に振る舞う人はプライドが高い人間に多い。金融業の人事部長は「プライドや自尊心は人間にとって大事です。しかし、そのプライドと実際の自分の実力との差が大きい人は誰からも好かれることはない。実績も出せないのにプライドが高い人間は百害あって

一利なし。職場から追い出されても不思議ではない」と指摘する。3.ズボラな人、ルーズな人・なんでも先延ばしにする人(40代)・いいかげんで存在感がなさすぎ、頼りにならない人(40代)・見るからに覇気がないとか、何事にもルーズな人(40代)・無気力でだらしない人(50代)・困難な仕事に対してすぐにあきらめる(50代)・口だけ、やってもできない人(30代)・おカネにルーズな人(40代)このようなタイプは説明するまでもなく、リストラ候補者だろう。頼んでも締め切りを守らない、仕事をするフリをしてパソコンを使ってSNSに夢中になっている人、席を抜け出してはしょっちゅうタバコを吸いに出かけたり、電話をしに行く人など枚挙にいとまがない。おそらくこういうタイプはいつでもリストラしてもよいように常にチェックされているだろう。旅行業の人事課長はチェック方法についてこう語る。「仕事中にパソコンを私用で使っている人がいますが、あまりに長いと、その時間を記録しています。勤務怠慢だけではなく、会社の財産の私的流用で懲戒処分にも相当します。また、私的な会合の案内をコピーしている社員もいますが、それも本来は禁止です。ルーズな社員というのは必ずミスをするもので、リストラの材料に困ることはありません」実際に仕事中に会社のパソコンを利用し、株取引を繰り返して解雇したことを争った裁判で解雇妥当との判決が出されたこともある。職場の足を引っ張る社員を救ってくれる人は誰もいないのだ。おカネにルーズな人とは、カネを貸しても返さない人もそうだが、なんでもかんでも経費で落とそうとする人でもある。本来、接待費は得意先との会食などに限定されているが、会社の仲間や家族と利用したお店の飲食費まで接待費として請求する人もいる。会社のカネならまだいいのだが、中にはとんでもない人もいる。食品業の調達課長はこう語る。「知人の紹介で設備部品販売会社の部長さんを接待したことがあります。女性のいるお店に連れて行くと、まるで自分の店に来たかのようにこっちはお構いなしに、ホステスの女性とばかりいちゃいちゃしている。帰りは終電を過ぎたのでタクシーチケットを渡しました。ところが数日後、心当たりのない請求書が六本木のバーから郵送されてきたのです。よく見ると宛名のうちの会社の名前が一字間違っている。店に連絡すると、接待した部長さんが飲みに来て、相当酔っぱらったあげく、私の名刺を出して請求書をここに送るように指示したというのです。話を聞いて唖然としました」当然、取引どころか、今後の一切のつきあいを断ったという。このようにだらしない社員は社内どころか、社外にも迷惑を及ぼしている可能性が高い。

4.やさしくていい人、真面目な人・何でも「はい」と言う弱い人(20代)・自分で抱え込んでしまう人、人の責任にできない人(40代)・おとなしくて自分の意見が言えない、人がいい人(50代)・くそ真面目な人(50代)・〝自分〟を持たない人(40代)・人の顔色ばかりうかがっている人(40代)じつはサラリーマンの世界で「やさしくて、いい人」はよい意味で使うことはない。無能な人のことをいう。会話の中でも「あの人はいい人なんだけどね……」と言った後に「でも仕事ができない」とか「いつも失敗ばかりしている」という言葉が続くものだ。人がいいということは誰にでも「はい」と答えるような従順な性格である。当然、敵もいないが味方もいない人である。リストラが始まれば格好の標的になる。どんな人事担当者に聞いても「会社の言いなりになる人」「反抗できない人」がリストラしやすいと回答している。真面目だけが取り柄の「くそ真面目な人」も嫌われると指摘するのは金融業の人事部長だ。「真面目であるゆえに融通がきかない人は銀行でも嫌われる。いかにもあの人は細かいなあと思われている人は事務専門職ならともかく、狡智に長けた銀行業界ではふるい落とされます。臨機応変の対応ができる人が出世し、そうでない人は必要とされません」昔は「真面目にコツコツ」というタイプは重宝がられた。今でも業種によっては評価する企業があるかもしれない。IT企業の人事部長はそんなタイプはいつまでも置いてけぼりにされるという。「上司に言われるままに忠実に仕事をこなすコツコツタイプはありがたい存在でした。本人も真面目にやっていればいつか上司が取り立ててくれると信じ、昇進させてほしいなどと一切口を挟むことはなかった。それはそれで美徳かもしれないが、自分から反論など主張しなければ、よいように使われるだけ。上司が無能ならなおさらです。今は自分の考え、意見を言えない人間は無能と見なされるだけです」この中には「上司の顔色ばかりうかがっている人」もいるだろう。一般的には「真面目でいい人」は褒め言葉なのかもしれないが、会社ではそうではない。よくリストラされた人について、第三者が見て「なぜあの人が」と驚くこともある。なぜそう思うのか、大概は「真面目でいい人」だからだ。5.空気が読めない人・自分がどう見られているか気づかない人(40代)・おっとりとしていて、呑み込みが遅い人(30代)・問題解決能力の低い人(40代)・いつも話のピントがずれている人(50代)・話をしても、いつもいらいらさせられる人(40代)

空気が読めないのは、それだけで罪になるわけではない。自分が会社や顧客など周囲からどう見られているのか、客観視できないことである。それができない人は相手の思いや意向を汲んで、それに合致した商品やサービスを提供することが難しいからだ。今は顧客が何を望んでいるかを先取りして把握して、それに見合った解決策を提供するソリューションビジネスの時代である。あらゆる情報をキャッチするアンテナ力が求められているときに、そのアンテナが壊れているのでは仕事にならないだろう。もちろん、ビジネスのなんたるかを知らない新人ならまだ許される。とくに会議などで、たとえピントがはずれていても積極的に発言することは許される。だが、30代以降の社員は会議やプレゼンで「空気が読める」のかどうかが試される。中堅電機メーカーの社長は「会議は限られた時間内でいかに効率よく進めるかがポイント。その場の雰囲気を踏まえずにムダな時間をつくってしまう社員は評価が下がる」と指摘する。「たとえば司会者が『次は営業部のAさんが~について説明します』と紹介した後、『営業部のAです。本日は~の問題について……』と語り出す人がいます。だが、司会者がテーマについてすでに説明しているのに、また同じことを繰り返すのは時間のムダ。いきなり説明から入ればいい。また、こういう問題点がありますと言って、一つの話を延々と続ける人がいる。それが終わると『次の問題は』と言って話し始める。聞いているほうはいったいいくつあるのか、何を言いたいのか、頭の整理ができません。そうではなく、たとえば話の冒頭に問題点は3つあります、と言えば、ああ3つだなと思うわけです」会議でムダが多いのは、突き詰めるとその場の空気が読めていないことになる。それこそ人事担当者が指摘しているように「話をしても、いつもいらいらさせられる人」の烙印を押されることになる。6.会話ができない人、表現下手な人・自分の意見を求められても言えない人(50代)・何も言えないのに、反抗心だけはある人(30代)・何を考えているかわからない人、影の薄い人ではっきりと主張しない人(40代)・自分を表現できない人(40代)・コミュニケーションがとれない人(50代)常識的に考えれば会社員なのに会話ができない人なんているのかと信じられないだろう。もちろん、営業マンであれば口が達者でなければ商売は成り立たない。会話下手、表現下手が多いのは研究・技術系の社員だ。顧客とのコミュニケーションシーンが少なく、一人で仕事に没頭している時間が長い人だ。とくに若いエンジニアにはそういう人がいる。IT企業の人事部長は社員面談の際にいつも閉口するのがエンジニアだという。「仕事は順調ですかと聞くと『はい』。何か悩んでいることはありませんかと聞くと『ありません』。上司は何かと相談にのってくれますかと聞いても『はい』。何を聞いてもは

い、ありませんしか言葉が出てこない。働く環境について意見はありますかと聞いても『とくにありません』と言うだけ。本当に人間と話をしているのかという気になります」だからといって若い彼らがリストラ候補者になるわけではない。表現力よりもエンジニアとしての才能が認められて採用されたわけであり、それなりの成果を会社にもたらしているのも事実だ。だが、貢献度が高いうちはよいが、いずれコミュニケーション力も必要になる。前出の人事部長は「最初はプログラマーとして仕事をするが、年齢が上がるにしたがってシステムエンジニア、プロジェクトマネージャーとして成長してほしいという思いがある。しかし、コミュニケーション下手ではセールスエンジニアになるのはもちろん、プロジェクトを束ねることもできない。それこそ天才的なプログラマーもいるが、そういう人はほんの一握りにすぎない」と語る。プログラマーのままであれば給与は上がらない仕組みだ。貢献度が下がると会社としては用済みとして退出を願うしかないという。これはIT系企業に限らない。製造業の技術者にもいえることだ。精密機器メーカーの人事課長はこう語る。「事業の見直しなどで人員の異動を行うことがありますが、最も配置先に苦労するのは技術系の社員です。研究一筋できた社員は口数が少ないし、対人関係も得意ではありません。営業系の部門に配置すると必ずといってよいほど部門長から、なんでこんな人間を寄越したんだとクレームが発生します。セールスエンジニアとして鍛えてくださいというしかありませんが、それでも難しい場合は、希望退職制度を使って辞めてもらうようにしています」最近では大手自動車メーカーをはじめ技術系の新卒採用でもコミュニケーション力を重視する企業が増えている。自動車メーカーも燃料電池自動車や電気自動車の開発に象徴されるように、新たな事業領域でもイノベーションが求められている。新卒採用試験でも大手自動車メーカーの採用担当者は「自分が何を学んできて、どんなことに失敗し、今後どんなことを実現したいのかをちゃんと表現できる能力があるかどうかをチェックしている。以前のように言われたことにしたがって漫然と開発している時代ではないからです」と語る。これまで述べてきた性格はどちらかといえば社会人として基本的な能力に欠ける人たちである。だが、リストラされるのはそういう人ばかりではない。コミュニケーション力といっても、会話ができる、できない以上に高い能力が求められており、それが不十分な人もリストラされるのだ。時代遅れの資質・能力~コミュニケーション力、論理的思考力、企画立案力のない人~仕事に必要とされる資質・能力は昔と違って大きく変わっている。昔なら通用したかもしれない能力も今では時代遅れになっているものもある。人事担当者が指摘する今の時代に必要とされる最低限の資質・能力とはなんだろうか。

それはズバリ、コミュニケーション力と論理的思考力、企画立案力の3つである。逆にこの3つの能力が低い人は、決して大きな仕事を任せてもらえないどころか、戦力外の烙印を押されることになる。前述したようにかつては口ベタでも実直に仕事をこなすタイプや決して余計なことをしゃべらず、黙々と仕事する人は重宝がられたものだが、今は無用の長物以下の存在だ。コミュニケーション力といっても、単に愛想がよいとか、追従するといったご機嫌取りの能力ではない。流通業の人事部長はコミュニケーション力に欠けた中堅社員は多いと指摘する。「コミュニケーション力とは、単にゴマすりや相手の気を引く会話ができるというのではなく、人の言っていることをきちんと理解し、自分の言いたいことを明確に伝えることができることです。意外に思うかもしれませんが、これがなかなかできない中堅社員が結構いるのです。コミュニケーション力は社会人に必要な能力として最近盛んにいわれています。この能力は社会人としての入り口でもありますが、最後の決め手といってもいい。これに長けた人は会社の教育や上司の指導を受けても吸収力もあるし、成果も上げています」こちらから一方的にまくしたてるのではなく、相手の言葉に耳を傾けて瞬時にその真意を理解する能力が必要ということだ。これに加えて、総合商社の人事部長は「問題の本質をきちんと説明できる能力」であると指摘する。「商品やサービスの寿命が短く、ビジネスモデルの変化が激しい時代に大きな成果を出すには一人では限界があります。部下や同僚だけではなく、部門を超えて協力しながら作業することも大事であり、コミュニケーション力は不可欠といってもいいでしょう。つまり、問題の本質をきちんと説明できる能力がない人は会社では生きてはいけません。かつては黙々と仕事をこなし、上司に口答えせず、命令に忠実に従うタイプが評価された時代もありましたが、今や会社の内部だけで完結する時代ではありません。社内では通じても外部に通じなければ意味がない。コミュニケーション力は経験と訓練で上達していくことができるし、本人の努力しだいです。ただし、30代は大目に見ても、40代以降だとちょっと無理です。話を聞いていても、だらだらと話が長く、こいつは一体何を言いたいんだと思われる人はダメですね」この能力に近いのが論理的思考力だ。最近では企業の研修でも、論理的思考力を磨く教育を実施しているところが多くなっている。化学メーカーの人事部長は「仕事ができない人に共通するのは論理的思考の弱さ」と指摘する。「昔は定型的業務をいかに改善・改良していくかが最大の課題でした。少し頭を働かせればできましたし、先輩たちのやり方を見て、それを真似れば多少ともまともな仕事ができたものです。しかし今のように変化の激しい時代にはそういうことが通用しません。そうなると様々な情報をたくさん仕入れて、自分でいかに組み立てていくかが問われています。論理的思考の弱い人やそれに慣れていない人は、必ずといっていいほどどこかで躓い

ています。採用試験ではこの能力があるかないかを必ず見ていますが、現役の社員については改めて教育するしかありません。それでもダメなタイプは、一線の仕事は任せられません」思考停止型社員はいらないコミュニケーション力と論理的思考力が密接に関係しているとすれば、3番目の企画立案力もそうである。企画力は事務系ホワイトカラーにとっては必須の能力でもあるが、じつはこれが不得手という社員が大手企業にも意外に多いのである。電機メーカー子会社の人材派遣会社社長は、典型的事例として40代後半の部下の課長についてこう語る。「こちらがいくら説明しても理解してくれないのです。たとえば私なりに考えた時代の変化に応じた新たなビジネスモデル案を示し、彼にその先を考えた提案資料を作るように指示したのです。数日後にできましたと言って作成した資料を持ってきたのですが、それを見て驚きました。要するに私が考えた提案の骨子を単に組み替えただけなのです。私としては提案内容をいつまでに誰がどういう方法でやるかについて考えてほしいと言ったつもりなのですが、それについては何も触れていません。それでも彼は考えましたと言い張る。中身を見ると『~について検討する』とか、検討、検討と並んでいるだけ。こちらは対策を考えてもらいたいのに『検討』2文字だけです。これでは今後とても仕事は任せられないと思いました」もちろん、大手企業の課長職に就いている人物だけに決して無能とはいえないだろう。部下の面倒見もよく、職場では好かれているタイプで、与えられた仕事も実直にこなす真面目な社員でもある。前述した定型的業務を改善・改良していく力はあるのかもしれない。しかし、ビジネス環境が大きく変化した今は、一から自分の頭を使ってビジネスを提案する力が求められているのに、それに対応できる能力を持っていない〝思考停止型社員〟なのだ。上司が期限を設定し、いつまでに、具体的な中身まで踏み込んで仕上げるようにちゃんと段取りをつけてあげなければ動けない人のことである。料理でいえば、素材を提供し、調味料をどのくらい使うのかなど細かいレシピがなければうまく作ることができない人のことだ。目的の料理を作るのに、どんな素材を選び、どういう調味料を使えばおいしく仕上がるのかという創造性が欠如した思考停止型社員は、典型的な代替可能人材としてリストラ候補といえる。人材育成法が無能社員を生み出すではどうしてこんな社員が生まれてしまうのか。もちろん思考停止型社員は、成長意欲

を持たないために招いた自己責任も大きいが、会社が育成を怠ってきた責任も決して小さくないのだ。電機メーカーの人事部長は、思考停止型社員は20代から30代にかけて、もっぱら上の指示を下に伝達するだけの職務に従事してきた人が多いと指摘する。「自ら考える訓練ができていないのは、これまでの業務のせいかもしれません。彼の経歴を見ると、最初に総務に配属され、その後、工場の総務担当を長くやっていたのです。15年以上前の工場の総務といえば、本社の指示を笠に着てものが言え、工場内では比較的偉い存在でした。ということは逆に何も考える必要もなくやれる仕事でもあったのです。それをずっとやってきた人間に、時代が変化したから君も考えてよ、と言っても無理かもしれません」多くのメーカー系の会社では人事マンに限らず、管理系の社員は若くして工場や支店で勤務する。本社の通達や指示を工場内に伝達し、浸透させるのが主な役割である。工場内の地位は係長でも、上の課長クラスは現地採用の生え抜き社員が多く、一目置かれる存在であり、多少偉ぶっても許される環境にある。有能であれば本社に戻され、人事マンなら採用、福利厚生、人事企画、労務管理などの企画畑の仕事を担当することになるが、中には、工場から工場、子会社の人事を転々とする人もいる。だが、一度会社が業績不振に直面すると、業務の縮小を理由にリストラ対象となるのも彼らなのだ。工場や子会社が閉鎖された場合、本社が引き取るほかないが、当然、本社業務もスリム化を図っており、彼らが座る椅子が少ないのが実態だ。運よく戻れたにしても、人材派遣会社の社長が指摘するように、企画立案力を持ち合わせていなければ大きな仕事を与えられることもなく、次の希望退職募集で肩たたきを受けることになる。嫌われる性格はどのようにして出来上がるのか会社に入ってから何らかのきっかけで性格・性質が変わってしまう人がいる。なぜそうなってしまうのか、もう少し詳しく見てみよう。成績上位の優秀な社員の中には、本来は予算の120%達成が可能な力を持っているにもかかわらず、105%、110%程度にとどめておこうかという人もいる。しかし、上司の目は節穴ではない。120%達成が可能な人間が110%の予算をクリアしても、彼より能力は劣るが、一生懸命努力して105%を達成した社員を評価する上司は多い。能力に差があっても仕事に対する情熱や高い意欲を持った部下を評価するものだ。逆に仕事に対する情熱に欠け、将来に対する成長意欲に欠けている人には、決して重要な仕事を任せたいとは思わない。そうした人たちを類型化すれば次の3つのタイプである。・現状安住型・将来設計無計画型・年下の上司を嫌がる独善型

「そろそろ楽をしたい」40代が危ない現状安住型はすでに若くしてその兆候が見られる。建設会社の人事部長はこう指摘する。「若くして成長が止まる社員に共通するのは、何にも考えていないというか、単に自分の目の前の仕事だけやっているだけなのです。また、偉くなりたいという意識も持っていない。誰もが入社するときは、ある程度は偉くなりたいと思って入るでしょうし、そういう意識で競争がスタートします。ところがそういうマインドを失った社員は絶対に伸びることはありません」また、40代後半になり、出世レースでライバルに先を越された社員の中でいきなり意気消沈してしまい、仕事に対する意欲を失ってしまうタイプもいる。本人は、ここまで一生懸命にやってきたのだから、後はマイペースでいこうと思っているかもしれない。しかし、経済の安定期ならともかく、今の環境では許されないと語るのは流通業の人事部長だ。「45歳になると、以前ならああ俺も終わりだな、やることはやったから後は会社が面倒を見てくれるだろうと高を括って守りに入った時代もありました。あと残りが15年ですが、とてもそんな甘えが通用する時代ではありません。今はダメな人はどんどん給料を下げられるし、ある程度地位を築いたから残りは左団扇で、なんて会社は許しません。40代になっても出世競争にさらされ、予算達成や部下の育成を命じられ、そのうえ、部下が上司を評価する多面度評価制度によって部下に突き上げられることになります。そろそろ楽しようなんてことは会社を辞めるまでこないでしょう。エンジンをトップギアに入れてずっと走り切らないといけないのです」手厳しい意見ではあるが、そんな状況下で落ちこぼれていく社員も多いのだ。ビジネスマンにとって〝しがみつかない生き方〟など現実には難しいのである。何をしたいのかわからない目標喪失の社員は危ない一定の年齢に達すると、否が応でも職業人としてどういう生き方を目指すのか選択を迫られる。大きく、マネジメントの道を目指すのか、あるいは培ったスキルに磨きをかけて高度の専門性を有するスペシャリストの道に進むかである。30代から40代前半に一定の方向性を決めなければ、どっちつかずになり、リストラ要員になりかねないと警鐘を鳴らすのはサービス業の人事部長である。「最近は部下のマネジメントや教育はご免だという社員も結構増えています。もちろんポストも限られていますし、当社では自分の専門性や人脈を生かして、部下は持たずに腕一本で稼ぐ人のコースも設定しています。マネジメントを目指すのだけがサラリーマンの道ではありません。専門職としてよい成果を上げれば課長や部長よりも高い処遇もありうる制度にはしています。でもマネジメントを目指すのか、プレイヤーを目指すのかはっきりしない社員が多いのが実態。そういった中途半端な社員ほどリストラ候補者としてリスト

アップされやすいのです」最近では、スタッフの専門職として年輩の社員が自分よりも若い上司に仕えるケースも増えている。しかし、中には年下に仕えることに反発する社員もいる。当然、若い上司はそのような社員は必要ないと判断してもおかしくはない。実際にIT系の大手外資系企業では多くの中高年スタッフ職をリストラした例もある。年下の上司を嫌がる社員は危ない同業のIT企業の人事部長はこう指摘する。「今どこの企業も能力のある若手をできるだけ抜擢したいと思っています。たとえば30代後半のリーダーの下で、経験豊富な40代社員が補佐する体制を築きたいのですが、なかなか難しいのです。若造の下で働けるかという社員もいますから。40代にしてみれば、出してやった知恵も含めて、上に全部成果を吸い取られるわけだし、我慢できない人も多い。中には『あいつは若い頃に俺が仕込んでやったのに、それが今は俺より偉くなっている』と、周囲に言い触らす人もいます。それを知ると、若手の上司も使いづらい。困った挙げ句、部長に配置換えの相談に行きます。部長も引き取り手がないために『しばらく我慢してくれないか』と言うしかありません。おそらく、この時点で、希望退職募集が始まれば、候補者として名簿に載ることになります」もちろん、若い部下に仕えることは辛いに違いない。しかし、ここでケツをまくって自暴自棄になってしまえば会社人生に終止符を打つことになる。大事なことは「この会社で生きていくことをあきらめない」ということだ。流通業の人事部長は40代にこうエールを送る。「とくに40代に言いたいのは決してあきらめるなということです。40代はその上の先輩たちと違ってとにかく年金支給の65歳まで働かなくてはいけません。40代真っ只中の人にはとにかく、自分のため、会社のため、家族のためにがんばれと言いたい。結果・成果を出して自己実現のために必死に努力することです。どうせダメだと言った瞬間に終わりなのです。がんばっていれば必ず報われるし、努力を見てくれている人は必ずいます。たとえ逆境に置かれても、それは自分のプラスに絶対になるんだという『心の持ちよう』が大切だと思います」冒頭に紹介した人事担当者のリストラしたい性格の人の多くは、会社に入ってからそうなってしまった人である。目標の喪失など会社人生の途中に挫折し、そこから這い上がる気力を失ってしまった人も多いだろう。しかし、現実には会社が救いの手を差し伸べることはないのである。

リストラの対象になるのはなぜか管理職が多い。新聞などメディアで報じられる希望退職募集でも管理職層のリストラが目を引く。しかし、よく考えてみると課長、部長というのは同期の中で最も成績優秀かつマネジメント力のある選ばれたリーダーのはず。その人たちがリストラ候補の筆頭に挙げられるのは不思議である。だが、そんな管理職であっても「人事評価の裏ルール」によって厳しくチェックされ、バッサリと切られてしまうのである。電機メーカーの人事担当者は「事業規模が小さくなると、マネージする管理職はそれほどいらなくなる。人件費コストが高く、しかも労働組合の組合員でもないので切りやすい」と言う。だが、これだけでは管理職を切らなければいけない理由がわからない。じつは、多くの日本企業では必ずしもリーダーシップがあるからという理由ではなく、年功ないしは曖昧な基準によって管理職に登用してきたのである。その数は大企業でも全社員の3~4割という多さである。しかもいったん管理職に登用すると降格させることができない人事制度になっている企業も少なくない。欧米企業では管理職の要件を細かく規定した職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)というのがある。年齢に関係なく、この要件を満たすと判断されれば管理職に昇格し、そうでなければ降格される。それに対して日本企業では必ずしも管理職としての職務能力が優れているから選ばれているわけではない。「彼の営業成績は抜群だ。管理職としてもうまくやってくれるだろう」という曖昧な理由で抜擢される場合もあれば、「彼の年齢を考えたら、そろそろ管理職にしてやらないと」という恩情で昇進させる場合もある。もう一つ、会社側にとっては管理職に昇進させれば残業代を払わなくてもすむというメリットもある。したがって論功行賞的な意味合い程度の価値しかなければ、会社が危機的状況になれば、躊躇することなく真っ先にリストラの対象として狙われることになるのだ。さらに管理職のリストラを促すもう一つの要因もある。、過去の成功モデルが崩壊し、市場の成熟化とグローバル化の障壁を前に現場の最前線で陣頭指揮を振るう管理職の役割も大きく変わろうとしている。高齢化と人口減による国内市場の縮小に直面している企業では今まで経験したことのない未知の領域に打って出る必要があり、市場環境の変化を的確に捉えてチャンスに変える管理職が求められている。また、個人プレイではなく、「組織の成果を出す」ことが強く求められている。管理職の仕事は単にコミュニケーションをとることやモチベーションを上げることではなく、最終的な目的は継続的に組織の成果を出し続けることだ。昔のように誰もが勝てる時代ではない厳しい競争環境にあって、管理職一人の力ではなく、組織の成果を最大化するチーム経営できる人が求められている。つまり、人を束ねて継続して組織の成果が出せない人は

管理職を外れてもらうしかないのだ。企業の人事担当者は今の管理職をどう見ているのか。各業種の人事担当者の座談会での発言だ。金融はっきり言って、昇進するのがますます厳しくなっている。最大の理由は、国内の事業そのものが縮小傾向にあること。今後の成長性が見出せない中で、自身の将来にあまり夢を持てなくなっている課長が多い。課長は会社の置かれた状況をよくわかっている現場サイドの一番上であるが、経営サイドから見れば一番下の地位にある。自分がどれだけがんばっても、将来、はたしてどれだけ報われるのかという思いを抱えている。化学うちも組織の縮小・改編でポストも減少傾向にあるし、ライン課長から外されて部下なしのスタッフ課長が増えている。その分、ライン課長の責任が重たくなってきているのは事実ね。昔は部下に号令をかけて、俺についてこい的なやり方でよかったけど、今は部下のケアからコンプライアンスまですべてライン課長の責任として押しつけられている。しかも、うちはプレイヤー上がりの課長が多いけど、最近は会社の方針として単なるプレイヤーは評価しません、ライン課長はマネジメントに徹しろと上に言われている。でもそう言われても自分自身のスタイルはなかなか変えられないんだけど(笑)。通信実は当社も同じような課長が多い。スタッフに任せてじっと我慢していることがなかなかできなくなっている。部下を1から10まで手取り足取りして教えられない課長はラインから外されている。今まで先頭に立ってチームをぐいぐい引っ張り、成績も上げてきた営業バリバリの課長が評価されなくなっている。それよりもスタッフをまとめ上げ、その中で最大のパフォーマンスを発揮する、きちんとプロセスも含めて管理できるマネージャーが求められている。しかし、その上の部長たちはプレイヤー上がりが多いから課長の相談にも乗れない。逆に部長に相談すると「スタッフの面倒をそこまで見る必要はないよ」と言われる始末だ。ITリーダーシップの質が変わってきている。指示するだけの部長ももはや必要はない。部長自身が一人で作業してでも仕事を完成することができないといけない。部下が失敗したら部下に代わって上司が謝罪することも給与に含まれていると昔はいわれたが、今は謝罪してすむというような情状酌量で許される時代ではない。失敗したら即座に責任をとるような厳しい措置も必要だ。いかがだろうか。昔に比べて課長ははるかに厳しい環境に置かれているのが現実だ。役割や責任が倍加し、管理職になりたい人が少ないのも頷けるような気がする。管理職はマネジメントに徹し、部下を一つにまとめ上げて「組織成果」を出すことが最大の責務なのだ。それができなければお役ご免ということになり、降格させられるか、あるいはリストラ要員となる。ではリストラの対象となったり、降格させられる管理職とはどういう人なのか、人事担

当者は座談会でこう語っている。IT降格させる人に共通するのは、予算達成など組織ミッションを達成できなかった人。次に部下の評判が悪い人だ。逆に上に上げたいと思うのは、これから伸びそうなやつ。もちろん結果を出しているからそう思うのだが、それ以上に、伸びそうだから一度やらせてみようかという形でチャレンジさせる。通信前年と同じことを代わりばえもなくやっている人は降格させている。仕事をきちんと回すことも大事なんだが、変化が激しい時代にそこに固執しすぎる人は、むしろマイナス評価になりやすい。同じことをやっている人に共通する仕事のやり方というのは、せいぜい業務を効率化する、人員を減らすといったことぐらいしかない。それでは管理職は務まらない。時代の変化をとらえて、新しいビジネスや付加価値を見出し、部下を巻き込んで何かを生み出せるような人でなければ高い評価を得られない。化学毎年同じ仕事ばかりやっていて、しかもずっと同じ課長を続けていて怖いのは、業績が低迷し、仕事もなくなり、上も下も澱んだ感じに職場がなってしまうことね。そういう状態になる前にそんな管理職は降ろさないといけないと思う。IT当社も基本的に役職が長い人は変えるようにしている。専門性の高い事業部であれば別だが。たとえ結果を出していても5年もやっていると、それしかできなくなる恐れもある。若手を抜擢し、さらに違う経験をさせるということをしないと育たない。同じ役職を10年もやっていたら、基本的に変えるし、そうしないと下のやる気がなくなってしまう。その場合は、同格の役職に異動させることもあるし、子会社に転出させる。そこでも力を発揮することがなければ退場してもらう。ゲームうちは降格させる場合、2年続けて上から3番目の評価であるB以下だったら降格という基準はある。しかし、ダメだと思えば2年も待たずに1年で降ろすこともある。これはひどいなあと思ったら、半期で降ろすこともある。たとえば、あるプロジェクトの責任者を任せたが、このままではどう考えても失敗するというのが見えたら、その時点で躊躇しないで降ろす。半期決算の時代であるし、経営が1年単位で動いているときに2年というのは長すぎると思う。管理職に対して極めて厳しい見方をしている。管理職として無能と見なせば、早期に交代させることもいとわない。組織目標を常に達成することが至上命題になっている。そのためには部下一人ひとりの意欲と成長を促す必要がある。管理職像が大きく変わり、過去には通用したかもしれないが、今は通用しなくなった管理職は退場するしかない。今の時代に通用しない管理職とはどういうタイプか。人事部の証言から以下のタイプ別に分類した。・上意下達・部下依存型・「俺の背中」型

・独裁型・生真面目型・モノカルチャー型・部下を殺す「囲い込み」型部下に〝丸投げ上司〟はもはや絶滅危惧種上意下達型管理職とは、上の指示に唯々諾々と従い、自分で検証することなく部下に丸投げする旧来型の典型的上司のことだ。IT関連企業の人事部長はこう説明する。「役員とのつきあいを大事にし、土日はゴルフばかりして、それだけで管理職になった人です。職場でも遊びの話が大好きで、そのくせ丸投げされた部下が文句を言ってくると『部長がそう言っているんだからそうしろ』と命令するだけです。自分で具体的プランを考えることもなければ、かみ砕いて部下に説明することもしない手抜き上司」と説明する。それでも昔はそんな上司は大勢いた。なぜ今はダメなのか。食品業の人事部長はこう指摘する。「昔の課長はいわば連結ピンの役割でした。上と下の間をつなぐことができれば優秀な課長といわれたものです。降りてきた仕事をきれいにマネジメントするだけでよかった。だが今は経営トップが意思決定するのでは遅すぎて間に合わないという時代です。しかも上はざくっとした絵しか描けないから、それを具体的なプランにして自分で下を引っ張っていく役割が課長に求められているのです」今の時代では単に上の命令を伝達するだけの上司はいらないというのだ。機械メーカーの人事部長は、丸投げ上司は会社のガンとまで言い切る。「部長のビジネスの方針を踏まえて自分なりの考えをまとめ、付加価値をつけて部下を動かす能力のない課長は失格です。部長が言うのは大体の構想であって、それを具体化したプランにするのが課長の役割。プランを提案することもしないで下に回したら、よい結果になるはずがありません。こういう上司を課長の椅子に座らせておくほどの余裕はまったくありません」こういう管理職ほど部下に依存している人が多いのだ。IT企業の人事部長は「ITの会社でありながら、じつは40代後半の課長以上の中にはITスキルが劣る管理職が多い」と告白する。「本来、自分がやるべき会議資料の作成やプレゼン用のパワーポイントの資料の作成も部下に任せて、自分はチェックするだけの管理職も少なくありません。当然、余計な仕事を振られた部下の負担になり、上司に対して快く思わないでしょう。ITスキルが疎いのであれば、部下に頭を下げて教えてもらうか、あるいは自分なりに努力して勉強する意欲を持ち合わせていない上司は成長することはありません」じつはこの会社、人事評価の低い管理職約50人を選んで、顧客向けのソリューション営業部隊を結成した。もちろん、営業成績が悪ければリストラ候補にする計画だった。顧客

の前に出す以上、ITスキルが劣っていては恥ずかしいということで、希望する人にエクセルやパワーポイント作成の講座を開いた。人事部長は語る。「驚きました。なんと9割近い社員が手を挙げて講座を受講したのです。仮にもITを売る会社で、知識のない社員がこんなにたくさんいるのにがっかりしました。これではいくら営業をさせてもとても受注獲得は難しいだろうと思いましたが、結果的に営業でも通用する社員はほとんどいませんでした」大手企業の管理職の実態を表す事例だ。本当はどこの会社にもたくさんいるのかもしれない。金融業の人事部長は〝土下座管理職〟もこの部類に入ると指摘する。「命じた仕事で部下が失敗すると、先方に出向いて、土下座でもしかねないほどひたすら謝罪することも惜しまない管理職がいます。謝罪して一件落着と考えてしまう。部下が失敗しても代わりに謝罪するのも給料のうちに入っていると思い込んでいる。ただそれだけの人です」以前は部下が知らない情報を上司が握り、情報をコントロールすることで部下を操縦することができた。しかし、今は上の指示もそれほど確かなものではない。飲料会社の人事部長は「変化の激しい今は上も情報に確信が持てないし、ましてや上だけ知っていて、下が知らないようでは変化に対応できません。とくに未知の領域に挑もうとする場合、部長も課長以上に詳しく知っているわけではありません。自ら主体的に動き、部下をまとめ上げることができない指示型マネージャーはいらなくなっています」と指摘する。「俺の背中を見ろ」では管理職失格「俺の背中」型管理職は、営業バリバリで抜群の成績を上げて管理職に登用されたが、部下の指導や育成が苦手なプレイヤー型上司のことだ。金融業の人事部長はこう説明する。「部下に仕事を与えても、成果が上がらないことに業を煮やし、我慢できずに自分でやってしまうタイプです。自分ができるのだから部下もできるはずと勘違いしている。今は、自分の背中を見て学べというほど時間の余裕がある状況ではありません。どんなに優秀でも部下を育成できない上司は、スタッフに降りてもらうことにしています」課長一人ががんばっても稼ぎ出すお金はしれている。広告業の人事部長はこう指摘する。「組織として大きな成果を出すには一人では無理です。一人でも多くの人材の可能性を引き出すことが大事。当社ではマネージャーに目標力、役割力、評価力の3つの能力を発揮するように求めています。目標力は部下が自走できる目標を与えること、役割力は成果が出せる配置をする、評価力は部下を納得させる力です。目標を決め、役割を与えて評価することができれば成果を出せるようになります。マネージャーにプレーイングの要素はいらないのです」飲料会社の人事部長も「育成ができない人はダメ」と言い切る。「当社の強みはチーム力であり、それを引き出すのが課長の仕事です。部下の仕事ぶりに

不安を感じ、押しのけて自分でやってしまうのでは部下が育ちません。課長は若い部下をあずかり、戦力化するという中・長期的な経営課題を担っているのです。大切な資産である社員を育成する意識がないのであれば課長を降りてもらうしかありません」独裁型上司の先は、行き場がない独裁型とはその名の通り、出世したとたんにわがままに振る舞う独裁者タイプである。外資系広告業の人事部長はこう言う。「営業力や独自の専門性を買われてヘッドハントされた転職組に多いですね。部下を自分の消耗品のように扱い、自分の言ったことが絶対であり、聞く耳を持たない。外資系には結構います。短期的な利益を追うことはできるが、やがて部下が疲弊し、仕事のやる気まで失わせてしまう。怒った部下たちが経営陣に直訴し、会社を追われた人もいます」その人は英語力もあり、社外のネットワークもある実力の持ち主だったが、部下に足元をすくわれた。流通業の人事部長は「とくに実力がないのに、思い込みで部下に命令し、撃沈させる上司もいます。最後は部下の信頼を失い、誰もサポートしてくれなくなる。独裁的に振る舞うのも時にはいいが、部下の声に謙虚に耳を傾けることも必要です。多少茶目っ気やユーモアも語れるようなバランス感覚がないとダメだ」と指摘する。独裁者タイプはプレイヤー上がりにも多い。電機メーカーの人事部長は「自分と他人は違うものだと認識していない人が圧倒的に多い」と指摘する。「自分のキャラと部下のキャラが違うことを認識できないために、命令口調になり、一方的に指示・命令し、部下の話を聞かなくなります。成果が出せない部下に対して、どうしてできないのかとむかつき、褒めるよりも責め立てることが多くなり、結果的に組織として成果が出ない負のスパイラルに陥ってしまうのです」生真面目タイプが、やがて自分を滅ぼす生真面目型とは、遊ぶこともしない仕事一筋のタイプのことだ。遊びすぎて仕事そっちのけの人は論外だが、逆に遊ぶこともしないで仕事一筋に生きるタイプは出世しないと指摘するのはIT関連企業の人事部長だ。「ゴルフもやるが、サーフィンもやっているといった、遊びや趣味も多彩な人が出世していますね。私生活でも充実した、華やかな雰囲気のある人は部下にも好かれるもの。たとえば部長になったら、なんかいい車に乗っているなと、そういう姿をあえて見せることで、部長みたいになりたいと部下に思われることも大事です。逆に遅くまで残業し、疲れた顔を部下に見せるようなタイプは、絶対に出世できません。仕事に対するプレッシャーがあって、部下に悲壮感を漂わせている人はリーダーシップなんかとれません」飲料会社の人事部長も「成果を上げるために悲壮感を漂わせて長時間働く上司についていくには、家庭もそっちのけで24時間フルコミットできる部下が集まらないといけなくな

る。しかし、そんな職場についていける部下は限られるし、本当のチームとしての強さは生まれません」と指摘する。逆に有能な管理職とは、仕事と私生活をしっかりと線引きできるタイムマネジメントがうまい人だという。「仕事を終えてから、会社に来るまでの時間をいかに有効に使うかがとても大事です。家庭での役割を果たすこと、友人や社外とのネットワークや自分の勉強に当てることもいいでしょう。仕事を遅くまでやり、ただ寝るために帰宅するという繰り返しだと、インプットできるのは会社の中しかありません。長い目で見たら入力不足になり、アウトプットも出なくなり、組織全体がそうであればとても怖いことだと思います」仕事と私生活を線引きできずに、部下まで長時間労働に追い込む上司をどうやって切り捨てるのか。広告業の人事部長は独自の〝計量法〟をこう明かす。「何事も定量化してチェックするようにしています。人事評価などのオフィシャルな情報以外に3つのツールを使います。一つは部下や同僚、上司が本人をどう評価しているかという『多面評価』。そして職場の『ストレス診断結果』と『残業時間』です。毎年組織のストレス度を調査していますが、多面評価とストレス診断結果を総合すると、その部署の長がどんな人で職場がどんな雰囲気なのかが大体わかります。独自に算出した点数が低いなと思えば、実際に職場の人間にヒアリングして、悪い結果が出れば、降格させます。それに加えて残業時間が長いと、残業のコントロールができていないことになります。少なくとも部・課の社員の月の平均残業時間が50時間を超えていれば、管理職失格。当然、リストラ候補となります」これこそ人事部の裏評価である。表に出る情報以外のものを使って管理職はチェックされているのだ。モノカルチャー型管理職モノカルチャータイプとは、単一の精神や発想しか持ち合わせていない人のこと。かつての男性中心の職場から今では女性社員も増え、契約・派遣社員もいれば、年上の部下も珍しくない。外国人社員も増えるなど多様化している。金融業の人事部長は「女性の部下のやる気を引き出し、うまく活用できない管理職はダメ。派遣社員にも仕事を与えつつ、マインドをうまく操れないような管理職はよい効果も上げられない。要は価値観が異なる多様性のある人をまとめきれない上司は必要とされない」と指摘する。化学メーカーの人事部長はこんな事例を紹介する。「外国人を採用し、ふさわしい部署に面倒を見てほしいと依頼し、配属先を決めています。ところが中には『いや、うちは遠慮しときます』という管理職が必ずいます。外国人の採用はダイバーシティ(多様性)だけではなく事業戦略的にも重要なもの。会社が変わろうとしているときに自分は変わりたくない、今のままがいいという上司の典型であり、こういう人は管理職の資格はありません」

飲料会社の人事部長も「自分と意見が合う、合わないといった価値観の違いで仕事をするような人は、これからの時代はよい仕事ができるとは思えない。いろんな価値観があったほうが組織が強くなると信じてやるマネージャーの部署のチーム力は上がる」と指摘する。「単一の価値観同士が集まり、あうんの関係で仕事をすることが効率的だと思われた時代もありました。でもそこからは新しいビジネスは絶対に生まれません。一見非効率に見えますが、いろんな価値観を持った人が共通の目標にチャレンジすることで結果的に素晴らしい成果につながる。それがわかっているリーダーが最も求められているのです」モノカルチャー型管理職が最も失敗しやすいのが海外赴任である。本来、海外の現地法人に出向させるとなると、本人の適性を見て判断するのだが、海外事業の展開のスピードが速いために人選している余裕もなくなっている。その結果、管理職を海外法人の幹部として派遣したが、手痛い失敗を経験している企業もある。電子部品メーカーの人事部長はこう語る。「本社の生産体制の再編プロジェクトのメンバーである部長にアジアの工場の責任者として赴任させました。生産技術には長けた人物ですが、海外で働いた経験はない。役員の指名で本人に告げたとき、発したのが『えっ、俺がやるの』という言葉でした。工場は従業員数千人の規模ですが、彼が赴任してしばらくしてから生産性が向上するどころか、低下し始めたのです。現地の人事担当者に聞くと、どうも従業員と揉めているらしいとのこと。これではまずいということで私が直接、現地の工場に行ったのです。調べてみると、責任者の彼は現地の従業員とコミュニケーションをとろうとはせず、ほとんど部下任せでやっていた。本来ならリーダーシップを発揮して、従業員の意欲を促すために現地語を少しくらい覚えてコミュニケーションを積極的にとらなければいけない。ところが彼はヒエラルキーに依存して仕事をしているだけ。どうも現地人に対する差別意識すら感じました。結果的に1年で辞めさせました」帰国直後に55歳の役職定年を迎え、子会社に異動させられたという。人事部長は「凝り固まった価値観も問題だが、本社から異動させられて、飛ばされたと勘違いしていた」と言う。「子会社に転出させると飛ばされたと勘違いする人が多い。上司からお前がやれと言われて子会社に出向し『まさか俺がやるとは思わなかった』と言うやつに限って、二度と本社に戻ってくることはありませんね」部下の成長をストップさせる「囲い込み」上司部下を殺す「囲い込み」上司とは、有能な部下を抱えて、決して手放さないタイプだ。じつはこのタイプの部長が多いと指摘するのはサービス業の人事部長だ。「部長にとっては戦力となる兵隊が集まっていたほうが、自分にとっては楽ですし、優秀な人間を囲い込みたがる人が多い。でも部下にとっては他の部門では課長になれる可能性があるのに、その芽をつぶしていることになります。当社では課長に昇進するには部長の

判断が左右する。人事としても『優秀なやつを固めていても課長になるのは1人です。このままでは2人は死にますよ。だったら隣の部長に渡して課長にさせてくださいよ』と言っている。それでもなかなかウンと言う人はいません。優秀な社員は会社にとっても重要な資源です。最終的には部長のクビをすげ替えるしかありません」実際にそんな飼い殺し部長を更迭させたことがあると語るのは機械メーカーの人事部長だ。「他の部署では十分に課長になれるのに、部内にピカイチの社員がいるために、結果的に人事評価も1ランク低くなります。それでは昇進だけでなく、給与も上がらなくなり、本人も腐ってしまう。転職でもされたら目も当てられません。その場合は一応部長に『他の部署がだらしなくてどうしようもないので部下を異動させたいので協力してほしい』とお願いします。あるいは別の部門の部長に根回しして引き抜いてもらうケースもあります。しかし、それでも本人は部長に何か言い含められているのか、動こうとしないこともあります。その場合の奥の手として人事管掌の副社長に窮状を訴えて、役員会議で部長の配置換えを行ったことも何度もあります。しかもいったんは部長のままの横移動ですが、しばらくして子会社に転出させるのが一般的です」人的資源を有効活用できない人は管理職として失格だ。ましてや自分の手足として私物化する管理職は百害あって一利なし。会社から追放されるのは時間の問題だ。管理職は「サーバントリーダー」に徹せよ以上、裏ルールによってリストラされる今の時代に通用しない6タイプの管理職を紹介した。上意下達・部下依存型、「俺の背中」型の上司はそれこそ高度成長期の規格大量生産時代には一定の役割を果たした。だが、ビジネスモデルがめまぐるしく変化する低成長時代にはまったく機能しないタイプである。年功序列型風土の昭和的雰囲気を残す会社なら生き残れるかもしれないが、もはや時間の問題である。60歳手前の人なら逃げ延びることもできるかもしれないが、40~50代は完全にアウトだ。独裁型、生真面目型、モノカルチャー型にしても、飛び込み営業主体の会社であれば、独裁型も通用するかもしれない。だが、今の営業スタイルはチームで顧客の問題を解決するソリューション営業に変わっている。また、一人で夜遅くまで残業している「生真面目型」は、ワーク・ライフ・バランスが叫ばれ、長時間残業者を閉め出す風潮の中ではいずれ淘汰されていくのは間違いない。同様にモノカルチャー型のタイプも女性の台頭、外国人社員、契約社員で職場が構成されるようになると〝機能不全〟に陥るのは目に見えている。優秀な部下を囲い込むタイプの存在は、会社にとって優秀な人材を腐らせてしまうことになる。人事から目をつけられるか、いずれ部下からもそっぽを向かれることになる。近年、優秀な管理職のあるべき姿といわれるのが「サーバントリーダー」である。リーダーのために部下がいるのではなく、部下を育成し、支えるためにリーダーが存在すると

いう考え方だ。とくに外資系企業のグーグルなどはプレイヤーと管理職の役割を明確に区別している。部下に奉仕し、仕事がやりやすい環境をつくることで組織の成果を出していくのだという心構えが求められている。そういう管理職に徹することが生き延びていくための秘訣だ。

日本の経済はこれからどうなるのだろうか。少子・超高齢化社会に突入し、消費意欲が衰退し、国内市場が縮小していくことが明らかになっている。そのため大手・中小の企業を含めて海外市場に活路を求めてライバル企業としのぎを削っている。しかし、海外市場で稼ぐことは決して簡単ではない。欧米企業だけではなく中国、韓国や新興国の企業も台頭し、グローバル競争は年々激しさを増している。昔と違い、作れば物が売れるという時代は終わっている。欲しいものが多様化し、国・地域によってもニーズが違う。これまで以上に商品の企画力、開発力など市場のニーズを敏感に感じ取る感性と瞬時に対応できるスピードが求められている。2015年度の東証第1部上場企業の決算では、円安の恩恵もあり、純利益は過去最高を更新した。いうまでもなくその牽引役は海外で稼ぐ電機、自動車をはじめとするグローバル企業だ。一見、日本企業はグローバル市場の戦いに成功を収めているように思える。だが、それは錯覚にすぎない。本当は円安による利益の嵩上げなどマクロ的な要因で財務状況が好転しているだけなのだ。はっきり言って円安という仕掛けられたバブルであり、円安の恩恵を剥ぎ取ったらほとんどの会社はイーブンかマイナスであり、グローバル市場では欧米企業に追い抜かれ、日本企業のシェアは1990年代よりも小さくなっているとの指摘もある。そういう中にあって、各業界は従来の事業戦略の大胆な見直しを迫られており、将来の生き残りを懸けた事業構造改革を含む経営改革を推進している最中である。たとえばパナソニックはプラズマテレビ撤退や半導体工場売却など不採算事業を整理し、住宅関連や車載用部品事業の拡大などビジネスモデルの転換を図っている。また、キヤノンも主力のデジタルカメラや複写機ビジネスに代わる事業としてロボットや生命科学などに新規投資し、経営の柱に育てようとしている。こうした経営改革による新たなビジネスモデルの創出と市場競争力の強化に直面する企業は、ビジネスを支える「人的資源」にも踏み込み、従来にもまして求める人材の要件のハードルが高くなっている。今は円安による輸出増加で収益が回復しているかのように見えるが、将来にわたって持続的な収益が保証されているわけではない。経営者もそのことは十分に知っている。そのため逆に円安による収益増を利用して事業の整理や新規事業への転換を図るための構造改革に着手する企業も増えている。つまり、円安の恩恵を利用して、ますます人員削減が実施される可能性が高いのだ。リストラされる社員の特徴は業界・職種を超えて共通するものもあれば、業界あるいは会社によっても違う。また、社風によっても違う。社風とはその会社が培ってきた価値観であり、それに合う人は出世もできるが、合わないと昇進どころかリストラ要員にされることもある。

元大手メガバンクの人事部長によれば「銀行では目立つ人、先鋭的な人は偉くなれません。銀行は日々稼いでいるわけではないので、評価も減点主義。業績よりも行内でうまくやれる〝ソツのない〟バランス感覚に優れた人が出世する。悪く言えば〝無印良品〟的な人が好まれる」と指摘する。逆に好まれないタイプとは何か。元人事部長はこう指摘する。「あまり目立ちすぎるような人は目をつけられる。とくに不祥事は厳禁です。大手銀行の取締役が頭取秘書に手を出し、子どもまでつくって追放されたことがありますが、不祥事に近い微罪でも出世どころか子会社に追放される。もう一つ嫌われるのは実力はないのにプライドの高い人。大手銀行は東大卒のエリートも少なくないが、仕事の能力に比べてプライドだけは高い東大時代が人生のピークだったような人は偉くなれないし、早くに飛ばされる人もいます」銀行と正反対の社風が証券会社である。証券会社の人事課長はこう語る。「証券は日々稼がないといけません。営業第一、何か一発当てて業績を上げた目立つ人が出世しますし、先鋭的な考えを持ち、突き進んでいくタイプが最終的に生き残ります。逆に謹厳実直タイプやバランス感覚だけで生きている人は出世できないし、いつリストラされてもおかしくないでしょう」小売業はオーナー系の会社が多いが、こうした企業の社風で最も嫌われるタイプは「自分の考えをひけらかす才気走ったタイプ」という。大手小売チェーンの元人事課長はこう指摘する。「創業オーナーというのは、自分の頭でビジネスモデルを生み出した成功体験の塊のような人です。そのモデルに対して『こうしたらよいのではないか、あるいはこう改善すればよい』とか、少しでも口を出すような人は絶対に上にはいけないし、逆に追放されます。そういう人を何人も見てきました。逆に自分の考えを持たないで、従順なスーパーイエスマンだとある程度は出世します」ユニークなのはネット系企業だ。ECビジネスサイト企業の元人事部長は使えないと思われる人は「ノリが悪く、病弱な人」と言う。「ビジネスモデルも新しいし、何に対してもおもしろがるノリが大事なのです。おもしろければ皆で徹夜してもやり続ける体育会系的ノリがないと評価されないし、逆に地味でノリの悪い人はついていけない。体力に自信がない人は長くいることなく辞めさせられる人もいます」。こうした社風の違いによるミスマッチングもあるが、今はなんとか会社が面倒を見てくれても、ビジネス環境の変化でいられなくなる人もいる。業界・職種ごとに必要な人材とそうでない人材とが大きく変わりつつある。必要とされない人材は今後淘汰されていくだろう。では業界・職種の環境がどのように変化し、以前の人材要件とどう変わったのか、今後会社に必要とされない人材とはどういう人たちなのかを見ていこう。

営業職系【食品・飲料業界】製造業の中でもドメスティック産業の典型といわれた食品・飲料業界は今、従来のイメージを一新する大胆な改革に乗り出している。食品・飲料市場は人口減少や少子高齢化による需要の減少に伴い、中・長期的な市場規模の縮小が予測されている。売上高の90%前後を国内市場に依存する業界にとっては生き残りを懸けての海外進出と既存事業の再編・淘汰が実施されている。あるいは生き残り策として海外企業を含めたM&A(合併・買収)の動きも活発化している。売上高1000億円弱の食品加工会社の部長職の男性は「3年前に賃金制度を変革し、管理職層の人件費を抑制する一方、営業や技術系の部下なし管理職の中高年の整理が始まっています。一部は生産業務の支援ということで現場の工場に配置していますが〝追い出し部屋〟のようなところの慣れない仕事に嫌気がさして辞めていく人もいます」と語る。こうした厳しい競争環境の中で勝ち抜いていくためには、新たなビジネスの創造が必至であり、それに必要な人材要件もここにきて大きく変化してきている。食品・飲料業界で共通する必要としない人材のキーワードは以下の3つである。①広告、営業のプロにふさわしい専門性を持っていない人②顧客の課題を解決する営業手法を持っていない人③チャレンジ精神を失った人専門性は国内の企画・営業職に限らない。たとえば海外事業に乗り出す場合、現地工場の建設を十分に任せられる人、人事あるいは経理業務など特定分野に精通した人だ。営業、広告のプロなど専門性を持たない人材が今後のビジネスでは通用しなくなるとの認識がある。たとえば中堅食品会社ではこれまで目標を達成するために営業力の強化や生産性の向上と業務の効率化を追求してきたが、その過程で求められる人材とは「目標達成の遂行力があり、業務処理能力に優れた人材」だった。それが能力開発の指標にもなっていた。それが過去10年間に売上高が倍増したのを契機に、これまでの規模の追求から経営の質の重視へと転換。それに伴い求める人材も「自らの専門性を深く究めた人材」をターゲットに人材の育成にも乗り出している。同社の人事部長は「グローバル化が予想以上に進んでいます。海外で活躍するには、海外人材の指導・育成ができるような専門性は不可欠になっている。専門性を持たない社員は海外はおろか国内でも居場所がなくなってくるだろう」と指摘する。顧客の課題を解決する営業手法とは価値提案型営業でもある。様々な事業者に営業ツールとして提案するIT系のSE職を思い浮かべるが、食料品や飲料を販売する営業職にも今では必須の要件となっている。食品会社の人事部長はこう指摘する。「以前のような卸売業者など右から左に売るだけのルートセールスの時代ではありませ

ん。大規模量販店やコンビニエンスストアが販売先の主流となっている現在では、バイヤーに対して売上げアップにつながる魅力的提案ができるかどうかが営業職の評価にもつながっている。それができない営業職は外れてもらうしかありません」大手飲料会社の人事担当者も「2000年代の初め頃はドメスティックな飲料メーカーでしたが、この5~6年で経営環境は急激に変化しています。営業スタイルも単に商品を販売するだけではなく、相手先の課題を解決する価値提案型営業に変わっていかなければ売れなくなっている」と指摘する。チャレンジ精神は営業職に必須の要件であるが、その中身は微妙に異なってきている。たとえばキリンビールは社員の価値観と行動姿勢を示す「キリンウェイ」を打ち出し、社員の行動の指針として「チャレンジ」「コミットメント」「コラボレーション」の3Cを掲げている。ここでいうチャレンジとは「結果を恐れずに自ら進んで行動し、新しいことや変化に積極的に立ち向かう姿勢」を表す。コミットメントとは「すべてのことに関して深く考え、本質を見抜き、果たすべき役割と目標達成に責任を持つ姿勢」を意味し、コラボレーションは「しなやかな連携・連動の精神をもって協力・協働する姿勢」である。そしてこの3Cを社員の行動に根付かせるために、人事評価の基軸に据えている。キリンだけではない。明治製菓も人材像のキーワードとして「チャレンジ精神」を謳っている。チャレンジ精神の持ち主とは「自ら課題を見つけ、それに果敢に挑戦できる人」であり、同社の人事制度のコンセプトにも組み込まれている。【消費財業界】食品・飲料業界と並んで国内外の市場の競争が激化しているのが消費財業界だ。とくに少子高齢化時代に入り、消費者の財布の紐は固く、商品がよくてもなかなか売れない。売るのは営業部門であるが、近年は営業プラスマーケテイング能力も求められている。消費財業界でもはや時代遅れとされている人材は以下の2つだ。①ルートセールスの営業経験しかない人②顧客が何を望んでいるのか調査・分析する能力のない人ルートセールスとは決まった取引先のみの営業をすることである。もちろん、これまではそれでよかったのかもしれないが、これからは多種多様な業界の新規の顧客開拓ができなければ営業職として通用しない。新規の顧客開拓には当然、顧客が何を望んでいるのか、その背景や商品の市場価値を分析し、売れる商品の企画・開発も含めて提案しなければならない。市場の分析力を持ち、商品の市場性を判断し、将来性を予測できる総合的能力に加えて実務能力も問われる。今の時代の営業職にとってマーケティング能力は不可欠とさえ言ってよい。ではマーケティングに必要なスキルとは何か。消費財メーカーの人事担当者はこう指摘する。「そもそも顧客が何を望んでいるのかを読み解く営業的なスキルがなければダメですね。

それから製品の材料をどうするのか、原価がいくらするのかを含めた開発費用が頭に入り、どうすればコストを抑えられるのかというコスト感覚も必要です。国内で作るのか海外で作るのか、物流費を考慮して計算できる管理会計の知識も求められます。また、作った製品をどうやれば営業や代理店が売ってくれるのかを理解していることも必要。投資する金額とそれに見合うリターンがどのくらいになるのか事業全体を展望できる能力が求められています」こうしたスキルは最も顧客に近い営業現場のことを知らなければ務まらない。しかし、こうしたスキルがあれば、いざというときの転職も可能だ。とくに外資系は優秀な営業職を常に求めている。人材コンサルタントは「外資系企業に転職する道もある。どうすれば市場に受け入れられて消費者に物が売れるのか、スタンダードな売り方の仕組みに関する蓄積と経験があればつぶしがきく」と語る。日本の大手消費財メーカーに入社し、営業経験やマーケティングの基礎を習得したうえで30歳前後に外資系に転職するパターンもある。「大手企業に優秀な人材がいると思っている外資系は多く、とくに30歳前後の日本の大手消費財メーカー出身であれば欲しいという求人が結構あります。ただし、大前提として英語力があること、TOEIC800点以上を要求するところが多い。もちろん、30歳を超えていても営業・マーケティングの実績がある人であれば、欲しいという企業はありますが、外資系は35歳を過ぎるとマネージャーになる人が多いので、日本企業でのマネジメント経験が求められる」(前出・人材コンサルタント)英語力と実績、なおかつマネージャー経験があれば40歳でも外資系への転職は可能という。【百貨店・流通業界】揺れ動くビジネス環境の中で今、最も苛烈な状況に置かれているのは百貨店・流通業界だろう。人口減少、少子高齢化による国内市場の収縮というマクロ的要因が打撃を与える。アベノミクスや外国人観光客の需要で一時的に回復しているが、厳しい経営環境が続いていることに変わりはない。加えて、生産拠点の海外移転化による価格破壊で誕生したユニクロなどの低価格専門店、ヨーロッパの高額ブランド商品の独立店舗化、IT化の進展によるネット通販など消費チャネルの拡大が既存の業態を脅かしている。とりわけ深刻なのが百貨店業界だ。その百貨店・流通業界で今後必要とされなくなる人材は以下の3つである。①販売ができない人②変革志向を持たない人③専門性を発揮できない人販売といえば、百貨店・流通業界では不可欠な能力と思うかもしれない。ところが、とくに百貨店の場合、これまでは意識的に育てることをしてこなかったのである。従来は採

用後、現場勤務を基本としながらも商品企画や仕入れ部門に人材が分散し、販売は取引先の社員やパートに依存する傾向があった。その結果「気がついてみたら販売できる人間が全然育っていなかった。皆、バックヤードの業務に専心し、百貨店にもかかわらず販売できる人間がそれほどいない」(百貨店人事担当者)というのが実態だった。そこで各社は目下、販売のプロの養成に乗り出している。多くの百貨店では新卒社員を対象に「販売のプロフェッショナル」の育成を目指しているが、既存社員についても販売力の向上を促している。販売のプロセスは「仕入れる」(バイイング)、「並べる」(マーチャンダイズ)、「お呼びする」「おもてなしする」(接客)、「情報を得る」(マーケティング)の5つに分かれる。それぞれのプロセスごとに座学と実践を通じて教育している。既存の社員も第一線の販売現場に立たせて、再教育している。百貨店の教育担当部長は、「バイイング、マーチャンダイズ、接客、マーケティングを一通りやらせているが、これはダメだなと思う社員も少なくありません。とくに基本中の基本である接客スキルのない社員は、今後、必要とされなくなる」と指摘する。また、同じ大手百貨店の人事課長も「かつては入社後にいきなりスタッフ職から始まる人もいたが、今は3年間売り場に配属し、販売業務を担当させている。販売は百貨店業務の柱であり、その業務を全うできない人にはどんな仕事も任せられない」と言い切る。もう一つの人材要件は、従来の百貨店ビジネスの殻を破る変革志向を持った人である。同時に重視しているのが「変革を企画し推進できる人」である。人事課長はこう指摘する。「従来型の百貨店のビジネスモデルに安住している社員はこれから通用しません。モデル自体を変革し、新たなビジネスモデルを考え、それを実行するリーダーシップを持った人材でなければ生き残れない。こうした変革者タイプは、少なくとも1990年代前半までの安定経営時代には、百貨店業界では必要とされていなかった人材だが、今では業界の殻を破る存在として渇望されているのです」そうなると若い世代は奮起して挽回はできるかもしれないが、長年の百貨店業界の体質に染まっている中高年世代にとっては受難の時代である。こうした要素に加えて、大規模スーパー業界が求めているのが、高度の専門性を有するスペシャリストである。大手スーパー業界では新たな成長戦略として物販に主軸を据えながらビジネスの多角化を推進している。たとえば総合スーパーのイオンは、一つは中国を中心とするアジア地区への進出であり、もう一つはノンストアビジネスの展開である。同社はセブン&アイ・ホールディングスと同様にすでに銀行業を展開しているが、さらに消費者の側に立ったサービスを提供する業態を追求している。ビジネスの多角化戦略に伴い、新たな人材要件として、IT、物流、商品開発といった専門的分野における業界でも高いレベルのスペシャリスト型人材を設定している。専門性を身につけることは業界で生き残っていく必須の条件であり、逆に何でもやれます的なゼネラリストタイプは代替可能な人材として追放されかねないのだ。

【製薬業界】日本は世界第2位の製薬マーケットを誇る。国内市場に限らずグローバル規模での激しい市場争奪戦が展開され、大規模なM&Aによる業界再編も進んでいる。グローバル市場で勝ち抜くには、新しい製品を最初から作るよりも資本力、開発力、人材力を備えた企業とのM&Aが有効だ。以前の製薬業界はドメスティック産業の典型だった。国内向けの限定された製品を限定した顧客(開業医・病院等)に販売することで得られる収益が大半を占め、海外からの収益は一部にとどまっていた。しかし今や「ビジネス領域が一気にグローバルになり、ワールドワイドの視点でマーケティング、研究開発、製造、販売をしなければならなくなっている。研究・開発・技術本部をはじめ人事、広報、知的財産部などあらゆる部門に携わる人にそれが求められている」(製薬会社人事担当者)時代にある。製薬会社の社員の大半を占める国内営業主体のMR(医薬情報担当者)職を取り巻く環境も大きく変わっている。MR職に求められる人材の要件も高度化し、はっきり言って、以下のタイプは時代遅れの人材となりつつある。①いまだに接待・饗応だけで受注を狙う人②医薬品に対する知識の低い人③不誠実で倫理観に欠ける人製薬会社の人事課長は従来の営業スタイルについてこう語る。「以前のMR職の営業スタイルは、一定の製品知識だけしか持たず、医師との個人的つきあいや度重なる接待を通じて懐に入り込んで製品を売り込むという営業スタイルでした。ゴルフなどの接待営業を通じて医師と親しくなることが営業の基本といわれたものです。しかし、今は接待営業が業界でも厳しく規制されています。今までの時代遅れの営業スタイルでは売れなくなっているのも現実です。医薬品開発技術の高度化とスピード化に伴う多種多様な製品が登場していますし、医師は製品情報もインターネットで入手できる時代なのです」。さらには薬価引き下げなどにより、病院側のコスト意識も高まっている。一方、価格の安いジェネリック(後発医薬品)の台頭により競争環境は一段と激化しているのが実態だ。そうした中でMRに求められるのは学術知識レベルの高い専門性だ。製薬会社の人事部長は「医師の最大の関心事項は患者の最新の治療法です。医師との会話を通じて、医師が気づかない潜在化しているニーズをいち早く察知し、解決のための提案を行うコンサルテーション営業ができなければ受注できない。正直言って時代遅れの営業ではカバーできないし、そういう営業職は使えない」と指摘する。こうした著しい環境変化を背景に新たに人材像の再構築を図る企業も少なくない。たとえば、アステラス製薬は①他社を凌駕する「スピード」、②環境変化に対応する「変革力」、③競争力を生み出す「専門力」、④さらなる力を生み出す「ネットワーク力」──

の4つを掲げている。スピードにはそれぞれの担当分野で競合企業よりも常に先をいくスピードを持ち、やり遂げてほしいとの期待が込められている。「専門力」も不可欠だ。いわゆる知識や特定のスキルを意味する専門性ではなく「豊富な知識や技術を駆使して、顧客が求めるものを実現し、未知のサイエンスの領域を突破することができる専門家的能力」(人事課長)が求められている。もう一つ、製薬企業の最大の使命は人々の健康と医療に貢献することであり、社員に求められる共通の要件として「誠実さ」と「倫理観」を掲げる企業が多い。「ノバルティスファーマの臨床研究データの改ざん事件など、不祥事は会社にとって致命的な打撃を与えます。それだけに倫理違反を行った場合は解雇など厳しい処分が下されます。一度倫理違反で解雇されると、業界に知れ渡るので転職もできませんし、二度とMRとして働くこともできません」(前出・人事課長)コンプライアンスに最も厳しい業界であり、社員の監視も昔以上に厳しい。業界の接待規制に対する違反を部下や同僚から会社に告発されたら一巻の終わりなのだ。企画・開発職系【電機業界】電機業界は中国や韓国などのアジア諸国との熾烈な競争の激化で、シャープをはじめ業績不振に陥った企業も多い。構造改革によるリストラが日常的に発生しているのもこの業界の特徴だ。国内で3500人規模の人員削減を実施したシャープや断続的なリストラを繰り返すソニーだけではない。2014年2月に日立製作所と三菱重工業の火力発電システム事業の統合で誕生した新会社の社員は海外拠点を含めて約2万3000人。うち日立出身の社員が1万5000人を占める。だが、出資比率は日立35%、三菱重工65%。新社長も三菱重工出身であり、事実上重工の傘下に入った。だが、その後の日立出身の社員は悲惨な状態に陥ったという。日立の課長職の男性は「新会社の会長は日立出身だが、日立の役員との兼務。本社の社員にも新会社に行かないかと働きかけがあったが、統合後にリストラされるのではないかと恐れて手を挙げる社員は少なかったのです。実際に移籍した社員たちの中にはその後、子会社に異動し、給与も下げられた社員もいます。とくに管理職の多くが会社を去ったとも聞いています。その中には日立の子会社で引き取った人もいます」と語る。こうしたビジネス環境の大きな変化に対応していくには過去の経験や価値観に頼るだけでは通用しない。当然ながらそうした変化に対応するために働く環境も大きく様変わりしている。いろんな専門分野ごとに分業化されている一方で、ビジネスは複雑に絡んでいる。たとえば部・課といった単位ではなく、組織を超えた横断的なプロジェクト単位で動くことがかなり増えている。ビジネスの幅も拡大しており、専門性も必要であるが、他の領域と連携していかに変化に対応できるかが重要になってきている。

従来とは異なるビジネスの変化とスピード化が求められる中で、不要とされるのが以下の3つのタイプだ。①セルフマネジメント能力が欠如した人②変化に即応できず、行動力に欠ける人③営業力に欠ける人規格大量生産型装置産業の典型であった電機業界。作れば売れるという時代はとうの昔に終わっている。かつて重宝がられていた能力は「専門性」「協調性」「業務遂行能力」の3つであった。しかし、今はそれだけでは生き残ってはいけない。電機メーカーの採用課長はこう指摘する。「次々と新しい製品が生み出されていく商品の多様化とそれに伴う組織改革が常に行われています。専門性があり、協調性があるだけで生き残っていくには難しい。社員に期待されているのは自律的に動くセルフマネジメント能力です。自らビジネスサイクルを回していける人でなければ環境変化についてはいけない。率先してチャレンジを繰り返し、どんどん新しいものを生み出していくタイプでなければ成果も出しにくくなっています」さらに変化の激しい時代に求められる能力として「変化に即応し機敏に行動する力」が挙げられる。重電メーカーの人事課長はこれを「応変力」と呼ぶ。「たとえば従来から決められたテキストや上司の指示に従って研究や企画を行い、すばらしい企画書で研究成果を出すというだけでは決して喜ばれません。そうした従来の延長線ではなく、マニュアルにとらわれない、ありとあらゆる変化を受け止めて機敏に対応していく能力が求められています」自らの考え方に固執することなく、多様な価値観や考え方に柔軟に対応していく能力と同時に変化に応じていく力も必要だ。一言で言うなら「起業家精神」だ。もう一つは営業力だ。精密機器メーカーの人事部長はこう指摘する。「製品開発の変化の中で従来の事業分野の縮小・再編を実施し、新たな事業分野にシフトすることが珍しくありません。当然、縮小・整理される部署にいる人はリストラの対象になります。でも部門の技術者でも新規事業のテーマに対応できる人は異動によって生き残れますが、それ以外は営業で使えるかどうかを判断します。対人交渉力や営業のセンスがある人はセールスエンジニアとしての利用価値がありますが、そうでなければ必要ありません。管理部門でも同じ。現場に出てBtoBの営業ができるのかを見ますが、根っからの事務屋さんタイプは間違いなく切られるでしょう」電機業界の〝追い出し部屋〟が話題になったことがあるが、そこに送られる人に共通するのは、組織再編でどこの部署にもお呼びがかからなかった人だ。最終的に引き取ってもらえるかどうかは営業力のセンスの有無である。【総合商社】総合商社のビジネスはこれまで幾多の変遷を繰り返してきた。商社の基本的収益源は物

流にあり、輸出入や国内取引において、モノの流れを中心に売買行為や投融資により利益を得るのが基本的ビジネス形態だ。かつては原材料を輸入し、日本製品を輸出することで手数料を稼ぐトレードがメインだった。しかし1980年代後半以降、メーカーの海外販売網構築によって、商社自ら事業投資に乗り出す路線に転換した。2000年以降、資源・エネルギー価格の高騰が収益拡大をもたらす一方で需要低迷や資源価格の急落も重なり、その収益構造にも陰りが見え始めている。ビジネスモデルも変化している。取引先・パートナーと組んで単にモノを売り買いするのではなく、工場を建設し、製品を製造する中で商社自ら資金と人材を投入するなど従来の商社とは違う切り口の事業投資によって利益を得るビジネスに変化している。現在ではトレードと事業投資の両輪を重視しながら様々な分野に進出している。ビジネス領域も川上分野のエネルギーや金属原料などの資源関連から川下のスーパー、コンビニのリテール事業をはじめ金融、情報、燃料電池などの新技術分野に至るまで多岐にわたっている。いうまでもなくこうした新たなビジネスモデルを生み出すのは人材だ。商社は人なり、と昔からいわれるが、その事業展開を支える人材に求められる能力も大きく変化している。そうした中で今後、商社から必要とされないのはどういう人か。大きく以下の3つである。①新たなビジネスをつくり出せない人②リーダーシップ+プロフェッショナル性を持たない人③英語ができない人伝統的商社のビジネスの秘訣は3K(コネ、金、経験)といわれ、人間や企業関係のつながりを武器にビジネスをしていた時期もあった。しかし、今やそれだけでは通用しない時代になっている。たとえば以前は商社といえば語学ができる、あるいは顧客を見つけてくるという人脈や体力勝負というイメージがあった。しかし、今や取引先のメーカーもどれだけの価値を提供してくれるのかシビアに見ている。また、事業投資の観点から金融、経理・財務の知識など非常に幅広いスキルが要求されてきており、多岐にわたる事業のどこに行ってもビジネスをつくれる「ビジネス構築力」が求められているのだ。大手総合商社の役員はこう言う。「商社マンの中には私はブラジルのネットワークがあり人脈も豊富、ブラジルのビジネスなら任せてほしいと自慢する社員がいます。でも今は特定の国に通じている人はメーカーにもいます。しかも日本の取引先だけではなく、ブラジルの企業の商品を世界につないでいく役割も求められている。複数の国・地域に精通し、複数の国境を越えたビジネスを提案できなければこれからは通用しません。一国だけに強い一国貧乏社員はこれからは大変でしょう」

同様に求められる専門能力のレベルも上がっている。別の大手商社の人事課長は「どこに投資するかという重要性が高まっている。それに伴い、以前に比べてファイナンスやアカウンティングなど求められる知識レベルは明らかに上がっています。単にお客さんのウケがいいとか人をつなぐのに長けているというだけでは商社マンとして失格。投資に値する事業かどうかを冷静に判断し、ビジネスモデルや事業計画を立て、それを投資家や経営陣が納得するレベルまで磨き上げていくビジネス構築力は以前に比べて必要性が高まっている」と指摘する。リーダーシップとプロフェッショナル性は商社マンに必須の能力だが、業容が拡大するにつれてそのレベルは上がっている。別の大手商社の人事部長はこう指摘する。「事業投資においてパートナー企業と組んで会社を設立し、そこに一人で出向してビジネスをつくり上げていくこともやってもらいます。プロジェクトを含め、様々な人を迎え入れてリーダーとしてやっていかないといけません。専門性は高いが、人を引っ張る力のない一匹狼的な人は活躍できません。リーダーシップ力がない人は、昇進もできませんし、早く見切りをつけて他社に転職するか、顧問にでもなって人脈紹介屋として働くしかありません」事業投資による会社設立後は、単に売上げを伸ばすだけではなく、その会社をいかに経営していくかというマネジメントを含めた全般的な能力も求められている。しかも投資先は国内だけではなく海外が主流になっている。ところが商社マンは英語は得意と思いがちだが、意外にもできない人も少なくないという。大手商社の人事部長はこう言う。「日本国内の企業の取引先も海外に出ていかざるをえなくなっています。そうなると海外出張や現地での会議も頻繁になります。ところが主に国内畑で育った商社の人間は英語ができるわけではないのです。では海外に赴任している社員ができるかといえば、そこそこはできるが、重要な商談などは現地採用の社員を通訳代わりに使って仕事をしている。実際に現地の支店では日本語ができる外国人社員を採用するので日本語が飛び交っているのが実状です。しかし、日本企業の海外売上高が一層増える時代では、英語力が低い社員は取り残されていくでしょう」商社=英語堪能というのは幻想にすぎない。これまでは国内マーケットで生涯を過ごす人も多かった。そうした人は出世の道が絶たれるどころか、肩たたきの憂き目にあうことになる。【化学業界】自動車・エレクトロニクスなどの加工メーカーに素材を供給している化学業界の先行きは決して楽観できる状況にはない。国内需要は低迷し、中・長期的に大きな需要回復が見込めない状況にある。今後も成長していくには必然的に需要拡大が見込めるアジアなどの海外のマーケットに活路を求めざるをえない。化学各社は国内設備の統廃合などの事業構造改革を推進すると同時に高付加価値製品の開発による競争力の確保、新興国などのマーケットに向けた汎用品の生産拠点のシフト、石油原料の確保と調達を目的に資源国企業との連携を推進するなどの成長戦略を打ち立てている。

人材面においては今まで以上に海外の人材マネジメントの強化が求められている。今後は生産拠点の設置を含めて海外拠点の動向をいちはやくキャッチし、消費地のニーズに合わせたビジネス展開が求められてくる。化学各社は海外ビジネスを担える人材を中心に育成しているが、その中で活躍が期待できない人材とはどういう人か。以下の2つである。①海外に赴任しても自分で判断し、実行できない人②生産やマーケティングに関する知識・能力が欠如している人大手化学会社の人事課長は「自らきちんと考えることができ、考えたことを実行できる人でなければ海外で務まらない」と指摘する。「現地に赴任したら激しい環境変化の動きを自らきちんと把握したうえで、どうすればビジネスとしてやっていけるかを考えないといけません。また、考えるだけではなく、考えたことを実行に結びつけられなければビジネスもうまくいきません」では海外で失敗する具体的なタイプとはどういう人なのか。人事課長はこう指摘する。「化学会社のビジネスの中心地はニューヨークやパリではありません。生活環境や言葉も通じない新興国に行くこともあります。間違いなく問われるのはストレス耐性や柔軟性などグローバルにやっていける素養を持っているかどうかです」また、別の化学会社の人事部長は「全員がそうでなければならないとはいえないが、グローバル展開をしていく中で、やはり海外で働きたいという気概を持っていることです。国内中心で働いてきた人でも、海外に骨を埋めるぐらいの覚悟がほしい」と指摘する。また、生産やマーケティングなどの専門性がなければ海外で通用しないと人事部長は指摘する。「外してはいけないのが専門性です。国内外を問わずリーダーシップを発揮するにはチームワーク力も重要ですが、海外では現地企業と一緒に組んで仕事をすることが多いし、専門性を持った人間が集まるプロジェクトで行うことが多い。専門性がないとコミュニケーションも成り立ちません。そのうえでいろんな人とのコミュニケーションがとれることが必要であり、対立する意見を自分の考えをもとにどうまとめ上げるかが求められるのです」グローバル対応も含めて化学各社が近年注力しているのが留学生を中心とする外国人の採用だ。たとえば三井化学はダイバーシティの推進やグローバル化対応の観点から2006年度以降、外国人の本格的採用を実施している。旭化成も国籍や人種、性別などにとらわれないボーダーレス採用を前提に外国人を採用している。先の人事部長は「留学生も含めてアジアの大学の学生はハングリー精神と仕事に対する情熱は半端ではありません。当然、社員にも影響を与えているが、中にはある程度の仕事はできるが、目的意識を持たずに過ごしている日本人社員も少なくありません。意識の深さという点では外国人に負けています。いずれ彼らに淘汰されるかもしれませんね」と危惧する。

会社が変わりつつある今、それに対応できない社員は会社に残ることすら許されなくなるかもしれない。【IT業界】国内市場の成熟化やグローバル化の進展に伴い、IT業界も戦略転換を余儀なくされている。とくに法人顧客を対象とするシステム開発分野では長期的には国内のIT需要は頭打ちになると予測されており、国内市場での競争が激しくなる一方、海外市場への進出も加速すると見られている。IT企業の成長戦略は大きく2つあり、一つは海外市場での積極的な売上げの拡大を図ること、もう一つは国内市場の顧客に対する付加価値の高い商品・サービス提供による絶対的競争優位の地位を築くことだ。それゆえ、求められる人材の要件はかつてなく厳しくなっている。システム開発・構築作業はプロジェクト方式で実施されるが、職種は、中心となるプロジェクトマネージャー(PM)の下でプロジェクトリーダー(PL)、システムエンジニア(SE)、プログラマー(PG)で構成される。PGの業務はソフトウェアの開発。プログラム言語を駆使してSEの設計に基づいてソフトウェアをプログラミングする仕事だ。SEの業務は顧客の要望に基づいてソフトウェアの設計と製作指揮を担当する。PLはプロジェクトの各工程の責任者として現場を指揮する。全体を統括するのがPMだ。プロジェクトメンバーのマネジメントをはじめ、顧客の予算に応じたコスト管理や納期に間に合わせるための時間の管理、システムの品質を含むトータルなマネジメントを行う。今後、生き残っていくのが難しいタイプは以下の2つだ。①年齢と経験値が合わない人②顧客に対する提案能力がない人IT関連企業は離職率が高く、転職を通じたキャリアアップを図る人も少なくない。実際に日本の求人・求職の転職市場の20%以上をIT産業が占めるとまでいわれる。どこの会社でも評価のポイントとしているのが年齢に対する経験値だという。「たとえば30歳でPMを経験している人であれば、どんなプロジェクトに携わったのか、100人のビッグプロジェクトなのかといった難易度をチェックします。それからどこの会社にいたのかも見ている。元請けか2次請けなのか。その場合、最初からシステムが固まっていない顧客のニーズを聞き出し、まとめていく力のある人の評価が高い。それから企業のグローバル化を背景に、英語ができるグローバルなプロジェクトに携わった経験のある人も評価が高い」(人材コンサルタント)IT業界はオフショア開発とクラウドコンピューティングが進行し、システムのものづくりの需要が減少し、中・長期的にはプロジェクト自体も小さなものになっていく傾向にある。そうなると、国内ではものづくりに携わる人の必要性が薄れることを意味する。IT業界で生き残っていくには、顧客に対して、何をつくればよいかを考える、つまり

コンサルティングができない人はこれからは通用しないとIT企業の人事部長は指摘する。「顧客とのリレーションを維持しながら継続的に案件を受注できる人、つまりITを売れる人が求められています。そうでなければ生き残るのは難しい時代に入っている。とくにITの世界は入社後10年でほとんどキャリアが決まってしまう。30歳までにPMの経験がなければ将来も危ういですね。大手企業でも30歳までに英語を身につける、グローバルな経験がないと海外での活躍も期待できない。ITコンサルタントに向けて勉強と経験をいかにしていくかが問われます」キャリアアップするには、SEの場合は転職してITコンサルタントの道に進む人も少なくない。あるいは会社に残ってITアーキテクトと呼ぶスペシャリストになる、あるいはPMを経てプリセールスと呼ぶ技術営業職としてキャリアを築くか管理職の道に進んでいくパターンに分かれる。転職を含めてキャリアの選択肢は幅広いように見えるが、管理職に関しては厳しい状況が待ち受けている。じつは管理職のポストがなくなっていくと指摘するのは前出の人材コンサルタントだ。「IT業界は1973年生まれの労働人口が最も多いのです。1990年代半ばにIT系企業が積極採用を始めたが、その人たちが今は40代前半です。昔はSEやPMをやっている人が少なく、誰もが管理職になれたが、今はPMなどのマネジメント職になれる人が限られています。40代のボリュームゾーンの人たちをどのように処遇していけばいいのか各社も悩んでいます」日本の産業としては大きな位置を占めるIT業界であるが、管理職にさえなれない社員が増えつつある。生き延びていくには、自身のキャリアを積むための努力が不可欠だ。

ここまでお読みいただいた読者の中には、もしかしたら自分もリストラ候補かもしれないと思った人もいるかもしれない。もちろん誰から見ても、あの人は切られてもしょうがない人はどこの会社にも存在する。しかし、そんな人はわずかしかいない。ほとんどのリストラ候補者は紙一重の差で決まるのが普通だ。出世競争で火花を散らすライン管理職も決して安泰ではない。仮に花形部署で活躍し、誰もがうらやむ成績を上げているときこそ落とし穴がある。金融業の人事部長は言う。「新規開拓の営業でトップになり、周囲も高く評価しているときが一番危ないのです。本人は有頂天になっているが、じつは今のメンバーだからトップになったのであって、会社の指示で売れる商材を売っているから売れたのだとは考えません。うまくいっているときほど自信過剰になり、努力を怠る。そんな人間がすごく多いのです。そしてメンバーが変わり、売りにくい商材を売らなければいけなくなると必ず失速する。結果的に出世争いに敗れるだけではなく、降格やリストラの対象者になることもあるのです」ではどういう生き方、働き方をすればリストラの対象者にならなくてすむのか。その秘訣を教えよう。ずばり会社から見捨てられないための働き方の心得7カ条である。その一挨拶をしっかり。遅刻しないで勤務態度は良好を保て!その二誰にも負けない専門分野を2つ持て!その三会社の内外の人脈づくりに努力せよ!その四年下上司に逆らうことなく、低姿勢を保て!その五後輩の指導役に徹し、慕われる存在になれ!その六対話こそ重要、コミュニケーション力を磨け!その七嫌な仕事でも引き受ける職場の汚れ役になれ!その一挨拶をしっかり。遅刻しないで勤務態度は良好を保て!これまで指摘してきたようにリストラ候補者として真っ先にターゲットになるのは「態度・姿勢」である。つまり組織の一員としての最低限のマナー・行動に欠ける人だ。とくに日常的に朝夕の挨拶ができない人は顧客先でもできない人と見なされ、社会人失格の烙印を押されるのである。たとえば朝の「おはようございます」という挨拶。職場に出勤し、大きな声で元気に挨拶されれば誰もがすがすがしい気持ちになる。逆に挨拶しない、しても声が小さい人は「あいつは疲れているのかな」「なんだか暗いよな」と思われてしまう。また、最近は朝早く出勤する人が増えている。始業前に出社してメールの処理をして、今日一日の予定の段取りなどの準備をしている真面目な人がいるが、そういう人は職場でも好印象を持たれるものだ。できるだけ早く出社し、後から来た人に「おはよう」と挨拶するぐらいの余裕がほしいものだ。

そして絶対に遅刻してはいけない。あなたが成績優秀で職場で余人をもって代え難い人材であるなら別だが、普通の成績しか残せない人であるなら、遅刻は致命傷になるかもしれない。リストラを実施する際に人事評価と並んでよく使われるのが、遅刻、欠勤、懲戒歴などの勤怠記録である。これらは辞めさせるための有効なツールなのである。なぜなら人事評価と勤怠記録は〝客観性を装う〟のに必要不可欠だ。本人を説得させるのに使うだけではなく、仮に社員が「解雇不当」を理由に裁判に訴えた場合の証拠の意味合いも持っている。解雇に関する裁判では、「解雇に相当する客観的かつ合理的な理由が存在するか」というのが最大の争点となる。そのときに会社側が提出する証拠の代表的なものが人事評価と勤怠記録である。しかも最近では勤怠記録をできるだけ詳細につけるように管理職に要請している会社もある。数度のリストラを実施したことのある電機メーカーの人事課長はこう指摘する。「リストラ候補者の選定に当たっては人事評価を基準に決めるが、中にはどう見てもいいかげんな評価としか思えない部署もあるのです。本人に評価が低いことを説明しても納得しないことが多々あります。その場合は、日頃の勤怠記録が重要になる。日時と行為の内容など細かく記載していれば、退職勧奨するのに説得力を持ちます」勤怠には、たとえば会社のパソコンやコピー機の不正使用、経費の不正使用の有無、セクハラやパワハラ行為、最近ではマタハラ行為なども含まれる。したがってこうした事実を突きつけられないためにも日頃から品行方正を心がけるべきだろう。もちろん、社内恋愛や不倫は禁物だ。その行為自体は処罰の対象にならないが、職場の人間に気づかれると悪印象を持たれやすい。その結果、社内恋愛、不倫が原因で社内秩序や風紀に具体的悪影響を及ぼす事態になれば、就業規則に則って「譴責」などの処罰の対象になり、記録されることになる。しかも恋愛や不倫はこじれるとセクハラに変化するのがよくあるパターンである。別れ話のもつれから女性がセクハラやパワハラだと人事に申告するケースもあるのだ。プライベートではともかく、社内ではトラブルに巻き込まれないためにも清廉潔白な人であると思われることが大事だ。その二誰にも負けない専門分野を2つ持て!これからのビジネス社会で生き残っていくには、極論すればプロのマネジメント職かプロの専門職になるしかないと考えている。マネジメント職は自分で描いたビジョンを示し、その実現に向けたプロセスにおいて個々の構成員の意欲を引き出し、集団を一つに束ねてより大きな成果を導き出す人である。会社の中では経営幹部としての成長が期待されている人であり、あらゆる業種・業態を超えたプロの経営者が理想像となる。

それに対してプロの専門職とはどういう人だろうか。かつて筆者はプロの専門職についてこう定義したことがある(拙著『会社を利用してプロフェッショナルになる』)。専門職とは、特定の分野に関して高度の専門能力を有する人である。「プロの専門職」とはつまり、人事や財務、あるいは技術の分野において、他社の追随を許さないほどの知識・経験・スキルを持ち、その分野の未知の領域を探求し続けることに寝食を忘れて没頭できる知力・体力・気力を備えた人である。といっても決して専門バカではない。高度の専門性を持っていることは当然として、企業を取り巻く社会環境や市場のニーズなどを敏感に察知する能力を併せ持ち、常に時代に合ったサービスや商品を生み出し、会社に貢献できるプレイヤーでなければならない。ハードルが高いように思うかもしれないが、あくまで目指すべき姿を示したものだ。またこの域に達していなくても、部門内で何か光っている専門的技術・技能を持っている人は貴重な存在である。化学会社の人事部長は専門技能は自分の身を助けることにつながると言う。「会社にとっても必要であることに加えて、本人にとってのリスク管理の面からいっても、優位に立てるのは間違いなく専門人材です。たとえリストラされなくても、あるいは経営統合の皺寄せを受けて辞めざるをえなくなっても、自分はこれだけは負けないという強みを持っていると労働市場でも断然有利になります。単に私は部長をやりました、管理職をやりました、では世間では通用しません。仮に今はそれほど蓄積したスキルがなくても40代前半であれば、今からでも遅くはない。専門的スキルを十分に磨くことだと思います」同じように食品会社の人事部長も専門人材は上司にとっても貴重な存在なのだと言う。「何か一つのことに長けたスペシャリストがいると上司としてもありがたい。バランスよくいろんな分野に通じている部下も存在価値は高いのですが、会社の難局にこそ、専門的な知識と知恵が頼りになります。即断が求められるときに『今から調べます、試してみます』というのでは、チャンスを逃してしまうか、ますます事態を悪化させるだけです。やはりどんな分野でもいいですが、一つのことに長けている人間は上司の目を引きつけやすいし、そのことで難局を打開した実績がある人は決して忘れることはありません」誰にも負けない専門性といっても所属部門の業務とまったくかけ離れた専門性では無用の長物となりかねない。業務の延長線上にある特定の領域のある分野が望ましいが、少なくとも今の業務には直接の関係はなくても、いずれ関係してくるテーマでもいいのである。専門性といっても職種によって異なる。では営業職ではどんな専門性が求められるのだろうか。営業職はおそらく会社の中でも最も人数が多いだろう。営業のプロフェッショナルとして生き残るのは容易ではない。営業職の必須要件はフットワークとコミュニケーション力。体力的にもきつくなる40代

は若手にはかなわないだろう。ではどうするべきか。食品会社の人事部長はこう言う。「営業のプロとして生き残るには、培った人脈とノウハウを若手に伝授しながら育てるコーチング力やチームマネジメント力を身につけることです。これまでの経験を言葉にして語るようにすることなど、社外の勉強会などを通じて学習するのです。昇進できなくても、営業部内では頼りにされる存在になるでしょう」専門性といっても1つあれば事足りるものではない。頼りにされる存在になるには、少なくとも2つ以上の得意分野を持つことが必要だ。IT企業の人事部長はこう言う。「会社の経営課題が何であり、ビジネスの方向性が今後どう変化していくのか、常にアンテナを張っていることです。会社が新しいステージに移行したときに、自分はどんな存在であるべきかを常に意識し、求められるものは何かを考えて身につけることです。開発職であれば、5年先に海外展開したときに、当然英語力が求められるでしょう。また、語学だけでもダメであり、部門共通に必要となるコンプライアンスや法務の知識など、先を読んで身につけておくことも大事です」専門職として生き残るには常にリスクヘッジを心がけることだ。金融業の人事部長は「自分に保険をかけることを忘れないことです。しかもどの保険商品がよいかは年代によって異なるように、会社の状況や自分の置かれた環境によってやるべきことを常に見直す柔軟性も必要。求められる知識や資格をその都度身につけることが大事であり、得意分野があることで職場内で頼りにされる基盤を確立しておくことです」とアドバイスする。ではどのようにして身につけるのか。スキルや専門性は独学で身につけるしかない。自腹を切ってセミナーなどに参加して知識を吸収するとともに、社外の勉強会などで研鑽を積むことである。IT企業の人事部長はこうアドバイスする。「40代の社員に金を出してスキルを習わせる会社はそうはないでしょう。そうであれば会社の仕事が終わった後、内緒で学校に通ってもよいし、独自に勉強することです。また、身につけただけではダメです。自分の専門性やスキルについて日頃からアピールし、会社の中で認知してもらえるようにすることが大事です。『彼は他のことはできないが、この件に関してはあいつしかいない』と思われるようになることです」光るものを2つでも持っていれば、誰かの目にとまるものだ。では専門性を身につけることで会社人生を成功に導いた好事例を紹介しよう。流通業の人事部長は、どちらかといえば社内の傍流の部署に当たる「環境安全室」に異動させられた社員の例を挙げる。「傍流ということもあるし、同じ課長職でも他の部署の課長よりは社内資格の格付けも低かったのです。一度、その課長が私のところに来て、なぜ同じ課長なのに自分の資格は低いのかと文句を言ってきたのです。私はその彼に『会社への貢献度が高ければ資格も上がる。ただし、あなたがやっている環境問題は大事な仕事だと思うが、グループ内への貢献が足りないし、そういうことを社内外にアピールするのが足りないのでは』と説明してやったのです。すると、その後、彼は奮起して環境問題を一生懸命に勉強したようです。その成果が実り、業界他社に先駆けて、環境安全白書を作ることを提案し、自ら責任者として仕上げたのです。その一方で、社外でのパイプを駆使して、講演もこなすようになり、その分野では結構有名人になったのです。その後、ご存知のように企業の環境問題は社会

的に大きなテーマとなっています。彼は当然社内資格も上がり、今ではなくてはならないエキスパート的存在になっています」環境安全室というのは会社に利益をもたらす部署ではない。当初はCSR(企業の社会的責任)の観点から設置された部署であり、会社が業績不振に陥れば部署はなくさないまでも減員による組織内再編に遭遇したかもしれない。しかし今や二酸化炭素排出量の削減は企業の最重要課題に浮上している。「芸は身を助ける」ではないが、何が会社人生の運命を左右するかわからないのである。その三会社の内外の人脈づくりに努力せよ!いうまでもなく人脈やネットワーク力はビジネスにとって重要かつ必須の武器である。一般的に社会人としての年数を重ねれば誰もが社内外に取引先を含めて多少なりとも人間関係を築いているものだ。ネットワーク力なくしてビジネスは成立しないともいえる。とりわけ今日のように商品・サービスの寿命が短く、消費者に飽きられて突然モノが売れなくなる時代においては人脈は貴重だ。サービス業の人事部長は「サラリーマンとして今の危機を乗り切るうえで重要なのはネットワークです。人的ネットワークをいかに多種多様に築いて、維持していくかがリスクを回避する最大の秘訣だと思う。会社の内外に豊富なネットワークを築くことができれば、いざとなってもなんとか生き延びていくことができるだろう」と指摘する。とくに優秀といわれる社員は、単に社内外で出会った人がビジネスに直結するか否かという短いモノサシで判断するのではなく、ビジネスを超えた幅広い人脈を持ち、人脈から得られる多様な情報を分析し、最終的にビジネスを成功に導く人である。大手設備機器メーカーの営業部長は人脈の力についてこう語る。「30代の中堅になると、どんどん難しい仕事が与えられるようになります。それまでのような仕事のやり方では通用しなくなります。先例がない仕事をどうやってこなすのか、自分の頭で考えてやらないといけないわけですが、大事なのは仕事を遂行するために部下の手も借りるし、外部の関係者などいろんな人の協力も仰ぎながらやるしかありません。大きな仕事をこなすには自分一人の力なんて微々たるものです。いかにたくさんの人脈をつくり、それを駆使して仕事をやるかしかないのです」また、電機メーカーの人事部長は人脈について「私がつくった言葉ですが、『愚者は縁を知らず、凡人は縁を生かせず、賢人は縁を生かす』。縁というのはチャンスであり、人脈であり、ネットワークでもあります。これに尽きます」と語る。愚者は縁を知らず、凡人は縁を生かせず、賢人は縁を生かす、という言葉はまさにネットワーク力の本質を言い表している。社内だけではなく外部の人脈や資源を最大限活用して成功に導く手腕の有無がビジネス人生を大きく左右するのだ。定年まで生き延びていくうえで大事なのは「社内での生々しい人脈づくりよりも、利害を超えた社外での人脈をつくることだ」とアドバイ

スする。製薬会社の人事部長も自身の経験から社外人脈の効用についてこう語る。「若いときから異業種の勉強会に積極的に参加してきました。そこでのつきあいを通じて自分の会社や自分の能力レベルがどの程度のレベルなのかを知ることができますし、自分ももっと勉強しなければと思うなど刺激にもなります。また、合併後の人事制度の設計で困っていたときに、他社の人から内部資料を見せてもらい、助かったこともありますし、人間関係を通じて仕事の幅も大きくなることは間違いありません」社外人脈が豊富な人は会社としても手放したくないと語るのは食品会社の人事部長だ。「誰もが出世したくてギラギラしている40代のときに、出世に関心がなく、社外の様々な勉強会やボランティアなどの活動に精を出していた営業の社員がいました。いくつもの幹事を引き受けていたので社外での人望も厚く、とにかく人脈がすごかった。彼を通じて社内研修の講師を紹介してもらったこともあります。所属部署でも重宝がられていたようです。結局、それほど出世はしませんでしたが、社外からもかなり転職の誘いがあったと聞いています。もちろん、そんな人物は会社としても手放したくはありません」「芸は身を助ける」ではないが、社外人脈の豊富さが社内での生き残りにも直結するのである。社内の人脈づくりは仕事や昇進など直接的な利益に結びつくだけに重要だ。しかし、偏った人脈づくりはリスクが伴う。サラリーマンなら誰しも花形部署にいたいと思うし、その部署で出世しそうだと思う上司のご機嫌をとりながら保守本流にいたいと思うだろう。部長やその上の役員に忠節を尽くすことに労力を割き、その結果、出世が早まることは今の時代にもある。しかし、そのリスクは大きいと語るのは合併劇を経験したIT関連企業の人事部長だ。「うちは事実上吸収されたほうですが、合併で大幅な役員交代が実施されました。将来の社長候補と目された役員が子会社に異動した結果、取り巻きの部長、課長たちも子会社に飛ばされて次々と失脚しました。吸収した側の企業は合併後の人事の障害となる派閥を真っ先に狙い打ちにするのです。合併に限らず今は業績不振に陥ったり、ビジネスモデルが変われば派閥のトップが外され、ぶら下がっていた幹部も失脚していく時代です」こう語る人事部長自身は特定の派閥に属していなかったが、それでも合併後に降格された。だが、与えられたミッションに全力を尽くすことで今の地位に返り咲いたという。人脈が豊富な人はリストラ候補者の選定でも外される可能性がある。小売業の人事課長は「大口の取引先の社長などのつきあいがある人は商売上の問題からリストラ対象から外されることはよくあります。また、社内でも役員や他部署の社員とつきあいが広い社員は、リストラを宣告すると、何かと周りに不満を言いふらす可能性があり、面倒だなと思うことがある」と語る。人脈がリストラ防止のセーフティネットになることもあるのだ。

その四年下上司に逆らうことなく、低姿勢を保て!管理職と一口にいっても40~50代で圧倒的多数を占めるのは部下なし管理職である。企業によって部長代理、課長代理あるいは担当部長・課長の肩書を与えられているが、この人たちは部下を抱えるライン管理職の補佐的役割を担う人だ。消費財メーカーの人事部長はこう言う。「部長代理という役職を置いていますが、実際は課長よりも格下の存在で決裁権限はありません。うちには30代後半から40代前半の課長も多いですが、本来は年下の課長をサポートする役割を担ってほしいという思いがあります。だが、課長を出し抜いて部下に指示したり、自分で仕切りたがる人が多い。課長を立てるぐらいの度量がほしいが、自己主張が強すぎる困り者が多い」と指摘する。年下部下から嫌われるタイプとはどういう人か。製薬会社の人事課長はこんなケースを紹介する。「地方の営業支店に30代の営業課長が赴任したのですが、迎え入れた40代後半の課長代理から『この地域は私がよく知っているからあなたは何も心配しなくてもよい』と言われたそうです。しかも全然情報も出さなければ、何をやっているのかという報・連・相もない。あんたは何も知らないから黙っていろ、と言わんばかりの姿勢に困り果てた課長から泣きつかれたことがあります」人事課長は「上司の命令に逆らうようなら処分を下すので、放置するな」とアドバイスしたという。そういうタイプは「ブラックリストに記入し、時期がくればリストラ要員として退出願う」と言い切る。若くして管理職に抜擢するということは、会社も期待している逸材だ。年下上司の指示に従わないとか口答えする人は、会社にとってもじゃまな存在ということになる。年下上司に逆らって、何もよいことはない。逆に会社として重宝がられる補佐役になるにはどうするか。消費財メーカーの人事部長はこうアドバイスする。「重宝がられる部下とは、どうして立場が逆転しているかを認識し、部下として何をやるべきかを理解している人です。たとえば皆の前では一歩引いて決裁権を持つ上司を立ててあげる。それでいて上司が若い部下たちにいきがって生意気な口調で叱ったら、上司と2人だけの席で『言い方がきつすぎて下の若い社員がへこんでいます』とかアドバイスしてあげる。年齢差による経験を武器に、上と下に対して、こうしたほうがいいんじゃないか、とか助言できる組織のフォロワーに徹することが大事です」建設会社の人事部長もそういう人材に期待している。「今、組織の若返りを推進していますが、中高年層が決して不要というわけじゃないのです。若返りは脇を固める経験豊かなシニアのサポート体制ができていないと難しいし、そ

ういう意味でも40代は必要不可欠な人材なのです。部長になれなかったら、やる気がなくなったでは許されません。40~50代の社員であれば、若い課長がきて自分が部下になったら『よし、俺があいつを役員にしてやる』というぐらいの気持ちの切り替えも必要。俺がノウハウをいろいろ教えてやろうという心意気がほしいですね。リーダーを立てて、自分にはなれなかった夢を託す。そこまで協力してやれば、若い上司は決して手放したいとは思わないでしょう」もちろん、会議の席でもでしゃばることなく、上司に意見を求められたときに発言するという低姿勢も重要。何より上司との信頼関係を築くことが大切だ。「組織のハブのような存在になれば、年下上司に、頼むからここにいてくれと言われるのは間違いない」(同社人事部長)という。その五後輩の指導役に徹し、慕われる存在になれ!会社に長くいたいのであれば若い後輩たちの信頼を勝ち得ることも大事だ。管理職になれない中高年の中にはひまをもてあまして若い社員を飲み屋に誘って昔の自慢話をする人がいる。自分が培った専門性や経験に過剰な自信を持ち、後輩を仕切りたがる人でもある。過去の成功体験を披瀝し、自慢話をする人がいるが、じつは最も後輩に嫌われるタイプだ。電機メーカーの人事部長は「自分の実力を知る」ことが大事だと指摘する。「過去の実績や自分の専門性を過信している人が多い。会社の看板やブランド、優秀な上司や部下のサポートがあって実績につながっていることを忘れているのです。さも自分一人でやったような自慢話など誰も聞きたくありません。そういう人は自分の実績が本物か偽物かを検証し、自分の実力を知ること、そのうえでどんな役割を演じればいいのかを突き詰めて考えることです」後輩に嫌われる、あるいは煙たがられる人は人事評価も低くなる。最近は上司の評価だけではなく、部下や同僚の評価も加味した360度評価を実施する企業も増えている。後輩や同僚に嫌われることでリストラ候補にノミネートされる恐れもある。では後輩に慕われるためにはどうすればよいのか。信販会社の執行役員は立ち居振る舞いが極めて重要だと語る。「自分の役割とは何かを考えることが大事なのです。部長職を役職定年制度で降りて、別の部署に異動し、一兵卒で働いている人がいます。軽作業が中心で、基本的には定時に帰るのですが、若手が残業していると常に『お先に失礼します』と言って席を立つ。会議にも参加しますが、決して自分から発言せず、意見を求められて初めて答えるのです。そういう人ですから周りも『こういうものを作ってみましたが、見てもらえますか』『ここが行き詰まっているのですが、どうしたらよいですか』と言って寄ってくるようになります。その方は決して無理して自分を押さえ込んでいるのではなく、後輩が自律的に育つことを支援するのが自分の役割だと言い聞かせているのです」

部署が違うとはいえ、元部長が若手社員に「お先に失礼します」となかなか言えるものではない。その元部長は上司から定年後も継続して働いてほしいと懇願されたという。もちろんそういう人ばかりではない。定年後は元執行役員、部長、課長職だった人でも一兵卒として働くことになる。「現役の延長線上で『お前、そんなやり方はダメだよ』と口うるさく言う人もいるし、俺が俺がというタイプだと若手が遠ざかってしまう」(同社執行役員)という。出世コースから外れたり、降格させられたりしたことを契機に仕事の意欲を失い、腐ってしまう人がいる。その結果、不平、不満を周囲に言いふらす人もいる。こうなると要注意だ。とくに逆境に陥ると高学歴社員ほど打たれ弱いという話もある。大手電機メーカーの元人事部長はこう語る。「東大院卒の社員で、30歳ぐらいまでは実務能力も高く、同期のトップを走っていたのですが、30代半ばで同期に抜かれはじめたとたんやる気を失ったのです。40代半ばで子会社に出向しましたが、そこでも上司と争いが絶えず、結局、50歳のときに退職勧奨で辞めました」と語る。大事なのはどんな不遇な環境に追い込まれても、新たに出直す覚悟を持つことだ。ネット広告業の人事部長は「40代半ばでも今の仕事が不適格と判断すれば、20代の社員と同じ仕事を担当させることもあります。もちろん給与は下がるので、それをきっかけに会社を辞める社員もいます。一方、降格後に部署を異動し、若手の社員に仕事を教わりながら努力している人もいます。年輩者もこれまでの経験を語り、若手といい意味で刺激し合う関係ができることは会社としても望ましい」と語る。左遷や異動などでどんな逆境に陥っても、気持ちを切り替えて、職場の信頼関係を築いていく。若手に慕われる存在になれば生き延びることができるのだ。その六対話こそ重要、コミュニケーション力を磨け!これまで述べてきたように自分の意見を正しく主張することができないコミュニケーション力のない人はこれから必要とされなくなる。たとえ口ベタであっても実直に仕事をこなすタイプや決して余計なことをしゃべらず、黙々と仕事する人が重宝がられたのは昔の話だ。コミュニケーション力といっても、単に愛想がよいとか、追従するといったご機嫌取りの能力ではない。人の言っていることをきちんと理解し、自分の言いたいことを明確に伝えることができるスキルのことだ。自分は最初から無理だとあきらめてはいけない。コミュニケーション力は経験と訓練で上達していくことができるし、本人の努力しだいなのだ。ではどのようにして磨くのか。その基本は「聴く」「伝える」ことを日頃から意識して実行することだ。意識して相手の話を傾聴するようになれば、今まで無視していた、ある

いは理解していなかったことが聞こえてくるようになる。また、意識して話すことを心がけると、つい言いがちになる自分の話し方のクセがわかるようになるだけではなく、相手が理解しているかどうかも見えてくるものだ。より具体的に説明しよう。まず、相手の真意を深く聴くには、私はあなたの話を聴いていますよ、という態度で接することだ。つまり、この人は私の話を一生懸命に聴いてくれていると思ってもらうように接することだ。たとえば前のめりの姿勢をとるとか、適度な相槌や頷きを入れる、明るい表情をする。こうした「傾聴」の態度は努力すれば身についてくるものだ。次に「伝える力」も同じであり、必要なスキルを学ぶことが大切だ。すでに紹介したように会議の場面では「結論を述べてから理由を話す」、ダラダラと話し続けないで、話すセンテンスを短く区切るといった伝える技術についてセミナーなどを通じて学習し、習得することである。そして実際に日頃の職場のコミュニケーションで意識しながら実践していくことだ。コミュニケーション力をマスターするということは、これまで聞き逃していた大事な情報に気づくことにつながり、それが武器となって伝える話の深みが増してくる。コミュニケーション力の欠如した人とは、対人能力がヘタな人のことである。たとえば、リストラの面談の席では、戦力外の宣告を受けて、言葉を発しないでうなだれる人、あるいは逆に激高する人がいる。この人たちはコミュニケーション力がないために感情を外に出しやすいタイプでもある。コミュニケーション力があれば、会社側の担当者の本音を上手に引き出し、思わず「辞めてほしい」といった禁句の敵失を奪い取ることも可能かもしれない。だが、そうなる前に上司や人事担当者から「あいつは口がうまいから、辞めさせるのは面倒だ」と思われることだってある。その七嫌な仕事でも引き受ける職場の汚れ役になれ!人事関係者が最も好きな言葉に「人徳」という言葉がある。人徳と並んで人気があるのは「人望」という言葉であるが、ほぼ同じ意味である。周囲から厚い信頼を受けている人、あの人となら一緒に仕事をしたいと思われる人である。持って生まれた性格ゆえにそういう人もいるが、努力して身につける人もいる。総合商社の人事部長はなぜ、人徳や人望が仕事するうえで価値を持つのかについてこう語る。「誰を動かせば物事が動くのかという勘所がない人はビジネスマンとして通用しません。社内外のキーマンは誰なのか、誰のアドバイスを仰いだら仕事がスピーディに運ぶのかを知っているだけでなく、キーマンを納得させることができるかがポイントです。そのためにはその人物と日頃から信頼感を築いている必要がある。つまり人望があるかどうか。彼がやるんであれば応援してやろうという人望が決め手になるのです」

確かにその通りであるが、だが一朝一夕に築けるものではない。日頃の仕事に対する態度が積み重なってこそ得られるものだろう。ではどういう態度をとれば、周囲に人徳がある人と思われるのだろうか。その一つは、誰もが嫌がる仕事を引き受けることである。たとえば顧客のクレーム対応や受注先の会社とのトラブル対応など無理難題な仕事を振られたとき、私がやりますとはなかなか言えないものだ。だが、そうした汚れ役的な仕事であっても積極的に手を挙げて行動することが周囲の信頼を得ることにつながるのだ。たとえばこんな事例もある。現在、社員の退職金を含む企業年金の支払いに苦慮している企業が多い。企業年金は退職後に約束した利回りで支払う仕組みであるが、会社の経営状況が悪化すれば積立金の不足が生じて、経営の足を引っ張りかねない状況に陥ることもある。できれば退職者のOBに支払う年金を減額したいというところも少なくない。企業年金の減額は受給者の不利益変更を伴うために、OBの3分の2の同意を取り付ける必要があるなど政府の規制も厳しい。そのためOBに減額してほしいと説得することが必要だが、人事部長をはじめ役員や経営者は先輩であるOBに頭を下げてお願いするのは恥辱であり、誰かに鈴をつけてもらいたいと思っている。そんなときに手を挙げた人がいたという。エンジニアリング会社の人事部長はこう言う。「人事部員に誰か引き受けてくれないかとお願いしたときに『私がやります』と手を挙げた社員がいました。40代半ばの社員ですが、決して優秀な部類ではない。どちらかといえばうだつの上がらない真面目だけが取り柄の人です。周囲はびっくりしましたし、私もどうせダメだろうとは思いながら、彼に任せることにしました。ところが、OBの半分以上が減額することに同意するという合意を取り付けました。後で聞いたところ、彼は『少しでも減額してもらわないと、私たち後輩の退職金がなくなる恐れがあるばかりでなく、会社の経営状態にも影響しかねません。私たちは先輩方が築いた会社を守るために必死で働いています。会社と会社を支える後輩たちのためにも協力してもらえませんか』と言い、土下座しながら泣いて頼んで回ったそうです」その社員はこの仕事をきっかけにOBだけではなく、周囲の社員からも評価を受け、いざというときに頼りになる人と信頼を勝ち得たのである。いわば汚れ役ではあるが、彼がやったことは会社にも利益をもたらすことになり、人事部どころか社内での株も大いに上がったという日頃の勤務成績や仕事ぶりではなかなかうだつが上がらなくても、汚れ役に徹すれば、職場に不可欠な人と見なされ、決して上司もリストラしようとは思わないだろう。会社人生は長い。たとえ失敗し、挫折したとしても挽回のチャンスは何度でもある。問題なのはそこであきらめて仕事の姿勢に後ろ向きになったり、人間関係の結びつきをあえて遠ざけてしまうことだ。会社に期待されていないと感じている人は、今からでも決して遅くはない。再び這い上がるために7カ条を実践していただきたい。

じつはリストラを回避するのは非常に難しい。会社が人員削減計画を発表してから実施するまでに最低でも3カ月はかかる。もちろんその前から準備が始めり、不採算部門の整理・縮小などの事業計画の見直しによる経費削減目標を策定する。その中には人員削減規模と部門ごとの削減人数も決まっている。そして3カ月の間に部門ごとの削減人数に合わせて具体的なリストラ候補者の選定作業が行われるが、当然、水面下で実施される。そのため自分が候補者とわかるのは人事部や部門長に呼び出されたリストラ面談のときだ。そのときに「あなたに働いてもらう仕事が今の会社にはありません。新たな道に進むことをお勧めします」という戦力外通告を受けて誰もが愕然とする。大方の人は、まさか自分が対象になるとは考えていないからだ。長年会社に尽くしてきた自分を会社が切るわけがない、俺は給料分以上の成果を出しており、クビを切られるのは別の人だろうと慢心している。そうした慢心や自分の実力を過大視している人が圧倒的に多いために、会社の動きに無関心となり、自分が対象になることを気づかないのである。本当はリストラが始まることを気づかせる前兆がある。たとえば、突然の社長交代や短期間での大幅な役員の交代、そして役員など経営幹部による会議が頻繁にあれば、会社に何らかの重大な事態が発生している可能性がある。役員陣の交代で経営方針が大きく変わり、大規模な事業構造改革とともにリストラが実施されることになる。さらに監査法人が入れ替わったり、金融機関の関係者が頻繁に会社に訪れたりするようになれば、財務的に大きな問題が生じている可能性もある。東芝の不正会計事件はまさにその典型例だろう。2000億円超の利益を水増ししていたことが発覚し、金融当局、株主などから社会的な指弾を浴びている。その結果、大幅な損失計上を余儀なくされ、それを補うためにリストラが実施される可能性もあるだろう。前兆は他にもまだある。ライバル他社との合併はリストラ実施の公算が極めて高い。合併すれば当然ながら重複部署があるので余剰人員が発生する。これまで合併の後に、しばらく時間を置いてリストラを実施するケースが多かった。こうした前兆は本社から遠ざかった部署にいる人は気づかないかもしれない。だからこそ本社の管理部門や労働組合とのネットワークが重要になるのだ。これまで述べた前兆はリストラ計画発表前に起こる事態だ。そしてリストラ計画発表前後から職場でも不穏な動きが出始める。大手企業では実際にリストラの引導を渡すのは、部長クラス以上だ。リストラ候補者の選定作業のために頻繁に事業部内の会議が実施される。何の会議か不明な場合は要注意だ。そこの会議であなたの名前が取りざたされているかもしれない。もし、あなたが候補にノミネートされているか、される可能性が高い場合に、あなたの

周囲でも異変が起こる。たとえば上司からあった今までの指示が急にこなくなった、あなたが関わっている長期プロジェクトのメンバーから外された、ということがあれば可能性は高い。あるいはあなたと接するときの部長の態度がそわそわしている、視線を合わせようとしない、飲みに誘っても用事があるからと断るようになれば本命間違いなしだ。上司の中にはあなたの家族のこと、住宅ローンのこともそれとなく聞いてくるかもしれない。それも要注意だ。こうした前兆に気づいていたとしても、リストラから逃れるのは難しい。あなたに辞めてもらうことを組織の総意として決断を下した以上、個人がそれに逆らうことは不可能だからだ。だが、これまで述べてきたように多くのリストラは「人事評価の裏ルール」に則って実施されているのだ。そうであればそれを逆手にとってリストラを回避する手だてもある。裏の手を使ってリストラを回避する方法もないわけではない。ただし、実際にあなたが指名される前の段階であり、それなりにリスクも伴う。リストラを回避する究極の手段とは次の4つだ。

その一ひたすら会社の情にすがるその二労働法の知識を吹聴し、会社を恐れさせるその三昔の上司にお願いして子会社に引き取ってもらうその四役員秘書と結婚する!?

その一ひたすら会社の情にすがる

本書で述べてきたように最近では結婚の有無や子どもの数に関係なく、扶養手当が多い人を先に切るドライな会社も増えている。一方で、家族など大きなものを背負い、真面目でコツコツと働いている人に対するシンパシーが残っている会社もある。とくにものづくりなどの製造業にはそういう会社も多い。もし、あなたの会社が後者であれば、ひたすら情にすがる行動に打って出ることも可能だ。自動車部品メーカーの人事課長は「家族に病気の人がいて介護しなくてはならない人であればリストラしにくいですね。病院からの緊急呼び出しなどで仕事を離れなければならないが、それでも本人から会社にいさせてくださいと言われると、お気の毒ですし、リストラはしにくいです」と語る。もちろん、就学期の子どもが2人いて奥さんが専業主婦という家庭は見向きもされない。そこで一計を案じるべきだ。もし、あなたもしくは妻の両親が地方に暮らし、誰かが認知症を患っているとする。そこであなたの自宅に認知症の親を引き取ることにする。当然、妻には猛反対されるかもしれない。その場合は妻にあなたがリストラされ、家族

が路頭に迷うことになることを認識してもらうように説得する。また、妻がパートに出て働いていたら、パートを辞めてもらい、介護に専念してもらう。そして会社の上司に包み隠さず、こう話すとよい。「実家の認知症の母を引き取ることになりました。そのため妻がパートを辞めて介護に専念することにしています。家も手狭ですし、母の介護費用も含めて生活も苦しくなりますが、子どもたちも協力すると言ってくれています。私も介護を手伝うことになり、何かと迷惑をかけるかもしれませんが、どうぞよろしくお願いします」もし、介護の経験のある上司なら身につまされる思いだろう。上司が「どこかの施設で世話してくれるところはないの」と聞いてきたら、そこはしめたもの。そしてこう続ける。「お気遣いありがとうございます。老人ホームに申し込みましたら1000人以上の順番待ちだそうです。もちろん他県の施設も探していますが、少なくとも1年ぐらいは面倒を見ないといけません」もしかしたらリストラ候補者のリストから外されるかもしれない。その二労働法の知識を吹聴し、会社を恐れさせる人事関係者の中には「やたらと声が大きく、セクハラやパワハラまがいの行為を受けた同僚に労働局に相談に行くことを勧めたり、残業代の申告を認めてもらえなかったら労働基準監督署に行くようにとアドバイスする人がいる。彼をリストラすると面倒なことになりそうで、できれば避けたい」という声もある。こういう人は中小企業では多少効果があるかもしれない。大企業では、たとえ不当解雇だ、労働基準監督署に訴えると言っても相手にされないだろう。当然、こういうタイプに退職勧奨をする場合は、極めて慎重に事を運ぶだろうし、仮に裁判に訴えても証拠を提示して争うこともいとわないだろう。ただし、中小企業の人事や総務の中には労働法に疎い人もいる。いろいろな法律知識を並べ立てられると、リストラするのはやばいかなと思うかもしれない。たとえば本人が部下もいなく、権限もない肩書だけの管理職で残業代が支払われていない場合、労働基準監督署に訴え出れば、未払い残業代の支払いを求められる場合もある。裁判になれば法的な「管理監督者」と認められるケースは少なく、会社のほとんどが負けている。それを逆手にとって「私を辞めさせるならば、今までの未払い残業代を請求しますよ」と威嚇することはできるかもしれない。しかし、会社側は「いいですよ、払いますが、その代わりに希望退職に伴う割増退職金は一切支払いません」と言ってくるかもしれない。あるいは会社を威嚇するような行為をすれば、社長から「そんなやつはどんなことをしてもいいから辞めさせろ」と激怒するかもしれない。リスクが大きく、あなたが置かれた状況を見て判断するしかないだろう。

その三昔の上司にお願いして子会社に引き取ってもらう会社や職場でリストラに向けた動きを察知し、客観的に見て自分が候補になる可能性があると考えたら、同じ企業グループ内で引き取ってもらうところを探すことも一つの方法だろう。リストラ候補者を選定する会議の場で、各部署が最初に候補者名簿を出してくるが、その名簿を見て別の部署の部長が「彼ならうちで引き取ってもよい」と言って外される場合もある。今の部署では必要とされなくても、他の部署が欲しいと言えばリストラを免れることになる。つまり、結果的にどこの部署からも声がかからなければリストラされることになる。あなたがその一人だとしよう。その場合にとるべき行動としてグループ内の子会社に移籍することを考えてもよい。本社に人脈を持たないあなたでも入社時にお世話になった先輩上司やグループ内のイベントで親しくなった人はいるだろう。もしその人たちが子会社の役員や幹部に転出していれば、恥も外聞も気にすることなく、訪ねて働かせてくれるように懇願することだ。数年ぶりに突然訪問し、移籍させてほしいと言えば、相手も最初は驚くだろう。たとえ気に食わないと思っていた人であってもひたすら頭を下げて頼み込むしかない。給与は子会社の水準でもよいのです、と言ってねばり強く交渉する。最終的には、しょうがないなと受け入れてくれるかもしれない。内諾を得れば上司に話して相談することになるが、人事部としても子会社が引き取ってくれるということであれば、すんなりと認めてくれるだろう。子会社に移籍すれば、子会社の人件費負担は増えるが、本社の人事部にとっては何もしないで本体の人件費が削れるというメリットがある。その四役員秘書と結婚する!?これこそ究極の方法かもしれない。人事関係者の中には「切りにくいのは大口の取引先の紹介などコネで入社した人、経営幹部の身内、結婚相手が秘書室の女性社員」という声もある。つまり、リストラ候補にすると人事部に対し、取引先を受け持つ営業部や役員から理由を問いただすなど文句が出るのは必至だからである。本当にリストラに値するどうしようもない社員であれば、説明もしやすいだろう。だが、単に人数合わせでリストラするとなれば、避けたいと思うかもしれない。もし、あなたが役員秘書と交際しているなら、ただちに結婚を申し込む。そして秘書を通じて役員に仲人を依頼することだ。特別な理由がなければ嫌がる役員はいないだろう。役員も自分が仲人を引き受けた夫の社員がリストラにあうことは自分の立場上まずいし、候補から外す行動をとるかもしれない。もちろん、あまりよく知らない社員なので人事部に「彼は今回の削減対象者のリストに入っていないよな」と確認するかもしれない。人事部は該当事業部に連絡し、候補に挙がっていることを知ると「彼はまずい。誰か他

の人選をお願いしたい」と打診するかもしれない。だが、普通の社員は役員秘書とはなかなか出会いの場がないだろう。会社の同僚や後輩を通じて紹介してもらうことは可能かもしれない。そこで運よく仲よくなって結婚まで持ち込むのは至難の業だ。というより限られた時間との勝負だ。もしうまくいって結婚まで持ち込めたとしても、間に合わずにアウトということもあるかもしれない。リストラ面談でどのように闘うのかどんな策を弄しても、リストラ候補者から免れることができずに面談を迎えることになったらどうするのか。当然、会社は退職を迫ってくるが、基本的に会社が「辞めてもらえないか」と労働者に働きかけることは自由であり、必ずしも違法とはいえない。辞めたくなければ「私は辞める気がありません」ときっぱりと意思表示すべきである。ところがほとんどの人はまさか自分が標的にされるとは思っていないので心の準備ができていない。パニック状態に陥り、つい応じてしまう人が意外に多いのである。しかし、私は辞めないと意思表示しても、会社は何度も面談を実施し、繰り返し退職を迫ってくるので、それに耐えられる精神的タフさが求められるから覚悟してほしい。退職後の転職先が決まっているわけではないし、冷静になって「私は辞めません」と言って貫くことだ。それでも会社側は「君のパフォーマンスが悪い」「君のポジションはなくなり、給与も下がるから会社にいても将来はない」といった言い方で執拗に嫌がらせをしてくるだろう。それでも頭に血が上り、キレることがあってはならない。家族とその生活を守るんだという強い意志を持って耐え続けるしかない。退職勧奨はそのやり方が一般常識から見て許される範囲内であれば、正当なものと見なされる。だが、本人が辞めたくないと言っているのに、大人数で長時間拘束したり、数回にわたってイジメとしか思えないやり方で退職を迫ったりすれば、それは「退職勧奨」ではなく、「退職強要」といって裁判を起こせば損害賠償の対象になる。本人の自由な意思を侵害し、精神的負担を強いる行為は、立派な損害賠償や差し止めの対象になることを覚えておこう。たとえば面接官が大声を出して「辞めなければ地方の山の中の事務所に配置転換させるぞ」「会社にいられなくするぞ」といった脅し文句を吐いたために慰謝料を支払わされた会社もある。退職強要を理由に辞めさせたことが裁判で認められると、6カ月ないし1年分の賃金の支払いと50万~100万円の慰謝料が支払われることが多い。会社が不利となる証拠をどのようにして集めるかしかし、訴えるには証拠が必要になる。普通は会社の会議室など密室で行われることが多いので、訴えても会社側はその事実を否定しようとする。反論するには退職強要の事実

を確認できる証拠を確保しておく必要がある。その手段の一つはメモをとることだ。退職勧奨の際に、どういう状況で何人の面接官に、どのくらいの時間をかけて、何を言われたのかという事実をメモにとる。何月何日何時にどこで言われたかも記録することを忘れてはいけない。もう一つは録音することだ。隠し録りでも十分に証拠能力がある。ICレコーダーを胸のポケットに潜ませて一部始終を録音する。その中に相手の誹謗中傷や罵声が録音されていれば決定的に有利になる。また、どこで面談が行われたかということを説明するために、携帯で現場の写真を撮っておくとよい。また、会社がメールを通じて執拗に退職を迫ってきた場合は、そのメールをUSBメモリーに保存しておけば、りっぱな証拠になる。裁判に訴えないまでも、こうした証拠を経営者や会社の労働組合に突きつけてみてもよい。さすがにこれはやりすぎだと思われれば退職を迫るのをやめるかもしれない。それでも動かなければ行政の相談窓口に相談する。都道府県の労働局、東京都であれば「労働相談情報センター」がある。何らかの助言をしてもらえる可能性が高い。それでも埒が明かない場合は、弁護士に相談し、退職強要行為差し止めの仮処分申請や損害賠償の手続きをとることを勧めたい。「会社の言うことを拒めば解雇されるかもしれない」と思っている人もいるかもしれない。だが、解雇は会社として極力避けたいと思っている。なぜなら解雇は自由にできるものではないからだ。解雇するのであれば、解雇するだけの合理的理由および、なぜその人を解雇しなければならないかという正当な根拠がなければ解雇できない。そのことは労働契約法の中に明記されている。解雇するには「勤務成績が悪い」「能力が低い」といったことを示すための客観的証拠を会社が提出し、裁判所に認めさせる必要がある。会社としてはできれば、そんな面倒な手続きをせずに辞めさせたいという思いがある。裁判に訴えるのは最後の手段であるが、退職するかどうかについて悩んでいる場合は家族や親しい友人に相談することである。その結果、会社との闘いにエネルギーを費やすよりも、辞めると決めて次の就職先を探し始めるという選択もある。あなた自身が納得できる決断を下すべきである。

あとがきなぜ、業績が好調なのに、リストラを実施する企業が増えているのか?近年、企業の業績はよくなっているのに、リストラされる人がじつは増えている。なぜだろうか。2012年の第2次安倍晋三内閣の成立後、アベノミクス効果による円安の恩恵を受けて、企業収益が拡大し、経済は回復基調にあるといわれる。2年連続の賃上げ効果もあり、マスコミもリストラを忘れたかのような浮かれ気味の報道が目立つ。総じて企業業績がよくなればリストラを実施する企業が減るのは当然だ。加えて、2020年の東京オリンピック開催に向けて世の中は上げ潮ムードにある。サラリーマンの中には「当分は自分の会社もリストラはないだろうし、オリンピックまでは大丈夫だろう」と思っている人もいるかもしれない。ところがそんなことはありえない。というのは2014年から2015年にかけてリストラを実施した企業を詳細に見ると、従来のリストラのパターンと違う動きをしている。業績が好調であるのにリストラを実施している企業が増えているのだ。従来のリストラは赤字が深刻化し、せっぱ詰まってリストラに踏み切る企業が多かったが、好業績企業のリストラが目立つようになっている。なぜ黒字なのにリストラを実施するのか。共通するのはいずれも事業構造改革の一環で行われていることだ。その背景には会社が儲かっている今こそ将来を見据えて不採算事業などの贅肉を削ぎ落とそうという狙いがある。好業績企業であってもリストラに躊躇しなくなってきている。こうした構造改革型のリストラが増えれば、景気の動向に関係なく、リストラが恒常化することを意味する。すでに大手企業でも始まっている。新聞に「○○企業が希望退職募集を実施」の記事が出るのは、削減対象者が100人以上の企業が多い。だが、水面下では新聞に載ることはない20人弱のリストラを毎年実施している大手企業も少なくない。こうした好・不況に関係なくリストラが恒常化する事態を筆者は「常時リストラ」と呼んでいる。会社の業績がよいから、自分は安泰だと言っていられない時代がすでに訪れているのだ。会社がいつリストラを実施するのかを予測するのは難しいが、読者にとって最大の関心は、会社がどういうルールに基づいてリストラのターゲットを決めているのか、というこ

とだろう。通常は人員の削減数の大枠を決定する。希望退職募集によるリストラの場合はたとえば1000人といった具体的数字が発表されることが多い。ところが、水面下で行われる常時リストラの場合は、各部門から不要人数を募り、経営会議の場で、たとえば今年度は20人にしますと発表するケースが多い。希望退職募集は1000人のリストラを達成するために部門ごとに具体的な人数を設定し、選出してもらう。常時リストラの場合は逆に誰に辞めてもらうのか、部門ごとに具体的に決めたうえで人事部に氏名を提出する場合もある。ではどのような基準で選ばれるのか。まず年齢、役職者、社内資格などの大枠を設定し、そのうえで対象者の選定の基準となるのは人事評価である。人事評価ランクは会社によって違うが、S、A、B、C、Dの5段階に分かれる。そして過去2期の評価結果の平均がたとえばC以下の社員を大雑把なリストラ候補者として抽出する。評価の分布は会社ごとに異なるが、たとえばトップのS評価は10%、A20%、B40%、C20%、D10%と分かれることになる。毎年のようにリストラを実施している外資系企業の場合はボトム10%、つまり下位10%を対象にしているところが多い。日本企業のように不定期に大規模な希望退職募集を実施する場合は、C、D評価の社員あるいはボリュームゾーンのBの評価を受ける人、学校の成績でいえば「普通」の社員まで対象に加える場合もある。仮にB評価まで対象の範囲にすると、先の分布では7割の大半の社員がターゲットにされることを意味するが、もちろん全員のクビを切るわけではない。各事業部内で事業部長を中心にラインの部長クラスを招集した極秘の会議を開き、候補者の中から具体的なリストラ候補者を選別していくことになる。しかし、ここから先が曲者だ。必ずしも評価の低い社員から順にリストラ対象者になるわけではない。その会社の風土や業種ごとに異なる独自の基準、つまり〝裏の人事評価ルール〟にしたがって選別されていくのだ。それが本書で紹介している様々なリストラの基準である。成績以外の日頃の素行、仕事に向き合う態度や将来性、性格、諸手当の多寡など、中には信じられない〝基準〟も存在する。しかも、その基準はなかなか社員にもわからないのだ。先ほど外資系企業はボトム10%を切ると言ったが、取材した外資系大手コンピュータメーカーの中堅社員は「いつ退職勧奨の声がかかるのかわからない雰囲気だった」とこう語っている。「部長との不定期の評価面談が設定されるのですが、何月何日に面談を実施しますというメールが届くと、誰もが『ああ、ついに俺の番か』とそのときに初めてわかるのです。しかし、評価面談の有無にかかわらず、リストラの対象者がわかってくることもあります。たとえば同じ仕事をしている人が2人いた場合は、成績の悪い人が狙われますが、そうでない場合は代替可能かどうかで判断されるのです。つまり、その人が辞めると回らなくな

る仕事であれば狙われませんが、実際にそういう人は少ない。多くの部署では3人で2つの仕事をしているか、2人で1つの仕事をしていますから、それを1人で1つの仕事をやらせることで人を減らそうとします。部署を統合することでさらに減らそうとしますし、極めて能力が高くないと生き残れないのです」この外資系企業の場合は「代替可能か」が基準になり、容赦ないリストラを実施している。こうした会社の〝裏のリストラ基準〟によってどこから矢が飛んでくるのかわからないのだ。日本企業はバブル崩壊以降の〝失われた20年〟の間に様々な変質を遂げてきた。そして大きく変わったのは会社と社員の関係である。多額の不良債権の処理に追われた企業は、大量の人員削減や成果主義賃金制度の導入をはじめとする組織・人事制度改革を実施してきた。だが、不良債権処理が終わっても、リストラが終わることはなかった。2001年から始まったIT不況リストラ、2008年のリーマンショック後のリストラ、2012年以降の円高リストラと断続的にリストラを繰り返し、終身雇用は崩壊寸前にある。並行して給与の二極化を促す賃金制度改革を実施し、平等と家族主義的経営を基本に社員の一体感と忠誠心を支えとする日本の企業文化は大きく変貌した。今の企業社会は正直に言って一部の優秀な社員を除いた大半の社員の誰もがリストラの対象になってもおかしくない時代である。本書では企業が求める人材とはどういうものか、必要としないのはどういう人材なのかを明らかにしてきた。本書を読むことで長く働き続けていくにはどのように身を処していけばいいのか、読者の参考になれば幸いである。また、本書の解説を俣野成敏氏にご寄稿いただいた。ご自身の経験を踏まえ、そこから学んだサラリーマンとして生きるうえでの知恵など、じつに示唆に富んだ内容になっている。身に余る光栄である。心より感謝を申し上げたい。最後に本書を書くために数多くの人事関係者にお世話になった。この場を借りてお礼を申し上げたい。そしてこの企画の提案をいただき、完成にこぎつけるまで励まし、伴走していただいたプレジデント社書籍編集部の岡本秀一氏にも感謝を申し上げたい。2015年10月溝上憲文

解説なぜ、アナタはがんばって働いても会社に評価されないのか?俣野成敏会社はいかに社員を評価しているのか?さらには、どのような基準でリストラ対象を選んでいるのか?日々、漠然と働いているだけでは、会社のホンネ=「人事評価の裏ルール」というものはなかなか見えてこないのかもしれません。以前は企業がリストラを実施する際に、対象者を「輪切り」にして、その中で選定していくことが一般的な傾向でした。例えば「40歳以上」「45歳以上」と年代で線引きしたり、入社何年目という年次で区切ったりして、その中で誰が辞めるのかという考え方です。ところが、今は業績に関わらず、企業がリストラを実施していく時代に突入しました。社員の評価基準、リストラを進めるための対象者の選定方法も変わってきています。年齢などで対象者を区切らず、「はい、あなたはリストラの対象です。辞めた場合は自己都合退社で、退職金はこれぐらい支給しますが、どうしますか」というように、いきなり「対象者を誰にするのか」という観点で選んでいく。「赤字だからリストラが始まる」「黒字だから安泰」とはいかなくなってきています。溝上さんの著書『非情の常時リストラ』のように、会社というものは、「リストラを前提として事業をやっている」ということも考えなくてはいけない時代なのです。今まではリストラが「例外」だった。ところが今はもうリストラが「原則」となっている。つまり、会社の言う通りに仕事をしている人、「私はがんばって働いている」と思い込んでいる人でも、リストラになる可能性が出てくるということになります。それまでは、会社に会わない人、会社の方針についていけない人など、誰からもわかりやすい人がリストラの有力候補になっていました。これからは、「平均的な働きをしているだけの人」の仕事がいつなくなってもおかしくない。会社の言う通りに働くというのは、今までと違って、自分を守ってくれる働き方ではなくなっています。私自身、『プロフェッショナルサラリーマン』という著書にも記したように、30歳のときに早期退職のリストラ募集要項の資料が配布された経験があります。当時、30歳の私は10年後の自分の姿におびえていました。30歳でリストラ候補となるのなら、このまま働いて40代になったら先はない、と。そこで仕事に対する考え方をガラリと転換し、社内ベンチャーの創業に飛び込み、グループ企業130社の現役最年少役員へ抜擢され、40歳で本社召喚、上級顧問への就任、最終的に独立するという道を歩むことになりました。30歳の時には今後の行方におびえていた男が、40歳の時にはいくつかの選択

肢の中から独立起業という道を選ぶに至ったのです。「リストラ候補」から「独立」へ。ある意味、極端な転換かもしれません。ただ、意識したのは「サーブをするだけの働き方から、サバイバルする働き方へシフトする」ということでした。サーブとは、どうやって上司からの指示に臨機応変に応えるか、どうやって奉仕するかという働き方。バブルが弾ける前まではこのような考え方で問題はなかったと思います。ただ、これからは(独立するわけではなくても)今の会社で働き続けるために、「積極的に会社に残って働く」時代に突入しています。残るためには、二種類の道しかないと私は考えています。一つは独立する気満々、独立を前提とした働き方。将来、独立するつもりで積極的に残るというスタイル。自分が独立するために必要なスキル、人脈を身につけていく。もう一方の積極的な残り方は、徹底的に勝ち馬に乗るというスタイル。新しい事業に移る、社内公募に手を挙げる、出世しそうな上司に取り入る……。まさに「スーパーイエスマン」という、上司をサポートする役割に戦略的に徹していく。もし仮に、その勝ち馬となる上司が順調に出世していかなったとしても、悲観する必要はありません。社長にまでのぼりつめなかった、経営陣にならかったとしても、例えば子会社の社長になるようなケースもある。そこで今までのサポートが効いてくるのです。以前、『プロフェッショナルサラリーマン実践Q&A編』(小社刊)の巻末で、漫画家の弘兼憲史先生と対談させていただいたときに、「出世する人は、どんな状況でも誰かが引っ張り上げている」とおっしゃっていたことがあります。そのような「引っ張りあげてくれる誰か」を、きちんと見極めてその人に徹底的に尽くす、ついていく。その人がこけたら自分の見る目がなかったのかもしれないけれど、自分よりうまいこけ方をするはずです。漠然と働いていくのではなく、積極的に、戦略的に働いていく。このような考え方のほうが、その上司のできてないところを自分が補うという意味で自分の強みを発揮しやすくなります。さらに、その上司のいいところを吸収することで成長できて、「人事評価の裏ルール」に抵触せず、波に乗って働いていけるようになれるのです。本書の中で「積極的」ではなく、漠然と働いていくリスクに多数触れられていましたが、代表的な3例について、「このように考えて働いていたら」というイメージをまとめてみました。「会議でメモをしっかりとっている」一見、前向きにも見えるけれど何がマズイのか?会議、とはメンバーが会って決める場です。決め事に参加していないということは、「役割として、ICレコーダーに負けている」といえます。参加することに意味はありません。メモをとるだけなら、他人のとったメモを見せてもらったほうがいいのではないでしょうか。もし仮にメモをとるのだとしたら、会議のメンバーのためになることにつなげないと意味がありません。議事録を発行するとか、ToDoをシェアするとか……。何か自分が発信する側にまわるか、自分が会議出たことで感謝されるという位置に持っていかなければいけません。

メモをとったものを誰のために、何のために生かすのか、ということを人に説明できるかどうか。例えば、イチロー選手は「私は天才じゃない」という主旨の発言をよくしています。普通の感覚からすれば、天才そのもののように思えますが、「才能ではなく、僕は打ったヒットを全部説明できる」と言っています。つまり、一つひとつの行動に対して自分できちんと説明ができるのが、プロフェッショナルなのです。メモをとっているだけ、それは忘れないようにするため、というような「なぜ、その作業をしているのか」というように点を明確に説明できない働き方は、プロの領域に達した仕事ではありません。ビジネスというフィールドで戦っていく上で、「誰のために」「何のために」という視点に答えを持ちあわせていなければプロとして失格です。その考えがないと、いま進めている仕事は再現性が乏しくなるのです。ちょっと大げさかもしれませんが、たかが会議に天才性まったく必要ありません。会議は、メンバーが会って共通認識の上で次に動くべき策を決めるという、極めて現実的な場です。だから「なんで今メモとっているの?」という根源的な問いかけに説明ができなければ、メモをとる意味がないのです。職場では好かれ、与えられた仕事は実直にこなす……このようなタイプは、どうやって変わっていけばいいのか?「与えられた仕事はきちんとするけれど……」というタイプの人は、企業の規模の大小にかかわらず、読者の皆さんのまわりにもいるのではないでしょうか。少し厳しいかもしれませんが、これからの時代、つまりビジネスの環境が大きく変化し続けている今、一から自分の頭を使って提案することができないのならば、先の見通しは明るくありません。このような「思考停止」状態を脱するために有効なのは、小さいことでもいいので、「社内一になる」という事実を積み重ねることです。社内一になるというのは、別に難しいことではありません。少し極端な例かもしれませんが、以前、講演の仕事で富山県を訪れた際に、地元の方から「近くに、世界一美しいスターバックスがあるので行きましょう」と誘われて訪れ、ロケーションの素晴らしさに感動したことがあります。誰もが知っているコーヒーショップでも、何か秀でているポイントを際立たせることで、多くの人の印象に残る。これは企業の中での働き方にも応用できるヒントが隠されていると思います。一番簡単なのは「最初の一人」になること。これからの時代、あらゆる業種で、プロジェクト単位で仕事を考えていくことがより重要になってきます。現状の仕事の小さな改善でもいいので、「小さなプロジェクト」を自分の中で立ち上げて、その最初のメンバーとして責任をもって完遂する。このような考え方だと、現状の仕事の枠を超えるケースも増え、組織の壁を超えて働くことができるようになります。組織の壁は分厚いように感じることが少なくないかもしれません。それは「壁」を打ち破ろうとするから。打ち破るのではなく、越えればいいわけです。自分発信のプロジェク

トで組織の壁を越える「練習」をすることで、人事からの評価は大いに変わってくると思います。どこの会社でも、今までの既存の組織の枠に収まるような仕事だと、質と量を追求するだけに陥りがちです。しかし、「これはどこの部署がやるんだ」という曖昧な仕事があれば、それこそがチャンスとなります。問題を解決することで目に見えた成果が出やすく、最初に手がけた者として「社内一」詳しくなれるからです。どうしても、年下の上司とソリがあわない……わかっているけれど、何がマイナスになるのか年齢にこだわっている時点で、ビジネスマンとして「古い」。年下の上司を嫌っていたら、多分その上司も使いにくいと思うはずです。そもそも、上司と部下ではありますが、「一緒に働く」というのはどういう意味があるのか?それは、自分にないものを持っている人の力を使って成果を上げるということ。年上ではなく、年下であるからこそ「伸びしろ」がある。年下というのは、年齢的にもこれから自分よりも長い期間働いていくので、その上司にうまくパートナーだと認識を持ってもらえたら、自分も伸びていく。例えば将来、自分自身が定年退職したときに、まだその上司はバリバリ仕事をしているはず。だとしたら、そこで何か一緒にまた仕事をできるチャンスも生まれてくるので、好きとか嫌いとか言っているようではダメだと思います。その年下の上司のもとで何ができるのかを考えたら、自分の今までのビジネススキルの棚卸しにもなります。自分が年上ということは、その会社・業界にいる期間が長いので、その年下の上司が持ってないものを自分が持っている可能性が高い。例えば、年下の上司には見えていない業界の常識、ボタンの押し所という観点からサポートしていく。「私だったらこういうことできる、うまく使ってください」というように。うまく使ってくださいというのが、年下の上司も心が動くいいフレーズになります。私もサラリーマン時代に年上の部下から、「私は今までこういうことをやってきました、うまく使ってください」と声をかけられたときには、ちょっとしびれました。「あなたを男にしたい」みたいな伝え方です。「上司」というみこしは担ぐしかありません。組織にいる以上は、かつぎ方にコツがある、という話でしかないのです。俣野成敏(またの・なるとし)……1993年、シチズン時計株式会社入社。リストラ候補から一念発起。社内起業での功績が認められ、33歳でグループ約130社の現役最年少の役員に抜擢、さらには40歳で本社召喚、史上最年少の上級顧問に就任する。この体験をもとにした『プロフェッショナルサラリーマン』(小社刊)を筆頭に、これまでの著作の累計は26万部を超える。2012年独立。複数の事業経営や投資活動の傍ら、私塾『プロ研』を創設してプロフェッショナルサラリーマンの育成にも力を注いでいる。

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