五章●初対面でのやりとりから商談で使えるフレーズまで──仕事のできる人と思われる「クレバー」な言葉づかい
初対面の相手に挨拶するとき●好印象を与える気のきいた言い回しとははじめて会う相手には、自分の所属や仕事、名前を言ってあいさつするのは当たり前のこと。これはどなたもやっていることと思います。そして、名前を名乗ったあとで、たいていは「よろしくお願いいたします」と付け加えることでしょう。しかし、この言い方では、いかにも印象が薄い。あいさつというのは定型のものではありますが、そのなかでもより気持ちを伝える言い回しをしたいものです。ここでは、初対面のあいさつで使える品のいいフレーズを紹介しましょう。「はじめてお目にかかります」は、初対面であいさつするときの基本フレーズ。また、取引先のキーパーソンや、名声が定まった人物に会った場合には、「お目にかかれて光栄です」「ご高名は、かねがね伺っておりました」という表現で、「お会いできてうれしい」という気持ちを伝えるといいでしょう。「お会いできましてうれしゅうございます」と言えば、よりやわらかい印象になります。「お噂は、かねがね伺っておりました」という言い方もあります。ただし、この言葉は下手をすると、何か悪い噂でも耳にしていたような誤解を与えかねないので、尊敬をこめて言うこと。「お見知りおきくださいませ」と言い添えて、控えめに自分の存在をアピールするのもいいでしょう。さらに、電話では話をしているのに、会うのははじめてというような相手には、「一度ごあいさつにお伺いしなければと思いつつ、失礼をしております」と言うのも奥ゆかしく感じられます。また、パーティーなどで、あいさつの前に立ち話から始まることもあります。そんな自己紹介のタイミングを逸したときは、「ごあいさつが遅れましたが……」「申し遅れましたが……」「後先になりましたが……」などと切り出して恐縮した気持ちを伝えると、スムーズに自己紹介に移れます。
名刺のやりとりをするとき●たんに「いただきます」では失格名刺のやりとりはビジネスの第一歩。くれぐれも品のいい言葉づかいを心がけなければなりません。はじめて来客した方から名刺を差し出されたら、「恐れ入ります。頂戴いたします」と、きちんとあいさつをして受け取ります。「いただきます」では失格です。しかし、これだけでは完璧とはいえません。というのは、名刺のやりとりであいさつ以上に大事なのが、名前の読み方の確認。あとで間違ってお呼びすると、大変失礼になってしまいます。「頂戴いたします」に続けて、「△△産業の○○様ですね」と、その場で相手の名前を復唱することです。渡すほうも自分で名乗るのがマナーですが、黙って差し出す人もいます。読みにくい漢字があったり、読めてもいくつかの読み方が考えられる場合もあります。たとえば、「上村」とあって、ウエムラなのかカミムラなのか不明確な場合は、「ウエムラ様とお読みしてよろしいのでしょうか?」と、どちらかの読み方で尋ね、まったくわからない場合は次のように尋ねます。「お名前はなんとお読みしたらよろしいのでしょうか?」「お名前の読み方は?」などと子どもっぽい尋ね方をするのは恥ずかしいことです。また、相手が名刺を出すのを遠慮しているときは、「お名刺を頂戴できますか?」と言って求めましょう。ただし、この言い方は、自分が受け取る場合のみで、上司や同僚を訪ねてきたお客さまに使ってはダメ。名刺を受け取るのは、ほかの人であって、取り次ぐ自分ではありませんから、「恐れ入りますが、お名刺をお預かりできますでしょうか?」が正しい言い方です。ところで、もしも名刺を忘れてしまったら……。あってはならないミスですが、実際はよくあることですし、本当に切らしていることもあります。そんなときは、「切らしておりまして申し訳ございません」「今日は持ち合わせておりませんので失礼いたしました」などと、丁寧にお詫びをして次に会ったときに渡すか、もしくは、なかなか会えない相手なら、面会のお礼状と一緒にすぐに郵送するようにしましょう。
アポイントメントをとりたいとき●これなら先方の「会う気」を引き出せる目上の人や他社の人に会いたいとき、こちらの希望どおりになるとはかぎりません。当然断られることもあります。かりに、打診された時間に予定が入っていなくても、先方にしてみれば、気が進まないこともあります。それだけに、失礼な口の利き方をしては、ますますYESの返事は返ってこないもの。言葉づかいには十分気をつけなければなりません。アポをとる、アポを入れる──人に会う約束をとりつけるときに、最近では当たり前のように使われるこの言い方も、品よく言おうとすれば、「お伺い」としたいところです。内々で使うのはいいとしても、少なくとも、相手の都合を尋ねるときには「アポをとりたいのですが」などと言わないようにすべきです。では、目上の人に会いたいときは、どのようにお願いするのがいいのでしょうか。「会いたいのですが」「会えませんか?」などというのは丁寧さに欠けます。「お会いしたい」も品がいいとは言えません。目上の人に対しては、「お目にかかりたいのですが……」という言葉を使うと、上品で印象もよくなります。もっと丁寧に言おうとして、「お目にかからせていただきたいのですが」と言う人が最近は増えてきましたが、これはまわりくどく、かえって品を下げます。また、「ぜひ、お目にかかりたい」という言い方もよくされますが、じつは、「ぜひ」というのは、「是が非でも」「何が何でも」という強い願望を表す言葉。その分、相手に押しつけがましく感じさせることもあります。どうしても会いたいと思っても、とくに初対面の相手に対しては、「ぜひ」は控えましょう。「おさしつかえなければ」「ご都合がよろしければ」のように、相手の事情を配慮する言葉を使いたいものです。断られると「水曜はダメですか?」「時間は何時でもいいですから」とたたみかける人がいますが、こんな言葉づかいでは断られても仕方ありません。自分の都合だけを相手に押しつける言い方にならないような心くばりが大切です。
取引先に自社まで来てもらうとき●「呼びつけた」ように聞こえない好フレーズとは取引先と次回の打ち合わせの予定を立てているとき、どちらが相手の会社に出向いていくかという話になったとします。たいていは目下の人のほうが、目上の人の会社に出向くことになりますが、そのときどきの事情もあり、必ずしもそうとはかぎりません。相手に来てもらいたいときは、「当社のほうへおいでいただけないでしょうか?」などと、かりに目下の相手でも、このように丁寧な言い方をしたいものです。「おいでいただく」は「来てもらう」の尊敬表現で、やわらかい物言いになります。もうひとつ覚えておきたい〝来てもらう〟際のフレーズが、「恐れ入りますが、ご足労いただけませんでしょうか?」です。文字どおり、これは相手に〝ご足労=足に労させる〟を頼む尊敬表現。あらたまったニュアンスになりますから、目上の方に来てもらわなければならないときに使うといいでしょう。そのバリエーションとして、「ご足労願う」という言い方もあります。ただ、このフレーズを使っても、ぶっきらぼうな口調で「こちらへご足労願います」と言うと「来い」と呼びつけているように聞こえますから、気をつけなければなりません。反対に、自分が出向く場合には、「伺います」「お伺いします」という具合に、「行く」の謙譲語である「伺う」を使います。間違っても、「わたくしがご足労いたします」とは言わないこと。「ご足労」という尊敬語をえらそうに自分に使うのはそもそも間違いですし、内心の面倒くささを言葉にぽろりと表してしまったような雰囲気がして、気まずいことになります。また、こちらから出向くといっても、「ご依頼の資料がそろったので、とりにきてもらえますか?」と言われて、取引先にもらいにいくような場合もあります。そんなときは、次のように答えると好感度がアップするはずです。「はい、さっそくいただきに上がります」「さっそく頂戴に伺います」相手は取引先で、しかも頼みを聞いてくれたのです。きれいな表現で受け答えをして、気持ちよく感謝の気持ちを表しましょう。
取引先や客を迎えるとき●多くの人が犯している〝過ち〟とは〝ご足労いただいた〟お客さまをお迎えするときは、「ようこそおいでくださいました」と、おいでくださった労をねぎらうあいさつをします。この際、間違えやすいのが、「本日はお忙しいところをおいでいただきまして、ありがとうございます」などと言ってしまうことです。一章の冒頭でも取り上げましたが、品よくお礼を言おうとするなら、次のように言います。「本日はお忙しいところをおいでくださいまして、ありがとうございます」誤用する人がとても多いのでもう一度くり返しておきますが、シンプルに言うと「おいでいただく」→「来てもらう」、「おいでくださる」→「来てくれる」となります。つまり、「来てもらった(おいでいただいた)」相手に、「来てくれて(おいでくださって)ありがとう」と言うのですから、右のようになるわけです。前もってそのお客さまの来社の予定を知っている場合には、次のように続けます。「岡野様でいらっしゃいますね。山田から聞いております」「岡野様のことは、山田から伺っております。お待ち申し上げておりました」一方は「聞いております」、もう一方は「伺っております」。両方が出てきて、またもや、ややこしく感じるかもしれませんが、これは誰にかかる言葉なのか、の違い。「岡野様のことは」というフレーズが入るなら、岡野様にかかるために「伺っております」。岡野様が入らず、「山田から」となると、山田にかかることになり、山田は会社の人間ですから「聞いております」となるのです。では、約束の有無がわからないときには、どう言ったらいいのでしょうか。「お約束ですか?」では、突っけんどんな感じがしますし、まるで約束なしでは相手にしないというような感じの悪さを相手に与えてしまいます。これを丁寧に「お約束はございますか?」と言っても、与える印象は同じ。不愉快な言い方ととらえてしまう人もいるはずです。こんな場合には、次のように言います。「大変失礼ですが、お約束でございましたでしょうか?」「恐れ入りますが、お約束をいただいておりましたでしょうか?」微妙な違いですが、「ます」を「ました」に言い換えるだけで、こちらの手違いで約束の有無がわからなくて申し訳ありません、といったニュアンスに変貌します。相手によけいな憶測を与えない、スマートな言い回しとして覚えておきましょう。
取引先を辞去するとき●引き揚げの際に品格がにじみ出る商談や打ち合わせで他社を訪問して辞去するにあたっては、礼にかなったあいさつをして、好印象を残したいものです。ふつうなら「今後ともよろしくお願いいたします」とするところですが、初対面の相手なら、それに「ご縁」をつけて、「これをご縁に、今後ともよろしくお願いいたします」と言ってみましょう。「ご縁」というのは日本人には特別な言葉。これを使うと、なにげないあいさつにも重みが加わります。そのうえ、親しくなりたいと思う気持ちも表現できて、相手も好意的に受け止めてくれるはずです。話がまとまらなかったようなときにも、今後につなげるあいさつとして品よく響きます。「いずれまた、日をあらためて」「では、次回は○○日にお伺いします」「それでは、ご連絡をお待ちしております」辞去のあいさつのなかで、次回の面談の日時を確認したり、話し合った内容の検討や諾否の返事などの連絡について、お願いをしたりすることもできます。ところで、用件がすんだのに、つい話し込んで時間がオーバーすることも。そんなときは、辞去の際に、「すっかり長居をしてしまいまして……」と、お詫びの言葉を口にするといいでしょう。また、相手がエレベーターや受付まで見送ろうとしてくれるときには、「ありがとうございます。ここで結構ですから」と、遠慮するのがたしなみです。先方の配慮に対して、こちらが気づかっていることを言葉で伝えるのは大切なこと。それでも相手が送ってくれようとしたら、お礼を言って素直に見送ってもらえばいいのです。さらに、訪問先を出るときは、担当者だけでなく受付係にも軽く一礼すると、品のいい印象を残すことができます。
取引先に上司を紹介するとき●どちらを先に紹介すべきか取引先が来社してくれた際、上司を紹介することになりました。その際、上司に来社の旨を伝えるのに、「部長、来てもらいました」では、たとえ本人がその場にいないとしても、言葉づかいがぞんざいすぎます。会社の取引の関係がどうであっても、社外の方はお客さまとして応対するべきです。「部長、△△商事の加藤部長がおいでくださいました」「部長、△△商事の加藤部長においでいただきました」と、丁寧な言い方で声をかけましょう。「部長、△△商事の加藤部長をお連れしました」という言い方は、「お~する」という謙譲表現になっていて、連れてきた社員がこう言うのは文法的には間違いではないのですが、もし加藤部長が聞いていたら、これでは連行されてきたように感じてしまうはずです。ですから、「連れてきた」という意味合いで言いたいなら、「ご案内いたしました」と、言葉を換えて表現しましょう。こういう場合、敬語の形にばかり気をとられるのではなく、相手の気持ちを気づかって表現を工夫する機転が大切です。そして紹介の際には、まずお客さまに向かって自社の人間を紹介します。「紹介いたします。わたくしどもの課長の山下でございます」なお、自分の会社の部長と課長が同席している場合には、職制が下の課長を先に、次に部長をお客さまに紹介します。そのあと、自社の人間に対して、お客さまのことをご紹介します。「ご紹介させていただきます。△△商事営業部長の加藤様です」社外の人との会話の基本は、〝社外は尊敬、社内は謙譲〟となります。紹介の際には、あたふたとせず、きちんと品のいい紹介ができるようにしたいものです。お客を社内の人に紹介する、身内を他人に紹介するなど、いろいろな場面が想定されますが、基本的に、目下(社内、身内、地位が下、年齢が下)を先に、目上(社外、身内外、地位が上、年齢が上)をあとに紹介します。あらゆる場面で応用できますから、覚えておきましょう。
取引先で上司への伝言を頼まれたら●つい、上司に尊敬語を使っていませんか?取引先で、上司への伝言を頼まれることがあります。そんなとき、「加藤様のご伝言、たしかに課長に申し上げておきます」などと口を滑らせてはいませんか?得意先から預かった伝言だから丁寧な言い方をしなければと思うあまり、このように間違ってしまうケースがけっこうあるのです。「申し上げる」は「言う」の謙譲語。自分をへりくだって相手を立てる表現なのですが、「課長に申し上げる(→課長に言う)」では、身内である自分の上司を立てることに。これでは、立てる相手が違います。「(わたしが)上司に伝える」のですから、それを自分がへりくだる表現にして、「加藤様のご伝言、たしかに課長にお伝えいたします」と、言うべき。あるいは、こんな表現も品があります。「その旨、課長にたしかに申し伝えます」前項でも説明したように、社外の人との会話は〝社外は尊敬、社内は謙譲〟が基本。対外的には、たとえ上司であっても身内(社内)ですから、上司を立てるような表現を使うのは間違いなのです。反対に、「先方によろしく伝えておいてくれ」と、取引先への伝言を上司から預かった場合。こんなときも、「課長がよろしくとおっしゃっておりました」と言ってしまう人がいます。「上司」「取引先」「尊敬語」「謙譲語」がゴチャゴチャになってしまった例です。もっとひどい例になると、「課長がよろしくとおっしゃっていらっしゃいました」などと、とんでもないことを言い出してしまったり。これは、社外の相手に身内のことを話すのに、上司への尊敬語を連発してしまっています。ここまでいくと、失笑ではすみません。平易な文章にすれば、「課長がよろしくと言っていました」。これを敬語で丁寧に言いたいのですから、「言う」を「申す」、「いました」を「おりました」と、それぞれ謙譲語にするだけでいいのです。「課長がよろしく申しておりました」「課長がよろしくお願いしますとお伝えするように申しておりました」こうしたシチュエーションでは、上司への気づかいは無用。社外の人に対して敬語を使う。そう考えれば、言葉の選択は容易になるはずです。
取引先に催促するとき●相手の立場を慮った言い回しを仕事というのは、こちらの都合どおりにはいきません。「返事はあらためてこちらから連絡します」と言われて返事を待っていたものの、約束の日を過ぎても音沙汰がないことも。そんなとき、どうなっているのか催促したいのですが、なかなか言葉に迷うものです。催促する際の基本は、相手の様子を尋ねる言い方を心がけることです。こちらからお願いをしていたことがあって、その検討結果や諾否の返事を待っていたような場合は、「ご連絡がなかったものですから、その後の様子を伺いたくて……」「催促がましくて申し訳ないのですが……」このように遠慮がちな言葉で、先方の様子を伺います。ついうっかり、返事を迫るような口調になってしまうことがありますが、あくまでも、こちらからのお願いごと。くれぐれも、自分の都合を押しつける言い回しにならないようにしましょう。ときには、先方が勘違いしていたり、うっかり返事を忘れていたりすることもあります。「お忙しいとは存じますが、○○の書類に目を通していただけましたでしょうか?」といった具合に、「お目通し」というフレーズを使うのも品のいい言い回しです。また、取引先から連絡があってしかるべき件なのに何の連絡もないようなときや、約束していたことが遅れている場合には、「○○の件はいかがなりましたでしょうか?」という言い方で、事情を尋ねます。あくまで言葉と口調は穏やかに、責めるような口調にならないようにすることが大切です。もちろん、そんな悠長なことは言ってはいられない、こちらも困っている、というときもあります。しかし、いきなり、「もう約束の期日は過ぎているのに、まだですか!」と感情的な言葉で喧嘩腰に切り出しては、よけい状況を悪化させてしまいます。「そちらさまのご都合もございましょうが……」「そちらさまのご事情もよく存じ上げておりますが……」などと、先方には「相手の立場をよく理解している」ことをまず伝えてから、こちらの急いでいる事情を説明することです。
取引先へ「NO」を言うとき●こんな断り方なら角が立たないビジネスにおいては、いつもいつも順調にことが進むわけではありません。値段交渉がうまくいかないことがあったり、ときにはトラブルも起こります。相手が無理難題をもちかけてくることもあるでしょう。しかし、感情的な言葉を相手に投げつけてしまっては、ジ・エンド。社会人としては失格です。こういうときこそ、大人の言葉づかいをしなければなりません。たとえば、取引先の相手に反論するとき。つねに得意先が正しいとはかぎりませんが、だからといって、「それじゃ言いますけど」と返すのは、子どもの対応。「お怒りを覚悟で申し上げますが」と、ひと言断ったうえで、ここは理路整然と切り返すにかぎります。あるいは、取引先の申し出を断る場合は、「今回は見送らせてください」と言います。断られるほうとしてはつらいところですが、この断り文句なら、こちら側の事情により今回は無理だと断っている言い方ですし、「今回は」という言葉に、次回はお互いの利害が合致することを願って、というニュアンスもあり、角が立ちません。断るときは、このように下手に出て頼む形にします。商談をご破算にするときも、「この件はなかったことに」という言い方はストレートすぎます。結果的にはなかったことになるわけですが、これでは受け取り方によっては開き直っているようにとられてしまいます。「大変残念ですが、この件は白紙に戻させてください」こちらの事情で「NO」を言うのですから、「戻させてください」と頼む表現にするといいでしょう。いずれにしても、取引先に「NO」と言う場合は、次回へつながる終止符の打ち方をしたいものです。ちなみに、やむをえず依頼を受けるときは、「ほかならぬあなたの頼みですから」「否も応もありません」と言えば、仕方がないという思いと同時に、相手との信頼関係を重視していることが伝わります。ただし、恩着せがましい口調にならないように注意しましょう。
取引先に「お詫び」するとき●「遺憾です」は先方の怒りをあおるだけテレビのニュース番組などで、不祥事を起こした官庁や企業の幹部がずらりと並んで「遺憾です」と頭を下げるシーンをしばしば見かけます。「遺憾」というのは本来、「思いどおりにいかないで心残りなこと」「残念」を意味する漢語。自分の力でできるだけのことはやったけれど、目的は遂げられなかった、という悔しい気持ちを表す言葉のはずです。しかし、こうした弁明で耳にする「遺憾」は、この本来の意味とはまったく変わってしまい、「非を認めるつもりはない。だから自分とは関係のないこととはいえ、こんなことになって残念だ」と言わんばかりに聞こえます。「遺憾」という言葉の意味が変わってしまったいま、「遺憾に存じます」にしろ、「まことに遺憾に存じます」と「まこと」をつけたにしろ、そんな言い方をしてしまっては、詫びた人が心から謝罪し反省していると受けとめる人は、ただの一人もいないことでしょう。誠意が感じられず、とても下品な印象がします。ですから、万一、何か大変な失態を演じてしまって、取引先に謝罪する場合には、間違っても「遺憾に存じます」などとは言わないこと。謝罪の意が伝わらないどころか、むしろ、相手は「自分が悪いとは思っていないけれど、とりあえず謝っておくか」といった悪質な開き直りを感じてしまいます。「深く反省しております」「心からお詫び申し上げます」こういったお詫びの言葉で、心からの謝罪を先方に伝えましょう。一方、こちらには非がないような状況でも、文句を言われてしまうこともあります。そんな場合にも、まずは謝罪することが大切。そもそも、取引先とは、トラブルが起こらないように仕事をしなければならないはず。たとえこちらのミスではなかったとしても、相手に嫌な思いをさせたこと、文句を言わざるをえなかったことに対して、お詫びをする必要があります。「お話を伺って、さっそく飛んでまいりました」クレーム処理でお詫びに出向いた際には、とにもかくにもお詫びの言葉を述べたあとにこんな言葉を付け加えると、こちら側の誠意を感じてもらえるはずです。そして、相手の話を十分聞き、それを受け入れる気持ちで謝って、適切な対処をすることが肝心です。
取引先を食事に誘うとき●せっかくの招待も、これでは失礼に日ごろ仕事でお世話になっているお礼かたがた親睦を深めるためだったり、折り入っての相談や仕事上の不手際をお詫びするためだったり、取引先を食事に誘う場面はさまざまです。自分の仕事の担当者と「たまには仕事抜きで食事でも」というときには、「お食事でもいかがですか?」と、気楽に誘えばいいでしょう。「一席もうけさせていただきます」などと堅苦しく誘ったら、相手は何か言いにくい話でもあるのかと、むしろ勘ぐってしまいます。しかし、たとえば上司も同席して一席もうけるような場合には、あらたまった誘い方をする必要があります。そんなときに、「○○がお食事でもいかがですかと申しております」などというこなれない表現では、どうにもお粗末。それに、上司はフランクに「よかったら食事でもいかがですか?」と申し出ているわけではなく、「招待したい」という意向なのですから、品格を感じさせる言い回しが必要です。では、どんな誘い方をしたらいいでしょう。前出の伝言の仕方の項を思い出してください。「○○が食事に招待したいと言っています」を敬語表現にしますので、「○○がお食事にご招待したいと申しております」と、なります。これは決まり文句として覚えておくといいでしょう。あるいは、「○○が食事の席をご用意させていただきたいと申しております」と言うのもいいでしょう。このほうがワンランク上の誘いの文句です。では、「ごちそうしたいと申しております」はどうでしょうか。これは平たく言うと「おごってやると言っています」という意味。いくら敬語のオブラートをかけても、取引先を招待するのに「おごりますから」という誘い文句は適切ではありません。「ごちそうする」と言って失礼にならないのは、どちらからともなく誘い合い、支払いの段になって、「ここはわたしが」「いえ、わたしが」と押し問答になったとき。「ぜひ、わたしにごちそうさせてください」こんな具合に、その場を収める切り札的フレーズとして使うと気がきいています。
宴席でお酒を断りたいなら●「飲めないんです」ではどうにも無作法取引先との食事は、こちらから誘うだけでなく、先方から誘われることもあります。ただ、そんな接待の場で困るのが、お酒の断り方。「まあ一杯。ぐぐーっといってください」と言われても、体質的にアルコールを受けつけない人もいれば、お酒に弱い人もいます。そのあと片づけるべき仕事が残っていて、たくさんは飲めないという場合もあるでしょう。いまどき、「おれの酒が飲めないのか」と息巻く人はいないでしょうが、しかし、座の雰囲気を考えると「飲めないんです」とも言いにくい。そういう際には、「不調法なものですから……」「無粋なことに……」という言い方が便利です。「不調法」は、酒を飲めないことを謙遜していう言葉。「無粋」は、文字どおり粋でないこと。ともに、お酒を辞退する際の常套句ですが、「飲めないんです」「駄目なんです」などという、ストレートで無粋な言い方に比べれば、ずっとスマートです。仕事上の宴席は、お酒を飲むのが目的ではなく、あくまでも仕事を円滑に進めるためにもうけられたもの。その場にふさわしい言い回しをしたいものです。もうひとつ、宴席で困るのが酒杯のやりとり。飲みたくない人に無理にすすめるのは悪いし、さりとて空のグラスを放っておくのも気が引ける……。接待する側はお酌のタイミングに気を使うものです。接待を受ける際には、相手の気づかいを慮って、先に手酌を宣言してしまうのも配慮でしょう。ただし、「私は自分でつぎますから」などという言い方をすればきつい拒絶に聞こえ、相手への配慮どころか失礼になってしまいます。最初の一杯はついでもらって、そのあとは、「どうぞ、おかまいなく」と、断って自分で自分の杯についでしまう。こんな表現で手酌をアピールするのがスマートです。
商談で使える好フレーズ●強引にならずに交渉をリードできる言葉づかいとは商談を成立させるためには、何度も足を運び、折衝の場を幾度となく設け、自社と相手先との接点を模索して、押しつ引きつしながら交渉を進めていきます。そんな商談のさなか、覚えておくと重宝する言い回しがあります。ここで、いくつかまとめて紹介しておきましょう。確認のために、重ねて質問しておきたいというときには、「念のためにお尋ねしたいのですが……」「失礼とは存じますが、重ねてお聞きしたいのですが……」などと言います。確認を怠ると、のちのちのトラブルの原因にもなり、責任問題にも発展しかねません。こんな念押しの仕方で確認をとるといいでしょう。相手の約束違反やミスを指摘したいときは、「当方の記憶違いでしたら、お許しいただきたいのですが……」などと、自分の記憶違いかもしれないと前置きをするスマートな言い回しをすれば、角が立ちません。また、相手が言いにくそうに何か言いよどんでいるようなときには、「と、おっしゃいますと?」などと、助け舟を出すといいでしょう。ビジネスシーンでは、言いにくいけれどこれだけは言っておきたい、という場面が少なくありません。そんなときには、奥歯に物がはさまったような言い方で、もっと別に言いたいことがある気配を漂わせるのが常套手段です。商談中に相手のそういう気配を感じたら、こんな問いかけをして先方が本題を言いやすくしてあげるのも配慮のうち。こう尋ねられたら、相手としては、聞かれたのでしぶしぶ話したという形になり、言いやすくなるものです。たとえば、商談を自分のペースに戻したいときは、「話が前後して恐縮ですが……」と言えばよいですし、取引先があまり乗ってこないなと察知したときは、「すみません。お気に召しませんか?」と言えればスマートです。商談では、相手のサインに早く気づいて、リカバリーしていくことが重要。こうした品のいいフレーズを使いこなせれば、相手を立てつつも交渉をうまくリードしていけるはずです。
来客に面会相手の不在を告げる場合●社外と社内の敬語づかいに注意約束のないお客さまが突然お見えになったとき、「○○さんを」と言われても、「はい、おります」と、自分の一存で勝手に答えてはいけません。○○さんは不在かもしれませんし、都合によっては会わないかもしれません。「在席しているかどうか見てまいりますので、少々お待ちくださいませ」「ただいま確認いたしますので、少々お待ちくださいませ」まずは、こんなふうに言って、様子を見てくるようにします。さて、そうして来客に面会相手の不在を伝える場合。ここでも、社外と社内の敬語づかいがまぜこぜになってしまうことが多々あります。次のうち、どちらの言い方をすればいいでしょうか?(1)「課長はいま、いらっしゃいません」(2)「課長は席をはずしております」本書をここまで読んでくださった読者のみなさまは、もうおわかりですね。正解は、もちろん(2)。来客との関係では、自分の上司も社内の身内の人間。課長には「おりません」という謙譲表現を使います。「外出中です」「会議中でございます」と、「~中」とつける言い方も便利です。この言い方だと、課長本人の行動を高めるとか、へりくだるとか、面倒な問題に悩まずにすみます。「です」を丁寧に言いたければ、丁寧の度合いを高める「ございます」とすればいいのです。これには尊敬・謙譲の敬意は加わりません。さらに、「あいにく」という言葉を上手に使うと、品のよさを感じさせます。「申し訳ございません。あいにく課長は会議中でございますが……」などと語尾を濁して、相手の意向を尋ねる言い方をすれば、「いかがいたしましょうか?」というニュアンスが加わって、より好印象となるでしょう。
客に商品をすすめるとき●「着てみてください」では手にとる気も萎える素敵な服が目にとまって、はたして自分に似合うかどうか、鏡の前で迷っていると、たいてい販売員が声をかけてくるものです。このタイミングというのは、なかなか微妙で、あまりに早く近寄ってこられると、客の立場としては落ち着かなくなって見る気が失せてしまいます。ところが、タイミングが絶妙だと、どうしようか迷っていた背中を押されるような気持ちになります。このタイミングを読むのが、行き届いたプロなのでしょう。ところが、タイミングの見計らい方は上手でも、「よかったら着てみてください」などと、言葉づかいのおかしな販売員がたまにいます。「よかったら」というのは、お客と対等な言い方ですし、「着てみてください」も敬語ではありません。言い方が気に入らないからと、即座に店を出るという人はいないかもしれませんが、内心、もう少し丁寧な言葉づかいができないものか、と思う人も多いはずです。こういう場合、販売員は、「よろしかったら、ご試着いかがですか?」と言わなければ、おかしいのです。このほかにも最近は、変な表現をあちらこちらで耳にします。お客に何かをすすめるときによく聞く、変な言い回しとしては、*「ご自由にお選びしてください」といった「~してくださる」という言い方。これは、「して」がよけいです(以下、太字箇所が正しい言い方)。「お選びください」「お選びになってください」*「すぐにご利用していただけます」といった「~していただく」という言い方。「ご利用いただけます」「利用していただけます」*「お手軽にお求めできます」といった「お~できる」という言い方。「お求めになれます」以上のように正しく言わないと、残念ながら品のいい言葉づかいとは言えません。こうした表現は、広告などでもしばしば間違って使われていますが、これを機会にしっかり覚えていただきたいものです。
来客の様子がおかしいとき●気を使ったつもりが、これでは逆効果…お客さまと打ち合わせをしているとき、相手が何やらそわそわして落ち着かない。急用を思い出したのか、洗面所に立ちたいのか、体の具合が悪いのか、あるいは、いま話していた内容で気にかかることがあったのか──。そこで、あなたは、相手を気づかう言葉をかけることにしました。さて、どんな言葉づかいをしたらよいでしょう?こんなとき、丁寧な言葉づかいのつもりで、「どうかいたしましたか?」と言う人がいますが、あなたは大丈夫でしょうか。万一、そんな言い方をしてしまっているとしたら、困ったことです。それはとても不遜な言い方なので、「どうかしているのは、あなたでしょう」と言い返されかねません。この言い方で問題なのは、「どうかいたしましたか」で使っている「いたす」という言葉。これは「する」の謙譲語で、相手の行為に対して使う言葉ではありません。たとえば「失礼いたしました」のように、自分の行動のみに用いるものであって、お客さまに対しては使えません。お客さまという目上の相手に対しては、尊敬語を使います。「する」の尊敬語は「なさる」、あるいは「される」ですから、この場合は、「どうかなさいましたか?」「どうかされましたか?」と、尋ねなければいけないのです。それから、「おできになりますか?」「おわかりになりますか?」といった表現もタブーです。これも高飛車な言い方で、お客さまがカチンときてしまいます。なぜなら、「できる」や「わかる」は、可能を表す言葉。このような問いかけは、相手の能力を信頼せず、疑いをもっているように聞こえるからです。「お手伝いいたしましょうか?」あるいは、もっとぼかして、「いかがでしょうか?」という言い方もよいでしょう。せっかくお客さまを気づかってかける言葉なのですから、謙虚な気持ちが誤解なく伝わるような問いかけをしたいもの。これなら、もし問題があれば、お客さまも素直に教えてくれるはずです。
客へ「NO」を言うとき●困ったお客には礼を尽くしたこの言い回しをお客さまからの要望に対して、誠心誠意応えるのは当然ですが、どんな要望にもすべて応えられるわけではありません。ときには、お客さまからの要望が無理難題ということもあります。しかし、だからといって「できません」「無理です」では、はなから否定しているようで角が立ちます。とはいえ、ここははっきりと断らなければならない。そういう困った場面では、「~いたしかねます」という表現が役に立ちます。「しかねる」は「しにくい」「難しい」の意。それに「いたす」をつけて丁寧にへりくだった言い回しです。お客さまがあれこれ言っていて、何を意図しているのかわからないときは、「申し訳ございませんが、わかりかねます」無理な値引きを要求されたら、「恐縮ですが、いたしかねます」商品に難癖をつけられ、返品を迫られたら、「あいにくでございますが、そのような返品はお受けしかねます」これらが、相手の面目をつぶさずに拒否できる便利な言葉です。お客さまからの苦情に対しては、期待度が高かったがゆえの忠告と謙虚に受け止めて丁寧に対処し、改善するように努力しなければなりません。明らかにこちら側に落ち度があったなら、即座にお詫びを言う。そういう誠意ある態度が、解決へのいちばんの対処法でもあるのです。とはいえ、微妙な問題で苦情を言われることもありますし、明らかに理不尽な苦情もあります。そんなときには、軽率に謝罪してしまうと、あとあと問題をこじらせることにもなりかねません。といっても、「当方のミスではございません」などと真っ向から否定してしまえば、相手はますます感情的になってしまいます。「わたくしだけではなんともお答えしかねますので、上司と相談のうえ、早急にご連絡いたします」と、礼儀正しく、なおかつ慎重に言葉を選んで対応します。「ご意見として承っておきます」この表現も覚えておいて、苦情を聞き流したいときに使うといいでしょう。
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