これから五年先までの売上高をどのように設定すればよいだろうか。
来年度の売上高を設定するくらいはだれにでもできよう。しかし、五年後、ましてや一〇
年後の売上高ともなると、時間距離が遠すぎて、鉢巻きをして鉛筆をなめながらいくら将来
の計算をしても、それは机上の空論に終わりかねない。
結局、過去の自社の伸び率の延長線上に設定するというのが大方であろう。しかし自社の
過去の実績がはたして妥当なものであったか、自社の数字だけを眺めていても判断がつかな
い。初年度一%の違いは、五年後には金額にするととんでもない大きな差額となっていく。
そこでわたしが提案したいのが、企業の「成長係数」の把握なのである。
企業の成長係数は、次の計算式で得られる。

つまり成長係数は、世の中の平均的な成長に比べて自社の成長がどの程度の伸び率か、を
示している。もし係数が一〇〇%以下であれば、自社の経営戦略や戦術の悪さで機会損失し
ているか、あるいは会社が斜陽化していることを示しているということだ。
(注)GDPはGNP (国民総生産)から、海外の利子。配当金。仕送りなどを差し引
いたもの。経済の国際化に伴い、決算対策の国際間の資金移動などからGNPでは
実態とズレるため、 一九九二年より経済企画庁はGDP中心に発表している。
日本全国を相手にして商売をしている会社なら、日本のGDP (国内総生産)の伸びを分
母に置く。また、たとえば関東だけ、あるいは北海道だけといったように、ある限られたエ
リアだけをテリトリーとしている会社なら、そのエリアのGDPの伸びを分母に置く。それ
に対して会社の売上の伸びが何%かというのが、自社の成長係数である。これをぜひ把握し
ていただきたい。
GDPの伸びは、県庁や市役所、あるいは銀行へ行けば教えてくれる。もちろん、ここで
必要なGDPの伸びは、名目成長率であって実質成長率ではない。当然、そのときのインフ
レ率が加味される。売上にそれが反映することはいうまでもない。名目成長率が必要なのは
そのためだc
ここで、成長係数のもつ意味をもう少し具体的に考えてみたい。仮に今、福岡県だけを相
手に商売をしている会社があるとしよう。福岡県のGDPの伸びが名目五%で、会社の売上
の伸びが一〇%だとすれば、式からもお分かりのように、この会社の成長係数は二〇〇%と
いうことになる。つまり、売上の伸び率が福岡県のGDPの伸びの三倍だということだ。と
いうことは、もし今後、福岡県の経済成長率が毎年六%の伸びで推移すると予測できれば、
その三倍だから、この会社の売上高は毎年一二%の伸び率で推移していくことは夢ではない
だろう。少なくともそれが可能だということを意味している。これが、この会社の将来の売
上高を設定する根拠となるはずだ。
先に第二章でわたしは、「総資本利益率が市中金利以下では企業としての存在価値が問わ
れる」と書いたが、同様に成長係数もまた、企業の存在意義を考えるうえでのひとつの判断
基準となろう。売上の伸びがGDPの伸び以下だとしたら、それは平均以下ということだ。
GDPが仮に七%伸びれば、売上も七%伸びて普通である。それ以下ではおかしい。したがっ
て、もしそれ以下なら、「だれが経営しても平均してそのくらい伸びているときに、わが社
がそれ以下というのでは恥ずかしい。事業が斜陽化してきた。何とかこれを変えていこう」
という発想が経営者としては生まれてこなければならない。そういう発想が経営者には必要
なのだ。
もちろん、何度も述べるように、将来の数字は過去の数字の延長上にある。したがつて、
仮にこれまでの成長係数が九五%だとしても、それを恥と意識するあまり、 一気にこれを
一五〇%に押し上げようなどと軽く考えないほうがいい。そう考えるのではなく、来年はこ
れを五%伸ばしていき、再来年はさらに五%伸ばしていこう、といったように考える。この
ように時間をかけて改善していくというのが現実の経営というものだろう。
会社の成長係数は、以上のようなとらえ方をするのである。大ぎっばなとらえ方だが、こ
れが長期計画には欠かせないのだ。こうして会社の成長係数を把握したら、次にそれを基準
にして今後五年間の売上高を算出し、その数字を運営基本計画に書き入れていく。売上高が
決まれば、次の手順は付加価値(売上総利益)の算出である。
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