後継者を選ぶ妙手
後継者は、他人だったり、自分の子供だったりする。
私も、いま会社を五つばかり経営している事業家の一人だ。結婚して、子供が女、女、男という順で二人でき、子供に会社を譲りもするし、子供によっては「会社は継がない」という子もいて、他人にバトンタッチをしたりする。
いろいろなことを多岐にわたって計画を立てて、人生を考えていかなければならない。他人に会社を譲るのなら、その他人を教育しなければならない。息子に譲るのなら、息子を教育する。娘婿も教育しなければならない。事業を自分一代で終わらせてしまったら、全く甲斐がない。
子供に譲りたいと思う社長は、どの子に譲るか、よく考えておく。子供の計画も、自分が何歳になった時に、その子が何歳で、孫がどうなって……ということをきちっと書いておく。何歳でバトンタッチをするかが、朧気ではだめだ。特に年配の社長は、そういうことを入念に書いておくことが大切である。
自分の子供がストレートに後継社長になるのではなく、ワンクッションを置く場合は、「後継者候補」について、その人がいま何歳かを書いておく。なぜかといえば、子供の年齢が若い場合は、要するに間にピンチヒッターの社長を入れなければならないからである。子供以外に、何人かの優秀な後継者候補がいるなら、計画に、それらの人たちの年齢も書いておく。
自分が社長である場合には、まず二十歳下の次期社長、つまり後継者を育てる。私は、今年の一月一日で、ちょうど六十歳になったが、私より十五歳とか二十歳下の者に期待している。
自分の息子がまだ若い場合は、 一旦、自分より十五歳とか二十歳下の他人をリリーフとし、その後に、息子を会社に入れる。他人が十年とか十五年間、社長をやってから、息子にバトンタッチをする。その間隔が、十年とか十五年あれば良いと考えている。後継者をどのように選んで、育てていくか、こんな質問を受けたことがある。
「私には、十五歳の長男を頭に、十二歳の次男、六歳の三男がおります。将来、どの子供を後継者にしたら良いか、心配になることがある。長幼の序を重んじて、長男をトップにしたほうが良いのか、それとも、能力本位で選んで、他の子供をトップにしたほうが良いのか」ということだった。
正直言って、子供の能力は、特にまだこのぐらいの年齢では分からない。何に向くかなんて、親の日でも分からない。粗野で乱暴だとレッテルを貼るが、子供のときはみんな粗野なもので、何に向くと言ってみたところで、単なる思い込みに過ぎない。子供が優しいと、「この子は経営者には向かない」などと言う人が多いが、実際にはほとんど逆だ。優しい人は、
経営者によく向く。強さは、同時に優しさだからである。優しさは、強くないと出てこない情だ。いずれにしろ、この程度の歳ではなかなか判断がつかない。前述したように、ミキハウスという会社が、その典型だ。父親が、長男は経営者に向かないと判断し、次男を後継者に据えた。ところが、長男は奮起して、親の会社よりはるかに名立たる会社をつくった。そういうことが、よくある。
手腕がなければ、会社をおかしくしてしまう。経営者にするのなら、まず事業の手腕を身につけさせることが一番の先決だ。能力や向き。不向きまでは、まだ分からない。五年、十年という長い日で子供をよく見て、腰を据えて判断するようにする。そのうえで、子供にあった修業を積ませる。
私は、自分の息子をまだ合理化協会の後継者にしていないが、もう一つのオーナーである
印刷会社の方は私が会長になって、部下を社長にした。そのとき、私のような激しいタイプではなくて、どちらかというと落ちついた者を後継者に選んだ。それは、正しい選択だったと確信をもって言える。なぜ、そうしたかといえば、創業者たる私が、まだ生きていて、依然、激しい性格であるから、逆に温厚な者の方がいいと思ったからである。私が猛進する性格だから、守成に近い形で事業を続けていける人物を選んだ。それで、実際に会社もだいぶ大きくなっている。
私は、会長になるときに、
「私は、君の何倍も偉い。給料は、いつでも君の三倍だ」ということにした。
彼が百万円取ると私が三百万円、彼が二百万円取ると私が四百万円、彼が五百万取ると私が一千万……このようにして、後継者が創業者や先代を立てる構造を最初にちゃんとつくっておいた。
その何年後かに、「君もだいぶ偉くなったから、給料は、私と同じにしよう。ただし、私がかなり譲歩してやっていることを絶対に忘れないように」ということで、給料は同じにしながらも、あくまでも一線を画しておいた。
創業者とか先代社長を立てない人は、後継者としてだめだ。花道は、自分で飾るわけにいかない。後輩が飾ってくれるべきものだから、私は意図的にそうした。金が欲しいからでも何でもない。先輩を立てる人を後継者にもってこないとだめだということを肝に銘じておくべきだ。平成十年に、私は会長職を辞めて、社長を会長にし、専務を社長にした。私はオーナーという呼ばれ方をしている。
出処進退をわきまえていることが、非同族の後継者には非常に大切だ。つまり、私のオーナーという立場は、幾代経ても変わらないという条件が必要である。
部下が、社長を長く務める。その時に、ごくわずかだが持ち株を持ってもらう。それは、退職時に高い時価評価で買い戻され、退職金にプラスされる。そして、部下は、会長職になり、相談役になって、引き続き長い間、給料を取ってもいい。ただ、オーナーという立場は、私がずっと貫いていく。世の中が変わり、ついには私の給料の何倍も取るようになるかもしれないが、それでもいいと思っている。そういう状態を覚悟の中に入れて、きちっと後継者をつくっていくことが何にも増して大切である。
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