二章●挨拶からお世辞、雑談での注意点まで──感じのいい人と言われる「社交上手」な言葉づかい
品のいい挨拶の基本●こんな時候の挨拶ができれば上級者社交はあいさつをかわすことから始まります。「こんにちは」などの基本のあいさつに天候や季節感を表す時候の言葉をさりげなくプラスすると、折り目正しい品のよさを感じさせます。また、あいさつに続く話題に窮するときも、気候の話をすれば、会話を広げるきっかけづくりにもなり、重宝します。「今日はあいにくのお天気ですね」「いまにも降ってきそうな空模様ですね」比較的会う機会が多い相手には、こうした日々の天候についての決まり文句を。さらに折にふれ、あるいは久しぶりに会う相手には、次のような季節を感じさせる四季の決まり文句を言い添えるといいでしょう。「すっかり春めいてきましたね」「今年の暑さは格別ですね」「しのぎやすくなりましたね」「日が短くなってきましたね」「ずいぶんと冷えますね」時候のあいさつというのは決まりきった言い方ですが、だからこそ、きちんと使いこなせないと底の浅さを露呈してしまうもの。移りゆく季節に応じたあいさつをしたいものです。さらにひと工夫して、花や新緑、花火、虫の音、紅葉といった四季の風物を織り込めば、風情を感じさせて印象がアップするでしょう。また、梅雨時や真夏など不快指数が高いときのあいさつに、「蒸して嫌ですね」などと否定的な感想をつけ加えないこと。「ずいぶん蒸しますね」でとどめておいたほうが言葉づかいとしてはきれいです。ちなみに、こうした時節のあいさつをされたときには、「そうですね」とまず相手の言葉に対してあいづちを打つのが礼儀です。「寒いですね」と言われて、「いいえ、わたしはこのくらいは平気です」などと受け答えするのは、たとえ実際にそうだとしても、品のないことです。あいさつというのは人間関係の潤滑油。相手の言葉を素直に受けとめたいものです。
お年寄りに挨拶するとき●「お元気そう」「お若い」はなぜ無作法か年配の方にあいさつをするとき、「お元気そうで何よりです」と言っていませんか?じつは、お年寄りのなかには、この言い方を好まない人が案外多いのです。お元気そうなのを拝見して、喜んでそうごあいさつしているのに……と解せない人もいるかもしれませんが、「まるで具合を悪くしているのが当たり前みたいに聞こえて嫌だ」という人もいます。なるほど、これは健康に不安を抱くことが多い年配の方ならではの複雑な心境。こちらとしてはよかれと思って口にした言葉が、相手を不快にさせてしまうこともあります。老年期に入った人にしかわからない、こうした心の動きにも配慮しなければなりません。また、「いつまでもお若いですね」という言い方もよく耳にしますが、これも避けたほうが無難でしょう。もちろん、男性でも女性でも、「老けた」と思われるよりは、「若い」と思われるほうがうれしいに決まっています。しかし、年は年。そうそう抗えるものでもありません。本人がそれを自覚しているのに、「いつまでもお若いですね」と言われると、人によっては、いかにもとってつけたお世辞のように耳に響いてバカにされたように感じることもあるのです。たとえ、本心からそう思って口にしたとしても、言われた相手が言葉どおりに受けとめてくれるとはかぎりません。むしろ、失礼になる場合もありますから、注意しましょう。では、どういうあいさつが適しているでしょうか。「変わらない」というフレーズがそれです。この言葉なら、品のよさと気配りを感じさせます。「いつまでもお変わりありませんね」「お変わりなくて何よりです」のふたつを、定番の言い方として覚えておいてください。さらに、「素敵なお召し物ですね」「春らしい色ですね」と、相手のお洒落をほめるのも喜ばれます。ほかにも、相手を喜ばせる趣味の話題などをからめたあいさつも気がきいています。そのときどきの相手に合わせて、自分なりの言い方を工夫するといいでしょう。
久しぶりに会った人に声をかけるとき●まずは「ごぶさた」のお詫びをすると上品しばらく会っていなかった人と何年ぶりかで再会したとき、日常的に使う「こんにちは」では、つい先日会ったばかりのようであまりに味気なく感じてしまいます。「しばらくぶりでございます」「ごぶさたをいたしておりまして申し訳ございません」などと、まずは何をおいても、ごぶさたをお詫びするのがマナー。品のよさというのは、礼儀をわきまえた言葉づかいに表れるということを忘れてはいけません。以前にお世話になった方には、次のようにあらためてお礼を述べます。また、今回もお世話になるかもしれない方には、そのあいさつをします。「その節は大変お世話になりまして、ありがとうございました」「このたびは、またお世話になります。よろしくお願いいたします」などが品のある言い方です。また、体調の悪かった人には、「その後、お体の具合はいかがでいらっしゃいますか」「お元気になられて何よりでございます」と話しかけたいものです。体調について、気づかいの言葉をかけるのは大切なことですが、かといって、根掘り葉掘り尋ねるのは失礼にあたります。ただし、本人が自分から話し始めたら聞いてほしいというサインですから、その際には話をよく聞くようにします。また、思いがけない人と思いがけないところでバッタリ会った場合は、「奇遇ですね」「珍しいところでお目にかかりましたね」と言います。よほど親しい人でないかぎり、どこへ行くのか、何の用事でここへ来たのかなどは聞かないのがマナー。深い意図がなくても、詮索しているようで品がありません。さらに、会ってしまってはお互いに気まずいような場所だった場合は、そのまま気づかないふりをして通り過ぎるのが大人の知恵というものでしょう。
目上の人と雑談するとき●こんな言い回しができればぐっと好印象に「ゴルフをおやりになりますか?」目上の人に趣味を尋ねるとき、こんな言い方をする人をよく見かけます。質問をしたほうは、相手に敬意を表しているつもりなのでしょうが、そもそも「やる」という言葉は、あくまでも自分の動作に使うもの。「おやりになりますか」では、いくら「お~になる」という尊敬語の法則にあてはめても、尊敬語にはなりません。しかも、「わたしはゴルフをやる」と自分の行為に使う言葉としても、「やる」というのは品の悪い言葉です。自分のことを言う場合にも「やる」ではなく、日常的には「する」を使い、敬語では「ゴルフをいたします」となります。ですから、「ゴルフをおやりになりますか?」などとみっともない言い方は、すぐにやめなければいけません。「ゴルフをなさいますか?」目上の人に使う場合は、このように品よく尋ねましょう。ただでさえ、目上の人と雑談するというのは、気を使うものです。上司と車に同乗したとき、取引先で商談がひと区切りついたとき、話題がないというのは気まずい思いがします。そんなときは、やはり趣味を話題にすることが多いはず。しばしば使う言い回しですから、覚えておいてほしいものです。また、趣味を話題にした際、絵や俳句などの作品を披露されて感想に窮することがあります。そんなときは、「なんとも言えない味わいがありますね」「わたしには芸術のことはよくわかりませんが、迫力を感じます」などと答えるといいでしょう。作品自体をほめにくい場合は、「意外な一面がおありなのですね」と、意外性の方向に話をもっていったり、「素敵なご趣味ですね」と、趣味をもつことの素晴らしさを強調したりすると無難です。また、苦労話を聞かされたときは、「ご苦労なさったのですね」「勉強になります」などのひと言で受けて、あいづちを打ちましょう。
目上の人に同意するとき●知性を感じさせる「あいづち」の極意とはあいづちというのは、相手から話題を提供されたときや意見を拝聴したときには欠かすことはできません。しかし、「はい」とか「そうですね」では、軽すぎる場合があります。そんなときは、以下のようなニュアンスに応じたさまざまな言い方を覚えておくと、品格と知性を感じさせる受け答えをすることができます。まずは、しっかりと同意を伝えたいとき。「おっしゃるとおりでございます」「ごもっともでございます」と言えば、相手の意見を理解しただけでなく、考えを肯定している態度を表明できます。ただし、相手が言い終わるやいなや、間髪を容れないタイミングで言いすぎたり軍隊調の口調で言ったりすると、絶対服従のイエスマンのようで下品です。一章で述べたように、いくら相手が目上の人でも、へりくだりすぎは卑屈な印象を与えてしまいます。十分丁重な言葉づかいなのですから、堂々とした態度で口にしたほうが印象の格が上がるということを忘れないようにしてください。また、「わたくしもそのように存じます」「わたくしもそのとおりだと思います」という言い回しなら、同意するとともに、自分も同じ考えであることを伝えられます。さらに、相手の話に同感したり、そのことに深く感銘したりしたことを表現する言い方としては、「深く感じ入りました」「貴重なお話を聞かせていただきました」というあたりが適当でしょう。「感激いたしました」などと受け答えをする人もいますが、この言い方は立派な講演を拝聴したあとの感想のように聞こえ、おおげさで少し品がありません。何度もくり返しますが、相手を持ち上げすぎたり、自分を低く下げすぎたりするのは、はしたない言い方だと心に刻んでおきましょう。
女性が女性の容姿をほめるなら●ほめ言葉が相手の気分を損ねている?!女性が女性をほめるのは、同性ゆえの対抗心などがからむこともあり、なかなか難しいですね。とくに容姿をほめるのは難易度が高いもの。「美人ねえ」とほめたのに「それって性格が悪いってこと?」と思われたり、「やせているわね」と言ったら「貧相な体形だと言いたいわけ?」と思われたり……。こちらはほめ言葉のつもりでも、悪い意味にとられて、相手が気分をそこねてしまうこともままあるものです。イヤミにならないよう気を配って品のいいほめ言葉を心がけましょう。たとえば、「やせていらっしゃる」→「ほっそりしていらっしゃる」「胸が大きくていいわね」→「スタイルがいいわね」と言えば相手もうれしいはず。悪意なくほめたつもりでも、言われたほうはコンプレックスを感じていることもあるのですから、デリカシーを感じさせる表現をしたいものです。とくに「お化粧が上手」「あかぬけたわね」は禁句。これでは、「土台はブサイクだけど」「前はダサかったけど」と言っているように思われても仕方ありません。「お肌にツヤがあってキレイね」「いちだんとチャーミングね」こんな具合に言い換えれば、誤解されずにすみます。また、ファッションをほめるときも、「お洋服がステキ」などと、着ているものだけをほめているような表現はしないようにしましょう。「よくお似合いになっていらっしゃる」「素敵な色合いのお召し物ですね」「いつもお洒落でいらっしゃる」など、着ている人との調和やセンスのよさをほめるようにします。ちなみに、「お召し物」の「召す」は、それだけで「着る」の尊敬語ですが、いまではそれに「お」をつけて「お召し物」「お召しになる」というふうに使います。「お洋服」などと言うより、品格を感じさせる表現です。ほかにも、品位ある奥ゆかしい単語として、「御髪」や「おみ足」などがあります。自分では使う機会はないとしても、だれかが使ったときに理解できますから、覚えておくだけでもいいでしょう。
女性が女性の性格をほめるなら●「感じたまま」を言うから角が立つ女性が相手の女性の容姿以外のことをほめるときも、その言い方にはちょっと注意が必要です。目に見える容姿と違って、性格や身体能力、行動といったものは、目に見えてわかるものではありません。それだけに、あなたが口にしたほめ言葉には、あなたが相手をどう見ているのかという評価がそのまま表れてしまいます。マイナス評価や非難をしているように聞こえないよう、ものの言い方にはくれぐれも配慮したいものです。たとえば、「おとなしい」というのは、「芯がしっかりなさっている」などと、積極的なプラス評価を感じさせる言い方にするといいでしょう。こんなとき、「落ち着いていらっしゃる」という表現もよくされますが、双方の年齢や人間関係の距離によっては、この言い方では、相手がカチンときてしまうこともあります。たとえば、入社したての新人女性が在社歴五年の先輩女性に、「先輩は落ち着いていらっしゃるから」と言ったら、ほめ言葉どころか、「先輩はオバサンだから」と言っているように聞こえる危険性大。この言い方は、それなりの年齢のマダムが、年の離れた年下女性に言うような場合に使うのがふつうでしょう。このほか、「元気がいいわね」→「いつも明るくて気持ちがいいわね」「口が達者」→「頭の回転が速い」「顔が広い」→「社交的でいらっしゃる」などと言い換えたほうが、相手の気分を害さないですみます。ほめ言葉のつもりで使う人はいないでしょうが、「無難な人」「潔癖症」という言い方もいけません。せめて、「真面目な人」「キレイ好き」くらいの表現をするようにしたいものです。
お世辞を言われたとき●社交辞令には、この謙虚なフレーズで対応するたとえば、友人からファッションをほめられたときには、素直に喜びと感謝の気持ちを表して「ありがとう」と答えればいいのですが、フォーマルな席やビジネスの場でほめられたときは、そうはいきません。いわゆる社交辞令に対して、悦に入った表情でお礼を言ったのでは、「わかっていない人」と思われてしまいます。たとえば、日常の業務では交流がない会社のかなり上の上司や役員クラスから、何かの席で仕事ぶりについてほめられたような場合など、謙虚に受け止めて謙遜した気持ちを表すのが大人の対応です。こんな場面では、「もったいないお言葉です」「そのようなお言葉をいただいては、こちらが恐縮いたします」というフレーズが妥当。こうした言葉で恐縮した姿勢を示すと、きちんとした印象になり、好感をもたれます。また、仕事がデキる人なら、ここであらためて言うまでもないと思いますが、「わたし一人の力ではありません」「みなさまのお力添えのおかげです」と、周囲への感謝の意も言葉にしたいものです。ところで、お世辞をいわれたとき、謙遜の意味で「とんでもないです」「とんでもありません」「とんでもございません」と言う人がいますが、これは間違った言い方です。「とんでもない」というのは「思いがけない、意外な、とても考えられない」という意味の形容詞だからです。一章で「うれしいです」「楽しかったです」という言い方を「品のない言葉」として紹介したように、形容詞に「です」「ます」をつけるのは文法的におかしな表現です。しかも、「とんでもない」でひとまとまりの言葉ですから、「とんでもございません」と言い換えるのは言語道断。丁重にしたぶん、よけいおかしな言い方になってしまいます。「とんでもないことです」「とんでもないことでございます」と言わないと、ものを知らない人と見なされ、恥をかくことになります。よく使う表現ですから、しっかり覚えておいてください。
自分や他人の伴侶の呼び方●目上の人に対して夫を「主人」と呼ぶのは失礼!他人に対して自分の身内のことを言うとき、「父」「母」「姉」「弟」「祖母」などと呼ぶことは、言葉づかいの常識中の常識。いい年をした大人が「お父さん」「お母さん」などと言っては、品どころか、オツムの程度を疑われてしまいます。しかし、自分の夫や妻の呼び方となると、迷う人も多いのではないでしょうか。この呼称には、二人の夫婦関係のあり方や価値観も反映されますから、「主人」「家内」という旧来ながらの言葉に抵抗を感じる人もいることでしょう。たしかに「主人」というのは、封建的な主従関係を思わせる呼び方ではあります。この呼称は、夫を持ち上げて呼ぶ言い方になってしまうため、相手が夫の部下やせいぜい同僚までが限界。上司や目上の人に対しては、避けなければなりません。では、どう呼んだらよいのでしょうか。「山田がいつもお世話にあずかっております」こんな具合に、会社の上司や目上の人に対しては、姓で言うほうが折り目正しく好感をもたれます。とはいえ、関係が薄い目上の相手にたいしては、姓で言いにくいケースもあります。そんなときは、「夫が申しますには」などいう具合に、「夫」という呼び方がいいでしょう。また、夫が妻のことを呼ぶ場合。「女房」「かみさん」「うちのやつ」「嫁さん」など、さまざまなバリエーションで呼ばれていますが、どんな世代の相手でも、どんな場面でも通用するのは、「家内」という言い方でしょう。あるいは、「妻」という言い方も、現代的なスマートさがあります。一方、相手の夫や妻のことは、相手がどのような価値観の方かわからないので、「ご主人」「奥様」がやはり無難です。ただし、仕事上のおつきあいしかないような距離のある関係は別として、家族ぐるみのおつきあいがある場合、「一郎さんはお元気でいらっしゃいますか?」「晴子さんによろしくお伝えくださいませ」のように、名前でお呼びすることをおすすめします。目上の相手の場合なら、「一郎様」「晴子様」と敬称のランクを上げて対応すれば大丈夫です。「ご主人」や「奥様」という昔ながらの呼び方より、個人として尊重している姿勢も表せて、むしろ知的な品のよさを感じさせます。
気持ちのよい近所づきあいの極意●微妙な距離だからこそ配慮が必要最近は、マンションの同じ階にどんな人が住んでいるかも知らないほど、近所づきあいが疎遠な人が増えています。けれども、ご近所に住んでいる者どうし、顔を合わせてあいさつひとつ交わさないというのは、あまりに不健全。そうしたコミュニケーションが希薄な状況は、お互いへの不信感を育てる温床になり、また防犯上も好ましいことではありません。近所に住む人たちにも礼儀正しさを忘れないようにしたいもの。というよりも、親密な近所づきあいがないからこそ、なおさら礼儀正しさが大切になってきます。引っ越してきたら、手みやげのひとつももっていき、「今度お隣に越してまいりました○○と申します。どうぞよろしくお願いいたします。これはお近づきのしるしです。お納めください」などと言い、よそへ引っ越すときは、あまりおつきあいがなかったとしても、「今度引っ越すことになりました。これまでいろいろとお世話になり、ありがとうございました」というように、あいさつをするのが礼儀です。また、ご近所であるからには、道で会ったときのあいさつも必須。「今日はいちだんと冷え込みますね」「この雨は夕方から雪に変わるそうですよ」育ちのよさというのは、ちょっとした心くばりににじみ出るもの。この程度の時候のあいさつは、さらりと言えるようになりたいものです。道で交わしたあいさつのついでに、迷惑をかけていると思われることがあれば、お詫びを言っておくと、なおいいでしょう。「娘のピアノの発表会が近いので、ここ一週間ほど練習時間が長くなってしまうと思います。ご迷惑をおかけいたしますが、お許しください」そう言い添えるだけで、それまであなたのことを不快に思っていた隣人も、心がなごむものです。浅いおつきあいでよいのです。むしろ、深入りしすぎるのは下世話な印象にもなりますし、ちょっとした行き違いから思わぬトラブルの原因にもなりかねません。品位ある言葉づかいで丁重に接していれば、相手も同じように接する気持ちになり、お互いに気持ちのよい近所づきあいができるようになるはずです。
セールス、勧誘の上手な断り方●丁寧かつ毅然とした断り文句とは誤解している人が多いのですが、品のいい言葉づかいと軟弱な言葉づかいとはまったく異質のものです。目上の人に対しても、目下の人に対しても、わけへだてなく丁寧な言葉づかいをするのは当然ですが、だからといって、不必要にへりくだる必要はありません。セールスや勧誘をはっきり断りたいときも、品よく断る言い方があります。感情にまかせて居丈高な物言いをしてしまえば、相手も嫌な気分になって態度を硬化させてしまいます。気持ちよく帰ってもらうに越したことはないではありませんか。さて、こうした場合の言葉として、「間に合っています」という言い方がありますが、これでは古いホームドラマの台詞のようで、いささか古典的すぎます。「いま、手がふさがっていますので」「いま、取り込んでいますので」「申し訳ありませんが、ちょうど出かけるところなので」こんな具合に、ゆっくり話を聞いている時間がないということを告げ、「またにしてください」と、やんわりと断るといいでしょう。それでも食い下がろうとしてくる相手には、「どうぞお引き取りください」と、毅然とした口調で対しましょう。これは儀礼的な言葉ですから、きっぱりとした口調で言ってかまいません。ちなみに、こんな場面で、「けっこうです」という言い方はおすすめしません。これは、承諾なのか断りなのかわかりにくく、たちの悪い相手だと、それを逆手にとって、無理やり承諾したことにされてしまう恐れがあるからです。おつきあいにおいて、あくまでも相手に失礼がないように断るという場合とは、まったく事情が違います。品よく、しかしはっきりと断りを表明できる言葉を使いましょう。
知らない人に呼びかけるには●「あなた」「おたく」ではいかにも軽々しい楽しみにしていたオペラ観劇の日。劇場で自分の席に着こうとしたら、そこに荷物が置いてある。どかしてほしいのだけれど、だれの物なのかわからず、隣の席の人にあなたの荷物なのかと尋ねたい……。さて、見知らぬその人に声をかけるのに、何と呼びかければいいか迷った経験はありませんか?若い人がカジュアルな場で言うのなら、「あなたのですか?」というラフな言い方でも通ることもありますが、ドレスアップしたあらたまった場では、それでは困ります。そもそも、「あなた」と呼びかけるのはなれなれしいし、「もしもし」や「あのう」と言うのも間が抜けている。苦しまぎれに「おたくのお荷物ですか?」などと、おかしいとは思いつつ、つい「おたく」と言ってしまう人もいることでしょう。こんなときは、「そちらさま」を使うとしっくりきます。「そちらさまのお荷物でしょうか?」このように声をかければ、その場にふさわしい上品な言い方になります。さらに「そちらさま」だけでなく、「~でしょうか?」を使うこと。「そちらさまのお荷物ですか?」では、子どもっぽく聞こえます。また、だれに声をかけたらいいのか、その相手が判然としないときもあります。そのような場面では、「これは、だれの荷物ですか?」などと大きな声で持ち主を探すのは禁物。そんな言い方をするようでは、言葉づかいをわきまえない品のない人と笑われてしまいます。「だれ」ではなく、「どなたさま」くらいは言えなければ、社会人としても常識を疑われます。「どちらさま」という言い方もありますが、「どちら」というのは、人間よりも場所や方角を示すときに使う言葉。「どなたさま」に比べると、やや敬意が薄くなります。ですから、この例の場合は、「これは、どなたさまのお荷物でしょうか?」と尋ねましょう。大勢の人が集まるパーティーや会合に参加すれば、当然、見知らぬ人がいることもあります。そんなときに忘れ物を見つけたときは、主催者の場合でも、招待客の場合でも、この言い方がベストです。
見知らぬ人にものを尋ねるには●この言い回しならぶしつけにならないはじめて行くレストランで食事の約束があり、しっかり地図で調べてきたのに、向かっている途中で道がわからなくなってしまった。こんなときは、通りがかった人や近所のお店の人に場所を尋ねることがあるでしょう。こうした場合、見知らぬ人にものを尋ねるというのに、いきなり「○○というお店には、どう行けばいいんですか?」では、単刀直入すぎてぶしつけです。では、「すみません。ちょっと道をお尋ねしたいのですが……」というのはどうでしょうか。よく使いがちな言い方ですが、一章でボキャブラリーからはずしてほしい言葉として説明した「すみません」「ちょっと」を使ってしまっています。「すみません」の代わりにおすすめしたフレーズを覚えていますか?そう、「恐れ入ります」です。ですから、こんな場面では、「恐れ入ります。道をお尋ねしたいのですが……」と言います。あるいは、「突然で申し訳ございませんが」「お呼び止めいたしまして」などと切り出すのもいいでしょう。また、丁寧に尋ねるだけでなく、お礼の言葉も忘れてはいけません。歩いている人には足を止めさせ、お店の人には手を止めさせることになるのですから、「ご丁寧にありがとうございました」「ご親切にありがとうございました」と、きちんと感謝することが大切です。ところで、「つかぬことをお伺いしますが……」という言い方もありますが、見知らぬ人にものを尋ねる際には、適切ではありません。というのも、「つかぬこと」とは、いままで話されていたこととは何ら関係のないこと、だしぬけなこと、あるいは突飛なことを指すからです。この場合、尋ねる内容ではなく、「お伺いする」こと自体がだしぬけな行為なのですから、ここで「つかぬこと」と言うのは、不要な切り出し文句。そんなふうに声をかけられたほうは、いったい何を聞こうとしているのかと身構えてしまいます。やはり、「恐れ入ります。少々お伺いしますが……」などと、やわらかい調子で話しかけたいものです。
会計、心づけの際の言葉づかい●お金が絡むだけに一段と気を配って買い物をして値段を尋ねるとき、品のいい言い回しとして「いかほどですか?」という言い方を一章で紹介しました。「おいくら」は、「いくら」に「お」をつけて飾っただけの言葉ですが、「いかほど」は、「どのくらい」を丁寧に表現した言葉。敬語には、元の形と違う言葉を使うと敬意や丁寧さが増すという法則があり、その意味でも、「いかほど」は丁寧度が高く品格を感じさせる言葉といえます。くり返しになりますが、ぜひ使いこなしてほしい言葉ですから、ここでしっかりマスターしてください。値段といえば、飲食店で会計をしてもらうとき。「お愛想お願いします」と、すまし顔で言う人がいますが、この言い方は、「たいしたもてなしもできませんで」という意味で店側が使う内々の隠語。本人は通な上客のつもりなのかもしれませんが、お客のほうが「お愛想」などという言い方をするのは正しくありません。「お勘定をお願いします」と、丁寧に言うのが、いちばん品のある言い方なのです。ところで、料亭などで食事をしたとき、心づけの扱いに迷うという声をよく聞きますが、心づけというのは、サービスに対して感謝の気持ちを表す古くからある慣習。自分なりの感想として「気持ちのいいサービスだった」「もてなしが素晴らしかった」と思ったら、それを心づけという形で表せばいいのです。たとえば、料理店でメニューには載っていない珍しい一品を供してもらったり、大人数での食事にもかかわらずいつもながらの行き届いたサービスをしてもらったり、よぶんなサービスや負担をさせてしまったと思ったときなどに、さりげなく心づけを渡すといいでしょう。ただし、渡すときに「あの~、これ」とか、「とっておいて」などと言うだけで、お礼の言葉がないのは感心しません。言葉が伴わなければ、相手に素直な感謝の気持ちが伝わらないもの。しかも、意図が不明確な心づけは相手を不安にさせるため、「けっこうです」と返されてしまうこともあります。「ほんのお礼の気持ちです」このように、相手に負担を感じさせないようにさりげなく、しかもきっぱりとした言葉づかいが、いちばん品よく、場にもふさわしいといえます。
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