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二、占有率の原理

目次

占有率とは

占有率というのは、水の中にたらしたインクの色と思えばいい。水の量が業界の総売上げで、インクの量が特定企業の売上げである。そのインクの色の濃さが占有率の大きさであると解釈していただきたい。

そして、占有率は業界の売上げを百%とした場合の個々の企業の売上高の比率である。一滴のインクをプールに落しても、インクの色は全然分らない。ドラム缶一杯の水でも色はつかない。

どんぶり一杯ではじめて薄く色づく。さかずき一杯の水に一滴のインクをたらすとかなりの色がつく。つまりかなりの占有率となるために、市場にその存在が認められるのである。その色が認められないインクの量とは、市場に認められない占有率である。

このような占有率を「限界的占有率」といい、そのような企業を「限界生産者」または「限界業者」という。商品ならば「限界商品」という。

限界生産者または限界商品は、流通業者も消費者もエンドユーザーも、その存在を認めてくれない。(市場に存在を認められない、ということは具体的にどんなことなのかということは、「経営戦略篇」でのべておいた。)ということは、「市場に生き残れない」ということである。

この原理を知らずに、 一滴の水をプールに落すような誤りを、多くの会社でおかしているのである。自らの力も顧みず、大きすぎる市場に進出しては敗退を繰返しているのである。

年商二億円にも足りないローカルの食品会社A社の社長は『売上げを伸ばすには、まず大消費地を狙うことが大切だと思い、東京・大阪・名古屋に進出しました』という。A社の売上げはいつまでたっても伸びずに、食うや食わずの状態を数年来続けているのである。

「売上げ増大には大消費地を狙え」という考え方は、企業の大小とは無関係に数多くの会社で持っている「神話」である。

このために、ごく一部の賢明な会社を除き、猫もしゃくしも大消費地を狙う。そのために大消費地では百の需要に二百の供給が殺到して、大激戦が展開されている。

このような市場で力の弱い小企業が成果を上げることなど、夢のまた夢なのである。

特にローカルの小企業など、東京進出、大阪進出と、「カッコいい」ことをしても、殆んど大部分は成功していない。

調べてみると、その得意先自体が限界生産者であったり、細々とどさ廻りをしていたりする。収益はその営業所自体の費用を賄えれば、まだましの方である。

いくら需要があっても、大激戦に勝ってその需要を手に入れるだけの戦力がなければダメなのである。市場戦争というものは、「力と力のねじり合い」であることを忘れてはならないのである。

大消費地で失敗しているにもかかわらず、それに気がつかず、成果が上がらないのはまだ進出していない地域があるからだと思いこみ、新しい地域に進出しては、更に失敗を大きくしているのである。

まだ進出していない地域があるから、ここに進出する。まだ占有率の低い地域があるから、ここに力を入れるというのは、「強者」,現在の市場で大きな占有率を確保している業者― の戦略なのである。

「弱者」の戦略は、まず現在の我社の力で、生き残るために必要な占有率(後述)を確保できる地域に限定して戦いを進めるのである。

その地域とは、どのような地域なのかを考えてみよう、たとえ全国占有率第一位の業者といえども、特定の地域に投入できる戦力には限界がある。

その限界以上の戦力を、我社で投入できる地域である(くわしくは後述)。この地域を我社の戦場に選び、徹底した「蛇口作戦」を展開して、この地域で第一位を奪い取るのである。この地域での「強者」となることによって、この地域での生き残る条件を確保できるのである。

強者の利点は、それが例え限定地域であっても、その地域内での「知名度」は高まり、企業信用は増加する。

販売促進も、配送も、そして情報の収集もすべて極めて効率的に低費用で行なうことができるので、収益性が向上するのである。これが更に新しい戦力を生む。

この新しい戦力を、新しい地域― いうまでもなく、有利な戦略を展開できる地域― に投入して、ここでもまた大きな占有率を確保するのである。

こうして、次々と日本一強い地域をつくりあげてゆくことこそ、正しい、そして最も効率がよく、最も安上りの戦略なのである。この、日本一の地域を全国隈なく作りあげた時に、完全制覇が成立するのである。

こうしたことは、現実にはあまりあり得ないし、またそうする必要もない。また、完全制覇が最良の道とは限らないのである。

ただ、私が言いたいのは、「理論としてはそうなる」ということである。

この理論をふまえて、現実には、どのように効果的に戦略を進め、効率的な経営を行なうか、ということなのである。

市場細分化

前節で、市場戦略における占有率というものは、業界全体の占有率というよりは、「地域占有率」という考え方をしなければならない、ということを述べた。

「業界占有率は低くとも、特定の地域での占有率が高い」ということが存続の条件だということである。

つまり「市場を細分化して、その一つ一つの占有率を考える」という思想である。これを、「市場細分化」(マーケティング・セグメンテーション)という。

東海道新幹線で、静岡市と清水市の中間の車窓から見えるシャンソン化粧品という会社を記憶されている読者もおられると思う。

この会社は、化粧品業界では完全な限界生産者である。それにもかかわらず、立派に存続しているのは、静岡県に市場を限定してここに戦力を集中しているからである。市場細分化の思想を忠実に実行しているのである。

シャンソン化粧品のみでなく、化粧品業界には、地域細分化の思想をふまえて、立派に生き残っている会社が多い。

そして、それらの殆んどの会社が「訪問販売」という最小単位の「蛇口」を狙っているのは考えさせられる現象である。

では、「どのように細分化していけばいいか」ということになる。これには、きまった区分法はない。

あるのは、「我社の市場戦略を展開するためには、市場をどのように細分化して考えたらいいか」という「我社の都合」である。

各種の文献からの情報を利用するためには、「行政区分」を考えると便利であることはいうまでもない。この行政区分で基本的な情報をつかみ、これで市場戦略の方向づけを考える。

これに基づいて、実際の戦略は、地域の歴史、民俗、地理的条件、気象条件、交通網、経済圏、競合他社などなど、様々な要因を総合して検討し、決定するのである。

細分化の例をあげてみると、行政区分によれば、地方ブロック、都府県、都市区町村というようになり、地理的条件で分ければ、東日本、西日本、北陸三県、山陰地方、東海地方、北関東などとなり、もう少し細分化すると、富山県を呉東呉西に、長野県を北信。中信。南信。東信に福島県を浜通り。中通り。会津に、ということになる。

さらに細分化すると、一つの都市を山手と下町に分けたり、商店街、住宅街、文教地区、団地というような分け方もある。

小売店舗では、店舗を中心とした半径五百メートルというような考え方をする。地域細分化をトコトンまで進めると、 一つ一つの小売店にまで分けられる。細分化の考え方は外にもある。

たとえば、商品別細分化、顧客別細分化、規模別細分化などいくらでもあるのだ。

しかし、産業資材機械などは、地域細分化的な考え方はできない。全国を一つの市場と考えなければならないのである。

牧野フライスという会社は、工作機械の市場占有率を考えるのではなくて、「フライスの市場占有率」を考え、さらに細分化して 「高級フライスの市場占有率」を考えるのである。

「官公需」と「民需」に分け、民需を「大手」と「中小」に細分化する。商品の格による「高級」「中級」「据物」という細分化もできる。

『クイーン・サイズのニットのスーツでは、我社の占有率はこれこれである』という考え方ができる。

右にのべて来たように、「市場細分化の考え方は無限にある」のだ。

その無限の細分化の中から、「我社は商品・市場・顧客をどう細分化して市場戦略を進めるか」という問いに対する答えを探しだすのである。

こうした考え方をすることによって、我社の商品構成・対象市場・顧客選定に、その方向づけと目標の設定に対する明確な方針がうちだせるのである。その方針の基礎は、「市場占有率確保」であることはいうまでもないのである。

いくらの占有率を手に入れたらいいか

占有率を、その度合によって分けて見ると、次のようになる。むろん、様々な要因がからみ合っているだけに、一概にはいいきれないが、一般的な基準と考えていただきたい。

  • ○独占的占有率    七〇%以上
  • ○主導的占有率    四〇%以上
  • ○不安定な一流    二五%以上
  • ○限界的占有率    一〇%以下(または第一位の三分の一以下)

ということであろう。

「独占的占有率」とは、文字通り独占的であり、断然たる強味を持っている。

しかし、絶対的な強味ではない。というのは、このような占有率を持つと、同業他社がとても勝負にならないと尻込みする例が多く、無競争に近い状態になってしまうことがある。

そのために、ともすれば安逸に流れ、革新を忘れたり、顧客に対する姿勢が高くなって、流通業者からきらわれているケースがかなりある。

流通業者としては、もしも商品の品質がよく、流通業者にサービスのよい会社が現れた場合には、鞍替えしてもいいと思いこむようになる。このような場合に、大きく占有率を食われる危険を常にもっているのである。

A社長が『閑散期を埋める商品として、M社の商品がある。これに乗りだしたいのだが、何しろ敵は文字通り一〇〇%の占有率をもっている。これでは相手が強すぎてとても太刀打ちできないので、あきらめようと思っている』という。

私は『そういう商品こそ面白い。やるべきである』と勧め、その理由を説明した。A社長は私の意見に力を得て、これに乗りだすことになった。

結果は流通業者が面白いように食いついてきたのである。A社長は、『早く三〇%の占有率を確保したい』と大張り切りであった。

「主導的占有率」とは、その市場の主導権を握ることができる占有率である。

プライス・リーダーになれるのもこの占有率であり、自らの姿勢を崩さぬ限り、他社を容易によせつけないだけでなく、さらに占有率を高めることが確実にできる占有率である。

このような強味を持つことができるが故に、市場制覇の条件づくりとして確保の目標とする占有率である。

「不安定な一流」とは、顧客に対する知名度が高くなって売り易くなり、同業他社からも一目置かれるようになる。そして、これまでの努力が報われて収益性もよくなる占有率である。

とはいっても、安心できるどころか、まだまだ不安定な地位である。占有率上位の会社があれば、その会社から大きな圧力をかけられる公算が大きい。

また、この占有率で業界のトップであれば、二、三位の業者の占有率との差は僅かしかないのが普通である。

一騎打か、三つ巴四つ巴の激戦が展開されていて、ちょっとでも油断しようものなら、たちまち占有率が下がる危険が大きい。難しい立場にある占有率である。

それだけに、市場情報の不足は戦略を誤らせ、攻撃目標を誤ったり、思わぬところで寝首をかかれる危険がある。

特に下位で急速にのし上がってきたようなバイタリティを持った敵はマークしていなければならない。

苦しい戦いに耐えて占有率を上昇させ、四〇%占有率確保のための三〇%以上の占有率をまず手に入れて、他社を振り切らなければならないのである。

「限界的占有率」とは、この占有率では生き残ることができない占有率である。知名度は低く、売上げ増大は極めて難しい。収益性はむろんよくない。

限界生産者の生きる道は、さらに市場を細分化し、または商品を絞り、これに死にもの狂いの販売努力を集中することしかない。

そして、とにも角にもこの中で生き残るための占有率を確保するのである。

この場合には、社長自らが販売の第一線に立ち、既存得意先への拡販と新規得意先の開拓をするのである。

この段階では、社長はセールスマンでもあるのだ。これは、創業時代にどの社長も殆んど例外なしにやることでもあるのだ。

こうした努力により、小さな地域での必要占有率を一つ一つ確保し、我社が生きられるだけの大きさの地域を確保するのである。

ところが、多くの限界生産者はこの原理に逆らい、思うように売上げが上がらないと、それは販売地域が狭いからだと思いこみ、販売地域を拡大する。

これではなおさら占有率の確保が難しくなる。もう一つの誤りは、大きな市場ならば売れると思って、東京や大阪に進出する。

これは、プロレスの「バトルロイヤル」のリングに素人が殴り込むようなもので、リングに入った途端にはねとばされてしまう。

あとはリングの外でウロウロするのが関の山である。小企業で東京営業所など出してみても、限界生産者をお得意にもてるくらいで、だいたいにおいて、東京周辺の三流業者が得意先である。

リングの外でウロウロしているというのは、こういうことなのである。自らの力もないのに、いい恰好したり、大手を真似てもダメなのである。

「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」ことが大切である。限界生産者は限界生産者らしく、自らの分に応じた、正しい市場戦略をとることが大切なのである。

市場占有率というものは、対象とする地域に対するものである。「我社は全国シェアでは限界生産者であっても、細分化の理論を適用してゆくと、関東地方では限界生産者ではなくなり、県内シェアでは不安定ながら一流であり、特定都市では主導的占有率を確保している」ということになるかも知れないのである。

それぞれの占有率が、その地域における市場の地位を意味しているのである。そして、それぞれの地域に、市場の地位に応じた市場原理が働くのである。だから、社長たるものは、市場占有率に関する正しい知識を持ち、細分化の原理をふまえて、我社の市場戦略をどう展開するかの確固とした方針を持たなければならないのである。

しかし、現実には多くの会社で市場占有率に関する認識がなさすぎる。その一番の証拠は、売上高に「対前年比伸び率」という捉え方をしていることである。

我社の売上高の伸び率が、もしも業界の伸び率よりも低ければ、市場占有率は低下しているのだ。つまり、売上高は伸びているのではなくて、低下しているのである。

我社だけの売上高の伸び率という捉え方は全くのナンセンスなのだ。こうした考え方は絶対にしてはならないのである。

売上高は市場占有率におきかえ、これを細分化の理論に従って検討することによって初めて我社のおかれている立場や方針の適否が分るのである。同時に、新しい市場戦略樹立に貴重な情報となるのである。

市場戦略というものは、市場占有率の原理に従って、いつも我社の戦力に見合った市場に細分化し、その地域での地域戦略― つまり「局地戦略」―なのである。

全国第一位の占有率を持つ企業であっても、地域細分化すればマチマチの占有率となり、その地位に応じた市場原理が働くとなれば、決して安閑としてはいられない。

それぞれの地域ごとに、占有率に応じた地域戦略を展開しなければならないからである。

これを、逆に占有率の低い業者からみれば、大手といえどもすべての地域に十分な手が廻るわけではないし、沢山の死角や盲点などの弱点をついて先制攻撃をかけることによって局地戦に勝ち、その地域で生き残り、さらに力を蓄えて次の地域を攻撃するのである。

たとえ、今は小さくとも大手より優れた戦略をもっていれば、次々と地域戦に勝ち、大手との占有率を逆転させて王座につくことができるのである。

ランチェスター理論とその応用

占有率理論として、絶対に欠かせないのが「ランチェスター理論」である。

F 。W ・ランチェスターは、イギリスの航空機工学の権威で、第一次、第二次世界大戦の数々の戦闘を分析し、彼我の兵力や装備と損害量などに、ある種の法則性があることを発見し、これを一つの理論体系としてつくりあげた人である。

この理論は、実際には太平洋戦争においての作戦計画に採用されて実効をあげたのである。

第二次大戦後は、この理論がオペレーション・リサーチを始めとした市場戦略へ応用されてきた。

ランチェスター理論は、いうなれば競争理論であり、「いかにして競争に勝つか」という設間に対する基本原理である。

この基本原理は、計量化つまり物量理論であり、市場戦略においては「占有率」の原理として、数多くの研究がなされている。

ところでいかに優れた理論といえども完全なものはない。ランチェスター理論もその例にもれず、前提条件や応用面において、いろいろな制約がある。

まず第一の前提として、彼我の武器効率―つまり質的条件―は同一である、ということである。この質的条件を同一のものと見なしての「確率論」である。

第二には、応用面においては「消費財」が中心である。原材料や産業機械についての適用はまだ極めて未熟である(しかし、可能である)。

第三には、メーカー主体であり、流通業者への適用理論はこれからの課題である(筆者はかなりこの適用に成功例をもっている)。

第四には、あくまでも「地域戦略」であつて、「総合戦略」ではない、ということである。

以上のような、いろいろな制約があるとはいえ、それはいささかもランチェスター理論の真価を損うものではない、というのが私の主張である。

それどころか、いろいろな制約があるからこそ、実戦に役立つのである。

特に、「質的条件が同一の場合」というのは、そういうことはあり得ないから使えないのではなくて、あり得ないからこそ使えるのである。

というのは、量的条件については、ランチェスター理論で明快な解答が出るので、あれこれ思案することは不要である。

だから、量的条件はランチェスター理論にまかせ、ひたすら質的条件だけを考えればいいのである。

実戦において、質と量を同時に考えるというようなことは、複雑すぎてとてもできるものではないのだ。量と質を別々に考えればいいとは何と有難いことかと、つくづく思うのである。

また、その理論が極めて単純明快なるが故に、これを有利に活用する道を与えてくれるのである。

応用能力を大いに発揮する機会があるということは、中小企業にとっては極めて有利である。もしも、そうした機会がなければ、大企業に力だけで押しまくられてしまうからである。

大企業の「カ」に対抗し、中小企業の「知恵」を効率的に発揮する方策を与えてくれるものが「ランチェスター理論」なのである。

ランチェスター理論は、極めて簡単な二つの法則が柱となっている。第一法則を「一騎打の法則」といい、第二法則を「集中効果の法則」と呼んでいる。

簡単なるが故に、かえって広範な適用を可能にしているのであり、駆使する企業の応用能力と知恵に、その効果の程がかかっているのである。能書はこれくらいにして、法則の説明に入ろう。

第一法則― 一騎打の法則

飛道具を持たない「一騎打」を想像していただきたい。甲軍十人と乙軍十五人が一騎打戦をしたらどうなるか。

甲軍の十人は乙軍の十人とそれぞれ一騎打をすることになる。全く互角の力量だから(これがランチェスター理論の前提)、相打ちとなり、甲軍は全滅し乙軍は五人生き残るのである。

一騎打戦は、人数の多い方が勝つのである。こんな簡単な理論はない。

この理論の応用は、「大手と喧嘩するな」「敵の強いところは攻めるな」ということである。弱小企業は、いきなり大消費地である東京や大阪に進出するのは間違いなのである。

商業都市大阪では、丁稚奉公を終えて独立をする時は、いきなり一流の「船場」には店を出さない。まず「南」に店を出し、これで実績と信用を積み重ねた後に船場に出た、という話をきいたことがある。ここに「弱者」の戦略があるのだ。

昔の人は徒手空拳で商売を始める時には、借金を質におくような思いをして品物を仕入れ、これを背負って行商した。

それは、辺ぴな村々から、峠の一軒屋、山奥の樵小屋を廻って商いをし、けし粒のような儲けを積み重ねた後に、大八車を買って今度は村から町、町から村を廻り歩いて商売した。

こうして資本を少しずつ増やし、次は町の場末に店を構える。ここで儲けたら、今度はもう少しましなところへ移って奉公人を雇い一格上のお客様をお得意に持つようになる、というふうにして次第に大きくなっていったのである。

これが「弱者」の戦略の典型なのである。自分より強者が居るところは避け、そこで力をつけてから、自らの力で戦えるところへ商圏を移していったのである。これこそランチェスター理論を地でゆくものなのである。

弱者は常に強者と正面衝突することを避けなければならない。そして、強者の盲点、強者の死角を突くのである。

その死角とは……、M社が静岡地方の製紙工場に対して新たな販売活動を展開した時に、富士地区の工場密集地帯では、既に地元の業者が巡回サービスを実施しており、訪問しても門前払いを食うケースが多く、新たに割込むことは、不可能とはいえないが、かなり困難な状況だった。

ところが、山を一つ越えた地区にある工場を訪問すると、門前払いはされずに、担当者に面会を許され、話をきいてもらえたのである。

B社で新たな市場戦略を展開した時には、東京の北部を流れる荒川の堤防ぎわにあるかなりの規模の会社― 十分以上歩かないと人家がない――を訪問したところ、相手の会社で、よくこんな不便なところまで来てくれた。

他の会社では全然来てくれませんとむしろ歓迎のムードで、早速商談がまとまってしまったのである。

このように、不便なところ、遠隔地、辺地、過疎地、小都市などが死角盲点となっているのである。人間とは、このように物臭者なのである。

右のような場合だけでなく、特に不便でもなく遠隔地でもないところで、大手との正面衝突を避けることによって、相手を刺戟せずにうまいこと立回って、大手が気がつかないか、気がついても「大したことではない」と思わせておき、占有率を高める手段があることを知らなければならない。

K社は、事務用器具のメーカーである。社長は、間屋任せの商法の限界を思い知らされていた。売上げを伸ばすには、どうしても自社で販売しなければならないと決心したのである。

そこで、自ら売るための販売戦略を、まず地元から始めることになった。戦法は、いわずと知れた「蛇口作戦」である。

巡回先の選定に当って、私は最大手のL社の主要蛇口を避けることを勧めた。大手だけに、デパート、ビッグスーパー、大型専門店の大部分を押えているのである。

もしもL社の蛇口を攻めて成功したならばL社はすぐに気づく。そして、「小しゃくな」とばかりに、力にまかせてK社をねじ伏せにかかるかも知れないのである。

―これが最悪事態を予測するということである。この戦法で考えられるのは「安値攻勢」である。

L社にしたならば、K社の主力商品を、たとえ赤字で一年や二年続けても、蚊に食われたくらいのものである。しかしK社はそんなことをされたら「めしの食いあげ」である。

だから、L社を避けなければならないのである。L社さえ避ければ二番手以下はあまり心配しなくともよいのである。

こうして、L社以外の蛇口を押えた後に、L社の主要蛇口をしらべて、L社と何となくそりが合わないとか、比較的小型とかの蛇口を一つだけ狙ってこれを攻略する。そしてL社の反応をみるのである。

L社が敏感に反応したら、それ以上の攻略をしないで、L社を刺戟することを避け、時間のクッションを設けるのである。

敏感に反応しないのならば、さらにもう一つの蛇口を攻略してまたL社の反応をみる、というように進めることにしたのである。

世の諺に「金持ち喧嘩せず」ということがあるが、市場戦略では、「金持ちと喧嘩せず」である。「と」の字が一字増えるのである。

この理論を金持ち― つまり強者の理論におきかえると、今度は「弱い者をいじめよ」となるのである。

これが、強者が自らの地位を保つ戦略となるのである。その最も有効な方法は、自分のすぐ下にいるやつを叩くことである。つまり、「一番危険なやつを先ずやっつけろ」ということを意味しているのである。そして、これは非常に有効な戦略である。というのは、「間違いなく我軍が勝つ」からである。

とはいえ、いつも自分のすぐ下ばかり叩いているだけでなく、その下にいるものを叩いて占有率を上げ、すぐ下との差を拡げる戦略もある。

かつてのプロ野球巨人軍の川上監督は、下位球団を叩いては勝率をあげ、二位との差をつけるという戦法をとった。これも立派な戦略である。

第二法則― 集中効果の法則

これは、飛道具による戦いといえよう。

今、性能の同じ鉄砲をもち、同じ射撃能力をもった(これがランチェスター理論の前提)甲軍二人と、乙軍三人が戦う場合を考えてみよう。

鉄砲の発射速度を、一人一分間六発としてみると、甲軍は二人だから一分間十二発を乙軍に射かける。乙軍は二人だから、 一人当り四発射かけられることになる。

同様に、乙軍は一人六発、計十八発を甲軍の二人に射かけるから、甲軍は一人当り九発の弾を射かけられることになる。弾に当る危険は、甲軍一人当り九発に対して、乙軍は一人四発となる。

この危険は、両軍の兵力の二乗に逆比例しているのである。同様に企業戦争もその危険度は企業規模の二乗に逆比例する、のである。

これが「集中効果の法則」といわれているものなのである。

これは占有率の高い企業が戦いに勝つことを意味している。そして、占有率の伸びも、占有率の高い企業の方が大きいことを意味している。

これでは、永久に大きな企業には勝てない理屈になる。これはおかしい。現実には小規模会社や後発企業が、大規模会社や先発企業を追い抜いているではないか、という疑間が生れてくる。これをどう解明したらいいか、ということになる。この点を考えて見よう。

ランチェスター理論は、「確率論」である。

確率というのは、量的な要素だけで構成されている。「質的な要素はすべて同一」という前提がある。小規模企業でも質的要素が優れていれば、大規模企業に勝つことができるのである。

つまり、この法則は、「大きな会社の真似をしてはダメ」という教訓を、われわれに与えてくれるのである。小さな会社は品質も努力も大手より勝るものでなくてはならないのだ。

小規模会社が大手を追い抜くもう一つの戦略を、別の面から教えてくれるのも、実はこの「集中効果の法則」そのものなのである。「大手が勝つ」という法則が、そのまま「大手に勝つ」という戦略を教えてくれるのである。

集中効果の法則というのは、両軍の総兵力のことではなくて、あくまでも「局地戦」の法則である。全体の兵力は劣っても、局地において兵力が勝れていれば、その局地戦に勝利を収めることができる。

この法則を利用して作戦を立て、用兵の妙により敵の弱いところに兵力を集中して、この戦場で勝つことができるのである。この戦略を次々と遂行することによって、大敵に勝てるのである。これを「各個撃破の戦略」というのである。

この局地戦における各個撃破の理論を、旧日本陸軍の「作戦要務令」の綱領の一つは次のように唱っている。

「戦捷の要は、有形無形の各種戦闘要素を綜合して、敵に勝る威力を要点に集中発揮せしむるにあり」と。これは、膨大な戦費と数十万の人命の犠牲の上に得られた、貴重な教訓なのである。

集中効果の法則を、日本人は文章によって表現し、英国人は確率論で理論づけているのは、国民性の違いを見せてくれる興味ある現象である。

集中効果の法則を、くだいて表現すると、

  1. 局地で敵より強ければ、その地域で勝てる。
  2. 特定の商品で強ければ、その商品で敵に勝てる。
  3. 特定の得意先で強ければ、その得意先で敵に勝てる。

以上の原則をふまえて敵情をよく調べて、敵の弱いところに、敵以上の我社の戦力を投入すれば、そこで勝利を収めることができるのである。

繰返して、くどいようだが、集中効果の法則は、強者の戦略であると同時に、弱者の戦略でもあるのだ。

そして大切なことは、「勝っということは、そこで第一位になること」と心得るべきである。

なぜならば、 一つ一つの地域で第一位になるということは、その地域でさらに占有率を高める条件を作りあげるということだけでなく、第一位の地域を一つ一つ作りあげてゆけば、窮極において 「業界第一位」をかちとるということを意味していることに留意していただきたいのである。

業界第一位になりたいのならば、第一位になるための戦略を知り、これを冷静に、しかも果敢に推進することなのである。

占有率確保の条件

ランチェスター理論の教えるところに従い、占有率を確保する条件を考えてみよう。いうまでもなく、ランチェスター理論は地域戦略である。地域を細分化し、その中での地域占有率を確保することである。

細分化は、トコトンまで細分化し、そこの占有率を確保することが戦略の基本である。そして、占有率を確保した地域を一つずつ増加するのが正しい考え方である。

その考え方とは、

  1. 特定の商品を、特定の蛇口(小売店舗であって問屋ではない)において第一位にもってゆく。
  2. 特定の店舗で、第一位の商品を増加し、その店舗における我社の占有率を第一位にもってゆく。
  3. 特定の地域で、店舗占有率第一位の店を一つずつ増加して、その地域で第一位の占有率を確保する。
  4. 占有率第一位の地域を一つずつ増加して業界占有率第一位を獲得する。

という手順を踏むのである。

そんなマダルッコイやり方では遅れをとる、と思われる方に、筆者が子供のころ少年雑誌で読んだ話を紹介しよう。

むろん作り話ではあろうが―義経と弁慶が、ある時米飯から糊をつくる競争をした。義経は、「練り板」に少量の米粒をおき、飯粒を一つ一つヘラでつぶしては練りあげていった。

弁慶は、ねじり鉢巻にたすきがけで、臼に入れた米を杵でついた。弁慶のやり方では、いつまでたっても糊はできず、義経の勝ちであった。

他愛ない少年向けの話と、笑いとばすわけにはいかない真理を、この話は含んでいる。その真理が、つまり市場細分化の理論と同じであることを、賢明な読者は既に理解されていることと思う。

そして、この話のように、一つ一つの店舗から、一つ一つの地域の占有率を確保することが、最も効果的で最も早いのである。

こうして大きな市場占有率を作りあげた大手を見て、その真似をしてみても、成功する筈がないのだ。

「ローマは一日にして成らず」という諺を、よくかみしめ、理解して、正しい態度をとることこそ、社長たるものの大切な役割なのである。

話をもとに戻そう。

占有率確保の手順は、あくまでも「基本的な考え方」である。この考え方をふまえ、冷静に敵情を調べて我社の力に応じた戦略をとるのである。

「蟹は甲羅に似せて穴を掘る」のだ。そして、甲羅に似せて穴を掘ることが最も安全で、最も効率的であることを、くれぐれも忘れてはならないのである。

いままでは、弱者の立場から論じてきた。では、強者はどうすればいいのだろうか。

強者として心しなければならないのは、自らの強味の上にアグラをかいているわけにはいかない、ということである。

もしも第一位に安心して、顧客へのサービスを怠ったり、市場活動を手抜きすると、いつ第一位の座を追われるか分ったものではない。

まず第一に我社の商品力の優位性を確保するための研究改良を片時も忘れてはならないのである。

商品の優位性などは、パテントで守られてでもいない限り、まず半年から一年と思わなければならない。

だからこそ、他社が現在の我社の優位性に追いついたと思った時には、我社は一歩優れたものを持ちていなければならないのである。

商品の優位性こそ、第一位の基本的条件であることを、肝に銘じていなければならないのである。

商品力の優位性をふまえて、商品構成の総合化と多様化の方向に進むのである。同一の販売チャンネルの上にのれば、営業費を増加させずに売上げ増大を実現するからである。

この場合に留意しなければならないのは、ムチャクチャな拡大によって企業イメージを損うような商品を取入れてはならない。

また、総合化、多様化によって、手が回りきれずに従来の商品の占有率を落すようなことがあってはならないのである。

販売網については、強者はランチェスター理論の「確率論」の教えるところに従っての、作戦地域の拡大と、拠点(営業所)と蛇口(小売店)の増加である。

強者の基本戦略をのべてくると、大方の社長がまだ弱い時に一番先に考える戦略である。つまり、強くなった時にとる作戦を、まだ弱い時にとるから失敗してしまうのである。

基本戦略をふまえて、常に二位をマークしていなければならない。もしも、売上高の伸び率が我社より大きければ、ただちにこれを叩くのである。

その戦法として、よく使われるのが「値下げ作戦」である。しかし、これは自らの商品の質的優位性がなければ、その効果は大きく減殺されてしまうことに留意しなければならない。品質の強味は大きいのである。

筆者に言わせれば、「値下げ作戦」は大切ではあってもあまり有利とはいえ自らの収益の低下というデメリットがあるからだ。その上、流通マージンを下げると、流通業者から反発を食うことがあるから注意しなければならないのである。

それよりも、敵を上回る蛇口作戦の展開と社長の表敬訪間である。特に敵の重点地域を徹底的に攻めて、これを制圧するのである。

また、第二位以下であっても、売上高の伸び率が我社より高いものは、その商品や販売戦略を調べて、いつでも、攻勢に出られる態勢をとり、機をみて叩くのである。

もう一つ大切な戦略がある。強者といえども細分化された市場では弱者の占有率しか獲得していない地域があるものだ。このような地域に対しては、弱者の戦略を展開して第一位の占有率を手に入れることである。

以上、ざっと強者の戦略をのべてきたが、強者の戦略とは「確率論」の原理といえる。言いかえると、総合力と数において優位に立つことなのである。力のあるものは力で勝負するのである。

戦いに勝つ道は、弱者は弱者の戦略をとり、強者は強者の戦略を展開することであることを忘れてはならないのである。

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