我社の事業を創る●
M社
M社はパンティーストッキングのメーカーである。私がお伺いしたのは、第一次オイルショック後の不況時で、業界全体が多量の在庫をかかえて苦しんでいた。
M社も同様で、どうにもならない泥沼にはまりこんで大手の某社のごときは、小売価格二〇〇円の品を二足ワンパッケージとし、これに一〇〇円の小売価格で売りだしたほどである。ムチャクチャを通り越している。これによって、弱小メーカーを押しつぶす戦略である。しかし、これは不成功に終った。何故だろうか。
※大手が販売価格を50%にして、弱小メーカーを潰す戦略に出たが、それは失敗した。
それは、超安値自体が原因である。特売の目玉や見切品ならいざ知らず、こんな値段で大量販売などできない、と流通業者がソッポを向いてしまったのである。
※やりすぎると業界自体がそっぽを向く。
流通業者はカスミを食って生きているわけではない。売場の一坪一坪に大きな資本を投じている。販売経費もかかる。
それを賄えないような超安値ーつまり低マージンの品物を大量に売るわけにはいかないのである。「安価なら売れる」という神話は間違っている。流通マージンが小さければ売れないのである。
※流通業者は、カスミを食って生きているわけではない。売り場の1坪1坪に大きな資本を投じている。それを賄えないような超安値、つまり低マージンの品物を大量に売るわけにはいかないのである。「安値なら売れる」という神話は間違っている。
この点が盲点になっているのだ。だから、メーカーは小売価格を安くするよりも、卸価格を安くして流通マージンが多くなるような希望価格設定をすれば売れる。
※メーカーは小売価格を安くするよりも、卸価格を安くして流通マージンが多くなるような希望小売価格設定をすれば売れる。つまり希望小売価格設定を高くしていけばいい。
価格の高いのは極端な場合は別にして心配することはない。高マージンにしてあれば、流通業者が値下げをして売るからである。
※価格の高いのは極端な場合は別にして心配することはない。こうマージンにしてあれば、流通業者が値下げをして売るからである。
メーカーが流通業者を通して売る場合に、小売価格を指定するのは、特定の商品以外は違法になるので、「希望価格」とし、小売価格は流通業者がきめるのである。
※希望価格とし、小売価格は流通業者が決める。
当時のM社は、売上ランクは六〜七位の完全な「限界生産者」であり、大幅な赤字をかかえながら、売上げはジリ貧だったのである。
※限界生産者であり、大幅な赤字を抱えながら、売り上げはジリ貧だった。
M社長に、いろいろお話を伺ったのだが、販売の「ハの字」も知らない全くの職人社長だった。
パンティーストッキングの材料糸の質、色、デニール(糸の太さ)、編み方、シームのあるなし、その他について、「お客様の最大の関心は何か」を聞いても答えられない。全くの盲目である。
パンティーストッキングや口紅などの、お客様の最大関心は「色」なのである。私はM社にお伺いするに先立って妻と娘に聞いたところ、二人とも言下に「色だわよ」だった。
これで十分。これが一倉式顧客の好み調査である。そして、これが正しいことは後にはっきりした裏付けがとれた。「どんな色が売れるか」などは全く関心がなく、むろん色別の売上データーなどはとっていなかった。
とっていたのは「色別」ではなく「原料別」だった。つまり生産計画の都合なのである。これでは会社ではなくて工場である。
※生産計画都合で、進めるとただの工場になってしまう。お客様の関心を把握すること。
社長は、販売には全く関心がなく、販売担当専務に任せっきりだったのである。この専務も販売には全くの素人で、流通業者のところへなど行ったことはなかった。販売の「ハの字」も知らない職人企業だったのである。これでは販売不振にならないほうが不思議である。
※販売のハも理解していないと、販売不振になってしまう。
私は「会社の運命をきめるものは販売である。その販売は社長自ら陣頭指揮をしなければいけないものである。これは、社長が売り歩くということではなく、社長自らが販売基本方針を立て、体制を整え、販促の指導を行なうことで、直接販売活動は販売部門で行なうのである。
※結局のところ、会社の命運を決めるものは販売である。
そのためには、社長がいくら社内にいて考えても何も出てこない。お客様のことを全く知らないからだ。社長自らお客様を訪問し、お客様の要求や不満を教えてもらうことから始めなければならない」と。
※いくら社内にいて考えても何も出てこない。お客様のことを全くわからないからだ。
新しく社長に就任した社長さん方から私のうける質問は、必ずといっていい程「社長として一番先にやらなくてはならない仕事は何ですか」ということである。
それらの社長さん方は、既に五年も十年も、いや、もっと永く専務とか副社長とかで、実質的な社長業務の大部分をやってきた方々なのである。中には代表権をもっている人さえいるのである。それらの人々の質問がこれなのである。
それ程社長の立場というのは重大なのである。私は言下に「お客様のところを廻って下さい。いままで副社長や専務の時に廻ったのと全く違って、お客様の一言一言が胸にこたえますよ。そして、社長は何をしたらいいかは、このお客様の言葉の中にあります」と答えることにしている。
私がお手伝いに参上した会社で、社長に対する第一の質問が「お客様のところを廻っておりますか」である。これ程、社長の行動の中でお客様訪間は絶対的な重要性を持っているのである。
話をもとにもどそう。
とにもかくにも、社長自らが問屋の事前了解をとりつけて、小売店舗を巡回することをおすすめしたのである。問屋訪間は重要ではあるが、ここではお客様の要求を的確につかむことは難しいのだ。
一倉が一カ月後にお伺いするまでに一〇〇店舗を訪問し、そこで社長は何を見たか、小売店から何をいわれたかを、メモ書きでいいから一倉に見せていただきたい、一カ月半程過ぎてから、二回目のM社訪間の時に、 一五〇店舗程の訪問記録(B五判で二五枚)にカバーシートをつけたものを私に示された。
カバーシートは「まとめ」であった。そのカバーシートの文面をそのまま紹介させていただく。
市場実態調査報告●
全般的傾向及び留意事項
1 薄いものが受けている。
2 色が第一で、ブランドは殆んど問題にならない。(筆者注、砂糖、ティッシュペーパー、ボールペンなどのブランドを気にする人がないのと同様に、低額実用品は、ブランドの威力がなくなってしまっている。M社にとっては有利なこと)
3 サンローラン、ジバンシィ等ライセンスものも舶来品というよりは、むしろ色で買っている。
4 色の面でアツギは多く(注四一色) の展開をしているので若い人にうけ
5 グンゼは伝統的な名声で中年層の顧客が多い。
6 販売増強はまず場所を占領すること。
7 販売力はネタ(原料)、料理法(加工)、及び食欲をそそる雰囲気―腹をすかせる(市場に少ないもの)、ウマソウダ(外観)、合ったもの(ピッタリのもの)、サービス(販促等)。
8 モノシーム、SSのリバイバルが来そうだ。
9 どの店舗でもベテランの人がいないので機会損失をやっている。
10 ディスプレイ、吊札、ポスター不足。
■ 販売人員増加の要あり。
12 句売れている。売上げ再度の上昇か。(注tスは品番)
13 神戸中心の店舗ではダイエーが第一で、ニチイ、ジャスコ、いづみや、長崎屋の順である。
14パッケージの重要性を痛感。
15 店によっては忙しいため、ついうっかりと発注を忘れているところあり。
16 伊藤忠商品としてはいっているところに問題あり。
17 ダイエー一〇〇店舗の中でやはり売上げの多い店から重点集中攻撃をかけるべきであろう。
18 パンタロン用にはビリング防止対策が必要。次に、店舗別報告のうち、いくつかを抜きだしてみると
1 病院が多いので自がよく売れている(ダイエー尼崎)
2 当社のディスプレイがあるのに商品なし(ニチイ尼崎)
3 アツギは若い人に受けている。カラー作戦四一色が大きな原因だと思う(ダイマル神戸)
4 六〇〇〇番のL寸がほしい。希望者が多い(カトレヤ元町)
5 当社のフリーゼ及びケンネルネーム入りの分、パッケージが悪い上に、ダンピング商品として山積されているが、なさけない(ジャスコ板宿)
6 ケンネル2P、3Pが売れている。L寸品切れの色あり(ダイエー垂水)
7 店舗スペース比較的大、り勺売れている。ハイソックス、SS売れている。我社商品約二〇% (ダイエー天神)
8 ブランド商品のみ、以前より売場面積縮小とのこと(岩田屋天神)
9 入りきれない程多くの人が入っている(ダイエー池田)
10 レジ前よく売れている。
・5/ろ品物なし、SSカラーにより欠品あり(ダイエー茨木)
右は報告のうちのほんの一部である。はじめてのお客様訪問。それもたった一カ月余りでこの報告書を書いたのである。
私はビックリしてしまった。社長は「訪問する一店舗、 一店舗が私の先生でした。そして、我社はどうすればよいか、が具体的に分るようになりました。
しまいには、小売店の前に立っただけで、この店はどのくらいのパンティーストッキングが売れているか分るようになりました」
と。私は、社長の努力に感銘し、頭が下がる思いだった。
一カ月余りで、社長は販売のエキスパートになってしまった。社長の、この訪間を境にしてM社は生れ変った。
社長のつかんだことを要約してみると、
「お客様は薄物を好むこと、色こそ第一であること、中年層はブランドを気にするが、若年層は全く気にしないこと、場所取りが大切なこと、売場の品切れ補充がうまくいっていないこと、現物を使った色見本が必要だということ、店格の高い店では占有率が低く、店格の低い店では高いこと。パッケージが重要であること」などであった。
私は何もいうことはなかった。「社長、この報告書の内容をそのまま販売方針にすればいいですよ」と。
色数を倍に増やした。パッケージも変えた。
現物見本(現物を二〇センチ程に切って吊り下げ式にしたもの)を売場に置くことについては、その前に数店舗に置いてみて、お客様が確かにこれを使って下さるかどうかを観察した。
その結果は、前にはお客様が店員に見つからないようにパッケージを破って手を入れていた証拠として、パッケージの破れたものが売場に散らかっていたが、それが殆んどなくなってしまった。お客様が現物見本を使って下さっていることは確かである。
現物見本は、商品のスクラップ・アンド・ビルドのたびに、それに合わせて差し替えをしなければならないという手数のかかるものだから、M社の管理能力で可能な数以上にするわけにはいかないので、実験によって決めることにした。
一人の売場フォロー係の女性をきめて、週一回の補充を行なうのに何社可能かの実験である。このやり方は、社長が錦ゴム(おむつのメーカー)にM社長自ら出向いて教わってきたものだった。
このフォローは驚く程の効果があった。フォローを行なった店舗だけ売上げが上昇したからである。しかも、その売上上昇分の増益は、専任者の費用を賄うのに十分なものだった。
ここで、M社は「何をしたら売上げが上昇するか」をハッキリと知ることができた。あとはこれを推進するだけである。まず、店舗フォローの要員を確保することである。M社長はうまいことを思いついた。
M社の工場には沢山の女性社員がいる。これらの女性で、結婚して退社した人を尋ねて、売場フォローをできる範囲で依頼したのである。
社長が訪れる日には、「社長さんが来て下さる」とご馳走を用意して待っていてくれたという。さぞや思い出話に花が咲いたことだろう。たちまち必要な人数が揃っていった。商品知識の教育が不要な人達である。
この人達による店舗フォローは大きな成果をあげた。第一次目標は五〇〇店舗だったが大型店優先主義をとったせいもあって、たった一〇〇店舗あまりで生産が間に合わなくなってしまった。
増販と増産のシーソーゲームが始まり、しばらくして会社は黒字転換したのである。
この頃になると、M社はかつての職人経営は影も形もなくなり、全社をあげてのお客様第一、販売指向に変ってしまったのである。
その一端を、M社の方針書の中から抜きだして紹介しよう。
基本理念
1 一流… 「バンストのM社」を目指し本物づくりに邁進する
2 創造…企業として強烈な個性を持つ、そのためオリジナル商品の開発技術の革新を計る
3 奉仕…仕方を通じて社会のお役に立つ
基本方針
「収益中心、安定成長、堅実経営」を基礎として
1 販売…顧客第一、オリジナル商品、重点主義を軸にブランド化を実現
2 生産…品質第一、コスト低減、省力化、適正化
3 技術開発…固有技術の確立とオリジナル商品の開発
4 財務…自己資本の充実とゼイ肉切捨
5 関連…伊藤忠と旭化成との連繋強化
商品に関する方針
1 一流創造奉仕の経営理念にもとづき、真に顧客の求めるものを、適正な価格で提供するため、生産技術開発の総力を結集する。
2 当社商品のファンをつくるため特に品質のレベルを高くする。
的設計品質
0製造品質
3 商品構成
(イ) (口) (ハ)………略
4 価格政策及び格付方針
(略)
5 スクラップ・アンド・ビルド
販促に関する方針
l PRキャンペーン (略)
2 特売 (略)
3 展示会 (略)
4 訪問活動情報収集 (略)
得意先に関する方針
1 販売チャンネルについて
2 地域構成
3 格付
4 スクラップ。アンド・ビルド
内部体勢の整備
(略)
ヽル含ン
′田こ
ヽ々含ノ
/田ヽ
ヽ々含ノ
/田ヽ
(略)
–
どうであろうか、堂々たるものである。
かつては、販売の「ハ」の字も知らなかった会社が、このように大変身してしまったのである。その原因のすべては、社長のお客様廻りにより、お客様に教えていただいたことと、社長の観察にあるのだ。
※社長のお客様まわりによって、お客様に教えていただき、そこからさらに観察する。
増販と増産のシーソーゲームは増販に軍配が上り、生産能力がどうしても追いつかなくなり、社長はやむを得ず社内に留まって生産体勢の整備を行なった。
この間半年間であったが、売上げは横這いになってしまった。社長の小売店訪間が如何に大きな効果を発揮したかがハッキリしたのである。
社長の小売店訪問再開で、売上げは上昇に転じた。社員まかせの販売ではダメだということを痛感させられたのである。
※社員まかせの販売ではダメ。
M社長は、その職にある限り、お客様訪間を続けることを決意した。自らに課した目標は「年間二〇〇〇店舗」だったのである。
ある年、ゴールデンウィークのすぐ後の大阪での「社長ゼミ」の会場に姿を見せられたM社長は、「ゴールデンウィーク中に近畿地方の小売店舗の訪間は一〇〇店舗でした」と私に話して下さった。まさに驚異である。
小売店廻りをしているうちに、社長は重大なことに気づいた。
大型スーパーは、次第に百貨店化の傾向を見せ、パンティーストッキングのような低額商品は次第に重要度の比重が下がり、以前は一階にあった売場が三階へ、さらに三階へと移されてゆき、これに伴って売上げが減少してゆくということである。
このような重大事を発見することは、セールスマンでは、まずあり得ないし、期待することは誤りである。社長だからこそ気がついたのである。
※このような重大事を発見することは、セールスマンではあり得ない。期待することは誤りである。
この事態に対処する道は、大型スーパー主体の従来の方針を転換し、中販店、単店スーパー、洋品店、専門店を開拓し、充実してゆくことである。
私は社長に申し上げた。「社長自ら小売店を廻ったからこそ、重大事態をいち早く発見できたわけですね。事業経営の最良のコンサルタントはお客様であるということを肝に銘じて下さい」と。私の言は、社長にとっては、蛇足なのであった。
S商事
木製家具問屋のS商事の社長より、「業績不振で困っている。至急相談したい」とのことであった。出張先のホテルのロビーでお目にかかった。初対面である。疲れきった面持である。
数年前、父親から社長の座を譲られたのだが、父親は経験と勘だけの経営で、婚礼セットが主力というよりは、婚礼家具だけというほうがよいくらいであったという。
S社長は、これではいけない、商品構成を充実し、科学的な経営をしなければいけないと思い、コンサルタントに指導を受けながら懸命の努力をしたが、努力をすればする程業績は落ちこみ、どうにもならなくなっている。ということであった。(後から分ったのだが、当時、業界のウワサでは、S商事の倒産は間近いということだったという)
決算書を拝見したが、サンタン惨愴たるものであった。
社長の持参した営業案内を見せていただいたが、「これはいけない」というのが私の第一感だった。
品種過多である。たった二十名余りの会社で、木製家具の殆んどにわたった品種構成である。これでも足りないと思い、鋼製事務用什器類を扱わなければダメだというのである。
社長の、この方針が赤字の根本原因である、というのが私の見解である。こんな零細企業で、何もかも揃えているということは、何も揃っていないということだからだ。
※零細企業で何もかも揃えているということは何も揃っていないことだ。
組織図を見せていただくと、それは中堅企業クラスの、それも悪い見本みたいである。
これは、コンサルタントの勧告をもとにして作ったものだが、コンサルタントのいうには、まず何をおいても組織を確立し、指令系統の統一と責任権限の明確化を行ない、さらに社員の能力を活用するために権限を委譲しなければならない。また、事務を近代化し、就業規則と賃金規則を完備しなければならない、ということだとのことである。
※コンサルタントの勧告を受け、組織図を作成した。まず何をおいても組織を確立し、指令系統の統一と責任権限の明確化を行い、さらに社員の能力を活用するために権限を委譲しなければならない。また事務を近代化し、就業規則と賃金規則を完備しなくてならないといったものである。
特に重要なのは、社員の能力の活用である。そのために、「販売促進委員会」を組織し、社員の自主的で自由な発想と活動を行なわせることである。
※社員の自主的で自由な発想と活動を行わせることである。
そのためには、販売促進委員会には、社長はなるべく出席しないようにしたほうがよい、というのである。事業を知らない社員に事業を任せてしまったのである。
※そのためには、社長はなるべく出席しないようにしたほうがよいというのである。事業を知らない社員に事業を任せてしまったのである。
こういうのを、「倒産直行体勢」という。お客様のことなど全く考えてはいないからだ。その上、全くの経営者不在である。販売促進委員会のやったことといえば、商品の品種をやたらと増やすことと、新規得意先の開拓であった。
※こういうことを行うことを、「倒産直行態勢」という。お客様のことなど全く考えてはいないからだ。さらに全くの経営者不在で、商品の品種をやたらと増やすことと新規得意先の開拓であった。
何もかも間違っているのだ。私は、お手伝いの条件として、今の組織を廃止し、それ以前の姿に戻すこと、販売促進委員会を解散し、社長が陣頭指揮をすることの二つであった。
※すべて間違っているのだ。社長が陣頭指揮を取らなければならない。
その上で、社長にお願いしたことの第一は、何をおいても社長自らのお客様訪問であった。社長になって以来の穴熊だったからだ。
第二には、商品の売上高ABC分析と、得意先売上高ABC分析である。商品の品種別売上高ABC分析の結果は、二〇品種のうち、上位一〇品種で売上高の九五%を占めていた。
下位の一〇品種は、とりあえず仕入を中止し、アイテムを検討する。上位一〇品種は、品種毎にアイテム別売上高ABC分析表を作成。下位三%は切捨てを検討する。これで、 一八〇〇アイテムあったものが、七〇〇アイテム程に減った。
次には得意先別売上高ABC分析を行なって下位二%は間答無用切捨、次いで年商三〇万円以下を六カ月以内に切捨てることと検討する、ということにした。
社長がこういうことを即決で決定したのは、私に勧められたお得意先訪間で、多くのお客様に叱られたからである。
第一に気づいたことは、セールスマンは社長が訪問してほしいと思っていた大型店、一流店には殆んど訪間を行なっておらず、三流店、三流店に多く訪問する他に、ニチャン店(じいちゃんとばあちゃんだけの店)にせっせと通っていたことが分って唖然とした。
第二には、お客様のお叱りの多くが「お前の会社は最近どうかしている。今度はこういうものを扱うことになりました。ああいうものも扱います。と種類ばかり増やしたって、では、と注文すると品切ればかりだ。アテにならないことオビタダシイ。お前のオヤジの時には婚礼セットのよいものを揃えていて、婚礼家具といえば、すぐにお前のところを思い出して電話したのだが、最近は婚礼セットもいいものは少なくて注文する気にならない。お前の会社など相手にしていたら商売にならない」
というきついお叱りをイヤという程きかされたからである。
近代化、権限委譲の誤りを思い知らされたのである。だから、私の勧告の意味がよく分ったから即決ができたのである。
販売は得意先の計画訪間に切換えた。格付に応じた訪問回数をきめ、「コンチワ、サヨナラ」方式による訪間である。いままでジリ貧を続けていた売上げがジリジリと上り始めた。
商品のグレードは、社員にまかせていた時には裾物、つまり安物に力を入れていたのを、品種毎に最低仕入価格を二〜三割あげて中級化を一歩進めた。
その理由は、一つはお客様に言われたからであり、もう一つは、試しに過去三年間の価格について、洋服タンスを調べてみた。
その結果は安物にばかり力を入れていたというのに、仕入価格一万円以下、 一万〜一万三千円、 一万二千円以上の三つの価格帯についての実績は、一万円以下は三年間減少し続け、一万三千円以上は、毎年確実に増加していたからである。
社長はビックリするとともに、商品のグレードアップを自信をもって打ちだすことができたのである。
これが売上増大にハズミをつけた。そして八月から切換えた新方針による増販は、その年の十二月には黒字転換をしてしまったのである。
最も高額な婚礼セットの売上げが、秋の結婚シーズンに急上昇したことが大きかった。
ある品種のごときは、売上げが四倍にもはね上った。不思議に思ったメーカーの社長が様子を見に来社し、事情をきいてビックリしたり喜んだりして帰ったという。
気がついてみたら、前社長の時と同様の品種構成になっていた。ここで、更に商品構成の基本方針をきめた。
- 商品は箱物に限定し、足物は一切扱わない。
- 商品は婚礼家具を中核とし、品種は絞って、 一つ一つの品種のアイテムを多くする。
- 商品のグレードは中級品とし、様子をみながら長期的に一段の高級化を実現してゆく。
というものであった。これが、小型企業が市場の主導権を握り、占有率を上げるための商品戦略である。
※小型企業の商品構成戦略としては、①カテゴリーを絞る②品種を絞って1つ1つの品種のアイテムを多くする③グレードは中級品として長期的に高級化を実現していく。
この基本戦略に従って婚礼家具のアイテム増加と高級化が行なわれ、売上げは確実に上昇していった。気がついてみると、前社長時代と同じ企業体質となっていた。
間違った道に踏みこんで迷いに迷った末に、もとの道に戻ってきたのである。こうなると強い。S社長はこの道一途に自信をもって進んでいった。
※間違った道に踏み込んで迷いに迷った末に、もとの道に戻ってきたのである。こうなると強い。
年二回の小売店向け展示即売会は、売筋商品は残しながら、それ以外は思いきってのスクラップ・アンド・ビルドを行なったために、すこぶる好況を呈していった。
売筋アイテム上位二〇%で売上高で八〇%なので、下位二〇%を切ったからである。切捨商品は低価格で処分した。
また、二つある倉庫のうちの一つを思いきって展示場兼倉庫とし、小売店サービスの向上を計った。ところが、案に相違して小売店の反応は全くといっていい程なく、完全な見込違いであった。半年、 一年たっても事態は変らなかった。それでも、S社長は私の勧めで我慢である。
※2つある倉庫のうち、1つを展示場兼倉庫として小売店サービスの向上を計る。これは中長期的な計画になる。
一年半すぎた頃、ボツボツ小売店の社長が展示場に顔を見せるようになった。そして、三年目に入った時に突然変異とでもいうべき現象が起った。小売店主がお客様をご案内して展示場に現われるようになった。その数は急速に増えていった。
しかも、そのうちの三分の二以上のお客様が買って下さるのである。日曜日などは、三十足揃えたスリッパが足りない程のことも多かった。
「石の上にも二年」である。忍耐は立派に報われたのである。この頃から、私のコンサルティングは間隔が長くなっていった。
ある時の訪間で、社長と専務が何か議論をしていた。きいてみると、社長は「もっとアイテムを減らせ」という。専務は「これ以上減らしたら商品構成に欠陥がでる」というのである。
私は「いったい、アイテムの総数はいくつなのですか」ときいたところ、二人ともこれを確認していなかった。大笑いだが、事態を確認せずに役員会で討議をするということはこの会社ばかりではないのだ。
アイテム数を調べたところ、二八三アイテムしかなかった。社長は、「僕は六〇〇アイテムあると思っていた」ということで、この件は現状維持ということでケリがついてしまった。
しかも、最重点商品である婚礼家具は、婚礼セット五〇アイテム、鏡台三〇アイテム程だったのである。その他のアイテムが二〇〇アイテムである。「品種を絞り、その中で多アイテムを実現する」という見事なばかりの商品構成であった。この頃には、婚礼家具では商圏内でナンバーワンになっていたのである。
これが小企業の真骨項であり、このナンバーワン商品を核としてナンバーワンを確保しながら一つまた一つとナンバーワン商品を育ててゆくことこそ、最も効果的な市場戦略なのである。
※ナンバーワンを確保しながら、1つまた1つとナンバーワン商品を育てていくことこそ、最も効果的な市場戦略である。
また、ある時の訪間で、社長は素晴らしいものを私に見せてくれた。それは、毎月一回お客様におくばりする「月次品種別売上高ベストテン表」であった。
品種毎に売上高のベストテンアイテムを記入したもので、この表に、「貢社の立地条件と売上実績より、弊社として◎印の品をご推奨申しあげます」というコメント付きであった。
これが、意外な程の効果を発揮し、小売店の社長より「お前のところの売筋情報を参考にしたところ、婚礼セットが四倍売れた」というようなお礼の電話が入るようになったのである。
また、反対にお叱りの電話が増えた。五〇〇メートル以内には競合店舗がないように配慮してはいるのだが、それでも小売店主は最も近い競合店をのぞきにゆく。
そこに、S社の売上ベストテンの上位品を発見すると「あの店に、これこれの品がある。この地区ではうちのほうが先輩だ。あの店に売筋を出すな、その分うちで売ってやる」「その地区ではうちがダントツの一番だ。この地区はうちに任せる」というようなことである。
S社長は
「有難いことだが、その調整で苦労します。どういうふうにやったらうまくいきますか」とこれまた虫のいい質問である。
私の答えというのは「そういうことは、それぞれのお客様との間に永年の取引によっていろいろな事情があるでしょう。一倉はそれを知らないから答えようがない。
そういうことこそ、社長自らお客様のところへ出かけて調整するよりない。それが社長の役割ですよ」と、素気ないが、これが本当なのである。
こういう苦情がお客様からよせられるようになったということは、S社が一人前以上の会社になったということであり、同時にお客様にとっては重要な仕入先になったという証拠である。
お目でたいことなのである。もう私の定期的なコンサルタントは必要ない。以後は私に相談したいことがあったら手紙なり電話なりを下さるようにお願いして、私の定期コンサルタントを打切ったのである。
※もしオーガニックの商品を展開していくのであれば、オーガニックの店舗を巡回して調査する。量り売りなども一緒。
会社の自然の成行きは倒産である●
本書では、冒頭のT社と、本章のM社とS商事の三社の実例を、くわしく紹介したが、何れの会社も大きな赤字で、社長の必死の努力にもかかわらず、このままでいけば倒産するであろう会社ばかりである。それが、立派に立直ったのである。
※社長の必死の努力にも関わらず、このままいけば倒産するであろう会社ばかりであるが、それを立派に立ち直すことが可能である。
赤字の原因は何だったのだろうか、どこがどのように間違っていたのだろうか、それが立派に立直ったのは、赤字の原因を消し去ったからではある。
※まず赤字の原因を消し去ること。消し方を研究すること。
では、どのようにして消していったのか、その過程と方策は何であったか、を研究していただきたい。
そこには、三社に共通しているものが多い。業種や規模の違いがあるにもかかわらずである。ここに、事業経営の法則がある。この法則をシッカリとつかみ、これを実行してゆくことこそ、会社を存続させるものである。
※業種や規模の違いがあっても、共通の事業経営の法則がある。この法則をしっかりと掴み、こrを実行していくことこそ、会社を存続させるものである。
しかも、これを実行できるのは、会社の中の誰でもない。社長ただ一人である。社員が懸命に働くのも働かないのも、人材を活用することができるもできないも、すべて社長にかかっていることを肝に銘じて正しい事業経営を行なうことこそ、会社を繁栄させる道である。
※これを実行できるのは、会社の中の誰でもない。社長ただ一人である。社員が懸命に働くのも働かないのも、人材を活用することができるもできないも、全て社長にかかっていることを肝に銘じて正しい事業経営を行うことこそ、会社を繁栄させる道である。
経営計画なくて経営なし●
経営計画を持っている会社は、意外な程少ない。筆者が初めてお伺いする会社で、経営計画書を持っている会社はあまりない。
※経営計画を持っている会社は、意外と少ない。
たまにあっても、それは経営計画書ではなくて、管理計画書ともいうべきものにしか過ぎない場合が殆んどである。これではダメである。
※たまにあっても、経営計画書ではなくて、管理計画書になっている。
社長自らがたてた経営計画書がなくて正しい事業経営学は不可能である。そのわけは、経営計画書以外に社長が我社の全貌を知り理解する方法は無いからである。
※社長自らがたてた経営計画書がなくて正しい事業経営学は不可能である。それは、経営計画書以外に社長が我が社の全貌を知り理解する方法がないからである。
己れを知らずして事業経営ができる筈がないではないか。っても、経営計画は我社を理解することが目的ではない。あくまでも我社が競争に打ち勝ち、市場と顧客の要求の変化に対応して生き残ってゆくための条件を決めたものである。
※己れを知らずして事業経営ができるはずがない。経営計画は我が社を理解することが目的ではない。我が社が競争に打ち勝ち、市場と顧客の要求の変化に対応して生き残っていくための条件を決めたものである。
その経営計画を作成する段階で、自然に我社が理解できるのである。
※経営計画を作成する段階で、自然に我が社が理解できるのである。
それは、想像以上に厳しいものである。そして、今まで如何にうかつで怠慢であったかも、同時に思い知らされるものである。
※そしてこの作業は想像以上に厳しいものである。今までいかにうかつで怠慢であったかも、同時に思い知らされるものとなる。
社長は、事態の容易ならぎるを知ると同時に、自らの責任の重大さを再認識すると同時に、これに挑戦してゆくファイトも湧き起ってくるのである。社長の決意がここに固まってくるのである。
※社長は、自体の容易ならギルを知ると同時に、自らの責任の重大さを再認識すると同時に、これに挑戦していくファイトも湧き起きてくるである。社長の決意が固まる。
しかし、それには社員を指揮し、その協力を必要とする。ここに、リーダー・シップの重要性が浮び上ってくる。では、そのリーダー・シップを、どのように発揮したらいいか、ということになる。
リーダー・シップの第一要件は「自らの意図を明らかにする」ことであるのは論を待たない。これを発揮するための最大のツールこそ経営計画書なのである。
※リーダーシップの第一要件は「自らの意図を明らかにする」ことであるのは論を待たない。これを発揮するための最大のツールこそが経営計画書なのである。
社長の決意、目標、方針、行動要項などが明確に示されている。これに社員は動機づけられるのである。
※社長の決意・目標・方針・行動要項などが明確に示されている。これにより社員は動機づけられるのである。
その実証は、経営計画発表会における社長の方針説明で、社員は動機づけられて、目の輝きや動作がその場で変ってくるのがハッキリと分るのである。この時を境にして、社員は変ってしまうのである。
さらに、発表会にメーン・バンクの支店長をはじめ、お客様を数名、場合によると筆者の行なう「経営計画実習ゼミ」で知り合った社長などを招待申しあげるのだが、社長の方針説明によって大きな感銘を受ける。
そして、メーン・バンクの支援が全く変ってしまうのである。こんな心強いことこのように経営計画書によって会社は全く生れ変るのである。
※メインバンクの支援も全く変わることになる。
会社に奇跡を呼び起す経営計画書。それは、社長自らの責任と意志で、自らが作成したものだからである。会社は、社長一人でどうにでもなるものなのである。はないではないか。
※会社に奇跡を呼び起こす経営計画書。それは社長自らの責任と意志で、自らが作成したものだからである。
まとめ
◎事業の任務は、経済的価値の創造である。同時に雇用の創出である。「企業は社会の公器である」といわれている理由はここにある。
◎企業の成果は、市場―お客様から得られるのであって、企業内には無い。
◎事業繁栄の基本的要件は、高収益型事業構造をつくりあげることである。その事業構造は、安全性と収益性を効率よく実現するものでなくてはならない。
◎市場とお客様の要求は絶えず変化する。その変化をとらえて、これに対応するためには、社長は常にお客様のところへ行って、自らの日と鼻と肌で、その変化を把えなければならない。
◎経営計画なくて正しい経営はない。経営計画こそ社長が我社を理解し、リーダーシップを発揮するために絶対に必要なものだからである。
著者 一倉 定(いちくらさだむ)氏について
事業経営の成否は、社長次第で決まるという信念から、社長だけを対象に情熱的に指導した異色の経営コンサルタント。
空理空論を嫌い、徹底して現場実践主義とお客様第一主義を標榜。
社長を小学生のように叱りつけ、時には、手にしたチョークを投げつける反面、社長と悩みを共にし、親身になって対応策を練る。まさに「社長の教祖」的存在であった。経営指導歴二五年、あらゆる業種・業態に精通、文字通りわが国における経営コンサルタントの第一人者として、大中小五〇〇〇余社を指導。没後も、経営の本質を説く一倉社長学を求める人が後を絶たない。
著書に「一倉定の社長学シリーズ」全十巻と別巻二冊、「一倉定の経営心得」をはじめ、「一倉定の社長学講話シリーズCD ・DVD」「一倉定の社長学百講CD」「一倉定の中小企業の社長学CD」他多数。
一九一八年四月生まれ、 一九九九年二月逝去。
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