MENU

不況期の戦略

目次

不況期にも戦略はある●

不況と好況は循環する。自由主義経済の特性である。

※不況と好況は循環するものである。

多くの社長は「不況期にどうすべきか」ということが分っていない。宿命と思いこんでいる。だから「景気セミナー」は常に人気がある。軽症か重症か、長びくのか短期で終るのかを知りたいからである。宿命と思いながら、せめてもの対策をとるということになる。

※多くの社長は「不況期にどうするべきか」ということが分かっていない。

値下げによるダンピング、経費節約、残業規制、外注品の引上げ、パートの減員、というようなところで、さらにはVA、平素は知らん顔をしているフォロー、メンテナンスを始める会社もある。

付け焼刃だから、景気が回復しはじめると止めてしまう。大企業がよくやる手に、中小企業の事業に手を出すが、成功することはマレである。思い付きに過ぎないからである。あとはボヤキ……。

※不況時に付け焼き刃の対策をしても、景気が良くなると結局やめてしまう。大企業は、中小企業の事業に手を出しがちだが、成功することはまれ。

これでは、いかにも芸がない。どの対策もあまり効果がないのだ。本当にそうなのだろうか。否、不景気には不景気対策という対症的なものはむろん必要だろうが、本当は不景気中でなければできないことや、やり易い戦略があるのだ。これこそ肝要である。それを次にのべることとする。

※不景気には不景気の対策があり、不景気だからこそやり易い戦略がある。

S社はワーキング(作業衣)の市販品の専門メーカーであった。

お手伝いを始めて三年目であった。過去三年間、過当競争から抜け出す戦略として高級化を徐々に進め、これがハッキリと効果をあらわしてきつつあった。そのために順調な売上増と収益性向上が実現しつつある時の三年目の不況で、売上げは頭打ちになってしまった。

競合他社は猛烈な値下げ競争に走り、S社長はこれに対しては値下げで対抗すべきかどうかで迷っていた。泥試合になる危険があるからであった。

どうすべきか、が私に対する相談であった。私は、売上年計グラフによる状況判断をすることをおすすめした。S社は、商品別売上高年計グラフと、主要得意先別売上高年計グラフを作っていた。まず、得意先別年計グラフの検討である。

グラフを見ている社長に対して、横からヒントを出した。「この不況でも売上げは上昇している得意先がありますね。また、横這いあり、下降ありですね。このように三つにグループ分けをして、それぞれのグループの共通的要因があるのかないのか、あるとすれば、それはどんな要因かをまず検討して下さい」と。

※まず得意先別年計グラフを確認し、上昇、横ばい、下降の3つのグループに分けて対策をとった。

社長は、しばらくグラフを見ながら考えていたが、しばらくすると膝を叩かんばかりの様子で、「分りました。売上上昇グループは、我社がナンバーワンの納入実績をもっています。横這いと下降のグループは、我社はナンバーツー又はそれ以下の実績しか無いグループです」と。絵に書いたような「占有率の原理」があったのだ。

私は、「社長、この占有率の原理を覆すことは不可能です。だから、この原理に従った対策を立てるべきです。不況というのは市場の需要が減退した状態だから、売上増大の努力は全くの無いものネダリです。

※占有率の原理を覆すことは不可能。この原理に従った対策を立てていくべき。不況時は市場の需要が減退するため、売上増大の努力は無駄になる。

強いて売ろうとするから値下がりするのです。だから値下げで売るのは他社にまかせて、あなたの会社は、やがて訪れる景気回復にそなえて手を打つのです」と。それは次のようなことだった。

※強く売ろうとすると値下げで売ることになる。値下げ合戦は他社に任せる。

上昇グループは守りを固めて敵の侵入を防ぐ。売上横バイグループは、景気回復時にナンバーワンの地位を確保するために、今からナンバーワン会社の三倍以上の訪問回数を確保する(この点は、『販売戦略・市場戦略』篇で詳しくふれる)。三倍四倍ならなおよい。そして何よりも社長自身の訪間が大切である。下降グループは従来通りの訪間でよい、というものだった。

※上昇グループは、守りを固めて敵の侵入を防ぐ。売上横ばいグループは、ナンバーワン会社の3倍以上の訪問回数を確保。下位グループは従来通りの訪問。

商品別売上年計グラフは、 一目瞭然であった。安物ほど過当競争の影響で売上減少が大きかった。日立つのは、最近開発した高価格品二点の急上昇である。不況なんか全く知らぬげの売上状況である。

※安物ほど過当競争の影響で売上減少が大きくなる。

私が社長に対策を申しあげるまでもなく、社長は、「至急に高価格品の開発を進める」というものだった。何とも当り前のことである。

※高価格品の開発を進める。高価格品ってどれくらいの価格帯?

売上年計グラフは、かくも見事に方策を示唆していたのである。いままでの迷いとモヤモヤなど、どこかへ吹っ飛んでしまったのである。

ここで一言申し添えたいのは、不況対策に必要な資金をどう確保するか、である。

不足資金は銀行から借りてくるのが当り前であるが、ただ不況で資金繰りが苦しいから貸してくれではあまりにも芸がない。その時に、この年計表を持参して、状況判断と対策をのべるほうが借り易いのである。

※不況時は銀行から借りてくるのが当たり前であるが、不況で資金繰りが苦しいから貸してくれでは芸がない。年計表を持参して状況判断と対策の述べる。

このS社で、これより二年程前に行なって大成果をあげた備蓄戦略がある。

この年は冷夏のため夏物の作業衣の売上不振で、どこの会社でも夏物の売損ないのために在庫が増加してしまった。私は、S社長にライバル会社の冬物に対する手当状況の調査をお願いした。縫製工場を一通り調べたら分ることである。

調査の結果は、どこの会社でも冬物の手当はかなり控え目であった。在庫恐怖症のなせる現象である。夏物の在庫増加を見て、どこの社長も「在庫を圧縮せよ」という指令を出していたのである。

これを「社長のトンチンカンな指令」という。見境のない指令だ。夏物が余ったからといって、これを含んだ在庫圧縮をするのだから、当然冬物の生産を控えぎるを得ないのである。

これは、その冬に市場には冬物の大不足が起るのは目に見えている。私は、S社長に冬物の備蓄を思いきって増やすことをすすめた。S社長は大幅な冬物備蓄増にふみきった。

十一月頃からの冬物の注文は、出荷が間に合わないほど殺到した。S社の完勝である。このことは間屋のS社に対する信頼感の増大をもたらした。そして翌年の夏物の注文の大幅増加をもたらした。これを契機としてS社の成長率は高まったのである。

一月になっても、まだ冬物の生産に追われて、夏物に切替えができず、夏物供給に支障を来しているライバル会社を尻目に、S社では十二月中に夏物切替の段取りを終えて、一月にはもう夏物生産に移っていた。その夏の商戦はどういうことになったかは、いうまでもない。

以後、この備蓄戦略は他社備蓄状況とにらみ合わせながら、毎年行なうようになったのである。

もう一つ「在庫恐怖症」を脱して、これがキッカケで繁栄を実現した会社の例を紹介しよう。

I社は、鉄骨製造を行なっていた。低収益を脱出するための、手っ取り早い手段は、春から夏の閑散期の解消だった。

九月になると仕事が殺到して、年度末まで納期遅れと受注辞退という有様だったのだから、作りだめできるものを作ればよいのだ。

そういうものがあるのかをきいてみると、それはかなり大量にあるという。

なぜ、それを閑散期に作りだめしないのかをきいてみると、在庫金利が大きいからだという。在庫恐怖症である。

※閑散期に作り溜めしておくことで、繁盛期にその在庫を販売することができる。それができないのは在庫恐怖症になっている証拠である。

金利はどのくらいかかるのかを聞いてみると、計算してないという。計算をせずに、頭から思いこんでいるのだ。

※在庫金利はどれくらいか計算しておかなければならない。

そこで、私は説明しながら社長に計算していただいた。増分計算である。極めて簡単なものである。そこに計算された金利は、社長にとっては信じられないくらい僅かなものであるだけでなく、経常利益の増加額まで明らかにされていたのである。

社長は、私の勧告に従って作りだめを決めた。

しばらくたった頃、主要得意先から、I社で作りだめをしているのは知らずに、作りだめ依頼について相談したいという話があった。

先方の話は、きわめて低姿勢で作りだめの希望数量を出してきたが、それはI社で作ろうとしている数の半分にも満たなかった。

この作戦は大成功だった。利益は増大し、お客様は大満足だった。それだけではない。お客様のI社に対する信頼が増大し、この年を繁栄元年ともいいたいくらいに、それ以後の注文は増加し続け、思ってもみなかった繁栄を実現することができるようになったのである。

供給能力の増大を実現する●

T社は、小型の家具問屋である。小型なるが故に中級品に焦点を合わせ、中級品の中でも箱物では地域ナンバーワンである。市場戦略的に非常に優れているために業績はよかった。(市場戦略については、拙著「一倉定の社長学」の中の『市場戦略・市場戦争』を参照されたし)

T社長の商品戦略は、高級品への進出であった。この決定も市場戦略的に正しい。小型企業が低価格の実用品に手を出すのは誤りである。ところが、その高級化が思うにまかせないのである。

高級品のメーカーは数少ないだけでなく、小型企業である。そして、すでに先発業者によってガッチリと押えられていて、なかなか割込むスキがないのだ。

「何とかならないか」というT社長の相談である。私は「待ち」の戦略を勧めた。それは「不況待ち」である。その前に、今からT社長の定期的なメーカー訪間が必要である。

※すでに先発業者によってガッチリと押さえられてなかなか割り込むスキがない場合は、「不況待ち」の戦略を取る。

そして、不況に入ったこと(得意先別売上年計グラフで分る)をとらえたら定期訪問回数を二〜三倍に増やしてゆく、という戦略である。

※不況に入ったら定期訪問回数を2から3倍に増やす。

次の不況時に、これが見事とまではいかなかったが、二社の高級品メーカーと取引ができたのである。高級品というのは不況の影響をあまり受けないことを考えると定期訪間が効いたのかも知れない。

昔の人は「家を建てるのは不景気の時がよい」とわれわれに教えてくれている。これを現代に当てはめると、設備投資である。余裕がある会社ならこれである。光洋ベアリングは、オートバイ業界の不況期に設備投資をしたときいている。

※昔の人は「家を建てるのは不景気の時がよい」と言ったように、設備投資も不況時に実施すべきである。

外注工場の獲得も、不況期がよい。かねて狙いをつけておき、好況時からの定期訪間をし、不況期に訪問強化である。

※外注工場も不況時に開拓する。かねてから狙いをつけておき、不況期に訪問強化する。

冗談じゃない。不況期にそんな余裕がある筈がない、不況期には外注品を内製にするのが正しいのではないか、と思われるかも知れないが、それは長期的展望に基づく戦略のない会社である。これのない会社は、小器用には立廻れても、本当の意味での優れた経営ではない。

※不況期に外注品を内製にするのが正しいと思い込んでいる社長が多いが、それは長期的展望に基づく戦略のない会社である。小器用には立ち回れても本当の意味で優れたものではない。

数年毎に不況は訪れるのであるから、その時に対症療法で済ませるか体質強化をするかで、長期的に大きな差ができてしまうのである。

※不況は数年ごとに訪れるため、その時に対処療法で済ませるか体質強化するかで、長期的に大きな差ができてくる。

不況の時に外注品を内製に切換えなければならないようならば、我社の事業に何か大きな欠陥があるのだから、それを見つけだして直すことを真剣に考えるべきである。

※不況時に外注品を内製に切り替えなければならないようならば、我社の事業に大きな欠陥がある。

それは、不況期の苦しさの中から、我社はどこが間違っているのか、を見つけだすことから始めるべきである。

それにはどうしたらよいだろうか。それは只一つ、そして最良の方法がある。「お客様廻り」である。お客様のところを廻って廻って廻り通すことによって見つけだすことができるのである。あ

※お客様のところを回って回って見つけ出す。

過当競争緩和の手をうつ●

K社はコンクリートの二次製品のメーカーである。私がお伺いした時は、丁度不況期であった。K社の事業部門の一つに「ふっ素樹脂塗装」があった。

その部門の現在の悩みというのは、ライバル会社の安値受注で仕事を奪われていることであった。その安値は、何と実勢価格の半分だということであった。どうしたらこれを防げるか、という私に対する相談である。

ライバルは小規模企業で受注促進活動などする能力も着想もなく、ただ安値一本でK社のお得意先を荒らしているのだという。だからといって、K社で対抗値下げをしたら泥沼にはまりこんでしまう。これはできないのだ。

それならば、次のような手を打ってみたらどうか、というのが私の提案だった。

ライバル会社に対して、K社から実勢価格の二割安で仕事を応援してもらうという名目で注文を出すのだ。この価格なら恐らく受けるだろう。なにしろ実勢価格の半分で仕事をとっているのだからである。

※実勢価格の2割安で仕事を応援してもらう名目で注文を出す。

これでもK社は二割儲かる。だから、この価格で仕事を出し続ければ、相手はおとなしくなるだけでなく、K社の下請ということになってしまうのだ。

この作戦を継続させるためには、K社の販売能力の向上である。

景気が回復してK社の仕事を断わってきたならば、今度こそライバル会社より安い価格で仕事をして、そのライバル会社の糧道を断つ、というのであった。

しばらくして様子をきいてみると、相手はおとなしくK社の下請をしているとのことであった。

それならば、K社の本業であるコンクリートの二次製品についてもこれを行なったらどうか、というのが私の意見であった。

K社は、ゼネコンから物件受注をするだけの規模を持っているのだが、不況期になると小規模会社が規格品のブロックを、とんでもない安値で横からゼネコンに持ちこむのに手を焼いていたからである。

うるさい会社を二〜三社これをやるくらいの力はK社にあるのだから、やるべきである。そのためには、会社としての市場戦略を持たなければならないのである。

何処も同じ市場戦略の欠如である。こうした次元の高いことはそっちのけで、生産能力の向上や原単位の切下げという相も変らぬことだけにしか社長の関心がないのでは、いつまでたっても業績の安定も向上もないのだ。

※どこも同じ市場戦略の欠如が起きている。こうした次元の高いことはそっちのけで、生産能力の工場や原単価の切り下げという変わらぬことだけにしか社長の関心がないのでは、業績も安定しない。

K社では、大手の土木業者から粗利益率五%という考えられない低収益製品を受注していながら、何の手も打たれていなかったのである。これでは社長不在といわれていてもいたし方がないではないか。

支払手形を減少させる●

ある会社にお伺いした時に、決算書を見せていただいたら、支払手形が受取手形と割引手形の合計より遥かに多額で短期借入金はごく僅かしかない。

なぜ、こんなことをするのかと聞いてみたら、「コンサルタントの先生が、「支払手形は金利のつかない資金調達法だから、借入金はなるべく少なくして支払手形を増やしなさい」と勧告されたので」という返答である。

いまだにもって、こうした阿果がいる。そして、これは危険極まりないことである。支払手形には金利がちゃんとついているのだ。それは、買入価格の中に含まれているくらいのことが、どうしてわからないのだろうか。

会社は借金ではつぶれない。支払手形のみが会社をつぶす危険のある唯一の資金調達法である。

※会社は借金では潰れない。支払手形のみが会社をつぶす危険のある唯一の資金調達法である。

会社の安全を計るのが社長の最も大切な役割の一つであることは、いうまでもない。それには支払手形を減らし、できれば「ゼロ」にすべきである。

※支払手形はゼロにすべきである。

私は、社長に勧めて支手退治に方針を変更していただいた。支手が実質的に「ゼロ」になった時に社長は「一倉さん支手がゼロというのは、こんなにもスガスガしい気持がするものなのか、全く考えられないことです」と私に語った。これは、支手をゼロにもっていった多くの社長の共通の感想である。

支手をゼロにするには、長期的にジックリと腰を落して計画的に進めるべきである。目標としては、支手の回転率を一年に○・五〜○・三回転程度向上させることは、安定的な利益を出している会社なら、それ程難しいことではない。これと、不況期のスポット戦略の組合せである。

長期的な方法はいろいろあるが、分り易いのは「裾切り法」である。まず、大口の支手発行先は後廻しとして、すべての支払先について、まず一〇万円以下は現金払いとし、三〜四カ月続けた後に二〇万円以下、また二〜三カ月続けて三〇万円という要領である。

こうすると、「今月は支払にいくらの現金が必要か」を簡単に計算できる利点がある。その上、たちまちのうちに支払先の大部分が現金払いとなってしまう。パレ1卜の法則がここにもある。大部分の会社に対する現金支払が実現すると、それらの会社の協力態度が目に見えてよくなってゆく。現金支払の威力を知ることができるのである。

こうしてゆくと、裾切りの対象会社がみるみる減少し、新たに増える現金支払金額は、ごく少額ですむのである。

そのうちに、割引手形が減ってきて、それに伴って手持手形が増えてゆく、という誠に好ましい状態になってゆく。手持手形という「見せ金」を持っているのは実に心強いし、銀行も安心する。

このようなことを何年か続けてゆくうちに、不況が訪れる。循環不況は必ずあるからだ。

不況期の前半は「金詰り」である。どこでも在庫資金がいるからだ。金利が高いだけでなく、銀行は貸し渋る。この時のことが潜在意識の中に埋没していって、これが在庫恐怖症になるのかも知れない。

不況の予測は、売上年計グラフを見ていれば、これのない他社よりも三カ月や四力月早く気がつくから、早めに在庫節減と在庫資金手当を、これまた他社に先がけて行なうことができる。手持手形という武器が威力を発揮するのも、こういう状況の時である。

不況は、減産と在庫資金の返済が進むことによって底を打つ。不況の前半は在庫調整分だけ、実需よりも生産が少ないが、やがて実需と生産がバランスする。これが景気の底入れとか底打ちといわれている現象である。実需より少なかった生産が、実需とバランスするだけ行なわれるようになるので、景気は回復してゆく。

景気が回復すると、流通業者は在庫の積増しを、メーカーは原材料の手当増を行なうために景気はさらに上昇してゆく。

生産にハズミがつき、実需を上廻ってゆく。こうして、流通在庫とメーカー在庫がある限界を越えると、流通業者の買控えが行なわれる。これが景気の頭打ちである。

しかし、メーカーの強気の見通しは、過去の売上増大をもとにしているだけに、なお増産が続き、これが品物のダブツキをひき起す。いよいよ不況本番となる。

以上が景気循環の基本的なパターンで、これに、農産物の豊作や不作、好況時の設備投資の行過ぎ、国際収支、政治(アメリカ大統領の選挙)で軍備の拡大や縮小、不況対策による公共事業、巨大建設プロジェクト(飛行場、巨大橋、ダムその他など)が様々に組合わされ、影響し合って景気の動向がきまってゆく。

しかし、経営者が、それらのことにいちいち注意を払っていたら、肝腎な事業経営がおろそかになってしまう。それらの情報は、新聞、経済誌、景気セミナーなど、社長本来の活動を損なわない範囲にとどめるべきである。いくら研究しても景気自体をかえることはできないからだ。

※経営者は

大切なことは、不景気の初期、中期(底入れ)回復期の兆候を知ることと、それに対応する戦略を知ることである。その戦略の一つとして支手減少がある。

景気の初期の在庫調整が進むに従って金融がゆるんでゆく。銀行は金がダブツクようになってゆく。金を遊ばせておくのは勿体ない銀行は貸し出しを積極化したり、株式投資をしたりする。これが「不景気の株高」という現象である。借手市場になっているので金利は低くなる。

銀行の決算期が重なってくると、支店長までお客様のところを廻って貸付促進を行なうようになる。

この時がチャンス。金利を値切って多額の短期借入を行ない、これを支手退治に使う。短期借入でも、こういう時は銀行は返済などしてもらわないほうがよいのだから、長期借入より金利が安いだけ有利である。

支手を減らし、割引をへらして資金繰りの安全性と安定性を高めるのだ。さらに、金利の高い時の長期借入金を繰上返済し、改めて金利の安い長期借入をする。この分金利負担が軽くなる。

この戦略は、やってみれば分るが、意外なほど有利である。

この有利な方法をとらないウカツな会社がかなりある。経理を一切経理部門や担当者に任せている会社である。

危険な支手を増加させるのは平気で、安全な借金は増えることを気にするという、経理担当者の習性は、妙なものである。経理がきらいなのは「借入金」という言葉と文字であって、支手や割手は増えてもあまり気にしない。支手というのは買い入れ会社に対する借用証であり、割手というのは受手を担保にしての銀行借入れなのにである。

支手減少は、実は資金運用から見れば資金構造の健全化である。資金繰りは発生した借金を精算するという後始末業務である。

社長たるもの、このことをよくわきまえて、資金繰りは任せても、資金運用は明確な方針をうち出しておいて、その実施を経理部門にやらせる。というのが本当である。

そうでないと、金融緩和時のチャンスをみすみす逃してしまうことになるのである。支手が車輌などの割賦手形を除いて、実質ゼロになった時には、新たな大きなメリットが生れる。

資材納入業者や、下請工場の態度が一変してしまう。物凄く協力的になり、たいがいのことは二つ返事できいてくれるようになる。

平成二〜三年の超人手不足の建設業界で、工賃金額現金支払の会社では、協力工場や下請業者は常に最優先協力をしてくれた。つまり、人手不足などなかったのである。これが会社の信用を大きく増進させ、業績向上を招来したのである。

銀行は競って融資をしてくれるし、金利は下げてくれる。私のすすめで支手をゼロにした社長は、口を揃えて「支手がないというのは、あんなにも楽なものなのだろうか、全く思ってもみなかった」とおっしゃるのである。つぶれる心配のない会社になったからである。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次