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上手な褒め方、無意味な褒め方―強化スケジュール

第5章上手な褒め方、無意味な褒め方──強化スケジュール

ケース─強化につながる正しい褒め方1手ごたえのある職場2強化スケジュール3消去抵抗4部下を褒める行動は誰が強化するのか

強化につながる正しい褒め方開発1Gのグループ長だった山脇が、開発部長に登用されたため、グループ長の役割は清水が引き継ぐことになった。

清水は真面目な性格で、組織マネジメントについても本を読むなどして勉強しているようだ。

その清水が、ある日、サカモトのところに相談に来た。

「サカモトさん。

僕は、管理者として素質がないんじゃないでしょうか」開口一番、清水は切迫した口調で、そんなことを言い出した。

「えっ?どうしたんですか?」サカモトは驚いた。

「何か問題でも起きたんですか?」サカモトが見る限り、開発1Gに、それほど目立った問題はないはずだ。

清水は何を悩んでいるのだろう。

「僕は初めて人を管理する立場に立って、自分なりに努力してみたつもりなんです。

でも、うまくいかないみたいで」「たとえば、どのようなことですか?」「部下の褒め方というか、認めてあげるのが下手みたいなんです」清水が悲しそうな顔で言う。

「まあ、はじめからそんなにうまくはいかないのではないですか」サモカトが慰めようとする。

「でも、それじゃあ管理者として失格じゃあないですか」清水はあくまで真面目である。

「まあ、ねえ……。

それでは、二、三お聞きしますが、まず、清水さんがご自身を管理者として力不足だと思われるのは、なぜですか?何か、きっかけのようなことがあったのですか?」「グループ員たちの雑談を聞いていて、そう思ったんです」「どのようなことを言っていたのですか?」「『山脇さんって、マネジメントが上手だったよね』とか、『山脇さんが部長になったのは嬉しいけど、接する機会が減るのは淋しい』とか」「それは、皆さんが山脇さんを慕っているということで、別に清水さんのことをとやかく言っているわけではないのではないですか?」「んー。

でも、やっぱり手ごたえのようなものを感じないんです」「手ごたえ?」「ええ。

僕はグループ長への発令が出てから、マネジメントの本を読んで勉強したんです。

それで、部下を褒めることが大切だって、いろいろな本に書いてあったものですから、できるだけ皆を褒めるようにしたんです」「それはよいことじゃないですか」「でも、そこに手ごたえを感じないんです。

彼らを褒めても、それほど嬉しそうな顔をするわけでもないし」「なるほど、手ごたえというのは、そういう意味ですか。

清水さん自身が、グループ員の皆さんを褒めても『褒めがい』のようなものを感じられないんですね」サカモトは、少し状況が見えたという顔をした。

「そういう言い方もできるでしょうけど、でもそれって、僕が組織によい影響を与えていないっていうことでもあるんじゃないですか?」「うーん。

まだ現場を拝見したわけではないので、現時点では、はっきりしたことは言えませんが、でも清水さんがそうお感じになるのだとしたら、そうなのかもしれないですね」「部下を褒めよ、ってよく本に書いてありますが、あれって噓なんでしょうか?」「いやいや、噓ということはないですよ。

とても大切なことです。

でも、やたらに褒めればよいというものでもないのです」「どういうことですか?」「褒めるにも、褒め方というものがあるのです。

それを間違えると、清水さんがおっしゃるように手ごたえがなかったり、せっかく褒めても効果がなかったりしてしまうのです」「はあ……褒めるのって、意外と難しいんですね」「まあ、褒めないよりは褒めたほうがよいので、本には『とにかく褒めよ』というように書いてあるのかもしれませんが。

では、もし清水さんさえよろしければ、少し仕事場を拝見させていただいて、またグループ員の皆さんにも話を聞いてみたいと思いますが、いかがですか?」「そうしていただけますか。

すみません」清水は丁寧に頭を下げた。

次の日から一週間、サカモトは開発1Gの観察調査を行い、またグループ員たちに話を聞いてみた。

そして、再び清水とミーティングを持った。

「どうでした?」清水が目を輝かしながら尋ねる。

「一応、整理はできました。

基本的に清水さんは、とてもよく部下の方を褒めていらっしゃいますね」「そうでしょうか」清水は、くすぐったいような笑顔になる。

「ただ、褒めるタイミングに、改善の余地があるようです」「タイミング?」「ええ。

行動分析学では強化のスケジュールといいます。

清水さんは、どういうときに部下の方を褒めていますか?」「ええと、どういうときかな。

気づいたときに、というか……」「実際に職場を観察させていただいたところ、まず一つのパターンは、清水さんがタバコを吸いに席を立ったときですね」「ああ」清水は苦笑した。

「清水さんは、ほぼ二時間おきにタバコを吸うために席を立ち、喫煙所に向かわれます。

その際、窓際のご自分の席から出口に向かう途中で、グループ員の皆さんに、『頑張っているね』『仕事、進んでいるみたいだね』と声をかけます」「言われてみれば、確かにそうしています」「これは、定時スケジュールというものに該当すると考えてよいと思います」「定時スケジュール?」「褒め言葉が、一般的に人の行動を強化する好子として働くことは、もうご存じですよね。

その好子が一定時間ごとに出現するスケジュールを、定時スケジュールというのです」「つまり僕は、二時間おきの定時スケジュールで、みんなに褒め言葉という好子を与えているということですか」

「さすが清水さん、わかりが早い。

それともう一つは、変時スケジュールでの好子提示もされています。

変時スケジュールというのは、好子がある時間経過したあとに自動的に出てくるもので、その時間は不定期です」「つまり……」「いろいろなときに、ふとしたタイミングで、ということです」清水はうなずいた。

「ここで一つ、清水さんに質問なのですが、清水さんは、部下の何を褒めようと思ってらっしゃるのですか?」「えっ?部下の何をって……。

頑張りを、ですかねえ。

いや、よい仕事をすることを、かな?」「これは、小さいけれど大切なことなので、よく考えてみてください」「うーん。

まあ、努力というか、成果というか。

……うん、一番褒めたいのは、何かヤマを乗り越えることですね」「ヤマを、ですか?」「ええ。

開発の仕事は、いつも未知との戦い……というと大げさかもしれませんが、常に目の前に大小さまざまな課題があって、そのハードルを一つひとつ乗り越えていくことが、結果につながるんです」「なあるほど。

では清水さんは、日々皆さんが課題を克服する、その行動を強化したいのですね」「そう、その通りです」清水は晴れ晴れとした顔で言う。

「まあ、小さな課題が多いですけどね」「まあ、そんなに毎日、大問題と格闘するわけではないでしょうからね。

ことの大小は、あまり気にしないでおきましょう。

……ところで清水さん、清水さんのやっていらっしゃることって、本当に課題解決の強化なのでしょうか?」「えっ?」清水は、きょとんとした顔になった。

「清水さんは、グループ員の方々が課題を克服したときに、そのタイミングで褒めていらっしゃいますか?私の質問は、そういう意味なのですが」「そういう意味では……していないと思います」「好子の提示というのは、基本的には行動の直後にしないと、ほとんど意味がないのです。

これを行動分析学では六〇秒ルールといったりします」「六〇秒ルール?バスケットボールの三秒ルールみたいなものですか?」サカモトは笑いながら、「いいえ。

行動の強化は、行動が起きたあと、六〇秒以内に行わないといけないというものです。

もちろん早ければ早いほどよいのですが」「ずいぶんと短いんですね。

六〇秒たってしまったら、もうまったく無駄なんですか?」「もちろん、まったく無駄ということはないと思います。

でも、時間がたつにつれて急速に効果が薄れていくことは確かです。

だからたとえば、部下の方がよい仕事をしたとして、それを何日もたってから、飲み屋かどこかで『あのときはよくやったね』と言っても、部下の方は嬉しいでしょうが、それで行動自体が強化されるかというと、どうでしょう」「……実は、それ、私が時々やることなんです。

確かにそうやって褒めても、手ごたえはないんです。

何を褒められているのか、きょとんとした顔をする人もいれば、何日も前のことなので覚えておらず、『そうでしたっけ?』という反応をされることもあって、そうなると、こちらがガッカリしてしまうんですよねえ」「まあ、人を褒めることは基本的に人間関係の潤滑材でもあるので、時間がたったら無駄だからやらない、とは考えないほうがよいと思いますが。

実は、この原理は弱化で考えると、もっとわかりやすいと思います」「弱化?ああ、行動を減らすことですね」「はい。

たとえば部下の方が何かいけないことをしたとき、その場でコラッと叱られたら、部下の方はどう思うでしょう?」「それは、『もうしません』と思うでしょう」「その通り。

では、その場では叱られずに、何カ月もたったあとに飲み屋で言われたら、どうですか?」「うーん、それは。

『悪いことをした』と素直に反省するよりも、むしろ『何で今頃そんなことを言うんだ』と、反発を感じてしまうかもしれませんね」「そうでしょう?それでは行動のマネジメントとしては効果よりも弊害が大きくなってしまうかもしれません」「なるほどねえ。

六〇秒ルールですか。

それで、さっきサカモトさんが言った定時スケジュールとか変時スケジュールというのは、行動マネジメント的には、どういう意味を持つんですか?」「はい。

定時スケジュールも変時スケジュールも、行動とは関係なく、時間がたてば好子が提示されるというものです。

これをすると、どうなるか、もうある程度は清水さんも推測がつくのではないですか?」「行動はほとんど強化されない、と」「その通り。

特に変時スケジュールは、そうです。

また定時スケジュールは、迷信行動というものを誘発する可能性もあります」「迷信行動?」「定時スケジュールでは、一定時間が経過すると、相手の行動とは無関係に好子が提示されます。

ところがそうなると今度は、好子が提示される直前の行動が偶然に強化されたりするのです」「ははあ、わかってきた……」「つまり、清水さんが本来強化したいAという行動ではなくて、たまたま褒められたときに部下の方がしていたBという行動が、強化される。

特にBをしたら褒められたという経験が何回か繰り返されると、強化の効果がはっきりと表れてしまいます」「まさかとは思いますが、そんな迷信行動が、うちのグループにもありますか?」サカモトは笑いながら軽い口調で答えた。

「ええ。

実はある方に話を聞いてみたら、『清水さんは自分が頭を抱えていると褒めてくれる。

だから、清水さんがいるときは、なるべく頭を抱えるような姿勢で仕事をしている』などというのも、ありました」「げっ」清水は思わずのけぞった。

「褒めるのって、難しいんですねえ。

山脇さんは、ごく自然体に見えたのに」清水はしみじみと言う。

「自然体で、いいんじゃないですか?」サカモトの言葉に、清水は目を見開いてサカモトを見た。

「もちろん、自然体とデタラメとは違います。

でも、本来の行動マネジメントというのは毎日の積み重ねですから、大事な原理原則を身につけたうえで、あとはごく自然に振る舞えるのがベストではないかと、私は思うことがあります」「山脇さんは、そうしていたということですか」「行動分析学を学んでいない山脇さんが、一〇〇パーセント正確に振る舞っていたかどうかはわかりませんが。

たとえば山脇さんは、部下をどんなときに、どんな風に褒めていましたか?」「えーと、改めてそう聞かれると、どんなだったかな」「まずは大切なこととして、何を褒めていたか覚えていらっしゃいますか?」「うーん、それは、グループの人間が何か壁にぶちあたって、それを乗り越えたのを山脇さんが見たときですね」「つまり、まさに清水さんが強化したいグループ員の行動を、山脇さんは強化していたわけですね」「あ、そうですね。

……でも、それって、いつもではないですよ」「といいますと?」「山脇さんは私のように定時的な行動パターンがあったわけではないし、ご自身が忙しい方だったので、部下の行動を常に見ているとは限らなかったんです。

それに、壁を乗り越えた瞬間を見ても、毎度必ず褒めているようには思えなかったんですが」「なるほど。

むしろ、それでよかったのかもしれませんね」「どういうことですか?」清水は意外だという顔をして聞く。

「山脇さんの強化の仕方は、スケジュール的には変時隔および変比率だったと思われます。

変時隔というのは、この場合、部下の方が前回褒められてから一定でない時間を経過したあとに、よい仕事をすると褒められるということです」「変時スケジュールと、どう違うんですか?」「よい質問ですね。

このあと詳しくご説明します。

次に変比率というのは、部下の方が何回かよい仕事をすると褒められるということです。

ただし、何回目に褒められるかは決まっていません」「毎回褒めたほうがよいのかと思ってました」「それも間違ってはいません。

毎回褒めることを連続強化、時々褒めることを部分強化といいます。

何か新しい行動をさせたいときには、連続強化のほうが早く行動が身につきます。

一方、一度身についた行動を維持させたいときには、部分強化のほうが消去抵抗は強いのです」「消去抵抗?」

「この場合、褒められなくてもよい仕事を続ける、ということです」「なるほど、褒められるのが当然ということになってしまうと、褒められなければ頑張らない、となりやすいわけだ」「その通り」「うーん。

奥が深いですね。

やっぱり勉強しなくちゃ」その後も清水はサカモトから、強化のスケジュールについてレクチャーを受けた。

清水は吸収力のあるリーダーだ。

きちんとしたセオリーを身につければ、実践に移すのも早い。

褒め方の原理を習得した清水は、もう以前のような気弱な迷いを周りに見せることはなくなった。

はたからも、肩の力が抜け、自然体で、かつ自信がついたように見える。

きっとよいリーダーになっていくことだろう。

サカモトは、また嬉しくなった。

解説1.手ごたえのある職場このケースでは、新任グループ長の清水が上手な褒め方を学んでいく。

真面目な清水は、自分が管理者としての素質がないのではないかと悩んでいた。

たとえば部下を褒めても「手ごたえ」がないというのだ。

清水の褒め方のどこに問題があるのだろう。

褒めるとは行動を褒めることである清水は、褒めることを好子に使ったマネジメントを目指していた。

しかし、現状は彼の理想にはほど遠かった。

その理由の第一は、このケースで説明されているように、清水の褒め方は、望ましい行動の強化につながっていないという点だ。

清水は、ただ褒めることが重要だと漠然と考えているだけで、部下の何を褒めるのかという対象(ターゲット)を明確に認識していなかったことが最大の問題である。

サカモトは清水との対話の中で、まずこの点を明らかにしようとした。

部下の何を褒めようとしているのかと、サカモトに問われた清水は、はじめは、「頑張り」と答える。

そして次に、「よい仕事をすること」と言い直し、さらに、「努力、成果」と言い換え、最後に「何かヤマを乗り越えること」という結論に達した。

サカモトはこれをさらに「課題を克服すること」と言い換えている。

行動の問題を考えるときは、「頑張り」「努力」「よい仕事をする」という抽象的な言い方ではなく、できるだけ具体的に考えることが重要である。

サカモトは、清水がそれを学べるように、こうした会話を行っている。

行動の問題を考えるときは対象を具体的に考えよ次に考えるべきことは、強化とはあくまで、行動を強化することである。

すなわち、行動の直後に好子を出現させたり、嫌子を消去することである。

単に、好子を出現させるだけでは強化にならない。

単に、褒め言葉や励ましの言葉をかけるだけでは強化とは言わない。

何らかの行動をした直後に、褒めたり、励ましたりするのでなければ、相手の行動を変えることはできないのである。

随伴性は人を変えるのではなく、行動を変える。

だから、人ではなく、行動を褒めねばならない。

したがって、新任グループ長の清水がすべきことは、まず部下のどの行動を褒めるか、しっかりと見極めることだ。

幸い、清水はやみくもに褒めようとしたわけではなく、目標を持っていた。

それが、「部下がその日の小さな課題を克服したこと」であった。

六〇秒ルール清水の犯したもう一つの過ちは、褒めるタイミングである。

清水は、部下の課題解決に気をつけてはいたが、実際に褒め言葉や励ましの言葉をかけたのは、自分の都合でタバコを吸いに席を立ったときである。

それはほぼ二時間おきに行われた。

したがって、部下がせっかく課題を克服しても、運が悪いと、それを褒められるのは二時間後である。

うまく、清水がタバコを吸う直前に課題が解決できれば、すぐに褒めてもらえるが、そんな偶然はめったにない。

サカモトが言うように、行動を変えるには、強化にせよ、弱化にせよ、行動の直後六〇秒以内が勝負だ。

相手が行動してから六〇秒以内に褒めたり叱ったりしなければ、十分な強化や弱化の効果は得られない。

だから、褒めることも叱ることも、ためらってはいけない。

褒める・感謝する・叱る・怒る、これらはすべてタイミングの良さ、テンポの速さが相手を変えるための鍵を握る。

あとで「あのときはよくやったね」と言うよりは、ともかくその場で喜ぶほうが相手の行動を変えるには役に立つ。

その場で叱らずに、あとで「あれはよくないよ」などと言うよりは、その場で叱るほうが、相手の悪い行動を弱化するには役に立つ。

だから、褒めることで相手の行動を変える場合、目指す行動が起こったのを見届けたら、間髪入れずに褒めることを心がけなければならない。

六〇秒ルール行動を強化や弱化するときは、行動の直後六〇秒以内が勝負であるしかし清水は、自分の都合でタバコを吸いに出るついでに、部下に声をかけていたにすぎない。

これでは、清水が部下に望む課題解決行動を強化することはできないのである。

2.強化スケジュールこれまで、行動は直後の好子出現や嫌子消失によって回数や強度が増えることを見てきた。

部下の日々の小さな課題解決の直後に褒めることを繰り返すと、課題達成の頻度が増す。

しかし、清水がどんなに気をつけても、すべての部下に常に気を配り、小さな解決も見逃すことなく必ず強化することは現実的には難しいだろう。

つまり、部下のすべての望ましい行動を一〇〇パーセント強化することは実際にはありえない。

一〇〇パーセント強化できないということは、一部の望ましい行動は見逃される、つまり消去されるということだ。

消去されれば、行動はしなくなる。

かといって、清水の場合、一〇〇パーセント消去しているわけではないから、部下の課題達成がなくなることは考えられない。

すべての行動を一〇〇パーセント強化することを、連続強化という。

一方、まったく強化しない(〇パーセント)のは消去だ。

清水の場合、部下に対する強化は、一〇〇パーセントと〇パーセントの中間になる。

このように、ある程度の割合の行動が強化されることを、部分強化という。

行動の一部分が強化されるという意味だ。

それでは、部分強化されるとき、行動はどうなるのか?これを説明する鍵が、強化スケジュールといわれる概念である。

強化スケジュールとは、強化のスケジュール、つまり、連続して起こる行動のどれを強化するか、強化のタイミングと間隔を記述したものだ。

さまざまなスケジュールを実験した結果、強化スケジュールは、行動のパターンを変えるということが明らかになった。

代表的な強化スケジュールには、次の四つがある。

①定比率強化スケジュール(FR)定比率(FixedRatio;FR)とは、決められた回数の行動をした直後に好子が出現する強化スケジュールだ。

たとえば何かを一〇回やったら好子が出現する、というのは、FR10の強化スケジュールと呼ばれる。

やればやるほど、強化は多くなる。

このスケジュールで行動を強化すると、行動を始めると一定のペースで休まず行動するが、いったん好子が出現すると、しばらく行動を休むというパターンが現れる。

一回の強化に必要な行動の回数が増えるほど、この休みは長くなる。

②変比率強化スケジュール(VR)変比率(VariableRatio;VR)では、何回か行動すると好子が出現するものの、何回目の行動でそれが起こるかは一定していない。

あるときは一回目で好子が

得られるかもしれないし、またあるときは二〇回目にしてやっと好子が得られるというときもある。

このスケジュールを使うと、非常に速いペースで行動がなされ、しかも強化後の休みもない。

一定の速いスピードでがんがんやるわけだ。

ギャンブルにはまるのはこのスケジュールで強化されるためだともいわれる。

ギャンブルはやらないことには当たらない。

しかし、何回目に当たるかはわからない。

VRで強化されるから、やめられずのめり込む。

③定時隔強化スケジュール(FI)時隔スケジュールでは、時間間隔を基準にして強化が行われる。

定時隔(FixedInterval;FI)強化スケジュールでは、前回の好子の出現から、一定時間が経過したあとの最初の行動の直後に、好子が出現する。

たとえばFI五分の強化スケジュールでは、前に好子が与えられてから五分たったあと、最初の行動の直後に次の好子が与えられる。

いったん好子が得られたら、五分たたない間はどれだけ行動しても好子は得られない。

このスケジュールを使うと、好子が出現すると、しばらく行動を休み、その後、行動を再開すると時間経過とともに行動のペースが速くなるという行動パターンが現れる。

たとえば会社や学校で終業時間が近づくにつれ、時計をちらちらと見る回数が多くなるのもFIで強化されるからだ。

④変時隔強化スケジュール(VI)定時隔強化スケジュールでは、前回の好子出現から一定時間が経過すると、好子出現の準備状態に入る。

変時隔(VariableInterval;VI)強化スケジュールでは、好子出現の準備状態に入るための経過時間が一定ではない。

前回、好子が得られてから、もう一秒後には準備状態ができているかもしれないし、またあるときは三〇分たっても準備状態にはないかもしれない。

このスケジュールを使うと、強化後の行動休止はほとんどなく、比較的ゆっくりしたペースで行動するという行動パターンが現れる。

清水は部分強化で部下の問題解決を強化していたに違いないが、期せずして使っていたのは上の四つのどの部分強化だろうか?実は、どれでもない。

清水は部下の課題解決の直後に褒めていたわけではないから、行動は強化していなかったのである!清水は単に、ほぼ二時間おきにとる自分のタバコ休憩のついでに、好子を与えていたにすぎない。

好子を与えることと、強化とは、同じではない。

行動に対して好子を与えて、初めて強化といえるのだ。

それでは、清水がしていたのは何なのか?それは時間スケジュールと呼ばれるものだ。

⑤定時スケジュール(FT)一定時間が経過したら、何をしていようとも、あるいは何もしていなくても好子が与えられるというのが定時(FixedTime;FT)スケジュールだ。

ケース・ストーリーの中で清水が行っていたのが、まさにこれだ。

FT二時間で褒め言葉の好子が出現した。

しかし、繰り返すが、時間スケジュールは「強化」スケジュールではない。

定時スケジュールでは、何かある行動をターゲットとして相手を強化しているわけではない。

ただ時間がくれば自動的に好子を与えているだけだ。

その結果、好子を与えられたことで、その直前の行動が、意図せずに偶然強化されてしまう。

当然のことながら、これでは目指す望ましい行動は増えない。

⑥変時スケジュール(VT)定時スケジュールでは、一定の時間がたてば好子が出現した。

一方、変時(VariableTime;VT)スケジュールでは、好子出現までの経過時間は一定していない。

相手が何をしていようと、していまいと、いわば〝きまぐれ〟に好子が与えられる。

定時スケジュール同様、この変時スケジュールでも、さらに望ましい行動が得られる可能性は限りなくゼロだ。

3.消去抵抗ところで、行動を部分強化する場合と、連続強化する場合とで重要な現象がいくつかある。

望ましい行動を作り上げるためにも、それを維持していくためにも強化随伴性は欠かせない。

しかし、新しい行動を作り上げるためには連続強化、出来上がった行動を維持するときには部分強化することが重要だ。

スポーツのコーチが初心者につきっきりでよい行動を褒めたりするのは、連続強化のためだ。

一方、十分できるようになったら、強化の確率を徐々に減らし、部分強化に変えていく。

それは次に述べる消去抵抗のためである。

実社会においては、望ましいことをしたからといって、いつも認められるとは限らない。

「よいことをしても認められない」というのは、行動が消去されていることになる。

つまり、いくら頑張っても誰も認めてくれないという状況が長く続けば、頑張る気力はどんどん失せていく。

とはいえ、私たちは経験上、人の行動がそれほど即座に消去されてしまうわけでもないことを知っている。

電話をかけたときに、相手が電波の届かないところにいたり、会議中で電源を切っていて、すぐに通話ができないからといって、もう二度とその人に電話をかけないなどということにはならない。

行動が強化されなくなってから、完全に行動がなくなるまでに要する時間や行う行動の回数のことを消去抵抗という。

意外かもしれないが部分強化スケジュールは、連続強化スケジュールよりも消去抵抗が高い。

だから、すでに確立した行動を維持する際には、部分強化のほうが適切なのである。

また、消去されるまで、どのような強化スケジュールで行動が強化されていたかによって、この消去抵抗の強さが変わる。

部分強化で強化すると、その後いくら消去してもなかなかその不適切な行動は収まらないのである。

4.部下を褒める行動は誰が強化するのかところで、清水は、「褒めがいがない」と嘆いていた。

褒めても、部下から手ごたえが返ってこない。

褒めることも行動である。

清水が部下をマネジメントするうえで、褒めることを好子に使うなら、この「褒める」行動が適切に行われる必要がある。

だから、清水が褒めることも何らかの随伴性で強化されねばならない。

考えられる自然の随伴性は図5-1であるが、新任グループ長の清水は、部下を褒める行動を身につけたばかりの初心者だ。

すでに述べたように、初心者の行動は連続強化しないと、身につけることは難しい。

しかし、清水は上手に褒めることができないから、なかなか部下からの反応が好子として得られない。

したがって、褒める行動がなかなか上達しない。

負のスパイラルである。

このように、自然の随伴性に任せていては、清水のマネジメント行動は上達しない。

こうした場合、上司の開発部長、山脇の出番である。

清水の部下の行動が、上司の清水によって強化されるように、清水のよきマネジメント行動もまた、上司である山脇によって強化されていかねばならない。

山脇によって、清水の褒め方が上達すれば、部下による自然の随伴性が活性化され、山脇の強化は強化率を減らし、フェイドアウトできる。

そうして、組織の中には、よい随伴性の循環が生まれていく。

筆者は、かつて、行動分析学を応用した障害児教育の最先端の一つであった、ニューヨーク州にあるフレッド・ケラー・スクールを訪れたことがある。

そこでは、就学前の子どもたちに、マン・ツー・マンでさまざまな生活スキルやアカデミックスキルを教えていた。

教師たちは高度な専門性が求められ、子どもたちへのレッスンは驚くほど高い集中力で行われていた。

あまりの教師のレベルの高さに、私はディレクターのトワイマン博士に、「先生方はなぜあそこまで熱心なのですか?」と聞いた。

私が内心考えていた答えは、「子どもたちのスキルが上がっていくことが、教えることの好子になっている」というものだったが、トワイマン博士の返事は違っていた。

「はじめはお金が好子だと思っていました(障害児教育の教師の給料は、普通教育の場合より高いそうだ)。

しかし、それは間違いでした。

教師の行動を支えているものは、一〇〇パーセント、スーパーバイザーからの注目です」。

このフレッド・ケラー・スクールは、子どもの療育だけではなく、教師のパフォーマンス・マネジメントにも行動分析学を応用し、成果を上げていた。

上司からの注目や承認がどれほど組織の生産性を上げるか、目の当たりにした瞬間であった。

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