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三、市場戦略を展開する

目次

市場戦略を展開する

市場戦争というものは、社長の意思に基づき、全社が一丸となって、はじめて勝利を収めることができるのである。

社長は、自らの経営理念に基づく我社の未来像を実現するために、自らの意思による「市場戦略」を樹立し、自らこれを指揮するのである。

そのためには、各種の情報収集に異常な努力を払い、集まった情報を分析して、常に天下の大勢を把握していなければならない。

全般の情勢をふまえた上で、市場制覇の構想を練り、この構想に碁づく「市場戦略」を樹立するのである。戦略を決め、周到な準備を行ない、作戦計画をたて、布陣を行ない、機をみて戦闘を開始するのである。

その戦闘は、戦況に応じて、機動力や駆引という用兵の妙を得てはじめて勝利を手に入れることができるのである。

すべて社長の一貫した戦略と戦術と用兵がなければ、たちまち「鳥合の衆」となって敗れ去らなければならないのである。

では、その戦略をどう展開してゆくかについて、筆者は三段階に分けて解説してみようと思う。それは、

  1. 市場戦略地域を選定し、占有率の目標を設定する。
  2. 戦略地域内の戦略方針を決定し、流通業者を選定する。
  3. 選定した流通業者と協力し、蛇口作戦を展開する。

ということである。

我社の持っている僅かな兵力と、乏しい軍資金を使って短期間に最大の効果をあげるには、正しい戦略をたて、着実にこれを実行する以外にない。

間違った戦略のまま、いたずらに血気にはやるのは厳に戒めなければならない。反対に、せっかくたてた優れた戦略も、社長の怠慢で実行がいい加減になってしまっては、これまた効果は上がらないのである。

市場戦略地域を選定し占有率の目標を設定する

市場戦略地域の選定に当って、まず留意しなければならないことは、必ず、自らの力によって、生きるために必要な占有率を確保できる地域に限定する、ことである。この鉄則を忘れたら、いたずらに損害のみ大きく実効は上がらないことを忘れてはいけないのである。

この鉄則をふまえていれば、いたずらな「拡大主義」はとれない筈である。不用意な拡大主義は、虻蜂とらずになるおそれが多いのである。

M社は北陸三県に大きな占有率を持ち、恐らくは四十%にも達する占有率を誇る有力業者であった。数年前、M社はかねての念願である東京地区に進出した。激戦地での戦いは、必然的に多くの精鋭と多額の販売促進費を投入しなければならなかった。

そのために、地元がおろそかになり、永年に亘って営々として築きあげた地盤を他社に食われ、かなりの占有率を失ってしまったのである。

それに気がついても、いまさら東京地区から手を抜くわけにもいかず「手を打ちたくとも打てない」状態に追いこまれてしまったのである。

せっかく手に入れた占有率を不用意な拡大主義のために失ってしまうとは、何ともったいないことであろうか。自らの力をわきまえず、市場占有率の原理を知らないための失敗である。

では、「自らの力の限界」を踏まえた上で、具体的にはどのような着眼によって戦略地域を選定したらいいのだろうか。

第一には、「激戦地は避ける」ことが賢明である。激戦地は、経済か行政の中心地と思えばよい。このような地域は「需要が多い」という理由で、需要が多ければ沢山売れると思いこみ、どの業者もまっ先に目をつけてここに争って進出する。そのために、百の需要に二百の供給が殺到する、というようなことになる。必然的に激戦地になるのである。

札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・福岡がまず狙われ、次には新潟・静岡・広島となり、二番目には県庁所在地であり、産業中心地も目をつけられる。

殆んど大部分の会社がまっ先に以上の都市に支店や営業所を持とうとする。自らの力など顧みることもせずにである。そして、大部分の会社で思わしい成果を手にすることができずにいるのである。

占有率の市場原理を知っていれば、市場の大きさだけに目を奪われて、このような愚挙をせずに済むのである。我社の資源を効果的に活用し、優れた成果をあげる道は、まず激戦地を避けることなのである。

第二には、「占有率の高い地域をさらに伸ばす」ということである。占有率が高いということは「我社が強い」ということであり、強い地域を更に強くすることは、比較的やさしい。少ない追加資源の投入で、多くの成果を手に入れることができるだけでなく、我社の基盤を更に強固なものにするからである。

ランチェスター理論に従えば、我社の占有率がトップで他社はドングリの背くらべという地域が、最もやり易い「弱い者いじめ」である。

このような地域は優先的な戦略地域として、いち早く主導的占有率四十%を確保するのである。

しかし、多くの社長は占有率の高い地域には力を入れずに、低い地域に優先的に力を入れようとする。これはいったいどういうことなのだろうか。

占有率が低い地域というのは、「いろいろな都合で、いままで力を入れていなかったのだから、これに力を入れればもっと売上げを伸ばせる」と思い込むらしい。

この考え方は、うなずけないではないが、これは「競争市場」を忘れた「一人よがり」である。他社が同様に力を入れていないならば、これに力を入れれば売上げは伸びる。

しかし、こうした地域は、他社が既に高い占有率を確保しているのだ。その強敵に戦いを挑むことになる。力を入れれば場合によっては多少の成果はあるかもしれない。しかし、いたずらに資源を浪費する場合が圧倒的に多いのだ。

だいいち、いろいろな都合があって、後回しになったのには、それだけの理由がある。つまり、最もやりにくく、効果の上がらない地域だからである。

その「最もやりにくい地域」に、都合がついたからといって、もっと「やり易い地域」をさしおいて力を入れるというのは、どう考えてもおかしい。

もっと「やり易く効果の上がる地域」を優先するのが本当である。そして、占有率が高いほどやり易いのである。やり易い地域から力を入れて効果をあげるのが最も有利なのである。

第二には、「占有率は低くともやり易い地域を攻める」ということである。これにはいろいろある。

○ 地元はやり易い

これはいうまでもない同郷意識である。親せき、知人、友人が多く、コネがつけ易い、事情にくわしい、距離的に有利といいことだらけである。「地の利」を利用しないという手はない。

○ 草刈場はやり易い

草刈場は、誰が草を刈ってもお互にあまり気にしない。とったり、とられたりだからである。これが「盲点」になっているのである。

○ 不便なところはやり易い

山陰地方は典型的な地域である。筆者はこの地域を「シンデレラ・テリトリー」と呼んでいる。高知県。大分県もこれに当てはまる地域である。

○ 「独占的業者」のいる地域は、やり易い場合がある

一般的には、独占的業者のいる地域は 「やりにくい地域」である。特にそれが独占業者の地元である場合は、食い込みはあきらめるのが賢明である。

しかし、注意深く観察すると、食い込み易い地域がある。独占的なるが故に、どの業者もあきらめてしまって、殆んど無競争になっているために、顧客に対するサービスがおろそかになって、顧客が不満をもっているような地域があるものなのだ。以上のような着眼から市場全般を眺め、我社の市場戦略の基本構想をたてるのである。

それは、

  1. 三年〜五年の市場戦略地域を選定し
  2. 第一次地域、第二次地域、第二次以降の地域というように、優先順位をきめる
  3. 第一次地域の目標占有率を設定し
  4. 第一次地域の占有率が何%になった時に、第二次地域に進出する(第一次地域の占有率目標四十%、二五%になった時に第二次地域に攻撃を開始するという要領である)か
  5. 戦略展開のための投入資源(人・物・金。時間)をどれだけにするか
  6. 商品の供給体勢をどう整備するか

というようなことである。

右のような基本構想をたてるといっても、それは全く新規の市場に対してやるというわけではない。既に我社が進出している地域に対してまず適用するのである。つまり「市場再整備」というのが実態なのである。

新しい市場戦略という見地から既存の市場を眺めた時に、あまりにも荒れ果てた市場に驚くのである。その荒れ果てた市場を再整備し、稔りある沃野にしてゆくのである。

戦略地域内の戦略方針を決定し流通業者を選定する

戦略地域内の戦略も、その原理は戦略地域の選定方針と全く同じである。

つまり戦略地域をさらに細分化し、その細分化した地域について市場の状況を調査し、彼我の戦力や占有率を比較して激戦地を避け、やり易い地域から作戦を開始するのである。

決定された作戦地域内の流通業者を調査し、我社と取組むべき業者を選定する。

― 既に進出している地域ならば再編成ということになる。流通業者の選定に当って、一地区一社の完全テリトリー制をとるか、それとも複数のオープン・テリトリー制をとるか、という問題がある。

完全テリトリー制は、現実の問題として商社・問屋の支店、営業所、サブ店などが錯綜していて交通整理などは、よほど強力な企業でない限り、まずは不可能である。

特に中小企業は「天動説」にもとづいて大手の商社や問屋を特約店に選ぶ傾向が強いので、占有率が高まるにつれて問題が起こってくる。

一つの小売店に東京の特約店の営業所と大阪の特約店の支店と地場の問屋が、同時に我社の商品の売込みを計り、その尻を我社に持込んでくる。

こういう煩わしい問題に絶えずさらされているのが中小企業の現実の姿なのである。しかし考えようによっては、こうした問題の調整に苦労するというのは、業績が上がっているあかしでもあるのだから、一面喜んでいいのである。

右のような問題を別にしても、完全テリトリー制は市場戦略を進める上に数数の弱点を持っている。というのは、商社、間屋というものは市場に対するいろいろな偏りを持っている。

得意な商品と苦手な商品がある。地元に弱く地方に強いという問屋もある。デパート主力、スーパー主力という偏りもある。

完全テリトリー制にすると、右のような業者の弱点が、我社の市場戦略展開に支障を来すことになるのである。

だから、特約店の選定は我社の市場戦略の目標を達成するためには、どんなディーラーがよいかという設間に答えられるものでなくてはならないのである。

地方に戦略を展開したければ、一般にはその地方の地場の有力問屋がよいし、新たな業界に進出したければ、その業界のディーラーを新たに開拓しなければならない。

さらに、選定したディーラーでは、我社で欲しい蛇口が十分でない場合には、自ら蛇口を開拓して、これをディーラーにつける、というようなこともしなければならない。

当然のこととして、どうしてもオープン・テリトリーになるわけである。

そして、このようなオープン・テリトリーの方が乱戦や不況に強いのである。流通業者を選定したら、この流通業者の蛇口に対して蛇口作戦を展開するのである。

この蛇口作戦は、十分な巡回(次章で述べる)ができる地域に限定し、その地域の目標占有率が確保できる見通しが立つまでは、新たな地域に進出してはいけないし、新たな地域に進出することによって、既に確保した地域占有率を落すようなことがあってはならないのである。

もしも、どうしても占有率が上がらないようならば、その地域は少数の拠点だけ残して、いったん撤収するのである。拠点を残す意味は、完全撤退すると後日再びこの地域に作戦を展開する場合に、全く新規と同様な困難を味わわなければならないからである。

こと志と違って成果のあがらない地域に、いつまでも恋々としてしがみついていると、いたずらに資源を浪費するだけでなく、市場戦略に遅れをとることになることを知らなければならないのである。

蛇口作戦を展開する

蛇口作戦にはいろいろあることは既にのべた。社長は、それらの蛇口作戦の何と何とをどう組合わせていくかを決めなければならないのはいうまでもない。

しかし、何といっても蛇口作戦の上台は「定期巡回(パトロール)」である。ここでは、このパトロールに焦点を合わせることとする。

蛇口作戦には、「地域パトロール」と「拠点パトロール」の二つを考えるのである。というのは、戦略地域に地域パトロールを集中するのが本来の姿ではあるが、現実の問題としては、戦略地域以外にも、既に進出している場合には、この地域を全く放置するわけにもいかないのである。

こうした地域に対しては、重要拠点を選定して、これに対して拠点パトロールを行なうのである。

もう一つの場合は、次に、進出する地域に拠点を選定して、これに対して「十分なパトロール」を行なうのである(十分なパトロールを行なうためには、拠点は少数でなければならない)。

これはパトロール地域外の有力得意先を、いち早く確保しておき、やがてその地域にパトロール作戦を展開する時の拠点とするための「準備行動」なのである。こうすることによって、その拠点から収益をあげることが同時にできるのはいうまでもない。

蛇口作戦の推進に当り、まず第一にやらなければならないのは、作戦の対象となる小売店またはエンドユーザーを選定することである。選定に先立って時間の許す限りやらなければならないのは、社長自らの蛇口訪間である。

B社長の初めて行なった蛇口訪間の感想では、『従来の販売実績だけで判断していたら、優れた蛇口を見落す危険が思ったより大きいことを痛感した。「シンデレラ」が意外にある。

だから、方針決定前に三百社余りの得意先を全部廻って、私の目で確かめます』というのであった。セールスというものは、社長が廻ってもらいたいと思っている得意先には廻らず、力を入れる必要がないと思っている得意先を廻りたがるものだ。

また、遠隔地や不便な場所や、うるさい得意先は、たとえ上得意であっても、訪問しようとしないものなのだ。だからこそ、社長が自らの目で確かめなければならないのである。

社長の得意先訪間の情報をふまえて、社内の資料― 「売上高ABC分析表」や「得意先別売上高年計表」や、営業担当者の意見もきいて、得意先の格付を行なうのである。

格付は、別格(AAA)、最重点(AA)、重点(A)、安定(B)、成行(C)というような要領である。

この場合に、さきにあげた遠隔地、不便な場所、うるさい得意先などのうちから、有望な得意先をみつけだすことを忘れてはならない。つまり「シンデレラ」の発掘である。

得意先の格付に従って、「得意先訪問基準表」(第3表)を作るとよい。社長・専務・営業部長・営業課長・セールスマンが、それぞれ一カ月何回の訪間をしなければならないかの基準を明確にきめるのである。

降ろうと照ろうと、注文が取れようと取れまいと、そうしたものに関係なく行なう定期巡回なのである。この基準は、三カ月毎に見直して修正してゆくことが大切である。

セールスマンのおおよその巡回回数は、別格は常駐または毎日、最重点は週二回、重点は週一回、安定は月一〜二回程度と考えればよい。産業機械などでは、最重点が月に二〜四回、重点が月一〜二回、安定は月一回程度であろう。

以上は、あくまでも一般的な基準であって、それぞれの状況によって増減するのである。例えば、最重点、重点は攻撃地域を同業他社の三倍以上にしなければならないし、季節商品は繁忙期と閑散期は変える、などである。

課長以上の訪問回数は、上位になるほど対象が広くなるので、 一社当りの訪問回数は減ってゆく。

社長の場合は、最重点で月一回、重点で三カ月または六カ月に一回、安定は随時というようなことになろう。むろん、得意先の多少でその基準より多くなったり、少なくなったりするのはいうまでもない。

訪問基準表を作成したら、社長以下一人一人の一カ月の訪問回数を計算してみる。巡りきれない時は訪問社数を減らすのである。訪問回数は減らすべきでこの場合に留意しなければならないのは、セールスマンの過去の一カ月の訪問延回数を基準にしてはならない。

セールスマンによって延回数は大きく違うし、社長が巡回してみると、セールスマンの二倍は楽に廻れることが分る筈である。私は、社長が廻った場合の二、三割低いところにするのがよいと勧めることにしている。

訪問基準表ができたら、これに基づいて毎月訪問計画書をつくる。この際、最重点と重点得意先は曜日をきめて巡回するようにすると、得意先に印象を強くすることができる。

得意先の滞在時間は永いほうがよい、という考え方があるが、特別の用事がある場合を除き、長時間ねばることは相手にとっては迷惑なのである。

相手は自分の仕事を持っているからだ。T薬局の主人は『某社のセールスマンは、いつまでもねばられるので閉日して、お引取り願うために僅かな注文をするが実に不愉快だ』と私に語った。

それを、「ねばれば注文がとれる」と思い込んでいるのだから始末に負えない。こういうセールスマンはお客様の信頼など絶対に得られないのである。

得意先の滞在時間は、十分か十五分もあれば十分である。大会社で六人も七人も挨拶しなくてはならない場合でも、二十分くらいで十分だと思わなければいけないのだ。

パトロールは、何がどうであれ、基準通り巡回することこそ、絶対的な重要性をもっているのである。

ところが、ベテランはこのパトロールを極度にきらう。ベテランにこれをやらせると、非常に抵抗が強い。チャランポランの廻り方や、廻ったふりをして廻っていない、というケースはかなりある。

極端な例になると『会社をやめさせてくれ』ということになる。こういう場合には惜しいようでも引留めてはいけない。こういう人種はセールスマンとして失格だからである。

蛇口作戦には、根気強く、陰日なたなく巡回をするセールスマンこそ大切であり、このようなセールスマンが蛇口作戦を成功に導くのである。

セールスマンは何人必要か

「セールスマンは何人いたらいいのか」という設間に対して、明確な方針を持っている会社に、私はまだぶつかっていない。(このセールスマンとは外回りの営業員のことである。)

大部分の中小企業のメーカーでは、セールスマンの数が必要数より遥かに少ないのである。

これでは成果の程は期待できない。なるべく少ないセールスマンで、なるべく高い売上高を確保したいというのは気持としては無理からぬことである。しかし、ただ慢然とそう考えていたのでは、市場戦略の展開など不可能である。

製造部門ならば、人員不足は誰の日にも明らかであるから、増員の必要性はすぐ分る。

しかし、販売部門には不足かどうかを計る一般的な物差がない。だから生産指向型の社長はいうまでもなく、殆んどの会社で不足状態が放置されているのである。

G社長いわく『うちは、現在セールスマン一人当り年間一億五千万円以上の売上げをあげています。もう何人かセールスマンを増やしてもいいと思うのですが、そのセールスマンが一人当り一億五千万円の売上げをあげなければならないのかと思うと、どうしても増員にふみ切れません』と。いったい、どう考えたらいいのであろうか。

販売戦といわれるごとく、販売は戦いであり、その 「戦い」に勝つためには兵力が必要である。その兵力を惜しんで、どうして戦いに勝つことができよう。それは分るがセールスマンを増やせばそれだけ人件費と経費がかかるから、おいそれと増加には踏みきれない。

「ふぐは食いたし、命は惜しし」ということになって、大方の社長は毒に当ることを恐れて、頬の落ちるほどうまいふぐを食べずにいるのだ。

セールスマンの必要数は、まず市場戦略から検討される。「我社で手に入れたい市場占有率を確保するための巡回を行なうには、何人の人間が必要か」という問いから、必要な人数を算出する。この基準は蛇口作戦のところでのべた。

次に、この人数を利益計画にぶつけて検討する、という二段階を踏むのがよい。

この両方を同時に考えたら、動きがとれなくなるのが落ちである。どのように決定するかは、社長自身の考え方できまるのである。

この場合に、私は利益計画よりはむしろセールスマンの人数を重視するという積極策をとることをお勧めする。というのは、私の経験から、人数を重視したために、収益面に危険なほどのマイナスを来したことはないからである。

それよりも、決定的なセールスマン不足のために市場戦略の展開が思うにまかせず、収益面でも悪い結果を招いているケースのほうが圧倒的に多いのである。

特にメーカーの場合、セールスマンの総人件費が会社の目標付加価値(加工高でもよい)の二十分の一以下の場合、言いかえると、セールスマンが自らの人件費の二十倍以上の目標付加価値を負わされている場合には、本当のところ市場戦略の展開どころか、現在の市場と顧客に対してさえ十分な活動が行なえずに、占有率を落す危険が非常に大きいのである。

市場戦略を十分に行なうには、どうしても会社の総付加価値の十分の一をセールスマンの人件費に投入することが必要である。この金額をセールスマンの平均人件費で割れば、セールスマンの人数が算出できる。

右の数字はメーカーの場合であるが、間屋や商社の場合には、メーカーのような明確な基準を出すことは難しい。というのは、猛烈な過当競争のために殆んどの会社が収益不足で、相対的な人件費過剰に悩んでいるからである。

だから、まず現在のセールスマンを優れた市場戦略によって効果的に使い、そこから生みだした余裕で増員する、ということになり、メーカーとは反対になってしまうのである。

ところで、ここに一つの大切なことがある。それは、セールスマンの「先行投資」である。

T社長は、セールスマンの先行投資を積極的に行なっている。毎期の経営計画をたて、この中で計画的にセールスマンの増員を行なっているので、同業同規模会社の三倍ものセールスマンを確保している。

それにまだ満足せず、もしも期中に計画外の優秀セールスマン要員をみつけた場合には、日標経常利益を零にする覚悟で採用するという方針をもっている。

「今年のセールスマン増員計画は満たしたから、あとは来期とする」というのは、経営計画にとらわれた間違った考え方である。

「経営計画はとらわれるものではなくて使うものである」というのがT社長の考え方である。これが経営計画に対する正しい考え方なのである。

「計画外のセールスマン増員は「未来投資」である」というのが、T社長の考え方である。

T社の市場占有率は毎年確実に上がる。しかも、その上がり方は「不況時に落ちない」という優れたものである。しかも常に水準以上の経常利益をあげている。この経常利益は、未来に備えた上での利益である。

未来に備えることは何もせず、現在の利益をあげることにのみうつつを抜かしていたら、いつまでたっても会社はよくならないだけではなく、場合によると長期的な占有率低下― 利益率低下― 赤字転落という危険な事態を、社長自体がつくりだしていることになるのである。

市場戦略考

■全国戦略

N社は名古屋に本社を持つ建材メーカーである。

同社の販路は、北は北海道から南は沖縄まであった。強い地区は地元の名古屋地区、静岡県、北陸地方、広島県で、他は極めて弱かった。

N社長は、まず東京地区の売上げを伸ばしたいと思っていたが、東京営業所を設置する余裕はなく、月一回程度の出張によるディーラー廻りだけでは、如何ともできなかった。東北地方が極めて弱いので、これの強化もやりたかった。

北海道は季節変動をカバーする重要地区と思っていたが、売上げは微々たるものだった。近畿地方は大阪のディーラーが弱体で、大阪地区よりも地方売上げが主であるのが頭痛の種だった。

四国地方は大阪のディーラーが熱を入れないのが不満であったし、九州沖縄地方は成行に任せるより外に手はなかった。全国に販路を持つとはいえ、実態は以上のようなもので、一部の強い地区を除けば限界生産者でしかなかった。

私は『日本全国に無計画に販路を広げ、あっちを伸ばしたい、こっちも伸ばしたい、ではダメだ。正しい市場戦略を持ち、社長自らこれを推進しなければならない』と勧告した。

市場戦略をたてるに当って、彼我の勢力分布を調べてみた。殆んどの業者が全国的な販路を持っていたが、地域細分化をしてみると、そこには次のような強弱があった。

東京に有力業者が三社あり、一社は関東と東北に強固な地盤を持ち、もう一社は関東と北海道が強かった。地元に競合会社が一社あるが、あまり恐れる必要はなかった。関西地方は大阪に数社あり、近畿一円と、岡山県、四国地方をガッチリと押さえていた。九州にある一社は、地元の強味を発揮して九州一円に君臨していた。

何のことはない、N社の強いところは、競合他社が弱いところだっただけのことで、N社の努力によって手に入れたものはなかったのである。

というのは、N社をはじめ、どの会社もセールスマンの数は極めて少なく、販売は間屋まかせで生産第一主義、コスト至上主義の職人会社にしかすぎなかったのである。こういう業界に市場戦略を持った会社が現われると、アッという間に占有率を伸ばすことができるものなのである。

この市場戦略をN社に持ち込みたいのだが、如何せんセールスマンの数が極端に不足しているのである。何しろセールスマンの人件費が、総付加価値の四十分の一以下なのである。

セールスマン一人当り年間一億円以上の付加価値を負わされているのでは、本当のところ市場戦略の展開など不可能である。

まともな戦略を展開するには、現在の四倍のセールスマンを必要とするのだ。試みに、セールスマンを四倍にして、増員したセールスマンが一文も稼がなかった時の損益を計算してみても、売上高経常利益率が四%を上回るのである。こんな馬鹿なことはあり得ないどころか、これだけのセールスマンを投入して市場戦略を展開したら、N社は大躍進をすることは間違いないのである。その実証は、このすぐ後でのべる。決定された市場戦略は次の通りである。

  1. 金城湯池の静岡地区と広島地区は、従来通りの訪問活動による防禦地域とする。
  2. 地元の名古屋地区は、さらに強くするために「蛇口作戦」を展開する。投入するセールスマンは○・五人とする(一人専任させたいのだが、セールスマンの極端な不足でそれができない)。
  3. 北陸地方はもっと強化したいが、セールスマン不足のため、新戦略の展開は見送り、従来通りとする。
  4. 近畿地方を新戦略展開地域とし、新たに専任者を一名投入して「蛇口作戦」を展開する。セールスマンが増員され次第、さらに二名専任者を投入する。(距離的に本社から近いという点と、先発業者にも、いろいろな弱点や盲点があることが分ったため)。
  5. 以上を除く地区は、セールスマンの訪間を一切取止め、年一〜二回、社長と専務による間屋への表敬訪間のみとする(新戦略のためのセールスマンの時間を生みだすためと、セールスマンが年に何回か訪問するくらいでは、たいした効果は期待できないから)。
  6. セールスマンを至急増員し、とりあえずの日標を現在の二倍とする。

新戦略地区である近畿地方の戦略の基本は、「三点攻略法」によることにした。三点攻略法というのは、三つの戦略拠点を持ち、この三点を結ぶ三角形の地域を制覇するという、いわゆる「面作戦」である。

これで有名なのが薬のチェーン店として日本一を誇る「薬ヒグチ」の「三角商法」である。薬ヒグチは、創業時、全国に四百二十七店舗の開設を目標とした。薬屋のくせに「死にな」である。

これは、全国の薬屋の一%に当ったということである。最初に開設したのが大阪の京橋店、次が約ニキロ離れた千林店、二番目が枚方店であった。この枚方店が失敗してしまった。

これについて樋口社長は、「三角商法とは、原則としてニキロ離れた地点に3つの店舗を三角形に配置し、三角形の圏内に住む消費者をつかむという商法である。

チェーン方式である限り、店を散在させたのでは意味がない。三角点商法ならば、その地域の消費者は自然にヒグチを意識する。

枚方店では、全く三角形をなしていなかったのが失敗の原因である。そこで次は京橋、千林と結ぶ徳安を選んで成功した。それ以来うちの増設計画はすべて三角商法」であるというのである―「第二のソニーを狙え」(学研ブックス刊)より要約―薬ヒグチの三角商法は、決して理論から生れたものではなく、経験― それも苦い失敗―によって会得したものではあるが、それは明らかに理にかなった商法なのである。

この「三点商法」は、単に小売店の配置だけでなく、大きな地域戦略にもそのまま通用する戦略である。それは県内という地域戦略にも、地方ブロックという地域戦略にも立派に通用するのである。というのは、それは極めて優れた「面作戦」の理論だからである。

N社の三点攻略作戦は、第一拠点を京都に築き、第二拠点を和歌山、第二拠点を姫路とする、というものであった。これらの拠点を順次に一つ一つ強化し、激戦地大阪を包囲するのである。そして、機を見て大阪地区に攻撃をかけるのである。

幸いなことに、この三点は大阪に本拠をおくどの業者もあまり力を入れていなかった。京都は名古屋から近いだけでなく、大阪攻略の拠点であり、山陰攻略の拠点としても絶好である。

その上、粟東地区の制覇ができれば北陸地区の強化の足場にもなるのである。和歌山は、蜜柑の大産地で購買力のある有田地方を控えている割には業者の関心が薄かった。

姫路は比較的平穏な地区で、作戦展開がやり易いように思われた。さらに将来、大阪の業者の強い岡山地域攻略のために、大阪地区との分断を計れるし、いざ作戦開始の時には、N社の広島の拠点からとの挟撃作戦が可能になるのである。

この三点作戦をたてるに当り、N社はどうしても大阪に早く進出したいと、大阪に近い神戸と堺の流通業者に当ってみたが、どちらも大阪のメーカーとの結びつきが固く、全くといっていいくらい相手にされなかったのである。

つまり、この3地区は、激戦地大阪地区に完全に含まれているのである。「激戦地は避けよ」の法則が適用されるのである。

以上のような戦略を立てては見たものの、兵力不足は如何ともし難く、止むを得ず前記のように、名古屋と京都だけに作戦地域を絞らなければならなかったのである。

名古屋地区の蛇口作戦は、六カ月ばかりの間に三割もの売上げ増をもたらし、ディーラーとの仲が一段と親密になり、毎月一回の定期会合が開かれるようになった。京都地区の蛇口作戦も着々と成果をあげて、ディーラーの態度が変ってきたのである。

N社は、身をもって蛇口作戦の効果を知らされたのである。しかし、これ以上の戦略の展開は、新戦力の補充がない限りできないのである。さきにセールスマンの増員によって蛇口作戦を展開すれば、大躍進が期待できるという逆の意味の実感がここにあるのだ。

全国戦略というものは、N社の例のように全般的な状況判断の上に立って、

  1. 我社の強い地域の占有率確保と上昇をまず第一とし、
  2. 新戦略展開の基本構想を樹立し、
  3. 現在の戦力で行なう作戦を決定し、
  4. 将来の市場戦略展開のための布石を行なう、

というように推進することこそ肝要であることを、よくよく認識していただきたいのである。

■ ローカル戦略

第一話

U社は、S県の農業資材の商社である。U社のS県における業界ランクは第五位で、第六位までが有力業者であり、それ以下は問題にするに足りなかった。

しかし、際立った業者はおらず、ドン栗の大きさが違う程度であった。別格として「経済連」があるのはいうまでもない。U社の位置は県の中央部やや北寄りである。

市場戦略を樹立するに当り、市場を経済地理的に細分化し、彼我の勢力分布と戦略(といえる程のものはないが)を分析してみたい。

○ 「A地域」はU社を中心とする半円形の地区で、U社は地元の強味を発揮して、訪問密度が高く六十%の占有率を誇り、もう一歩で独占的な占有率を上げられるドル箱地区である。A地区に隣接して隣県の単作野菜の大産地がある。U社は地の利により、かつては大きな占有率を誇っていたが、最近他社の切込みが激しく、徐々にではあるが占有率を食われているという苦戦地域であった。この地区を「r地域」と呼んでおく。

○ 「B地域」は、A地域の東南の地域で、ここは第六位のJ社の地元で、J社の占有率は四〇%、U社は永年の努力にもかかわらず、占有率はタッタニ%であった。

○ 「C地域」は、A地域の南に位置する小地域で、ここは業者の草刈場であった。それでもU社の占有率は二〇%程あった。

○ 「D地域」は、県南部の広大な地域であるが過疎地であった。U社はこの地域にサブ店を三社持っているだけで、占有率は一%にも満たなかった。

○ 「E地域」は、A地域の西に広がるかなり大きな地域である。穀倉地帯のため経済が七〇%以上の占有率を占めている独占的地域で、そのために、どの業者も半ばあきらめている地域である。U社を含めて三社が進出して

○ 「F地域」は県の北部で、この地域は果物の大産地である。そのために、県内の殆んどの業者が殺到し、大乱戦を展開していた。U社はこの地域には手を出していなかった。「阿果らしくて手を出す気になれない」というのが社長の気持であった。

彼我の戦力分析の次は、我社の分析である。市場戦略に最も必要なものは「売上高年計表」と「得意先別売上高ABC分析表」である。

社長を最も驚かせたものは、昨年の得意先別売上高ABC分析表に、セールスマンの訪問回数を記入してみた時である。

売上高の下位五%の得意先に対する訪問回数が半数以上だったのである。しかも、その大部分がたった二%の占有率しか得ていない「B地域」の得意先だった。

隣接地域で、距離的に近いにもかかわらず、第六位のJ社の地元で、大きな占有率を占められていたために、セールスマンには目の上のタンコブのように感じられたのであろう。

何とかして相手を崩そうと努力したが、相手は他地域へは殆んど出ずに、強固な防禦陣を敷いていたからである。(J社長はこの地域を守り、これで食えるために、そして食うためにそうしていたのである。)

セールスマンの自由意思に任せると、こういうことになるのだ。セールスマンは決して会社の事業のことは考えずに、自らの考えに基づいて行動するものなのだ。

U社長は、この数字を見て、こんなことさえ知らなかった自らの「任せる」という怠慢を、つくづく反省させられたと私に語った。

もしも、この地域の一切の訪問活動を中止したら、他地域に対しては一挙に三倍のセールスマンを増員したのと同様なことになるのだ。このことは新しい市場戦略の展開に、セールスマン不足を懸念していた社長を元気づけた。

さらに、他社の動向で、いくつかの生態が分ってきた。「だ地域」は、どの業者もシーズン中だけしか訪間を行なわず、冬場の半年はどの業者も「だ地域」を全く顧みなかったのである。U社とても同様であった。

「E地域」は、経済連の独占的地域ではあるが、独占につきものの顧客サービスの悪さによって顧客の不満がかなり大きいことが、調査の結果、分ってきたのである。

以上のような状況をもとにした、U社の市場戦略方針は次のようなものであった。

  1. 最重点地域は「A地域」とし、従来通り密度の高い訪間を行なって、さらに占有率を高める。
  2. 「だ地域」に対しては、不需要期の表敬訪間を月一回程度行ない、スキンシップを強化することによって、需要期を待たずに受注を確保する(訪間は売込みではなくて、顧客確保である)
  3. 「B地域」は「A地域」にごく近いところに拠点を一つだけ残して撤退する(こうしても売上げはごく僅かしか減らず、その反面、セールスマンの手間が大幅に浮いて、他地域への投入量が三倍近くなる)
  4. 「C地域」は重点地域とし、訪問倍増により占有率四〇%を目標とする(草刈場だけに、どの会社も占有率が上がったり下がったりで、下がった場合もあまり気にしないという盲点をついて、我社の主導的地位を確立するのが狙い)。
  5. 「D地域」は成行任せの地区とする。ただし、将来への布石として、現在二つの都市にある二次店だけに、セールスマンと営業部長が月一回、社長が年二回の訪問だけとする。
  6. 「E地域」は「重点戦略地域」とし、「B地域」から引上げた戦力の三分の二を投入して、経済連の弱点をつき、徹底的な訪間と労をいとわぬサービスを行なって占有率を大きく伸ばす。
  7. 「F地域」は放棄地域とする。

この戦略の狙いは、「A ・C ・Eの三地域を制覇することによって、県中央部を「Y字型」にU社の勢力圏とし、それ以外の地域を県北・県東・県南の三つに分割して敵の勢力分断を計る」ところにある。

この戦略は、実効セールスマンの人数が三倍になったところへ、 一人当りの訪問回数を二〜三割増加するように指導し、従来の三倍半以上の勢力を従来より狭い地域に集中することにより、大きな成果を期待することができるのである。

第二話

F社は、G県のほぼ中央部に位置するM市にあり、業務用品の問屋である。県内のランクは四位で、 一〜三位が県都のK市にある。第五位はF社と同じM市にある。

F社長の悲願は県内第一位の業者になるということで、至極もっともな願望である。

私は、例によって「経営計画」の作成を通じて目標を設定し、商品と得意先の交通整理を行なってから、市場戦略に入った。G県は、海に面する狭長な形をしており、地理的には二つに分れていた。

「A地域」は過疎地帯で、F社からはやや遠く、隣接のS県とN県からの業者が入り込み、県内業者と二つ巴の競争を演じていた。F社は数店の小売店と取引していたが、金額はあまり多くなかった。

「B地域」は、県中央部の最も幅広い地域で、F社のあるM市が経済の中心となっている。地域全体に小都市が適当な間隔をおいて分布しているという「面  .経済」の地域で、経済的にもかなり活発であった。M市は、今はまだ県都の半分以下の人口であるが、交通網の中心でもあり、将来は県都よりもむしろ経済的な発展が期待されている。

「C地域」は県都K市のある地域で、半分は「B地域」に隣接する「面経済」の地域で、K市を核とする「県経済」の中心をなしている。あとの半分は細長い農業地帯で、小さな町が二〜三あるだけの線の市場であった。

F社の市場戦略は右の状況をふまえて地域ごとに次のように定められた。

「A地域」は、地域の中心都市で県内三位の人口をもつA市と、交通の要となっているJ市にだけ数店の得意先を選定し、拠点作戦を実施する。訪問頻度は一週間一回程度とする。

「B地域」は、第一次重点戦略地域とし、三点攻略法により、 一つ一つの都市の占有率を高めてゆく。(地の利があり、これに徹底した巡回作戦を展開することにより、成果は期待してよかった。) 

「C地域」は、県都に三社の強敵がひしめいているだけに急がずにじっくりと攻略作戦を進める。

この地域の作戦のポイントは、県都の攻撃の時期が来るまでは県都に対しては一切営業活動は行なわず、情報収集だけとする。

攻めるのは、出城に当る周辺都市とし、それもなるべく県都から遠いところから、一つ一つ攻め落してゆく。こうして本城である県都を裸にするのである。

その作戦は、県都から二十キロ程離れた町に上得意があるので、これを拠点として更に強化し、本社と結ぶ線の市場を両方から攻める。次にこの線を延長して県都の背後に回る、というものである。こうして県都を包囲し、封じ込めるのである。

最後に県都へ攻め込むといっても、それまでには三年はかけなければならないであろう。それに、県都の三社は強敵である。これらの強敵を攻めるには、弱点をみつけてここを攻めることが最も効果的である。いろいろ調査した結果、弱点がみつかった。それは「配送していない」ことであった。これから推測されることは、「営業の姿勢が高い」ということである。

将来攻撃をかける時には、この弱点をついて、頻繁な訪間と迅速な配送を行なうのである。その配送を本社から行なうのでは、遠すぎて十分なサービスは行なえない。どうしても県都市付近に配送センターを作らなければならない。

たまたま、K市からやや離れたL町に問屋センター建設の計画があり、F社長はここに配送センターを作りたいという。私は、『事は隠密に運ばなければならないのだから、そこに入っていけない。たちまち敵に警戒される。配送センターは、K市に近くて便利なところならどこでもいいのだから、なるべく人目につかない場所がいい。できればK市攻撃の拠点となるD町の郊外にでもすれば、D町の得意先との緊密度も増す。倉庫を建てても、外壁に会社名を大書するなど厳禁だ』と。

この配送センターは単にK市攻略だけでなく、「C地域」全体の市場戦略に重要な役割を果たす物流拠点になるのである。

この市場戦略は、「B地域」で着々と成果をあげ始めた。これは県都三社にジワジワと圧力をかけることになり、これら三社は「B地域」で失った売上げを県外で補うという動きが出始めてきた。地元で失った売上げを県外で補うとは、どう見ても不利である。これがK市の三社の力を弱めて、F社のK市進出をそれだけ有利にするのである。                       .

いままで、市場戦略がなかった時には、上位との差をつめるどころか、むしろ離され気味だったのに、市場戦略を立てた瞬問から、上位をジリジリと追上げ始めたのである。

全国戦略が大局観に立った状況判断が大切なのに対して、ローカル戦略は細分化した一つ一つの地域について、その特性、業者の力関係と販促方針(というよりは、むしろ販売活動の実態)を把握することが大切である。そのためには注意深い観察が肝要なのである。

その観察から明らかにされた状況をふまえて、 一つ一つの地域の戦略方針を決定し、我社の戦力との兼合いで、作戦範囲と優先順位を決めるのである。

ローカル戦略は、現実の市場戦略の中で最も重要であり、またこの戦略は全国戦略を進める上での一つ一つの作戦単位なのである。この作戦の成否こそ、企業の命運を左右するものであることを知らなければならないのである。

■市街地戦略

S社は、東京都のD市にある家庭用掃除具のリース業である。同社の周辺は一面の市街地であり、商圏は長径は三十キロ短径で二十キロもあった。

広い地域にもかかわらず、普及率は極めて低く、商圏全体では○・〇五%にも及ばなかった。その広い地域に少数のセールスマンとサービス員による巡回で、効率は極めて悪かった。

社長は何とか売上げを伸ばしたいのだが、手不足であり、行詰りにも似たアセリを感じていたのである。いわゆる「商圏拡大主義」が、こうした「うすく広く」という状態を招いていたのである。

戦略展開に当り、会社を中心とした同心円を描き、その中での普及率を調べてみたところ、地元のD市で半径ニキロ圏が八%、ニキロ〜五キロ圏が二・五%、五キロ〜十キロが一%であった。

さらに、地元の半径ニキロ圏を町単位に細分化してみたところ、四十余りの町のうち、普及率一五%以上が「三つ」、最高は一八%もあり、 一〇%〜一五%が「八つ」あった。しかも、普及率の高いところは会社のごく近くだったのである。普及率一五%の可能性が実証されたのである。

この「データ」を見た社長は、自らの「商圏拡大主義」の誤りを悟り、「商圏充実主義」に転換したのである。何といっても、普及率一五%の可能性があることを知ったのが大きかった。十キロ圏に普及率一五%を実現すると、現在の総売上げの三倍を軽く突破してしまうのである。何を好んで遠くへ行く必要があろうか。

決定された戦略というのは、

  1. D市の半径ニキロ圏を最重点地区として、普及率目標二〇%、本年度の普及率目標を一五%とする。このための「全戸訪問」を繰返し実施する。
  2. 半径五キロ圏を第一重点地区として、本年度の普及率目標を五%とする。三年以内に普及率を一五%とする。
  3. 半径十キロ圏を第二重点地区とするが、本年度は従来と同様の方針とする。五キロ圏を充実した後に、本格的拡販を行なう。
  4. その他の地区は、当分の間現状の拠点確保だけにとどめる。

というものであった。

いささか特殊な事例ではあるが、これが大方の社長の考える「商圏拡大主義」の見本の典型で、その点、最も普遍的な事例といえるのである。「商圏拡大主義」を捨て、「商圏充実主義」をとることこそ正しい販売戦略である。この戦略に基づき明確に地区を限定し、その地区の市場占有率目標を設定するのである。

その占有率目標を達成するためには、彼我の勢力分布と戦略を調べ、敵に勝る兵力をこれに投入することによって、初めて敵に勝つことができるのである。社長が社内にこもり、何の販売戦略も市場戦略もなく、「激励主義」だけで販売をしようとしても、成果など上がるものではないのであるc

■価格戦略

N社は建築用品のメーカーで、業界の地位は中堅どころである。

一年程前からN社の最重要商品が業界の過当競争から値崩れをおこし、値を崩さないN社は、そのために一年間で約一〇%ほど売上げが落ちてしまった。

これは、単にこの商品の売上げ減にとどまらず、関連する他の商品の売上げ減を帰すことになりかねない情勢となってきた。さらに、最近は、主要特約店からさえも、「値下げをしなければ止むを得ないから他社に切換える」というような申入れさえ受けているのである。いままではケース・バイ・ケースで、まとまった引合に対しては値引をしてきたのだが、いよいよこのままでは持ちこたえられなくなってきたのである。「値下げは止むを得ないが、どの程度の値下げをしたらいいか」というのが社長の質問である。

同業他社の価格をN社と比較してみると、主要七社のうち、二社は一〇〜一五%安、三社は一五〜二〇%、残りの三社は何と二〇%以上も安いのである

このうち、三〇%以上安い三社は論外であって無視してよい。というのは、この二社の製造能力は分っており、両社を合せても、その能力は占有率一〇%程度である。従来も七%程度あるのだから、実際の市場影響力はたったの三%にしかすぎないからだ。この点を冷静に見極めないで、三割も安値でダンピングされたのでは、我社の売上げがゼロにならないにしても、大きな影響をうけるような錯覚に陥って、あわてふためくことになりやすいのである。そのような心配はないのである。ただ、これを流通業者に利用されて、値を叩かれるのである。これが厄介なのだ。

しかし、こんな安値で長続きする筈がないことを流通業者に説明して防戦するのである。昨今のように、資源インフレによって原材料は確実に上がり続け、人件費とて毎年上がり続けるなかで、こんなギリギリの安値を維持できたら不思議である。遠からず値上げしなければならなくなるのは目に見えている。このような超安値は、販売力のない会社がやる常とう手段であるから、あまり神経をとがらせる必要はないのである。

残りの五社の価格であるが、本当にそうなのか確証があるわけではない。流通業者から得た情報である限り、たとえ納品書を見せられたとしても、最も安いものを見せられたと思わなければならない。

このように考えてくると、本当のところは一〇%程度安いのではないか、という推察ができる。むろん、あくまでも推察にすぎないけれども、これを確かめる手段があるのだ。

そのために、私は代表的な品種について、〈第4表)のような付加価値一覧表を作ってもらった。

表頭の単位当りの部分は、現状をもとにして、値下げによって単位当りの付加価値がどう変るかを計算したものである。これを見ると、 一〇%値下げは付加価値で三〇%、二〇%の値下げは付加価値が半減してしまうことが分る。値下げの恐ろしさがここにあるのだ。つまり、値下げの全額が付加価値の減少になるからであるc

それぞれの単位当りの付加価値の場合に、月商数と月間付加価値額との関係を計算したものがこの表である。

今、仮に一〇%の値下げをしたとすると、現在は月商五百個なので、同数の売上げの場合は付加価値は月間九十万円から六十二万五千円に落ちてしまう。九十万円の付加価値を手に入れるには、月間七百二十個売らなければならない(売上数で四四%増になる)。

こんなに売れることはないにしても、 一〇%値下げでどれだけ売上数が伸びるだろうか。これが問題なのである。というのは、現在占有率が一〇%落ちている。

この商品を捨てない限り、どうしても占有率を回復するのが至上命令だからだ。

値下げによる売上数の増加は、他の条件が同じ場合には、ランチェスター理論では「価格の二乗に逆比例する」といわれているから、 一〇%値下げの場合  .となって、二〇%増加する。この場合には、他社よこヽまり高値というハンデがあるから、伸びは二〇%以下とみなければならない。(こうした判定ができるのがランチェスター理論の強味である。)

半分の一〇%増と見ると、占有率は回復できるけれども、収益は月間六十八万七千円になって、二十万円余り減少するのである。この場合に、占有率が回復できたから、市場戦略面からは一応の成功ということになる。しかし、それは収益減という犠牲を払ってである。

もしも、 一〇%の売上数の増加もないとすれば、まだ値下げ幅が少ないと判定して、再値下げに踏み切らなければならないであろう。

反対に、 一〇%以上伸びれば、市場戦略的には成功したのであるから、収益減という犠牲もムダではなかった、ということになる。そして、その収益減は別の面、つまり外部仕入の値下げなどでその一部でも補ってゆくことを考えるのである。

付加価値一覧表による検討は、このように明快な指標をわれわれに与えてくれるものである。活用をおすすめする次第である。

右のように、価格戦略というものは、常に「占有率を維持する」という最低限度の要求を満たすことが基本であることを忘れてはいけないのである。

ただし、これはあくまでも価格戦略の基本ではあるが、「総て」ではないことを忘れないでいただきたいのである。

それは、強者が明確な市場戦略のもとに低価格政策を打ちだし、弱者を叩いたり、後発を振切るという場合である。松下電器やトヨタがよくやる戦略である。これは効果的である。

それは、他社にひけを取らない商品力と、強力な販売力あっての話であり、誰でも真似のできることではないのである。弱い商品力、貧弱な販売網で、ただ単に価格だけ安くしてもダメである。流通業者にソッポを向かれたり、自らの収益を落すことになってしまうからである。

■陽動作戦

E社は、産業用機械部品のメーカーである。創立以来数々の困難や障害に打勝って、何とかこの道でやってゆける基礎ができかかっていた。人数も五十名程になり、技術と品質の優秀さでも、お得意先の信用がついてきたところであった。

そこへ、業界の最大手で、E社の十倍以上もあるR社が攻撃をかけてきたのである。それは、E社の主力商品を二〇%安で営業活動を開始したのである。

R社の方針は、台頭して来たE社を、今のうちに叩いて禍根を絶とうというのか、単なる売上げ増大のためかは分らないが、とにかくどこへ行ってもぶつかるし、あることないことE社の中傷をして歩いているというのである。

いくら大手とはいえ、新しい分野だけに実績がなく、単に安値だけでは簡単にE社の市場を食うことはできないが、E社にとって大脅威である。R社の二〇%安を回実にして値切られるし、応じなければR社にとられるかも知れないのだ。

R社がこのような作戦をとれるのは、R社の主力商品が某業界で文字通り独占であり、そのために価格はR社の思うままで、超高収益商品であり、この商品からの永年の収益で厚い蓄積を持っているからである。E社の主力商品を二年や三年赤字受注しても、何等の痛痒を感じないのである。

E社では、必死の防戦をする一方、この独占商品の市場に反撃に出た。それは、R社の三〇%以上も安値で見積りを行なうのである。これでも十分すぎるくらいの収益があるからだ。

ところが、R社はいつもその下をくぐって、E社につけ入るスキを与えないのである。いくら反撃しても返り討ちにあって、どうしてもその牙城を崩すことができないので、最近はこの商品に食込むことをあきらめるより外はない、というのである。これでは攻撃を受けっばなしで、ジリジリと押されてゆくのは日に見えている。どうしたらいいか、というのである。

これに対する回答は、守りを固め、技術開発、品質改良という、最も基本的な方策をとるのはいうまでもないこととして、このような大敵に対しては「陽動作戦」が効果的である。

それは、敵の独占商品に徹底した安値攻勢をかけることである。ユーザーは高い商品をみすみす買わされているというク怨みクがあるので、E社の商品を買う気はなくとも、E社の安値を持出してR社に値引をせまるにきまっている。

R社では、その下をくぐって受注すれば、ドル箱商品だけに、その痛手は大きいのだ。これを続けていけば、相手を大きく痛めつけることができる。ク負けたふりして勝つクのだ。これを「陽動作戦」という。本気で戦うのではなくて、相手を牽制し、相手をさそって落し穴におとし込むのである。それを、「どうしても、注文がとれないから、もうやらない」では話にも何もならない。愚将と智将の差は、その時々の状況に合わせて、優れた戦略をとれるかどうかである。

E社で新しい戦略に基づく「陽動作戦」をとる前に、どうしたことか敵の攻勢が弱まってきた。どうも、何か内部的なゴタゴタのようである。一応は助かったが、今度はこちらから本腰を入れて「陽動作戦」を展開することである。攻撃は最大の防禦だからである。

■価格戦争

第一話

Y社は菓子のメーカーである。私が昭和四十四年にお伺いした時には、月商七千万円程で、業界のランクはベスト・テンにも入っていなかった。

私のお手伝いによって、経営計画をたててからの躍進は目覚しかった。それまでは、本来持っていた力を発揮できなかったが、経営計画によってその力を発揮する方法を学んだのである。特にY社の場合には、長期経営計画が大きな役割を果たしたと思われるのである。

昭和五十年には、Y社は業界第二位にまでのし上がっていたのである。第一位と第二位の会社は、これを見て驚くと同時に恐れた。ついに、三社が結託してY社を叩きにかかった。

外見上はY社の主力商品と全く見分けのつかないような商品をつくり、これをY社の一〇〜一五%安値で売りに出したのである。しかし、外見は同じでも味は悪かった。というよりは、Y社の商品が美味すぎるといったほうが当っているかも知れない。

Y社にとってはまさに一大事である。私のセミナーに参加されたY社長は『大苦戦とはいえ、何とか売上げは落さずに頑張っている』と私に語った。私はY社長に『十年前の試練と同じものがまた来ましたね。あの時は会長(当時の社長)があくまでも姿勢を崩さずに頑張り通して、ついに勝ちましたね。

今度も社長が正しい姿勢を貫き通すことですね』と申しあげた。正しい姿勢とはク味を守るクという意味であるのは、私がそこまでいわなくともY社長には通じるのである。

十年前のことというのは、その時にS県のある業者が粗悪品をべら棒な安値で売り出したのである。そのためにY社の売上げは激減し、ついに赤字転落をしたのである。その時に会長つまり当時の社長は、歯を食いしばって品質を守り通したのである。 一年程でその安売りの会社はつぶれてしまった。まずいために売上げがたちまち落ちてしまったからである。そして、Y社の姿勢が改めて流通業者に見直されたのである。私がY社長にいったのはこのことなのである。

ところで、話をもとに戻そう。 一年程で、第一位の会社がこの競争から下りて、あっけなく「三社連合」は崩れ去ってしまったのである。まずいために売上げは伸びず、そのためにY社に打撃を与えることもできなければ、自社でも収益性が悪かったからであることは、きかなくとも分るのである。ク顧客無視″は、いついかなる時でも、決して成功することはないのである。

第二話

S社は、プラント用の連続自動検査機の専業メーカーで、従業員は五十人程である。同業は、第一部上場のT電機で、従業員一万人である。

T電機は、何とかしてS社を叩きつぶそうと、あの手、この手を使って攻めてくる。何というおとなげのない会社であろうか。 一万人の会社が、何で五十人の会社をつぶそうとするのだ。

どう攻めてもS社が参らないので、ついに価格でつぶそうとかかってきた。どの会社の引合いでも、必ず二社だけで競合するので、T電機はついに見積書に金額を書かずに「S社の一〇%安」とだけ書くというエゲツナサである。T電機は、常識も品位も全くない見下げ果てた会社で、私の大きらいな会社である。

しかし、それでもT電機はS社に勝てないのである。S社では、T電機に負けたらつぶれるのだ。そして、T電機に勝つ道は、性能と品質とメンテナンス・サービスである。S社長以下、死にもの狂いでこれと取組んでいるのである。

それに反して、悪品質では定評のあるT電機である。メンテナンス・サービスなど、まるでなっていないのである。そんなことでューザーの支持が得られる^でタすがない

最近S社が好調ときいて、我ことのように嬉しいのである。低価格で勝負するということは、たしかに強味ではあるが、戦略なき低価格は殆んどの場合にそれは一時的な強味でしかない、という例を多く見せつけられるのである。

それは正しい価格ではなく、「価格だけ安く」するために粗製濫造であったり、顧客サービスが忘れられたりするからである。

「顧客無視」は、いつ、いかなる場合にも絶対に成功しないことを肝に銘じなければならない。一度を越した低価格は、結局は自らの収益性を悪化させることも見落してはならないのである。

いつの世にも、社長の正しい姿勢のもとに、顧客の要求に合った商品を、適正なマージンをもって販売することである。

その販売は、正しい市場戦略を持つことによって、必ず成功するものである)。

やみくもな低価格は、社長の見識のなさと知恵のなさを天下に曝すものといえるのである。

私は、度を越した低価格政策を打ちだす会社を見るたびに、その社長があわれに見えて仕方がないのである。

社長は自ら市場戦略をたてよ

筆者がお伺いする会社で、経営計画をたてている会社は数少ない。それにも増して、曲りなりにも市場戦略を立て、占有率目標をきめている会社はなお少ないのである。

どうも、世の社長族は企業の存続を左右するような経営計画や市場戦略というようなものは立てようとせず、次元の低い日常の繰返し仕事に関心を向けるのがお好きなようである。

市場戦略などなくとも、今までやってきたし、今もやっているではないか、という反論もあろうが、高度成長時代は市場そのものが拡大してきたのでその中で自然に伸びられたのであり、今もやっておられるのは、いずこも同じ無戦略だからやっておられるだけなのである。

これからは、市場の伸びは小さく、いつ強敵が参入してくるか分ったものではないのだ。いずれにしろ、占有率争いは激化してゆくのは間違いないのである。

その占有率争いに勝ち残るためには、是非とも市場戦略をたてる必要があるのだ。「今までやってこられたから」ではなく「これからやってゆくために」市場戦略は絶対になくてはならないものである。

現在、どの業界でも市場戦略を持った会社など例外中の例外であり、どの会社も自らの住みつく市場を知らず、敵を知らず、競争意識だけで闇くもに叩き合っている。お互に、何がどうなっているのか分らない「闇仕合」を無我夢中でやっているにしかすぎないのである。

そのような業界に、明確な市場戦略を持った会社が現れたらどういうことになるだろうか。もともと大業者ならばたちまちのうちに敵を叩いて業界に覇をとなえてしまうし、後発の弱小企業といえども急速な追上げで、先発業者を「ごぼう抜き」することは可能なのである。

社長たるもの、自らの得意先を訪問することによって得た情報に、社員の活動を通じて得られた情報を加えてよく事態を検討し、自らのビジョンを実現するための「市場戦略」を自らの意思と責任で決定し、会社員を戦闘配置につけ、自らこれを指揮すべきである。

そこには、社員の自由意思による行動は、社長の市場戦略の方針の中でだけしかないことを忘れてはいけないのである。

この方針から外れた行動や、社員の自由意思による行動は、市場戦略の遂行の大きな障害になることを、社員によくよく説明して納得させるべきである。

川中島の戦において、信玄の指令に従わずに、血気にはやって勝手な行動をとった勝頼は、武田軍を大苦戦に追いやり、伊那衆の捨身の奮戦と大きな犠牲によって、やっと陣形を立直したのである。

孔明の指令に従わず、自らの豪勇をたのんだ馬謬は、仲達軍の猛撃にあって敗れ、孔明の中原作戦を狂わせたのである。孔明が「泣いて馬談を切る」という事態になってしまったのである。

戦争においても、隠密行動あり陽動作戦あり、機にのぞみ、変に応じて用兵の妙を発揮してこそ戦いに勝てるのである。

これらのことは、すべて大将の「采配」によって行なわれるのである。采配ということが、殆んどの会社では、よく理解できずにいるのは、企業戦争という認識が薄いせいであるのはまぎれもない事実である。

戦いというものは、大将の唯一の意思によって行なわれるものであり、武将の自由意思によるものではないのである。もしも、それぞれの武将の自由意思に任せたら、たちまち支離滅裂となり、敗戦のうき目を見なければならないのである。

「付 記」

ランチェスター戦略の優れた参考書として、左記のものを推奨いたします。(一倉)

○ランチェスター販売戦略(全五巻) 田岡 信夫著 ビジネス社刊

○ランチェスターの逆転販売戦略(全二巻) 田岡 信夫著 マーケッティング研究協会刊

まとめ

◎ 市場戦略とは、市場占有率を確保するための戦略である。

◎ 市場戦略は、市場を細分化し、その一つ一つについての占有率を確保してゆくことが正しい。初めから広域について戦略を展開しても、成功は期待できないのである。

◎ 細分化した市場については、「ランチェスター理論」の教えるところに従い、敵に勝る戦力を集中的に投入することが、その市場で勝利をおさめる道である。

◎ 「蛇口作戦」こそ地域戦に勝利をおさめる最良の作戦である。「訪間は売込みではなくて顧客確保である」ことを肝に銘じ、うまず、たゆまず定期的に巡回することこそ、絶対的条件である。

◎ 市場戦争においては、敵が如何なる戦法で攻めてきても、あわてず、さわがず、敵の作戦の実態を調べ、弱点を見きわめて、その弱点をつくことである。

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