財務分析だけでは不十分
会社というところは、さまざまな人びとがさまざまな活動を行なっており、しかも絶えずどこかが変っている。そのために、その実態を把えることは意外に難しいのである。
その実証は、私のお伺いする多くの会社の社長で、我社の実態を正しく把えるどころか、曲りなりにも把えている社長は決して多くはないのである。これは、実態を把える努力を怠っているのではない。反対に、我社を知ろうと必死になっているのである。
それにもかかわらず、それができないというのは、「何を、どう把えていいのか分らない」というのが本当のところなのである。
社長のところに提出される資料は、会社全体のことを報告しているようで、その実は、会社の一面しか報告していないものが殆どなのである。かろうじて全社的なことを報告してくれる資料が、損益計算書とバランスシートである。そして、それを分析した「財務分析」と称するものである。
財務分析は、いうまでもなく企業の健全性を測定したものである。しかし、その健全性は「結果としての健全性」であり、表面からながめたものにしか過ぎないのである。
そのために、これから前向きに事業経営の効率化の示唆を得ることはできても、それは示唆にとどまり、具体的に何をどうしたらいいかという情報を得ることは極めて難しいのである。
そもそも、財務分析なるものは、企業内の人びとのために生れたものではなくて、企業外の人びと――銀行や投資家― が、融資の可否や投資の有利性を判定するために生れたものなのである。だから、企業の「優劣判定」さえできれば、その目的は達せられるのである。
しかし、われわれはそれだけでは済まされない。己を知り、百戦危うからぎるためには、さまざまな角度から分析し、結果としてでなく、そのよって来るところを知らなければならず、また、刻々の動きを把えなければならないのだ。
そのような分析結果を総合的に判定し、具体的な「進むべき方向」や「打つべき手」を発見しなければならないのである。そのような要請に応えるために、私は企業分析を「二つ」の面から行なうことにむろん、完璧とはいい難いが、正しい方向づけのために必要な最小限は満たしていると自負している。
その第一は、従来行なわれている「財務分析」――バランスシートと損益計算書と、これに関連する分析である。これによって、まず企業の全体の健全性を測定、「´そ
第二には、「市場活動」に関する分析である。財務分析が「外部」から見たものであり、安全性が「断面」であるのに対して、市場活動は活動の中身と同時に、その動きを知るための分析である。
第二には、「危険度分析」である。会社が将来ぶつかるであろう、いろいろな変化や危険に対して、どれだけの危険度をもち、対応力をもっているか、ということである。
以上、三つの面からの分析は、その一つ一つの検討から「何をしなければならないか」を知るだけでは足りない。それらの情報を総合して「我社の事業をどう創ってゆくか」という前向きの計画、つまり「経営計画」を作って、はじめて本当の意味でのク価値クがあるのだ。
私の十五年以上にもなるコンサルタントの経験から、我社の実態を正しく、しかも総合的に把える方法は「経営計画」以外には見当らないといえるのである。同時に、経営計画こそ、我社の進路を示す羅針盤ともいえるものである。
そして、社長自身の動機づけのみならず、社員の動機づけを行ない、全社一丸となって進むことを可能にする、最も優れた道具であることも間違いないのである。
会社の数字は絶対額とともに傾向で見るのが本当
会社の数字というのは、絶対額で見ることはいうまでもないが、それだけでは不十分なだけでなく、時には判定の誤りをおかすことになるから、心しなければなら例をあげて説明しよう。
いま、A社とB社の経常利益率の傾向を見ると、過去四期で、上のグラフのようになっていたと仮定しよう。
A社とB社と、どちらが優秀会社であろうか。d期だけの絶対値を見ると、A社のほうが高い。しかし、過去四期の傾向を見ると、A社は一七← 一五← 一二←一〇と下向傾向であり、B社は一←二←四←七と上昇傾向である。明らかにA社はク売リクであり、B社はク買いクである。ところが、会社の優劣判定に絶対額だけを見れば、A社が優れているという判定を下してしまう危険があるのだ。
傾向評価ならば、こうした誤りをおかす心配はない。しかし、正しい評価だけしていればそれでいいのは部外者のことであって、我社のことだったらそれだけでは済まない。
社長としての正しい読み方は、A社は経営方針が誤っていることを意味しているのだから「経営方針の転換」ということであり、B社は経営方針が当を得ているから着実に業績が上昇している。ゆえに「経営方針の持続」ということである。
絶対額は大切である。しかし、傾向というのは、別の意味では絶対額よりも大切である、ということを忘れてはならないのである。だから、会社の中のすべての数字は、必ず「傾向で見る」という態度をとり、事態を正しく把え、正しい判定と、それにもとづく正しい決定をしなければならないのである。
信用調査機関などでは、単年度の絶対値をみて優劣評価をしている場合が多いから、この点をよく気をつけて見なければならない。他人のつけた評価に頼らず、自らの評価の労を惜しまないことが大切である。
バランスシート
バランスシートは、期末における企業の資産と、その資産を生んだ源資― ‐負債(他人資本)と資本(自己資本)の内容を明らかにしたものである。いま仮に、ある人が一千万円の土地を持っていたとすると、これは一千万円の資産である。そしてその資産一千万円は、自分の貯金五百万円と、借金五百万円で手に入れたとすると、 B/S ① のようになるのである。
このバランスシートは、ある時点(外部報告は決算時であるが、自社の必要によっては、どの時点をとらえてもよい)における会社の財務状態― つまり断面――を表わしているのである。つまり、どんな資産がどれだけあるのか、その資産は、どんな種類の借金と、どんな種類の「もとで」によって手に入れたものか、を明らかにしているものである。
そして、バランスシートの名の通り、「資産」が左側で「負債および資本」が右側になっていて、左右は必ずバランスするのである。
このバランスシートが、事業経営によって時々刻々に変る資産、負債、資本などの状態を、どのように表わしてゆくかを、簡単なモデルで説明してみよう。ある人が、五百万円の貯金を資本金として事業を始めた時点でのバランスシートはB/S②のように記録されるc
次に、借金を五百万円して、預金と合わせて一千万円で商品を仕入れた時にはB/SOのようになる。
この商品を一千百万円で現金売りし、そのための費用が五十万円かかったとすると、利益は五十万円となる。この時のバランスシートはB/Sにのようになるのである。
もしも、全額現金で受取らず、五百万円だけ現金を受取り、六百万円は「貸し」になったとしよう。そして、使った費用の五十万円を、まだ払っていない時にはB/SOとなるのである。こういう状態を「勘定合って銭足らず」というのである。
つまり、 一千万円の商品を百万円儲けて売り、経費が五十万円かかったから、差引き五十万円の儲けである。しかし手許にある金は五百万円しかない。そのために、商品の再仕入れのための現金がないからである。この状態でも商売はしなければならない。もしも再び一千万円の商品を仕入れようとすれば、不足する五百万円は、更に借金するか、支払手形で払うか、支払いを待ってもらうかしなければならないからである。
「勘定合って銭足らず」の状態は、取引によって発生する不足のほかに、固定資産投資によっても生ずるのである。仮に、この例の人が営業所を五百万円で建て、これを現金で払ったとすると、さらに五百万円の資金が足りなくなる。
このような資金不足を起している時に、もしも支払手形の決済期日が来て、その決済資金の調達ができなければ不渡手形を出して会社はつぶれてしまうのである。これをク黒字倒産クというのである。
だから社長は、事業経営においては、利益を出していればいいのではなくて、資金の使い方に気をくばり、収支のタイミングを合わせてゆかなければならないのである。
「利益がでている」ということと、「資金収支心しなけれのバランスがとれている」ということとは全く別のことであることを、ばならないのである。右のような、こんな分りきった事が、実は意外なほど分らない社長が多いのであるc
この、資金のタイミングを合わせるのは、資金繰計画では不可能とはいわないが、非常に難しいのである。というのは、資金繰計画というものは、支出の決定したもの、あるいは支出予定にあるもの、予測される支出を計上して収支を合わせる計画であって、その決定、あるいは予定それ自体の適否を判定するものではないからである。
そして、その適否の事前判定こそ大切なのである。事前にこれの適否の検討がでておらず、危険な決定をしてしまったなら、この尻ぬぐいを資金繰りで行なうのは非常に難しいのである。
この事前決定を行なうものが「資金運用計画」である。(これについては、「経営計画・資金運用篇」三四〇ページを参照していただきたい)
資金運用計画において、事前に十分な検討を行なった上で決定してこそ、資金は安泰なのである。資金運用計画は、期首のバランスシートに期中増減として計算され、期末目標バランスシートができ上がる。
この、期首と期末のバランスシートについて財務分析を行ない、その傾向をチェックするのである。
一般に行なわれている決算書の分析は、その会社の優劣判定と、過去の資金運用の分析しかできないのである。
これは、他社だからいたし方のないことなのであって、自らの会社について「過去五年間の実績」なんてのをやってみても、そんなものは抽象的な教訓を得られるだけで、たいした意味はないのだ。というのは、過去の数字は一円たりとも変えることは不可能だからである。変えられない数字をいかに研究してみても、それは後の祭である。
社長がやらなければならないのは、前向きの数字を考え、それを繰返し検討し、練り直して決定をすることなのである。前向きの検討だからこそ、悪い点や考え方の誤りがあれば修正できるのである。
いったん決定したならば、これを経営計画書に組込んでおき、毎月の試算表から期中の数字(これを残高という)を短冊に書きこんで貼付し、期首。期中・期末目標と二つの数字を並べて検討するのである。(詳細は「経営計画・資金運用篇」を参照されたし)
こうすれば、異常が直ちに発見でき、対策がとれるのである。バランスシートというものは、このように目標を決め毎月チェックを行なうことにより、社長の意思によって作りあげるものなのである。
目標バランスシートによる、毎月の期中チェックを二〜二年続けると、資金に関する目がハッキリと開けてくる。こうなったら占めたものである。「これさえ見ていれば、資金繰りであわてることはない」「資金繰表というのは、単なるやりくり表にしかすぎないことが分った」「資金繰表など見なくとも、資金のことはよく分る」というような感想が社長の日からもれるようになるのである。
繰返すが、資金繰表というのは、経理部門の日常の資金収支を行なうための業務資料としては必要であっても、会社の必要資金を総合的に計画し、コントロールするものではないのである。
バランスシートというものは、単に資産・負債・資本という勘定科目の組立てだけではなく、資金の運用に関する総合計画とそのコントロール、という機能を持っているものなのである。
バランスシートの分析
バランスシートの役割は分った。ところでその役割を果すためには、バランスシートの読み方とチェックのポイント、対策をとるための留意点などはどのようなものか、ということになる。
それには、まずバランスシートの分析である。某社にお伺いした時に、経理部長が『一倉さん、我社の前期の実績について、百八項目の分析をしました』という。
私は『では、それからどんなことが分りましたか』と聞いてみると、あそこが悪い、ここが悪い、というだけである。『では、社長への進言として、具体的にどんなことがありますか』というと『悪いところを指摘したら、あとは社長がそれを直せばいい』とはいわなかったところが正直であった。『それがよく分らなくて困ちています』という返答だったのである。
一般に行なわれている財務分析というものは、このような「いいか悪いか」に終ってしまうのである。これでは、いくらたくさんの比率を分析してみても、あまり意味はない
それよりも、最小限度の分析で事態を正しく把えることである。そして、そこから「どうすべきか」を見つけだすことである。その最も簡単な方法が「傾向評価」なのである。
私の行なう財務比率と傾向評価のための財務分析表が〈第48表〉である。
むろん、これだけの分析で完璧だというわけではないが、私はこれで不便を感じとはいえ、業種による特殊事情があることは事実であるから、自らの必要に応じて必要な分析を行なうことは大切である。
私がいいたいのは、見境もなくたくさんの分析をしてみても、それを読みこなせなければ意味がない、ということなのである。
分析の狙いは、経営効率、資金繰り、運転資金、蓄積の四つである。その、それぞれの分析項目と計算式、意味については〈第48表〉に書いてある通りである。
項目と計算式について、蛇足ながら若千の説明を加えると、まず経営効率についての二つの分析項目の関係である。それは、
誘い>・言引」財¨冊=九請耐酬午=
=訃卜酬諄引こ財樹×おい丼回棚靭
という関係である。つまり、総資本純利益率は、売上高純利益率と、総資本回転率を掛合わせたものである、ということである。
受取手形というのは、手持手形と割引手形と廻し手形の合計である。決済期日の来ないものは、たとえ外部に出たものであっても、その本質は受取手形なのである。
分析項目の意味のところを読んでいただけば、悪化してゆく場合には、どうしたらいいか、ということがお分りいただけると思うが、そのヒントを簡単にのべてみよう。比率というのは、分母と分子の割算であるから、
一、固定比率と長期適合率を除き、すべての比率は分子を大きくするか、分母を小さくすることによって好転する
二、固定比率と長期適合率は、分子を小さくするか、分母を大きくすることによって好転するということになるのである。
比率が悪化しているかどうかを見るのが「意味」の右にある、第××期、第××期というところである。 一般には、連続する二期(場合によっては三期)についての比率をここに記入し、その傾向を判定のところに矢印で上昇(′)、横ばい(↓)、下降(ヽ)と記入すればよい。
判定法は、固定比率と長期適合率は数値が小さくなっていれば上昇、他はすべて数値が大きくなっていれば上昇である。
比率を好転させるための対策は、利益には関係なく資金面だけでできるものと、利益をあげなければできないものがある。分析項目に「利益率」の字があるものは、利益をあげなければ、まずは九九%までは上がらない。
それ以外の項目は、利益とは関係なしに好転させることはできる。とはいえ、それは純粋に資金だけで解決するという意味ではなく、資金調達それ自体に利益をあげなければ難しいもの(例えば「借入金」などはその代表的なもの)がある。
もう一つ、固定比率や長期適合率は、低いほうがいいことは、基本的には間違いないが、低すぎると設備の劣化を招いて競争力を落すことがある。「長期適合率は五〇以下には落さない」という方針を出している会社を私は知っている。こうした基準こそ大切なのである。
また、販売に直接関連のあるものは、高すぎても低すぎても危険であることを「生産性」のところでのべたが、財務比率でもその通りで、棚卸資産回転率などは「高すぎる危険」があるのだ。だから、基準を決めてその中に納めるように、資金運用計画をたてるべきである。それぞれの分析値は「中小企業経営指標」などと比較検バランスシートをよくするにはどうしたらいいかは、追々ふれてゆくとして、得意先や仕入先の安全度の判定法はどうか、ということをのべてみよう。断わっておくが、こういう判定はいろいろな情報を総合して行なうもので、たんにバランスシートだけではないのだ。しかし、ここではバランスシートだけに限定することとする。
危険度の判定は、意外なほど簡単である。私は「流動比率が一三〇以上」あれば、まずは心配ない、という判定を下す。ただし、後にのべるク伏魔殿″に異状がない、という条件つきである。流動比率が一〇〇以下の場合には「要注意」である。
一〇
○から一三〇の場合には、後述するク危険度クチェックで合格点、又は合格点に近ければ、「安全度はかなりある」と思わなければならない。あまり安全度ばかり考えると、取引きする得意先がなくなってしまうから「与信限度額」を設定して取引きをすべきである。(「与信限度」については、「経営計画・資金運用篇」三八三ページを参照されたい)
読者の中には、「いくら何でも流動比率だけでは乱暴だ」と思われる方もおられると思う。そう思われるのも、もっともである。
そのような方におすすめしたいことは、いろいろな会社について、流動比率一〓一0以上と以下に分けて、それ以外の財務比率を分析して、比較してみていただきたい。そうすれば、流動比率のよい会社は、他の比率もよいことに気付かれるはずである。
とはいえ、流動比率の分析だけでなく、他の比率も分析して検討することは大切なことである。私が「流動比率だけ」といったのは、その「ポイント」を指している、ということなのである。
損益計算書の分析
損益計算書は、すでに本篇に数多く登場しているので、ここでは補足する程度にとめておくこととする。〈第49表〉が分析のためのフォームである。面倒がらずに、損益計算書をこのように書き替えて分析したほうがよい。 一倉式経営計画書をもっている会社では、これをそのまま分析すればよい。
これは、流通業者もメーカーも同一のフォームでよいことは、すでに述べている通りである。
分析法は、各期の数字の右の行に、売上高を一〇〇%とした比率を記入する。(ただし、内部費用の各項目の比率は必ずしも記入しなくともよい。理由は後述する)これが、まず第一の分析である。
次に、経常利益の下の、損益分岐点、 一人当りの売上高や粗利益、経常利益、労働分配率等を記入する。これが第二の分析である。各期を比較する場合や長期計画では、年度別に順次右に並べてゆけばよい。
損益計算書で一番重要なのは、いうまでもなく経常利益とその率である。その率は、製造業では一〇%以上、流通業では三%以上ならば優秀である。
次は、その利益のよって来るところを検討するのである。目のつけどころは、付加価値率が第一であり、次は労働分配率、二番目は金利であろう。
右のような点を、他社の比率や、業界の指標などを物差しとして検討するのである。
以上が、他社の数字に対する分析である。しかし、我社の分析はそれだけではいけない。内容をもっと掘り下げなければならないのである。
というのは、付加価値率が低下していても、それが必ずしも業績悪化を意味しない。付加価値率が低下しても、経常利益率が上昇していればよいのである。そして、こういうことは外注比率を高めることによって起ることは、すでにのべた通りである。
その経常利益率とて、低下することが必ずしも業績低下ではないのである。未来投資があれば、その分の経常利益は低下するからである。
だから事態を正しく把えるためには、右にのべたような要因を分離して検討しなければならないのである。分離検討には、〈第50表〉のようにすればよいのである。
点線枠の中が、経費を現在の事業の費用と、未来費用とに分離したものであり、付加価値の内訳を分析したものが、太枠の右に突き出た部分である。
経費のうち、未来費用がいくらであり、これを除いた場合の経常利益(経常利益に未来費用を足したもの、つまり現事業営業利益)はいくらかを見て、現事業の効率を知り、未来費用を見て、将来への備えは大丈夫か、を考えるのである。
付加価値の内訳では、それが内作と外作であったり、商品群別であったり、部門別であったりするだろうが、それぞれの付加価値率が狙いに近いかどうかを検討するのである。
損益計算書では、売上高を一〇〇%とした、それぞれの科目の比率を出すのが一般的であるが、売上高に対する比率は、付加価値率と経常利益率以外は、あまり意味がないばかりか、時に判定の誤りをおかす場合がある。
というのは、付加価値率が低ければ、売上高に対する人件費率や経費率は小さくなり、付加価値率が大きければ、売上高に対する人件費や経費の率は大きくなる。だから、売上高に対する人件費率が大きいとか小さいとかいうことは、意味がないのだ。
また、売上高が変動しても、人件費や経費は固定費だから絶対額は変らない。だから売上げが上がれば率は下がり、売上高が下がれば率は上がる。絶対額は変らないのに、率は変るというのは、変らないものが変ったように見えるからである。
人件費や経費は、収益をあげるために投入されるものだから、収益に対する率
1 つまり生産性の測定― ‐を見るのが正しいのである。つまり、付加価値を一〇 .
○とした比率、という見方をするのである。
その見方― ‐判定法は、次表の高収益型と低収益型の付加価値に対する比率のモデルで説明しよう。
高収益型の特徴は、まず第一に人件費率が低い。収益が大きいのだから、人件費率が低いのは当然である。つまり、労働分配率が低いのである。それにもかかわらず、経費率は人件費より五〇%も多い。この経費高は、その内訳を見ると、必ずといっていいくらい、管理的費用は人件費の半分くらいで、人件費と殆ど同額の費用を販売費と未来費に投入しているのである。そして、これが高収益を生む要因なのである。積極的に収益を生むために投入されている費用だからである。
高収益なるが故に、金利の比率は低く、経常利益率は高いのである。
低収益型の特徴は、人件費率が高い。これは、付加価値が少ないために相対的に高くなっているのである。その反面に経費率が低いのである。積極的に収益を生むために費用を投入せずに、経費節約という考え方で、経費の絶対額を小さくすることに汲々としている姿である。つまり、現在を重視して、将来を軽視しているのである。それにもかかわらず、金利の率は高く経常利益の率は低いのである。
右のような特徴を知っていると、他社の分析に際して、その会社の性格判定ができるようになるのである。
付加価値に対する比率分析は、製造業と流通業のどちらに対しても、同じ比率値が適用できるのである。モデルとしての〈第51表)を見ていただきたい。
製造業のA社も、流通業のB社も、付加価値(粗利益)以下は殆ど同じである。
しかし、両社の業績は同じであるにもかかわらず、収益率が製造業と流通業では違う。A社の付加価値率は五〇%、B社は一二%――この数字は、どちらも優秀会社として一般的なものといえよう。そのために、売上高は二十億円と八十二億円という大きな開きができ、経常利益率も一〇%と二・四%と大きく開いている――しかし、中身は同じなのである。
右のように、付加価値(粗利益)を基準にして判定をすれば、売上高や経常利益率の違いに惑わされることはないのである。
損益計算書においては、対前年伸び率という物差しは、売上高以外の数字については、管理的には意味がある。しかし、売上高については、対前年比伸び率という考え方は、してはならないものである。というのは、対前年比伸び率がどうであろうと、占有率を落してしまったのでは何にもならない。売上高の物差しは、あくまでも占有率であり、これ以外にはないことを知っていなければならないのである。ところで、損益計算書の分析はいつの時点で行なうかというと、他社のものは決算書の数字で行なうしか方法がない。
しかし、やろうと思えばいつでもできる我社についてはどうすべきであろうか。
決算書について行なうのは当然のことながら、最も大切なのは利益計画の段階で行なうことである。「利益計画を分析してみると、こういう比率になる」という前向きの分析こそ本当なのである。
我社の実態を前向きに把え、絶えず業績向上の努力を続ける。その結果を、月々の実績として目標と比較しながら確かめてゆくのである。
だから利益計画をもっている社長は、期中でいち早くその期の損益を予想して対策を考えることができるのである。それは、実績だけを見ている社長の損益予想とはかなり違うのである。利益計画があれば、期末までの月々の数字が出ているから、これにもとづいて「では、どうすればいいか」を考えられるが、実績だけでは不安のほうが先に立ち、具体的な対策は立てにくいのである。
このことは、経営計画書を持った社長から「期中でも、かなり的確にその期の利益が予測できるようになって、利益計画の有難味を本当に感じます」「期中でその期の利益を予測できるとは思ってもみなかった」というような感想を、私はしばしば聞かされるのである。
金利分析
金利負担は事業経営に大きな影響がある。
A社にお伺いした時に、A社長に公定歩合を知っているかどうかを確かめたところ、知らないという。そこで「単名」(短期借入金のこと)の利率を確かめ、高すぎると思ったので、同行した二名の優秀会社の社長に、A社の身分相応の利率を聞き(これはその二名の社長の会社よりはかなり高かった)それにもとづいてA社の金利を計算してみたら、何と年間二千万円も実績より少なかった。これは売上高の
○ ・七%に相当した。そして、A社は損益分岐点付近をアップアップしていたのである。
A社長は、二人の社長から叱られていた。ここにも優秀社長と怠慢社長の差があるのだ。A社長のみならず、ボンクラ社長は金利に関心が薄く、優秀社長は金利の監視を怠らないのである。
金利の分析には二つある。 一つは「借入金利率」であり、もう一つは「実質金利」である。借入金は、まず短期借入金についての金利を考えてみよう。
これは、日銀の公定歩合(日銀の再割引金利― ‐銀行が、取引先の会社の手形を割引き、これを日銀に持ちこんで割る。これを再割引きという)を物差しとするのである。
利子率の単位は「ポイント」といい、 一ポイントは〇・二五%である。銀行と話をする時には、このポイントという専門語を使うべきである。専門語を使うと、銀行では「この人は勉強している」と感ずるからである。勉強をしている人は、していない人よりも有利な交渉ができるのである。
公定歩合の変更は、新聞で大きな記事として取扱われるから心配はない。
プライムレート(優良企業に対する最優遇金利― ‐優秀な大企業に対する金利と
思えばよい)は、公定歩合プラス一ポイントである。中小企業の場合でも、優秀な会社は都市銀行から公定歩合プラス二ポイントで借りている例はかなりある。金利は一般的には都市銀行が最も安く、地方銀行、相互銀行、信用金庫、信用組合と、だんだん高くなるのが普通である。小規模な金融機関ほど、小口の預金、小日の貸付金となり、コスト高となるためである。
銀行では、融資先の信用度合によって貸出金利に差をつけている。それを表にしてみよう。むろん、中小企業についてである。
あなたの会社は右表のランクのどこに当るだろうか。金利に関心の薄い会社や、社長が定期的に銀行に出向いて会社の状況を説明していない会社は、実際の信用状況よりも割高になっている。経理担当者まかせにしていると、融資を頼むという立場から、どうしても割高になるからである。会社の実力相応の利子率で借りることこそ、社長の役割の一つである。
優れた社長は、我社の借入金について、自ら銀行と折衝し、短期は公定歩合プラス何ポイント、長期は公定歩合プラス何ポイント、ということを取決めている。こうすれば、金利については、経理担当者はタッチしなくてもよくなる。こういうことが社長の仕事なのである。
会社の業績が安定していればそれもできようが、業績が低下した時にはそんなことはできないではないか、と思われるかも知れないが、S社長は『業績など、その時々の状況によってよい時も悪い時もある。よい時も悪い時も変らず面倒をみてくれてこそメーンバンクではないか』と銀行に言いきっている。メーンバンクを持っている強味であるだけでなく、自らの事業経営にそれだけの自信を持っているからでもある。こうなりたいものである。
もう一つの金利は「実質金利」である。これは「経営計画・資金運用篇」にのべている。重複ではあるが、ここで再びふれることとする。
実質金利というのは、「正味の借金に対する正味の金利」である。銀行からは借金をしている反面に固定預金がある。この場合に正味の借金は借入金から固定預金を差引いたものである。借入金には利子を払うかわりに、固定預金からは利子を受取る。普通の場合、固定預金の利率は借入金の利率より低い。借入金と固定預金、支払利子と受取利子、という相互関係で、本当のところ銀行からいくらの利率で借金をしているのか、である。これが実質金利である。
実質金利の計算式は、
辮い榊獅はい・引」¨=島一¨一ぶ一か計¨い・一¨¨中¨「一叶・疇一)‐‐¨〈¨い一岬一い一呼¨い一‐,
である。算式の意味は次の通りである。
正味の借入金とは、借入金と割引手形から固定預金を差引いたものであり、それぞれに利子を払ったり受取ったりしているから、その差が正味の金利である。
この算式に入れる数字は、分母については試算表の残高であり、分子は分母の金額に対する年利額である。年利額とするのは、金利は年利で計算するからである。
だから、この式の意味は、試算表の時点という断面で「いくらの実質金利を払う資金構造になっているか」ということであり、「過去の実質金利はいくらであったか」ということではないのである。
過去の実質金利など、いくらであろうとそんなことはどうでもよい。過去の数字を替えることは不可能だからだ。現在(現在は過去の集積)「いくらの実質金利を払わなければならない資金構造になっているか」こそ、社長の関心事でなければならない。このままの資金構造で、いくらの利率で利息を払わなければならないかを知り「これを軽くするにはどうしたらいいか」と考えることこそ意味があるのだ。これを軽くするためには、実質金利とはどういうものかを知らなければならない。
実質金利は、単に利率だけでなく、預貸率が関係しているのである。固定預金より貸付金のほうが利子率が高いからである。預貸率の計算式は、である。この逆数をとってもよい。
預貸率とは、銀行側からのものであり、貸付金は企業側から見れば借入金である。
しかし、ク預借率クという言葉はない。企業人の会計音痴というわけではないが、会計用語はこのように″企業外″に合わせているのだ。
預貸率が高いと、低い金利の割合が多くなるので、実質金利は高くなる。だから、企業では常に実質金利を監視していなければならない。これは、銀行別にやるのである。〈第52表〉が、実質金利計算表である。
この表は、誰か作表の責任者を決めておいて、毎月提出させる。実質金利が借入金の平均利率より一%以上高くなっていたら、 一%まで引下げる手を打つべきである。その手とは、
一、借入金の利率を下げてもらう
二、借入金を増大する
三、固定預金の増大を抑える
というようなことを、その時の状況と必要性に応じて行なうのである。
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