5Sと聞いてアナタは何を想像されますでしょうか。片づけること?キレイにすること?いえ、全然違います。
5Sは「整理・整頓・清掃・清潔・躾」の頭文字「S」5つをあらわした言葉で、あらゆるビジネスの基本です。
しかし、この基本を理解されていないために、日本企業の多くで生産性の低下が起きてしまっているのです。
考えてみてください。
アナタは、仕事中にムダな時間を過ごしてはいませんか?仕事中に非効率なやり方をしてはいないですか?仕事をスムーズにする仕組みを作れていますか?そもそもアナタは、日々ベストな状態で仕事に臨んでいますか?5Sをしっかり理解して身に付けることで、ムダな時間を過ごすことも、非効率な仕事をすることもなくなります。
日々の仕事に前向きに取り組めるようになり、自身の成果にも繋がり、会社の業績にも繋がっていくのです。
では、具体的に5Sをしっかり理解するためにはどうすれば良いのでしょうか?まずは、成果に基づいた「真の5S」を知る必要があるでしょう。
そして、「真の5S」を自らの頭に叩きこんでいく必要があるのです。真の5Sとは何なのか、どのようにして叩きこんでいくのか。そして、真の5Sを理解することで具体的に何が起きていくのか。
これからじっくりと説明してまいりましょう。はじめにこの本にはわたしが学んできた「真の5S」を詰め込んでいます。
わたしが「真の5S」を学んだ場所は、現在、時価総額が日本一(2018年3月時点)の会社、トヨタ自動車です。
トヨタの仕事といえば、自動車を作って世界中に届けることです。ですから、多くの方は本社での研究開発といった仕事がいわゆる「花形」だと思われるかも知れません。
しかし、残念ながらわたしが居たのは花形と呼ばれるような場所ではありません。本社勤務でもなく、販売会社に勤めていました。
販売会社は〝ディーラー〟と呼ばれ、そのショールームでは自動車を売っていますが、裏手には整備工場が併設されているケースがほとんどです。
その整備工場で自動車整備を担当していたのです。花形とはほど遠い場所で、いわゆる末端の泥臭い現場。そこで日夜、汗を流していました。
しかし、末端の現場だからこそ5Sは重要でした。
お客様と常に接しているのも現場でしたから、5Sに取り組んでいるかどうかでお客様の反応も変わってきてしまいます。
また、自動車整備でミスをしてしまうと新聞に載ってしまうほどの大問題になってしまいますし、何よりお客様の命にも関わってきます。
そんな、常に気の抜けない現場では、どこよりも5Sに取り組んでおり、その結果として大きな成果を出すことに繋がっていたのではないかと自負しています。
もう少し具体的な話をしましょう。
トヨタの現場では常に、「何ごとも5Sからはじまる」と言われていました。あらゆる仕事の基本が5Sをベースにはじまるというわけです。
ですから、入社すると真っ先に5Sを叩きこまれましたし、5Sを理解しなければ車の整備さえも担当させてもらえないような環境だったのです。
そして「5Sは仕事そのものである」ということもよく耳にしていました。
5Sというと単なる職場の美化活動と思われる方が非常に多いのですが、そうではなく5Sが〝仕事そのもの〟だというのです。後にこの点は、トヨタの現場とそれ以外の企業での「大いなる誤解の差」があると感じました。
この「誤解」は未だに日本中で生じているのではないかと思うのです。わたしは「5Sは仕事そのものである」と学びましたが、5Sは職場の美化活動や会社で行う改善活動ではなく「行動の根源」とも言えるでしょう。
ですから、どんな業種であってもどんな職種であっても重要だと断言できますし、さらに言えば日常生活においても大切な指針が含まれていると考えます。また、改善活動というとトヨタの「カイゼン」というキーワードが有名です。
この「カイゼン」はムダをなくす活動全般を指すキーワードですが、現場主導で様々な知恵を出し合うことが原点となります。
ただ、知恵を出すための元となる「カイゼンの種」を見つけるためには、5Sを日常的に行って環境を整えることが必須だと言えるのです。つまり、「5Sなくしてカイゼンなし」なのです。
しかし、世の中の多くの企業では「うちでもカイゼンをしよう」などと言いながらも足もとでの5S活動が全くできていない状況をよく見かけます。
また、「うちでも5Sに取り組もう」と言いながらも、見せかけの5Sで〝やったつもり〟になってしまい、続かずに挫折してしまうような状況もよく見かけます。
そんなムダな動きを繰り返して停滞してしまうのではなく、「真の5S」を理解したうえで、しっかりと日々の仕事に取り入れていただきたいと強く思い、この本を書かせていただきました。
真の5Sが会社に定着していくことで、商品の品質向上や安全の確保、業務効率の改善や人材マネジメントなど、あらゆる悩みが解消していきます。
個々の社員にとっても仕事に必須のスキルが磨かれていくだけでなく、会社全体としても全く新しい組織に生まれ変わることになり、「しっかりと利益を生み出す組織風土」が作られていくはずです。
「トヨタ流5S」とも呼ぶべき真の5Sには、そんな「最強のルール」の数々が含まれるわけですが、本書を手に取ってくださったアナタは、その点に興味を持って手を伸ばしてくださったかと思います。
そして、これからこの本を読むことによってその最強のルールを身に付けようと考えていらっしゃるのではないでしょうか。
ただし、5Sは一見すると基本的な話の数々が並んでいるため、本を読むことで身に付けようとするには少し刺激が弱いかも知れません。教科書的な本を読んでもすぐに飽きられて、頭に残らなくなってしまうでしょう。
そこで「どうやって皆さんの脳裏にしっかりと焼きつけられるか」を考えたのですが、少し〝キツイ〟5Sの指導をしてみようと思います。
私の代わりにアナタに対してキツイ指導をしてくれるのは、数々の修羅場を潜り抜けてきた才女、エリカです。
クールな美貌とキレッキレの頭脳の持ち主ですが、短所としては口が悪くて気が短く、根っからの〝ドS〟だという点です。
そんな彼女が、売り上げの落ちてしまった東京のある書店を舞台に、ドSっぷりを発揮しながら5Sを現場へ叩き込み、書店を立て直していくストーリー形式で進んでいくのが本書の構成です。
アナタも書店員の一員になって、ぜひ〝ドSな指導〟をしてもらってください。そして〝真の5S〟を叩き込まれてみてください。
それでは、いよいよストーリーの中へと入っていきましょう。
はじめに
プロローグドSコンサル女子エリカによる5S活動、始動!
都内にある大型書店チェーン「呉越書店四ッ谷本店」。関東を中心に30店舗を展開する呉越書店の中でも、四ッ谷にある本店の売上が近年落ち込んでしまっている。
本店に釣られるようにその他の店舗も売上が振るわない状況が続いており、昨年から社長に就いた北林は業を煮やしていた。しかし、北林には問題が分かっていた。そこで、〝ある対策〟をとることになったのだった。それは、夕方のことだった。
竹刀を片手に持った1人の女性が呉越書店の本店に乗り込んできた。自転車置き場を抜けて開いた自動ドアから入ると、1Fは雑誌や小説、実用書や絵本などが幅広く展開されている。
静かな店内で、女性は棚を1つずつ舐めまわすように眺めながら、レジの様子も凝視している。どうやらお客様と思しき人が大きな声で店員に詰め寄っているようだ。しばらく眺めたあとで、女性はなぜだかほくそ笑んだ。
階段に足を向けて上のフロアに進んでいくと、また店内の空気は一変する。2Fはビジネス書のフロアだ。客層がガラリと変わり、多くのスーツ姿が目に入る。そのスーツ姿の人たちが、驚いた表情で目を向けてくる。竹刀を持った女性は、さすがに違和感があるのだろう。
また一通り眺めた女性は上のフロアへと足を向ける。3Fはコミックのフロアだ。若い男女がコミックを物色している。高校生同士で最新のアニメについて談笑する声も聞こえてくる。
女性は平台へ無造作に置かれたコミックを手に取ったかと思うと、すぐに元に戻した。フロアをじっくりと見回しながら、竹刀を持ったまま「ふん」と鼻を鳴らす。
階段の前には「これより先、従業員エリア」と書かれた薄汚い看板が立ちはだかった。4Fは事務所や倉庫があって、従業員だけが入ることができるエリアだ。
女性は、看板とその下に転がった幾つかの紙くずを一瞥しながら、階段を上がっていく。4Fに着いてすぐ、目の前のドアをコンコンとノックすると、少ししてから「はーい」という太い声が聞こえてきた。
店長の三浦和正だ。
ドアを開けてひょっこりと出してきた顔には全体的に肉がついており、白いシャツの襟元は薄汚れている。埃まみれのエプロンを着けた背の低い男がドアを開け、弱々しく口を開いた。
「あの、どちら様で」「アナタが三浦店長?」「あ、もしかして社長が言っていた方ですか」「初めまして、上条エリカよ。北林社長から依頼をいただいて来ました。経営コンサルタントです」「ああ、はい。こちらへどうぞ」部屋の中へ案内する三浦に、上条エリカは小さく舌打ちをした。
三浦店長の耳には聞こえなかったようだ。テーブルの上に散らばる書類をそそくさと片づけた三浦店長は、おもむろにペットボトルから紙コップへとお茶を注ぎ、エリカの前に差し出した。
「あの、経営コンサルタントさんがこんな書店チェーンに何の用でしょうか」「私はもともと製造業を中心にコンサルティング業務をしてきたの。そこで身に付けたノウハウをもとに、今では国内の大小問わず多くの企業に貢献しているわ。今回は御社の北林社長から特別な依頼をいただいたというわけなんだけど」
「特別な依頼。へえ」「早速だけど、このお店の雰囲気ってば最悪ね」「え?さ、最悪……ですか。……はあ、それはすいません。まあ売上さえ立てばいいので雰囲気とかは別にあれですけど」「はぁ?売上は立っているの?」「ま、まあ、ボチボチ。良くはないですけど」
「社長からは本店のくせに落ち込みがひどいって聞いているけど」「あ、はあ。すいません」「お店の雰囲気は、お店の評価に直結するのよ。私はこの店舗の評価を上げるために立て直しに来たってわけ」
「そうですか。……それで、私たちは何をすれば良いのでしょうか」「5Sよ」「え、5Sって……、あの整理整頓とかのやつですか」「5Sを知ってるの?」「ええ、前にやったことがありますよ。
『5S運動キャンペーン』みたいな感じで取り組んで、掃除とかしたんですけど」「けど?」「いやー、あまり長く続かなかったですね。
まあ、掃除は普段からちょこちょこやってますし、敢えて声を出して取り組みをする意味があまり分からなくなって。
でも、うちの売上が低いというのに、5Sですか?そんな、書店の売上と片づけと何か関係あるんですか?もっと、販促をしっかりと……」三浦店長の話が終わらないうちに、エリカは竹刀の先端を「ドン!」と床に突きつけた。
三浦店長は目を丸くして首をすくめる。口は開いたままだ。
「関係大有りよ!5Sすらできていないくせに販促がどうとか言ってんじゃないわよ!」「ひいっ!」「なにが『5S運動キャンペーン』よ。笑わせるんじゃないわよ。そんなチンケなことやってるからダメなのよ!5Sは運動じゃなくて活動なのよ!それに『整理整頓』だとか『片づけ』だとか分かったように言葉を並び立ててるんじゃないわよ!」
「すすす、すいません。で、でも、そういう取り組みって、成果が出てくるまである程度は時間が掛かったりもするじゃないですか」「うるさいわね、このウスラトンカチ!」「ウ、ウスラトンカチ……」
「どんな成果かも分かってないくせに、時間が掛かるとか抜かしてんじゃないわよ!しかも、さっき『やる意味が分からない』って言ったわねアナタ!」「す、すいません、すいません」「やる意味が分かってないことを少しやったからって上手くいくはずがないでしょうが!」
エリカの捲し立てるような恫喝に恐怖を感じはじめた三浦店長だったが、その時コンコンというノックの音とともに「失礼します」と1人の男性がドアを開けてきた。
「……な、なんだか騒がしいですね」と、顔だけを部屋に入れてきて様子をうかがっている。「おお、神木くん」三浦店長が安心したような声を出した。3Fでコミックのエリアを担当している神木竜太だ。
「ちょ、この人なんで竹刀持ってるんですか。マンガじゃあるまいし」「初めまして、上条です。私剣道をやってるの。今日は新しい竹刀ができたから取りに行ったついでにここに寄ったのよ。本来なら竹刀袋に入れるんだけどあいにく洗濯中だからむき出しなのよ。気にしないでちょうだい」
「へえ、そうなんですね。あ、店長、遅くなりました。あの、エプロン着けたいので、入ってもいいですか」「ああ、入ってよ」「は?遅刻なのアナタ?どこの担当者?」「3Fのコミックですけど」「やっぱりね。じゃあ、まずアナタから指導をしていく必要があるわね。3Fが一番ひどいもの」
「え、何の話ですか?」「5Sには目的設定と各項目に応じたリーダーの選定が重要なのよ」「な、なんだかよく分かんないですけど、面倒くさいことに巻き込まれた感じですかコレ」
三浦店長が咄嗟に口元に指をやり「シーッ」というジェスチャーをするものの、エリカの眉がピクリと動きを見せた。
「なんか言った?アナタ」「いえ……別に」エリカは神木を睨みつけると、竹刀を真っ直ぐ持ち、先端を神木の顔の前に突き出した。
「な、何をするんですか」神木が震えた声で聞くと、エリカは鋭い声で「突くわよ」と言い放った。神木は固まったまま何も言えなくなってしまった。
少しの間をおいてから、思い出したようにエプロンを掴み取って、「し、失礼しましたぁ」と出ていってしまった。この瞬間から、呉越書店には激動の日々が続くことになるのだった。
●評価や信頼を得るためにも5Sは重要
5Sは仕事を進めるための基本よ。自分が住んでいる部屋や仕事をしている職場は、自分自身が清掃をするとか片づけをしない限り、誰もキレイにしてくれないでしょ。
だから、自分自身がサボっていると汚いままなの。つまり、5Sっていうのは1つの客観的なバロメーターになるのよ。
お店の「5Sの状態」を見ることで健全なお店かどうか分かるし、その人の「5Sの状態」を見ることで仕事ができる人なのかどうかも分かるわ。
例えば、お店に行って整理整頓ができていなかったり清掃ができていなかったりすると、不安になるでしょ。店舗や職場の様子そのものが、1つの営業活動にもなりうるというわけ。
オフィスワークでもそう。やるべきことができていない人には、上司も重要な仕事を任せることはできないのよ。5Sのできてない人は信頼できないということになるわ。
●「なんとなくやる」では続かない
だから、5Sというのは、なんとなくやったほうがいいというのは分かっている人が多いんだけど、取り組み自体が続くことがほとんどないのも事実なの。
その実態の1つは、「現状維持バイアス」ね。今までやっていないことに取り組むことに抵抗を感じて、「現状維持で良いのではないか」と考えて元通りになってしまう考え方。
もう1つは、〝やる意味を理解していない〟から。
5Sがなぜ重要なのか、会社にどう影響を与えるのか、しっかりと理解して取り組むのと、なんとなく良さそうだから導入してみる、では大違いなのよ。
●運動と活動は違う
三浦店長にも指摘したけれど、多くの組織でやっているのはただの運動。5Sは活動として取り組まなければならないの。運動というのは掛け声やポスターを掲示するだけのこと。
小学校のオアシス運動ってあったわよね。「〝おはようございます〟とか〝ありがとう〟をちゃんと言うようにしようね」ってやつ。
できていなければ「言おうよ」と注意すればいいだけの話。活動というのはつまりプロジェクトなの。プロジェクトは完遂しなければならない。
そのためには5W1Hが必要になるのよ。「誰が」「何を」「いつ」「どこで」「なぜ」「どのように」ってやつね。このあたりは後半でもしっかり説明していくわ。
●目的の設定とリーダーの選定が不可欠
大事なのはまず目的を設定すること。なんのために5Sに取り組むのかしら。まずはそれを明確にすることね。
生産性を上げるのか、コミュニケーションなのか、品質向上なのか。
「」「」。
。
目的が決まったら、その目的に応じた責任者とメンバーを選んでいく必要があるわ。「誰が」という部分ね。リーダーは役職者である必要はなくて、あくまで5Sの責任者よ。この書店では、1つのSごとに責任者を設定しようと思っているわ。フフフ。

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