2020年1月現在、「いきなりステーキ」の売上が下がっているそうです。ずっと快進撃を続け、毎月数店舗ずつ新規出店してきた「いきなりステーキ」の失速ということで多くのメディアが報道しています。私はむしろ、今までうまくいっていたことが不思議でした。理由は二つあります。 まず第一は価格です。 飲食店というのは価格帯で二つのカテゴリーに分かれていると私は思っています。どういうことで二つに分かれるかというと、特別感があるかないかです。 私の場合 1000円以下の毎日食べるランチなどは特別感のない食事です。しかし数千円だと特別感がある食事です。これは皆さんの感覚とほぼ同じだと思います。「いきなりステーキ」の場合、すごく少食でないかぎり、価格は 1000円以上になります。つまり特別感がある食事です。 特別感のない日常の食事の場合は、「おいしい」だけでも商売はうまくいきます。おいしい上に値段が安いわけですからお客様もお店に多くは求めません。 1カ月に何回も足繁く通うこともあるでしょう。 しかし特別感のある食事、非日常の食事の場合、多くのことが求められます。おいしいのはもちろんですが、雰囲気、接客態度、居心地なども必要になってきます。自分だけでなく家族を連れて行くという場合の利用しやすさ、というのもあるでしょう。 もし牛丼の吉野家がとてもおいしいステーキの提供をはじめたら、お客様はくるでしょうか。たぶんダメでしょうね。あの雰囲気の中で、いくらおいしくても数千円のお金を出すお客様がいるとは思えません。 二つ目は、飲食店にかぎりませんが、特別感がある店は多店舗展開が難しいということです。 大量仕入れによってコストは下がるでしょうが、店舗を増やせば増やすほど、どんどん普通のお店になってしまうからです。当初、ブランド品のような扱いだった G APは今やユニクロと同じ普段着のカテゴリーです。特別感というのは数が少ないから特別なのです。だから店舗数のコントロールが必要になってきます。 スターバックスの飲みものの価格は一般的な喫茶店の 2倍です。それでもなぜ人が集まるのかというと、おしゃれなイメージ、特別感があるからです。彼らはそのイメージを守るため、どこにでも出店するわけではありません。もしスターバックスがどこにでもある普通のお店になったら、わざわざ出向いて高い飲みものを買う人はいなくなります。グッチやエルメスが近所のスーパーで売られていたら、誰も買わなくなるのと同じです。 当初、「いきなりステーキ」で食べることにはおしゃれなイメージがありました。私もどんなにおいしいものが食べられるんだろうという好奇心で一度食べに行きました。おいしいとは思いますが、価格的に毎日食べられるようなものではありません。つまり「いきなりステーキ」は特別感のある食事なのです。 今、「いきなりステーキ」はどこにでもある普通のお店になってしまいました。小さなモールはもちろんロードサイドのコンビニの隣にもあります。もし今後も多店舗展開するのであれば、特別感はどんどん薄まり、 1店舗当たりの売上もどんどん縮小していくと思います。 ビジネスには適正の規模というものがあります。 特別感のある店で集客力があるならば、多店舗展開などしなくても人はくるのです。むしろ店舗数を絞り、いつも行列ができているという状態をキープします。それがまた口コミになりお客様が増えていきます。 すごく長い行列ができるようになったとき、「近所」に 1店舗だけ出店するのです。なぜ近所かというと、流通が面倒になることを避け、その地域にしかないという限定感を出す戦略を取るためです。 その方法では、なかなか売上が上がらないのではないか、ある程度で限界がきてしまうのではないかという質問をされそうです。答えはそのとおりです。 私なら売上が上がらなくなってきた時点でその飲食店は継続ビジネスとして売上アップを目指さずに、前年と同じ売上を目指して経営を続けます。そして徐々に売上が下がってきたときにお店を閉めます。 おいおい、それでは会社がなくなってしまうよという声が聞こえてきそうですが、そうではありません。違うブランドを作り競合店を出すのです。 LVMH(モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン)は、ルイ・ヴィトンやセリーヌ、クリスチャン・ディオールなど多くのブランドを持っていますが、ブランドを統一させることなく個々に競争させています。購入する人にとっては、いったいどこの会社が経営しているかなんていうことに興味はないのです。 一つのブランドには限界があります。人の趣味や嗜好も千差万別です。時代の流れで飽きられてしまうこともあるでしょう。だからある一定数の顧客を掴んだら、次のブランドを立ち上げるのです。一つのブランドで世の中のすべての人を顧客にすることなどできないのです。 ある会社で働いていた派遣社員が突然こなくなりました。その派遣会社の役員は何度も何度もお詫びに行きましたが、担当者の怒りは収まりません。そんなとき、たまたま違う派遣会社からこの担当者に営業の電話がかかってきました。「それはひどい派遣会社ですね。ぜひ、当社に仕事をお任せ頂けませんか」 早速、その派遣会社にきてもらい説明をしてもらったのは言うまでもありません。担当者としては今度の会社は信頼できそうだということと、金額が今までより少し安くなったこともあり、この新しい派遣会社に変更しました。 これ普通のお話に聞こえるかもしれませんが、実はどちらの派遣会社もオーナーは同じなんです。断られた派遣会社は契約内容から金額、担当者名まですべてを新しい派遣会社へ伝えていたんです。
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