第13章マンネリが組織を不活性化する──確立操作
ケース─好子の遮断で喉を乾かせ1好子や嫌子の力は刻々と変わる2いろいろな確立操作3ビジネス場面における確立操作
正しい「仕事の教え方」もうすぐ新年度が始まる。
ノルウェー・モバイル・ジャパンでは、今年は営業強化のために新卒を二人採用した。
新入社員の教育は、基本的に人事が責任を持つ。
人事課長の水木は研修計画を作り、上司である管理部長の剣持にそれを報告した。
剣持からのコメントは、「サカモトさんにも見てもらい、アドバイスをもらってみよう」というものだった。
「部長。
この計画では、いけませんか?今までも、大体これでやってきたのですが」水木が軽く抗議する。
「いや、全体的な枠組みはよいと思う。
だが、一つひとつの研修プログラムをするうえで、やり方の工夫がもっとできるかもしれない」「たとえば、どこがですか?」「それを、サカモトさんに指摘してもらえというんだ」「特に漏れはないと思うのですが……」「うん。
『何をやるか』という点ではね。
でも、『どうやるか』が問題なんだ」「どうやるか、ですか?」「そう。
たとえば、この間の表彰制度もそうだ。
『表彰をする』ということは、どこの会社でも考えつく。
だが、本当に効果的な表彰をするためには、ほとんどの会社が思いつかないような、ああいうユニークな『やり方』が必要だったわけだ。
私は最近、気づいてきたんだが、大抵の人は『何をすべきか』を考えることはできるが、それを『どうやったら、うまくできるか』についての知恵がない。
サカモトさんには、それがあると思うんだ」「そうでしょうか」「行動分析学を甘く見てはいけない。
結局、物事がうまくいくかどうかは、それを行う人々の心一つにかかっている。
今の私は、そう思うんだ。
同じ仕事でも、楽しく早く効果的にできるやり方と、つまらなく非効率でやたら時間のかかるやり方がある。
昔のわれわれ含め、普通の会社では、そんなことまで気にしない。
でも実は、そこにこそ成功と失敗の分かれ目があるんだと思う。
そして、その差を分ける鍵は、どうやら行動分析学にある」水木は剣持の真意があまり理解できなかったが、上司の指示であるので、サカモトのところに相談にやってきた。
サカモトは、ニコニコしながら水木を迎えた。
「ビジネスマナー、ロジカル・シンキング、ビジネス・ライティング、営業トーク、……なるほど、いろいろなことをするのですね。
これら全部、水木さんがするのですか?」サカモトが言った。
「いえ、最初の会社説明的なオリエンテーションは私がしますが、その他の一般的な研修は社外の講師に、また部門の業務研修は各部門の課長に依頼します。
今年は営業のみ採用しましたから、営業二課の大林君に業務研修をしてもらうつもりです」「なるほど。
社外の講師の方はプロでしょうから、まあお任せするとして、社内講師に対しては、『教え方』の教育はされていますか?」「えっ。
いや、別に、そういうことは……。
営業のことは営業の人間のほうが詳しいですから……」「もちろん研修の内容について、あれを話せ、これを話すなというのは、釈迦に説法というか、無理でしょう。
私が確認したいのは、同じ内容にしても、どう教えるかということなのですが」「まあ、それは……講師となる各人のスタイルも、あるでしょうから」「ええ。
それぞれに個性があるのはまったく問題ありません。
ただ、大切なコツのようなものを、きちんとわきまえて教えられるかどうかは、気になりませんか?」「それは、まあ」「教える人間を教える『トレーナー・トレーニング』は、大事ですよ。
結局、新人の教育効果は、教育係たる第一線の人間にかかっていますからね」「でも、私が大林を教えるというのは……。
同じ課長ですし」水木は、ためらった。
サカモトは、それを見ると水木に笑顔を向け、「大丈夫です。
私が一緒に行きますよ」と言った。
実は、教え方を教えるなどということには経験もなければ自信もなかった水木は、内心ほっとした。
「では、大林さんのところに行く前に、大事な点だけ確認させてください。
新入社員研修の、目的は何ですか?」サカモトが聞いた。
「目的ですか?それは、まあ、会社に慣れてもらうとか、仕事を覚えてもらうとか……大体、新卒の新入社員に教育をするのは、常識じゃないですか?」「もちろん、やることは常識ですよね。
でも、常識という言葉は、往々にして人間を思考停止にしてしまうので、改めて原点を認識しなおしたいと思ったのです。
そこで確認ですが、会社に慣れるとか仕事を覚えるというのは、研修なしでは不可能なのでしょうか?」「いや、それは時間をかければ、できますよ。
でも会社としては、もっと早く戦力になってほしいわけで」「そこですよね、ポイントは。
『早く』というキーワードが、ここでは重要なわけです。
では、もう一つ確認ですが、新人研修は会社のためだけにやるのでしょうか?」「いや、本人のためでもありますよ。
彼らだって、早く戦力になれたほうが嬉しいに決まっているでしょう」「そこも大事なポイントですね。
特に最近では、新入社員は自分が成長できることを期待して会社を選び入社してくるということを、各種統計などで水木さんもよくご存じですよね。
ですから、入社してすぐに自分の成長を実感させることは、若年社員のモチベーションを高め、早期離職を防ぐことにもつながるわけです」「サカモトさんは、今度の新入社員が会社を辞める危険があると考えているんですか?」「それはわかりませんが、そのくらいのつもりで、これからの会社は社員に対するほうがよいかもしれませんよ。
日本人は確実に変わってきています。
いったん会社に入れてしまえば大丈夫ということは、ないと思います」「うーん。
まあ、この会社も伝統的な日本企業だったのが突然、外資系になってしまったわけだし……。
あ、いや、大日本のモバイル事業部がノルウェー・モバイルに吸収されたということを言っているわけですが」「わかります。
さて、それで、新入社員研修の目的が、会社と本人の両方のために、彼らに少しでも早く会社に慣れ仕事を覚えてもらうことだ、ということが確認できました。
それでは、その目的を達成するための効果的な手段については、水木さんは、どうお考えですか?」「えっ?効果的な手段ですか?」「ええ。
教えるのはよいとして、本人が最も早く成長できる教え方としては、どういう戦術をとりましょうか?」「……ちょっと、今のところは、わかりません」水木は恥ずかしそうに言った。
「いや、いいんですよ。
そのために私がいるのですから。
それでは今回は、フィードバックを注意してやってみましょうか」と、サカモトがニコニコしながら言う。
「フィードバック?それなら、もうやっていますけど」
「どのように、ですか?」「研修を一通り施したあと、最後に本人に出来具合を知らせています」「それは一般的なフィードバックの方法ではありますが、行動分析学的なフィードバックとは少し違います」サカモトは言った。
「行動分析学的には、まずフィードバックは一つひとつの行動に対して、こまめに与えることが大切です。
それとフィードバックを与えるタイミングは、次回の行動の直前に与えるのが最も効果的といわれています。
すべてが終わったあとで総括的に一度話されても、受講生としては『後の祭り』になってしまう恐れがあるのです」「すると、たとえば営業研修では、どうすればいいんですか?」「昔から日本には、よい言葉があるじゃありませんか。
『やってみせ、言って聞かせて、させてみて、褒めてやらねば、人は動かじ』海軍大将、山本五十六さんの言葉でしたっけ。
あれでよいのですよ」サカモトの口から思いがけず古い言葉が出て、水木は目を丸くした。
サカモトは続ける。
「たとえば営業では、今回、課題分析ということを行いました。
そして営業のファースト・ステップであるご挨拶や自社紹介から、最後の契約締結まで、すべき行動を詳細に明確化しました。
ですから、そのステップのどこまで新人研修でやるにせよ、一つひとつの行動に関して、まず課長や先輩がやってみせ、次にポイントを言って聞かせて、それから本人にさせてみて、結果をフィードバックして、もう一度やらせる。
あとは、このフィードバックと行動のサイクルを短い期間にたくさん回せば、最も高い学習効果が得られるはずです」サカモトと水木は、営業二課長の大林にこの方法を提案してみた。
大林は、サカモトが行った営業一課での課題分析とシェイピング・メソッドを自課に取り入れ、すでにその効果を実感していたので、今回のフィードバック法にも強い関心を示した。
「ぜひ、やらせてください」大林は言った。
「それも、社内の研修室でやるクラスルーム方式に適用するだけでは、つまらない。
実践的に、やりましょう」サカモトは、大林の前向きな言葉に喜んだ。
水木は、「そんなことして、大丈夫ですか?」と少し心配そうである。
「まあ、そんなにリスクのない客先を選べば、大丈夫でしょう」「フィードバックは、どうしましょう?」と、サカモトが一応の確認をする。
「客先に行って、帰る道すがらフィードバックするというのは、どうです?」と大林。
「できれば、行動が終わった直後だけでなく、同じ行動を次回するときの直前にも与えたいのですが」「そうでしたね。
では、訪問から帰るときに、ともかく一度フィードバックして、次に同じようなことをする場面があったら、その直前に、『前回は、こうだったから、今度は、ここに注意しよう』と言うのは、どうですか?」「完璧です」サカモトは、親指を立てた拳をずいと突き出して、言った。
そして、新入社員研修が始まった。
「今年の研修は、一風変わったことをするようだ」という評判が社内にたち、水木も大林も若干、緊張気味である。
まずは通例通り、入社式とオリエンテーションがあり、そしてビジネスマナーやビジネス・ライティングなどの基礎研修が社外講師によって行われた。
それが済むと、いよいよ営業に配属されての業務研修である。
大林の統括のもと、新人二人にそれぞれベテラン営業が一人ずつコーチにつき、かねてよりの打ち合わせに従って、クラスルームと現場での実践的トレーニングが行われた。
「最初に教えたように、名刺交換をさせていただいたら、その場で『○○様、よろしくお願いします』と相手の名前を呼ぶ。
そうやって、お名前を覚えてしまったら、名刺は名刺入れにしまうのが本当のマナーだ。
前回は、きちんとできていて偉かった。
今回は、お名前を覚えたら、会話の中で相手のお名前をたくさん出すようにしよう。
そのほうが相手に好印象を与えるし、お名前を忘れることもなくなる」「はい、ありがとうございます」「この間のご挨拶まわりでは、相手の話をさえぎって喋ってしまったのを覚えてるか?きょうは、そうならないように、聞き役に徹しよう」「はい。
頑張ります」新卒の二人は、それぞれ社会人として、また営業のプロとして早く一人前になろうと、目を輝かせながら真剣にトレーニングに取り組んだ。
そして、研修期間も終了に近いある日。
サカモトと水木は、研修の進み具合を大林と確認するため、三者でミーティングを持った。
「いや、今年の新人は、お客様にも評判がよくて。
『この採用難の時期に、よくこんな優秀な人材が取れましたね』などと言われたことも、ありましたよ」大林は、誇らしげに報告した。
「よかったですね」とサカモト。
「本人たちは、どうですか?」「彼らも日々、自信をつけているようです。
最初は学生っぽさが抜けないところもあったのですが、フィードバック・サイクルを二、三回回せば、それなりにビジネス・パーソンらしくなりましたし。
それに……」「それに?」水木が聞く。
「実は、二カ月ほどたったある日、新人の一人から、こんなことを言われたんですよ。
『自分は正直言って、どういう仕事が自分に向いているのかわからないまま就職してしまった。
でも今では、この会社で営業をやるのが楽しい。
向いていると思う』と」これには水木も感じ入ったようで、思わず黙ってしまった。
「よかったですね、水木さん」サカモトが、水木の肩を叩く。
「えっ?」「水木さんの人事としての採用と、『トレーナー・トレーニング』の成果じゃないですか」「いや、それはサカモトさんが」「私は採用には関わっていませんから、素質ある若者を会社に引きつけ、選ぶことができたのは、やはり水木さんをはじめとする人事の力ですよ。
それに、トレーナー・トレーニングも、私は水木さんに提案はしましたが、実際に営業トレーナーに対するトレーナーを演じたのは、やはり水木さんですから」「水木さん、助かったよ。
ありがとう」大林も礼を言う。
「これからも、頼むよ」「あ、ああ。
もちろんだよ」そう水木が言う姿を、サカモトは嬉しそうに見ていた。
解説1.教え方を教える今回のケースでは、新入社員教育が取り上げられている。
多くの会社では、新入社員教育のメイン部分は、既存社員が社内講師となって行うようだ。
その会社での仕事を一番よくわかっているのは他でもない社員自身だから、この役割分担はごく自然である。
しかし、社内講師に「教え方を教えて」いる会社は、残念ながらそう多くはないようだ。
たとえばこのケースのように、新入社員が営業に配属される場合には、指導役となる社内講師は経験豊かな営業社員があたる。
彼らは社内の他の誰よりも、この会社の営業については知っている。
だから新入社員に「何を」教えるかは、彼ら社内講師に任せても、あまり心配はいらないだろう。
だが問題は、それらを「どのように」教えるかだ。
業界ばかりか社会のことすらあまりよく知らない若者にもわかるような、平易で論理的な説明の仕方。
また、何もできない不安を抱えた彼らに明るい希望を抱かせるような、士気やモチベーションの高め方。
これらは新入社員教育を行ううえできわめて重要な技能であるが、しかし普段の業務からでは養いにくい技能でもある。
具体的な営業の仕事を教えるにしても、新入社員には、まず仕事のプロセスを体ではなく頭で一通り理解させる必要がある。
「俺の背中を見て学べ」という教育方針が最も功を奏するのは、実はある程度の力をすでに持っている人が相手のときである。
まったくの素人に対してそのような教育をすると、第一に仕事全体を覚えるまでに時間がかかって仕方がないし、第二に先輩のよいところも悪いところも学んでしまう恐れがある。
新入社員は、どのような初期教育を受けるかによって、会社に対するエンゲージメントを大きく変える。
この会社がよい会社であると思うか、求められる以上に努力しようと思うか、簡単に辞めずに頑張ろうと思うかどうかは、相当程度ここにかかっているといっても過言ではない。
したがって今日では、社内講師といえども「教えるプロ」としての基礎技能を身につけてもらうために、会社が「トレーナー・トレーニング」を施すことが重要とされている。
もちろん、教えるプロにも個性があってしかるべきだから、社内講師が全員、金太郎飴のように同質化する必要はない。
しかし、人それぞれに「よい教師、よいコーチ」になっていただくために、持つべき技能というのはあるのだ。
フィードバックは、その一つである。
2.行動分析学的フィードバックフィードバックというと、ふつう人事の世界では期末の評価のことをいう。
仕事ぶりはどうだったか、貢献度はどれくらいだったかなどを、他者から評価してもらうのである。
一方、組織行動マネジメントやパフォーマンス・マネジメントでいうところのフィードバックは、人事考課のような過去の総括よりも、むしろ未来の成功のために行われる。
つまり次の行動を前回よりもうまくやるための先行刺激として使われる。
フィードバックこれから行う行動を導くための、これまで行ったその行動についての評価や記録普通はフィードバックというと、完了した行動に関して、どれくらいうまくできたか、あるいはできなかったかを指摘することだと思うだろう。
しかし、行動分析学でフィードバックという用語を使うときは、次に示すような点で、一般的に企業で使われる場合とは異なっている。
①フィードバックは、行動に対するフィードバックである正しくなされた期末の評価は確かに、その人の当該期における業績を反映しているかもしれない。
しかし、通常の業績フィードバックでは、業績改善のために何をすればよいかの情報は得られない。
営業は、顧客への訪問一つとっても、いくつものステップの行動から成り立っている。
最終的な営業成績が、どの行動を反映しているかを特定することは難しい。
行動分析学に基づいたコンサルティング会社を最初に創立したオブリー・ダニエルズが指摘するように、行動分析学でフィードバックというとき、それは、各ステップでの行動がどれだけなされていたか(あるいは、しなかったか)に関する情報である。
②フィードバックはグラフで示されるフィードバックは個々の行動がどれだけきちんとなされたかに関する情報であり、同時に、次にその行動をする機会があったとき、よりよく行動できるようにするための指針である。
この章のケースのように、言葉を使ってフィードバックすることもあるが、行動を測定し、グラフで表し、それを各自に見せることも多い(パフォーマンス・マネジメントにおいては、行動を測定することが非常に重要であるが、本書では、行動の測定に関しては触れない。
巻末の参考文献を参考にされたい)。
③フィードバックの頻度フィードバックは期末の業績評価とは違う。
パフォーマンスを向上させるために、個々の行動に対してフィードバックするのだから、行動に対して即時になされることが理想である。
それぞれの行動ができたかどうか、一日のうちで何回(何パーセント)できたか、行動を測定しながらパフォーマンス・マネジメントを実践する際は、一日ごとのフィードバックが最も一般的である。
④フィードバックは強化のきっかけとなるフィードバックは単なる情報ではなく、行動を改善させるために行われる。
したがって、フィードバックは、行動改善のための強化も同時に行うことで、その効果は最大となる。
フィードバックは、行動の直後に与えられるから、その行動を強化したり弱化したりする「直後条件」であると考える人は多い。
しかし、フィードバックというのは、どのような行動が正しくて、何をしてはいけないのかを教えることにより、次の行動に影響を与える機能がより重要だ。
したがって、フィードバックは「弁別刺激」と考えることもできる。
弁別刺激は、行動がとられる以前に出現することで、その行動を左右する。
だから行動分析学的には、前回の行動に関するフィードバックは、次の行動の直前に行われることで最大の効果を発揮すると考えている。
もっとも、現実の場面において、フィードバックが賞賛や叱責を伴っている場合には、話が別だ。
行動分析学でいうフィードバックは、それ自体は前回の行動の出来具合を客観的に示す中性刺激にすぎない。
しかし、そうした中性的な「情報」としてのフィードバックに加え、「いいぞ!」とか「ふざけるな!」といった、好子や嫌子になりやすい感情表現などが与えられたら、その部分は強化や弱化を招く直後条件となりうる。
したがって、このような感情表現については、むしろ行動の直後に与えられるほうがよい。
直後ではなく、たとえば数日後に「あのときは、えらかった」とか「あんなことでは、だめだ」などと言われても、後の祭りにしかならないからである(ただ、あとで褒めることは、別に害にはならないので、特に禁止する必要もないだろう。
ケースの中でも、このように振る舞うコーチが登場する)。
また、自分の記録を見て自分自身を褒めるという、自己強化の場合も別だ。
たとえば陸上競技や水泳で、自分の記録を見て大喜びするのは、あれは別に記録の数字自体が本人に快感をもたらすわけではない。
数字は数字だ。
それ自体は無味乾燥なものにすぎない。
しかし、それを見て大喜びする人がいるのは、数字を見た本人が、本人自身を激賞しているのだ。
彼らにとってそれが気持ちいいのである。
もし、ここで行動分析学的なフィードバックをするならば、それはたとえば「今回は腕の振りがコンパクトにまとまっていた」とか「足幅をもう少し狭くすれば、次回はもっと早くなる」などといったものになる。
これが激賞に比べると好子や嫌子としてはピンとこないことは、読者にも感覚的におわかりいただけるだろう。
3.行動的翻訳と課題分析の重要性ところで、フィードバックを実際に行ううえで、事前にしておくべき大切な準備がある。
それは、行動的翻訳と課題分析だ。
現実の仕事というものは、非常に数多くのステップからできている。
たとえばノルウェー・モバイルの営業は、先のケースで説明されていたように、大きく分けて八つのステップからできていた。
しかし、たとえば第一ステップの「訪問」を取り上げた場合、訪問とは具体的に何をすることなのか、するべきことを行動のレベルで整理する行動的翻訳を行う必要がある。
そして、「訪問」という行為には細かく見ればアポイントメントをとったり、持参資料を用意したり、同行者と事前打ち合わせをしたり、相手の顔を見たら適切なマナーで挨拶して名刺交換をしたりと、細かいステップが山ほどある。
どのようなステップを順序正しくこなす必要があるか、課題分析もしなくてはならない。
ある程度の経験のある営業に対してであれば、「訪問してこい」だけで事足りるかもしれない。
けれど、このケースのように新人教育の場合などは、事細かにプロセスを分析し、フィードバックのポイントを設定し、指導してあげなければならない。
新人に限らず、経験者であっても、仕事全体がうまくいったかどうかだけをフィードバックするのは、あまり効果的でないことがある。
うまくいかなかったときには、どこがいけなかったのかをピンポイントで知る。
うまくいったときにも、なぜうまくいったのか、どこを改善すれば、もっとうまくいくのかなどを具体的に知る。
そうしたフィードバックがあると、ベテランでも伸びる。
いや、ベテランこそ課題分析の恩恵をこうむることができる局面というのもあるはずだ。
普段何気なく仕事を続けている間に身についてしまった悪い癖や変な癖を、チェックすることができるからだ。
ベテランになるほど、一つひとつの行動に対する意識は薄れやすい。
だから、いわゆるスランプに陥ってしまったときに、自分の行動の振り返りができず、なす術もなく苦しんだりするのである。
課題分析で明らかになったチェックポイントをベテランも活用することは、本人だけでなく後輩の指導にもよい影響をもたらす。
「やってみせ、言って聞かせる」ことができるからだ。
いわゆる「背中を見せて学ばせる」という教育法は、つまりは何も言わない教育法だ。
学ぶ側が優秀であれば、それでも多くを学び取ることができるだろうが、しかし、たとえばまったくの新人などであれば、何を見ればよいのかもわからないということもある。
だから、「○○をやってみせるから、よく見ておけ」と、一つひとつの課題を明示してあげることは、教え方として懇切丁寧であるから効果的なのである。
また、課題分析によってベテランも自分自身の行動の振り返りができるから、悪い癖や変な癖を修正することができる。
したがって「やってみせる」ときにも、間違った行動を後輩に刷り込んでしまうリスクを下げることができるのだ。
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