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ステップ⑥ マーケテイング戦略 顧客の言葉を学ぶ

マーケテイングは、顧客に始まり顧客に終わる。

マーケテイングの問題を考えるときには、あなたの夢やビジョンは一度頭の片隅にしま いこんで、顧客のことに専念しなければならない。

なぜならあなたが望むものよりも、「顧 客が望むもの」のほうが大切なのである。

そしてたいていの場合、「顧客が望むもの」についてのあなたの想像は外れてしまう。

目次

理不尽な顧客

顧客を思い浮かべてほしい。

日の前に立っていて、不機嫌な様子でもなく、にこやかな 様子でもない。

あなたの店や事業に対して中立的な感情をもっている。

しかし、顧客の様子は少し変わっている。

額の部分からアンテナが出てきて、天丼に向かって伸びていく― そしてアンテナの先にはセンサーがついている。

顧客のセンサーが記録するのは、あなたのお店やオフィスの中で感知できるすべての情 報――色、形、音、におい― である。

センサーは、あなたの情報も集めている。

立ち居振る舞い、髪の色、髪型、表情― ‐顧 客に気を配っているか? 話すときに目を合わせているか?― ‐スラックスの折り目は? 靴は磨かれているか? すり減っていないか? 購買プロセスの最初の段階として、センサーは周囲のあらゆる情報を記録しているので ある。

重要なのは、集められた情報が次にどのように処理され、購買の判断に活用されるのか である。

この本ではセンサーを顧客の「意識」と呼ぶことにしよう。

「意識」の仕事は、購買の判断に必要な情報を集めることである。

この作業はほとんど無 意識のうちに行われるので、顧客はコントロールできない。

実は顧客の「意識」が購買の 意思決定を行うわけではないので、あなたは顧客の「意識」について敏感になる必要はな 購買の意思決定を行うのは、あらゆる行動の原点となる顧客の「無意識」である。

無意識とは、広大で深く暗い海のようなものである。

海の中には、さまざまな種類の不 思議な形をした生き物が泳いでいる。

本人にとってさえ未知の場所である「無意識」とい う海を泳ぐ不思議な生き物は、顧客の「期待」である。

「期待」とは、顧客のこれまでの人 生の蓄積によつてつくられた価値観といえる。

顧客は「期待」という生き物を通して自分 の望む食べ物(=商品)を手に入れるのである。

意識の仕事は食べ物の存在を探知することである。

食べ物が期待に沿うものなら、「無意 識」がイエスと言い、期待に沿わなければノーと言う。

さらにこの決定は、瞬間的に行わ れているのである。

テレビのCMでは、最初の三〜四秒で売れるか売れないかが決まる。

印刷物の広告では、購買の意思決定の七五%が見出しだけで行われる。

実演販売では、最初の三分で売れるか売れないかが決まる。

心理学から見てクライマックスといえる購買決定の瞬間以降、「無意識」は「意識」に情 報を伝達する。

そして意識は、無意識が行つた決定についてのもっともらしい理由づけを 行っているのだ。

これが購買の意思決定のプロセスである。

理不尽だとは思わないだろうか? 買い物で、合理的な意思決定を行う人間など、そもそも存在しないのである。

顧客が「ちょっと考えてみるよ」と言っても、信用してはいけない。

顧客は、考えるつもりなどないし、無意識をコントロールすることなどできないのであ る。

「買うか買わないのか、もう一度考えてみよう」と言いながらも、すでに考える作業を 終えてしまっているのだ。

「ちょっと考えてみるよ」と言う顧客の内心は、店員の前では本音が言いづらいのか、も しくは顧客の期待が求める「商品」がお店に置いていなかったのかである。

いずれにせよ、購買の意思決定に思考が入る余地はなく、瞬間的に行われる。

あなたと 会うずっと前から、結論は出されているのである。

マーケテイング戦略の二本柱

そこで疑間がわいてくる。

「顧客でさえ、自分の欲しいものがわからないのに、どうして 私が知ることができるだろうか?」 この難題を解決するのが、顧客の属性分析と心理分析である。

顧客が誰なのかを知っていれば(=属性分析)、なぜ購買するのかを理解できる(=心理分析)。

この二つを理解す ることで、顧客の無意識のニーズを科学的に満たすことが可能になるのだ。

二つの手法を、マーケテイングに活用した事例を紹介しよう。

本書のカバーには濃いブルーが使われている(訳注一原書の表紙には濃いブルーが使わ れている)。

これはIBMのシンボルカラーになっていることから、「IBMブルー」と呼 ばれている。

どうしてIBMは、ブルーを選んだのだろうか?・なかでもどうしてこの色合いを選ん だのだろうか? それは顧客の属性分析を行った結果、濃いブルーがIBMのターゲット顧客に対して、 強い訴求力をもつことがわかつたからである。

つまりIBMが狙う顧客層は、同じ色合い のブルーを見た瞬間に好感をもってくれる。

英語には「トゥルーブルー」(訳注¨「信頼で きる人」の意味)という表現があるが、まさにIBMブルーこそが、信頼感を勝ち得る色 なのである。

もしIBMがブルーではなくオレンジ色を選んでいたら、どうなっただろうか? IBMがターゲットとする顧客層に対して、オレンジ色は訴求力が弱く、IBMはこれほど成功を収めることはなかったかもしれない。

想像力を働かせれば、色彩の違いが与える影響を簡単に理解することができる。

誰かが、紺色のスーツを着ている姿を想像してほしい。

紺色のスーツには細いストライ プが入っている。

きっちりとプレスされたズボン、糊のきいた白いシャツ、赤と青のスト ライプのネクタイ、よく磨かれたウィングチツプの靴。

こんな人物を見て、あなたはどんな印象をもつだろうか?・実直で信頼できる人物だと 思うだろうか? もちろんその通りである。

ある研究によれば、ビジネススーツで最も効果を発揮するの は紺色だという結果が出ている。

では、今想像したのと同じ人物が、オレンジ色のスーツを着ている姿を想像してほしい。

仕立てのよい高級なスーツで、真つ白なシルクのシャツと緑と自のストライプのネクタイ をコーディネイトしている。

胸元には、ニカラットもあろうかというダイヤモンドのネク タイビンが輝いている。

どんな人物を思い浮かべることができただろうか?・急いで想像したほうがよい。

こん な人物はビジネスの世界からすぐに姿を消してしまうのだから―重要なことは、二人の印象を決めるのは彼ら自身ではなく、あなたであるということだ。

あなたの無意識は瞬間的に「紺色のスーツを着た人間となら一緒に働きたいが、オレンジ 色のスーツの人間とは、そう思わない」という結論を出してしまう。

人が無意識にもっている期待や価値観を変えることは不可能なのである。

そう考えると、 提供する商品やサービスに合う価値観をもった人を探すほうが効果的ではないだろうか? そこで属性分析を行い、年齢、学歴、家族構成、地域といった顧客グループの価値観を 知り、心理分析によつてその価値観を満たす方法を決定するのである。

顧客のことを知らないままに、事業の試作モデルをつくるということは、リスクの高い 賭け事と同じくらい無謀であることが、理解していただけただろうか? マーケティングの考え方を導入するだけで、スモールビジネスは変化する。

今まで幅を きかせていた経営者の思い込みや的外れな努力がなくなり、顧客データの収集、アンケー ト調査、さまざまなキャンペーンなどが始まるのである。

これはどんなスモールビジネス でもできることであるし、すべてのスモールビジネスが取り組むべきことなのだ― IBM、 マクドナルド、フェデラルエクスプレス、ウオルト・ディズニーといつた成熟 企業が同じことをやっているのに、あなたの会社が手を抜いてよいはずがない。

むしろ、スモールビジネスだからこそ、もっと真剣にマーケテイングに取り組まなければならない のである。

現代は「容赦のない時代」である。

あふれる情報や商品に顧客は目を奪われ、優柔不断 になっている。

スモールビジネスの経営には、向かい風の吹く時代である。

「容赦のない時代」に生き残るためには、顧客の言葉を学ばなければならない。

そして、 情報過多という騒音の中でも、はっきりと顧客の言葉で呼びかけなければならない。

顧客 は、あなたの言うことが聞こえなければ、通り過ぎてしまうからだ。

ここまで読んだあなたは、苛立ちを感じているだろう。

頭の中を疑間が渦巻いているの ではないだろうか? 「属性分析や心理分析はどうすればいいのだろうか?」「色や形はどう 決めればいいのだろうか?」「どんな言葉を使えばいいのだろうか?」 こんな疑間を感じれば、あなたの思考は変わりはじめた証拠だ。

この本の日的は、すべての疑間に答えることではない。

スモールビジネスの経営に関す る問題を提起することが目的なのである。

「やり方」ではなく、「やるべきこと」を提示できれば、十分だろう。

とはいっても、この本にはまだ続きがある。

事業発展プログラムには、もう一つのステ ップが残っている。

あなたのつくった事業の試作モデルを組み立てるときに接着剤の役割 を果たす「システム」についてである。

「あなたが『やり方』を話したくないのはわかってるわ。

でも、くわしい話を聞かせても らわないかぎり、このお店を出られないわよ」サラは冗談めかした調子で言った。

「属性分析や心理分析といっても、どうすればお客さんの特徴を知ることができるのか、 さっぱりわからないのよ」 私はこう答えた。

「じゃあ、今のきみのお店を例に考えてみようか。

われわれが、きみの 事業について知っていることといえば、きみのお店にはフアンがいること。

きみが話して くれたお店の未来図は、これまでのお店の延長線上にあること。

そして将来のお店で、き みが伝えたいと思っている『思いやり』の気持ちは、今でもきみの心の中にあって、おい しいパイやお店の雰囲気からも伝わってくる、ということかな?」 「だとすれば、今日来てくれたお客さんは、きみの『思いやり』という経営理念に無意識 のうちに共感してくれている人じゃないかな? 彼らは今でさえ、きみの店で買い物をしてくれるんだから」 「きみが最初にするべき質問は、彼らは誰だろう、ってことだよ」 「私の経営理念に共感してくれるお客さんはどんな人だろう? どんな属性をもった人た ちなんだろう? ってね」 「この質問に答えるには、彼らに聞いてみればいいんだ」 「パイを無料でプレゼントする代わりに、アンケートに答えてもらうというのはどうだい? プレゼントするパイは、情報に支払うお金だと考えればいい」 「どうせなら、地理的な分析や心理的な分析に使えるデータも集めたほうがいいね。

とい うのも、アンケートなら、好みの色や好きな言葉、普段使っている香水、車、服、食べ物 のブランドも聞ける。

そうすれば、他の会社― ‐きみの顧客に商品を売ることに成功して いる会社― ‐が、広告や宣伝を通してどんなメッセージを送っているかがわかる。

こんな ふうにして、きみがターゲットとしている顧客のことを知って、その人たちに来店しても らう方法を考えればいいんだよ」 「店に来たことがない人について、どうすればいいかって質問かい? それはきみのお店 の営業エリアに住んでいる人たちの名簿を手に入れればいいんだ」(訳注¨米国では日本と比較して、名簿の売買が頻繁に行われており、購入した名簿をもとにダイレクトメールが 発信されることが多い) 「つまり、今のお客さんにアンケートをすれば、彼らの住所がわかるよね?・地図に書き 込んでみると特定のエリアに集中するはずだから、それをきみのお店の商圏と考えるんだ。

おまけにアンケートからは、特定の性別や年齢、趣味の人が多いこともわかるはずだから、 商圏の中に住む人でも、現在の顧客に近い属性の人たちのリストを買えばいいんだよ」 「これで『やり方』についての質問には答えられたかな?」私は少し皮肉っぽく言った。

「ちょっと、たくさん宿題を出しすぎたかもしれないね。

もし、質問に答えられたのなら、 『やるべきこと』について話してもいいかな?」 「マーケテイングの方法自体は、そんなに難しいものじゃない。

むしろマーケテイングに ついてきっちりとゼロから考え直すことのほうが難しいんだ。

これこそが『やるべきこと』 だよ」私は続けた。

「スモールビジネスの経営者はマーケテイングの問題を『常識的にはこ うするべきだ』と言って、簡単に片づけてしまう。

でも経営者の『常識』は、単なる『思 い込み』にすぎないことが多いんだ。

僕に言わせれば、マーケティングと呼びながらも、 何も情報を集めないまま、経営者の思い込みに頼っているのが大半だよ」「だから会社のロゴを決めるときにも、気軽に近所の印刷屋に頼んでしまう。

近所の印刷 屋には、顧客の心理に働きかけるようなロゴをデザインするノウハウなんかないから、印 刷屋の奥さんの好みで決まってしまうことになる」 「サラ、きみにはマーケティングだけでなく、会社を経営するうえで必要なものにもっと 興味をもってほしい。

いろいろなことを勉強する中で、『やるべきこと』がわかってくるん だ。

マクドナルドやディズニーやウオルマートといった大企業が、マーケテイングにどれ くらいの費用を投じているか知っているかい? ペプシコやアメリカン・エキスプレスが 自社のブランドを周知させるためにどれほど時間をかけてきたか知っているかい?。

ちょ っとした不祥事で、プランドを失墜させるのは簡単だけど、それを取り戻すためには、多 人なコストが必要なんだ」 「きみの会社は小さいから、マーケティングに大金を投じる体力はないと思う。

でも、マ ーケティングの問題に、じっくりと時間をかけ、知恵を絞ることはできるはずじゃないか な?」 「これが経営者の本当の仕事なんだ。

戦術的な仕事ではなく、戦略的な仕事ということさ。

きみが毎日の雑用に追われていれば、マーケティングという戦略的な課題について考える時間もエネルギーもなくなってしまう」 「経営者の仕事は、マーケティングの問題を考え続けることなんだ」 「マーケテイングを言い換えれば、『顧客が、他の店ではなく自分たちの店を選ぶために、 自分たちの事業はどうあるべきか?』だといえる。

こう考えれば会社でのすべての仕事が マーケテイングだと思わないかい?」 「例えば、顧客に対して『この店では幸福感を提供します』という約束をするとしよう。

この『約束』で、顧客をお店の入り口まで引き寄せて、ドアを開けた人には、声をかけて みる。

そして、顧客が店を出るまでに、『約束』を果たす」 「この約束がどれくらい確実に守られるかによって、顧客が繰り返し来店してくれるかが 決まるんだ。

あらたに顧客を獲得するよりも、同じ顧客に何度も買ってもらうほうが、 マ ーケティング費用の面でも安上がりだから、リピート率を高めることは、どの会社にとつ ても重要なことなんだ。

だから同じようなことをマクドナルドも、フェデラルエクスプレ スも、ディズニーもやっているんだよ」 「営業、製造、財務を担当する副社長には、それぞれの仕事があるけど、三人には『顧客 が望む約束をし、営業エリアの中で最も確実にその約束を果たす』という共通した目的があるんだ。

会社を経営するかぎり、これを続けなきゃならない。

そして常にライバルが『約 束』できないようなことを『約束』し続けることが、三人の副社長をまとめる社長の仕事 なんだよ。

わかってくれたかな?」 「わかったわ」サラは言った。

「じゃあ最後の部分に進もうか。

これまでに話したことを、すべてまとめるのがシステム の役割なんだ。

システムについて一緒に考えてみよう」

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