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ステップ④ マネジメント戦略 システムが顧客を満足させる

巧みにマネジメント(経営管理)を行うためには、有能なマネジャー対人折衝力に優れ、経営学の修士号をもち、部下を育てるノウハウをもっている人間―が必要だと考えるのが常識かもしれない。

しかし、それは間違いである。

そんな人たちは必要ないし、支払う給料も高くついてしまう。不要に優秀な人間を雇っても、あなたの悩みが増えるだけである。

代わりに必要なのは、管理システムである。管理システムは、あなたにとっての戦略である。管理システムは、事業の試作モデルを完成させるためのカギとなる。

管理システムは、従業員にあなたの期待通りの仕事をさせるための仕組みである。管理システムは、従業員が無駄なことを考える時間を減らし、本当に必要な仕事に打ち込ませるものである。

目次

管理システムとは何か?

管理システムとは、マーケティングの効果を高めるために、事業の試作モデルに組み込まれたシステムのことである。

私がここで紹介する管理システムは、一般にいわれているマネジメントの仕組みではない。むしろマーケテイングの仕組みだと考えている。

他社よりも多くの顧客、つまり収益を見つけ出し、囲い込むことが重要で、管理によって「効率」のよさを追求するよりも、マーケティングによって売り上げを増やす「効果」を重視しなければならない。

そして、システムが人手を介さずに自動的に機能するほど、事業の試作モデルが成功する確率は高まるのである。

私がずつとひいきにしているリゾートホテルを例に、このシステムが実践されている様子を紹介しよう。

マツチ、ミント、コーヒー、新聞

このホテルとの出会いは、ほんの偶然からだつた。私はそのホテルに行く予定はなかった。七時間もドライブを続けてぐったりとしていた私は、サンフランシスコに戻る前に、ふと通りかかったホテルに一泊することに決めた。

そのホテルは、太平洋に面した杉林の中にひっそりと建っていた。私がロビーに着いたころには、日は沈み、あたりの杉林も間に包まれていた。ロビーに入った瞬間に、このホテルが特別な場所であるということに気づいた。

内装には杉材がふんだんに使われており、それが暖かい色の照明に映えて、ぬくもりのある雰囲気に包まれていた。

漆黒のテーブルの上に置かれている重量感のあるブロンズ製のランプが、籐のバスケットに入れられた新鮮なフルーツを、深い色の光で照らしていた。

また、テーブルには、複雑な模様の麻のクロスがかけられており、ロビー全体の色彩感にアクセントを加えていた。

テーブルの向こう側の壁には、どつしりとした石づくりの暖炉が炎を上げて燃えていた。パチパチと薪の弾ける音が、部屋の雰囲気をいっそう豊かに演出しているようだった。

まもなく受付カウンターの奥から、落ち着いた様子の女性が現れ、「ベネチアにようこそお越しくださいました」と、温かい笑顔で私を迎えてくれた。

予約をしていなかったのにもかかわらず、ベルボーイが部屋に案内するまで三分足らずというスムーズな応対であった。

私は部屋に通されて、さらに驚いた。印象をひとことで言えば、上品な豪華さというのだろうか。床には落ち着いたパステル調の分厚いじゆうたんが敷き詰められており、上質な木製のキングサイズのベッドには、真っ白で清潔なキルトがかけられていた。

天然杉の素朴な風合いの壁には、大平洋岸の風景と鳥を描いた油絵がさりげなく飾られていた。石づくりの暖炉には薪が準備されていて、火格子の下には丁寧に巻かれた紙と、大きめのマッチが置かれ、まさに私が火をつけるのを待つばかりとなっていた。

私はこのホテルを選んだ幸運を喜んだ。居心地のよい部屋でしばらくくつろいだ後に、私はジャケツトに着替え、レストランヘと向かった。受付の女性が、レストランを予約してくれたのである。

レストランは、宿泊棟とは別の場所にあったので、私は建物を出て、暗い杉林を横切った。夜の空気は静かに澄んでいた。はるか遠くでは、太平洋の規則正しい波の音が静かに聞こえていた。これは、もしかしたら空耳だったかもしれない……。しかし、その場所が不思議なオーラに包まれていたのは確かだった。

レストランは、ホテルと海を見下ろす小高い丘の上に建っていた。建物に入るまで人影は見あたらなかったが、レストランの中は意外にも混雑していた。

入り口には、順番を待つ人たちがいたが、私が名前を告げるとボーイはすぐにテーブルに案内してくれた。

予約客を優先するのがルールらしく、受付の女性が気をきかせてくれたおかげで、すぐにテーブルに着けたのである。食事にも、給仕のサービスにも満足したのはいうまでもない。

食後には生演奏のクラシックギターをBGMに、ブランデーを楽しむうちに、結構な時間をレストランで過ごしてしまったようだ。レストランから部屋に戻る道には、もう冷たい夜気が満ちていた。

「暖炉の火を起こして、寝る前にもう一杯ブランデーを飲もう」こんなことを考えながら、杉林の小径を歩いていた。

しかし、部屋に戻った私は、またもやホテルのサービスに驚かされた。暖炉の火は赤々と燃え、枕元にはミントが置かれていたのである。

そしてベッド脇のナイトテーブルには、一杯のブランデーと手書きのカードが置かれていた。カードには次のようなことが書かれていたしベネチアにお越しいただきありがとうございます。初めてのベネチアの夜をお楽しみいただけたことかと思います。ご用がございましたら、いつでもお申し付けください。キャシー私はホテル側の十分な心遣いに満足して、眠りについた。

翌朝、私は奇妙な音で目を覚ました。泡立つような音が聞こえる。

何の音だろうかと確かめてみると、キッチンに置いてあったコーヒーメーカーのタイマーがセットされ、コーヒーを滝れはじめていた。

そこに立てかけてあつたカードにはこう書かれていた。あなたのお好きなブランドのコーヒーです。どうぞお楽しみください。

キャシー驚いたことに、そのコーヒーのプランドは私がいつも飲むものだった。どうやって彼らは、私の好みのコーヒーを知ることができたのだろうか?そういえば心当たりがあった。

昨夜のレストランで、どのブランドのコーヒーが好きかと聞かれたのである。

そのコーヒーがちゃんとここにあるのだ―レストランでの会話の意味を理解したとき、ドアをそっとノックする音が聞こえた。

私はドアのところに行き、開けてみたが、人影はなかつた。しかし、じゆうたんの上には新聞が置いてあった。いつも読んでいるニューョーク・タイムズである。

どうして私が普段読んでいる新聞を知ることができたのだろうか?思い出せば、チェツクインのときに、受付の女性に新聞のことを聞かれていた。

ここでも、きつちりと私の好みに合ったサービスをしてくれたのである。その後私の泊まるたびに、すばらしいサービスが繰り返された。

しかし、二回日以降は、私の好みについての質問はなくなった。つまり、私の好みはこのホテルの管理システムの一部に組み込まれていたのである。そして、ホテルのサービスに失望させられることは一度もなかった。

ホテルベネチアの管理システムは、私のお気に入りのものを知つていて、それをいつも確実に提供していたのである。

このシステムが提供していたものとは、何だったのだろうか?マッチ、ミント、コーヒー、新聞だろうか?大切なことは、マッチ、ミント、コーヒー、新聞ではない。

誰かが私のことを考えていてくれるということなのである。

そして「いつも」考えていてくれるのである―私は部屋に入つて、暖炉の火の温かみを感じた瞬間、誰かが私のことを考えてくれていることを知った。

私が何を望んでいるのかを考えてくれたのである。

枕元のミントも、テーブルのブランデーも、好みのブランドのコーヒーも、いつも読んでいる新聞も、すべて私が何を望んでいるかを考えてくれた結果なのである。

そして、すべてが自動的に行われていた。

これらは、マーケテイングの効果を高めるためのマニュアル的な業務となっており、ホテルの管理システムの一部となっていたのである。

三度目に宿泊した後、私はマネジャーに会わせてほしいと頼んでみることにした。どうして、常に同じサービスが提供されるのかを知りたかつたからである。

従業員が優秀だからだろうか?従業員は株主になっているのだろうか?特別なボーナスの仕組みでもあるのだろうか?

システムが顧客を満足させる

私は杉林を見下ろす明るい部屋に通された。マネジャーは二十九歳の若い男性だった。

「若いのにしっかりしている。彼がいるから、このホテルの経営はうまくいっているのだろう」私はこんな第一印象をもったc「私がマネジャーとして、このホテルでご提供しているサービスについてお話しするのは、正直申し上げて僣越かもしれません」彼は、少し決まり悪そうに切り出した。

「五ヵ月前まで、私とホテルの接点といえば、三年前にフレズノ市のホリデイ・インに二晩泊まったことがあるだけでした。実は、この仕事につく前には、近くのレストランでシェフとして働いていたのです。

ふとしたきっかけで、このホテルのオーナーと知り合い、ホテルの仕事を覚えないか?という話をいただいて、ここで働くことになりました。私がホテルの事業について知っていることは、すべてここで学んだことです」「こちらをごらんください」

彼は机の後ろに手を伸ばし、彼のイニシャルとホテルのロゴが背に印刷された赤いバインダーを取り出した。

「私たちがやっているのは、何も特別なことではありません。誰にでもできることです」彼はバインダーを開き、目次を開いた。

これが私たちの業務マニュアルです。ごらんの通り、普通のチェックリストです。客室のセッティングについてのチェックリストはこの部分です」と言って、黄色いページを開いてくれた。

このマニュアルは色分けがされています。黄色いページは、客室のセッティングに関するもの、青いページは、お客さまへのサービスに関するものです。例えば、夜に暖炉の火をつけるときには、枕元にミントを置くこと、などが書かれています

チェックリストには、客室係が仕事をするときの具体的な手順が箇条書きにまとめられていて、出勤したときに八組のチェックリストを受け取ります。客室係は一晩に人部屋を担当するので、一組のチェックリストが一部屋に対応しているというわけです

「客室係が作業をするときには、チェックリストの基準通りに仕事を行ったことを確認しなければなりません。そしてごらんの通り、リストの一番下には規定の作業を完了したことを示す、客室係のサイン欄が設けられています

サインをしているのに、仕事ができていなければ、解雇することもできるのです

「その他にも、このシステムをうまく機能させる仕組みがあります」

「チェックリストの表面は共通なのですが、裏面には部屋の間取り図が書いてあるので、部屋ごとに変えてあります。間取り図の中には、するべき仕事とその順番が書き込まれているので、間取り図を見ながら仕事をし、終わるたびに間取り図にチェックを書き込んでいけば、どこまで仕事が終わったのか一目瞭然というわけです」

「チェツクシートに間取り図があるおかげで、新人の教育も簡単にすませられますし、すぐにベテランと同じような成果を上げられるようになります」

「さらに、念には念を入れる意味でも、客室係の責任者が抜き打ちでチェックを行っているので、不十分な点があったとしても指摘ができるのです」彼は少し間を置き微笑んだ。

「でもミスはほとんどありません。このシステムは、驚くほどよく機能しています」

「従業員がスムーズに仕事を進められる仕組みがあることが、私たちのホテルのよいところかもしれません。

ほかにも照明、サウナ、プールは季節に合わせてコンピューター制御されているので、いつもお客さまに同じサービスを提供することが可能です。

もうお気づきだと思いますが、外灯はあたりが暗くなるにつれて、照度が増すようになっているので、お客さまには常に同じ明るさを提供できるのです。これも自動制御なので、従業員は他の仕事に専念することができます」

「例をあげればきりがありませんが、要点はご理解いただけたでしょうか?・ホテルベネチアでは、オーナーが『こうすればお客さまに喜んでいただける』と考えたことが、きっちりと実行されているのです。

そのため多くのお客さまが、私たちのサービスにご満足していただき、出発の際にわざわざ私のところにご挨拶にいらつしやるのです」

「とはいっても、私たちはそれほど大がかりなサービスを行っているわけではありません。お客さまが褒めてくださるのは、ちょっとした心配りに対してなのです」

私はマネジャーの話のすべてを理解した。おそらく彼の言う通りなのだろう。でも、まだ納得できない部分が残っていた。

「どんな方法で客室係がきっちりとチェックリストを使うまでに教育したのですか?・それに、いつも同じ仕事ばかりでは、退屈しないのですか?」と、私は尋ねた。「そこが私たちの強みなのです」と若いマネジャーは笑顔で答えた。

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