ある有名な家具・ふとんの会社の下請けメーカーの経営改善を依頼されたときの話である。
「いやぁ先生、あちこちのふとん屋さんから仕事をもらっていますが、このふとんの下請
けメーカーという商売は儲からず、かないません」
「そんなに嘆かれて、どうされました」
「だってね、忙しいのは九、一〇、一一月の三カ月だけ。夏にふとんはそんなに要らないから、
冬に商売が集中し、あとは暇を持て余しているといった状態なんですよ」
一年のうち三カ月間だけは超多忙だが、あとは閑散。三カ月では経営が成り立たないので、
マーケティングとして年間を通じて売れる商品の開発をお願いしたい、というのが先方の依
頼だった。早速、会社へお邪魔すると、なかなか立派な建物だった。
「うちは創業時には不動産屋だったんです。土地を売った利益で貸し倉庫を建てた。貸し
ているだけでは面白くないので、一番かさばる商品をということでふとん屋を始めたんです」
「だが、やってみると少しも儲からない。ふとんは上は模様の入ったもの、下には無地の
もので淵をステッチでかがります。得意先が大阪、京都、名古屋の有名会社など四社から五
社ありました。シーズンに入って忙しい盛りにいるんな柄の違う種類の材料が入ってきて、
それをミシン掛け、加工をしなければなりません。上と下の綿の厚さと、柄と色などをいろ
いると組み合わせていくと、本当に多種多様になり、商品管理も大変です」と言う。
「なぜ、こんなにたくさんの会社の商品をつくるのですか」と私が聞くと、
「先生方がいつも言われているでしょう。卵は一つの篭に盛るな、危険分散しろと。私は
そのために一所懸命に得意先を多くしたのです」
「でも、ものには限度というのがありますよ。しかもあなたのところはメーカーでしょう。
一シーズン、たった三カ月の仕事にそれだけ種類を揃えると、段取りだけでも時間がかかっ
てしまう。三カ月という短期間で生産性を上げようとするなら、もっと品種と得意先を絞る
べきだ」と私はアドバイスした。「でも、どんな具合に絞ちたらよいのでしょうか」と言うので、
私は聞いた。
「得意先四社のなかで一番支払条件がよくて、 一番販売力のあるのはどこですか」
「大阪の○○です」
「そこの仕事を中心にやりなさい。それから二四時間体制で仕事をしましょう」
「とんでもない、二四時間体制で仕事をやるなんて。見てください、うちの従業員はおば
あちゃんばかりですよ」
「何もあの人たちに夜中の一一時、 一二時まで仕事をしなさいというのではありません」
「では、どうするのですか」
「新規募集したらよろしいでしよう」
「こんな田んぼの真ん中で募集するのですか」
「田んぼの真ん中といっても、このへんの人たちは皆、車を持っていますから」
こんなやりとりのあと、その会社は有名寝具会社のマークを付けて人を募集したところ、
多くの応募者があった。それも若い子ばかりだ。男の子は皆元気で、夜の作業に回った。夜
間の仕事はコンピュータ制御のシステム自動ミシンを稼働させて働く。その結果、業績は一
挙に改善された。
また、先日、冬の季節商品のメーカーから相談があった。九月から一二月にとくに忙しい
会社だ。私が診断する前までは、土、日曜日は休みだったが、変形労働時間制の法律が変わっ
たこともあったので、土曜日の休みはなしにし、日曜日だけの休みに切り替えさせた。その
代わり、オフシーズンの六、七、八月は従業員に十分、休みをとらせるようにした。
この、三社の例でもおわかりいただけるように、お客様からのニーズや仕事があるときに
は、工場や機械をフルに稼働させることが大切である。せっかく土地・建物・設備を備えた
のだから、売上げを上げないとやっていけない。売上げを上げるということは、機械や工場
の稼働時間を、忙しいときには忙しく、長くさせるということだ。
ところが、こうした経営を行なっている会社は、実際には少ない。社長など経営トップを
はじめ工場責任者まで、最近では工場で働く人のご機嫌ばかりとるのに汲々としているのが
実態である。
いまでも本当に身の程知らぬぜいたくな会社がある。「いやぁ、先生、忙しいのですよ。も
う忙しくって、忙しくって」、と悲しい声で言う。嬉しい声で言うのならわかるが。「忙しい
ことはいいことではないですか」と私は言うのだが、忙しくて文句を言う人に限って、暇な
ら暇で文句を言う。
「そんなに忙しいのなら協力会社や下請けに回したら? いくらでもあるでしょう」と言うと、
「ええ、あります。でも下請けも忙しくって、仕事を引き受けてくれないのですよ!」
「それだったら機械を夜回したら」
「近所からうるさいとクレームがきます」
「それじや、休みを返上して操業したら」
「社員が出てきて働かないのです」
こんな会社は、ますます腰が弱くなる一方である。
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