中小企業の経営者からよく、こういうことを聞かれる。
「先生、イノベーションをやりなさいとおっしゃいますし、インターネットがどんどん普
及してゆくこれからの時代、わが社はいったい、このインターネットに、どう取り組んでいっ
たらいいでしょうか?」と。
中小企業の社長さんの知識や情報の多さにはいつも驚かされるが、その知識、情報を持っ
ている割に、どう取り組んでいくか、どこから入っていくか、わかっていらっしゃらない。
「社長、御社はまだ在庫管理システムもコンピュータ化していないんですよ、 一日も早く
在庫管理の簡単なシステム化からご自身で進めてくださいよ」
と言いたくなるわけである。ところで近年、私たちは口を開けば「システム化、システム化」
と言うが、システム化とはいったいどういうことなのか、皆さん実際にわかっているのだろ
うか?。ただ、単に直訳で「組織、制度、方式」と言ってもピンとこないし、それで理解せよ
と言っても難しい。
私流に言えば、システム化とは「機械+コンピュータで、組織的に誰がやっても玄人やプ
ロフェッショナルな人材がやったと同じ結果が得られる仕組みづくり」(図表615)と解釈
している。玄人、職人主義からの脱皮がシステム化であると申し上げている。
伝統ある日本料理店(中華料理店でもフランス料理店でもよいが)で考えてみよう。
一流の調理師になるには舌と美意識、体力など生まれつきの素質が要求される。さらによ
き師匠、親方のもとでの指導・訓練が必要で、 一人前になるには二〜五年どころか、 一〇年
という歳月が必要である。ひたすら人間の能力を信じ、時間をかけてゆっくり磨き上げる。
老舗、高級といわれる店舗ほど、時間が止まったかカビが生えたような「個人技」「伝承主義」
「古典主義」が大切にされている。

しかし、経営の裏側をのぞくと、ほとんどが大赤字で、あと数年しかもたない、次の時代
には引き継いでいけない危険が迫っている。それも土地・建物が昔からの所有で借入金がな
いからこそ、なんとかやっていけるのだ。
だが、人間中心なだけに、これからの時代を考えると、労務コスト(直接・間接人件費)、
労働条件(週四〇時間体制)、封建的人間関係(年功主義)、原材料(魚。肉・野菜)の高騰、建物・
内装のメンテナンス費用などを考えれば、超高販売価格でないとやっていけない。世間のイ
メージ、テレビで見るイメージとはまったく異なる赤字体質なのである。
老舗の割烹料理店でも、牛馬の労働から人間尊重主義の機械化を進める。技術能力保持者
が管理能力まで守備範囲を広げ、生産性を高めるシステム化(組織の仕組み)を実行する。単
純作業・前準備役はパート社員や女性などの戦力化を目指す。材料の加工の外注化、海外素
材の利用を行なう。また、管理(在庫、発注、事務、顧客、回収)面でもっと省力化、システ
ム化を図るよう手をつけるべきである。
人間を本当に尊重するならば、機械やコンピュータ(パソコン)を利用して、人間を牛馬の
労働から解放することである。また、機械やコンピュータはイニシャルコスト(初期投資)は
かかるが、時間の経過によりあとはずっと楽になる。では、なぜ、システム化が進まないの
か。それは次のことが弱いからである。
まず、どんなことでも、システム化するには、仕事のルールや基準をつくらねばならない。
さらにそのルールや基準が誰にでも理解でき、行なえるためには、できるだけ単純化し、各
自の役割分担がはっきりするようにしなければならない。いわゆるマニュアルづくりである。
だが、これまで勘と経験に頼って仕事をしてきた中小企業の経営者には、簡単な作業工程で
も、これを文章化するのが苦手である。
いちいち七面倒くさい文章にするよりも口で言ったほうが早い、いや、自分でやったほう
が早いという経営者がほとんどである。まして、マニュアルを社員に説明し、教育するとな
ると、なおさら面倒だし、得手でない。その点でシステムづくりは日本人は苦手である。し
かもアメリカは「結果重視」だが、日本は「プロセス重視」である。
しかし、「人を信用すること」と「人の行動を信用すること」とはまったく別の次元の問題で
あり、それが日本の中小企業のチェック下手の一因となって表われている。アメリカでは
「個々の力量」でなくコンピュータのシステムに合わないと仕事ができない仕組みになってい
る。この点でも、日本的経営は見直されなければならない時代がやってきている。
だが、日本の中小企業の間には、いまだにシステム化を進めることに対して、進める必要
なし、実力がない、技術がない、わからない、といった受け止め方が多いのも事実である。
6
コメント