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コミュニケーションとびきり高性能のルータになれ

目次

コミュニケーションとびきり高性能のルータになれ

デフォルトを「オープン」に細部を知る安心して真実を語れる環境をつくろう会話のきっかけをつくるお祈りをいくら繰り返しても御利益は減らない「ロンドンはどうだった?」自分を見つめ直すメールの心得シチュエーション別のルールブックをつくるヒエラルキーより人間関係

コミュニケーションとびきり高性能のルータになれ

グーグルに入社して間もなく、ジョナサンはあるエンジニアと話していた。

相手はジョナサンが受け取ったメールに即座に返信すること、また返信する際に大勢のグーグラーにCCすることに疑問を感じていた。

コイツは仕事の優先順位を間違えているんじゃないか。

メールへの反応がこれほど速く、情報を拡散させるのにこれだけ時間を割くというのは、ヒマな証拠だろう、と。

そこで皮肉たっぷりにこう言った。

「君はただのバカ高いルータだな!」。

おそらく侮辱するつもりだったのだろう。

ルータはネットワーク機器のなかでも、データ・パケットを転送するというかなり地味な役割を担っている。

だが、ジョナサンはそれを褒め言葉と受け取った。

企業におけるコミュニケーションをイメージすると、こんな感じになる。

二〇階建てのビルがあって、あなたはその真ん中、たとえば一〇階のベランダに立っている。

上のフロアほど働く人の数は減っていく。

最上階にはひとりしかいないが、一階(つまり〝エントリーレベル〟)は押し合い圧し合いだ。

一〇階のベランダに立っているあなたに、一つ上の階の住人(「上司」とでも呼んでおこう)が何か叫びながら何枚か書類を落とす。

風で飛んでいかないように必死でつかむと、室内に戻って内容を確かめる。

多少有用な部分もあるので、九階の住人の厳格に定められた職務範囲を意識しながら、彼らが読むべき部分を抜粋する。

それからまたバルコニーに戻ると、左の端から一枚、右の端から一枚といった具合に下の階に書類を落としていく。

九階の住人はそれを「渇いた喉に冷たい水」のように受け取る。

彼らも読み終わると、八階の〝渇いた喉〟のために必要箇所を抜粋する作業にいそしむ。

一方、一一階ではあなたの上司がまた同じ作業を始めているはずだ。

そして二〇階でも……まあ、トップが何をやっているかなんて知る術もないのだが。

企業内の情報フローは、伝統的にこんなモデルをとってきた。

経営の上層部が情報を集め、どれを誰に渡すか慎重に検討する。

この世界では、情報は支配の手段、権力の源泉として厳重に管理される。

リーダーシップの研究者、ジェームズ・オトゥールとウォーレン・ベニスは、企業で権力者となる人々の多くは「チームワークに優れているためではなく、経営上層部での権力闘争に勝ち抜いたためにその座をつかんだのであり、それは情報を隠そうとする意識を助長する」と指摘する。

思えば旧ソ連の共産党政治局員も、コピー機は鉄の扉に二重鍵をして管理していた。

誰かが忍び込んで、穀物生産五カ年計画のコピーを無断で作成したりしないように。

旧ソ連の官僚的発想から、まだ抜け出ていない企業マネジャーは多い。

下の階の民衆扇動家に、情報という名の企業帝国の鍵を渡すわけにはいかない。

だから必要最低限の情報を選択的に渡すのだ。

だがソ連は崩壊した。

このようなケチケチした情報分配システムも、従業員の仕事が「働くこと」だった時代には成功したかもしれないが、インターネット時代の従業員の仕事は「考えること」だ。

ジョナサンがビジネススクールの学生だったとき、金融学の教授が「カネはあらゆる企業の生命線だ」と言っていた。

ただ、やや舌足らずだ。

もちろんインターネットの世紀にもカネは重要だが、企業にとって真の生命線は情報である。

二一世紀の企業においてカギを握るのは、スマート・クリエイティブを吸い寄せ、すばらしい仕事をさせることだが、彼らに十分な情報を与えないかぎり、それは不可能だ。

こんにち最も成功を収めている経営者は、情報を囲い込んだりしない。

共有する(ビル・ゲイツは一九九九年にこう語っている。

「力の源泉は秘匿した情報ではなく、共有した情報だ。

企業の価値観や報酬システムに、この考え方を反映させる必要がある」)。

リーダーシップの目的は、会社全体の情報の流れを二四時間、三六五日、最適化することだ。

それにはまったく新しいスキルセットが求められる。

数年前のあの日、ジョナサンはエンジニアの〝口撃〟にこう応じた。

「ぼくがバカ高いルータに過ぎないなら、とびきり高性能な一台でありたいね」。

それには何が必要だろう?デフォルト状態を「オープン」に、失敗を恐れず高い目標を設定し、疑問を感じたら周囲と話し合えばいい。

デフォルトを「オープン」にすべてを共有することを、自分のデフォルトにしてしまおう。

グーグルの取締役会報告書が良い例だ。

これはCEO時代のエリックが始めた試みで、いまも続いている。

毎四半期、エリックのチームは会社の現状についての詳細な報告書をまとめ、取締役会に提出する。

報告書は「取締役会への手紙」と題した、会社とプロダクトに関するデータや意見などを盛り込んだ文章と、データや図表のスライドから成り立っている。

スライドは各部門の責任者(検索、広告、ユーチューブ、アンドロイドなど)が取締役会で報告する際に使う。

当然、こうした情報の大部分は一般に公表するようなものではない。

だが取締役会が終わると、私たちはおよそ〝当然〟ではないことをする。

取締役会に提出した資料を、全従業員と共有するのだ。

エリックは全社ミーティングで取締役に見せたものと同じスライドを使って会社の現状を説明し、「取締役会への手紙」はメールで全社員に送られる。

はいはい、そこのうるさ型、たしかに手紙の〝全文〟ではないことは認めますよ。

法的な理由で全従業員に共有できない情報もあるため、あらかじめ弁護士と一部の広報担当者が手紙をチェックし、法的な地雷を除去する。

「すべての情報を共有する」という車のタイヤが、「でも本当に〝すべて〟を共有するなんて、できっこない」という道路に差し掛かるわけだ。

毎四半期、善意の、そして他のあらゆる面ではグーグル的なグーグラーたちが赤ペンを手に、取締役会の手紙の一部に〝死刑宣告〟を下そうとする(実際には赤ペンは使わないが)。

「このくだりは公表できない」と。

理由は「情報が漏れたらどうするんだ?大問題になるぞ」あるいは「たとえ真実で、取締役会に話した内容だとしても、従業員には言えない。

やる気が落ちるから」といったものだ。

さいわいチェックプロセスの責任者は、「すべての情報を共有する」とは、「外部に漏れても問題がなく、誰の気持ちも傷つけない情報にかぎってすべて共有する」という意味ではないことをわきまえている。

「法律あるいは規制で禁じられているごくわずかな事柄をのぞき、すべて共有する」という意味だ。

この違いは大きい!だから、特定の文言やパラグラフを削除したいという人は、その正当性を具体的な根拠をもって証明しなければならない。

生半可な根拠では、およそ通らない。

グーグルでは二〇〇四年に株式公開をしてから、ずっと取締役会への手紙を共有してきたが、情報漏洩が問題となった例はない。

そして会社で何が起きているかわからない、という不満も一切出ない。

そんなことを言う社員がいたら、取締役会の手紙を読み、エリックのプレゼンを見ろ、と言うだけだ。

取締役会への手紙を全社員と共有することには、プラスアルファのメリットもある。

質が高くなるのだ。

取締役に見せるというだけで、たいてい質の高いものが上がってくるが、全社員に見せるとなると〝とびきり質の高いもの〟ができる。

デフォルトをオープンにするというのは、取締役会の資料に限らない。

グーグルでは基本的にすべてを共有する。

イントラネット「Moma」には、たとえば今後発売される予定のすべてのプロダクトの情報が載っているし、毎週のTGIFミーティングではプロダクトチームが開発中のプロダクトについて、そのクールな仕様をデモやスクリーンショットを交えてプレゼンテーションする。

グーグルが次に何をするのか憶測するのが好きなブロガーにとって、TGIFに出席するのはチャーリーがチョコレート工場に招かれるようなものだろう。

普通の会社なら慎重に情報管理するようなことまで、TGIFでは赤裸々に語られる。

これについても会場の後ろのほうからこっそり撮影されたスクリーンショットやデモの動画などが外部に漏れたことはない。

重要な情報を従業員を信頼して共有すれば、彼らはその信頼にこたえようとする。

もう一つ、透明性の具体例といえるのがOKRだ。

OKRとは個々の社員の目標(Objectives、達成すべき戦略的目標)と主要な結果(KeyResults、その目標の達成度を示す客観的指標)である。

すべての社員が四半期ごとに、自らのOKRを更新してイントラネットで公開することになっており、他の同僚がどんな仕事をしているかが簡単にわかる。

社内で会った人物がどんな仕事をしているか詳しく知りたいと思ったら、Momaに行ってOKRを見ればいい。

単に肩書と仕事内容の羅列ではなく、取り組んでいる仕事、大切に思っている仕事を自分の言葉でまとめたものだ。

その社員が何にモチベーションを感じるかを確かめる一番手っ取り早い方法だ。

もちろん、それを率先してやっているのが経営トップだ。

グーグルでは四半期ごとに、ラリー(それ以前はエリックも)が自分のOKRを公表し、全社ミーティングで議論する。

主要なプロダクトや事業部門の責任者も一緒に登壇し、ラリーの挙げた目標が自分の部署に持つ意味や、前四半期の目標の達成度について語

る。

単なるショーではない。

OKRは本物の目標で、各四半期の初めにプロダクト責任者との議論を通じて決定される。

前四半期のOKRのなかには、評価がレッドカード、あるいはイエローカードのものも多い。

会社の経営トップが率直に、自分たちの至らなかった点やその原因を議論する(あなたの会社のトップは、四半期ごとに達成できなかった野心的な目標について語っているだろうか?)。

このミーティングに出席した社員は、自分のOKRを作成するときに、その四半期の会社全体の優先課題をはっきりわかっている。

これは組織の規模がとほうもなく大きくなっても、全体として同じ方向を向くようにするのに大いに役立つ。

細部を知るかつてゼロックスのパロアルト研究所長を務めたジョン・シーリー・ブラウンはこう言った。

「人間の本質は、質問に答えることではなく、自ら質問することだ」。

エリックはグーグルや取締役を務める他の会社内を歩くとき、努めてブラウンの考えを実践しようとする。

しばらく顔を合わせていなかった幹部と出会っても、世間話にムダな時間は費やさない。

心をこめて挨拶すると、単刀直入に切り出す。

「君の仕事はどうだい?どんな問題がある?目標の達成度を説明してくれないか?」。

こんなふうに質問すると、いくつかメリットがある。

社内で何が起きているか把握できること、そして経営幹部のうち担当分野の細部まで把握しているのが誰かがわかることだ。

担当事業の問題点を聞かれて一〇秒で答えられない人物は、適任者とは言えない。

いまや〝部下に任せる〟というスタイルは通用しなくなった。

リーダーは細部を把握していなければならない。

エリックは記憶力抜群で、部下の目標がすべて頭に入っているため、このやり方でうまくいく。

ジョナサンの記憶力はエリックほどではないため、電話の連絡先アプリのメモ欄に部下の目標を入れておく。

誰かにばったり会うと、おもむろにポケットから電話を引っ張り出し、質問リストを表示してからエリックと同じように質問攻めにする。

正しい質問をしても、〝細部〟をつかむのはなかなか難しい。

まだエリックが入社したばかりのころ、ラリーとセルゲイがある技術的問題について、またそれに対する責任者の対応について腹を立てていた。

しばらくふたりの話に耳を傾けた後、エリックは口をはさんだ。

「最近あの責任者とは話をしたから、私から状況を説明しよう」。

そして責任者からの情報にもとづいて、そのチームで起きていることを語った。

ラリーは少し話を聞いただけで、またすぐに口をはさんだ。

「違うね。

そんなんじゃないさ。

事実はこうだ」。

ラリーが挙げたいくつかの根拠を聞いて、エリックもすぐにラリーの言い分が正しいことに気づいた。

細部を把握していたのはエリックだが、真実を把握していたのはラリーだった。

木を見て森を見ずではいけない。

なぜこんな結果になったのか。

エリックが聞いていたのはマネジャーの見解だったが、このマネジャーは「上にあげる情報は徹底管理する」という従来型の情報伝達モデルを忠実に実践していた(選択的な情報伝達は上下双方向に起こる。

あまり優秀ではない中間マネジャーにはおなじみの芸当だ)。

一方、ラリーは現場のエンジニアから情報を得ていた。

直接会話したのではなく、「スニペット」という便利なツールを使って直接情報を集めていたのだ。

スニペットは各社員の週次報告書のようなもので、数分もあれば記入できる簡潔な内容だ(ドキュメントファイルあるいはメールの下書きを使ってあとで編集することもできる)。

決まったフォーマットはないが、優れたスニペットにはその週の最も重要な活動と成果、目下取り組んでいる仕事が含まれている。

暗号のようなものもあれば(「SMBフレームワーク」「一〇%リスト」)、文章もある(「四半期パフォーマンスを完了した」「家族と休暇に出かけた」)。

OKRと同じように、全社員のスニペットはMomaに公表され、お互いに自由に見ることができる。

またラリーは長年にわたり、エンジニアリング部門とプロダクト部門の責任者から毎週スニペットの概要も受け取っていた。

こうして常に真実を把握することができたのだ。

ところで、真実と言えば……。

安心して真実を語れる環境をつくろうジョナサンは大学時代、歴史の授業を取ったことがある。

学内のフットボールチームの選手たちが好んで受講する授業でもあった。

自分のリサーチプロジェクトを発表する日が近づいたとき、教授が学生たちに「発表者にはなるべく難しい質問をするように」と言い聞かせていたのを思い出した。

悪意からではなく、出席態度の評価点が高くなるから、と。

クラスには歴史専攻の学生もおり、なんとか出席点を良くしようと、経済学専攻の自分に厳しい質問をぶつけてくるのではないか、と思うと気が重くなった。

そこで一計を案じた。

あらかじめ質問を考え、フットボール選手に配ったのである。

なんとか出席点を上げたいのは彼らも同じ。

クォーターバックやセーフティがあらかじめ仕込んでおいた質問を投げてくれたので、ジョナサンは難なくそれを打ち返し、みな満足して教室を後にした。

このジョナサンのいかがわしいやり口は、企業世界でもときどき見かける。

誰もが経営者に難しい質問を投げかけるのを恐れ、甘い球ばかりを投げる。

これは質問に限らない。

悪い知らせを報告する役まわりは避けたいというのは、最も普遍的な人間的欲求の一つに挙げられるだろう。

だがリーダーに一番重要なのは、まさに悪い知らせなのだ。

良い知らせは次の日もあまり変わらないが、悪い知らせは日を追うごとにさらに悪くなっていく。

だから部下が身の危険を感じることなく、トップに難しい質問を投げたり、どれほど厳しい知らせであっても報告したりすることができる環境を常につくっておくことが大切なのだ。

何かが計画どおりに進んでいなくても、その事実が迅速かつ率直にトップに報告されるなら、(手放しで喜ぶことこそできないが)情報伝達プロセスがきちんと機能していることは確かだ。

炭鉱でカナリアが死んでいるのに変わりはないが、少なくともあなたはその事実を把握している。

そして黄色い亡骸を運んできた哀れな社員は、自分がそのまま炭鉱に送り返されないとわかっている。

つらい真実をトップに報告しやすい環境をつくるうえで、いくつかお薦めの方法がある。

グーグルでは新プロダクトや主要機能を発表した後、担当チームに「反省会」をさせている。

全員で集まり、うまくいったこと、いかなかったことを話し合うのだ。

結果は社内で公表し、誰でも見られるようにする。

ただ、反省会の最大の成果は、このプロセスそのものだ。

率直で透明性の高い、誠実なコミュニケーションをうながす機会を逃してはならない。

もう一つの例がTGIFだ。

ラリーとセルゲイが毎週主催するこのミーティングでは、何の制限・制約もないQ&Aセッションが常に設けられてきたが、会社の規模が大きくなるにつれて、うまくいかなくなった。

そこで「ドリー」という名前のシステムが誕生した。

直接質問ができない人(あるいはしたくない人)は、ドリーに質問を送れるようにしたのだ(《ファインディング・ニモ》に出てくる忘れっぽい魚のドリーにちなんで命名されたシステムだが、なぜそうしたのかは思い出せない)。

ドリーに質問が来ると、それが良い質問か悪い質問か、社員が投票する。

良い質問という評価が増えると、質問の優先順位は上がっていく。

厳しい質問ほど、評価は高くなる傾向がある。

TGIFでは、ラリーとセルゲイが答えやすい質問だけを選べないように、ドリーの質問はスクリーン上に表示される。

ふたりは厳しい質問か否かにかかわらず、上から順番に質問に答えなければならない。

ドリーを使うと、誰でも直接CEOや経営幹部にとびきり厳しい質問ができる。

またクラウドソーシング的性質のため、お粗末な質問はほとんど日の目を見ない。

一方、お粗末な回答はもっと〝ローテク〟なかたちで断罪される。

TGIFの出席者は赤と緑の札を配られ、質問に対して十分な回答がなされなかったと感じた場合は赤い札を振ることになっている。

エリックは透明性に対するグーグルのアプローチを「上昇、告白、順守」モデルと呼ぶ。

パイロットは緊急事態に陥ったとき、まず上昇せよ、と教わる。

危険から逃れるのだ。

次に告白、つまり管制塔と連絡をとり、自分がどのようなトラブル状態にあるかを説明する。

最後に順守だ。

管制塔にどうすればよいか指示されたら、そのとおりにやるのだ。

会社で部下があなたのところに悪い知らせ、あるいは問題を報告しに来たら、「上昇、告白、順守」を実践しているのだと考えよう。

どうすればよいか、思い悩んだ末に来たはずだ。

だからその率直さに報いるために、話に耳を傾け、支援の手を差し伸べ、次に着陸を試みたときには必ず成功すると信じよう。

会話のきっかけをつくるマイケル・ジャクソンのコンサート準備過程を描いたドキュメンタリー映画《マイケル・ジャクソンTHISISIT》が二〇〇九年一〇月に公開されたとき、ジョナサンはあるアイデアを思いついた。

マウンテンビューにあるグーグルのメイン・キャンパスの目と鼻の先にはシネコンがある。

そこでジョナサンは公開初日のチケットを大量に買い込み、プロダクトチームに好きな時間に観に行っていいと声をかけた。

数百人が誘いに乗った。

いくつものグループが連れ立

って、〝キング・オブ・ポップス〟がカムバックコンサートの準備に取り組む姿を観に行った。

結局コンサートはマイケルの急死によって幻になってしまったが。

ジョナサンの友人や同僚のなかには、仕事の生産性を犠牲にしてまで、たくさんのグーグラーに映画を観に行かせる価値があったのかと批判的な見方もあった。

だが、ジョナサンの答えはもちろん「イエス」だ。

この映画には、世界一流のスマート・クリエイティブが細部に徹底的にこだわり、そして常に顧客目線に立ち、仲間とともに最高のパフォーマンスをつくりあげようとする姿が描かれている。

ただ映画鑑賞ツアーを企画したのには、もう一つの隠れた理由があった。

「会話のきっかけづくり」である。

その後何カ月にもわたり、ジョナサンはエスプレッソマシンの前やカフェテリアで、プロダクトチームの幹部から入社したての若手社員まで数えきれないほどの同僚から「映画のチケットをありがとう」と感謝の言葉をかけられた。

そんなとき、ジョナサンはきまって「どこが良かった?」と尋ねた。

そこから会話が広がっていった。

会話はいまでも最も重要かつ効果的なコミュニケーション手段である。

しかし技術の進歩や仕事の忙しさによって、会話のチャンスは減っている。

私たちは世界中どこでも常時接続が可能な時代に生きている。

それはすばらしいことであると同時に、危険な誘惑をはらんでいる。

あなた自身、目と鼻の先に座っている同僚と会話する代わりに、メールやチャットやテキストメッセージで済ませた経験がないだろうか。

残念ながら、これは非常に多い。

私たちも例外ではない。

社会学者はこの現象を「怠惰」と呼ぶ。

ただテクノロジー好きなスマート・クリエイティブの名誉のために言い添えておくと、「怠惰」以外にも理由はある。

経営トップや幹部がどれほど率直な対話を呼びかけ、「オープンドア・ポリシー」を採用しようとも、実際にそのドアをくぐろうとする社員がいなければ何の意味もない。

組織の右も左もわからない人間にとって、会話を始めるのは難しい。

とくに大企業の、新参者にとってこれは切実な問題だ。

リーダーのほうから手を差し伸べる必要がある。

グーグル屈指のリーダーのなかには会話を促すために、ちょっと変わった試みをする者もいる。

たとえばウルス・ヘルツルは〝ユーザ・マニュアル〟をつくった。

部下(その数は数千人に達する)に自分という人間の扱い方、壊れた場合の修理法などを説明するためだ。

マリッサ・メイヤーは「オフィスアワー」を定期的に設けていた。

これもグーグルが創業初期に学術界から取り入れた習慣の一つだ。

マリッサは大学教授と同じように週に数時間の枠を設け、自分に話がある人は自由に訪ねて来られるようにした。

希望者はマリッサのオフィスの外に掛けてあるホワイトボードに名前を書き込むことになっており(オフィスを共有するグーグラーは、オフィスアワーになるとどこかへ逃げ出した)、水曜日の午後になるとオフィスまわりのソファは順番待ちの若いプロダクト・マネジャーでいっぱいになった。

たいていの会社には、特定分野について誰もかなわないような専門知識を持っていたり、組織のことなら知らないことはないといった〝部族の長老〟がいる。

社内で有名な人もいれば、有名ではない人もいるだろう。

リーダーが入社したばかりのスマート・クリエイティブのために何かしてやりたいと思うなら、そんな長老と引き合わせてあげるのが一番だ。

かつてのベル研究所では、この長老的な存在を「本を書いた人」と呼んだ。

たいてい特定の分野で必読とされる本や論文を書いていたからだ。

上司が新入社員に、「本を書いた人」にアドバイスを求めにいくよう指示することも多かった。

多くの企業(大学も同じだが)のマネジャーは反射的に、新入社員を組織内のスーパースターから遠ざけておこうとする。

バカな質問でもして、スターの時間をムダにするんじゃないかと心配するためだ。

だが、それは間違いである。

もちろん、新人がバカな質問をすることはあるだろう。

ただ、たいていのスーパースターは自分の時間をムダにする人間に寛容ではなく、相手に容赦なくそれを思い知らせる。

未熟なスマート・クリエイティブでも、一度でもそんな目に遭えばすぐに学習し、二度と同じ失敗は犯さない。

お祈りをいくら繰り返しても御利益は減らない仕事に限った話ではないが、何かを人に伝えたいと思ったら、たいてい二〇回は繰り返す必要がある。

数回言うだけでは、みんな忙しすぎて、おそらく気づかないだろう。

さらに何回か繰り返すと、「あれ、なんか聞こえたかな?」ぐらいに思ってもらえる。

一五~二〇回ほど繰り返して、自分ではいい加減うんざりしはじめたころ、ようやく周囲に伝わりはじめる。

だからリーダーは常に〝コミュニケーション過剰〟であるべきだ。

エリックのお気に入りの格言は「お祈りをいくら繰り返しても御利益は減らない」。

「聖母マリアへの祈り」を始終口にしている神父様もきっと同意見だろう。

ただ、「正しいコミュニケーション過剰」と「誤ったコミュニケーション過剰」の違いは頭に入れておこう。

インターネットの世紀には、技術のおかげで簡単に多くの人と多くの情報を共有できるようになった。

おもしろい記事を見つけたら、リンクをカット&ペーストして、興味がありそうな人全員にメールで送ればいい。

やった、これで文句なしにコミュニケーション過剰だ!それで他の人の時間までムダにしてしまう。

誤ったコミュニケーション過剰は無益な情報の拡散を招き、すでに満杯のメールボックスにさらにムダな情報を流し込むだけだ。

「正しいコミュニケーション過剰」の基本的ルールをいくつか挙げておこう。

①そのコミュニケーションは、あなたが全員に伝えたい重要なテーマを強調するものか?このルールを満たすには、まず重要なテーマをはっきりさせる必要がある。

「お祈りをいくら繰り返しても御利益は減らない」という言葉のとおり、まさにお祈りのようなものだ。

全員に理解してもらいたいこと。

神聖なもの。

数は少なく、あなたの会社のミッション、価値観、戦略、業界に関係するものだ。

グーグルの場合「ユーザ第一」「大きなことを考えよ」「失敗を恐れるな」といったことがそれにあたる。

また、私たちはテクノロジー楽観論者だ。

テクノロジーとインターネットには、世界に良い変化をもたらす力があると信じている。

ところで、二〇回言っても周囲に伝わらないことがあるなら、それはコミュニケーションの方法ではなく、テーマに問題がある。

たとえば毎週の全社ミーティングで戦略や事業計画を繰り返しても、社員が理解しない、あるいは信じようとしないなら、言い方ではなく、内容に問題があるのだ。

②コミュニケーションは効果的か?正しいコミュニケーションには、新鮮な情報が必要だ。

「お祈りを繰り返しても御利益は減らない」とは言っても、ただ繰り返すだけではダメだ。

アメリカの小学校では「忠誠の誓い」を子供たちに暗唱させ、一字一句頭に叩き込むが、その過程で意味は完全に忘れられる。

同じアイデアを伝えるにも、聞き手の注意を引くには提示方法を変える必要がある。

たとえばエリックが定期的にグーグラーに配信するメモは、常に「ユーザに焦点を絞ること」の大切さに触れている。

新鮮さを持たせるため、あるときにはユーザの入力する検索語が毎年五%ずつ長くなっているという事実を挙げ、ユーザが着実に進化していることを指摘した。

ほとんどのグーグラーが知らなかった新鮮かつ興味深い事実だ。

それによって言い尽くされたテーマへの関心が生まれた。

③コミュニケーションはおもしろく、楽しく、刺激的か?経営陣には、たいてい好奇心が足りない。

目の前の仕事をこなすことだけに集中し、コミュニケーションもなるべくビジネスライクに済ませようとする。

だが、スマート・クリエイティブというのは興味の幅が広い。

だからあなたが伝えようとしてきた重要なテーマとかかわりがあり、示唆に富む、興味深い記事を見つけたら、シェアしよう。

重要なポイントを抽出し、メンバーに興味を持たせよう。

あなたが遮眼帯をはずし、話題を広げれば、周囲も歓迎するだろう。

みんなも好奇心を持ちたいのだ。

数年前ジョナサンは、ジャーナリストでワイヤード誌の初代編集長だったケビン・ケリーの記事に目を留めた。

「ムーアの法則は必然だったのか」と題したこの記事は、ムーアの法則の歴史を振り返り、その〝次世代版〟が生まれるのは必然である、と予測していた。

そこでジョナサンは自分のチームのメンバーに宛てて、記事内容を要約し、いくつかの短い質問を添えてリンクを送った。

「みんなもムーアの法則の次世代版が生まれるのは必然だと思う?」「いまの法則が効力を失うのはいつだろう?」「ケリーの結論を踏まえて、グーグルの仕事のやり方で変えるべき点はあるかい?」。

このメールをきっかけに、一週間にわたる熱い議論(会話だ!)が巻き起こった。

「ムーアの法則の今後」というテーマは、グーグルの業務あるいは議論に参加したスタッフの仕事に直接関係するものではなかったが、テクノロジーの将来に賭けるというグーグルの包括的戦略には深いかかわりがあった。

④コミュニケーションに心がこもっているか?あなたの名前で発信するなら、あなた自身の考えをきちんと入れよう。

効果的なコミュニケーションをしたければ、一〇〇%アウトソースで済ませることはできない。

文章のうまい人に表現を直してもらうのは構わないが、内容はあなた自身の考え、アイデア、経験でなければならない。

一〇〇%本物に近いほどいい。

二〇〇九年末にイラクを訪れたエリックは、イラクでうまくいっていること、いっていないことに関する自分なりの考察を短い文章にまとめた。

受け取った者

にとってはグーグラーの立場からすれば直接関係がなくても、地球市民という立場からすれば大切な問題だったので、すぐに会社中に広まった。

もっと気楽なところでは、ジョナサンは娘のサッカーの試合の名シーンをよくチームメイトに送る。

戦闘地域を訪れたり、親としての誇りではじけそうになったときには、思い切ってそのストーリーを語ってみよう。

⑤コミュニケーションは正しい相手に届いているか?電子メールの問題点は、おそろしく簡単に宛先を追加できることだ。

アイツにもこの情報は送るべきかな?まあいいや、追加しとけ。

それともチームのメーリングリストでさっさと一斉送信しておくか――といった具合に。

ただ、優れたコミュニケーションとは、その情報を有益だと感じる相手だけに届くものだ。

適切な相手のリストをつくるのは手間がかかるが、数秒かけるだけで大きな効果がある。

メーリングリストを使わず、適切な相手だけを選ぶようにすれば、受け取った相手が読む確率が高くなるのだ。

逆の立場で考えてみよう。

メーリングリストで送られてきたメールと、直接自分宛に来たメールでは、どちらが開封する可能性が高いだろう?ジャンクメールと手渡しされたカードぐらいの違いがある。

⑥メディアの選択は適切か?あらゆるコミュニケーション手段を活用しよう。

情報収集の方法は人によって違う。

特定の人には効果的な媒体も、他の人には効果がないかもしれない。

重要なメッセージがあるなら、あらゆるツールを使って送ろう。

電子メール、動画、SNS、会議、ビデオカンファレンス、チラシやポスターにして社内のキッチンやカフェに貼り出してもいい。

あなたの会社で働く人たちにはどのツールが有効か確かめ、活用しよう。

⑦正直かつ謙虚に。

不運な事態に備えて好意を蓄えておこう。

スマート・クリエイティブにはたくさんの選択肢がある。

あなたの会社にとどまる必要はない。

常に正直かつ謙虚に語るよう心がければ、社員の好意や忠誠心は蓄積されていくはずだ。

そして何か失敗をしたら、それも正直かつ謙虚に伝えよう。

好意の〝残高〟は多少目減りするかもしれないが、枯渇することはない。

「ロンドンはどうだった?」たいていのビジネスパーソンは職場会議に出席する。

あなたにもきっと何百回と経験があるだろう。

内容はだいたい想像がつく。

現状報告や細々とした業務連絡を聞き、目を開いたまま居眠りし、机の下でこっそりメールをチェックし、「なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ」とぼんやり考えたりする。

典型的な職場会議の問題点は、チーム全体が直面している重要な問題を議論するのではなく、担当ごとの状況報告に重点を置くことだ。

この結果、あまり大切ではないことばかりに時間を割き(あらゆる業務について毎週報告を聞く必要が本当にあるのだろうか?)、重要なことは十分議論されないまま終わってしまう。

このやり方は縦割り主義を助長するという弊害もある。

「パムの仕事は品質管理、ジェイソンは営業」といった具合に。

こんにちチームが直面している最も重要な課題に、全員一丸となって取り組む場にはならない。

単調な職場会議をおもしろくする、簡単な手がある。

参加者に出張の報告をさせるのだ。

小学生が「夏休みの思い出」を話すのと同じように、出張した社員に現地で見たこと、学んだことを話してもらう。

毎回、出張報告で会議を始めてもいい(出張した人がいない週は、誰かに週末に何をしたか語ってもらおう)。

出張報告によって会議はおもしろくなる。

そこから会話が始まるし、会議で報告しなければならないとわかっていれば、きっと準備をしてくるだろう。

また質の高い出張報告は、会議の参加者が縦割り的発想から抜け出すきっかけになる。

それこそ職場会議の質を高めるのに欠かせない要素だ。

担当業務にかかわらず、会社全体、業界、顧客、パートナー企業、異なる文化について自分の意見を持つことを奨励しよう。

グーグルのCFOであるパトリック・ピシェットは二〇〇八年に入社して間もなく、ロンドンオフィスを訪れた。

パトリックがロンドンから戻ると、エリックはスタッフ・ミーティングの冒頭で「ロンドンはどうだった?」と水を向けた。

ロンドンオフィスとそこで会ったスタッフのすばらしさについてひとしきり語ったあと、パトリックはまったく別の話題に移った。

ロンドン滞在中、目に入ったすべての携帯電話ショップに立ち寄り、さまざまな端末や料金プランについてセールスマンと話をしてきたという。

こうしてパトリックは出張報告のなかで、グーグルの新しいモバイルOSアンドロイドや大量のアプリが販売現場でどう受け止められているか、最新情報を伝えたのだ。

財務とはまったく関係のないトピックだが、パトリックは自分の担当分野の話題しか語っていけないとは思わなかった。

彼の出張報告によって、全員が会社全体に関する意見を持つことができ、またそうすべきである、という高い基準が設定された。

自分を見つめ直すエリックが大切にしているルールの一つは、経営者の黄金律と言ってもいいだろう。

「自分の下で働きたいと思うような上司であれ」。

自分がマネジャーとしてお粗末で、部下だったら最悪だろうと思うなら、ちょっと努力したほうがいい。

これを実践するのに一番効果的なツールは自己評価だ。

少なくとも年一回、自分自身の仕事ぶりを振り返って書き出し、読み返し、自分なら自分の下で働くか考えてみるのだ。

それから実際に自分の下で働いているスタッフと共有しよう。

通常の三六〇度評価よりも、よほど有益な情報が得られる。

まずあなたが自分自身を批判することで、まわりの人が率直に意見を言いやすくなるからだ。

本書ではすでにエリックが二〇〇二年に書いた自己評価を見てきた。

ビル・キャンベルの果たした役割について、またエリックが当初(誤って)コーチなど必要ないと考えていたというくだりである。

このときの自己評価では、エリックはほかにも自分の至らなかった点をいくつか率直に認めている。

たとえば「もっと早くチームを活性化し、多くの意思決定を実行すべきだった」「もう少し気短になり、意思決定において強制的に議論を打ち切るべきケースもあった。

必要以上にコンセンサスの形成を重んじた場面があった」といったことだ。

エリックのチームは、こうした自己批判をとても好意的に受け止めた。

CEOも自分たちと同じように、もっと上を目指そうとしていることが伝わったからだ。

メールの心得インターネットの世紀のコミュニケーションには、たいていメールが使われる。

メールはとにかく有益で有効なツールだが、根っから楽観的で前向きな人にまで不要な不安やいらだちを感じさせることがままある。

相手にそんな思いをさせないために、私たちが心がけていることを紹介しよう。

①すぐ返信する――世の中にはメールの返信が即座にあるとアテにできる人と、アテにできない人がいる。

前者になるよう努力しよう。

私たちが知っているなかでもとびきり優秀で、しかもとびきり忙しい人は、たいていメールへの反応が速い。

私たちなどごく一部の相手に限らず、誰に対してもそうなのだ。

メールにすばやく返信すると、コミュニケーションの好循環が生まれる。

チームや同僚が、重要な議論や意思決定のメンバーにあなたを加えるようになる。

また誰に対しても同じようにすばやく反応すれば、フラットで能力主義的な企業文化の構築を助長することができる。

返信は短くていい。

私たちがよく使うのは「了解」だ。

迅速な返信能力に自信があるなら、返信しない場合はどういう意味か、周囲にはっきり伝えておくこともできる。

私たちの場合、それは通常「了解したから、進めてくれ」の意味だ。

普通の人が返信しないのはもっと悪い意味が込められている。

たいていは「忙しすぎて、いつ返信できるか、そもそも返信できるかわからない。

返事がほしければ、そのまま待っていてくれ。

ついでに、あんたのことは嫌いだ」という意味だ。

②メールでは一言一句が大切で、ムダな長文は要らない――メッセージは簡潔に。

問題を説明する場合は、明確に定義する。

このルールをきちんと守ろうとすると、時間がかかる。

下書きを書いたら読み返し、不要な言葉をすべて消していこう。

エルモア・レナードは作家として成功した秘訣を聞かれ、こう答えた。

「読者が読み飛ばしそうな部分を削る」。

たいていのメールには、読み飛ばせるような部分が山ほどある。

③メールの受信トレイは常にきれいにしておこう――受信トレイを眺めながら、どのメールから返信しようか悩んでいたりしないか。

すでに読んだメールを読み返すのに、時間を使っていないか。

どのメールから返事をしようか、考えるのは完全な時間のムダだ。

すでに読んだ(とはいえ返信しなかった)メールを読み

返すのも同じだ。

メールを開封した場合、いくつかの選択肢がある。

十分読んだうえで、読む必要がないものと判断する、読んだうえですぐに反応する、読んだうえであとで反応する、あとで読む(読む価値はあるが、緊急性が低く、いま読むには長すぎる)、である。

どの選択肢をとるか、即座に決めよう。

それもなるべく最初の二つを選ぶよう心がけたい。

使い古された略語だが「OHIO(OnlyHoldItOnce、対処するのは一度だけ)」を覚えておこう。

メッセージを読み、何をすべきかわかったら、すぐに行動に移そう。

そうしないと、必ずあとで読み返すことになり、それはまったくの時間のムダだ。

これをきちんとやっておくと、受信トレイはほぼ、熟慮する必要のある複雑な問題だけが並ぶ「やることリスト」になる。

このタイプのメールには「対処する」というラベルをつけるか、Gメールならスターをつけておくといい。

ほかにはあとで読めばいい数本のメールが残っているだけになる。

メールの量に圧倒されて、受信トレイから機械的に「対処する」フォルダに移すようなことにならないように、対処すべきメールは〝その日のうちに〟処理しよう。

一日の締めくくりの作業にうってつけだ。

毎日、受信トレイのアイテム数をゼロにするのが理想だが、五つ以下なら問題ない。

それより多いと、あとで優先順位を決めるのにムダな時間を取られることになる。

④メールの扱いは「LIFO(後入れ先出し)」で――古い案件は、すでに他の人が処理してくれている場合もある。

⑤自分が「ルータ」であるのを忘れずに――有益な情報を含むメッセージを受け取ったら、それを有益と感じる人が他にもいないか考えてみよう。

一日の終わりには、その日受け取ったメールを頭のなかで振り返り、こう自問しよう。

「誰かに転送すべきだったのに、転送しなかったメールはないか?」⑥「BCC」を使うときには、その理由を自問してみよう――たいてい何か隠し事をするためだろう。

それは非生産的で、透明性の高い企業文化を蝕むリスクがある。

そんなときは対象者を「CC」に入れるか、送信者に含めないほうがいい。

唯一「BCC」を使う意味があるのは、誰かをメールのスレッドから外すときだ。

長いやりとりが続くスレッドで「全員に返信」機能を使うときには、すでに参加する必要のなくなったメンバーをBCCに移し、その事実を本文に明記しよう。

相手も不要なメールを受け取らずに済むようになり、ほっとするだろう。

⑦メールで相手を叱り飛ばさない――誰かを叱責する必要があるなら、直接会ってそうするべきだ。

メールを介すと小言を言うのが、ものすごく楽になるので自戒したい。

⑧仕事の依頼をフォローアップしやすくする――誰かに何らかの行動を求めるメッセージを送る場合は、件名に「フォローアップ」と書いて、自分宛にも送っておこう。

そうすると、進捗していない案件をフォローしやすくなる。

最初のメールの冒頭に「これ、終わった?」という新しいメッセージを加えて、再送すればいい。

⑨あとで検索しやすいように工夫する――あとで読み返すかもしれないメールを受け取ったら、件名に内容を説明するキーワードをつけて自分に転送しておこう。

未来の自分はどうやってこのメールを検索するだろう、と考えてみるのだ。

あとで検索するときには、きっと同じ検索語を使うだろう。

これはメールだけでなく、重要な書類の整理にも役立つテクニックだ。

ジョナサンは家族のパスポート、免許証、健康保険証などをスキャンして、キーワードを件名に入れて自分に送るようにしている。

万が一、旅先でこうした書類をなくしてしまっても、ネットに接続できれば簡単にコピーが手に入る。

シチュエーション別のルールブックをつくる経営者はさまざまな相手と向き合う。

従業員、マネジャー、取締役、アドバイザー、顧客、パートナー企業、投資家など。

異なる状況で最も効果的なコミュニケーション方法をルールブックのようにまとめておくと役に立つ。

私たちのものを紹介しよう。

●一対一の面談――リストを持ち寄るビル・キャンベルから、一対一の面談(マネジャーと部下との定期的な面談など)に役立つ、おもしろい方法を聞いたことがある。

マネジャーも部下も、ミーティング中に話し合うべきトップ五項目を書き出してくるのだ。

それぞれのリストを照らし合わせると、おそらくいくつかは重複するはずだ。

一対一の面談の目的は、たいてい問題を解決することだ。

マネジャーと部下が重視する問題がまったく一致しない場合、根底にもっと重大な問題があるサインだ。

ビルは一対一の面談に使えるフォーマットも提供してくれた。

私たちも活用しており、とても効果がある。

1職務に対するパフォーマンスa売上数値などbプロダクトの発売、あるいはプロダクトのマイルストーンなどc顧客からのフィードバック、プロダクトの品質などd予算数値など2他の部署との関係(組織の一体感・一貫性を保つのに不可欠)aプロダクトとエンジニアリングbマーケティングとプロダクトcセールスとエンジニアリング3マネジメント・リーダーシップa部下の指導・コーチングをしているか?b質の低い社員を選り分けているか?c採用に真剣に取り組んでいるか?d部下たちを英雄的行動に駆り立てているか?4イノベーション(ベストプラクティス)a常に前進しているか。

どうすれば常に向上できるか考えているか?b新しい技術、プロダクト、仕事の方法を常に評価しているか?c自分と業界・世界のトップ企業を比較しているか?●取締役会――「首は突っ込み、手は出さない」取締役会の目的は、調和、透明性、助言である。

経営者としては取締役会議を終えるときには、自分の戦略や戦術に対して取締役の支持を得ていたい。

取締役にはすべてを包み隠さず伝えなければならない。

また(たとえ無視するつもりでも)取締役の助言には真摯に耳を傾けよう。

取締役は心からあなたの役に立ちたいと思っているが、あなたほど会社の情報に通じているわけではない。

要するに、取締役に求めるべきは「首は突っ込み、手は出さない」姿勢だ。

エリックはCEOだったころ、取締役会の冒頭で必ず前四半期のハイライトと問題点を簡潔に説明した。

とくに大切なのは後者で、準備に一番時間をかけたのもここだ。

取締役会に悪い知らせを伝えるのは、良い知らせを伝えるよりずっと難しいからだ。

ハイライトは放っておいてもうまくいくが、担当部署に問題点を説明させると、必ず事実を取り繕おうとする。

「こんな問題がありましたが、それほど悲惨な状況ではなく、すでに対策も打っています」といった具合に。

会社が直面している問題が、すべてそんな状態にあるはずはない。

だから一番好ましいのは、とにかく正直に情報を伝えることだ。

「私たちは困難な問題に直面しており、すべての解決策を持っているわけではありません」。

エリックは売上、競合、プロダクトなど幅広い分野の問題点を正直かつ率直に提示し、その結果、取締役会では真剣な議論が行われた。

たとえばある会議では、グーグルに官僚主義が蔓延し、動きが鈍くなっている問題を取り上げた。

問題点にはこう書いた。

「グーグルが便秘になった。

議論すべき重要な課題である」ハイライトと問題点を説明した次は、各プロダクト部門、業務部門についての詳細なレビューだ。

議論の材料となるのは簡潔なデータで、プレゼンテーションの準備は広報部門や法務部門ではなく、各プロダクトに直接かかわっているプロダクト・マネジャーが行う。

ジョナサンは配下の特別優秀なスマート・クリエイティブにこの役割を与えた。

大変な労力が必要な作業だが、彼らなら完璧にやることがわかっていたからだ。

優秀な人材にとって、取締役会のためにプレゼンテ

ーション(それに添える手紙も)を準備するという経験が、エグゼクティブ・レベルのコミュニケーションのあり方やスキルを身に着け、また会社で何が起きているかを理解するすばらしいチャンスになるという考えもあった。

このような仕事を広報部門のスタッフに任せれば、会社の将来を担う人材に貴重な現場経験を積ませるチャンスを棒に振ることになる。

取締役会はガバナンスや訴訟問題より、戦略やプロダクトを議論すべきだ(ガバナンスや訴訟問題のほうが好きだという取締役は、代えたほうがいい)。

取締役会のルールや議題を決めるときにはこの原則を頭に入れ、会社が厳しい状況に置かれたときも貫こう。

エリックがソフトウェア会社シーベル・システムズの取締役を務めていたころ、同社はSECから二〇〇〇年代初頭に犯した数々の規則違反を追及されていた(二〇〇五年にはオラクルに買収された)。

取締役会は弁護士対応や法的責任の検討など法務の議論一色になり、徐々に悪化していた事業について話し合うことはほとんどなかった。

コアビジネスの悪化といった厄介な問題を議論するよりは、事務連絡で時間をつぶしたほうが経営者としては気が楽だ。

だが取締役会の意義は戦略を議論することにある。

ガバナンスの問題ばかりに時間をとられていると、戦略をめぐる興味深い議論や貴重な洞察が得られることはない。

もちろん、重要な法務問題や短期的課題については取締役会に報告しなければならないが、たいていは小委員会で議論し、本会議では一五分程度の時間をとってその結果を報告すれば済む。

エリックはグーグルのCEOになったとき、取締役会は会社全体の戦略に関する問題に集中する、と宣言した。

エリックが取締役を務めていた当時のアップルもそうした姿勢を貫き、毎回の取締役会では、プロダクト、リーダーシップ、戦略をめぐるすばらしい議論が行われた。

そしてもちろん、議論の主導権が誰にあるかははっきりしていた。

取締役会のメンバーには定期的に電話連絡を入れるようにしよう。

相手の留守電につながることを期待しながら;)。

●パートナー企業――外交官の流儀にならえプラットフォームを構築し、プロダクトのエコシステムを発展させていくには、パートナー企業の協力が欠かせない。

そうしたなかで、二つの企業が一部の分野で競合しつつ、別の分野では協力関係にある、という興味深い状況が出てくる(「コーペティション(協力+競争)」「フレネミー(友人+敵)」といった造語もある)。

こうしたケースにうまく対処するには、人類最古のコミュニケーション技術の一つ、すなわち「外交術」を身に着ける必要がある。

複雑なビジネス・パートナーシップはさまざまな面で、「リアルポリティーク(現実政治)」に通じるところがある。

国家関係をイデオロギー的原則ではなく、プラグマティズムにもとづいて運営しようとする政治である。

互いへの積年の恨みを抱きつつ、協力する方法を見いだしたほうが双方にとってプラスである。

反対に協力を拒み、戦争になれば、お互いにとって破滅的だ。

たとえば米中間にはたくさんの問題がある。

ただ両国間では活発に通商が行われていることを思えば、差異を乗り越えて関係を維持・構築する方法を模索しなければならない。

国家にもビジネス・パートナーにも、それぞれの信念体系があり、その違いは歴然としている。

パートナーシップを成功させる重要な第一歩は、こうした違いを認め、それを受け入れることだ。

相手の国や企業にも自らのシステムと信念を保つ権利があり、こちらと同じような強い信念でそれを貫こうとするだろう。

そのようなパートナーとの協力関係を築くには、善悪の判断を控える必要がある。

一九六九年、アメリカの国家安全保障問題担当大統領補佐官であったヘンリー・キッシンジャーはこう言った。

「私たちには恒久的な敵なるものは存在しないこと、また共産主義国、具体的には共産中国のような国々に対しても固有のイデオロギーではなく、その行動にもとづいて評価するという考えは、常々明確にしてきた」。

それから二年も経たないうちに、キッシンジャーは中国を極秘訪問し、第二次世界大戦以降途絶えていた米中の外交関係復活の道筋をつけた。

パートナーシップが外交のようなものならば、外交官に任せるべきだと考えるのが合理的だ。

とくに重要なパートナーシップについては、双方の利益のために活動する専門の担当者を置くべきだ。

外部のパートナーを満足させつつ、自社の利益最大化を目指すのである。

これは自社の利益追求だけに偏りがちな、従来型の営業担当の役割とはまったく違う。

●取材対応――メッセージを送るより対話しようメディアの取材を受けるとき、準備を手伝ってくれるスタッフはいるだろうか。

その場合、うるさいジャーナリストが聞きそうな質問と、新プロダクトサービスの趣旨にできるだけ引きつけた人畜無害な回答の並ぶ想定問答集(FAQ)も渡されるだろうか。

そしてその想定問答集を受け取って、「これこそ私が言いたいことだ!」と思うことはあるだろうか。

答えが「イエス」なら、あなたはシリコン・チタニウム合金でできたロボットに違いない。

メディアとのインタビューを、一言一句練り上げたマーケティング用のスピーチと勘違いしている人は多い。

ジョナサンは広報担当にとっては厄介な相手だったはずだ。

インタビュー用の台本を見せられて、「猿まわしの猿が必要なら、手配しようか?」と言ったことは一度や二度ではない。

だが自分はおよそ猿ではないし、インタビューを引き受けさせたいなら、もうちょっと実のある話を用意してくれ、と。

有意義なインタビューとは、ブランドのマーケティング・メッセージを反復するものではなく、知的な会話であるべきだと考えているからだ。

優秀な広報担当者は、メッセージの押しつけと対話の違いを理解している。

メッセージの押しつけは、たいてい記者の質問への答えにはならない。

対話では質問に耳を傾け、知的な回答を考えなければならない。

洞察やストーリーを盛り込み、またメッセージを機械的に繰り返すのは避けつつ、きちんと伝える必要がある。

コミュニケーションが失敗するリスクを抑えることばかりに気を取られる人は多い。

たしかにメッセージの押しつけはダウンサイドリスクを抑えられるが、それ以外の成果も一切期待できない。

決まったメッセージを繰り返しているだけかどうかは、傍目にはすぐにわかる。

ジャーナリストと知的な会話をするのは難しい。

台本を丸暗記するより、よほど大変だ。

ジャーナリストとの言葉の応酬によって、対立ムードが生じることもある。

ジャーナリストの多くは意図的にそうした緊張感を生み出そうとするが、たいていの人は対立を避けようとする。

だから記者と本物の会話をするなら、インタビューの結果書かれた記事にマイナス要素があっても動じないような心の強さが必要だ。

むしろ批判をされないのは、質の高い対話をしなかった証拠だと考えよう。

ただ、メディアと知的な対話をする人が少ない最大の理由は、伝えるべき知恵を考えるより、メッセージを書いてしまうほうがはるかに楽だからだ。

だが、伝えるべき知恵は必ずある。

あなたをサポートするチームに、それを見つける努力を促そう。

グーグルの広報責任者、エレン・ウエストは、部下にいつもこう発破をかけている。

「思想がなければ、思想的リーダーにはなれない」ヒエラルキーより人間関係ヒエラルキー型の、業務プロセスの整った組織のメリットは、誰と話せばいいかが簡単にわかることだ。

正しい組織図の正しいコマを見れば、話すべき相手の名前が書いてある。

しかし、インターネットの世紀で成功するベンチャー企業の定常状態はカオスである。

何もかもがスムーズに動いており、組織図のコマと人間が一対一の対応関係に収まっているという状況は、業務プロセスやインフラが事業に追いついてしまったことを意味する。

これは悪いサインだ。

エリックがノベルのCEOだったとき、同社は整備したての機械のようにスムーズに動いていた。

唯一の問題は、すばらしい新プロダクトのストックがゼロだったことだ(「すべてがコントロールできていると感じるのは、十分な速度が出ていないサインだ」とはF1ワールドチャンピオンとなったレーサーのマリオ・アンドレッティの言葉である)。

事業は常に業務プロセスを上回るスピードで進化しなければならない。

だからカオスこそが理想の状態だ。

そしてカオスのなかで必要な業務を成し遂げる唯一の手段は、人間関係だ。

社員と知り合い、関係を深めるのに時間をかけよう。

配偶者や子供の名前、重要な家族の問題といった細かな情報を覚えておこう(スマートフォンの連絡先アプリのメモ欄に入れておけばいい)。

エリックは「三週間ルール」が有効だと考えている。

新しい職務に就いたら、最初の三週間は何も仕事をしないのだ。

ひたすら部下の話を聞き、彼らの抱える問題や優先事項を理解し、人となりを知り、信頼を勝ち得るのだ。

つまり、実際には何もしないどころか、健全な人間関係を構築するという大切な仕事をしているのだ。

そして、周囲を笑顔にすることも忘れずに。

経営管理ツールとして、称賛の価値は過少評価されており、十分使われていない。

褒め言葉をかけるべきタイミングがあれば、気前よくいこう。

 

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