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グロービスMBAキーワード 図解 基本フレームワーク50

はじめに

本書は経営大学院(ビジネススクール)で教えられているさまざまなビジネスフレームワークの中から、一般のビジネスパーソンにとっても特に重要と考えられるものを50個ピックアップし解説したものです。

経営大学院では実際には数百ものフレームワークが教えられているため、その中から50個のみをピックアップするのは容易なことではありませんでしたが、同僚や出版社の方からのアドバイスも受け、最終的に筆者が50個にまで絞り込みました。

「数百もあるビジネスフレームワークの中の50個だけ知っても仕方ないのでは?」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、そこはご安心ください。

まさに本書No.5の「パレート分析」の項目でも解説しているように、通常、重要な要素を上位から20%ピックアップすると、それが全体の80%に貢献するものだからです。

つまり、ここに紹介されている50のフレームワークをすべてマスターできれば、経営上、分析が必要なシーンのかなりの比率をカバーすることが可能なのです。

もちろん、この50個以外にも知っておいて損のないフレームワークもありますし、経営環境が激変する昨今、新しいフレームワークもどんどん生まれています。

しかし、それはその時々に問題意識に合わせて学べば足りることです。まずは本書の50個をしっかりマスターしてください。それだけ、この50個は経営分析のベースになっているのです。

フレームワークとはさて、最初からビジネスフレームワークという言葉を用いましたが、それではフレームワークとは何でしょう?フレームワークとは日本語にすれば「枠組み」となります。

何かを分析する際に、さまざまな情報をバラバラ集めて羅列するだけでは有効な意味合い(示唆)は引き出せないでしょうし、自ずと対策の効果も落ちます。

そこで登場するのがフレームワークです。

たとえばある組織の分析をするときに、その組織の特徴をランダムにリストアップしだすと、数十から百数十の項目が箇条書きで並ぶことになるでしょう。

これでは分析が非効率で仕方ありません。

しかし、もし「7S」(No.28参照)というフレームワークを知っていると、「この事実は組織構造に関わるもの、この事実は組織文化・スタイルに関わるもの、この現象は組織の仕組み・システムに関わるもの」といったように、要素ごとにファクトやコメント、観察結果などの仕訳をすることができるため、意味合い・示唆を引き出すのが格段に容易になるのです。

本書で紹介するフレームワークは、経営学者がアカデミックなサーベイに基づいて提唱したものもあれば、コンサルティング会社がさまざまなコンサルティング活動の実践を通じて開発したものもあります。

いずれにせよ、どれも「先人の知」が詰まったものです。

ビジネスに限らず、あらゆる人間の営みについて言えることですが、先人の知恵を活用するのと、ゼロベースで一から考えるのでは、スピードや効率性に格段に差が出てしまいます。

囲碁や将棋で定石(定跡)を知っている人と知らない人が対戦するシーンを想像しても、それは明らかでしょう。

本書で取り上げたフレームワークは、そのほとんどが長年の実証にも耐え、その有効性が認められたものです。ぜひこうした先人の知恵をうまく活用してほしいと思います。

忘れていただきたくないのは、フレームワークは単なる情報整理のツールではなく、情報を整理した上で意味合い・解釈を引き出す必要があるということです。

経営大学院ではよく「So What?(だから何が言えるの?)」という問いかけを絶えず生徒に対して投げかけます。

フレームワークは重要なツールですが、ツールは所詮ツールです。

適切に意味合いを引き出したり、打ち手の可能性を幅広く大きな漏れなく考えることにこそ、フレームワークを使うことの意義があります。

単に新しいフレームワークを知って満足するのではなく、それを実際に実務で用い、状況把握や問題解決に活かす意識を強く持っていただければと思います。

また、フレームワークは有効なツールではありますが、多くのビジネスパーソンは、その表層的なところだけを見て理解したつもりになりがちです。

時間の少ないビジネスパーソンにとってはやむを得ない部分もありますが、時としてそれは誤った使い方につながりかねません。

それぞれのフレームワークは、多くは理論的な背景を持っています。

たとえばNo.9の「5つの力分析」であれば、経済学の裏付けや実証研究があります。

まずは基本的な部分を学習いただきつつも、もし余裕ができてきたら、それぞれのフレームワークの原典に当たり(例:「5つの力分析」であればマイケル・ポーター教授の『競争の戦略』)、より根源的な理解を深められることをお勧めします。

これは結果として、ビジネスの力を高めることにもつながるからです。

なお、本書で取り上げたフレームワークは比較的静的(スタティック)なものが多く、必然的にワンショットでの状況把握に適したものが多くなっています。

あまり複雑なフレームワークを紹介すると、初学者の人が混乱する可能性が高いためです。

しかし、実際のビジネスの世界はもっとダイナミックです。

まずは基本のフレームワークを押さえていただきつつも、ダイナミックなビジネスの分析にどのようにこれらを応用するかという問題意識は常に持ち続けてください。

本書の構成

さて、本書の構成ですが、50ものフレームワークを「50音順」や「歴史の古い順」に紹介しても仕方ありませんので、経営学の領域ごとにまとめ、かつ同時に用いられる可能性が高いものを極力近づけて説明するように工夫しました。

大きな章立ては具体的には以下のようになっています。

1章クリティカル・シンキング編(汎用性の高い定量分析も含む)

2章経営戦略・マーケティング編

3章組織マネジメント・リーダーシップ編

4章会計・ファイナンス編

5章その他上級編(テクノロジー・マネジメント、サービス・マネジメント、グローバル経営、ネゴシエーション)

各フレームワークの説明は見開き4ページとし、必ず図表を2つ(見開き2ページに1つずつ)つけることにしました。

各フレームワークの1つ目の図表はフレームワークそのものの紹介、2つ目の図表は実際の分析例、もしくは関連するフレームワークを紹介しています。

また、それぞれのフレームワーク紹介の冒頭に、簡単な定義を載せた上で、「習得必須度」「有効性」「応用性」「理解容易度」「実践容易度」のレーティング(5点満点)を図示しました。

それぞれの意味合いは以下のようになります。

習得必須度:ビジネスリーダーなら知っておくべき度合い。

一部の人間だけが知っていればいいというものではないという意味合いを含みます有効性:そのフレームワークが実務でどのくらい役に立つか応用性:ある特定の場面だけではなく、いろいろな場面に使える度合い。

ビジネスとは異なる分野(例:プライベートや、政治、スポーツなど)への応用可能性も含みます理解容易度:フレームワークそのものの理解のしやすさ。

一般のビジネスパーソンがすぐにわかるか、あるいは、他人にうまく説明できるか、といった意味合いです実践容易度:実務の分析においてそのフレームワークを適切に使いこなすことがどのくらい容易かということです。

実際には、ここが最も点数が低くなります。

それだけ、頭でわかることと実践できることには大きなギャップがあるのですレーティングは筆者のビジネス経験や、長年クラスで教えてきた実感値から行いました。

人によっては異論がある個所もあるかもしれませんが、1つの参考としてみてください。

各フレームワークの本文は、基本を知るということで、まずは「用いる場面」や「考え方」を紹介しています。

その上で、事例を紹介することで理解を深めていただき、最後に注意点やコツを紹介するという構成になっています。

私も新卒で就職したコンサルティングファームを始め、フレームワークを使い始めてかなり長い期間がたちますが、著名なフレームワークを正しく用いることの効果には絶大なものがあります。

ぜひ、多くの方々にそれを知っていただくとともに、さらには経営学全般や、それを研究し、教える経営大学院というものにも関心を持っていただければと思います。

特に経営学の初学者の方には、「経営学って、こんなことも学ぶんだな」「経営学って面白そうだ」という雰囲気を味わっていただければと思います。

本書が、ビジネスフレームワークや経営学の普及の一助となり、また読者のみなさんの力になることを強く願います。

最後になりますが、本書を執筆する上で有益なアドバイスをいただいたダイヤモンド社第一編集部の真田友美さん、木山政行副編集長、そしてアドバイスいただいた同僚諸氏に感謝申し上げます。

グロービス出版局長嶋田毅

1章クリティカル・シンキング編

No.7好循環・悪循環(強化型フィードバック・ループ)

目次

1章で学ぶこと

本章では、クリティカル・シンキング、すなわち、論理思考や問題解決における重要なフレームワークを紹介して行きます。

効果的な問題解決や、より説得力のある主張をするという、ビジネスの基本となるフレームワーク群です。

筆者もかつてコンサルティング会社に勤めていたことがあり、当時、こうしたツールを用いたことがありますが、その有効性はどれも素晴らしいものがあることを実体験からも感じたことを補足しておきます。

最初のMECEは「モレなくダブりなく」という非常にシンプルな考え方ですが、これは続くロジックツリーやマトリクスのベースとなる考え方です。

ロジックツリーは主に問題解決の場面で活躍します。

特にコンサルティング会社などでは定番のツールとなっており、問題の発見やその解決法発見の両方に役立つ非常に有効なフレームワークです。

マトリクスは問題解決にも用いられますが、それにとどまらず、さまざまな事象を整理することにも使えますし、物事のバランスの善し悪しを判断したり、ビジネスの進むべき方向性の確認に使えたりと、その応用範囲は無限に広がります。

2章以下のさまざまなフレームワークも、このマトリクスの形式を用いているものが少なくありません。

ピラミッド構造は、説得力のある論理展開をするための超重要フレームワークです。

マスターするのは容易ではありませんが、これをある程度使いこなせるようになると、自分の主張の強さ、鋭さのレベルが上がりますし、相手の論理展開のおかしな部分にもすぐに気がつけるようになります。

その破壊力は抜群です。

パレート分析、相関分析は、より実務的な定量分析です。

それぞれ、問題発見にも役に立ちますし、あたらしいビジネスチャンスに気づくためのツールとしても使えます。

近年、さまざまな定量分析ツールが登場していますが、その中でも、最も一般のビジネスパーソンでも使いやすく、また汎用性の高いフレームワークと言えます。

最後の好循環・悪循環(強化型フィードバック・ループ)は、本章のフレームワークの中では、動的な関連性を分析するという意味で、最も使いこなすためにトレーニングが必要なものと言えます。

ただし、これをマスターすると、自ずと物事をより高い次元で見ることができるようになりますし、問題解決の効率も上がって行きます。

ぜひその重要性を理解いただくとともに、常に循環構造を意識するようにしていただければと思います。

本章で紹介するフレームワークは、数こそ少ないですが、どれも破壊力満点の、ベースとなる考え方ばかりです。

まずはこの章の内容をしっかり理解してください。

1MECE

ある要素をモレなくダブりなく切り分けること。MECEは「モレなくダブりなく」を表す英語のMutuallyExclusive,CollectivelyExhaustiveの頭文字を取ったもの。

基礎を学ぶ用いる場面

  • 全体の構造を大枠で把握する
  • ロジックツリー(No.2)やマトリクス(No.3)のフレームワークに応用して問題の原因追求や課題解決を行う
  • 新しいフレームワークを考案して分析等に活かす
  • あらゆる相手を対象に施策を講じる(例:全社員向けの福利厚生施策の立案など)考え方

分析の基本は物事を「分解」することです。そして分解とは分析対象を、それを構成する個々の要素に分けることです。

たとえば、「全部門の売上げ」という分析対象は、「製品Aの売上げ」、「製品Bの売上げ」、「製品Cの売上げ」……に分けることもできますし、「法人向けの売上げ」、「消費者向けの売上げ」のように分けることもできます。

適切に分解を行うと、現状を漠然とではなく、どこがどのようになっているのかを把握しやすくなります。

そして、分析目的に照らし、その意味合いを掴んで行くのです。

例えば上記の例であれば、「自部門の売上げ減の原因を探ろう」という問題意識に対して「製品Cの売上げ減が主要因だ」といったことがわかってきます。

分解はいわば、現状を吟味する際の最重要なアプローチと言えるでしょう。

効果的に分解を行う際に重要なのが、「MECE=モレなくダブりなく」という考え方です。

MECEの概念は非常にシンプルで、これを適切に用いることができれば分解の精度が上がり、ひいては問題解決や対策立案の効果も上がります。

なお、本書で紹介するさまざまなフレームワークは、厳密にはMECEとは言えなくとも、MECEにかなり近いものが少なくありません。

たとえNo.22で紹介するマーケティング・ミックスの4Pは、顧客への具体的なアプローチを「製品」「価格」「チャネル」「コミュニケーション」の4つに分けたものです。

他の要素もなくはないかもしれませんが、この4つのポイントを考えれば、概ね顧客へのアプローチは含まれており、その意味で非常に優れた、MECEに近いフレームワークと言えるでしょう。

MECEは既存の多くの有名フレームワークのベースとなっているだけではなく、独自のフレームワークを考案する際にも使える、非常に応用性の高い考え方と言えます。

なお、「モレなく」「ダブりなく」の2つは併記されているため、同等の重要性があるように考えてしまいがちですが、実務上は「モレなく」の方が重要です。

なぜなら、ダブりに関しては後でいくらでも調整できますし、よほど大きなダブりでない限り多少効率性が悪くなる程度ですが、モレはいったん見落としてしまうと、永遠にそのモレに気がつかないことが多いからです。

事例で確認

実際にMECEに分解した例を見てみましょう。

図表12の左は日本の消費者をMECEに分類したものです。

目的としては、たとえばある企業が新製品の企画を行う際それぞれのセルに人口が何人いて、それがどのくらいターゲットとなりそうかを考える、といったシーンを想像してください。

一昔前であれば、この図表12左の分類は十分に有効なMECEの切り口であったでしょう。

しかし、最近は性的マイノリティと言われるLGBTの人口が増えているため(一説には日本人の人口の7、8%程度と言われています)、左側の図ではなく、右側にしないと正しい人口動態の把握はできなくなりつつあります。

MECEは一度考えたらずっと不変ということはなく、どんどん進化していくという点は忘れないようにしてください。

また、当然ながら、目的が異なれば切り口もその目的に適うよう最適なものを選ぶ必要があるのは言うまでもありません。

コツ・留意点

1

モレをなくす手っ取り早い方法は「その他」という項目を設けることです。この項目があれば、理論上モレは発生しません。

ただし、全体の30%も占めるような項目を「その他」とひとくくりにするのはやや乱暴で、分析の精度を落とします。

また、全体から見て数の上ではマイノリティだとしても、大きな影響を与えうるものを「その他」にまとめて括ってしまうのも好ましくありません。

たとえばコンピュータの分類をするときにスーパーコンピュータを「その他」に扱うと技術開発の最先端の状況が見えなくなってしまうかもしれません。

2

一般に、全体集合が明確な場合(例:人類、自社の従業員など)はMECEへの分解は比較的容易ですが、「施策」や「可能性」をMECEにブレークダウンすることは容易ではありません。

1994年に誕生した村山富市内閣は、自由民主党と当時の社会党が連立を組んだことで世間を驚かせましたが、もし当時の自民党が「保守政党との連立」や「中道政党との連立」という可能性しか視野に入れていなかったら、自民党の与党返り咲きはなかったかもしれません。

モレなく「革新政党との連立」の可能性も見落とさなかったことが鍵だったのです。

2ロジックツリー

MECE(モレなくダブりなく)を意識して上位概念を下位の概念に枝分かれさせて分解していく分析手法。

基礎を学ぶ用いる場面

  1. 問題解決で、本質的な問題がどこにあるのか(Where)を絞り込む
  2. 問題解決で、その問題が発生している理由(Why)を解明する
  3. どのような解決策(How)があるかを幅広く考える考え方

ロジックツリーとは、MECEを意識しながらあるテーマを細かく分解していく過程と結果を示した図を指します。

全体を大きくいくつかに分け、枝分かれした先をさらに分け……と、多段階にわたって徐々に細かく分解していく形がツリー状に見えることからこう名付けられています。

マッキンゼーを始めとするコンサルティング会社の実務でよく用いられるツールです。

No.1で紹介したMECEは、比較的足し算型の発想が用いられることが多いですが、ロジックツリーではMECEをより柔軟に解釈して掛け算型やプロセス型に分解するということがよく行われます。

たとえば以下のようなブレークダウンの方法です。

●掛け算型

・売上高を「数量×単価」あるいは「数量×定価×(1-値引き率)」に分解するなど

●プロセス型

・顧客が購買に至るプロセスをAIDA(Attention(注意)、Interest(興味・関心)、Desire(欲求)、Action(行動))に分解する

・成約率=(訪問件数/引合い件数)×(提案書提出件数/訪問件数)×(成約数/提案書提出件数)に分解するなど

たとえば上記のように・成約率=(訪問件数/引合い件数)×(提案書提出件数/訪問件数)×(成約数/提案書提出件数)というブレークダウンを意識し、それぞれの指標をKPI(KeyPerformanceIndicator:重要業績評価指標)化して定点観測しておくと、どの部分が上がったか/下がったかが見極めやすくなり、スムーズなアクションにつながりやすくなります。

もし他の数字があまり変わらないのに、(成約数/提案書提出件数)の数字が落ちてきていることがわかれば、競争相手に比較して競争力を失いつつある、あるいは提案力が落ちて顧客のニーズに刺さらなくなってきている、といった原因が考えられます。

問題が起きてからロジックツリーを検討することも重要ですが、それ以前からロジックツリー的発想で定点観測をする方が、よりスピーディにアクションに移せるのです。

事例で確認

ここではロジックツリーを使って奥さんへの誕生日プレゼント案をたくさん考えてみるという作業を行ってみましょう。

こうしたアイデアは普通は、「食事、洋服、チケット、アクセサリー……」といったアイデアを5、6個出してすぐにそこから選んでしまうものですが、ここではゼロベースでどんな可能性があるかを考えるべくロジックツリーを使っています(この分析は、実ビジネスにおいてもたとえばアンケートへのプレゼントなどに応用が可能です)。

図表22はあくまで一例ですが、普通であれば10個も出たら上出来といったテーマについて、右端の具体的なアイデアは22個となっています。

これがロジックツリーを用いて機械的に枝分けをしていくことのパワーです。

なお、図表22は必ずしも枝の先まで同様の切り分け方はしておらず、たとえば「モノ」と「サービス」では3つ目の枝分けは別のものにしています。

ロジックツリーは「こう切らなくてはならない」という四角四面なルールはないので、テーマに応じて柔軟にMECEの切り口を用いることが肝要です。

コツ・留意点

1

MECEを用いたロジックツリーの考え方はエレガントに見えるがゆえに、ツリー全体にわたって必要以上にMECEの厳密さに拘ってしまう人がいますがそれはあまり得策ではありません。

特に枝分けの3段目くらいからは、厳密にMECEではなくても、「MECE的」であれば十分なことがほとんどです。費用対効果も意識し、「Good Enough」なレベル感を心がけましょう。

2

問題解決に向けて「感度のいい切り口」を自分なりにたくさん持っておくことが必要です。現実にどこに問題があるかは、実際に分析してみないと分からないからです。

たとえば仮に自殺者が増えていたとします。

その原因を探るために、年齢や性別、職業などで切り分けることで、どこで自殺者が増えているかを分析したところ、明確な傾向が出なかったとします。

これでは有効な解決策はうてません。

しかし、もしここで自殺方法別に切り分けて調べたところ、ある特定の自殺方法が増えていることが発見されれば、その自殺方法をとりにくくすることで(たとえば練炭を用いた自殺が増えているなら練炭を入手しにくくするなど)、自殺者数を減らせる可能性があるのです。

3マトリクス

2つの軸をとり、多くの場合は2×2の4象限にものごとを切り分ける分析方法。他のさまざまな分析にも応用されている。「マトリックス」と表記するケースも多い。

基礎を学ぶ

用いる場面

●マトリクスにサンプルをプロットすることで、どのような傾向が生じているかを見極める

●経営資源や時間をどこに投下したらよいか、そのポイントを見極める

●会社や自分自身の成長・発展の方向性を模索する考え方

マトリクスもMECE的な発想に基づいており、本書で取り上げるさまざまなフレームワークのベースになっています。

物事を構造的に把握する上でも代表的なツールと言っていいでしょう。

マトリクスは、大きく分けるとテーブル型とポジショニングマップ型の2つのスタイルがあります。

テーブル型は、「メリット/デメリット」「重要度が高い/重要度が低い」など、定性的な側面から情報を整理するときに多用されます。

No.12で紹介するSWOT分析が、代表的なテーブル型のマトリクスです。

テーブル型のマトリクスをつくる際には、情報がどのセル内に分類されるかを明確にすることが大切です。

たとえば自分の抱えている仕事を、「キャリア上重要/非重要」と「得意/不得意」のマトリクスで分類する際に、「この仕事のキャリア上の重要度は中くらいだな。線上に乗せよう」などと曖昧なことを言っていては、マトリクスは完成しません。

ある程度割り切って「重要/非重要」を明確にして各セルに書き込みます(あえて中くらいの位置に置くこともなくはないですが、その場合はそうする明確な理由づけが必要です)。

その代わりいったん分類してしまえば、その後の行動も明確になります。

たとえば「キャリア上重要にもかかわらず不得意」のものがたくさん見つかったら、まずそれをどう潰すかを考えるのです。

一方、ポジショニングマップ型の方は、「“どのくらい”重要か」「“どのくらい”緊急か」のように、程度や、同じ象限の中でも相対的な位置が重視されるツールです。

数値でしっかり位置を特定できる場合には、軸にスケールをいれてプロットします。

テーブル型ほど明確に各セルに分類するわけではありませんが、その分、より図解的で直感に働きかけることができます。

ポジショニングマップ型で特に問題となるのが、縦軸横軸それぞれの中心点をどこにとるかです。

「成長率の高低」や「顧客満足度の高低」といった数字が絡む軸は、どの数字を中心に置くかは目的も踏まえた上で慎重に決定する必要があります。

なお、マトリクス分析は2×2の4象限に分けることが最も多く、かつ視覚的にも分かりやすいですが、場合によっては3×3の9象限に分けたりすることもあります。

事例で確認図表32はコンサルティング会社のBCG(ボストンコンサルティンググループ)が提唱したバリューポートフォリオと呼ばれるマトリクス分析です。

簡易版はテーブル型で表すこともありますが、ここでは売上高の大きさ(円の面積)とともにポジショニングマップ型で表しています。

この企業の最大の問題は、本来最も大事にしたい本命事業の売上げが相対的に少なく、ビジョンとの整合性が少ない、機会事業であるC事業の占める比率が非常に高くなっていることと言えそうです。

イメージとしては、たまたま技術シナジーを活かして手掛けた傍流事業が当たって、最大の事業になったような感じです。

この会社としては、本命事業や課題事業をもっとテコ入れして数を増やしたり売上高や収益性を上げるか、もしくはビジョンを見直してC事業を核に据える意思決定をするかを決める岐路にあると言えそうです。

コツ・留意点

1

マトリクスを有効たらしめる最も重要なポイントは軸の設定です。目的を正しく理解した上で、それにかなう軸を設定することが望まれます。

たとえば従業員の実態調査を行い人事施策に活かす場合、「スキルの高低」と「モチベーションの高低」のマトリクスを作り、従業員がどのセルに多くプロットされるかを調べるのは非常に有効でしょう。

一方で、「正社員/非正社員」の軸と「人件費の高低」の軸で分析を行っても、多くの組織ではあまり有効な示唆は得られないでしょう。

2

本文でも触れましたが、軸の中心点をどこにとるかで全く見える風景が異なってきます。

たとえばファンドマネジャーの評価に関してマトリクス分析をする際、そのパフォーマンスの中心点の候補としては、「ゼロ」「平均」「TOPIXのパフォーマンス」などが考えられます。

しかし、仮にTOPIXが10%ダウンした年に、マイナス5%のパフォーマンスを残したファンドマネジャーをプラス側のセルに入れるかというと反論が出そうです。目的を意識した上での適切かつ納得感のある中心点の設定が必要です。

4ピラミッド構造

「論理の三角形」を組み合わせて、トータルとして「ピラミッド型」に論理を構造化すること。元マッキンゼーのバーバラ・ミント氏が体系化した。ピラミッド・ストラクチャーとも言う。

基礎を学ぶ

用いる場面

  1. 何かを主張する際に、その主張の説得力を高める
  2. どのような筋道や論拠でそのような主張をするのか、その構造を分かりやすくする
  3. 相手の主張の問題点を探る考え方

ピラミッド構造は、高い論理性が求められるコンサルティングファームなどでよく用いられる論理展開のフレームワークです。

ピラミッド構造は、図表41のように一番上にメインメッセージである主張(当初は仮説。根拠が揃うにつれて、確固たる主張となる)があり、その下に主張を支える2〜4つの根拠、さらにその下には根拠を支えるものそれぞれ根拠がある……、まさにピラミッドのような構造になっています。

完成形のピラミッド構造は、ピラミッドのどの階層をとっても、上段から下段に向かって「Why?(なぜなら)」に答えるという関係でつながっています。

つまり、「(主張)です。なぜなら(根拠A)、(根拠B)、(根拠C)だからです」、「(根拠A)です。なぜなら、(根拠A—1)(根拠A—2)(根拠A—3)だからです」という関係にあります。

同様に下段から上段に向かっては、「SoWhat?(だから何)」に答えるという関係でつながっています。

「(根拠A)、(根拠B)、(根拠C)です。だから(主張)が言えます」、「(根拠A—1)(根拠A—2)(根拠A—3)です。だから(根拠A)が言えます」という関係です。

ピラミッド構造を作るためには、まずイシュー(論点、議論すべきポイント)を明らかにします。

どれだけ論理展開がしっかりしていても、そもそも議論する価値がないことを議論しても何の意味もないからです。

イシューが設定できたら、次はロジックの枠をつくります。特に、メインメッセージを支える一番上のロジックの枠は非常に重要です。

ここでは本書で紹介するようなビジネスフレームワークを用いることもあれば、人を説得するのに十分な「柱」となるような枠を独自に作ることもあります。

スポーツチームがある選手を獲得しようとするのであれば、「戦力面での影響」「営業面での影響」「リスク」といった感じです。

こうした枠を意識しながら、あとはファクトを組み合わせ、「SoWhat?」「Why?」の質問をしながら、完成型のピラミッド構造に近づけていきます。

結論から根拠を集めるトップダウン方式と、観察される事実から結論を導くボトムアップ方式の両方を適宜組み合わせるのが一般的です。

事例で確認図表42は、自分の部下B君が、同僚であるA君を解雇すべきだという主張をピラミッド構造で分析したものです。

さて、皆さんはB君の主張に賛成するでしょうか?B君はよほど腹にすえかねているのかもしれませんが、さすがにこれだけの事実で人を解雇するのは無理がありそうです。

よほど反社会的な行為があったなどなら別ですが、これだけしか事実がないなら、「A君はなにか悩みごとでもあるのかもしれない。

それはそれでケアしながらちゃんと注意をしよう」といった程度の結論が適切でしょう。

ピラミッド構造の主眼は納得性、説得力です。

飛躍しすぎた解釈はこれらを削ぎますし、論戦になった時に勝てませんから、ぜひ客観的に自分の主張を検討する癖をつけたいものです。

コツ・留意点

1

ピラミッド構造は、理屈は明快ですが、実際に構築しようとすると簡単ではありません。

枠の設定は慣れてくれば比較的容易なのですが、難しいのは先述したように「SoWhat?」の解釈を適切に行うことです。

たとえば「市場はこの2、3年飽和気味」「競合の撤退が目立つようになってきた」「自社の収益性はライバルとほぼ同等」「市場では現在4位」という要素からどのような「SoWhat?」が導けるでしょうか。

ある人は「いずれ勝ち残れないのなら、自社も撤退を考えるべき」と考えるかもしれませんし、別のある人は「今こそ差別化を行って市場での地位を上げるチャンス」と解釈するかもしれません。

ピラミッド構造におけるメッセージは自動的に出てくるものではなく、徹底的に考えて「引き出す」ものだという点を強く意識してください。

2

ピラミッド構造(的なもの)を用いた論理展開に関してよくある過ちは、まず結論があり、それに都合のいい情報のみ集めて論理を組み立てるというものです。

強引で偏った主張は長い目で見ると自分の評価を下げます。メタな視点から虚心坦懐に物事を見る勇気を持ちたいものです。

5パレート分析

構成要素を大きい順に並べた棒グラフと、それらの累積量(全体に対する百分率)を示す折れ線グラフを組み合わせることで、上位の要素が全体にどのくらい貢献しているかをみる分析方法。

基礎を学ぶ

用いる場面

  • 売上げや利益に貢献している製品や顧客を見極めることで、マーケティングや営業戦略に活かしたり、資源配分の見直しの参考にする
  • トラブルが主にどのような原因で生じているかを見極め、費用対効果の高い解決策につなげる考え方

ビジネスにおける定量分析では、「物事を重要なものから処理する」「改善感度の大きいものから解決する」ということが重要な目的となります。

そのための有効な手法がパレート分析です(かつてはABC分析と呼ばれるのが一般的でしたが、近年ではコスト分析手法としてNo.38で紹介するABC分析が登場したため、それと明確に区別するためにパレート分析と呼ばれることが増えました)。

パレート分析は、数量の大きい項目・要素から順に並べ、累計も合わせて示します。

各項目の順番だけでなく、累計が示されることにより、全体における重要性を知ることができるので、アクションプランを検討するときに役立ちます。

たとえばパレート分析の結果、仮に、顧客100社中、上位15社で全売上高の90%を占めており、また売上高の大小とは関係なく顧客管理コストがどの顧客も同程度発生し、なおかつ経営上無視できない金額であったとしましょう。

この場合、思い切って顧客数を削減し、優良顧客もしくは将来有望顧客に資源を集中することを考えてもよいかもしれません。

実際にパレート分析を行うと、「顧客の上位20%で売上高の80%を占めている」、「営業担当者の上位30%で70%の粗利を稼いでいる」などのように、「20-80」のルール(あるいは「30-70」のルール)が読み取れるケースが一般的です。

ただし、あらゆるケースに20-80あるいは30-70の比率が当てはまるわけではありません。

企業や業界によっては、それが10-90の場合もあれば、40-60の場合もあります。

ラフな目処として20-80を想定するのはかまいませんが、正確を期すのであれば、実データに基づいてパレート分析を行うことが望ましいと言えるでしょう。

事例で確認例えば日本の人口を47都道府県の上位から並べると、上位およそ20%にあたる9都道府県(都道府県の数としては正確には上位19.1%)で全人口の54%を占めています。

上位およそ30%の14都道府県(正確には29.8%)について言えばそれが65%となります。ちなみに、面積で同じことをすると、上位9都道府県で47%、上位14都道府県で58%となります。

この数字だけを見ると日本人の人口は思った以上に集中化していないように見えますが、実はここには錯覚があります。

錯覚のポイントは、「都道府県の数」の上位20%としたところです。

実は日本の人口は東京都や大阪府、神奈川県といった小さな面積の都道府県に偏っており、仮に都市別にパレート分析を行うと、上位20%の都市でもっと多くの人口を擁することがわかります(ご興味のある方は調べてみてください)。

いずれにせよ、こうした分析は日本の人口政策や都市政策に大きなヒントを与えてくれることになります。

Column

20ー80の法則はまた、仮説検証を行うときに、「100の手間をかけて100%の精度を狙うのではなく、20の手間で80%の精度まで検証できたら、次のステップに移ることが望ましい」といった意味合いでも用いられることがあります。

これは、ビジネスで最も重要な要素の1つであるスピードを重視した考え方であり、この姿勢を「Quick and Dirty」と表現することもあります。

コツ・留意点

1

パレート分析は実務でも有効な分析ですが、最終的な意思決定、特に製品や顧客の切り捨てに関しては、機械的な判断は避けるようにしてください。

全体に対する貢献度は少なくても、技術力強化や信用力強化など、その他の観点で企業経営に貢献していることも多いからです。

また、近年ではロングテール(パレート図の右側に来るような小さな要素)をコスト負担少なくキャッシュ化するビジネスモデルも生まれています。

デジタルファイル化された音楽などはその典型で、在庫のコストが極めて小さいため、わずかな売上げしかなくても十分に利益を上げうるのです(図表52参照)。

2

売上げや粗利、不具合に関するパレート図は情報を得やすいため比較的容易に描けますが、さまざまなコストを差し引いた後の利益に関するパレート図は、製品別であれ、顧客別、チャネル別であれ、描くのは容易ではありません。

なぜなら、それぞれの要素ごとの利益を正確に算出することが難しいからです。

簡便版でもいいので、No.38で紹介するABC分析なども行うことで、信頼に足る分析とする必要があります。

6相関分析

2次元の図表に2つの軸をとってデータをプロットし、2つの軸(要素)の関連性を見る分析手法。

基礎を学ぶ

用いる場面

  • 物事の因果関係のヒントを得る
  • ある環境要因や施策がどの程度の効果をもたらすかを定量的に見極める
  • 収益性に影響を与える重要な要素を見極める
  • 「異常値」や「特異点」に着目することで、ユニークなやり方のヒントを得る
  • 過去のトレンドから将来を予測する考え方

相関関係があるとは、多次元データをプロットした際に、その並び方に何らかのルール(法則性、連動性)がある状態を言います。そのルールをうまく活用することで、企業活動の効率化に役立つ場合があります。

たとえば、採用面接時にAという項目(例:採用試験の点数など)で高い数値を示す人は採用後のパフォーマンスも高いという相関関係が分かっていれば、採用にあたってそのAという項目に注目することで、有能な人材を見分けやすくなります。

図表61の左図のようなケースです。

逆に、重要だと思っていた項目が、入社後のパフォーマンスとあまり関係がないことが分かれば、その採用方法を変える必要があるかもしれません。

IT大手のグーグルでは、かつてフェルミ推定に代表される論理思考力を重視していましたが、社内で追跡調査したところ、そうした要素はあまり入社後のパフォーマンス、特にリーダーシップとの相関が見られなかったということで、採用のやり方を見直したと言われています。

相関には向き(正/負)と強さがあり、それを数値で表したものを相関係数と言います。相関係数は1〜マイナス1の値をとります。

相関係数が1に近くなるほど「一方が大きくなれば、他方も大きくなる」という正の相関が強いことを示します。

逆にマイナス1に近いほど「一方が大きくなれば、他方が小さくなる」という負の相関が強くなることを示します。

相関係数が0に近いほど相関が弱く、それぞれの要素の間に法則性や連動性がないということになります(図表61の右図のような状況)。

事例で確認図表62に示したのは、ある業界の売上高と売上高営業利益率の関係です。それぞれのプロットが1つの会社を表しています。

こうした分析はコンサルティングの実務などでもよく行われており、収益性との連関性の高い指標を見出すと、戦略立案や経営改善に向けて大きなヒントが得られます。

この図ですぐ言えそうなこととして、この業界はいわゆる規模の経済性が働きやすく、「大きい会社ほど事業経済性では有利になりやすい」ということがあります。

仮に業界下位の企業の経営陣であれば、この業界で生き残ろうと思うなら、M&Aなどをすることで規模を追求する必要があることが分かります。

その一方で、この業界の勝ちパターンが規模の追求だけではないことも分かります。

注目されるのはA社です。

このグラフだけからはその原因は分かりませんが、「A社だけ対象としている顧客が違うのではないか」「A社はビジネスモデルが違っていて、効率的な経営を実現しているのではないか」など、さまざまな仮説がたてられそうです。

そうした問題意識を持ちながらA社についてスタディすれば、有効な示唆が得られることでしょう。

ちなみに、LCCの草分けであるサウスウエスト航空が出来たての頃はまさにこのグラフのような状況になっていました。

大手のエアラインになるほど儲けている状況下で、当時中小企業に過ぎなかったサウスウエスト航空がそれに匹敵する収益性を残していたのです。

コツ・留意点

1

よくある錯覚は、2つの因子の間に相関関係があることと因果関係があることを混同してしまうことです。

たとえば月ごとのビールの売上げと海水浴場の水難事故の件数の間には相関関係がありますが、ビールを飲むから事故にあうという因果関係があるわけではありません。

実は両方を高める要因である「気温」という要素があり、たまたま気温が上がる月にビールの売上げも増え、海水浴客も増えるため、見掛け上、相関関係が生じているのです。

2

相関分析では、相関係数という1つの数字を見て判断するのではなく、必ず2次元のグラフにして、眼で見て解釈をする必要があります。

特にサンプル数が少ない場合は、1つの特異点の存在によって相関係数が大きく変わるのでこの作業は必須です。

また、計算ソフトに最初から近似曲線を描かせてしまう設定は止めましょう。どうしても人間の眼がその近似曲線に影響されて、先入観が入ってしまうからです。

まず生データのプロットされている様子を中立的な視点で見、何が特異点なのか、あるいはいくつかのグループが混在している可能性はないかなど、仮説をたてた上でさらに詳細な分析に進むのが効果的です。

7好循環・悪循環(強化型フィードバック・ループ)

因果構造が一方向的ではなく、結果が原因、原因が結果につながり、拡大もしくは縮小のサイクルを描くこと。

拡大のサイクルを好循環(あるいは良循環)、縮小のサイクルを悪循環という。

基礎を学ぶ

用いる場面

  • ●複雑な問題を解決する時にその因果構造を理解する
  • ●どこにアクションをとれば悪循環が止まるか、もしくは好循環が加速するかを知ることで、問題解決や打ち手の効率化につなげる
  • ●経営者や管理職が、組織に好ましい慣性をつけるためのヒントを得る

考え方No.2で紹介したロジックツリーは基本的に要素還元型に問題をブレークダウンし、それに応じたアクションを考えていきます。

その前提は、「小さな原因には小さな結果が対応し、大きな原因には大きな結果が伴う」という考え方があります。だからこそ、改善感度の高い個所を見つけ、そこに手を打つのです。

しかし、世の中はこのようなシンプルな原因結果の構造になっていないことが多いものです。

結果がまた原因につながるというフィードバックの仕組みが働く結果、その構造が強化されることが少なくありません。

図表71に示したようなサイクルを好循環(好ましい場合)あるいは悪循環(好ましくない場合)と呼びます。

こうした複雑な仕組みを専門的に取り上げる「システム思考」の分野では、これらを強化型フィードバック・ループと呼びます。

文字通り、結果がさらに原因にフィードバックされて強化されていく循環構造という意味です。

好循環・悪循環の良い点、逆に怖い点は、一旦それらが回り始めると慣性の法則が働き、それが自分勝手に回って行ってしまうという点です。

また、必ずではないものの、状況によっては幾何級数的にエスカレートし、あっという間にコントロール不可能な状態になってしまうという問題もあります。

時にはそれが破滅的状態をもたらすことさえあるのです(例:富の偏在や中傷キャンペーンなど)。

また、この仕組み全体を眺められる人間はなかなかいないため、部分的には最適な行動をとっていても、それが全体最適にはならないという点も重要です。

たとえば、アメリカとイスラム過激派組織の戦いを考えてみましょう。お互いにとっては、軍備を強化することは、自分たちの都合だけを考えれば理にかなった行動です。

しかし、全体で見ると、「アメリカが軍備増強」→「イスラム過激派組織にとっての脅威増大」→「イスラム過激派組織が軍備増強」→「アメリカにとっての脅威増大」→「さらにアメリカが軍備増強」……という非常にまずいサイクルに入ってしまいます。

こうした落とし穴を避けるためには、より高次の視点から全体を眺め、どのようなサイクルが回っているのかを知ることが必要になります。

事例で確認この好循環の例、悪循環の例はさまざまなところで観察されます。

ここでは、「グレイトな会社」について研究した名著、『ビジョナリー・カンパニー2飛躍の法則』(ジム・コリンズ著)で紹介されている「弾み車効果」について紹介しましょう。

コリンズは、飛躍を遂げた企業を多数観察する中で、そうした会社には「弾み車効果」が回っていることを発見しました。

彼は以下のように語っています。

「当初はいかに小幅なものであっても、目に見える成果を指摘し、これまでの段階が全体の中でのどのような位置を占めているのかを示し、全体的な概念が役立つことを示す。このようにして勢いがついてきたことを確認でき、感じられるようにすれば、熱意を持った人が増えるようになる」(前掲書より)

このように、好循環構想をうまく作ることができれば、企業は飛躍的に生産性を高めることも可能なのです。

コツ・留意点

1

本文中にも述べましたが、強化型フィードバック・ループは、時に幾何級数的に加速し、誰にも止められない状態になってしまうことがあります。

特に悪循環でこれが起きると、あっという間に企業価値が損なわれる可能性すらあります(図表71の悪循環の例など)。

これを避ける最も効果的な方法は、そもそもそうした落とし穴に陥らないようにすること、あるいは初期の段階で気づくことです。

端的に言えば、「始めが肝心」なのです。

まだコントロールが及ぶ初期の段階にこそ慎重に目配りをし、悪循環に入りかけていないか見極めることに意識を向けたいものです。

2

組織が低パフォーマンスの悪循環に陥らないための1つの方法に、過去の低パフォーマンスを基準にしないというメンタリティの持ち方があります。

人間は弱い動物ですから、過去の基準さえクリアすればいいと考えることがしばしばあります。

こうなると、加速度的にそれが広がり、組織全体が低モチベーションの悪循環に陥ってしまいます。過去に拘泥するのではなく、未来の高い目標を目指すことが必要です。

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