はじめに「自分の頭で考える力」は、AI時代の最強武器「地頭力」という言葉を聞いて、皆さんはどんなことを思い浮かべるでしょうか?これはもともと、コンサルティング業界でよく用いられていた言葉で、知識詰め込み式ではない汎用性のある力のことを指し、「地頭の良い学生を採用したい」といった形で使われてきました。本書のベースとなった書籍『地頭力を鍛える』が、20万部を超えるベストセラーとなり、ビジネスパーソンや学生の間で大きな反響を呼んだ背景には、インターネット上の検索エンジンの飛躍的発展がありました。知識や情報を誰でも簡単に入手できるようになったことで、「考える力」が必須になってくるというのが同書のキーメッセージでした。この10年の間に、さらに2つの大きな変化がありました。1つ目がスマートフォンとクラウドコンピューティングの普及。2つ目がAI(人工知能)の飛躍的な進化です。スマートフォンとクラウドコンピューティングの普及は、検索エンジンの進化を加速させ、グローバルレベルで知識へのアクセスをさらに簡単なものにしました。音声入力の発達とも組み合わさって、ものの数秒で専門家並みの知見を手にすることができるようになったのです。さらに2つ目の変化であるAIやIoT、ビッグデータの進化は、人間の知的能力のあり方を破壊的に変化させようとしています。グーグルが買収したディープマインド社のアルファ碁が、トップクラスの棋士を従来の予想を数十年繰り上げるスピードで打ち負かしたことが象徴的です。AIは人間の知的能力を様々な分野で凌駕し始め、いずれは総合的にもAIが人間の能力を超えるというシンギュラリティというポイントがすぐそこまで来ていると予想する人もいます。つまり現在は、人間の知的能力にとって人類始まって以来の「とんでもない時代」がやってきたことを意味します。すでにAIは近い将来、人間がやっている仕事の何割かを代替することが予想されています。これまでも機械が人間の仕事を代替するのは様々な分野で起こってきましたが、その変化が単なる定型的なブルーカラーの単純労働のみならず、ホワイトカラーの仕事にまでおよんできているのです。そんな時代に、皆さんはどんな「武器」を持って仕事の世界に取り組んでいくでしょうか。AI時代に汎用的に役立つ大きな武器の一つが、本書で紹介する「地頭力」です。「とんでもない時代」というのは、一歩間違えば「人類の危機」になりかねませんが、うまく乗り越えれば「とんでもなく素晴らしい」時代となる可能性があります。自分の頭でしなやかに考え、人間ならでは、自分ならではの強みを活かして、さらにAIの底知れないパワーを利用していく。そのことが、読者の皆さんの未来を切り拓くことになるでしょう。
まんがでわかる地頭力を鍛える──目次はじめにプロローグ地頭力で君の人生は変わる!01優等生だから、思考停止になる?02なぜ、地頭力の重要性が高まっているのか03「正解病」から脱却しよう04地頭力は鍛えられるのか?【column】フェルミ推定は「外資系コンサル」だけのものではない思考停止から抜け出そう【まとめ】PART1結論から考えよう01完璧主義者はなぜ仕事ができないのか?02「20点でOK」だからうまくいく03とりあえずの答えを出す方法結論から考えよう【まとめ】PART2全体から考えよう01フレームワークで「思い込み」から解放される02思考のクセがわかれば、問題は半分解決している03優先順位をつけるたった1つのポイント全体から考えよう【まとめ】PART3単純に考えよう01ダラダラ話す人に足りないもの02「エレベータテスト」は格好のトレーニングツール03「単純に考える」ことは新しいアイデアの源【column】流れ星はなぜ願いごとを叶えてくれるのか?単純に考えよう【まとめ】おわりに「地頭力を鍛える」BOOKLIST
仕事を一通り覚えて一生懸命やっているのに、空回りばかり。そんな主人公の川口さんのような悩みを持っている人はいるのではないでしょうか。次のチェックシートで、自分自身の現在地を確認してみましょう。7つ以上に該当したら、典型的な「優等生であるがゆえの思考停止」に陥っている可能性があります。
他にも、次のようなことで思い当たることはないでしょうか。・インターネットで情報収集するのは得意で、最新情報にもくわしいが、「あなたはどう思う?」と聞かれると言葉に詰まる・完璧主義で全て揃ってから先に進もうとするので、なかなか進捗しない・他の人の仕事の課題はすぐに見つけられるのに、自分の仕事は思うようにいかない・アイデアは豊富で提案はするのだが、「要するになにが言いたいの?」と言われる・「業界の常識」はすぐに出てくるが、発想がそこから抜け出せないこんな症状に当てはまる人は、本書で壁を乗り越えるヒントが得られるのではないかと思います。これらの症状に有効なのが、自分の頭で考える力=地頭力なのです。ここで、仕事をうまく進めるためにはどんな能力が必要かを考えてみましょう。比較の対象として、身近な例である料理を取り上げてみます。「おいしい料理」は大きく3つの要素に分けられます。それは①食材、②調理、③見た目(盛り付けや食器、内装等)です。仕事のアウトプットもこれと同じ構成になっていると考えて良いでしょう。まずは「食材」に相当するのが、インターネット上の情報やそれまでに蓄積した知識や経験といった「知識力」です。次に「調理」に相当するもの、これが考える力としての「地頭力」です。つまり、持っている情報や知識を最大限に組み合わせて、自分なりの「味つけ」をするためのものだということです。最後に「見た目」(=伝え方)に相当するのが、プレゼンテーションや対人関係の基礎としての「対人感性力」です。旧来の日本の教育や企業で求められてきたのは、「知識力」でした。欧米に追いつくことが最大の目標であった時代には、「正解を暗記して速く実行する」ことで安く高品質の製品を生み出すことが日本の勝ちパターンだったのです。ところが21世紀に入ってからは、日本は「良い製品」を生み出すだけでなく、潜在的な顧客ニーズに合った付加価値を提案・提供する必要性が高まってきました。このような環境下では、自ら考える力がより重要になります。また、AI(人工知能)やロボットの発展もこの動きに拍車をかけます。決められたことをムラなく休みなく効率的に実行するのであれば、AI+ロボットのほうが高いパフォーマンスを上げられるようになってきています。おまけにクラウド時代には、AIは世界中に蓄積された情報を瞬時に取り出すことができるのです。そうなれば「人間ならではの価値を出せる仕事」の比重が考える力に移っていくのは自然な流れと言えるでしょう。
地頭力と知識力には根本的な違いがあります(次の図)。まず決定的な違いは、「唯一の正解」があるかどうかということです。知識の世界は、基本的に過去に起こったことの集大成と言っても良いでしょう。したがって「すでに確定していること」が大部分を占めます。正しいか間違いかを比較的判断しやすく、ほぼ「正解を覚える」ことに近いと言えます。受験やクイズ番組では知識を競うことがほとんどで、物知りがいわゆる「頭の良い人」という価値観は根強く残っていると言えるでしょう。これは、客観的な採点が簡単ということも大きいと言えます。加えて思考プロセス、頭の使い方も同じです。単なる知識に頼ったアイデア抽出の過程で「ウンウン唸って考えている」ように見えるのも、実は「なにかを思い出そうとしている」だけのことがほとんどです。これに対して「考える」ほうは、単なる過去の記憶だけでなく、何らかの想像や創造が必要となります。そして、これには大きな個人差があります。答えも1つ、プロセスも決まっているというのは、特に結果の平等を重んじる日本人の文化になじむこともあって、欧米に追いつき追い越せの時代においては、このうえない強さを発揮しました。しかし、現在のようにイノベーションや独創性が求められる時代にはマイナスに働くことも多くなってきています。本書で目指すのは、ひたすら多くの「正解」を覚える知識型の思考回路、いわば「正解病」からの脱却のためのきっかけをつかんでもらうことです。「正解病」は、本来1つの正解はないビジネスの現場でも「お客様や上司の期待という正解に応える」という形で根強く残っています。また、「質問下手」も正解病の特徴です。知識力の世界での質問は、足りない知識を補うものなので「恥ずかしい」という発想につながりやすいのです。地頭力を身につけるのに、まず大事なのがこの「正解病」からの脱却であると言えるでしょう。「そもそも地頭力って鍛えられるの?」と思った方もいるかもしれません。そこで、本書で言う地頭力の定義をはっきりさせておきましょう。世の中には「持って生まれた(遺伝的な)頭の良さ」という意味で「地頭力」という言葉を使っている人もいます。このような定義であれば、「地頭力を鍛える」という言葉そのものが矛盾していることになります。本書で言う「地頭力」というのは、どんな分野にも応用できる、知識力とは対極の「自分の頭で考える力」のことを指します。果実は収穫してしまえばそれで終わりですが、土地が肥えていれば、何度でも良い果実ができるといったような関係でとらえてもらえれば良いでしょう。もちろん全ての「〇〇力」(走力、計算力、歌唱力、表現力等)と同様に「生まれ持った才能」の個人差は影響しますが、「地頭力」に関しては、訓練した人と、そうでない人の差は間違いなくあります。大切なのは「他の人と比べてどうか」という点ではなく、「自分の中での成長度、伸びしろ」なのです。
フェルミ推定は「外資系コンサル」だけのものではない「日本全国に電柱は何本あるか?」「世界に猫は何匹いるか?」このように、とらえどころのない質問に対して、短時間で概算するフェルミ推定。古くから外資系のコンサルやIT企業の採用面接で使われていたので、「外資系コンサルのためのもの」と思われがちですが、それは大きな誤解です。先に紹介した「結論から」「全体から」「単純に」考えるという地頭力のイメージを具体的につかみ、鍛えるトレーニングツールとして、全てのビジネスパーソンに有益なものです。その語源となっている、イタリア生まれで稀代の天才物理学者と呼ばれるエンリコ・フェルミは、アメリカ移住後に勤務したシカゴ大学で、学生に「シカゴにピアノ調律師は何人いるか?」という問いかけをしていました。つまり、このような考え方は問題解決に汎用的に用いることができるのです。壁にぶち当たっている人にとって、新しい視界を開く可能性を与えてくれる、思考のトレーニングツールなのです。
主人公の川口さんが、仕事でなかなか結果を出せなかったのは、なぜでしょうか。一言で言うと、それは完璧主義が災いしていたのです。次のチェックシートをご覧下さい。7つ以上に該当したら、日常の仕事で完璧主義がマイナスに働いている場面が多くなっているかもしれません。
完璧主義は悪いことばかりではありませんし、最後の仕上げにはこのようなスキルがなににもまして重要です。ここで問題なのは、「使いどころが悪い」ということです。たとえばなにかのドキュメント(提案書や仕様書など)を作る際に「90点」までできているものを「100点」に持っていくような仕事の場面においては、完璧主義者は力を発揮します。しかし、まだ「海のものとも山のものとも知れない」ような「20点」時点での仕事では、完璧主義者のやり方はマイナスに働きます。前者を「80点型」、後者を「20点型」とすると、両者は正反対のやり方なのです。仕事をうまくこなしている人は、2つを上手に使い分けています。仕事は、なにも決まっていない状態から始まって、大きな方針を決定し、だんだんと具体化して形になっていくという流れをたどります。最初のうちは「20点型」で、最後に近づくにつれて「80点型」の仕事のやり方が求められるようになると言えます。仕事において最初の時期は、全体像を大きくつかむことが重要です。ストーリーの中で、川口さんが企画書を虫食いだらけの状態でまとめて、その代わりにたった1日でスピーディに持って行った頭の使い方。これこそが「仮説思考」です。仕事は終わりの段階に行くほど定型度が上がり、標準化されていきます。したがって、AIやロボットによって置き換えられる可能性が高いと言えます。人間の中では「ミスなく完璧に」仕事をこなすことが強みになっても、ミスのなさを競うのであれば機械にはかないません。仕事における相手との「キャッチボール」(成果物の途中経過のやりとり等)の考え方も対照的です。
次の図は、ある一定の納期までに何らかの計画や見積もりをしなければいけない場面での仕事の進め方を示しています。前の図の逆L字型の太線が「80点型」の仕事です。自分なりに十分考えて、最後の最後に結論を一発出しておしまいというやり方です。ある程度やり方が決まっているような仕事の仕上げ段階では、仕事の方向性のすり合わせは必要ありませんから、何度もやりとりに時間を費やすよりは黙々と仕事の精度を上げることが重要になります。対して「20点型」の仕事は、川口さんがやったように、まずは短時間でおおまかな答えを出したうえで、短いサイクルで何度もやりとりをしながら精度を上げていくというやり方です。初期のうちに方向性をすり合わせないと後戻り作業が発生する可能性が高いので、このようなやり方が功を奏するのです。
ただし、ここで気をつけることがあります。完璧主義者が仮説思考を実践しようとすると直面するのが、「生煮えの状態」で仕事を進めたり、上司や他の人に計画や資料を見せたりすることへの心理的な抵抗感です。完璧主義で先に進めない人の「悩み」は、前向きな発想には向かっていないことが多いのです。限られた時間と情報で何らかの仮説を組み立てることにこそ、人間の創造性が活かされます。「もう少し精度を上げてから話そう」と思っているうちに締め切り直前になり、期待値にギャップがあることが手遅れのタイミングで発覚する。そうした事態はどのようにすれば避けられるのでしょうか。1つ目のコツは、時間も情報もない中で依頼されたときは、「その場で」とにかくわかっていることを形にしてみることです。時間と情報がないときほど、「まずは調べてみますので時間を下さい」と言いたくなりますが、すぐに第一弾の答えを出してしまったほうが良いのです。時間が経つほど依頼者の期待値は上がり、そのわりには悩んでいる側の成果が上がらないため、期待値のズレが大きくなる一方だからです。究極のすり合わせのタイミングは、「その場で」最終的な成果物のイメージを合わせることなのです。頼んだ瞬間であれば、まだボールを依頼者側が持っている状態です。この時点であれば、愚かな質問をしても依頼者は自分の依頼の仕方が悪いと思うので、依頼相手に矛先が向かいにくいのです。そして2つ目のコツは、このような場面では、答えを出そうとせずに「質問」をたくさん出すことを心がけます。そうすれば、完璧主義の人でも仮説を出すことへの抵抗感が減るでしょう。仮説を考えるときに、汎用的に使えるのが「5W2H」(だれが、いつ、なにを、なぜ、どこで、どのように、いくらで)です。これにしたがって質問を組み立てれば、どんな職種のどんな場面でも、考えるきっかけをつかめるのではないでしょうか。ここで出した仮の答え(仮説)はあくまでも「修正するための第一弾」なので、何度も手直しすることが前提です。
皆さんの身の回りで「思い込みの激しい人」はいないでしょうか。自分の信じた道を突き進み、まったく周囲に耳を傾けない人たちです。ある意味、純粋で一途なのですが、一緒に仕事をするとなると疑問符がついてしまいます。次のチェックシートをご覧ください。この「思い込みの激しさ」については「自覚がない」というのが最も重い症状なので、自己採点での該当数が多いのは自覚があるという点で、実はそれほど「重症」ではありません。それでも7つ以上あれば要注意と言えるでしょう。
思い込みがあること自体にはなんら問題はありません。思い込みは、プラスにとらえれば、「思い入れ」とも言えます。私たちはどんなに「自分を客観視」しようとしても、多かれ少なかれ思い込みから自由になることは、ほぼ不可能と言って良いでしょう。「思い込みの激しい人」の最大の問題は、その「思い込みの激しさ」に気づいていないことであることがわかります。それでは、「思考のクセ」に気づくにはどうすれば良いでしょうか。それは「自分を上から眺める」ことです。これができれば、問題の大半は解決したようなものです。たとえば、何らかのアイデアや事象を箇条書きにする状況があると思います。新しい仕事のアイデアかもしれないし、会議における発言の記録かもしれません。このような場面で出てきた個別の内容は、自分中心の視点の産物です。ブレインストーミングのような状況で多数のアイデアを出す場合には、数を確保する点においても意味があるのですが、反面弱点もあります。それは、思考のクセ、盲点に気づきにくいことです。また、会議やインタビューなどの発言の集合の記録においては、「なにを言ったか」についてはもれなく記録されますが、その後の考察においては、「なにを言わなかったか」が特に重要になります。なにかに「気づいていない」ことのほうが重要であることは多々あるのです。このような場合に、それを補完する位置づけとしてフレームワーク思考の考え方が役立ちます。「全体から考える」視点を持つことがフレームワーク思考として重要なのです。全体を俯瞰するメリットはたくさんあります。バイキングを想像してみて下さい。トレーを持って並ぶ列が数十メートルにもなるような大きめのお店だとします。列ができていたのでトレーを持って端から並び始めるとなにが起きるでしょうか。おそらく全体を見ないままに料理を取り始めるので、途中から追加で取りに戻ったりといったことが起きるでしょう。これが全体を見ずに走り出してしまうことのデメリットです。列に並ぶ前にまず全体をざっと見渡しておけば、料理の優先順位をつけることができます。「なにをやるか」と同時に「なにをやらないか」も考慮されたものが、「全体から考えた」状態と言えるでしょう。プレゼンテーションやコミュニケーションにおいても、単に「このテーマの商品を作りたい」と言うよりも、全体の中でなぜその商品が良いのかを示すほうが、なぜそのテーマを選んだかを相手が理解でき、質問や議論もしやすくなることでしょう。「フレームワークは、思考を固定化するので役に立たない」という意見があります。ある側面においてはこの意見は正しいのですが、これもまた1つの側面し
か見ていない偏った見方と言えます。個人の思いつきで出てくるアイデアの領域にフレームワークを適用するイメージが次の図になります。①で示した領域が、フレームワークを適用することで発見できる思考の盲点です。ところが、これによって「枠の外に」はみ出てしまう②の領域も出てきます。これがフレームワークの弊害であることは間違いありません。つまり、きわめて「尖った」個性的な部分が消されてしまうということです。一方で、現実には、芸術の世界や世界初のアイデアなど、よほど個性的なアイデアが重要である場面を除けば、この弊害よりも本書で述べてきたようなメリットが大きいことのほうがほとんどだと思います。会社での業務など、多くの人がまとまって仕事をする場面においてはフレームワークのメリットが享受できる場面のほうが圧倒的に多いと考えて良いでしょう。
「要するになにが言いたいの?」よくこうしたことを言われる人は、抽象化のスキルが不足している可能性があります。次のチェックシートをご覧下さい。7つ以上に該当する場合、そもそも「抽象化」のイメージが理解できていないかもしれません。
抽象化とは「要約する力」です。では「良い要約」とはどんなものでしょうか?「要するになにが言いたいの?」と言われる人は、言い換えれば「話が長い人」ということになりますから、「良い要約」の裏返しとして「話が長い人」の特徴を考えてみます。・話にアクセントがなくダラダラしている・話がいつ終わるかわからない・どこまで聞いても「結論」や「なにをして欲しいか」がわからないではなぜこうなるのか?それは、「具体的なことばかり」「時系列」で「目的を考えず」に話しているからです。これらを考慮すると、「良い要約」であるための特徴は、・短い(「枝葉」を切り捨てる)・全体のコンセプト(=抽象レベル)を網羅している・まとめ方が目的に合致している(次のアクションや相手にどうして欲しいかが明確)と言えます。「要するになにが言いたいのか?」を鍛えるのに格好の方法があります。それがエレベータテスト(エレベータピッチ、エレベータトーク)と言われるものです。皆さんが、社長や役員(ここではオーナーと呼びます)が直接担当するプロジェクトの担当者になったと想定して下さい。このオーナー、普段は忙しいので頻繁にプロジェクトの進捗を確認したりすることはありませんが、その成否には当然高い関心を持っています。そんなオーナーに偶然ばったりエレベータホールで出くわして、「例のプロジェクトはどう?」と聞かれたら──。これがエレベータテストの状況設定です。あなたに与えられた時間は、エレベータに一緒に乗ってどちらかが降りるまでの「30秒」しかありません。この限られた時間で、いかに要領よく話をまとめられるか。ここに「要するに」の抽象化思考の縮図があります。忙しくて時間の限られたエグゼクティブに説明する機会の多いコンサルタントや、いつ出会うかわからない投資家に短時間で魅力をアピールする必要がある起業家は、つねにこのようなトレーニングを無意識のうちにやっていることになります。もう1つのポイントは、「いつこのような状況が訪れるかわからない」ことなので、「偶然ばったり会った」という状況でやったほうが、効果が大きいでしょう。ここでエレベータテストをパスするための秘訣について少しお話しします。これは日常での報告や説明、全てに役立つでしょう。まず、普段から話をしていない人に話をするときに必要なのは「最初に全体像を共有する」ことです。これは先のフレームワーク思考にも通じます。「要するに全体はこうなっています」と「一言で」表現することが重要だということです。これを突然やるのは至難の業ですから、そのためにも普段からこのように考えることが求められます。自分のやっていることを客観的に全体から眺める「もう一人の自分の視点」が必要になります。さらにここで「全体を一言で」表現するためのコツを2つご紹介します。1つ目は「全体として何点です」と表現することです。自分が説明される立場になればわかると思いますが、「100点です」とか「65点です」と言ってもらえれば、どの程度うまくいっているかが一瞬で把握できます。2つ目は「相手にどうして欲しいのか?」を必ず明確にすることです。「しばらく安心して下さい」なのか「予算が足りないので近々ご相談に乗って下さい」なのか、これが最も大事なことです。「なにが肝なのか?」は状況や相手によって変化するので、それをつねに考えて一言で表現できるようにしておくことが、抽象化思考で重要なトレーニングになります。プレゼンや説明がうまくなる他にも、抽象化して考えるメリットはあります。「単純に考える」ことで、一見違って見えるものが同じように見えてくるのです。「枝葉を切り捨てる」ことで、幹がよく見えるようになり、見た目が違っていた樹木が実は同じ構造だったことが見えてくるといったようなことです。これは新しいアイデアの創造につながります。このように抽象化を用いて一見異なる世界からアイデアを「借りてくる」ことで、新しいアイデアを生み出すことをアナロジー(類推)と言います。近年では本のネット通販を成功させたアマゾンが、ありとあらゆる商品を同様の売り方(レビューやリコメンデーション機能等を含む)で拡大している方法や、車の配車から始まったUberが、「オンデマンドマッチング」(必要なときに周囲にいる登録した個人をマッチングさせてサービスを提供する)という同じ手法を使ってUberEATS(食べ物の宅配)やUberBOAT(船の「配船」)他、様々な方向に応用しているのも同様です。アナロジーによって、「違う業界」や「スポーツ・芸能」あるいは「歴史上の出来事」から自業務へのアイデアを得ることができます。自分の仕事は「要するになにをやっているのだろう?」と考えることで、他の世界から自社に応用できるシステムを探し出し、新しいアイデアを生み出すことができるのです。
アナロジーの発想は日常のたとえ話の構造と同じです。難しい概念や新しいことを説明するのに、「サッカーにたとえると」とか、「食事にたとえると」といった言い方をすることがありますが、これがまさに抽象化の産物です。たとえ話がうまい人というのは抽象化能力が高い人なのです。同様にアナロジーに似たものとして日本の伝統的な言葉遊びである「なぞかけ」が挙げられます。「〇〇とかけて××と解く。その心は?」というあれです。「一見異なるものから共通点を見つける」というのがアナロジーとの類似点です。違いは共通点の内容です。アナロジーは「要するになんなのか?」という抽象化されたものであるのに対し、なぞかけの場合は主に「言葉の音が一緒」という共通点であるという違いがあります。普段から、私たちは無意識に共通点を探すということをしています。たとえば初対面の人との会話で盛り上がるきっかけは「同郷だった」とか「同じ小説家が好き」という共通点です。ここに、うまいたとえ話やアナロジー発想の「コツ」が隠れています。それは「その2つには共通点として当てはまるが、他には当てはまらないものを探す」ことです。「2人とも、朝、歯を磨きます」という共通点を見つけても話は盛り上がりませんよね?
流れ星はなぜ願いごとを叶えてくれるのか?「流れ星が消えるまでに願いごとを3回唱えると叶う」という言い伝えがあります。皆さんは実際に流れ星を見たことがあるでしょうか。ここで思い出して下さい。流れ星は相当心の準備をした状態でも「突然現れて」「すぐに消えてしまう」ものではないでしょうか。この状況で3回願いごとを言うのは、非常に難易度が高いのがわかります。「突然現れて」「すぐに消えてしまう」という2つの条件、どこかで聞いた覚えがありませんか?そうです。前述のエレベータテストが実はこれと同じ構図なのです。エレベータテストでは相手が「オーナー」でしたが、今度は相手がさらに輪をかけて忙しい、世界中の人を相手にしなければならない「神様」なのです。今度は時間が30秒どころか1秒もありません。そんな中で「3回も」説明しなければならないとすれば、いかに普段からその願いごとを凝縮された形で考え抜いておくかが究極的に求められるということです。そこまで四六時中考え抜いている人の願いごとが叶う可能性は、普通の人に比べて圧倒的に高いことは容易に想像ができるでしょう。流れ星は「神様のエレベータテスト」だったのです。
おわりにここからが本当の勝負です本書を読み終わって、皆さんはどんな感想をお持ちでしょうか。「よし、なにか明日から違う視点で仕事に取り組んでみよう」という気持ちになってもらえれば、第一段階として本書の目的は果たされたことになりますが、実は「本当の勝負」はこれからです。本書で紹介した考え方を身につけると、恐らく皆さんは会社の中では「少数派」に属することになります。会社や日本社会では圧倒的に「知識重視」で「思いつき」で、「感情にまかせて一貫性がなく」「情報がなければなにもできない」人のほうが多いからです。そんなときに皆さんはこう思うかもしれません。「やっぱり本に書いてあることは理想かもしれないけど、現実はうまくいかないよなぁ」と。でもそんなときこそ「勝負はこれからだ」と思って下さい。本書で書いてあることを実践しようと思うと、現実の世界で皆さんの前に立ちはだかる障害として、たとえば以下のようなことが挙げられます。・「理屈はわかるけど、現実はそんなに単純じゃないでしょ?」と周囲から相手にされない・「地頭力?我々の仕事は『ハート』が全てなんだよ。頭なんて使わなくていいから」と否定される・仮説思考で「まずは20点の答えを持って行く」と、完璧主義の上司から「こんなレベルのものを持って来るな」と完膚なきまでに叩きのめされる・フレームワークで全体の話をすると「なに回りくどいことを言っているの?」とワンマンタイプの上司を苛立たせてしまう・アナロジー思考を使って他の業界の話をすると、「うちの業界は特殊なのだから、他の業界は参考にならないよ」と業界一筋の先輩から一蹴されるこんなところでしょうか。しかし、著者は「そんなことは百も承知」で書いています。現実の世界では本書のように「理解のある社長」もいなければ、「お手本になる同僚」も「可愛い後輩」もおらず、「意地悪な課長」はいなくなるどころか、「憎まれっ子、世にはばかる」で上司に媚びて出世していくかもしれません。でも間違いなく言えるのは、だからといってやめてしまったら、一歩も前進はないということです。「白か黒か」で正解が得られなかったら、なにもしないであきらめるのではなく、最終的な目標は「黒」に置いたとしても、現実には少しずつ灰色を濃くしていく、というのが頭の使いどころです。そうはいっても「1人で戦う」のは大変ですから、おすすめするのは、同じような考えを持った仲間を身近に探すことです。コンサルティング会社でこのような発想や考え方をスピーディに鍛えることができるのは、ひとえに周囲が皆このような発想をするからです。仲間と一緒に少しずつでも結果と実績を出していけば、同様の発想をする人が増えていくはずです。そうなれば皆さんが力を発揮できる場面も必ず増えていくことになります。ぜひ一歩ずつでも、本書で学んだことを活かしながら皆さんにとっての未来を切り拓いていって下さい。2017年6月細谷功
「地頭力を鍛える」BOOKLIST『地頭力を鍛える』(東洋経済新報社:細谷功著)難易度★★特におすすめしたい人:本書の内容を本格的に体系立てて学びたい方『いま、すぐはじめる地頭力』(だいわ文庫:細谷功著)難易度★特におすすめしたい人:本書の内容を本格的に体系立てて学びたい方『現役東大生が書いた地頭を鍛えるフェルミ推定ノート』(東洋経済新報社:東大ケーススタディ研究会著)難易度★★特におすすめしたい人:フェルミ推定の例題を数多く解いて理解を定着させたい方『仮説思考』(東洋経済新報社:内田和成著)難易度★★特におすすめしたい人:仮説思考をもう少し掘り下げたい方『具体と抽象』(dZERO:細谷功著)難易度★特におすすめしたい人:抽象化思考とは何かを身近な事例の解説で学びたい方『アナロジー思考』(東洋経済新報社:細谷功著)難易度★★★どんな方におすすめか:アナロジー思考による創造的なアイデア抽出を学びたい方『ロジカルシンキングを鍛える』(KADOKAWA:細谷功著)難易度★特におすすめしたい人:論理思考を中心に、動画とセットで学びたい方
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