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なぜ「人間力」は求められるのか

はじめに

組織・人を動かすマネジメントの課題ビジネスのグローバルな拡大、テクノロジー(AI、IoT)の進展、組織のフラット化、部門を超えたプロジェクトの展開などにより、肩書、地位、権限が及ばない人々をどのように動かし、事業の価値を高めるのかが問われる時代です。

こうした時代だからこそ、社会の一員として世の中に役立つ存在になること。日本および東アジアの価値観に基づき、自らの人間力を磨き、人格を育てることを重視すべきだと私は思います。組織として、関係する人々をどのように巻き込み、自律的な行動を促し、日標を達成できるかが問われます。

また、事業の使命を実現するために、「ノーブル」(高貴)に生きることは、自らの意識を高めるだけではなく、社会、顧客に役に立つことは何かを考えることになります。

本書のテーマであるマネジメント(経営)とは、「人」を通じて事を成すことであり、役職の肩書、地位に頼るだけではなく、その人の有する「人間力」により組織。人に影響を与え、動かし、成果を出すことが肝要です。

組織は、異なる個性、価値観の「人」から成り立っています。

そのため組織のリーダーには、「人間的な魅力」、すなわち人柄の良さがなければ、周りの人はついてきません。

厳しく難しい局面であればあるほど、大局的に組織を動かす大きな原動力となるのがその人の有する「人間力」なのです。

そのため、日頃から周囲と信頼関係をつくる努力を行い、相手のためになることを考え、行動することが肝要で、それにより組織。人を動かすことができるようになります。

自分のためではなく、顧客起点、また会社の持続的な成長発展のためという動機付けにより、主体的に動くことがマネジメントには要求されます。

そうした人間力のあるマネジメントの下であれば、誰もが「仲間として認められたい」と思い、「意義のある素晴らしい仕事に自分も関わることができる」と判断し、ともに共通の目標に向かって行動する集団が形成されるはずです。

「人間力」の基本的な構成要素を私は、「人格」「品格」「器」の三つだと考えています。

どれも難しい日標に思えます。それを三つ揃えるのは不可能と思う人もいるかもしれません。もちろん、簡単なことだとは言いません。

しかし、この三つはある意味、相互に関係しています。それぞれがそれぞれの条件でもあるのです。だから、それぞれ一から研鑽するという類のものではありません。

さりとて、ただ漠然と「人格者になる」と決めてもそうなれるわけではありません。

だからこそ本書では、そのガイドラインを示したいと思っています。

いずれにしても、これらを得ようと主体的に日々研鑽を積むことにより、個性ある真に信頼される人間を目指すことができるはずです。

そのためには、自らの問いを持ち続け、より上を目指す生き方をすることにより、自らの人間的価値を深掘りし、人格を高め、人間的魅力を創ることを目標にしてください。

その結果として、人間力を高めることができ、社会。人の役に立つ人間として充実した人生を送ることができるはずです。

私は、ここ十年間「新任役員セミナー」で「組織を動かす人間カリーダーシップ」を担当し、約八〇〇名のマネジメント(役員)の方々に「人間力」の重要性を伝えてきました。

また、討議・意見交換を通じ、日本企業の「知」ともいえるマネジメントの方々から多くの博識と経営の示唆をいただいてもいます。

そうしたマネジメントの方々は、専門的な技術能力を有しておられるだけでなく、会社からマネジメント能力を高く評価されて抜擢され昇進されています。

論理的、効率的に物事を考えたり、自らの専門的な領域の見識は素晴らしいという人は、大企業には少なからずいます。

しかしその反面、組織を束ね、戦略的に組織を動かすことや、俯厳的、大局的に物事を考え、人間力を発揮することができる「人格」と「経営能力」の両方を有している人は、残念ながら少ないというのが実感です。

政治家や経営者の不祥事の際の言動を見ても、頭脳が明晰で素晴らしい人は、ややもすれば、自らの経歴や自らの専門的能力を過信してしまい、周囲の人に対する「共感性」や「感受性」が希薄となるということがわかります。

他者起点で物事を考えずに、自らの感情をコントロールすることができないために、人間関係をうまくつくることができない。

そんなことにならないように、平時の時から、マネジメントとして、人間力を高めるために、一体自分に何が足りないのかを振り返り、検証することにより、人としてもマネジメントとしても成長することができるのではないでしょうか。

マネジメントの本質とは「何か」を、今一度じっくり考えてほしいと思い、筆を取りました。

できる人ほど、幼少期、青年期にIQを高めることを最優先するために、人の生命への畏敬の念を感じたり、価値観の異なる人との交流を通じて身につけるべき対人関係スキルにあまり関心を持たずに、学ぶ機会を犠牲にしてきたのかもしれません。

その弊害として、自らの専門領域の仕事を部下に任せても、細部にこだわり、進捗状況を細かく確認するマイクロマネジメントを行ってしまうか、逆にすべてを現場に丸投げし、「結果」を厳しく追求することになり、コンプライアンスの問題が起こってはじめて組織の現状や自分の欠点や罪に気づくことになるということも多いのではないでしょうか。

すなわち、相手のことを″慮る″ことにより、気持ちを汲んで行動することができないのです。

顧客の真のニーズに共感し、何をすべきかを考えて提案するとか、感受性をもって部下の考えに耳を傾け、困っている問題の本質を把握し、部下の考えに沿って助言することが苦手というマネジメントも実は少なくないでしよう。

『ピーターの法則』(ローレンス・J・ピーター著)では、現職で「有能」と評価されている人も上位の職務に昇進することにより、無能レベルに陥ってしまうと述べられています。

そんなふうに、「昇進により無能になる」という事態を避けるためにも、従来の延長線上での仕事のやり方ではなく、マネジメントの役割責任にふさわしい「能力」を学び、修得する必要性を自覚することが必要なのです。

マネジメントは、人、組織の状況を理解し、人材をマネージし、協働行動により成果を出す仕事であり、専門知識(テクニカルスキル)、人間関係スキルに加え、物事を概念化するコンセプチュアルスキルであるビジョン、事業構想力、人望が求められます。

そのためにも「人間力」を磨くことが重要であることを改めて認識してほしいのです。ビジネスは、最終的には、「人」であり、人柄の善し悪しで事業の成果に大きく影響を与えます。

事実、成功する経営者の方々は、「人間通」である人が多い。また、事業は「人づくり」であると認識されており、人を大事にするという共通点がある。事業に対する「信念」に基づき、自らを厳しく律する。

部下の話をよく聞き、良い行動を褒め、部下の性格、仕事に対する考えを把握し、やる気を高め、能力を最大限に発揮させるよう努力をしています。

困難な決断を伴う仕事であればあるほど、あるいはそうした環境であるほど、上司として「人間的魅力」がないと周囲が動かず、うまく事が回らないのです。

常日頃より、良い仕事をするためには、「人間力」が大事だと肝に銘じる必要があります。また、マネジメントそのものの「人間力」が、会社の品格、社格にもつながるということを理解する必要があります。

マネジメントにとって「人間力」を高めるためには、自らの問いを明確にし、学び続けるマインドを持つ必要があります。

これまでも、「人間力」を高めることが重要だということを漠然と問題意識として持っておられたマネジメントの方々はもちろん少なからずいたと思います。

しかし、日先の課題に追われて逃げてしまっているのが現状でしょう。

また、「人間力」を高めることを突き詰めて考える機会がなく、尊敬する先輩から「最後は、人間力だぞ」と助言されていても、何をどうすればよいのか、なかなか具体的な実践行動につながらないというのが現実ではないでしようか。

「人格」「品格」「器」を成長させるための第一ステップとして、人として自立することが必要です。そのためには、内面的成長を遂げるよう、自らを鍛えることが必要なのです。

「人格」の深さ、「品格」の高さ、「器」の大きさの三つの要素を養うことを日々心掛ける必要があります。

第二ステップとしては、自立からさらに一歩進み、相互影響を発揮するために他者との信頼関係に基づく行動の結果としての、利他、信頼、人望を獲得する必要があります。

さらに第三ステップとして、「人徳」のある人間になるために、どのように「徳」を日々実践するかを具体化させます。

また、経済のグローバル化に対応するために、日本の文化、価値観に加え、グローバル企業活動におけるマネジメントとしての資質が問われていますから、普遍的な価値観であり、異文化の人々が協働して一つの「チーム」として仕事を行う上での誠実さ、倫理観の有効な「行動基準」であるインテグリティ(H津の”二ぞ)についても考え、マネジメントとしての思考の幅を広げることが今、求められています。

なお、本書では、哲学的命題とする「人間学」ではなく、ビジネスの実践的経営を通じて得たマネジメントの人間力の必要性を説いていきます。

マネジメントとして、どのように人間力を高めるのかを体系的に考え、一人ひとりの生き方、個性を発揮できるようにする。

そして、マネジメントとして人間力を高め、責務を果たすためのきっかけを創り、実践的な事業活動の展開に向けてのヒントを提供するのが本書の狙いです。

末筆でありますが、本書執筆の原点となった多くのご助言とご指導を頂いた神戸大学大学院名誉教授の加護野忠男先生、人生の師であり心友である水谷賢一氏、徳のテーマを十数年前に考える契機を与えて頂いた横田靖信氏、原稿の内容を幅広い視点からご助言頂いた澁谷信氏、事例のリアリティを高める上でご尽力頂いた堂領英毅氏、出版のご支援の協力を頂いた橋本行史氏、原稿の構想から纏めのご助言を頂いた赤城稔氏および、超多忙の中、原稿の手直しのお手伝いを頂いた川楠美子氏をはじめ、人間力を考える上でご協力頂いた多くの関係者の方々に、この場を借りて謝辞を申し上げたいと思う。

平成三十年三月保田健治

第1章なぜ「人間力」は求められるのか

目次

あの人が言うならやってみよう

優れた組織や共同体においては、能力が優れた専門家、ベテランというだけでは足りず、合わせて「人格」の優れた人がリーダーに選抜される。周りもまた、そうしたハイパー人材をリーダーとして認める。

リーダーシップの定義はさまざまであり、その条件は確かに複数あるが、組織は生身の人間で構成されており、突き詰めていけば、人格をベースとする「人間力」に行き着くというのが私の考えだ。

不確実な状況下においては、誰もが納得する唯一無二の正解などというものは存在しない。

さまざまな考え方や選択肢がある中で、自分たちのリーダーが下した決断に従い、本気でコミットできるかは、結局のところ、「あの人が言うならやってみよう」「この人の下した決断だから」と思えるからである。

そのリーダーと一緒に仕事をしたいと感じられるかどうかにかかっている。

「あなたの言うことはロジックでは正しいかもしれない。だけど、それに従うのは嫌だ」

となるか、「正しいかどうかわからないが、この人の下した決断だから信頼できる」と思ってもらえるかどうかだ。その差こそが「人間力」だ。

人間としての魅力が転じて、リーダーとしての魅力となり、さらにそこから信頼感が醸成される。

だからこそ、マネジメントは、周囲から常に「人間力」を有する人物かどうか試され、評価されているのだと思う必要がある。

いずれにせよ、良い仕事を成すために最終的にマネジメントに求められるのは、経験でも専門性でも肩書でも実績でもなく、「人間力」だ。

また、「人間力」を高めることは、自らの「生き方」をつくることでもあり、それは努力して積み重ねることで、人格を陶冶(とうや=育て上げる)することである。

もちろん、それには強い信念が必要だ。自分を振り返り、検証し、修正しながら学び続けるマインドを持つことが肝要となる。

「人間力」を高め、成長することができれば、上司の役割として、一緒に働いている人が成長し、組織から認められ、評価されることにもなるわけだが、それだけではなく、人脈が縦横に広がり、深くなり、自分自身の人生を豊かで幸せにするはずだ。

二重の幸せを得ることができるというわけである。

考えてもみてほしい。

マネジメントとして組織内の役職は、人間の優劣を表すものではなく、単に会社の中での役割の違いに過ぎない。それだけで人間が偉いわけではない。その証拠に、退職などで会社から離れれば、一人の人間だ。

そうでなくとも、一歩、会社の外に出れば、皆同じ人間であり、「人間力」そのものが、人としての価値の大きさを計る尺度になる。

「人」を通じて事を成すが、マネジメントの基本

マネジメントとして成功するためには、率先して身を粉にして働き、人としてさらに、誰よりも成長することが重要だ。そうした姿勢を通じて、周囲の尊敬や信頼を得られる。

それを財産として、マネジメントの本質である「人」を通じて事を成すことを実現する。

あくまでも自分一人で成果を出すのではなく、部下が、主体的に何をすべきか考え、行動することにより、組織の成果を出すことを目指すからだ。

では、この「マネジメントの本質である「人」を通じて事を成す」(o①諄F”諄F∞∽08の一〓OC”rO事のあ)とは何かを具体的に掘り下げてみよう。

マネジメントの最も重要な仕事は、部下の有する「強み」を引き出し、組織を効果的に機能させ、部下に「成果」を上げさせることである。

「事業は人なり」だから、事業にふさわしい人材を確保(育成またはスカウト)してこそ、事業を成長・発展させることができる。

ところが、往々にして昇進前の職位で優秀と評価された人ほど、従来のやり方にしがみつき、仕事の権限を部下に委譲し任すのではなく、自分でやってしまいたいと考える意識の「壁」が存在するものだ。

その壁をいかに乗り越えるかが最初の課題かもしれない。さらに多くの壁が行く手を阻むだろう。

たとえば、組織を構成する働く人々が、従来のように同質性の高い組織ではもはやなく、属性、働く条件の違いによる多様な雇用形態の人々によつて組織が構成され、多様性が増していることも「人」を通じて事を成すことを難しくしている。

しかし、それは壁であリリスクでもあると同時にチャンスでもあるととらえるべきだろう。何となれば、多様な価値観、文化、経験を持った社員の意見を活かすことは事業成功の大切な要諦の一つだからだ。

そのためにも外国人の部下・上司、年上の部下、女性の上司、正規社員、非正規雇用など、組織、あるいはチームのメンバーの多様性を認め、その違いを生かすダイバーシテイ&インクルージョンを実現することが、今までの「常識」を超え、新たな働き方の変革、発想につなげることができるはずだ。

さて、「人」を通じて事を成すためのマネジメントの役割と行動を整理すると、下記の通りになる。

第一に、マネジメントは、組織の「ビジョン」、事業の方向性を示し、組織を構成する人々の仕事がビジョンとつながっていると感じさせる必要がある。

第二に、短期的な課題だけではなく、中長期の事業の課題も考え、取り組むことが重要だ。

第三に、役割責任分担を明確にし、組織として協働行動により「相乗効果」を出すこと。

第四に、部下が成果を出せるように、働きやすい職場環境を整え、モチベーションを高めることにより、成果=顧客への貢献の結果を出す。

第五に、部下の成長のためにも、積極的に権限を委譲し、新しい仕事を任せ、部下の能力、強みを引き出し、部下自身が何をすべきか考え、主体的に判断行動できるようにする。加えてマネジメントは、部下の話をよく聞き、日ごろから相談しやすい雰囲気を作る。

上司として、判断・意思決定の軸足がぶれないようにすることも大切だ。そして、部下の手本となり、彼らが将来目指すべき姿を具現化する。

そのようなマネジメント行動が、事業の使命に基づき、顧客に価値を提供し、事業を持続的に成長させることにつながる。

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