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なぜ、あなたの仕事は終わらないのか スピードは最強の武器である●

今日も残業だ仕事が終わらないまた先送りしてしまったやりたいことが全然できないもっと効率的な方法があるんじゃないかそんなことで、日々悩んでいるみなさんに朗報です。

この本は、「好きなことに思いっきり向き合う」ための時間術の本です。

もし今、時間に縛られて、人生を楽しめていない、と感じている方はぜひ、この本を最後まで読んでみてください。

明日の朝起きたら、今までのあなたとはまったく違う新しい人生が始まります。

みなさんはじめまして。

この本の著者、中島聡と申します。

私はプログラマーとして、米マイクロソフト本社でWindows95の開発に携わりました。

パソコンに詳しくない方のためにわかりやすくお伝えしますと、「ドラッグ&ドロップ」を世界に普及させ、「右クリック」の概念を現在の形にしたのが私です。

これを読んで「自分とは違う、遠い世界の話だ」と思われる方もいるかもしれません。

しかし、こういった「世界を変える発明」は、時間を制することで誰でも生み出せる、と言っても過言ではないのです。

その理由をお話ししたいと思います。私が29歳で、マイクロソフトの日本法人から、本社勤務になった日のことです。私は、これまでにない脅威を感じました。

なぜなら、アメリカのプログラマーたちが、絵に描いたように優秀そのものだったからです。朝早くからバリバリ仕事をこなし、夕方には颯爽と帰路につく。

私よりはるかに腕のいいプログラマーがごろごろいて、到底太刀打ちできるようには思えなかったのです。おまけに私は、英語も全然しゃべれませんでした。

だから私は「時間との付き合い方」と徹底的に向き合うことにしました。まず、天から与えられている時間は皆平等である。

ここに気がつきました。人の能力がいきなり向上するようなことはありません。

ならば時間の使い方を徹底的に突き詰めるしかない。すなわち、時間を制する者が世界を制している。

私はこれが、世界で成果を上げ続けている人たちの真実の姿だと思っています。私が身近に接した、元マイクロソフト社社長のビル・ゲイツこそ正にその中の一人でした。

その結果、32歳のときにビル・ゲイツの前でプレゼンをし、自分の提出した仕事が認められることになりました。それがWindows95です。それらの実績が出せたこともあり、私は40歳のときに起業を決意しました。

マイクロソフトを辞めると言うと、当時CEOだったスティーブ・バルマーは、私が退社する日の朝7時に、直接訪ねて引き留めてくれました。

アメリカのベンチャー・キャピタル(投資家)は、起業の経験もない私に150万ドル(現在のレートで約1億7千万円)もの資金を出してくれました。

どれも、身に余るほどありがたいことで、感謝してもしきれません。もちろん、やりたいことがすべてできたわけではありませんし、関わったプロジェクトの成功率は3割くらいです。

寝る間を惜しんでプログラムを書き続けなければいけないことはしばしばあるし、なかなかとれないバグ(不具合)で苦しむこともあります。

新しい言語や開発環境を短期間で習得しなければならないときなど、肉体的にも精神的にも自分を酷使しなければいけません。

自分に鞭打って、眠い目をこすりながらパソコンに立ち向かわなければならないこともよくあります。つらいときがまったくないかと言えば嘘になります。

しかし、時間を自分の手の中に取り戻し、時間を最大限にまで効率的に運用し続ければ、もしかしたら2倍以上の能力差のある優秀な人たちをも出し抜けるのではないか、と思っていました。

恐れるべきは失敗することではなく、自分の「やりたい」という思いに不誠実になることだったからです。

すると結果として、幸せな人生を手に入れることができたのです。「やりたいこと」を実践するよう努力し続けていたら、結果を出すことができた、というわけです。

その結果を出すための自分のやり方を、今回私は「ロケットスタート時間術」と名付けました。

本書では、みなさんにこの方法を最速で身に付け、一生定着させていけるように、次のような流れでお伝えしていきます。

1章「なぜあなたの仕事が終わらないのか?」を解き明かし、あなたのこれまでについて振り返っていただきます。

敵を知り己を知れば百戦危うからず、だからです。

2章「ロケットスタート時間術」を手に入れると、あなたにどんないいことがあるかを説明することで、時間を効率的に使うことの楽しさを実感していただきます。

3章「ロケットスタート時間術」がいかにして生み出されてきたかをお伝えします。

小・中学校時代、高校・大学時代、社会人になってから起業するまで、どう時間に向き合ってきたかの話が出てきます。

4章以降メインとなるノウハウのすべてを公開していきます。

本書は時間術の本です。

ですが単純に、ノウハウをみなさんに教えるためだけに紙幅のすべてを割くことはしません。

方法論の公開と同時に、たくさんの例とたくさんの比喩、たくさんの概念を織り交ぜて時間そのものの核心に迫っていきます。

そんな風なので、ノウハウの説明に至る以前の3章までをまどろっこしく感じる方もいるかもしれません。

しかし全体を読み通していただいた後に、3章までの真の価値をきっとご理解いただけるはずです。

なぜなら、ノウハウをあなたに伝えることは、私の本書での仕事のほんの一部にすぎないからです。

ドイツの文豪ゲーテは、「知ることだけでは十分ではない、それを使わないといけない。やる気だけでは十分ではない、実行しないといけない」と言いました。

本書全体を通して私は、あなたにロケットスタート時間術を実践していただけるよう、丁寧に働きかけていくつもりです。

そのことをお伝えするために、これからあなたと一緒に私も、まるまる一冊をかけて「時間を探す旅」へと漕ぎ出していきたいと思います。

時間そのものに対してそんな見方をしているのだ、こんな時間の使い方があるのだ、ということを発見しながら読んでいただければと思います。

一度立ち止まって、時間の使い方に徹底的に向き合う。あなたが本当に効率的な仕事の仕方を身に付け、忙しさから解放されたいのであれば、一度立ち止まる勇気を「今」ここで持たなければなりません。

この本の「ロケットスタート時間術」は、あなたの苦しみを、今度こそ根本から治癒するために生まれたものです。

あなたが「時間の手綱を自分の手に取り戻し」、自分の人生と世界を制する一助となれば、これほどうれしいことはありません。

中島聡

1なぜ、あなたの仕事は終わらないのか

目次

「終わらない仕事」は、こうなっている

金曜日「これ、1週間でよろしく」あなたはたった今、上司から新たな仕事を任されました。今日は金曜日。締め切りは1週間後の来週金曜日です。7日あればその仕事は確実に終わるでしょう。

しかしあなたは、ほかにも来週の月曜日締め切りの仕事を抱えています。優先順位を考えれば、3日後が締め切りの仕事を先にやらなければいけません。あなたは頑張って、3日後が締め切りの仕事を今日中に終わらせました。

お疲れ様でした。週末2日間、ゆっくり休んでください。月曜日さて、月曜日がやってきました。先週の金曜日に頼まれた新規の仕事に取り掛かります。

締め切りまで5日あるわけですから、たぶん終わるでしょう。

「まあ、でもほかにも仕事はあるしな」あなたは新規の仕事はいったん脇に置き、メールの返信や長期で抱えているほかのプロジェクトを進めていきました。

もちろんそのあいだに、新規の仕事をどう終わらせるかというスケジュールも考えていました。

水曜日期限まであと2日……。

「これじゃ終わらないかもしれない……」スケジュールを考えていたとはいえ、頭の中でやるのと実際にやるのとは違います。

なんとなく終わらなそう、と予感したあなたは、ほかの仕事を放棄して、あと2日しかない仕事に本格的に取り組むことにしました。

木曜日締め切り前日、木曜日の夜のことです。

メールの返信やほかの緊急の打合せなどで時間を取られたあなたは、ついに徹夜で仕事をしなくてはならなくなりました。

締め切りまであと数時間。あなたは必死に仕事を進めていきます。金曜日「例の件、終わった?」翌日の金曜日、あなたは上司から仕事について尋ねられました。

背筋に寒気が走り、冷や汗が額を伝います。あなたは徹夜で赤くなった目を瞬きしながらこう言いました。

「すみません、ほかの仕事もありまして、徹夜もしたのですが……もう1日いただけないでしょうか……」その後の顛末はみなさんの想像にお任せします。

じつはこの話、実際にいた私の部下であるAくんが、知り合った当初にやったことでした。

Aくんは従順な部下に見えました。

仕事を頼むと、彼はいつも「はい!やります!」「かしこまりました!」「承知しました!」と言います。

いつも文句を言わずに仕事を引き受けてくれます。上司としてこんなにありがたい部下はいません。

けれどもAくんは、仕事にどのくらい時間がかかるのかという見積もりを甘く見ていました。

いつも仕事を与えられた際に、ぺろっと仕様書を見ただけで、理想の完成日時を予告してしまうのです。

Aくんの仕事は、上司である私の側から見るとこう見えています。締め切りが1週間後の仕事をお願いした後、Aくんは毎日まじめに仕事をしていました。

途中、ほかのこまごまとした仕事を任されることもありましたが、頼んだ仕事もちゃんとやっているようでした。

土日も体を休め、余裕を持って仕事をしているようでした。このような姿を見ると上司としても安心です。ところがある日のこと。会社に行くと、Aくんがオフィスで一人寝ていました。

どうしたのかと聞くと、どうやら徹夜で仕事をしていたようです。

「大丈夫?ちゃんと終わる?」と私が聞くと、「大丈夫です!頑張ります」と答えました。

締め切り前日の木曜日のことです。私は不安になってきました。とはいえ、大丈夫と言われたからには手出しはできません。

Aくんはまじめな部下です。仕事で手を抜いたり、適当な完成度で放り投げたりはしません。

だからきっと、任せた仕事はほとんどもう終わっていて、クオリティを上げるために時間を費やしているのだろうと思っていました。

そして締め切りの金曜日、Aくんは私にこう言いました。

「すみません、ほかの仕事もありまして、徹夜もしたのですが……もう1日いただけないでしょうか……」Aくんは毎回毎回適当に仕事をしているわけではありませんでした。

もちろん規定どおりの仕事を、ちゃんと納期ぴったりに出してくることもありました。

しかし、ほかの案件や、メールの返信などのこまごました仕事にも意外と時間がかかることを織り込んでいないため、仕事を終わらせることができなくなるのです。

その後もAくんは毎回締め切りギリギリになって「すみません、終わりませんでした」と謝ってきました。

それも、眉を下げ、本当に申し訳なさそうに言うのです。Aくんは毎度徹夜で仕事を頑張るので、目を赤くして私のところに来ます。「徹夜したのですが……」それが何回も何回も続いたのです。

3か月ほど経ったころ、これはさすがに注意しないといけない、ということで私はAくんを厳しく叱りました。仕事が遅いからちゃんとやってくれと。反省しているのかと。

遅れるなら仕方がないけど、間に合わないと思った段階で早く報告してくれと。私のほうでも、Aくんがしっかり仕事できるように様々な工夫を試みました。

たとえば、その会社では基本的に2週間単位の仕事を割り振っていたのですが、彼には3日単位の小さな仕事を割り振ってみたりしました。

あるいは単に仕事の量を半分にしたりもしました。しかし結果は変わらず、Aくんはいつも最後には「終わりませんでした」と言ってきました。

Aくんは、仕事自体はデキるのです。そこそこ優秀なプログラマーだったといえるでしょう。けれども彼は時間を使うのがとても苦手でした。

仕事の量をいくら減らしても終わらないというのは、そういうことなのでしょう。

Aくんはその後、会社から幾度も勧告を受けたにもかかわらず、まったく改善が見られないため、残念ながら、1年後に私のチームにいてもらえなくなってしまいました。

私も上司として力不足でした。

Aくんのように、締め切り間際にラストスパートで仕事を終わらせようとする人の態度を「ラストスパート志向」といいます。

のちにお話ししていきますが、ラストスパート志向は、仕事をするうえで最も避けるべきことです。

なぜあの天才は、トップグループから脱落したのか

もう一人、過去にいた私の部下の例を紹介しましょう。Tくんは純粋な能力でいうと天才と言って差し支えないレベルでした。私と比較するのであれば、彼は私の倍以上の馬力を持っていると思います。ただ、Tくんは仕事のうえでは少々あてになりませんでした。

才能と馬力がありすぎるがゆえに、締め切り間際に、設計されていない機能をプログラムに追加したりするのです。

たしかにその機能は優れたものでした。もしその機能が製品に加われば、製品の売り上げにプラスの影響を与えたことでしょう。天才的なプログラミング能力を持ったTくんならではの仕事といえます。

けれどもそんな機能を納品間際に追加されても困ってしまいます。最初から設計書にそうした機能を組み込むことが書かれているならともかく、全体の構成が決まってから何か新しいことを始めようとするのは大変難しいからです。

Tくんは紛れもない天才です。彼の能力は製品を開発するうえで強力なものになります。ただ、Tくんはパフォーマンスにムラがあることが問題でした。

野球でいえば、三振を何回も繰り返し、たまにホームランを打つような選手です。

そういう選手はもしかしたら野球では優遇されるかもしれませんが、製品化計画が緻密に立てられているプログラミングの現場では、あまりいい選手とは呼べませんでした。

一見優れた仕事をするようですが、上司の立場からすると非常にマネジメントがしづらいのです。

「こういう機能追加しました!」Tくんがそう言うたびに、私はうれしい反面、彼が勝手に追加した機能のために開発スケジュール全体に影響が出ないよう、調整で走り回っていました。もちろん毎回毎回そういうプロセスがあったわけではありません。

規定どおりの製品を納期ぴったりに提出してくれることも幾度もありました(それが当たり前ではあるのですが……)。

けれどもそういった成果は、恒常的に上げることができなければ意味がないのです。仕事にムラがある天才は、いくら先進的なアメリカの企業であったとしてもなかなか活躍できません。

車の開発にたとえるなら、低燃費の車を作っていたはずなのに、出荷間際になって「ターボエンジンを搭載してみました」と言ってくるようなものなのです。

これではコンセプトを180度変えなければなりません。もしターボエンジンを搭載したいなら、初期段階で搭載することを計画に盛り込むべきです。

Tくんは終盤になって思い付きでターボエンジンを搭載するため、全体の計画に支障をきたすことがありました。結果、仕事は終わりません。

そういうわけで、Tくんはせっかくいい仕事をするのに、翌年は売上トップの製品を開発しているグループに入れませんでした。

うまくやれば仕事を納期どおりに終えられるはずなのに、締め切りにいつも間に合わないAくんタイプ。

天才肌なのに時間の使い方が下手なだけで、能力が成果に見合っていないTくんタイプ。どちらも仕事が終わらないのは、時間の使い方がうまくないからなのです。

応用問題が終わらないと、テストは終わらない

先ほどAくんの例で、「Aくんは仕事にどのくらい時間がかかるのか、という見積もりを甘く見ていました」とお話ししました。

そこで、仕事にかかる時間の見積もりについて、数学のテストを例にして考えてみましょう。

一般的に数学のテストは、前半に単純な計算問題があり、後半に難易度の高い文章問題が配置されています。

前半に基本問題、後半に応用問題があるわけです。前半の基本問題はいわゆるサービス問題です。ちゃんと授業を聞いて、式の解法を知っていれば、地道にやるだけで確実に解けます。

どんなに数学が苦手でも、時間を使えば必ず解けるはずです。一方後半の応用問題は、ただ解法を知っているだけでは解けないことが多いです。

解法を知ったうえで、特殊なテクニックや論理性が問われます。こちらの問題は基本問題のように時間さえあれば解けるわけではありません。

瞬時に答えまでの道筋がひらめくこともあれば、定理の本質を理解していないせいでドツボにはまってしまうこともあります。

応用問題の難しいところは、問題を解くのにどれくらいの時間がかかるのかが未知数であるという点にあります。

基本問題はただの計算ですので、一問解くのにどれくらいかかるかがなんとなくわかります。

けれども応用問題は、先ほど述べたように一瞬でわかることもあれば、果てしなく時間がかかることもあります。

そこが難しいところです。みなさんもお気づきのように、数学のテストは仕事と似たところがあります。

手を動かすだけで終わる単純作業もあれば、一見しただけではどのくらいかかるかわからない頭を使う仕事もあります。

仕事が終わらない人は、得てして後半の応用問題を甘く見ています。

前半の基本問題をとんとん拍子に解いていくなかで、「こんなの簡単に終わるじゃないか」と錯覚するのです。

しかしそれは根本的な勘違いです。応用問題がどのくらいで終わるかは、取り掛かってみないと絶対にわかりません。そして応用問題が終わらなければ仕事は終わりません。

ですから応用問題に取り掛からないうちは、まだ仕事がどのくらいで終わるか判断できないのです。

つまり、決まった期日内に終わらせることが重要な仕事の場合、まず取り掛かるべきは複雑な応用問題のほうなのです。

Aくんは仕事を与えられた際、簡単に仕様書を見ただけで「できます!」と判断していました。

Aくんは数学のテストの例でいうと、愚直に前半の基本問題から解いていき、最後に応用問題に直面したところで「これは終わりそうにない……」と気づく、という人です。

これでは仕事が終わらないのも無理はありません。

こういった状況を改善する具体的な手法については4章で詳しくお話ししますが、ここでは見積もりの甘さが仕事の失敗を招く、困難なことを先送りすると後で足元をすくわれる、ということを覚えておいてください。

最初に頑張るアメリカ人、最後に頑張る日本人

数学の問題にしても仕事にしても、いつも最後にラストスパートをかけて終わらせようとするのが日本人です。

先ほどAくんの話のなかで言ったように、ラストスパート志向は絶対にやってはならないことです。

しかし日本の社会人は、みな夜遅くまで働いています。一方、朝早くから働くのがアメリカの社会人です。ここに仕事のやり方について考えるヒントが隠されています。

「日本は就業時間が長いわりに経済発展していないので、生産効率が悪い」という話を聞いたことはないでしょうか。努力家で頑張っているわりに成果が出せていないと。

経済成長率には個々人の頑張りのほかにマクロの経済政策の影響が色濃く出るので一概には言えません。

ただ、仕事の効率の話でいうと、たしかに日本の仕事の仕方とアメリカの仕事の仕方はかなり違います。とはいえ、仕事の仕方が違うだけで、アメリカ人も結構働いています。

外国人は仕事をせずに遊んでいるわけではありません。彼らが私たちと決定的に違っているのは、朝が早いという点です。

彼らは朝の7時に会社に来て、夕方の5時や6時に帰るという仕事のスタイルを持っています。10時間くらい働いているということです。

たとえば私が住んでいたシアトルでは、スターバックスが朝6時から開店しています。スポーツジムも朝5時から開いています。なぜこんなに早いかというと、お客さんは夜よりも朝に来ることが多いからです。

日本では退社後にランニングする人もいますが、アメリカでは朝から運動する人が圧倒的に多いです。

私もシアトルにいるときは、毎週月曜日は朝6時からテニスをして汗を流してから仕事を始めます。

日本では夜遅くまで会社に残ることが美徳とされています。なぜなら、みんなの視線がある中で仕事を頑張っていれば高く評価されるからです。でもよく考えてみてください。

夜遅くまで残っている人は朝何時から働いていますか?朝早く会社に来て夕方に帰るアメリカ人よりも働いていますか?もしかしたら時間でいえば同じくらいではないでしょうか。

労働時間が同じならともかく、周囲のまなざしがあるからという理由だけで遅くまで残っていても生産性は上がりません。

日本では朝7時から働いて夕方6時に帰ろうとしても、周囲のまなざしに射抜かれて、強制的に夜遅くまで働くことになります。

そんな環境ではむしろ生産性は下がってしまいます。これが日本の良くないところです。一方、アメリカにはそのような空気はありません。

朝から来て仕事を終えれば、夕方には帰れます。これには確固たる理由があります。それは、アメリカ人が家族を大事にしているからです。

ハリウッド映画やアメリカの連続ドラマでもよく見られるように、アメリカでは夕飯を家族みんなで食べるという文化が非常に根強いのです。

そのため、会社の人はみな夕飯前には職場にはいません。もう一つ、アメリカでは日本ほど公共交通機関が発達していないという理由もあります。

子どもがスポーツをしていたりすると、夜7時過ぎにはスクールバスも通っていないので、親が車で迎えに行かないといけないのです(アメリカのスクールバスは定時に帰宅する子どもたちのためだけに運営されています)。

親が共働きで、子どもが2人以上だと、手分けして迎えに行く必要があります。そのため絶対に5時には会社から出ないといけません。

すると、仕事を終わらせるために自動的に朝7時から働くことになる、というわけです。日本では、仕事より家族を優先するとやる気がないように思われます。

家族との団欒は休日だけのものであるという風潮が強いのは、みなさんもご存じのとおりです。

会社と家族のどちらの共同体を重視すべきかという議論は簡単に決着を付けられるものではありません。

ですから私も不用意にどちらの方向性で行くべきだ、という主張は避けます。

けれども一つ確実なのは、会社を重視しすぎるあまり、仕事の生産効率が落ちているのが今の日本の現状であるということです。

「なるはや」をやめれば緊張感が生まれる

日本の職場で今最も蔓延している病気といえば「なるはや病」でしょう。

これは「締め切りは明示しないけど、とりあえず早めにやってくれると助かるのでなるべく早くやってくれ」という、極めてあいまいな指示が飛び交う日本企業特有の病です。

なるはや病にかかった上司は部下に仕事を与える際、いつも「なるはやで」と頼みます。

正しい感覚を持った部下ならば「いつまでにやればいいですか?」と上司に聞きますが、なるはや病にかかった部下は「わかりました」と簡単に仕事を請け負ってしまいます。

こうしてなるはや病にかかった上司と部下は仕事を回していきます。

けれども「なるはやで」などというあいまいな指示に部下も緊張感を欠き、クオリティの著しく低い仕事を提出することになったり、最終的に締め切りまでに仕事が終わらなかったりします。

一方アメリカでは「なるはやで」などという指示はありえません。どんな仕事にも必ず締め切りが設けられ、部下は締め切りを守るために全力で仕事を終わらせます。

締め切りがあるから効率化を考え、その結果生産性が上がるのです。日本の職場にはそうした緊張感が欠けています。

「1週間でできたら1週間でやってほしい」などというあいまいな指示では部下のモチベーションも上がるわけがありません。

日本人も「この仕事2週間で終わらせて」と言われたら2週間で終わらせるように努力するはずです。

なるはや病は、日本人の潜在的な能力を引き出さずに抑圧する、悪い病気です。なるはや病は何の意味も理由もない、ただの悪習慣です。

ここで一歩立ち止まって、なぜ「なるはやで」などというあいまいな指示が横行しているかを考えてみてください。答えがわかりましたか?きっと答えはないはずです。

そうです、なるはや病は何の根拠もないただの形式的なものにすぎないからです。本質的な意味はありません。

しかし一歩立ち止まって、本質的な意味を考えることは重要です。アメリカではそのように、形式よりも意味を考えて判断することがとても多いのです。

たとえば車を運転してスピード違反で捕まったときに「息子が熱を出していて」という言い訳が通用することが結構あります。

法律は法律ですから守るのは基本ですが、なぜ法律ができたのかというところまでさかのぼったら、そういう判断を下すことになるのです。警官も意味を考えているのです。

もう一つ例を出すと、アメリカの電車には優先席がありません。なぜなら、必要だと思ったら規則がなくても高齢者や妊婦などに席を譲るからです。

日本でも意味を考える習慣があれば、優先席を作らなくても人々は席を譲るはずです。なぜその規則や慣習があるのかというところまで立ち戻って意味を考えてみてください。あなたも意味のない「なるはや病」に冒されていないでしょうか?

「余裕を持っておけばよかった」の経済学

仕事が終わらないときにあなたがいつも口癖のように言う「もっと余裕を持っておけばよかった……」という言葉は、行動経済学的に正しいことが証明されています。

いつも「時間がない」あなたに:欠乏の行動経済学』(センディル・ムッライナタン&エルダー・シャフィール著、早川書房)ではそのことが詳しく説明されているので、ここで紹介します。

ミズーリ州のとある病院の経営者は、手術室が足りないことで悩んでいました。医者は十分な数がいるのに、手術室の数が足りないのです。そのため手術ができる数に限りがありました。

そんなとき、病院はどのような対策を取ればいいでしょうか。

選択肢は2つあります。

1医師の残業を増やす

2手術室を増やす

1を選択すれば、同じ医者が手術できる患者の数が増えます。2を選択すれば、同じ時間で手術できる患者の数が増えます。

しかしこの病院が取ったのはどちらでもありませんでした。この病院が取ったのは、手術室を一つ使わずに空けておくという第3の選択肢でした。

どういうことでしょうか。

結論から言うと、この病院は手術室を常に一つ空けておくようにしてから、受け入れることのできる手術数が約5%増えたのだそうです。

なんと使える手術室を減らすことで、逆に手術することのできる数が増えたのです。理由を考えるために、この翻訳書で紹介されている心理学の用語を勉強しましょう。

みなさんがいつも「持っておけばよかった……」と後悔する余裕のことを、「スラック」といいます。

スラックとはたるみ、ゆるみなどを意味する言葉で、転じて心理的な余裕のことを指します。

スラックを持てない人というのは、たとえば睡眠不足であったり、もっといえば徹夜をしている人だったり、それによって仕事に不安を抱えている人などです。

スラックがない状態が慢性的に続くと、人はどんどん生産効率が落ちていきます。

2015年9月23日付の米CNNの報道によると、「多くの研究で、一晩眠らないとIQは1標準偏差下がることがわかっている。

つまり、一晩徹夜すると職務遂行能力は『学習障害がある場合と同程度まで低下する』(スワート氏)」ということまで言われています(スワート氏はコンサルタント会社ジ・アンリミテッドCEO兼神経学者)。

このような人たちは、もっと効率的な仕事の方法があったとしても、それに気づかずがむしゃらに仕事にまい進することになります。

それが誤った方向であることにも気づかず、まるで暗闇のトンネルを行進するかのように。これを「トンネリング」といいます。

トンネリングにはまった人は、処理能力が落ちているうえに、出口の光が見えていないので疲弊していきます。結果、仕事は終わりません。

ミズーリ州の病院の問題は、いつも多くの救急患者が担ぎ込まれてくるため、予定していた手術のスケジュール変更を毎度迫られていたことでした。

結果、手術のために準備していた医師はその間手持ち無沙汰になり、再開後の手術が深夜にずれ込むことで、睡眠不足が蔓延していました。

そこで、あらかじめ手術室を一つ空けておき、急患をそちらで対応することにしたところ、ほかの手術のスケジュールを乱すことなく、急患の対応も効率的に行うことができるようになったのです。

それから2年のあいだで、この病院の手術件数は毎年7~11%増加しました。

この病院の復活劇は、まさにスラックを失いトンネリングにはまったとしても、そこから脱出できるという成功の可能性を示してくれます。

長い長いトンネルから抜け出るために、余裕を持って仕事をすることはとても大切なのです。

ですから、あなたの心の中の手術室を一つ空けておきましょう。それこそが復活のカギになります。

結局、なぜあなたの仕事は終わらないのか

ここまで、仕事が終わらない例をいくつか見てきました。本章の最後に、仕事が終わらない理由をおさらいしておきましょう。

大きくまとめると、次の3点に集約されます。

  1. ①安請け合いしてしまう
  2. ②ギリギリまでやらない
  3. ③計画の見積もりをしない

①安請け合いしてしまう

これは、本章前半で紹介したAくんの例が当てはまります。彼は仕事を与えられたときに、あまり深く考えずに「できます!」と即答します。

そして実際に仕事を締め切りまでに終わらせることができません。Aくんの問題は、何も考えずに安請け合いしてしまう点にありました。

数学のテストの比喩を思い出してください。

たしかに前半の基本問題だけを見れば、簡単に最後まで解けてしまえるように思うかもしれません。しかし一番難しいのは後半の応用問題です。

これは基本問題と違い、ただじっくりやれば必ず解けるというわけではありません。ですから一瞥しただけでは、できるかどうかの判断ができないのです。仕事も同じです。

本当は、終わるかどうかちらっと見ただけでは簡単にはわかりません。実際に仕事に手を付けてみて、ある程度こなしてから、やっとできるかどうか判断できるのです。

そうした慎重さを欠いて安請け合いをすると、仕事は終わらず、上司からの信頼も失ってしまいます。

それだけは避けましょう。

②ギリギリまでやらない

これも、Aくんの例に当てはまります。彼は火事場の馬鹿力的なものを信じているのか、いつも締め切り間際に徹夜で仕事をしていました。そうして結局「終わりませんでした」と言います。

これは単にAくんの能力が低かったせいではない、ということはすでにお話ししました。彼は仕事の能力はそれなりにありました。けれどもギリギリになるまで本気で仕事をしないのです。

それこそが彼の大きな問題点でした。締め切り直前の仕事は効率が大幅に低下します。なぜなら締め切りを破って上司に怒られるなどの嫌なイメージがノイズになって集中できないからです。

トンネリングの典型例です。

逆に締め切りがずっと先だと、いいイメージが浮かんで集中することができます。Aくんは締め切り間際にはいつも徹夜をして頑張っていました。もちろん本気で仕事をすることはいいことです。

けれども睡眠不足で、さらに締め切り間際で心理的に追い詰められている状況では、地に足を着けて仕事をすることはできません。

たとえば凍結した路面や砂漠の上など、足元のしっかりしない道でアクセルを全開に踏んでも、前進はできないですよね。

車でエンジンが過熱する一方であるのと同様に、仕事でも徹夜は体力を消耗するだけの危険な行為なのです。

③計画の見積もりをしない

これは、本章前半で紹介したTくんの例に一致します。彼はプログラミングにかけては天才的な能力を発揮していました。彼の能力は会社にとっても稀有なものでした。

けれどもあまりに才能があるがゆえに、締め切り直前に計画外の機能を追加したりして、全体の仕事の進行に迷惑をかけることがありました。

機能を追加すること自体は間違ったことではありません。Tくんが問題なのは、締め切り直前に思い付きで機能を追加するという点にあります。

ターボエンジンの例を思い出してください。

低燃費の安定した車を開発している最中に、急にターボエンジンを搭載したいと言っても、そんなことは許されないはずです。

なぜなら製品のコンセプト自体を揺るがす大きな仕様変更を迫られるからです。

ターボエンジンを追加で搭載するかどうか決めるべき時期は、製品化に向けた開発の初期の段階です。

そうすれば製品化までに必要な期間を見積もることができるはずです。

それでも、あなたの仕事は終わる

ここまで仕事が終わらない理由をいくつも突き付けられてきて、意気消沈した方もいるかもしれません。

しかし私が本書でやろうとしているのは、あなたの気持ちを落胆させることではありません。

私はあなたが仕事を円滑に終わらせるために、まずはあなた自身について知っておいてほしいのです。

たとえば、Tくんはたしかにマネジメントはしづらいし、一緒に仕事をするのも一苦労なのですが、能力が飛びぬけていたことは確かです。

彼は仕事に集中しているピーク時は、私の倍以上の速さでプログラミングをしていました。彼の仕事ぶりを横で見ていて、本当にすごいと感心しました。

しかし社内で評価されたのはTくんではなく私でした。それはひとえに、時間の使い方が効率的で適切だったからだと思っています。

このエピソードは、「人は2倍以上の能力差がある人にも、時間の使い方次第で勝てる」というメッセージを放っています。

自分の能力を超えて、2倍以上の成果を発揮すること。時間の使い方をマスターすることは、仕事をするすべての人に必須の力といえるのです。

あなたの能力を臨界点まで引き上げるための行動を、実際にとってもらえるようになるために、次の章では「時間の使い方をマスターしたときに、あなたがどう変われるか」を強烈にイメージしていただける話をしていきます。

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