日々生活していれば、事態が手に負えなくなったとか、はたして今、正しい方向に向かっているだろうか、と不安に感じることもあるだろう。
誰もがそうした経験をしたことがあるはずだ。
将来の仕事をどうしようかといった、人生に関わることでそのように感じることがある一方で、もっと日常的なこと―‐夕食の準備ができていないといったことなどでそのように感じることもある。
家族、仕事、PTA、もしくは人生全般など、あらゆることがこうした事態に陥る可能性をはらんでいる。
そして、それが何であれ、「どうもうまくいっていないな」と感じたときは、なんとか元のうまくいっている状態に戻りたいと思うはずだ。
今、あなたがしていることに関して、状況をうまくコントロールしている感覚を取り戻すにはどうすればよいだろうか。
今やっていることが、確実に前進につながっていると確信する方法はあるだろうか。これらの疑間に答えてくれるのが本書だ。私が紹介するのは、嵐に揉まれている船を立て直すためのノウハウである。
あなたの求めている答えそのものは書かれていないが、それを自分で見つけるための具体的かつ実践的なステツプを示していく。
「うまくいつていない」状態から「うまくいっている」状態に戻れるまで、わずか数秒のこともあれば、何年もかかってしまう場合もある。
ただ、数秒だろうが数年だろうが、このプロセスはまったく同じだ。この種の浮き沈みは運命の気まぐれのようにも感じられるが、そんなことはない。
誰にでも理解できる一連のステツプによつて、元の状態に復帰することが可能だ。そのためには、ある特定のことにある特定のやり方で意識を向ける必要がある。
本書の最大のテーマは、そのための理論を読者に理解してもらい、実践できるように導くことである。
手に負えない状況になったり、見通しが利かない事態―‐自己管理の観点からすると「うまくいっているとは言えない状態」は、さまざまな状況下で起こりうる。
実際、この20年間に私が関わってきた人たちの大多数は、次のような問題を抱えていた。
- ・ストレスを軽くしたい。
- ・物事がぐずぐずと進まない状況をなんとかしたい。
- ・エネルギーやモチベーションを高めたい。
- ・自分の可能性をもっと追求していきたい。
- ・集中力を高めたい。
- ・抱えているプロジェクトをうまく管理したい。
- ・もっと自分の創造性を引き出して活用していきたい。
- ・もっと自由に活動したい。
これらは個人だけでなく、組織にも同じようにあてはまる。
GTDの指導を通じて関わり合ってきた組織も次のような問題を抱えていた。
- 生産性の向上。
- ・コミュニヶlションの改善。
- ・ストレスの軽減。
- ・ワークライフバランス。
- ・実行力の強化。
- ・優先順位の明確化。
- ・時間管理。
- ・革新力と創造性の向上。
あなた(あるいは組織)が、やるべきことをより生産的にこなし、これらの問題を解決していくには、2つの方法しかない。
それは状況をコントロールすることと、将来への見通しを定めることだ。どちらを先にやつてもかまわない。
いずれのアプローチも、夕食をどうすべきかといったわかりやすい課題から人生全般といった大きな課題に至るまで、同じように効果を発揮してくれる。
といっても、そのようにバランスのとれた状態を達成して維持していくのは口で言うほど簡単なことではない。
そもそも整然とした状態をどのように実現していくのか。優先順位は具体的にどのように決めるのか。人生も仕事も多層的で複雑な問題だし、現代においてはかつてない速度で次々と対処すべきことが舞い込んでくる。
いずれも私たちの処理能力を大きく超えていて、今までのやり方では心の平静を保つことができない。シンプルすぎるやり方ではこのような現状に即していないため、役に立たないのである。
時間管理手法、整理術などでは、ストレスを軽減して見通しを定めることを目指した、あまりにも複雑なシステムやツールがいくつも登場している。
ところが、これらの解決策の大半は部分的にしか効果を発揮していなかつたり、大がかりすぎて急速に変化していく状況に対応できないことが多い。
そのため、これらのモデルやツールが長く使われつづけるケースはまれだ。また、これらのモデルの多くは、問題の一部しかカバーしていない。
状況のコントロールと見通しのどちらかを達成する方法を示していたとしても、その両方を達成できるようにはなっていないのだ。
この2つには異なるアプローチが必要で、しかもどちらが欠けていてもいけない。
見通しを持たずにコントロールだけするのは木を見て森を見ないことになるし、コントロールせずに見通しだけがあつても机上の空論で終わってしまう。
カギとなるプロセス
これらを両立する方法がある。ただし、これ1つをやればすべて解決するといったものではない。基本となっているのは、一連のステップを実行して注意を適切な対象に向けていくやり方だ。
この方法は驚くほど効果的に機能する。いつ、どんなときでもうまくいくし、失敗することがない。
シンプルだが奥が深く、子どもでも学んで実践できる一方で、グローバル企業の経営者がいくらでも磨き上げて複雑に使いこなしているだけの柔軟性も持っている。私の知る限り、GTDはここで説明されている以上にシンプルにはならない。
これ以上単純化しようとすればおそらく機能しなくなり、これ以上複雑にした場合も扱いにくくなってやはり失敗するはずだ。
あらゆるシステムには、機能性を損なわずに拡張性と自由度を保てる、ぎりぎりのバランスが存在する。
私のモデルはそれほど複雑ではないものの、いつ、どのテクニツクを用いるべきかを知り、最大効率で稼働させていくには、それなりの時間がかかる。
適切な場面で適切なテクニックを実行していくセンスを磨いていく必要があるのだ。
私の役目はそれを最小限の努力で実感できるようにサポートし、GTDの可能性に気づいてもらうことにある。
状況をコントロールしていく方法は5つのステップで構成されており、将来を見通して評価し、効果的に優先度を決定していく方法は6つのレベルの視点から構成されている。これらの1つでもないがしろにすると、GTDの恩恵を十分に受けることはできない。
注意のアンテナに引っかかったあらゆることは、収集し、意味を見極め、整理したうえで、全体を随時レビユーしてそれぞれに対処していかなければならない。
関心を持ったり責任を負ったりしているプロジェクトは、具体的な行動によつて目標に近づけていかなければならない。
また、それらの目標も、構想に近づくためのステップとしてあらかじめ定めておく必要がある。そして、それらのすべてが、目的と価値観に基づいていなければならない。
一見面倒に思えるが、この通りにやると、そのときどきで何を考え、何をするべきかが驚くほどクリアに見えてくる。
そのおかげで、人生においても、友人に夕食を作ってあげるときと同じように、一連の行動を自信を持って選択していけるようになるのだ。
本書では、GTDの各要素を具体的に解説し、それぞれをいつ、どこで使っていけばいいかがわかるように説明していくつもりである。
私が本書に書いたことの多くはごく常識的なことであるが、その常識の効果に改めて気づかされる人も多いにちがいない。
人生と仕事のロードマップ
私は地図が大好きで、常に活用している。ただ、地図を使う必要を感じないときもある。それは次の5つの条件が揃っているときだ。
- 現在位置がわかっている。
- 目的地がわかっている。。
- 現在位置から目的地に到達する方法がわかっている。
- 途中で道をそれたり、予想外の障害に遭過する心配がない。
- 進んでいる途中で選択できる興味深いアプローチ、優れたアプローチ、創造的なアプローチのすべてがわかっている。
これらの条件のうち、1つでも何かが足りないと私は地図がほしくなる。自分がロスにいることはわかつていても、ソノマの場所がわからなければ地図を見るしかない。
パリにいるときに、エツフェル塔の場所はわかっていても、現在位置がわからなければやはり地図が要る。
ロスとソノマの位置がわかっている場合でも、最短のルートを知りたければ地図をチェックするだろう。
国道101号を走っているときに、ラジオから大きな火災で国道が通行止めになっているというニュースが飛び込んできたら、地図を見て別の道を探さないといけない。
自分がロスにいて、ソノマがカリフォルニア北部にあることがわかっていて、いちばんいい高速道路をすでに選んでいる場合でも、途中に面白い場所がないかな、と気になったら、やつぱり地図の出番だ。
人生や仕事についても、同じような役目を果たしてくれる地図があったら便利だろう。あなたは、自分が今いる場所や、確かなこと、知っておくべきすべてのことを、常に把握できているだろうか。
どこに向かっていけばよいか迷ったことはないだろうか。
目的地はわかっているのにそこに至る道のりがわからなかったり、すでに決めたことについて、他の選択肢がないかと気になったことはないだろうか。
そういう経験があるという人は、私が本書で紹介するモデルが役に立つはずだ。本書を読めば、あなたは人生の地図を手に入れることができる。
子どもの誕生パーティを開くとき、ホームオフィスを整備するとき、営業部長を雇うときにも同じように有効な地図だ。
現代においてナレツジワーカーは、自分がどこにいるか、どこに向かっているかがわからない状況に陥りやすい。
仕事の変化が激しいため、何をするかを常に判断しつづけなければならない。そうなると、当然、進むべき方向も見失いやすい。
突然舞い込んできたメールに45分を費やした後に、それまでやろうとしていたことをすべて見直さなければならないことに気づき、どうすればいいのかと途方に暮れた経験はないだろうか。
あるいは、誰かに電話をかけようと思いついて実際にかけてみたら、話が盛り上がって、さまざまなアイデアや判断の必要なことがどんどん出てきて、それらに対処しなければならなくなったという人もいるかもしれない。こうした事態は避けられないことでそれについてはどうしようもない。
だが、大切なのは、その状態からできるだけ速く抜け出せるようになることであるc本書はビジネスパーソンのためだけに書かれているのではない。
現代においては、12歳の子どもも、教会の牧師も、働きながら子育てをしているシングルペアレントも、営業部長と同じように、やるべきことを抱えている。
彼らに、自分が今していることが本当に今すべきことなのか、100%確信が持つことができているか訊いてみるといい。誰もが地図を必要としていることがわかるはずだ。
本書に書かれていることの中には、あなたが現時点でやる必要のないこともあるだろう。
例えば、3カ月から2年の間に達成したい目標を考える「高度3000メートル」の視点は、今のあなたにとっては不要かもしれない。
すでにそれらの目標が明らかになっている人もいるだろうし、その高度で新しいことをしたり現状を変えたりすることにはとんど興味がないケースもあるだろう。
ただし、今はその部分があなたにとつて不要であっても、いつかは意識を向けたくなる可能性が高い。
そのときに私の地図が手元にあれば、役に立つ指針となってくれるはずだ。
一方、やるべきことや関心を持っていること(あなたの注意や行動に影響を与えていること)をきちんと管理できていない人にとっては、わたしの地図の一部が今すぐにでも役に立つはずだ。
あなたが、状況のコントロールと見通しのバランスを維持するポイントをすでに見つけているというのなら、たいへんけっこうなことである。
だが、私が説明していく6つのレベルすべてにおいて、意識的に見通しを定める作業をしてみると、誰もが潜在的に気になっていたことをいくつか見つけられるだろう。
私が指導している経営者たちは、数時間かけてプロジェクトや、やらなければならないことのリストを作ったあとに「もう思いつきません。これで全部です」と言うことが多い。
ところが、仕事で責任を負つている分野(高度2000メートルのレベル)を細かく書き出してもらうと、「スタッフの育成」のような新しいプロジェクトが浮かんできたりする。
あるいは、さらに深い部分について考えたときに、親子関係に関して兄との間で話し合うべきことがあるのを思い出したりする(高度5000メートルの問題)。
「そういえば、ダンス教室に通ってみようかとずっと思ってました」などといった、一見ささいなことが浮かんでくる場合もある。だが、そうしたことでさえ、あなたの人生の中で重要なことの足を引っ張っている可能性があるのだ。何を機能させるのか
私が本書で「仕事」と言うとき、それはあらゆることについて言っていると思ってもらいたい。
つまり、あなたがやりたいことで、まだやっていないことのすべてである。
そのようなくくりでとらえると、子どもの夏休みの活動について考えることも、日焼けすることも、新しい営業部長を雇ったり上司のメールに対応したりするのと同じ「仕事」になる。
現代人に必要なのは、今やっていることがまさしく今やるべきことだと確信できるようになることだ。
そして今やっていることが自分にとってどういう意味かを認識し、それを信頼することによってはじめて、最大限の集中力とエネルギーを発揮することができる。
だが、現実的には、何をいつやればいいかがはっきりしていることは稀である。もちろん、仕事の種類や状況によっては、その場でやるべきタスクが明らかなケースもないわけではない。
特定の操作が要求される機械を動かすために雇われていて、何の問題もなく操作できる状況にあるのなら、やるべきことは明らかだ。会議の書類をホツチキスで綴じなければならないときも、タスクは決まっている。
2歳になる子どもがコップを倒して床に落とし、粉々に割れてしまった場合も、やるべきことで悩む必要はない。だが、あなたの人生で、そんなふうにやることが明らかになっている場面はどれだけあるだろうか。
いくつも選択肢があるケースも多いのではないか。ほとんどの人は、どれだけ選択肢があるかさえも把握していない。ましてどの選択肢がベストか、自信をもつて判断できている人など稀である。
故ピーター・ドラッカー教授は、「知識労働」に携わろうとするすべての人にとつて、いちばん難しいのは自分の仕事が何かを見極めることだと警告した。
これはそれ自体がたいへんなタスクである。
本書は、あなたがやらなければならないことのために何をやらなければならないかが曖味なときに、それを見極められるようにするための指南書である。
やるべきことは自明ではない。あなたが判断しなければならないのだ。
「ライフワークバランス」はまやかし
ライフワークバランスという考え方が世間に広まっている理由はよくわかる。実際、多くの人が、仕事とプライベートの境界をどこにすべきかで悩んでいる。
仕事でくたくたになって帰宅し、家族といっしょの時間を過ごすという責任を呆たした後に、夜遅くまでメールに返信していたのでは、疲れもとれないし、ストレスも溜まるだろう。
ただ、私はこの発想には根本的な間違いがあると考えている。「仕事」と「プライベート」がきっちり区別されるべきだという前提がそもそも間違いなのだ。
状況がコントロールされ、将来への見通しがはっきりしているとき、私たちは時間の感覚を失い、やっていることに完全に集中して没頭しているはずだ。
このとき、あなたの心は「仕事」と「プライベート」の区別などしていない。バランスを意識してしまうのは、それが崩れているときだけなのだ。
生産性をこのように存分に発揮できる状態にあるときは、ただ、それに没頭しているという感覚だけが存在し、それが終わつたらスムーズに次のことに移っていくだけだ。
大切なのは、バランスそのものを維持することで、仕事とプライベートの線引きで悩むことではない。ポイントは、あなたの集中力を削ぐあらゆる要因をいかになくしていくか、だ。
そうすることではじめて、バランスなどを意識せずに完全に集中した状態に自分を置くことができる。
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