私は問題のある会社へ行くと、真っ先に倉庫を見させてもらう。メーカーや物品販売業に
限らず、外食産業の場合も同じで、まず冷蔵庫を拝見させていただく。調理場のなかの商品
ストックを見る。毎月、実地棚卸しをされているかどうかである。キチンと正確につけてい
るか、ずさんであるのかが見ただけでわかる。これは売上げが一〇億円であろうと一〇〇億
円であろうと、規模に関係ない。また会社が新しいか、歴史が長いかにも関係はない。
現在、創業一五〇年という会社と創業九十何年という会社を診ているが、在庫管理はして
いると言いながら、どちらも毎月実地棚卸しをしていなかった。
「どうしてしないのですか」
「先生こんな多量の商品をどのようにしてするのですか」
「そう言われるけど、ここにはちゃんと棚卸しの数字が載っているではないですか」
「いや、これはコンピュータに入っている在庫の数字を出して仮に載せているのです」
「この数字と実際は合っている自信がありますか」
「いいえ、ありません」
「じゃあ、いつ棚卸しをされるのですか」
「年に一回は必ずします」
「それはいつですか」
「決算のときです。ですから中間決算のときの在庫の数字はいい加減なのです」
その会社は、倉庫管理と在庫管理をごっちゃにしていたのである。
私がお手伝いした、チェーン展開をしているある寿司屋さんは、私が指導するようになっ
たら業績がよくなった。理由はいろいろあるが、そのなかでも見逃せないことは、毎日、棚
卸しをするようにしたことである。食品業界ともなれば毎日棚卸しをするのが当然である。
例えばケーキ屋さんは、毎日、生ケーキの在庫量をあたっている。これは当たり前なこと、
絶対に欠かせないことなのだ。寿司屋さんでも棚卸しをするところとしない店がある。店が
閉店する最後までいると、それがすぐにわかる。夜は一分でも早く帰宅したい気持ちはわか
るが、毎日の棚卸しを習慣づけさせ、記帳することが大切なのだ。生鮮食品物販業は、棚卸
しをきっちりやっている。なぜならば、食品の場合は腐るからだ。商品や原材料が傷む。今
日、刺し身にできる鯛が一尾残ったからといって、明日もそれを刺し身に、ということはで
きない。このように在庫に対して非常に神経を使うのが食品では当たり前である。
在庫の鮮度が要求されるのは、何も食品業に限ったことではない。アパレルなど衣料関係
にしてもシーズン性や流行があるため、早く売り切らないと商品は夕腐ってク、 一文の値打ち
もなくなってしまう。シーズン末期に大バーダンをやっているのをよく見かけるが、これも
在庫の鮮度に神経を使っている結果だ。さらに木材にしても、梅雨を越した在庫は売れなく
なるし、冷凍食品でさえ、味覚が落ち、消費者から敬遠されている。
儲かっている会社の共通点は、何の売れ行きがいいかということがわかったうえで、毎日
の在庫の棚卸しをしていることである。どんな業種でも在庫商品は生鮮品であることを忘れ
てはいけない。アサヒビールも、フレッシュローテーションをするときには、三〇億円の在
庫を廃棄したことがある。
「もう、それは売るな、古いのは全部回収しろ」と。
在庫商品は倉庫を見ればわかるが、そこにはいつでも売れる在庫と、ただあるだけの在庫、
つまり商品価値のない在庫とがある。それを見分けなければいけないし、それには棚卸しを
しっかりやらねばならない。なかには、スクラップにして持っていってもらうにもお金を払
わねばならない在庫さえある。こうした在庫に対する気配り、在庫管理を徹底し、迅速に金
に変える努力を、多くの企業が怠っている。
話は戻るが、 一般に金融業は儲かる。なぜだろうか。金融業の扱っている商品がお金なの
で、いつでも、誰でも欲しがるものだから、だろうか。そうではない。
銀行や金融業のお手伝いをすると、そこでは在庫(お金)を毎日、 一円までも合わすのであ
る。そこに一〇〇〇円が落ちていても「誰や、ここに在庫を置いているの」となるが、部品の
チップを一つ置いていても、誰も文句は言わない。それどころか、「誰や、こんなところに
置いて」と怒って蹴飛ばす人さえいる。また「これ残ったんや。ちょうどいい、お土産に持っ
て帰り」と、工場見学に来た人に渡したりもするパン屋さんもある。だが、銀行に何回も見
学に行っても、在庫、つまりお金をくれることはない。
この違いは何だと思われるだろう。難しく考えることはない。答えは実に簡単なのだ。ど
んな業種、規模の大小にかかわらず、どの経営者もお金なら一〇〇円でも一〇円でも決して
粗末にせずに、きちんと管理する。ところが、このお金がいったんモノに変わると、驚くほ
ど粗末に扱ってしまう。
銀行が儲かるのに皆さん方が儲からないと思い込んでいるとしたら、とんでもないことで
ある。儲かるか儲からないかの違いは、業種や規模が理由ではない。在庫に対する考え方、
在庫管理のあり方にこそ会社の儲けはかかっているのだ。その点、銀行は、先ほどから何度
も説明しているように、トップから末端の一行員に至るまでビシッと在庫を合わせている。
在庫を大切にする。「お金」という商品に対して整理、整頓、清潔、清掃、しつけがいいのだ。
実際によく考えてみると、私たちは売ることよりも、自分たちの生業というか、商売や事
業のもとである原材料や仕掛品、さらに商品までも、なんと粗末にしていることであろうか。
明日からは、ものの考え方から変えていかなければいけない。
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