【PART5】PRESENTATION 強い会社は、やるべきことを明確に伝える《プレゼンテーション》
戦略に深みを持たせる「伝え方」プレゼン資料は「4ステップ」で組み立てるポイント①事業目標の実現に有効な戦略要素を組み合わせる事業戦略のポイントを押さえるポイント②事業戦略案に含まれる仮説をリストアップするシナリオ化すると同時に仮説をリストアップするポイント③事業戦略案をピラミッド・ストラクチャーで編集現状分析、総論戦略、各論戦略の3つのブロックで表現ポイント④要点を絞ってサマリーを作成ビジネス・プランを基にエグゼクティブ・サマリーを作成わかりやすさを追求するシンプルに、ロジカルにおわりに参考文献
PRESENTATION戦略に深みを持たせる「伝え方」≫プレゼン資料は「4ステップ」で組み立てる『強い会社が実行している「経営戦略」の教科書』というタイトルのもと、本書では、企業戦略、それを構成する事業戦略、事業戦略と密接に関連するマーケティングと機能戦略、そしてこのような各種戦略を支える組織・制度などのテーマについて、私がビジネス・スクールや企業研修で講義したり、コンサルティングの会議等で解説している内容を解説してまいりましたが、いかがでしたでしょうか。ここでは、戦略策定の仕上げとして、プレゼンテーション資料の作成についてポイントを解説します。ポイント1:事業目標の実現に有効と判断される戦略要素を組み合わせて事業戦略案を作成するポイント2:事業戦略案を言語モデル、図式モデルを使ってシナリオ化すると同時に、シナリオに含まれる仮説をリストアップして、事業としての不確実性を把握するポイント3:事業戦略案をピラミッド・ストラクチャーで編集して、ビジネス・プランとして完成させるポイント4:ビジネス・プランを基に、エグゼクティブ・サマリーを作成する
事業目標の実現に有効な戦略要素を組み合わせる≫事業戦略のポイントを押さえる目標達成に有効と判断される戦略課題、また各課題を解決するための有効な解決策(戦略要素)を組み合わせて事業戦略案を作成します。ここまでの内容の振り返りになりますが、事業戦略案の項目とポイントは以下の通りです。1.事業概要(ビジョン)企業戦略で明確に示されている企業のミッションおよび目標をふまえて、当該事業で達成したい、ありたい姿としてのビジョンを定義。2.現状分析(市場、競合、自社、環境)SWOT分析対象としてのCustomers(市場)、Competitors(競合)、Context(マクロ環境)の範囲を定め、Company(自社資源)も含めて、現在から将来にかけてどのように変化するかを深く考察し、方向性を提言するうえで重要な要素をシンプルに記述。3.基本方向目標(売上・利益・シェアなど)SMARTに設定することがポイント(〔*〕参照)。事業の範囲(製品・市場領域)目標を達成するための事業の範囲(scopeofbusiness)を選択する。事業の範囲は、製品・市場で定義されることが多いが、この事業をどのように定義するかということが、事業としての成長可能性を直接的に規定することになる。競争戦略やマーケティング戦略に大きく影響を与えるという点で、事業範囲の明確化は大変重要なテーマ。妥協なく、とことん考え抜くことが重要。4.各種戦略競争戦略目標を達成するために事業範囲の中で、どうライバル会社と戦って勝つかを宣言する。平均的な企業に比べて、WTP(顧客にとっての価値)を高めていくか、それともWTPは同じでも、生産コストを下げて、比較的低い売価で提供するのかという基本方向を明確にする。マーケティング戦略(STP+4Ps)選択した事業の範囲の中で、具体的な顧客市場を厳選し、お客様の満たされないニーズに対する自社としてのユニークなソリューションを考え抜いたうえでそれをポジショニング・マップとして表現して、4Pに展開する。これが売上モデル、費用モデルと直接結びつく。いい加減なシナリオでは売上モデルにつなげられない。機能戦略(バリュー・チェーン)顧客価値を創出するための研究・開発、生産・製造、営業・販売、品質管理、物流等を検討する。5.組織・体制すべての打ち手を推進するために必要なインフラストラクチャーとしての組織、体制、自身のリーダーシップも含めてポイントを記述する。ポイント②PRESENTATION事業戦略案に含まれる仮説をリストアップする≫シナリオ化すると同時に仮説をリストアップする言語モデル、図式モデルを使って事業戦略案をシナリオ化します。また計画段階であれば、事業戦略案には何がしかの仮説が含まれています。仮説が多く含まれている戦略の場合、当然リスクは多くなりますので、実行に際してそれらの仮説がどの程度検証される必要があるのかを明確にしておきます。そして、事業戦略を実施するまでに、どのような形で個々の仮説を検証し知識化するか計画しておきます。例えばフォーカス・グループ調査、インデプス・インタビュー、サーベイ調査、二次資料調査などの手法が考えられます。
ポイント③PRESENTATION事業戦略案をピラミッド・ストラクチャーで編集≫現状分析、総論戦略、各論戦略の3つのブロックで表現事業戦略案をピラミッド・ストラクチャーで編集して、ビジネス・プランとして完成させます。一見ビジネス・プランのようで、実際はかなり趣旨が異なる報告書は実際のところ少なくありません。事業戦略報告書に求められる要素として3つ挙げられます。一つは、Whyです。なぜ、この戦略を実施していく必要があるのかということ。二つめは、Whatです。実際に何をしたら良いのか。最後は、Howです。具体的にどのようにして戦略を展開するのか。ありがちな、悪い報告書の例を列挙してみました。・分析テンプレートのオンパレード(分析屋さんによるVC、5F分析、SWOT等の分析ツール活用集のようなもの)・売上・費用のシミュレーション(何月何日までに、売上をこれだけ達成、そのために費用がこれだけかかりますという説明書き)・自部門のコミットメント宣言書(目標を頑張って達成しま~す!私を信用してください!的な気合炸裂タイプ)・経済産業省や総合研究所風のポンチ絵(やりたいことをイラストを使って魅力的に表現、それで、戦略となると?????)形式にとらわれるあまり戦略の中身をおろそかにすることのないよう、現状分析に基づいたWhy、全体としての方向を指し示す総論としてのWhat、戦略を実現するための各論戦略としてのHowという3つのポイントを押さえるようにしましょう。
要点を絞ってサマリーを作成≫ビジネス・プランを基にエグゼクティブ・サマリーを作成最後に、ビジネス・プランを基に、要点を絞ってエグゼクティブ・サマリー(戦略全体の要約)を作成します。仮に複数の事業戦略案が存在するならば、それらを比較検討して、最良と思われる特定の事業戦略案を選択します。評価の方法は、各案のメリットとデメリットを検討することもできますし、市場の魅力度(規模、成長性、競争状況がどの程度か)と自社資源適合度(開発力、生産力、販売力などがどの程度対象事業で活用できるか)という2つの視点から定量的に評価することも可能です。もし定量評価でも明確に結論が出ない場合は、経営理念にどちらが適合しているかという評価軸と経済的なリターンで判断することになると考えます。一般的に評価軸は以下の通りです。・それぞれの戦略を採択するメリット、デメリット・市場の魅力度、自社資源の適合度・リスク、リターン・効果、コスト・定量評価(経済性)、定性評価(信頼、認知度、ブランド、関係性など)そして最後の決め手は、バリュー(理念)とナンバー(売上・利益)です。
わかりやすさを追求する≫シンプルに、ロジカルに最後になりますが、パワー・ポイントを使ってレポートにする場合は、文字だけで表現するのではなく、パワフルなチャートとコメントのセットで表現することをお勧めしたいと思います。マーケティングには知覚品質、知覚価値という考えがありますが、ビジネス・プランも一緒です。どんなに内容的に優れた提言でも、魅力的で考慮する価値があると思ってもらえなくては意味がないのです。複雑で高度な内容でも、シンプルに、ロジカルに、わかりやすく。プレゼンの極意はそこにあります。
おわりに本書の執筆に着手したのが、気象庁から例年にない早い段階で梅雨明け宣言が出された2013年7月上旬の土曜日で、あとがきまで実質2週間で一気に書かせていただきました。その間出張が重なり、十分集中して書斎に向かう時間がとれず、クライアントの会議室、大学の講義室のかたすみ、移動中の飛行機や新幹線の中での執筆作業だったため、過去の文献をこまめに当たることができませんでした。しかし、時間が限られていたというのは、無駄をそぎ落とすにはうってつけの環境だったのではないかと感じています。本書の目的が、研究書を書くことではなく、実際に意思決定をしながら成果を追求していかなければならない実務家の皆様にとって、本当に意味のある戦略やマーケティングのエッセンスを、ばらばらのパーツではなく、体系的に提供できるレクチャー・ノートのようなものとしてご提供したいということだったからです。この構想を思いついたのは今年の春、研究のため滞在していたコロンビア大学での研究スタッフとのミーティングの最中でした。「我々は必死になって成功企業のビジネスモデルなどを研究しているけど、そもそも成功企業のビジネスモデルを研究して、同じようなモデルを作っても同質化するだけで、かえって収益が低下するのではないか?本来やるべきことは、他社との違いを打ち出していくことではないのか?」という会議参加者からのコメントでした。これはごくごく当たり前のことですが、戦略やマーケティングを研究するということは、違いの出し方を考えるということです。型破りくらいの違いを作る(これを英語でmakeadifferenceと言います)ためには、型を理解する必要があります。型を理解しないまま、違いを作ろうと思っても、それこそ形無しになってしまいます。もちろん、リーダー企業がチャレンジャーに対して同質化して、チャレンジャーに対する優位性をなくすというやり方もあります。その場合も突き詰めればチャレンジャーに対してコスト競争力で違いを出していくことです。こうした違いの出し方の引き出しをたくさん用意して、それを全体的に有機的に組み合わせることができるようにするにはどうしたら良いのだろうかというのが、本書を書くきっかけになっています。忙しいビジネスの現場で、ホワイトボードやフリップチャートを前にしながら違いを議論していくためには、百科事典のような経営書では“オーバー・エンジニアリング”です。本当にお客様にとってうれしいことって何なのか、それを感じながら、できるだけ模倣されにくく、それでいてシンプルな仕組みにするためにはどうしたら良いのか、こうした思考や活動を作法として磨いていくための参考書があれば、もっと経営の現場が楽しくなるにちがいない。このような思いで書かせていただきました。ところで、皆様はcreativityとinnovationの違いについて考えたことはありますか。私の持っている英英辞典には、creativityisthinkngnewthingsというニュアンスで説明されています。そしてinnovationはdoingnewthingsです。考えることは誰でもできるし、良いアイデアを思いつく人も少なくないです。しかし、それを実践して価値を創造できる人は、ごく一部なのではないでしょうか。グローバルで必要な人材は、単なるクリエーターではなく、イノベーターでなければならないと思います。新しいことを考えるだけではなく、アイデアを具現化するために必要なことを、丸ごと仕切ることのできる全体感を持った人材です。本書が、このような人材育成の一助になれば、著者としてこれ以上の喜びはありません。笠原英一
参考文献Aaker,DavidA.(2005),StrategicMarketManagement,JohnWiley&Sons,Inc.Abell,DerekF.(1980),DefiningtheBusiness:TheStartingPointofStrategicPlanning,PrenticeHallAnsoff,HarryI.(1968),CorporateStrategy,McGrawHill広田寿克訳(1969)『企業戦略論』産業能率短期大学出版部Arndt,Johan(1979),“TowardaConceptofDomesticatedmarket”,JournalofMarketing,Vol.43,No.4(Fall),6975Christensen,ClaytonM.(1997),TheInnovator’sDilemma,HarvardBusinessSchoolPress玉田俊平太監修、伊豆原弓訳、(2001)『イノベーションのジレンマ』翔泳社Fournier,Susan(2009),“LessonsLearnedaboutConsumers’RelationshipswithTheirBrands”,HandbookofBrandRelationships,SocietyforConsumerPsychologyFreiberg,Kevin&Jackie(1996),Nuts!,BroadwayBooks小幡照夫訳、(1997)『破天荒!』日経BP社SalonerGarth,ShepardAndrea&PodolnyJoel(2001),StrategicManagement,JohnWiley&Sons,Inc.石倉洋子訳、(2002)『戦略経営論』東洋経済新報社Kaplan,RobertS.&Norton,DavidP.(2004),StrategyMaps:ConvertingIntangibleAssetsintoTangibleOutcomes,HarvardBusinessSchoolPressKeller,KevinL.(2007),StrategicBrandManagement:Building,Measuring,andManagingBrandEquity,PearsonPrenticeHallKotler,Philip(2002),MarketingManagement11th,PrenticeHallInternationalEditionsLodish,LeonardM.,Morgan,HowardLee&Kallianpur,Amy(2001),EntrepreneurialMarketing,JohnWiley&SonsInternational笠原英一訳・解説(2004)『成功した起業家が毎日考えていること』KADOKAWAHutt,MichaelD.&Speh,ThomasW.(2004),BusinessMarketingManagement:AStrategicViewofIndustrialandOrganizationalMarkets,SouthWestern笠原英一訳・解説(2009)『産業財マーケティング・マネジメント』白桃書房Mintzberg,H.,Ahlstrand,B.&Lampel,J.(1998),StrategySafari:AGuidedTourthroughtheWildsofStrategicManagement,FreePressMoore,GeoffreyA.(2004),InsidetheTornado,HarperCollinsMorgan,RobertM.&Hunt,ShelbyD.(1994),“TheCommitmentTrustTheoryofRelationshipMarketing”,JournalofMarketing,Vol.58(7),2023Narayandas,D.(1995),“LongTermManufacturerSupplierRelationships:DoTheyPayoffforSupplierFirms?”JournalofMarketing,Vol.59,No.1Narayandas,Das(2003),“CustomerManagementStrategyinBusinessMarkets”,HarvardBusinessSchoolWorkingPaper#N9503060DolanRobertJ.(1997),“NoteonMarketingStrategy”,HarvardBusinessSchool(大学での講演における講義ノート)Rogers,DavidL.(2016)TheDigitalTransformationPlaybookTabrizi,BehnamN.(2007),RapidTransformation:A90DayPlanforFastandEffectiveChange,HarvardBusinessSchoolPress井上崇通(2012)『消費者行動論』同文舘出版大江健(1998)『なぜ新規事業は成功しないのか』日本経済新聞社笠原英一(2003)「いま、本当に愛される企業とは?顧客との関係構築のための3つの接点」『Link』Vol.214Spring、411笠原英一(2004)『経営学のことが面白いほどわかる本』KADOKAWA笠原英一(2005)「米国マニュファクチャラーズ・レップの関係性マネジメント」『現代マーケティングの革新と課題』柏木重秋編、東海大学出版会久保田進彦(2006)「リレーションシップ・マーケティングのための多次元的コミットメントモデル」『流通研究』第9巻、第1号(6月)、5985嶋口充輝(1994)『顧客満足型マーケティングの構図』有斐閣嶋口充輝(2000)『マーケティング・パラダイム』有斐閣延岡健太郎(2002)『製品開発の知識』日経文庫延岡健太郎(2006)『MOT[技術経営]入門』日本経済新聞社福田昌義編著、笠原英一、寺石雅英著(2000)『ベンチャー創造のダイナミクス』(平成13年度中小企業研究奨励本賞受賞)文眞堂
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