せっそく人事に拙速は、最悪。
こと人に関する制度の改革には、十分な時間をかけることだ。「人事に拙速は、最悪」と、ぜひとも心得ていただきたいのである。
社員にヤル気を求め、長く勤めてもらいたいと、「よかれ」と思ってこれまでの人事制度を変えたり、賃金体系に手を入れたりする。しかし、思いつきで事を急ぐと、かえって逆効果になることは多いものである。
たとえばいま、少子高齢化や人口減少といった経営環境の変化により、企業は従来の賃金カーブを見直す時期に来ている。
わが社でも役職者にかぎつて55歳で役職から退いてもらう「55歳役職定年制」を設けているが、その導入と運用は、社員の生涯にわたる生活安定を保障すべく、30年前から複合的かつ着実に進めてきたものである。
簡単に説明すると、わが社の賃金体系は、部長職や課長職は56歳から定年までの5年間、給与が2割から3割減るよう設計している。ただし、中高年社員のモチベーションが著しく低下しないよう、独自の早期退職者優遇制度も設けている。
これは、45歳で勤続年数が20年以上の退職者には、退職金のほかに25カ月分の給与と同額の特別退職金を支給するという「転身支援制度」であり、最大で3500万円ほどの退職金となる。
45歳といえば、気力体力ともに新しいことを始めるのに遅すぎるということはない。55歳で役職定年を迎えて賃金が下がることがあらかじめわかっている状況で、別の道を歩みたいという者にはできるかぎりの経済的援助をしてやりたいという想いから、55歳役職定年制の実施と同時に、この転身支援制度も始めたのである。
さらに、転身支援制度の20年前から実施している「持ち家支援制度」もある。銀行との提携による低金利融資を用意し、社員のほぼ100%が55歳までに住宅ローンの返済が終えられるようにしているのだ。
これらの複合的な制度によって、「56歳から給料が減って生活費に困る」というような社員は出てこない。もちろん、こうした処遇は長い期間をかけてコツコツと内部留保を厚くしてきたからこそ、可能になったことでもある。
要するに、まずは、人に関する「将来のあるべき姿」をしっかり見定めることだ。そのうえで、理想像に着実に近づけるために毎年達成すべき目標を具体的に決め、長期計画として明示する。これこそが、社長のやるべき人件費コントロールの要諦である。
佐藤肇著「佐藤式先読み経営」より
コメント