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「頑張れ」というだけでは業績は上がらない―課題分析

第6章「頑張れ」というだけでは業績は上がらない──課題分析

ケース─ターゲット行動を絞り込め1課題分析とは何か2行動の科学とその実践:行動と所産3パフォーマンス・マネジメント

第6章「頑張れ」というだけでは業績は上がらない──課題分析

ケース─ターゲット行動を絞り込め1課題分析とは何か2行動の科学とその実践:行動と所産3パフォーマンス・マネジメント

ターゲット行動を絞り込め「清水さんが、サカモトさんのことを先生と呼んでいましたよ。

『サカモト先生に行動分析学を教わった』ってね」開発2Gのグループ長、小柴順平は、サカモトに向かってそう言った。

「いやあ、そんな偉いものではないですよ」サカモトは、照れたような、困ったような顔をして言う。

「まあ、いいじゃないですか。

今度は私の相談にも乗ってくださいな」「もちろんです。

何か、ありますか?」「ええ。

実は、あるんです」小柴がそう言うと、サカモトの目に真面目な光が宿った。

「うちのグループに、水野という者がいるんですが。

彼のパフォーマンスを、どうにかしてもっと上げられないかと思っていて」「どういうことですか?なるべく詳しく話してください」「水野は熱心でよい技術者だと私は思うんですが、そのわりに開発の成果があまり上がっていないんです。

技術的には問題ないどころか、むしろ高い技術力を持っています。

しかし何といいますか……時間に無頓着なんですよ」「時間ですか」「ええ。

ご存じのようにわれわれの仕事は、NTTドコモやauといったキャリア(通信業者)のために端末を開発し提供することです。

彼らキャリアには新規端末の投入スケジュールというものがあるので、われわれもそれに合わせて新機種を開発しなければならないんです」「つまり、新機種がいつ出来上がってもよいというわけではなく、キャリアの要求するタイミングに間に合わせなければいけない、ということですね」「そうです。

そうなんですが、水野はどうしても仕事が遅くて、キャリアとの間で合意した開発スケジュールから遅れることが多いんです。

一度だけですが、キャリアのモデルチェンジに間に合わなかったこともあって」「うーん。

そうだったんですか。

それで水野さんの全般的な仕事ぶりは、どうなんですか?」「いや、至って真面目ですよ。

いつも忙しそうに働いていて」「何か、間違いが多いとか?」「それであれば私も気づくんですが、見ていても、特に作業にムダがあったりするわけではなさそうなんです」「ふむ。

そうですか」サカモトは少し考え込む。

小柴は話を続けた。

「私もグループ長として、いろいろ気を遣ってはいるんですが」「たとえば?」「まずはメンバーを励ますことを重視しています。

頑張れと励まし、そして結果が出たら褒めてます」「それはよいことですね」「サカモトさん。

水野のケースは、どうしようもないんでしょうか?」「いや、そんなことはないと思います。

基本的に真面目で仕事内容もきちんとしているのであれば、何かちょっとした要領が水野さんのボトルネックになっているのかもしれません」「どうしたらいいんでしょうか?」「そうですねえ。

ここでは、パフォーマンス・マネジメントの基本である課題分析をしてみましょうか」「パフォーマンス・マネジメント?」「組織行動を変革するために、私たちは行動分析学を応用しています。

ですが本来、行動分析学というのは大変に範囲が広いのです。

組織行動のマネジメントだけでなく、自閉症児の教育から大学院生の教育、医療や健康の領域、スポーツ、安全管理、さらには動物のトレーニングまでできるのですよ。

そのどれにも強化や弱化といった行動分析学の技術が使われます。

そして特に、企業などの組織において、人のパフォーマンスを向上させる行動分析学の応用分野が、パフォーマンス・マネジメントと呼ばれるのです」「なるほど。

それで、課題分析というのは?」「パフォーマンス・マネジメントにおいて必須ともいえる基本技術です。

課題分析は行動分析学のどの分野でも用いられるものですが、組織における人の行動、つまり仕事というのは、ひときわ複雑なことが多いので、課題分析は特に重要性を持ちます」「どんなことを、具体的にはするんですか?」「まずはプロセス分析ですね。

それも大まかなハイレベルから始まって、詳細な行動まで見ていきます。

水野さんの開発というお仕事が、大きく俯瞰するとどのようなプロセスをたどり、そしてその中で、どの行動に問題・課題があるのか。

それを突き止めることができたら、しめたものです」「わかりました。

サカモトさんが課題分析しやすいように、私もできる限りのことをさせてもらいます」次の日からサカモトは、小柴や水野を含む開発2Gのメンバーたちにヒアリングをしながら、開発のプロセスを分析した。

併せて水野の行動も観察し、課題分析を進めた。

「ビジネスパートナーって、人事なんでしょう?なぜ、開発のプロセスなんて詳細に聞くんですか?」という質問も寄せられたが、パフォーマンス・マネジメントの説明をすると、みな「ふーん」と感心したような半信半疑のような顔をしながらも協力してくれた。

その結果わかったのが、図6-1のような開発プロセスである。

第一段階では、新しい携帯電話のコンセプトや特徴・機能を企画する。

これは当社で発案したものをキャリアに提案することもあれば、キャリアから当社に「こんなものができないか」と逆提案されることもある。

そしてキャリアと協働で企画を固めていく。

第二段階では、企画案を具体的な携帯電話のデザインへと落とし込む。

通常、新機種の企画では、今までにない機能や特徴を持つ携帯電話が求められるが、それが技術的に実現可能かどうかは、この段階を経ないと検証できない。

だから、夢を形にするのがこのステップであり、その過程では当社の開発者とキャリア側の担当者とがさまざまな工夫や調整を試み、時には妥協を強いられることもある。

第三段階は、試作である。

デザインされたものを、実際に手づくりで作ってみる。

デザインはあくまで完成した姿を想像して描くが、それが実際に製作可能かどうかは、この段階を経るまでわからない。

この作業は、当社で行われる。

第四段階は、内部評価である。

ここでは、社内の開発者や営業が、試作品のテストを行う。

期待通りの機能を発揮できるか、デザインと実際のイメージとが異なっていないか、予期せぬ問題が発生しないかなどの確認である。

試作の最後で担当者による一次チェックは行われているものの、何しろ携帯電話は何万という人が使うので、社内でもたくさんの目から見た評価をしなければならない。

第五段階で、キャリア・テストに移される。

内部評価をパスした試作品を、キャリアに評価してもらうのである。

ここで開発品は、いったん担当者の手を離れる。

そしてキャリアからの連絡を待つのだが、この待ちの期間が開発プロセス全体の中では最も長い。

しかし、どのケースでもおしなべて長いというわけではなく、長短のバラつきが極端に大きいのが特徴である。

そして試作品がキャリア・テストをパスして帰ってくると、いよいよ第六段階の量産試作へと進む。

ここでは、工場で新製品を量産するための製造技術が試される。

手づくりで試作品ができたからといって、工場で安定した品質・コスト・スピードで量産ができなければ、新製品を市場に投入することはできない。

こうした六段階を経て、開発は完了する。

おもしろいことに、サカモトがプロセス分析をしてみると、意外にも開発者はプロセスをはっきりした段階として捉えていないことが多かった。

「なるほど。

毎日やっていることでも、こうやって図にしてみると、改めて何か認識を新たにしますね」開発プロセスについて各段階での具体的な行動まで列挙した、一〇〇ステップ近い詳細なチャートを前にして、小柴は感慨深げに言った。

サカモトから、課題分析が終わったので話がしたいと言われて持ったミーティングでの出来事である。

「それでサカモトさん、水野については、何かわかりましたか?」「ええ。

課題分析の結果、水野さんの課題はキャリア・テストにあることがわかりました」「キャリア・テストが課題、ですか?一番、手間がかからないはずのところなのに」「実は、そこにこそ問題があったのです。

企画からデザイン、試作、内部評価に関しては、水野さんは決して悪くありません。

しかし、キャリアに試作品を渡してテストしてもらう段になると、いったん渡したあとはキャリアから連絡があるまで放っておくのです」「うーむ」「ご想像がつくと思いますが、キャリアのところには、他社からもたくさん試作品が寄せられます。

それらをキャリアがどの順番でやるかは、キャリア次第なわけです」「でも普通は、届いた順にやると思いますが」「普通は、そうでしょう。

でも、他社がフォローして、自分たちのものを先にやってもらっていたら、どうなります?」「そんなことは……あるでしょうね」「小柴さんご自身も、出し抜いたり出し抜かれたりしたご経験があるのではないかと思いますが。

キャリアには、必ずしも直接的に『自分たちのものを先にお願いします』と言わなくても、『お出ししたものは、どうなっていますか?何かこちらで追加的にできることはありませんか?』などとフォローをきめ細かく繰り返していれば、キャリアが自然とそちらを先にするプッシュ的な効果はあるわけです」「確かにねえ」「実は、私の学生時代の友人が、キャリアの一つに勤めていまして。

彼自身は技術者ではないので、彼を通じて聞いてもらったところ、やはり、いろいろとフォローを入れてくるところを実際には優先しているそうです」「そうなんですか」「はい。

言いにくいことですが、わが社のものが後回しにされたことも、実際あるそうです。

もちろん、うちの誰が担当していたかはわかりません」小柴は絶句した。

「水野さん自身は、いつも一生懸命に仕事をしているので、キャリア・テストが遅滞のもととなっていることに、もしかすると気づいていないのかもしれません。

落とし穴みたいなものですね」「そうですか。

わかりました。

水野と話をしてみましょう。

サカモトさんも、一緒に来ていただけますか?」「もちろんです」小柴とサカモトは、水野に課題分析の結果を伝えた。

水野は、自分でも気づいていなかった問題を指摘され、驚いたようだった。

だが、それで素直に納得したかというと、そう簡単にはいかなかったのである。

「キャリア・テストに問題があることはわかりました」水野は言う。

「ここできちんとフォローをすれば、キャリアからの戻りは早くなるでしょう。

でも、今でさえいくつもの開発テーマで手一杯なんです。

ある試作品がテストから早く戻ってきたとしても、他のものに手をとられている状況では、戻ってきたものを扱う時間はとれません。

それでは結局、完成は早まらないのではないですか?」

「うん、その点なんだが」小柴は返答する。

「サカモトさんとも話し合って、こうしようと思うんだ。

開発テーマに優先順位をきちんとつけて、優先度の高いものから先に完成させるようにする」「ということは、優先順位の低いものは、放っておいていいということですか?」「そうは言っていない。

開発全体を効率化して、すべてのテーマをスピーディーに仕上げることを、究極的にわれわれは目指さなければならない。

でも現実の場面で、もし、どちらかを選ばないといけない状況があったら、優先度の高いものを先にやる」「それでは結果的に、後回しにされるテーマがある、ということじゃないですか」「それは、その通りだ。

私たちのキャパシティ(人手)は有限だ。

その有限なものを使って、最大限の成果を上げるためには、『今やるもの』と『今やらないもの』を、はっきりと識別しなければならない。

これが、選択と集中という、経営戦略の考え方なんだ」水野は反対しなかったものの、苦しげな表情である。

小柴は続けてフォローした。

「まさに苦渋の選択を迫られるわけだ。

でも、私たちの勤務時間は、すべて開発に注がれているわけではない。

社内プロジェクトや事務仕事もある。

それらも含めて効率化したうえで、時間の使い方の優先順位を考えよう。

魔法のような解決策はない。

でも、こうすれば、トータルとしては今よりもずっとよい仕事ができるようになるんだ」水野は、やや不承不承ながらもうなずいた。

どのような行動を強化すればよいか、ターゲットが明確になれば、あとは実行あるのみだ。

翌日から、小柴は水野のキャリア・テストのフォローを強化し始めた。

水野自身も自覚して、フォローを怠らずに行うようになった。

すると、そのかいあって、会社が戦略的な重点製品と位置づけていたテーマを、デッドラインより一カ月も早く完成することができたのである。

小柴は大喜びし、水野を賞賛した。

水野も、やっと戦略的な意思決定の意味を実感できたようで、しみじみと嬉しい様子だった。

「いやあ、サカモトさん、ありがとうございました」小柴は喜色満面で言った。

「水野さん、本当によかったですね」サカモトも嬉しそうな顔で言う。

「課題分析、使えますね」「そう言っていただけると、私も報われます。

でも、課題分析は、水野さんだけのことではありませんよ」「ええ。

わかっています。

サカモトさんが皆と作ってくれたプロセス・チャートを使えば、他のメンバーの課題も見えてきますからね。

それにしても、何年も開発をしている本人たちが、ああいうプロセスを明確に認識していなかったなんて、意外というか、お恥ずかしいというか」「いえいえ。

自分たちが毎日やっていることというのは、あまり大所高所から振り返ったりしないものですよ」「ともかくこれで、水野も、開発を率いる私も、自信がつきました」「組織能力が、確実に上がりましたね」小柴もサカモトも、新しい会社の将来に、明るい希望を感じていた。

解説1.課題分析とは何か今までの章では、私たちは「どのようにすれば」人の行動を変えられるのか、その原理と手法を学んできた。

だが、この章では人の行動の「何を」変えるのかがテーマとなる。

開発2Gの水野は、熱心に働いているのに、そのわりに成果が上がらない。

だから彼の問題は単に「働く」行動を強化し、その頻度や強度を増やすだけでは解決しない。

水野のような技術者は、一般的には「要領が悪い」と表現されるだろう。

しかし、第5章で述べたように行動の問題を扱うときには、常に特定の行動に焦点を当てることが大切だ。

「要領が悪い」というのは具体的ではない。

「もっと要領よくしなさい」などと言ったところで、効果はない。

要領が悪いというのは、何なのか、もっと行動のレベルで具体的に考えてみる必要がある。

行動と一口に言っても、ボタンを一回押すような簡単なものから、水野が行う新機種の開発のような一連の行動から出来上がっている複雑なものまでさまざまである。

要領が悪いということは、その人の一連の行動のどこかに問題があるということだ。

だから、ここで第一にしなければいけないマネジメントは、ただ「頑張れ」と言って励ましたり、結果が出たら褒めたりすることではない。

水野の働き方の中の「どの行動」を強化(または弱化、消去)すればよいのかを、まずは突き止めなければならない。

そのためには、水野の業務である開発プロセスが、どのような行動から成り立っているかを分析する必要がある。

一連の複雑な行動からなるプロセスを、個々の行動にブレイクダウンすることを課題分析(taskanalysis)というが、水野のパフォーマンスを上げるには、この課題分析が鍵となる。

課題分析いくつもの行動がつながって一連の行動になっている複雑な行動を、個々の構成要素に分けること課題分析をする際には、行動の最終的な成果ではなく、途中のプロセスを見なくてはいけない。

つまり開発テーマが完成したかどうかではなく、開発にかかわる行動を一つひとつ見ていかなくてはならない。

最終的な成果だけを強化すればよいのなら、行動マネジメントは実に楽だ。

しかし、最終的な成果を強化してもあまり効果がなかったり、最終的な成果が時間的・頻度的になかなか出てこなかったりする場合には、途中のプロセスを丹念に見ていく必要がある。

水野の開発プロセスには、大きく分けて六段階があることがわかった。

第一段階企画↓第二段階デザイン↓第三段階試作↓第四段階内部評価↓第五段階キャリア・テスト↓第六段階量産試作調べてみると、このうち、水野は特に第五段階のキャリア・テストに問題を抱えていたことがわかった。

そこで、この第五段階を課題分析によって、さらに個々の行動にブレイクダウンしていった。

その結果、第五段階において、本来あるべき四つの行動のうち、水野には②の「キャリアへの進捗フォロー」行動が欠けることがわかった。

そのため、①から③へのつながりが途切れ、サイクルが間延びしてしまったり、時にはライバル企業に割って入られたりしていたのである。

そして、もちろん、「進捗フォロー」なるものもさらに課題分析し、具体的にどのような行動なのかまで考える必要がある。

キャリアの担当者に電話をかけ、「お出ししたものはどうなっていますか?」「何かこちらで追加できることはありませんか?」と聞いてみるという行動がそれにあたるだろう。

水野は技術開発にかけては優秀なエンジニアであるかもしれないが、このフォローには、キャリアに電話するタイミングを計り、実際に電話をかけ、しかも、相手に押しつけがましさを感じさせずに催促する(!?)話し方が必要である。

水野にはこれができていなかったのだ。

課題がわかってしまえば、あとは強化あるのみだ。

実際、変えるべきターゲット行動が正確かつ具体的に特定できてしまえば、そこから先のことは技術論的には至極シンプルなのである。

だから行動マネジメントの実践家にとって実務上の最大のポイントの一つは、この課題分析にあるといってよいだろう。

2.行動の科学とその実践:行動と所産行動分析学は、行動を研究対象として、その原因を分析し、行動の問題を解決していく科学である。

したがって、行動に焦点を当て、それを改善することが本筋である。

たとえば、これまでのケースのように、「会議で発言する」「定時退社する」「部下をジロリと睨む」「皮肉な発言をする」といった具体的な行動を取り上げ、その頻度を増やしたり減らしたりすることを目指している。

しかし、ビジネスに限らず、多くの現場では、行動そのものを対象にしない場合も少なくない。

企業にとっては何より利益が求められるが、利益は行動ではない。

その企業で働く人々の無数の行動の所産(成果;Product)である。

企業に対する社会の評価も、その企業の活動によって生み出された所産である。

企業の発展のためにはよい顧客を持つことが大切だが、営業活動によって得た顧客も所産である。

多くの企業が、利益、新規成約件数、顧客数、売上げ、販売数、単位時間当たりの生産量を増やすことを考え、安全管理における事故の件数や廃棄ロス、顧客からの苦情を減らすことを考える。

実際の現場においては、もし、これらの所産に何も問題がなければ、とりたてて行動について思いめぐらす必要はない。

新規契約は予定通り伸び、顧客が増え、売上げが順調で、利益が右肩上がりならば、必ずしも一人のエンジニアの進捗フォローに目を向ける必要はないかもしれない。

また、たとえ、これらの所産に問題が生じたとしても、成約件数や売上げに焦点を当てるだけで、解決することもある。

しかし、所産に焦点を当てるだけでは問題が解決しないこともある。

そのときこそ、所産を生み出す個々の行動に目を向けなければならない。

成約を生み出すよい営業活動(もちろん課題分析によって具体的に考える必要がある)や、事故の減少を生み出すヘルメットの着用やゴーグルの装用など、安全基準に則った行動を考えねばならない。

3.パフォーマンス・マネジメントターゲット行動が特定できたら、あとはそれを強化や弱化もしくは消去すればよい。

その具体的なやり方は、これまでの章に書かれている通りだ。

一方、このケースではパフォーマンス・マネジメントというものに言及がされている。

ケースの中ではこれにはあまり触れていないので、ここで説明しておこう。

パフォーマンス・マネジメント個人や企業、社会が抱える行動的問題を行動分析学に基づいて解決する方法行動分析学は、人間の大人だけでなく、子どもの教育からペットのしつけまで、すべての生き物の、あらゆる場面に応用が可能な幅広い学問だ。

したがって応用分野によってさまざまな専門領域がある。

パフォーマンス・マネジメントもその一つだ。

また特に組織の行動を扱う分野は「組織行動マネジメント」(OrganizationalBehaviorManagement;OBM)と呼ばれ、国際行動分析学会の中にはOBMnetworkと呼ばれるグループがあり、学会も行われている。

パフォーマンス・マネジメントが必要とされるのは、自然の随伴性では適切な行動を効果的にサポートできないときだ。

たとえばこのケースのように、キャリアに進捗をフォローするという行動には、最終的な成果という好子は存在するが、同時に、短期的には自分の仕事を増やしてしまうという嫌子もある。

また、フォローした相手に不快感を表明されてしまうかもしれない。

一方、フォローをしなくても、すぐに何か嫌なことが起こるわけではない。

本人にはすでに十分な仕事があり、それを真面目にやっていれば、毎日はつつがなく過ぎていくのである。

この環境を意図的に変えるのがパフォーマンス・マネジメントだ。

そしてパフォーマンス・マネジメントには、いくつかの鉄則がある。

鉄則①口約束ではなく文書に残せ行動分析学には、「行動契約」という概念がある。

行動をマネジメントするために、何をいつまでにするか行動をした場合、またはしなかった場合に、その結果として何が起こるかを明記したものを作り、マネジメントする人とされる人との間で契約として交わすのだ。

鉄則②効果的な好子や嫌子を探せパフォーマンス・マネジメントは、自然には得られない新たな随伴性を導入する。

だから、そこで使われる好子や嫌子は本人にとって真に効果的なものでなければならない。

さもなければ、もともと存在する自然の随伴性に負けてしまう。

何が本人にとって効果的な好子か。

それは本人の意見も入れながら決めるのが望ましい。

だが多くの会社では、マネジメント側と本人の視点とがずれていて、好子や嫌子が機能していない。

ある意味では、効果的な好子が見つかりさえすれば、マネジメントは成功したようなものなのである。

鉄則③パフォーマンスは最低でも週に一回はチェックせよ頻繁にチェックすること──これはパフォーマンス・マネジメントを現実に成功させるための、最も重要なコツかもしれない。

行動変化の速度は、随伴性の出現頻度と比例するからだ。

たとえば毎日チェックして好子や嫌子を与えるのと、年に一回しかチェックしないのでは、行動変化の程度はまったく異なる。

だから最低でも週に一回はチェックすることを肝に銘じよう。

ちなみに、一般的な人事制度だけでは十分な行動改革ができないのは、これが大きな理由である。

評価や報酬の見通し(昇給など)は、たいてい年に一回か二回しかなされないが、それでは足りない。

とはいうものの、昇給や昇格を毎週行うわけにはいかないだろう。

だからパフォーマンス・マネジメントでは、昇給の

代わりに非金銭的報酬を用い、昇格の代わりに社会的報酬(賞賛など)を用いることが必須となる。

また、正式かつ厳密な人事査定を毎週するのは現実的に負担が大きすぎるから、それとは別の行動評価システムを持たなければならない。

無論、そうした日常的な評価システムは、仕事の成果を上げることが目的であるから、期末の正式な評価(考課)ではその結果を反映して評価が上がるという形をとって、行動評価と人事評価をリンクさせるのである。

鉄則④ルールをはっきり規定せよ何をどれだけしたら、どのように報われるのか。

逆に、しなければどのような報いが待っているのか、その随伴性をはっきりさせておかなければならない。

しかも、ビジネスパーソン相手にパフォーマンス・マネジメントをするときは、この随伴性を言葉で明示するほうがよいことは誰でも思いつく。

随伴性を言葉で明示したものは「ルール」と呼ぶが「ルール」については第16章で解説する。

行動分析学は赤ん坊や動物にも使えるものだ。

しかし彼らには言葉が通じない。

そのため彼らは、「ルール」を理解するために膨大な試行錯誤を経ることになる。

だが人間の大人が相手なら、はじめからルールを明確に理解させておくほうが、はるかに効果的かつ効率的にその行動をマネジメントできることは明らかだ。

しかし、実際の職場では、何をしたらどう報われるのかがはっきりしていないことのほうが圧倒的に多いようだ。

皆さんの職場ではどうだろう。

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