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「頑張っても頑張っても、自分に満足できない。部下もなかなか成長してくれないし、ストレスだらけです」お菓子店オーナー社長   40代  佐藤敏子さん(仮名)

成果を出しても、自己肯定ができない  社長さんという人種(失礼いたします!  でも、私は社長さんというのは「社長」というちょっと特別な人種だと思っています)の多くは、何かしらのトラウマやコンプレックスを持っていることが多いように思います。  ご本人は忘れていて、普段は意識していなくても、そうしたトラウマやコンプレックスがバネになって成功されていることが多々あります。  いっぽうで、このトラウマやコンプレックスが、社長さんの悩みの原因になっているケースも多いのです。  この相談の主である佐藤社長も、最初は、自分の悩みがトラウマやコンプレックスに起因していることにまったく気づいていませんでした。  佐藤社長はケーキ店を経営されていて、なかなかのやり手です。  コロナ禍でも、「出かけられないからこそ、ステイホームでケーキを楽しんでもらいたい」と考え、ちょっとスペシャルなショートケーキを作ったり、パッケージを工夫したりして、コロナ前よりも倍の売上アップを実現しています。  私から見れば素晴らしいのひと言。にもかかわらず、業績は上がっても、自己評価は上がらない。それどころか、自己否定ばかりでストレスが溜まるいっぽうだといいます。  聞けば、自分としては、これまでやってきたノウハウを社員たちに教えたい、というステージにきていると思うのに、忙しくて、なかなかそれができないとのことです。  私は、「なぜ、時間がないのか」から聞いてみることにしました。すると……。「何か問題が起こっても、社員に任せることができず、つい、自分でフォローしてしまう。それに時間を取られるから、自分の仕事が押せ押せになってしまって、いつも忙しい。結果として、社員を育てている時間がないんです」「どうして、そんなに社員を成長させたいのですか?」「それは、これからの時代、自分だけでも生きていけるようにしてあげないと……。お菓子作りの技術を身につけて、ゆくゆくは私と同じように、ケーキ屋の店主として自立させて、食べていけるようにしてあげるのが社員のためですから」「自立させたいのに、問題が発生すると、つい、自分でフォローしてしまうのですか?」「それは……。たぶん、できない人を見ると、子どもの頃の自分を思い出すのだと……」「子どもの頃の自分?」「私、子どもの頃、不器用で何をやってもうまくいかず、劣等感の塊だったんです」「頑張っている自分」を、ねぎらってあげる  詳しくうかがうと、佐藤社長は子どもの頃から不器用な自分を、「努力、汗、根性」でカバーしてきたとのことでした。  なかなか成長しない社員たちを見ていると、かつての「できなかった自分」を見るような気がして、「助けたい」と思ってしまう。だから、ついフォローしてしまう。でも、いっぽうでは、「あなたたちも、私みたいに努力すれば一人前になれる。自立できるから頑張って!」って思い、エネルギーを持って教えたい自分もいる。  それなのに教育のための時間が取れないし、社員たちも、自分がいつもフォローしてしまっているために、甘えが出ているような気がする。  ついフォローしてしまう自分と、社員を育てて自立させたい自分の板ばさみ。  さらに、やる気が感じられない社員たちに対して、いつもイライラしているという状態に陥っていたのです。  このように、「周りの人間も、自分と同じように努力すればできるはずだ」と考えてしまうのは、努力型の社長さんが陥りやすい落とし穴です。  とくに、コンプレックスをバネにして頑張って成功した社長さんは、「不器用だった自分でもできたのだから、コイツらにできないわけがない」と考えて、愛情を持って、熱心に、時には厳しく指導してしまいがちです。  でも、そもそも、周りの人が自分と同じだと考えることが問題なのです。  能力のことではありません。「誰もが自分と同じように、努力して、成功することを目標にしているわけではない」ということです。  最近の若い人たちは、「出世するよりも、ちゃんと勤めて、そこそこの給料をもらっていれば十分。プライベートな楽しみのほうを優先したい」という人が多いようです。  そのことをちゃんと理解しないで、頑張ってきた自分の価値観を押しつけると、社員との間に、熱量のズレが生じてしまいます。私はまず、「子どもの頃から人一倍努力し続けている」という佐藤社長の「疲れている心」をねぎらうことにしました。そこをクリアにしないと、次のステージに行けないからです。「佐藤さんは子どもの頃、何ごともなかなかうまくできなかったのですね。でも、そういうダメな自分だったからこそ、一生懸命に頑張ってここまでになったのだと思います。ダメだった過去の自分は、今も佐藤さんの心のなかに生き続けています。その自分に対して、『苦しかったね、たいへんだったね』ってねぎらいの言葉をかけてみてください。『ダメだったあなたがいたから、ここまでこられたよ』って」  その時点での佐藤社長は、「まだ努力が足りない、まだ努力が足りない」って、自己否定を続けていました。自分をいっさいねぎらうことなく過ごしてきたわけです。  それが、自分をねぎらうという感情コンサルによって、緊張し続けてきた心がほぐれて、こんなことを言ってくれたんです。「今まで、努力するのは当たり前だと思っていましたけど、考えてみると、相当頑張ってきたんですね」  自己肯定感の芽生えです。こうなれば、次は社員へと目を向けることができます。自分のコンプレックスによるこだわりで、他人をコントロールしない

ここで初めて、私は佐藤社長に、次のように伝えました。「佐藤さんは、お店を続けていきたい、お客様を喜ばせたいって思っていろいろなアイデアを出されていますよね。それと同じ意欲がスタッフさんたちにあると思いますか?」「それが感じられないから、イライラしてしまうんですよね」「そうですよね。でも、考えてみてください。全員が店長になりたいと思っていたら、お店は成り立ちませんよね。美味しいケーキを作りたいだけの人も必要です。一般企業も、営業・開発・企画・広報って、いろいろな役割の人がいて成り立っていますよね」「えっ、ちょっと待ってください。じゃあ、スタッフたちはいずれ独立したいと思っていないということですか?」「はい。思っていないと思います。価値観や幸せというのは、人によって違うものですから……。お店で社員との面談の時間があるとおっしゃっていましたよね。その席で、いつか独立したいと思っているか聞いてみてください」  独立してやっていく力を身につけさせることが、「社員のため」だと思い込んでいた佐藤社長ですが、実際に面談で社員の思いを聞いてみると……。  全員から「社員のままでいい」と言われたそうです。「目からウロコでした」と佐藤社長はしみじみおっしゃっていました。  人を育てるうえで、将来の独立を視野に入れることは、大切な視点です。  ただ、佐藤社長の場合は、自分の経営手法や経験を必要としている人たちが、「別にいた」のですね。ビジネス的に言えば、ターゲットが違っていたとわかったのです。  結局、佐藤社長がやろうとしていたのは、「自分のコンプレックスに起因する思い込みで他人をコントロールしようとしていた」ということだったわけです。  こうしたケースは、親子の関係でもよくあります。親が子どもへの愛情や優しさの裏返しで将来をコントロールしてしまう。大事な相手だからこそ、コントロールしたくなる。  でも、コントロールしたくなるということは、相手を信じていないということ。  コンプレックスからくるコントロールも、相手のことを思いやってのコントロールも、その奥には、「相手は教えてあげないとうまくいかない」という気持ちが隠れています。  そこには、信頼関係が構築されていないのです。  でも、信頼なきコントロールや、コンプレックスに由来する思い込みによるコントロールなら、相手にとっては、ただの迷惑でしかありません。さらに深掘りすると、「自分のことを大丈夫」と信じていないから、他人のことも大丈夫と思えないのです。  前述したように、トラウマやコンプレックスは、社長さんにとって、意欲をかき立てるうえではすごく大事なものです。無理になくす必要はありません。  ただ、たとえば、「絶対に負けてたまるか!  負けることは悪いことだ!」というような「不安をあおるコンプレックス」というのは、持ち続けていると苦しくなってしまうんです。「負けてはいけない」というコンプレックスを持っている社長が経営不振に陥ると、自分で自分を追い詰めてメンタル面をおかしくする原因になってしまいます。  さらに、コンプレックスをバネにした頑張りは、敗戦をバネにした高度成長期とか、ひと昔前までは、たしかによかったと思うのです。でも、何度も言うように、今の時代、頑張ることだけで成果を出すことは限界がきています。  若い人たちは、それを本能的に感じているので、起業する人でも、仕事へのモチベーションが、「頑張り」から「自己実現」「社会貢献」とか「持続可能な社会の実現」などへと変わっているのではないでしょうか。  スタッフに対して、自分の価値観を押しつけていたことに気がついた佐藤社長は、面談以降、スタッフたちに過度な期待をかけることをやめました。   3か月くらいかかりましたが、仕事にいちいち口出しすることもやめたそうです。  ある意味、初めてスタッフの人たちと対等に向き合ったのです。  すると、それまでのイライラがウソのようになくなったといいます。「最近は、スタッフのいいところも見えるようになってきました」  佐藤社長からは、そんな言葉をいただきました。

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