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「勝ち味」を覚えさせよ―チェイニング

第8章「勝ち味」を覚えさせよ──チェイニング

ケース─自信を持たせる仕事のさせ方1「一〇年かけて一人前」では間に合わない2チェイニングとは3チームワークの重要性4新しい行動を身につける五つの手法

自信を持たせる仕事のさせ方サカモトのパフォーマンス・マネジメントが入ってから、営業一課では月初めと月半ばに開かれる営業会議までが大きく様変わりした。

それまでの営業会議では、月初めには前月の売上げが各担当から発表され、木元課長が喜んだり怒ったりするというのがお定まりのパターンだった。

また月半ばでは、各担当者が当月の売上げ予測と受注見込みを述べ、見通しの暗い者には木元課長がハッパをかけるという風であった。

いずれにせよ、営業会議は毎度ピリピリと張り詰めた空気の中で行われ、順番に発表しなければならない各担当と木元以外は誰も発言せず、課員たちにとっては月に二回の苦行の時間となっていた。

だが、課題分析とシェイピングを行うようになってからは、営業会議は結果よりも「プロセス」に焦点を当てるものに変わっていった。

各人が今ぶつかっている壁について話し、それについて周りの皆が質問したり参考になりそうな話をアドバイスしたりする。

各人各様のスタイルや強み弱みがあり、案件も各々に細かいところはユニークであったりするので、他者からのアドバイスはあくまで助言にとどまり、それを強要されることはない。

だが、一般的なコツを共有する毎週の勉強会と異なり、営業会議でナレッジ・シェアをすることは、目の前の壁をどう打ち破るかというきわめて実戦的な教育効果を課員たちにもたらす。

そのため会議の雰囲気も、以前の心が冷えるような暗いものから、今では明るく活気のあるものへと変化した。

もっとも、営業会議でこのような話ができるようになったのは、やはり毎週の勉強会があったからこそである。

勉強会を頻繁にやり、コミュニケーションを密にするようになったおかげで、彼らの間にまず共通言語が持てるようになった。

それまでは、同じ言葉でも意味が人によって微妙に違っていたり、逆に同じ意味のことを人によって異なる言葉で表現したりしていた。

そのため、改まって営業の戦術などを討論しようとしても、相手の言っていることがなかなか理解できず、意思疎通にものすごい時間とエネルギーがかかってしまっていた。

だから営業会議でも、突っ込んだ議論は時間の制限もあってできなかったのである。

しかし、毎週の勉強会のおかげで共通言語が使えるようになると、課員たちの意思疎通のスピードは、以前とは比べものにならないほど格段に上がった。

みんなが、いわゆる「ツーといえばカー」の関係になれたのである。

そのため営業会議でも、それまでの内容をカバーしながら、そのうえに加えてプロセスの話もできるようになったのだ。

勉強会のもう一つの効果は、建設的な議論ができる風土ができたことである。

一般的なシチュエーションにおける営業方法を勉強会で議論しているうちに、営業一課の人々は、自分の意見を言うことに、ためらいを感じなくなっていった。

相手の話に同感できないときには、異論をきちんと述べられるようになっていったのである。

これは実は、彼らにとって大きな変化であり進歩であった。

それまでは、先輩の言うことが絶対という風潮があり、後輩は黙ってそれに従うしかなかった。

確かに、実務においては経験の豊かな者の考えに従うほうが、適切だったり安全だったりすることが多い。

だが、先輩だって神様ではない。

たまには間違っていることもある。

しかし、後輩が「何か変だな」と思っても、今までは何も言えなかった。

そしてそれが、先輩にとっても後輩にとっても、気づきと成長の機会を奪ってきたのである。

この〝思っても言わない〟行動が、いつの間にか日々の仕事全般にいきわたり、誰に対しても異論を述べない、おとなしく活気のない風土を作っていたのである。

だが、勉強会が進むにつれて、普段なら聞きにくい質問や、言うのがためらわれるアイデアなども、皆が発言できるようになった。

そのおかげで、営業会議でも、活発な発言がしやすくなったのである。

勉強会の三つ目の効果は、相互理解やお互いへのリスペクト(尊敬、尊重)が進んだために、基本的な相互信頼が皆の間に強まったことである。

特に営業会議でプロセスを論じる際には、これは重要な前提条件となる。

営業会議では、現在進行形のリアルな案件について話し合う。

しかし注意しなければならないのは、一つ間違えると、こうしたディスカッションは担当者のプライドを傷つけたり、無用のプレッシャーをかけたりしてしまうことだ。

担当者にしてみたら、人のアドバイスなどは「余計なお世話」に思えてしまうのである。

だから、このような現実の問題を討議する際には、お互いがマナーを心得ると同時に、互いの間に信頼関係が構築されていることが、大切な成功要件となる。

営業一課では、ビジネスパートナーのサカモトが黒子となって働きかけたこともあり、勉強会も営業会議もスムーズに運営されるようになった。

しかし彼には、まだ気になることが一つ残っていた。

「木元さん」ある日、サカモトは木元課長に話しかけた。

「何ですか、サカモトさん」今やサカモトに大きな信頼を寄せるようになった木元は、真面目な顔をして答えた。

「栗林さんって、いますよね。

彼は、どういう人なのですか?」「ああ、栗林ですか。

彼は今年、営業に異動してきた者です。

何か気になることでも?」「いえ、別に問題があるというわけではないのですが。

勉強会や営業会議を傍聴させていただいていると、栗林さんは、あまり発言されないものですから」「まあ、まだあまりに経験が浅いですからねえ。

シェイピングで成長を加速していっても、それでもまだ一人前になるには、それなりに時間が必要でしょうねえ」実はサカモトが一番気になっていたのは、栗林の覇気のなさだった。

仕事に無関心なわけではない。

勉強会でも一生懸命にメモをとっている。

だが、それでも、何か勢いが感じられないのである。

サカモトは、栗林と話してみることにした。

「栗林さんは、今年、営業に移って一年目だそうですね。

仕事には慣れましたか?」「ええ、まあ。

手順は一通り覚えたつもりですが。

……でも、まだ成果を上げるには程遠くて」「今まで、どんな案件を手がけてこられたのですか?」「SA110iとか、GP150とかです。

……まだ成約に至ったものは、ありませんが」「ああ。

それは、ちょっと残念ですね」「うちのような業態は、たくさんの商品を大勢のお客に売るようなものではないじゃないですか。

一つの案件も何カ月もかかるし、案件もそんなに何十とあるわけではないし」「これからが楽しみ、というところでしょうか」「まあ、そういうことなんでしょうが……。

でも、自分に果たしてちゃんと契約が取れるのか……」「それは、取れるでしょう」サカモトは、わざと断言的に言った。

栗林は少し笑って、「私も、そう願っていますし、会社的にも、そうでないと困るんですが」「でも、今の時点では、自信が持てない?」「はっきり言うと、そうなんです。

まだ一度も契約が取れたことがないと、そこまでのイメージが心の中で持てないというか。

勉強会なども、とても参考にはなるのですが、正直言うと、そこでの話もなかなか自分の中に入ってこない。

染み込んでくるような感覚がないんです」「まあ、すべては経験の少なさからくるものでしょうから、いずれ解決するとは思いますが……。

でも、今この時点で、できればもっと自信が持てるようになりたいですよね」「そうなんです。

サカモトさん。

例の行動分析学で、どうにかならないものでしょうか。

今は、勉強会でも聞くことしかできなくて。

自分にとっては学習にはなるものの、み

んなに貢献できないのが残念というか、恥ずかしいというか」「お気持ちは、わかります」「勉強会はさておいても、自分がいつになったら結果を出して会社の役に立てるのか、今はまだ見当もつかないんです」サカモトは、再び木元とミーティングを持った。

「木元さん、栗林さんのことですが」「ええ。

彼から、サカモトさんと話したと聞きましたよ。

何か進展は図れそうですか」「栗林さんの力量をレベルアップする王道は、やはりシェイピングであることに変わりはありません。

ですが、彼に欠けているものは、技術や知識だけではないと思うのです」「というと?」「自信です。

自分には営業ができる、成果が出せるという自信。

それが持てれば、仕事自体にも勉強会にも、もっと前へ前へと貪欲に向かえるようになると思うのです」「それは、ごもっともです。

でも、経験を積ませること以上に自信を持たせる方策って、あるんですか?」「おそらくないと思います。

ですが、経験の積ませ方を一工夫することは、できます。

バックワード・チェイニングという方法です」「ほう?」木元は興味をそそられ、思わず体を前に乗り出した。

「仕事は行動の連鎖から成り立っていることは、課題分析でご理解いただけたと思います。

行動の連鎖、つまりチェイン(鎖)です」「確かに、一つひとつは短い行動が、鎖のようにつながって何カ月という仕事になっていますよね」「その通り。

詳しいご説明はあとでさせていただきますが、この鎖を前からたどっていくことをフォワード・チェイニング、逆からたどっていくことをバックワード・チェイニングといいます」「フォワードのほうは、普通に仕事をしていくイメージとしてわかりますが、バックワード・チェイニングというのは何ですか?」「最後の結果から、逆にたどっていくのです。

営業の場合でいうなら、まず契約からさせてみる」「栗林に、ですか?」「そうです。

木元さんたちが手がけていらっしゃる案件で、二次見積もりまでほぼ済んだものを栗林さんに引き継ぎ、最後の契約をさせてあげるのです。

もちろん、唐突に契約だけ引き継いでも、わざとらしい感じがして、栗林さんも『自分がやった』とは思いにくいでしょうから、ある程度早い段階から一緒に参加してもらうほうがよいと思いますが。

そして契約ができたら、褒めてあげるのです。

それを何件か繰り返す」「いわゆる成功イメージを持たせる、というやつですか」「その通り。

一度も結果を出したことのない人に対しては、これは特に有効だと思います。

そして、契約に慣れてきたら、次はその前段階の二次見積もりからさせて、その次にはさらに前段階の一次見積もりから……と、段階的に幅を広げていくのです」「なるほど。

日本でも『勝ち味を覚えさせよ』と昔から経験的にいわれてきましたが、それには、こんな理論的な背景があったんですね」「もちろん、バックワード・チェイニングだけでなく、一つひとつの行動を作りあげていくシェイピングも続け、成長を加速します。

そうすれば、真面目な栗林さんのことですから、いったん調子に乗れば、ぐんぐん伸びる可能性はあると思います」「うん。

そうですね。

それでは、やってみましょう」翌週から、木元は栗林の担当案件と自分の案件とを見直し、新たな担当割りを考えた。

基本的に向こう一年間をめどに、木元と栗林はいくつかの案件を共同で担当する。

これによって、契約間近の案件を栗林に担当させるバックワード・チェイニングができるだけでなく、営業プロセスの最初から一緒にやることで、プロセス全体にわたるコーチングもできるようにした。

そしてまもなく、最初の契約が栗林の手で結ばれた。

「木元課長。

ZA500、契約締結しました!」「おお!やったな!おめでとう!!」木元が大声で言う。

すると周りの営業たちも、口々に「ほんとか!やったじゃないか」「上出来、上出来」と栗林を褒めた。

「栗林さん、やりましたね」サカモトも、握手の手を差し出しながら言った。

栗林は、その手を握り返し、「ありがとうございます。

サカモトさん」と、感激した表情で言った。

「もちろん、この案件は、ほとんど木元課長が進め続けて成約に至ったものです。

でも、最後のほうからでも参加させてもらって、契約書にハンコがつかれて送られてきたのを見たときには、私もすごく嬉しくて」栗林の目はキラキラと輝いていた。

「営業って、こういう瞬間があるから、頑張ろうって思えるんですね。

今まで正直言って、知りませんでした。

こう言っては叱られてしまうかもしれませんが、営業って、おもしろい仕事なんですね」サカモトは笑いながら言う。

「それが本音ですよね。

人間って、お給料もらっているからとか、仕事だからと割り切って働いているのと、その仕事のおもしろさを知って働くのとでは、全然違いますよね。

それは気分の違いだけではなくて、きっとこれからの栗林さんのパフォーマンスにも違いとなって出てくると思いますよ」栗林は、感激と熱意に潤んだ目で、うなずいた。

解説1.「一〇年かけて一人前」では間に合わない新しいスキルを獲得し、成長を加速する工夫の一つとして、前章ではシェイピングを取り上げた。

この章では、さらなる工夫として、チェイニング(特にバックワード・チェイニング)を扱っている。

新人営業の栗林は、真面目な性格ではあるが、経験不足からまだ成約を得たことがない。

そのため自分に自信が持てず、それが覇気のなさや勢いのなさといった、万事に対しての消極的な姿勢へとつながっていた。

通常、メーカーの営業のような複雑で長いプロセスは、すべて十分できるようになるまで何年もかかるといわれる。

前章から登場した営業一課の木元課長は一五年かけて、今の営業を作り上げた。

世の中全体が今よりゆったりしていた昔であれば、それを覚悟して働くのが社会人としての自覚であったのかもしれない。

また、社会全体もそれを許容して、成り立っていた。

しかし、現代のようなスピード社会では、何年たっても結果が出せるようにならない仕事は組織として認められないだけでなく、同時に、働く人のモチベーションを下げてしまう恐れがある。

もちろん、そのための一つの対策として、プロセス(中間目標)を達成できたら好子を提示するということをするわけだが、やはり最終的な成果ほど達成感を感じさせるものはない。

栗林の場合も、まだ一度も契約を取れたことがないという事実が自信のなさにつながっていたのである。

最終的な結果を出したことがないと、自分に結果が出せるという確信を心から得ることができない。

不思議なもので、「自分にはできる」と信じられるか、それとも半信半疑でいるかによって、学習そのものにまで違いが出てしまうのが人間だ。

自分が最後までできると「感じる」ことができないと、ケースの中にあるように、「(成功の)イメージが心の中で持てない」ことになってしまう。

勉強会などで学んでも、それが「染み込んでくるような感覚がない」ことになってしまう。

昔ながらに、「それでも我慢して働き続けることが大切だ」と思う向きもあるかもしれない。

確かに、何年も経験を積み重ねてゆけば、やがては結果を出すこともでき、その暁には自信を持つこともできるようになるだろう。

けれど現代のように人材が流動化する社会では、そこまで人は気長に構えることはできないかもしれない。

ある程度やって、自分がこの仕事に向いているとか、自分が会社の役に立つことができるとかいったことが感じられなければ、たとえば若い人なら会社を辞めてしまうことだってありうるのだ。

2.チェイニングとは

そこで、長くて複雑な仕事においても、早く達成感を感じることができるようにするための工夫が必要となる。

それがバックワード(逆行)・チェイニングと呼ばれるものだ。

ここでまず、チェイニングというコンセプトを説明しておこう。

チェイニングとは、チェイン、すなわち鎖という言葉からきている。

だから、チェイニングとは鎖でつなぐという意味である。

長く複雑な仕事を課題分析すると、たくさんの小さな行動に分けることができる。

その小さな一つひとつの行動を鎖にたとえると、そうした行動が鎖のようにつながって、一つの仕事を形作っている。

つまり、チェイニングとは、一つの仕事を細かな行動の連鎖として捉えることで、効果的・効率的な行動マネジメントができるようにすることなのである。

チェイニングには、フォワード(順行)とバックワード(逆行)の二種類がある。

フォワード・チェイニングとは、課題分析された行動(図8-1の行動1、行動2、……)を少しずつ前から順につなげて鎖を長くしていくやり方だ。

栗林の仕事であれば、まず訪問することを確実に完成させる。

次に、訪問し、さらに自社紹介と、二つの行動の鎖を完成させる。

二つの鎖がスムーズにできるようになったら、「訪問」+「自社紹介」+「企画説明」の三つの鎖をつなげる。

このように、行動1から始まって、前から順番に、少しずつ鎖を長くしていって、最後にはすべての鎖をつないで、行動全体を完成させる方法がフォワード・チェイニングである。

普通、仕事というのは第一ステップから始めて第二ステップ、第三ステップへと進むから、フォワード・チェイニングというのは、ごく常識的なマネジメント手法であるといえるだろう。

一方、バックワード・チェイニングは、行動の連鎖を最後から逆順に完成させていく。

だから、最初にすべきことは、最後の鎖となる行動を、教示(言葉で説明して教える)、モデリング(手本を見せる)、シェイピングなどのテクニックを駆使して、確実にできるようにすることである。

栗林の場合は、契約締結という最終ステップだけを、まずやらせるわけである。

それでは、契約締結の前にある長く苦しい営業活動はどうするのか?できそうなら、栗林自身がやる。

しかし、できそうにないなら栗林は無理にやらなくてもよい!いや、やらないほうがよい!契約締結前の行動は、したがって、誰か(当然、それは栗林よりスキルのある人、ここでは木元課長)が代わりにするか、手伝ってやる必要がある。

最後の鎖の契約手続きが滞りなくできるようになったら、最後から二番目の「二次見積もり」が一人でできるように、教示、モデリング、シェイピングしながら、「二次見積もり」+「契約締結」の鎖をつなぐ。

この二つの鎖がうまくつながったら、その前の鎖である、「一次見積もり」の行動を作り上げながら、「一次見積もり」+「二次見積もり」+「契約締結」の、三つの鎖をつなぐのである。

こうして、後ろから逆順に鎖をつないでいき、最終的には、営業の最初のステップである「顧客を訪問する」までつないだところで、チェイニングは完成する(決して、ビデオの逆回しのようにするわけではない)。

このバックワード・チェイニングは、現実にはとても効果的なことが多い。

なぜならそれは、一般的に、行動連鎖の最初の鎖を達成したときに得られる好子よりも、最後の鎖を達成したときに得られる好子のほうが大きいからだ。

たとえばマラソンを想像してみてほしい。

最初の一歩も最後の一歩も、物理的には同じ一歩である。

けれど、スタートから一歩を踏み出したときよりも、ゴールのテープを切る最後の一歩のほうが、得られる喜びは比べものにならないほど大きいはずだ。

この、最後の一歩の喜びを先に味あわせることで、その前の長い道のりにも張り合いを持たせる。

これがバックワード・チェイニングの魔術である。

バックワード・チェイニングは、したがって、常に最後までやり抜いた喜びをもって終わる。

まずは最終ステップができるようにし、それができたら今度はその一歩手前のステップから始めて最終ステップまでいき、それができるようになったら、今度は二歩手前のステップから最終ステップまで……と、できる範囲を逆順に広げていくのである。

会社での仕事ではないが、このバックワード・チェイニングの効果を一番実感できるものの一つは、ゴルフではないかと思う(一九八一年に二人の研究者が、行動分析学の見地からみたゴルフ上達法の本Totalgolfを出版している)。

ゴルフは通常、ティーショットから始まって、途中のフェアウェイやラフ、バンカーなどを経て、最後はグリーン上でのパットで終わる。

しかし、ほとんどクラブを握ったことのない完全な初心者が打つと、ボールは第一打からとんでもないところに飛んでいく(そもそも空振りの連続かもしれない)。

そして、山を登り谷を下り、グリーンにたどりつくまでに一〇打も二〇打もしてしまうと、一八ホールを終了する頃には、もうゴルフが嫌になってしまう人もいる。

だが、もし一緒に回るパートナーが最初のほうを打ってあげ、当人は一番ホールではパットだけ、二番ホールではグリーン周りから、という具合にバックワード・チェイニングをしていってあげたら、少なくとも「二度とゴルフなんてやるものか」とは思わないに違いない。

3.チームワークの重要性今までの例で、もう賢明な読者は気づかれたかもしれないが、バックワード・チェイニングをこの場面で行うためには、本人と誰かがチームを組まなければならない。

バックワード・チェイニングは一人ではできないからだ。

誰か力のある人と組み、最初のプロセスは手伝ってもらわない限り、本人が最後だけやるということは、当然ながらできない。

このケースでは、木元課長が栗林と組み、彼に華を持たせる役割を果たしている。

したがって個人主義的な職場では、チェイニングはできない。

個々人が自分だけの目標達成のためにバラバラに動き、管理者もプレーヤーとして自分の仕事だけをするような職場では、人を育てるチェイニングなどは構造的にできないのだ。

今の日本の組織は、この点をまずはチェックすべきではないかと思う。

いわゆる成果主義の人事改革は、それまでの日本の組織にありがちな、責任の所在が曖昧であるという「甘えの構造」にメスを入れた。

そして各人の役割と責任を明確にし、コミットメントを引き出すことには成功した。

しかし、その反作用とし

て、各人が自分の役割と責任だけに没頭し、周囲への協力や後輩の育成に無関心になるという、悪しき個人主義をも同時に生み出す結果となっていないだろうか。

世界の先進企業では、今、「チーム」ごとに共通の目標を与え、チーム全体を一つの単位として評価し、チームの中で自由に山分けしてよい報酬を与える「チーム経営」が、人事・組織マネジメントの流行となっている。

もちろん、その前提として、まずは個人の役割責任が明確に定義され意識されているわけなので、決して昔の「日本型経営」ではないのだが。

個人としての評価はしっかりと仕組み化したうえで、さらにチームのパフォーマンスも仕組みとして見る。

これがポスト成果主義の人事マネジメントの一つといえる。

このケースでは、上司(木元課長)が部下(栗林)とチームを組んだ。

しかし、上司がいつもチームメイトになれるとは限らない。

当然、同じ営業同士が先輩・後輩としてチームを組まなければいけない状況もある。

そのときに、ベテラン社員から「後輩に手柄を持っていかれて損だ」などという不満が出ないようにするために、人事の仕組みも工夫しておくべきである。

4.新しい行動を身につける五つの手法第6章から8章にかけて、課題分析、シェイピング、チェイニングと見てきた。

この三つはすべて、新しい行動を習得するための鍵となる手法である。

新しい行動を習得するための方法として、行動分析学では、次の五つが考案されてきた。

教示、モデリング、身体的誘導、シェイピング、チェイニングの五つである。

教示とは、言葉で教えることであり、言葉には話し言葉と書き言葉がある。

口頭で説明を受けたり、マニュアルや取扱説明書のように文字で書かれた情報を頼りに、新しいやり方を学ぶことができる。

モデリングとは、モデルを示す、すなわち、お手本を示すことである。

すでにその技能を持っている人が、実際にやってみせて、見て学ぶわけだ。

身体的誘導とは、文字通り、手取り足取り教えることだ。

ゴルフやテニスのコーチは、初心者に対して、口で説明し、お手本を見せるだけでなく、フォームがおかしければ、手を添えて、正しいフォームを体験させる。

これが身体的誘導だ。

以上の三つは、まさに「教える」方法だ。

しかし、山本五十六ではないが、人間というものは、「やってみせ言って聞かせてさせてみて」、さらに、「褒めてやらねば人は動かじ」である。

この三つの、典型的な「教える」方法に対し、シェイピングやチェイニングは、「教える」という感覚を超えて、人を導く方法ともいえる。

覚える道筋を合理的に整え、学び手が自発した行動を、褒め言葉や激励を好子に使って上手に強化し、教えられている自覚なしに、新しいスキルを習得させる。

実は、教示、モデリング、身体的誘導によって学ぶことができるのは、言葉を持った人間だけである。

逆にいえば、シェイピングとチェイニングは、言葉の力を借りずに教えることができる方法だ。

だからこそ、教えられているという感覚なしに、学ぶことができるのだろう。

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