育たないのは、信頼していないから 十数名のスタッフを抱えて、高級住宅街の一角で歯科医院を経営する中川院長は、スタッフが育たないことに悩んでいました。仕事柄、医療ミスはぜったいに許されません。少しのミスであっても、「あの歯医者はダメだ」という噂になれば、即、命取りです。 そのため、なかなか若いスタッフに仕事を任せられず、結果として人が育たない。人の出入りも激しい状況が続いていました。 スタッフ教育に困り果てて、感情コンサルにお越しになられたのでした。 ミスが許されない業務であるがゆえに、若い社員に仕事を任せられず、なかなか人が育たないということは、多くの社長さんに共通する切実な悩みだと思います。 しかし、いっぽうで、入社 1年目の社員にも、バンバンと責任重大な仕事を任せて、あっという間に一人前にしてしまう会社もあります。 I T企業のなかには、 20代で取締役や子会社の社長になる人をたくさん育てている、というケースもあります。 この違いは何かというと、「若い社員を信頼できるかどうか」という一点に尽きます。 ここで、人の感情が持っている不思議な現象を1つ、ご紹介しましょう。「上の人間が『この人はダメだ』と思って接していると、その人はダメな人間を演じるようになる」 わざとダメな人間を演じるのではありません。上から「本当におまえはダメだな」って言われて、それが潜在意識に刷り込まれると、やる気がなくなるだけでなく、本気で頑張っても失敗するようになってしまうのです。 本当に不思議です。自信を失って、自分で自分を疑いながらやっていると、失敗を引き寄せてしまうのでしょうか。 何を隠そう、父の会社で経理を担当したばかりの頃の私がそうでしたから、それが本当にある現象だと、よくわかります。 自分に自信が持てず、何度も確認して、この金額で間違いないと思っても、ミスを指摘されてしまうんです。「えっ! うそ?」と思って見直すと、本当に計算ミスをしている。まるで呪われているかのようでした。 そもそも、ミスをしたときは、本人が一番反省しています。ですから、上の人間が「どうして、おまえはいつもそうなんだ」って、傷口に塩を塗る必要はありません。 それに、上から怒鳴られて、奮起して成長したのは、昔の社員の話です。今どき、怒鳴られて奮起するほどの強いメンタルを持っている人は、なかなかいません。「この人にはやる気がない」は、思い込み? 私は、中川院長にお伝えしました。「スタッフが育たないから信頼できない、というのは逆です。まず、中川さんが変わって、スタッフを信頼しなければ、人は育ちませんよ」「そうは思うんですが、安心して任せられるほど、スタッフにやる気を感じないんです」「スタッフさんには、本当にやる気がないんでしょうか?」「えっ?」「やる気がないように見えているだけではありませんか? スタッフにやる気がないというのは、中川さんの思い込みではありませんか?」 「……」「できない人には、できない人なりの理由が必ずあります。ですから、それを聞いて、やる気にさせてあげてください」 社長で成功する方というのは、少し M気質な人が多いという説があるそうです。 ある年齢以上の社長さんは、上から怒鳴られて、それをはね返えせたから、今、社長をやっている。つまり、打たれ強くて、「なにくそっ!」っていう反骨心がある。 そういう社長さんから見ると、今の一見クールな若者は、やる気がないように見えるかもしれません。 でも、おもてに出ないだけで、みんな、入社して仕事をやっている時点で、やる気は持っているはずです。 それなのに、「おまえはダメだ!」とか、「やる気があるのか!」なんて言われるうちに、「相手が思ったとおりの、ダメでヤル気のない自分」に変わっていってしまう。 マイナスの感情が作用して、そういう人間になってしまいます。私が社長さんの感情コンサルをしていて、よく思うことは、「上の人は下に降りていける。でも、やったことがない下の人は、やったことがある上の人のところには上っていけない」ということです。経験がある人は、その経験がない人の話を聞いて、その人の立場に立ってあげることが、大切だと思うのです。 感情コンサルの後、中川院長は、若いスタッフへの教育体制を、「信頼せずに手を出すサポート」から、「信頼して、見守る姿勢」へとシフトしたそうです。 その後、最初は失敗報告もあったものの、「大丈夫、できるよ!」という先輩の言葉で、若いスタッフが徐々に力をつけてきたのだとか。 退職するスタッフもいなくなり、医院全体の成長を感じているとのことでした。
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