MENU

第1章 思考編―“ゼロベース思考”“仮説思考”

はじめに——新版に寄せて本書『問題解決プロフェッショナル 思考と技術』を出版したのは 1997年1月である。

当時は「問題解決」という考え方は一般のビジネスマンに馴染みが薄く、出版したものの、書店ではどの棚に置いたらいいかわからないなどと言われ、戸惑ったのを覚えている。

なぜなら、我々経営コンサルタントは「問題解決のプロフェッショナル」として、いかなる状況下にあってもクライアントの多種多様な問題に対し、限られた時間内に真の問題を発見し、取り組み課題を設定し、具体的解決策を提示しなければならない。

そのための基礎トレーニングを徹底的に受けるからである。

つまり、「問題解決」の思考と技術は、我々のビジネスの現場では必須科目だったからだ。

あれから 13年あまりが過ぎ、いまでは「問題解決」はビジネスマンの必須の基礎スキルとなった。

それとともに本書も 35刷を重ね、ロングセラーの定番書籍となり、本書に続く「問題解決」ジャンルのさまざまな本が出版され、“問題解決コーナー”の棚ができるに至った。

多くの類書の中にあって、本書を読むビジネスマンは後を絶たず、むしろ増える一方である。

昨今では就活の必読書として注目され、大学生にまで読まれているようである。

ビジネス書の定番化が難しいと言われる中で本書が長く読まれ続けたのは、何より、私が当初から考えていたように、「問題解決の基本となる考え方」をできる限りわかりやすくベーシックに説く、教科書としての位置づけのためであろう。

そのため、初版よりまったく手を加えずに今日を迎えることになった。

しかし、日本に限らずグローバルな経済・社会の枠組みが大きく変化を遂げる中で、本書で問題解決の基本となる考え方を説明するために掲載したさまざまな企業事例の中に、時代に合わないと思われるものが出始めた。

問題解決の普遍的な考え方を学ぶための事例といえども、その前提や背景となる企業の事業環境や経済状況の違いは、問題の認識と理解にやはり影響を与えてしまう。

新しい世代の読者のために、改訂したほうがよいのではないかという思いから、今回、事例の一部を書き改めることにした。

ただし、考え方の説明に関しては、まったく変更はない。

わかりやすい、実践的であるという多くの読者の声も踏まえ、特に手を加えることはしていない。

応用編的な考え方の書物については、また別の機会に発表したいと考えている。

したがって、すでに 1997年の旧版を読まれた方には、この新版をあらためて読む必要はないことを強く申し添えておきたい。

必ずや自身のビジネスの場で、自ら考えて応用・実践する力をすでに身に付けているはずだ、と信じるからである。

2010年3月齋藤嘉則初版時の序文従来のセオリーや枠組み、そしていままで築いてきた経験値が通用しにくい時代になってきた。

日本経済はいたるところでパラダイム・カタストロフィー(枠組みの崩壊)に直面している。

パラダイム・カタストロフィーとは、かつて築き上げた強みがいつのまにか消えてしまい、気がついたときには環境の変化が大きすぎて過去の枠組みでは解決できない、つまり崖っぷちに立たされた状態をいう。

しかし、解決できない問題が山積みになる一方、その裏をのぞいてみれば、変化するところには必ずビジネスチャンスが生まれている。

過去の指標が使えない、過去のセオリーが使えない、よるべき枠組みがないなどと言ってはいられないのだ。

かといってカタカナのネーミングや、形だけを変えた新たなフレームワークというのも、目新しいようでいて、どうもあてにはならない。

我々経営コンサルタントは「問題解決のプロフェッショナル」として、常にさまざまなクライアントから多種多様な問題を提起され、決められた時間内に解決策を提示しなければならない。

そして、解決策は理想論ではなく、その時点ですぐに実行に移して成果が出る策でなければならない。

常にヒト・モノ・カネ・情報・時間の制約の中で考え抜かなければならない。

だから我々はいつも、問題を解決するための基礎トレーニングを行っている。

経営や経済の理論を学んだり、ケース・スタディを学んだりもするが、何を学ぼうとも問題を解決するための基本スキルを持たなければ、ビジネスの現場では役に立たない。

パラダイム・カタストロフィーによって生じる変化を新たなチャンスとしてとらえるために、いま最も求められているのは、新しい「枠組み」に関する知識ではなく、自分の力で自分の実力に合った独自の「枠組み」を創り出す、問題解決の基本スキルである。

それはどのような職種のスペシャリストにもゼネラリストにも、そしてプロフェッショナルにも、業種・業態を問わず求められる基本スキルである。

私はアメリカの経営コンサルティング会社マッキンゼー勤務時代に、問題解決のために3つの行動規範「ポジメン」「ロジシン」「パラテン」を定めていた。

「ポジメン」とはポジティブ・メンタリティ( =決してあきらめず前向きに物事をとらえる)、「ロジシン」とはロジカル・シンキング( =論理的に考える)、「パラテン」とはパラダイム転換( =従来の枠組みからの転換を目指す)である。

この規範に則って問題解決に取り組み、クライアントのトップに大きな方向性を示した。

また、新人コンサルタントをリクルートする際の私なりの採用基準にもしていた。

その後、大手家庭用品メーカーのゼネラル・ディレクター(経営会議メンバー兼事業開発本部長)時代を経て現在に至るまで、マッキンゼー時代に習得した問題解決の思考技術を、ビジネスの現場での実践的方法論として活用し、さらに発展させた。

それが本書で紹介する問題解決のための2つの思考 ゼロベース思考 仮説思考 と、2つの技術 MECE(ミッシー) ロジックツリー 、そして1つのプロセス ソリューション・システム である。

それぞれの考え方は決して特殊な難しいものではない。

だれもが普段、無意識に行っている問題解決のプロセスを、ビジネスの現場で使えるように体系化したものだ。

第 1章から第 3章では、1つ1つの基本的考え方を具体的事例に基づき、わかりやすく説明している。

さらに第 4章では、すべての考え方を応用して私が実際に大手家庭用品メーカーの責任者として行った商品開発・販売システムの再構築についての ソリューション・システム 活用の現場を紹介している。

本書を手にした 1人でも多くのビジネスマンが「問題解決のプロフェッショナル」として潜在能力を 100パーセント発揮し、企業の最前線で活躍されることを期待している。

1997年1月齋藤嘉則目次新版 問題解決プロフェッショナル目次はじめに——新版に寄せて初版時の序文第 1章思考編〈ゼロベース思考〉〈仮説思考〉〈ゼロベース思考〉〈仮説思考〉を実践する既成概念を打破する商品を創り出す 1〈ゼロベース思考〉「既成の枠」を取り外す 1 自分の狭い枠の中で否定に走らない 2 顧客にとっての価値を考える事例 1消費者の行動変化を加速させる決断事例 2技術革新を消費者の目でとらえる 3 時代が〈ゼロベース思考〉を求めている 2〈仮説思考〉常にその時点での結論を持ってアクションを起こす 1 アクションに結び付く結論を常に持つ 2 結論に導く背後の理由やメカニズムを考える演習例 1家庭用殺虫剤への新規参入の結論を出す演習例 2自転車市場への新規参入の結論を出す 3 「ベスト」を考えるよりも「ベター」を実行する情報収集に時間を使いすぎない

ゼロベース思考 と 仮説思考 は、問題解決にあたっての2つの重要な基本的思考である(図 1 1)。

ゼロベース思考 とは文字どおり「ゼロベースで物事を考える =『既成の枠』を取り外す」ということ、 仮説思考 とは「常にその時点での結論を持ってアクションを起こす」ということだ。

こうやって文字にすると「なんだ、そんな簡単なこと」と思うかもしれない。

しかし、「わかること」と「実行できること」は大いに違う。

さらに「わかること」「実行できること」と「結果がうまくいくこと」の間には、もっと大きな溝がある(図 1 2)。

ビジネスの現場では、結果がうまくいかなければバリューはない、とまず心得るべきだ。

ビジネスを成功に導く =「結果がうまくいく」ための思考が、 ゼロベース思考 と 仮説思考 である。

これは、起業家のための成功の条件と言い換えることもできる。

コンサルティング活動の中でお会いする「成功したベンチャー創業者」の方々にも共通していえる、「成功のための基本条件」である。

特にこの乱戦模様の日本経済において、新たなチャンスを勝ち取るためのビジネスマンの必須条件といえる。

私は常に、この2つの思考態度をベースに、ビジネスに取り組んできた。

2つの思考態度がどのように私の行動に影響を与えたか、まずその実例を紹介しよう。

ゼロベース思考 仮説思考 を実践する S社はアメリカに本社を持つ大手家庭用品メーカーである。

プラスチック保存容器を筆頭にキッチン用品を扱っている。

日本に上陸したのは数十年前。

日本人にとっては初めての「ホームパーティ」というユニークな販売システムにより、またたくまに主婦の間に広がった。

S社のプラスチック保存容器は、密封性に優れた高品質で高価格な商品。

ホームパーティではデモンストレーターの主婦が商品の使い方を実演しながら、高付加価値を付けて販売している。

それから長い年月が経って、技術革新や生活水準の向上などさまざまな理由により、プラスチック保存容器は S社の専売商品ではなくなり、もっと価格も安く、近所のスーパーで簡単に買える商品になっていった。

それでも S社は存在するし、ホームパーティ方式の販売員たちも存在する。

ただし、数十年にわたる昔からの「慣習」という枠組みが、この会社にも商品にも、販売システムにものしかかり、あれほど日本の主婦を魅了した商品も、競争と時代の変化の中で、もはや色あせてしまっている。

この状況は、決して S社という 1企業だけに当てはまるものではない。

事業規模や業種・業態などさまざまな違いはあったとしても、新興のベンチャー企業を除けば、歴史を持つ企業には大いに当てはまる状況だ。

いや、企業だけではない。

日本国そのものが置かれている現在の閉塞状況は、まさしくこの S社の状況と酷似しているといっても過言ではない。

我々を取り巻く

取り巻く環境が大きく変化する中、従来の枠組みにしがみついていては将来が見えないし、新たな成長などありえない。

まさにパラダイム・カタストロフィーに直面しているのだ。

画期的に市場参入を果たした商品が、いつのまにか競合が多数参入してきて強みがなくなっていたり、非常にユニークな販売システムであったものが、時代に合わなくなっているのに気がつかずに古くなってしまう。

そして気がついたときには環境が激変している……といったことは、いずれの企業においても商品・サービスやチャネル、そして組織にも何かしら当てはまる。

特に一度成功を収めるとその上にあぐらをかき、過去の強みが現在の弱みになっていることにも気づかず、次第に時代から取り残されていくケースは往々にして見受けられる。

こうしたことが構造的に生じやすいのは、当然のことだ。

なぜなら、過去に成功し、実績のある人が企業のトップに選ばれるのだから。

たとえ、あぐらをかいているつもりはなくとも、成功したパターンを変えることには勇気がいる。

しかも、失敗してからでは遅いのである。

成功しているうちにこそ、常に新しい芽を探し続けなければ、パラダイム・カタストロフィーに突然直面することになる。

大改革を行い、来る新時代を目指すなどと旗印を掲げている企業もあるが、フタを開けてみると旧態依然とした企業体質からちっとも変わっていないところのほうが多い。

私が S社に招かれたのも、この「旗印」のためであった。

私は、ゼネラル・ディレクター(経営会議メンバー兼事業開発本部長)として2つの大きな使命を帯びて経営に参画した。

1つは、プラスチックの保存容器だけではすでに限界に達していた売上げの低迷を打破するための、第 2の柱となるべき新商品の開発。

もう1つは、ホームパーティを中心とした販売システムの全面的改革であった。

私はまず会社全体の診断を行った。

私が断行すべき改革は、商品と販売システムだけでよいのか。

いまの事態に陥った根本的原因は、どこにあるのか。

診断の結果、改革に立ちふさがる最も大きな壁は、 S社のすべてに染み込んだ数十年間の既成概念だということがわかった。

企業の中で新規事業がなかなか育たないという話をよく耳にする。

その理由はさまざまであるが、トップのリーダーシップ(もちろんこれは最低要件だが)がいかに優れていたとしても、その企業の体質をまったく無視した新規事業は育ちにくい。

土壌が違うのにむりやり新種の苗を植えても、育たずにすぐ枯れてしまうのは当然だ。

かといって、土壌にとらわれすぎて苗を探しても、それまでの苗とあまりに同種すぎて新規性がなくなり、独立した種として存在できない =新たな成長につながらないのである。

ビジネスの現場では、白と黒では決着をつけられず、グレーゾーンの中で効果的な打ち手を見いださなければならないことが多い。

しかしそのグレーは、色鮮やかなグレーでなければならない。

既成概念を打破しながら色鮮やかなグレーを見いだすために、私が最も心がけたのが ゼロベース思考 と 仮説思考 であった。

——既成概念を打破する商品を創り出す私が新商品開発で手がけたものの1つに「 A SLIM(仮名)」というポット型浄水器がある(図 1 3)。

本体の構造は、上部の浄水フィルターと下部のポットから構成されている。

上部の浄水フィルター部は、ある大手設備機器メーカー H社との共同開発によるもので、下部のポット部は、 S社の数十年以上にわたるロングラン商品「 S LINE(仮名)」の金型をそっくりそのまま活用している。

つまり、過去の資源(金型というモノ)を生かしながら、保存容器ではないまったく新しいカテゴリーの商品ができあがったのだ。

また、「浄水器」として見ても、日本の浄水器市場で大多数を占める東レのトレビーノや三菱レイヨンのクリンスイといった「蛇口直結型」とは一線を画した「ポット型」という形態をとることで、小売店頭での競争から一歩抜け出すことができた。

いまでこそ、この「ポット型」浄水器は、 BRITA、パナソニック、三菱レイヨン、東レなどで数多く販売されているが、当時はほとんど認知されていなかった。

このポット型浄水器はそのまま冷蔵庫にポンと入れられるので、冷たくおいしく、しかも安全な水がいつでも飲めるというわけだ。

そのユニークな開発コンセプトと売上貢献実績から、後にアメリカ本社の CEO(最高経営責任者)からイノベーション・アウォードをいただいた。

開発に先駆けて私の心を悩ませたのは、 S社の基幹商品に対するこだわり、つまり「非常に密封性のある保存容器を作り出す製造技術の価値へのこだわり」であった。

このこだわりは、本社、工場、販売員からロイヤルティの高いユーザーに至るまで、すべての人間の心理を支配していた。

このこだわりに固執しすぎては、従来の商品から一歩も抜け出せない。

そこで私は既存の商品を使いながら、なんとか別の商品に仕立てることはできないか、と考えることにした。

この出発点に立つことは、まさに重要であった。

というのも、それまでに数限りなく新商品企画をトップに提出したのだが、前述の「こだわり」からトップが抜け出せなかったからである。

頭の中ではわかっていても、最後の意思決定が心情的にできないのである。

とはいっても、何か新しい商品を導入したいという気持ちも捨てられない。

たしかに業績から考えても、「出さねばならぬ」状況であった。

そこで、「 S社の商品は保存容器である」という既成概念を取り払い、ゼロベースで「単なるプラスチック商品」としてとらえ直した。

この2つの違いを、さほど重要ではないと思われる方がいたら、それはその人がメーカーの現場を知らないからといえるだろう。

外から見ると「さほど重要ではない」「そんなことは、はなから当たり前だ」と思われるポイントが、中にいるとまったく気がつかない、あるいは気がついていても変えられない、変える方法が見つからないということが非常に多いのだ。

私は、 S社の「密封性の高い保存容器」を「単なるパーツ」として扱い、別の価値を作り上げることにした。

その別の価値とは何か。

その答えがポット型浄水器であった。

プラスチック容器部分には自社の既存の金型を使いながら、その上にろ過式の浄水器を取り付けたのである。

この浄水器部分は、ユニークな電子制菌フィルター方式の蛇口直結型浄水器を製造販売している、大手設備機器メーカー H社が共同開発に携わってくれた。

では、なぜ蛇口直結型ではなくポット型を選択したのか。

その理由の1つは前述の「自社のテクノロジーを使う」ためであったが、もう1つの理由は、現在の販売システムがホームパーティによるダイレクト・セリングのみという S社のチャネルにあった。

当時、浄水器市場は東レや三菱レイヨンといった大手の寡占状態にあり、さらに大小さまざまなメーカーが参入して、価格競争も非常に激しい状況になっていた。

また、ダイレクト・セリング市場でもアムウェイやダスキンの市場参入の噂があり、顧客ニーズが非常に高い一方で、競争の激しいカテゴリーであった。

そこで、

小売店頭での価格競争に巻き込まれず、かつホームパーティなどで売りやすい商品は何かと考えたとき、この「ポット型浄水器」の仮説に行き着いたのである。

その過程では「浄水器市場は参入しにくい」「開発費がかかりすぎる」など、さまざまなハードルがあった。

しかも、開発予算はないに等しかった。

会社側は新規事業に力を入れると言いながらも、サラリーマン社長ではよくあることだが、実際に話が具体的になり始めたとたん、新規事業にまわす金はないと言う。

それでもあきらめずに共同開発先にかなりのコスト負担をしてもらいながら、なんとか開発にこぎつけた。

さらに、それでも市場導入に尻込みするトップを説得するため、アジア地区を統括する香港パシフィック本部のマーケティング担当責任者を直接、説得しに出かけた。

この A SLIMの市場導入は、「古い体質への挑戦」であり、「古い体質との融合」であり、もちろん「新しいものへのチャレンジ」であった。

この A SLIMの開発ストーリーから読み取ってほしいことは、既成概念を打破するには ゼロベース思考 と 仮説思考 が非常に重要な思考態度だということである。

次に、この2つの思考態度について詳しく説明しよう。

1 ゼロベース思考 「既成の枠」を取り外す ゼロベース思考 とは、「既成の枠」を取り外して考えるということである。

胸に手を当てて考えてみるといい。

ビジネスの現場にはいつもさまざまな枠がある。

問題を解決しようとするときに、いつもと同じ枠の中で考えていたり、あるいは他人の作った枠を意識しすぎてはいないか。

また、目に見えない枠にとらわれて、いつのまにかできないと思い込んだりしていないか。

そのような枠組みの中で解を見つけようとしても限界がある。

ビジネスを取り巻く環境の変化が少ない時代や、企業が急成長している時期であれば、既成の枠の中で精一杯頑張ることが、むしろ企業の成長に直結していた。

しかし、環境変化の激しい時代にあっては、「既成の枠」の中に有効な解はないと考えたほうがいい。

既成概念や将来的に緩和・変化の予想される諸々の規制、また自部門の中でしか解を考えなくなってしまう部門の壁。

そうしたものをとりあえず外して考えてみることが大事なのだ。

この ゼロベース思考 のポイントは、 自分の狭い枠の中で否定に走らない 顧客にとっての価値を考えるである。

以上2つのポイントをこれから説明する。

1自分の狭い枠の中で否定に走らない ゼロベース思考 の妨げになるのは「既存の枠」だ。

その中でも一番のタガは、自分自身だ。

自分で狭い枠を設定して否定に走ってはいけない。

論理学の仮想の世界では、全体の集合が明確に定義されていれば、その中の構成要素としてノックアウト・ファクター(これがダメなら何をやっても絶対にダメという要素)を何か1つ見いだせば、物事を否定するのは比較的容易である。

日常生活やビジネスにおいて考える枠や対象を恣意的に狭くしたために、相手に「やはりダメですね」とノックアウト・ファクターもどきを指摘され、自分では何か変だな、どうも抜けがありそうだと感じながらも、「やはりダメか」と釈然としないままに引き下がった経験はないだろうか。

自分の狭い視野の範囲内で否定的要素がたまたま大きく見えるために、つい全体も否定的に見てしまうというのは、だれにもよくあることだ。

特にビジネスの現場ではいろいろなことが複雑に絡み合っているため、初めから簡単には全体像が見えない、あるいは定義できない場合が多い。

そのとき、現状の枠のまま収束させてしまうのかどうか。

そこが、 ゼロベース思考 で考えられるか、既存の枠に執着するかの分岐点になる(図 1 4)。

「解決は難しい」と最初から既存の枠で考える従来どおりの思考では、小さな枠の範囲内で限定的に考えてしまうため、枠の外にある解決策を見落としたり、最悪の場合は、重箱の隅をつつくように、枠の中の否定的要素を列挙し始める。

一方、もしかしたら枠の外に解決の可能性があるのではと考える ゼロベース思考 では、自分の狭い枠を越えて考えようとするため、解決策を見いだす可能性が高まる。

従来の枠の外の可能性にチャレンジする前向きさという意味では、 ゼロベース思考 にはポジティブ・メンタリティに通ずるものがある。

もしいま、ビジネス上の課題を何かしら抱えているとしたら、「この課題を解決するための具体策はある」という前提で、ゼロベースから考えてみてはいかがだろうか。

もちろん、作業に使うエネルギーの量は、比較にならないぐらい大きくなる。

しかし、最終的に成功を目指すには、ビジネスマンの最低要件として、この ゼロベース思考 を実践すべきである。

2顧客にとっての価値を考える ゼロベース思考 で考えろと言われてもなかなか難しい、と思う人に対して考え方のコツを挙げるとすれば、「顧客にとっての価値を考える」ということだ。

顧客とは商品を買ってくれるユーザーのことだけではなく、人事部や総務部であれば顧客は社員全体を指すし、情報システム部門でいえばシステムを利用する社員全員を指す。

したがって、仕事をしている人間には必ず顧客が存在する。

顧客のいないビジネスマンがいたとすると、その人は企業や社会に対して何の価値も生み出していないことになる。

知らず知らずのうちに自分の立場や自部門の立場、あるいは自社の立場だけで問題をとらえる習慣がついてしまうと、「既成のタガ」から抜けられなくなってしまう。

だから「顧客にとっての価値を考える」ことが大事なのだ。

中には「いつもそう考えるようにしている」と言う方も多いだろう。

しかし、顧客の立場から考えてはいても、実行段階で既成のタガを外せないことが多い。

ビジネスの現場では、実行して初めて問題が解決する。

したがって、実行段階でも既成のタガを外せなければまったく意味がない。

多くの創業者がなぜビジネスを立ち上げることに成功したのか。

それは、ユニークな商品、画期的な技術、特徴のある販売システムをベースにビジネスを展開するにあたり、自分自身が開発者、生産者であると

同時に、非常に考え抜いたユーザーでもあったからだ。

つまり、考えたことを実行に移す段階においても、きちんと「顧客にとっての価値」を考え、貫くことができていたのだ。

そして、顧客にとっての価値を十分に考え抜いたからこそ、詳細なマーケット・リサーチなど行わなくても成功したのだ。

大企業になってしまうと、これがなかなかできない。

なぜかというと、組織的に、開発、生産、営業、マーケティングと機能分化するうえに、規模の拡大に伴って管理階層が重層化し、それに比例して消費者との距離が遠くなるからだ。

そのため、消費者の実態が意思決定者に届きにくくなってしまう。

昨今グループ・インタビューなどが盛んに行われているのもそのためだ。

しかし、せっかく消費者の生の声を吸い上げても、意思決定者にそれがダイレクトに伝わらない。

途中の段階で「既成のタガ」から抜けられず、結局、生の声を実行段階で生かせないのでは、まったく意味がない。

ゼロベース思考 は、ニュービジネスを立ち上げようとするベンチャー企業であろうと、主力事業が変化への対応にさらされている既存の大企業であろうと、パラダイム・カタストロフィーを超えるために、すべての企業に求められる思考態度である。

大きなビジネス環境の変化をチャンスとして柔軟にとらえることができる企業は成長し、できない企業は没落するという構図が明確になっている。

ビジネスにおける ゼロベース思考 とは、アートの世界のようにひらめきや直感に頼るまったくのゼロからの発想を必ずしも意味しない。

自部門や自社の既成の枠から離れ「顧客にとっての価値」を考え抜くことができれば、そのビジネスは成功する(図 1 5)。

それでは ゼロベース思考 で成功した事例をいくつか見てみよう。

事例 1——消費者の行動変化を加速させる決断スペインのアパレルメーカーザラは、全世界 73ヵ国で約 1500店舗を展開している。

競合他社の多くが SCM(サプライ・チェーン・マネジメント)をアウトソーシングしている中、ザラは徹底的な自前主義を貫く。

全商品のデザイン、流通を自らが管理し、製造のアウトソーシングの割合も他社に比べて格段に小さい。

また店舗の大半も直営店という垂直統合方式である。

経営不振にあえぐ同業他社を尻目に、 2010年現在で売上高と利益は年間 10〜 20%のペースで成長を持続している。

各商品を小ロットで生産、流通させているため、店頭には 1デザイン当たり少数の商品しか陳列しない。

従来であれば機会損失ととらえられてしまう在庫切れを、むしろ奨励している点が大きな特徴である。

その結果として、顧客は購入機会が限られていることを知り、頻繁に来店し好みの服を探す。

欲しい商品が在庫切れであれば、積極的にいまある商品を購入する。

そのため、ある店舗での来店回数は、競合店が年間平均で 4回のところ年間平均 17回に及ぶという。

そして、この来店率の高さが広告費の抑制にもつながる良循環を実現している。

また、商品のライフサイクルが短く不確実性の高い市場では、現有資産は少ないほうがよいという常識を覆し、商品の約半分を自社工場で製造し、組織全体の柔軟性や自由度を高めている。

しかし、1つ1つを取り上げて見ると、決して目新しい施策ではない。

それにもかかわらず、「従来とは違い……」「……の慣行を破り」「……の常識を覆し」などと表現されることが多いのは、ザラがビジネス・システム全体を徹底的に ゼロベース思考 で構想し、そのとおりのオペレーションを現場で徹底しているからである。

そして、何より顧客と製造の間のコミュニケーションがスムーズかつスピーディであることだ。

そのことが、消費者の行動・意識変化を的確にとらえ、行動変容を促し、収益も顧客満足度も高い企業を作り上げる中核エンジンになっている。

日本全国どこでも当たり前になった「ドトールコーヒーショップ」も ゼロベース思考 で成功した例だ。

従来の喫茶店では 1杯 500円もするうえ、店によって味のバラツキが大きいコーヒーを、当初 1杯 150円という画期的な価格で、しかもおいしいコーヒーを提供した。

いまでは 1店舗当たり、 1日数百人から 1000人以上もの来客を誇る。

これはまさしく、外飲コーヒー・ビジネスの概念を根底から大きく変えたといっても過言ではない。

この場合の ゼロベース思考 は何か。

喫茶店に 1日数百人も、 1000人以上も入るということなどありえない。

だから単価を低くすることなどできないと考える「既成の枠組み」を取り払い、消費者の行動を考え抜いたことにある。

そしてもう1つ。

1日に 1000杯以上もフレッシュなコーヒーをその場で瞬時に供給するマシーンなどないという日本国内の枠を、海外の非常に優れたコーヒー・マシーンの導入により乗り越えたことだ。

この海外の技術革新の力によって、従来は到底考えられなかった 1日 1000杯以上の高品質コーヒーの安定供給が可能になったのだ。

いまでは人々は知らない街に行っても、黄色に黒のドトールコーヒーのサインを探すという。

それはおいしいコーヒーが安く、手早く、そして、気兼ねせずに飲めることを知っているからである。

そして、このドトール・コンセプトがまるで輸出されたかのような現象が、その後、海外でも起きた。

アメリカのシアトルを発祥地とするスターバックスコーヒー、シアトルズベストコーヒーそしてタリーズコーヒーの全米フランチャイズ展開に代表されるように、アメリカでも新たなコーヒー外飲市場が急激に拡大した。

そして再度、これらスターバックスコーヒーやタリーズコーヒーのコンセプトが日本に輸入され、またたくまに日本全国をカバーした。

価格帯的には、ドトールコーヒーと喫茶室「ルノアール」など旧来の喫茶店とのちょうど中間に位置するが、店構えはおしゃれでエスプレッソ・テイストのさまざまな種類のコーヒーが飲め、消費者に「格好いい自分」を意識させる情緒的価値に大きく訴求するコンセプトで成功している。

一方、これはアメリカからの直輸入コンセプトであるが、ドミノ、ピザーラに代表される宅配ピザは、「おいしいピザを家庭で作るのは大変、だけどピザを食べたい」という消費者のニーズに、「デリバリー」という従来の出前とは異なる配達システムで新たな価値を付加し、またたくまに 2000億円以上の新しい市場を作り上げた。

この場合の ゼロベース思考 とは何か。

宅配ピザの「デリバリー」が出前と根本的に違うのは、宅配専門であるため 30分以内と時間が正確、後片づけの手間が省ける(容器は使い捨て)、対応がスマートという点である。

また収益面では、宅配専門であるため路面通行量の多い一等地に店を構える必要性がまったくなく、ジャイロと呼ばれるバイクの駐車場さえ確保できれば人通りの少ない裏通りでかまわない。

したがって、異常に高い店舗の権利金や豪華な内装費に頭を悩ませる必要もなく、完全にローコスト運営に徹した「生産工場」

化を図ったことが重要な点である。

「出前」という既成の概念を「デリバリー」という言葉に置き換えたことで、まったく新しい市場とビジネスの仕組みを作り上げることに成功した。

事例 2——技術革新を消費者の目でとらえるシャープは、液晶技術をビデオ、液晶モニタや液晶テレビ、ザウルス、携帯電話等へと幅広く応用し、躍進の原動力とした。

そのベースとなったテクノロジーは、かつて非常に価格競争の激しかった電卓市場をカシオとともに勝ち残る中で磨き上げたものだ。

これを、消費者の視点から見たときにどう生かせるのか、消費者にとっての価値は何か、自社の保有技術と組み合わせたときにどんな商品が考えられるのか、と徹底して追求したことに成功の要因があった。

そして、デジタル放送が主流となる現在、「液晶のシャープ」と言われるほどの地位を築き上げた。

元はといえば、液晶 =電卓という枠組みを取り払い、液晶そのものを ゼロベース思考 でとらえ直し、事業展開の中核技術としてキーデバイス化したことが、今日の一流企業としてのシャープを作り上げたといってもよい。

シャープの基本姿勢は、「オンリーワンを積み重ねてナンバーワンになる」ということだ。

常に消費者目線に立った商品開発を徹底的に行い、そしてサービスへとつなげるシステムが確立されている。

シャープは 2010年1月に、“オンリーワンで社会を変革してゆく”という企業姿勢をより鮮明に表すため、スローガンを「目指してる、未来がちがう。

」に変えた。

新しいスローガンは、既存の枠にとらわれない「オンリーワン」という考えのもと、液晶をはじめ、ソーラー、 LED、プラズマクラスターといった新しい基幹技術を柱に、人々の暮らしや社会に貢献する企業姿勢を表している。

そしていま、シャープは「環境先進企業」としてのブランド形成を目指している。

液晶という「省エネ」製品にとどまらず、太陽電池というエネルギーを作り出す「創エネ」製品に力を注ぎ、グローバルでしのぎを削っている。

消費者そして生活者の目線でとらえて技術革新を進めてきたシャープは、いま、そして未来の社会にとって有意義な商品を展開していくに違いない。

技術革新で顕著な例といえば、日本の冬を変えたとまでいわれるユニクロのヒット商品、ヒートテックだろう。

これは東レと、ユニクロを展開するファーストリテイリングの戦略的パートナーシップの成果として 2007年に登場し、大ヒットした。

背景には、 2001年度の東レの赤字転落がある。

当時、東レは危機からの脱出を掲げた経営計画 NT 21を策定し、 New Value Creatorへの転換を掲げた。

「ものづくり」から顧客や消費者が求める「新しいサービス」「新しい生産・流通の仕組み」づくりを標榜し、量販店等の小売企業との共同開発を推進し、アパレル製品部門を強化するというのだ。

それがユニクロとの戦略的パートナーシップの構築につながり、ユニクロの販売現場から上がってくる販売・顧客情報をもとに、東レが消費者ニーズを素材開発に直結させ、ヒートテックとして結実した。

ヒートテックは、体から出る水蒸気を吸収することにより素材自らが発熱し、それを保持することで温かさを保つという画期的商品だ。

従来、女性用の下着には「ババシャツ」、男性用には「ももひき」などのあったか下着は存在していた。

そこで、「ババシャツ」と言われないオシャレな商品をいかにして出すかがポイントだった。

しかし、それではどこまでいっても「オシャレなババシャツ」の範疇から出ない。

それに対しヒートテックは、技術革新に裏づけされたことにより、カジュアルで野暮ったくないまったく新しいポジショニングを確立した。

さらに、抗菌やドライ、保湿などの機能性の改善や、Tシャツ、タートルネックなど種類のバリエーション、ファッション性を追求することで、第 2弾、第 3弾とヒートテックの開発が進んだ。

たとえば男性用は温かさを保ちながらドライ性を高める「ヒートテックプラス」など、消費者のニーズを的確にとらえた技術革新と商品開発を進めた。

“先端材料を創出する”ことを研究・技術開発の方針とする東レと、“あらゆる人が良いカジュアルを着られるようにする”ことを消費・生活者の視点から徹底追求するユニクロが、 ゼロベース思考 により従来の枠組みにとらわれず、素材開発から販売までのビジネス・システム全体をデザインし、新たな価値の創造に成功したのだ。

3時代が ゼロベース思考 を求めている経済学の理論上は、「規制のない自由経済が最も効率的な経済システム」である。

各種税制や規制といったものは社会的公正の視点を政策的に加えたもので、理論的にはベストではないが現実的にはベストと考えられるという意味での、セカンド・ベスト・ソリューション( 2番目にベストな解決策)である。

日本も戦後の経済復興時代には、公共経済のインフラ整備や国民の最低生活の保障、そして経済格差の均一化のために、各種税制や諸々の規制を設定せざるをえなかった。

しかし、時代の変化に伴って生活水準が向上するに従い、その役割・必要性が低下してきた。

また、インターネットのような情報技術とそのインフラが整備されて、情報の流れがボーダーレスかつスピードアップすると、ますますヒト、モノ、カネといった経営資源自体が国境を越えて加速度的に流動化するようになる。

お金が世の中を流通するスピードが上がれば上がるほど経済が活気づくということを表すマネー・マルチプライヤー(貨幣乗数)という経済用語があるが、飛躍的に重要性が増したのは、インフォメーション・マルチプライヤー(情報乗数)である。

マネー・マルチプライヤーと同じ概念でそう名付けた。

この概念が重要なのは、情報の流通スピードが上がるほど、一次的にはまず経済が活性化する。

そして二次的には、表面的に GDPが上がるだけでなく、その水面下では土地や人といった比較的流動化しにくい経営資源も、情報が完全に流動化してしまえば相対的には流動化(仮想的に自由に動いている)している状況に等しくなるということだ。

これは結果として、従来の「規制」や「既成」そして、しがみつく「寄生」までをも否応なく突き崩す作用を持つ。

そして自由経済化の不可逆の流れは、いっそう早められることになる。

したがって、情報の流動化が加速度的に進行する現在、「規制」や「既成」の枠を外して、あらためて「消費者にとっての価値は何か」を考え、ビジネスへの意味合いをとらえ直すことがますます重要性を増す。

たとえば、戦後の許認可制度の中で保護されてきた米の販売免許も、登録制へという自由化の流れの中で流通チャネルは激変し、量販店、スーパーで安く購入できるようになった。

そのほうが明らかに、消費者にとって便利である。

また、ガソリンスタンドの参入規制も「特石法」が 1996年に撤廃され、スタンド新設にあたって石油元売りの供給証明も不要になった。

消防法の改正によりセルフスタンド式の解禁もあり、従来のスタンドの系列は崩れ、商社やスーパー等の異業種参入により流通再編が起きた。

その結果、非効率経営のスタンドの転廃業は加速され、消費者にとってはようやく少しはガソリンが安く買えるようになったが、一方、街角のガソリンスタンドは激減した。

こうした顧客にとっての価値を高める流れは、不可逆の流れだ。

このような規制緩和は、食料品、ビールといった消費財から、保険・金融商品に至るまで、あらゆる業種・業態やチャネルで生じた。

特に公共性が高く、規制 =国家による保護が強い業界ほど、いままでまったく改善の努力をする必要のなかったそれぞれ固有の「

の「利益方程式」が、ガラガラと音を立てて崩れ始めた。

こうした企業の多くはいままで、問題を解決する習慣のないぬるま湯に浸っていたため、体質的に解決策志向ではない。

したがって、新たな問題解決をスピーディに行わないと、今後激化する競争からは完全に脱落するだろう。

さらに、単なる規制緩和に加えて、医療業界では、高齢化社会への急激な移行に伴って財政的に破綻した状況を打開するために、医薬分業、診療報酬の定額制、後発薬の促進、また患者自身の負担部分を増やす混合診療への動きなど、国はあの手この手の規制の変更・修正を計画・実施している。

2010年現在の国の考え方としては、国民医療費と介護費の合計額が、 GDPの 10%を超えないこととしているようだ。

たとえば診療報酬の定額制への移行ひとつとっても、これまでの医師が診察し処方箋を出せば自動的に利益が上がる出来高型の「プロフィット・センター」から、薬剤費を極力抑え入院日数も短くしなければ利益が生み出せない治療費の上限が押さえられた「コスト・センター」への 180度の転換を意味する。

こうした動きは、当然、後発薬の採用にも拍車をかける。

さらに、いままで医師からしかもらえなかった薬の中でも薬効が弱く危険性の少ない胃腸薬などが、大衆薬として薬局でも買えるスイッチ OTC化が積極的に推し進められると、旧来型の開業医の約半分は不要になる可能性もある。

そうすると、開業医の競争が厳しくなり、腕の立つ医師とダメな医師が明確に選別される。

したがって、開業医は今後、地域医療圏の中で、病院の専門医や薬剤師、介護福祉士などコ・メディカルとの緊密な医療連携が求められる。

そして、単に診察をして処方箋を出すだけの医師ではなく、家族全員の“かかりつけ医”としていかに幅広い年齢層や多種多様な疾患に 24時間対応できる、ネットワーク化された総合医としての真のホームドクターに変身できるかが問われる。

これらは、国民の医療負担を少しでも低減するために保険制度の抜本的見直しを伴うもので、必然的な動きだ。

この市場構造の変化に伴い、医薬品メーカーの開発・営業体制や卸の機能、そして医師と患者の関わり方に至るまで、すべての関係者を巻き込む形で業界内の利益配分のあり方も含め、ドラスティックに変化せざるをえない状況になっている。

したがって、規制の枠内で既得権益を享受していた大企業ほど、従来の強みをすぐには変えられず、それが変化についていけない弱みや足かせになってしまうわけだ。

こうした規制緩和や変化にどう対応するかは、企業にとって死活問題になり、 ゼロベース思考 によるシナリオづくりがますます重要になるのである。

2 仮説思考 常にその時点での結論を持ってアクションを起こす 仮説思考 とは、限られた時間、限られた情報しかなくとも、必ずその時点での結論を持ち、実行に移すということである。

とにかく早く結論を出して、早く実行に移す。

そして、その結果を早く検証して次のステップにつなげていく。

刻々と変化する現代においては、このスピードが命運を分ける。

時間をかけて緻密な分析によって精度を高めようとするよりも、ざっくりでもいいから短時間であるレベルの結論を出し、アクションに結び付けることが重要なのだ。

ベター・ソリューションでもかまわない。

なぜなら変化の激しい現代では、検討を重ねているうちに前提条件が 180度転換するようなことはいくらでもあるからだ。

そうした事態に陥らないために、この 仮説思考 が必要なのだ。

仮説思考 のポイントは、 アクションに結び付く結論を常に持つ——結論の仮説 結論に導く背後の理由やメカニズムを考える——理由の仮説 「ベスト」を考えるよりも「ベター」を実行する——スピードを重視である。

以上3つのポイントをこれから説明する。

1アクションに結び付く結論を常に持つまず結論を出せと言われても……と戸惑うはずだ。

状況がよくわからなければ結論なんか出せないとか、

当てずっぽうしか言えないなどと思うはずだ。

しかし、最初は当てずっぽうでもよい。

とにかく、何がなんでも結論を出すことが仮説思考の始まりだ。

そして出した結論に対して、 SO WHAT?(だから何なの)を繰り返す。

たとえば図 1 6のグラフを見ると、 A事業は利益は大きいが横ばい、 B事業は急激に利益が拡大、 C事業は収益性が悪化、という状況である。

この程度はグラフを見ればだれでも言えるだろう。

しかし、この場合「 A事業は利益額が大で、 B事業は急成長」では SO WHAT?である。

だからどうするのか、具体的アクションに結び付く方向性を考えるのだ。

SO WHAT?を繰り返せば「 Cは撤退。

Aは現状保持のための必要最小限の資源投入とし、あらゆる経営資源を Bに集中投下する」が現時点での結論として出てくる。

そして、必要があれば、 A市場は成熟してしまってもう成長は望めないのか、 B市場は本当に将来性の高い成長市場なのか、 C市場は衰退市場なのかを検証すればよいのだ。

SO WHAT?を繰り返す意味は、いまある状況を分析したとき、なんとかアクションに結び付く結論を出すためである。

たとえば、「体重が増えた」という現象があったとする。

SO WHAT?を考える。

何でもなければただの無駄話で終わる。

しかし、ちょっとでも気になっていることがあれば、「体重が増えて血圧も上がりやすくなった」。

すると、 SO WHAT?で「痩せないと健康によくない」。

ここでも SO WHAT?を繰り返して、「運動をする」。

それでもしつこく SO WHAT?を繰り返して、「スポーツクラブへ週 3回行く」と具体的なアクションレベルにまで落とし込む(図 1 7)。

例をもう1つ。

「北海道地区でのセールスが極端に落ちてきた」という現象に対しては、 SO WHAT?を何度も繰り返して、たとえば「北海道地区に優秀なセールスマンを優先的に配置し、同時に販売促進費用を北海道に重点的にまわす」という具体的なものでなければならない。

単なるコインの裏返しの解決策として「北海道地区のセールスを上げろ」と北海道地区のセールスマンが言われても、それではすぐに何のアクションもとれないし、いわんや何の結果にもつながらない。

最初は的を外しても、常にアクションに結び付く結論を持つということを心がけると、確実に精度は上がる。

そして、ビジネス上の自己実現率は確実に向上するはずだ。

経営コンサルタント会社の新人コンサルタントはまず、 SO WHAT?の嵐のような質問攻めを乗り切ら

乗り切らなければならない。

結論を言えない人に対して私がよく行う質問は、「理由や理屈は忘れていいから、とにかく何がいちばん言いたいの? 何をすればいいの?」である。

そして、思いつきでも相手がアクションに結び付くような結論を言うと、矢継ぎ早に「どうしてそう思うの?」と理由や理屈を尋ねる。

「理由や理屈を整理して結論を述べよ」と三段論法式の聞き方をすると黙り込んでしまう場合でも、このように初めに結論から聞くと、けっこう何かしら言えるものだ。

試してみるといい。

ビジネスの現場では1つの具体的結論が 100の評論に勝ることを肝に銘じてほしい(図 1 8)。

2結論に導く背後の理由やメカニズムを考える 仮説思考 の第一歩は、まず「何がなんでも結論を出すこと」だと述べた。

この結論を出す習慣がついたなら、次に心がけることは「背後の理由やメカニズムを考える」ことだ。

背後の理由やメカニズムとは、問題となっている、あるいは将来問題になるだろうと思われる現象を作り出す、仕組みや構造のことである。

SO WHAT?をしつこく繰り返して実行可能なアクションに結び付く結論を出すように心がけていると、結果的に背後の理由やメカニズムが把握できるようになっている。

言い換えれば、背後の仕組みや構造が把握できていなければ結論が出せないことに気づくだろう。

この2つの関係は、鶏と卵の関係だ。

「何がなんでもその時点での結論」を持とうとすると、その問題の背景にはどういうメカニズムが働いているのか、どういう枠組みで問題を考えるのか、なぜそういう枠組みでとらえたのかという理由を自然に考えるようになる。

そうすれば、実行した後にもし結果が違っていても、背後の理由やメカニズムがわかっているから、軌道修正は容易にできる。

また実行する前に、必要であればその枠組みの中で要と思われるものの裏を取ることもできる。

結論を持って背後の理由やメカニズムを把握するというアプローチは、英語圏の人間にとっては馴染みやすいだろう。

彼らは常にこう話す。

「 I think(私はこう思う)、 because(なぜなら……)」。

小さい子供でも「 I like her(結論)、 because she is beautiful(理由)」と話す。

まさに 仮説思考 と同じ論理体系が文法に使われ、小さなときから当たり前のように使われている。

ところが日本語はそうはなっていない。

起承転結の流れの中ではどうしても結論が最後にくるために、最悪の場合時間切れになり、結論にたどり着かないまま議論が終わってしまう。

それどころか、話しているうちに横道にそれてしまい、何を言おうとしていたのか忘れてしまうといったことも多々ある。

昨今、アメリカ流プレゼンテーション手法が日本でもかなり取り入れられ、あらたまったプレゼンテーションの際には、この「結論を先に。

後から理由をきちんと述べる」というピラミッド型の表現スタイルも取り入れられている。

しかし、肝心なのはプレゼンテーションのテクニックではなく、日頃からそういう思考法を自分の頭に取り入れてビジネスの現場に向かうことなのだ。

演習例 1家庭用殺虫剤への新規参入の結論を出す「家庭用ゴキブリ殺虫剤の年間市場を 10分以内に推定せよ」という課題を、家庭用ゴキブリ殺虫剤市場への参入を今後検討するための予備分析として与えられたらどうするか?(方法 1)ゴキブリ殺虫剤の市場規模に関する調査資料を探索する(方法 2)自分で市場規模を推定する調査時間が十分にあって、確立された成熟市場だとすれば、( 1)の方法により、ネット検索、データベースや新聞等の記事検索、または調査会社への問い合わせにより簡単に調べることができる。

しかし、 10分以内という時間的制約があったり、あるいは成長が始まったばかりで市場データがないような場合には、( 2)の「自分で推定」せざるをえない。

このようなケースが頻繁にあるとは限らないが、このようなときこそ 仮説思考 が有効である。

ざっくり推定してみよう。

推定例 最も簡単な方法は、市場規模 = 1世帯当たりの年間利用金額 カバー世帯数により推定する方法だ。

全国 5000万世帯として、独身世帯やゴキブリがあまりいないと想定される北の地方の世帯もすべて含めて考える。

捕獲器からベイト剤、燻煙剤、エアゾール剤に至るまで、あらゆるタイプの殺虫剤を使ったとしても 1世帯当たり年間 2000円にはならないと推定する。

なぜならベイト剤(ゴキブリの好むエサに殺虫成分を入れて出没する場所に置き、これを食べたゴキブリが中毒を起こして死ぬ)を 1ヵ月に 4個使ったとして、 50円 4個 12ヵ月 = 2400円/年となるわけだから、冬場を考えたとしても 2000円程度かと思われる。

とすると、最大 2000円/世帯 5000万世帯 = 1000億円の市場となる。

とはいっても、 5000万世帯すべてが使用するというのは考えられない。

ファミリー世帯が需要の中心とすると、全世帯の中でのファミリーが占める割合は何%ぐらいか。

これも推定すると……。

1世帯というとだいたい 4人が平均と思われるが、よく新聞などで発表されている平均世帯数は 3人。

世の中 4人家族か 1人暮らしかのどちらかに限定すると、 3人 = 4人 x% 1人 ( 100 x)%となり、これを解くと、ファミリー世帯率は約 70%となる。

このうち、北の地域や新しいマンションなどではゴキブリがあまり発生しないので使用しないとし、使用する世帯の割合をファミリー世帯の半分の 50%と仮定する。

70% 50% = 35%、つまり、全世帯の約 3分の 1の 1700万世帯が使用世帯と推定される。

さらに、殺虫剤の年間使用金額を推定する。

エアゾールタイプは約 500円。

これはそれほどなくなるものでもないから年間 1本と仮定。

ベイト剤タイプは 50円/個。

夏場を中心として約 6ヵ月使用。

1ヵ月に 4個使用すると考えると、 50円 4個 6ヵ月 = 1200円。

エアゾールの 500円を足すと 1700円。

約 2000円である。

先ほどの世帯数 1700万世帯とこの金額 2000円/世帯を掛け合わせると、平均 2000円/世帯 1700万世帯 = 340億円という数字が推定される。

そして、戸建てでも機密性の高いサッシが利用され、都市部では鉄筋の中層・高層マンション化により次第に殺虫剤が使われなくなってきている現状を考えると、現時点でのアクションに結び付く結論は、「家庭用ゴキブリ殺虫剤市場は 340億円程度の成熟市場で成長の見込みが低く、新規参入を検討するほど市場に魅力はない」となる。

このように数字をあれこれいじって考えていくと、いずれにしてもオーダー的には数百億円程度の市場規模ということが推定される。

実際に某調査会社の調査資料によれば、ゴキブリ殺虫剤市場は、エアゾール・捕獲器・燻煙/燻蒸剤・ベイト剤など合わせて約 108億円( 2008年度小売ベース)の衰退市場だそうだ。

340億円と 108億円では大きな差があると見るか、数値オーダー的にほぼいい線いっているととらえるか、見解の相違は出そうである。

しかし、重要なことは、情報と時間が限定された状況下でも考え抜けば一応の結論を出すことは可能であること、そして、その時点での結論を出すこと自体が、後にさらに考えを深め、より良い解決策を出すことに結び付いているということだ。

この「その時点での結論を出す」ということが、すなわち 仮説思考 である。

結論と背後の理由やメカニズムが、鶏と卵の関係であることが理解されたと思う。

限られた状況下で考えるからざっくりでよいといっても、そこでどう仮説づけるかは、どれだけ背後の枠組みを全体観を持って自分なりに考えられるかということにかかってくる。

ちなみに、ビジネスマンを対象にした問題解決のある研修で、私が生徒にこの問題を解かせたときに出てきた市場規模に関する仮説を紹介しよう。

Aグループ 5000万世帯 50%(利用シーズン) 75%(利用世帯) 25個 捕獲器 300円/個 = 1400億円 Bグループ 5000万世帯 50%(利用シーズン) 2個 12回 ベイト剤 50円/個 = 300億円 Cグループ スプレー 5000万世帯 90%(利用世帯) 0. 3本/年 200円 = 27億円置きタイプ 5000万世帯 80%(利用世帯) 6個/年 捕獲器 100円/個 = 240億円合計 267億円 Dグループ 世帯数 5000万世帯 70%(利用世帯) = 3500万世帯単価 捕獲器 500円/個頻度 年 1回: 30%、年 4回: 60%、年 12回: 10%とすると、 683億円それぞれのグループごとに、使う殺虫剤の種類や単価、また世帯特徴や季節性、住宅の都市化を利用世帯数に反映させている。

そして、それぞれのグループごとに異なる背後の利用メカニズム(枠組み)の把握があってこのような数字になった。

このように 4グループでまったく異なる数字だ。

しかし、どの数字がいちばん実際の数字に近いかということが大事なのではない。

どういう利用実態の枠組みを設定して数字をはじき出したのかという、背後のメカニズムの把握が大事なのだ。

もしも考える根拠が希薄で不安のある数字があれば、そこだけを簡単に検証してもう一度推定すれば、格段に精度は上がるはずだ。

背後の理由やメカニズムに関する仮説が非常に納得のいくものであっても、その仮説に基づいて導き出した数字が実際の数字よりも多い額が出てしまったとしたら、それは仮説が間違っているのかもしれない。

しかし、市場がまだ発展途上であれば、はじき出した数字は本当はそこまで行けるポテンシャル市場かもしれない。

とすると、実際に企業が十分に市場をカバーしていない、あるいは確実にユーザーにアプローチしていないということだ。

その場合は、企業にとってはアップサイドの利益を得る機会を失うこと、つまり機会損失を招いていると推測される。

また、逆もありうる。

根拠の薄いバラ色に膨れ上がった数字に踊らされて市場に参入したものの、市場がまったく立ち上がらない、あるいは市場規模自体が想定より一桁小さい場合がそうだ。

そうなると、市場の魅力度を見込んで行ったさまざまな投資がまったく回収されないどころか、最後には撤退という最悪の事態に陥り、企業は大きなダウンサイドのリスクを負うことになる。

演習例 2自転車市場への新規参入の結論を出す「日本国内における自転車の年間市場を推定し、新規参入の是非に関する結論を出しなさい」。

もちろん今回も 10分以内。

「自転車といってもいろいろあるし、それぞれの具体的データがないと……」「いったいどの自転車の話なのか決まってないと……」というエクスキューズはなしである。

漠然として結論が出せないならば、漠然としていると思う状況を1つ1つ数字で具体的に仮定して結論を出すのだ。

推定例 自転車に乗る人は小学生から 60歳までと仮定する。

平均寿命 80歳、各年齢の人口が同じ数だとすると、自転車に乗る人たちはだいたい 50/ 80強である。

日本人の全人口が 1億 3000万人。

1人 1台とすると、 1億 3000万人 5/ 8 = 8125万人 6年に 1回買い替えると予想して、市場規模 8125万人 1回/ 6年 = 1350万台よって自転車の年間販売台数は 1350万台と推定される。

平均価格を 1万 5000円とすると、 1. 5万円 1350万台 = 2025億円が市場規模となる。

少子高齢化により子供の数は減るが、元気なお年寄りが増加するうえ、電動アシスト自転車の普及により、 60歳以上でも自転車に乗る人が増える可能性が高い。

また、健康志向や環境意識の高まりなどによって自動車利用が減り、自転車に乗る人が増えるだろうと考えると、現時点の結論は、「自転車市場は市場性を評価すると新規参入を検討する価値は十分にある。

それにあたっては電動アシスト自転車の普及版も視野に入れた市場を考えるべきである」となる。

別の推定例を考えよう。

まず年代別の購入・買い替え頻度から考える。

幼稚園児から小学生( 3〜 12歳)は、背も伸びることから 3年で買い替えると推定すると 1年以内に購入する確率は 1/ 3。

同様に、中学生〜大学生( 13〜 22歳)は 5年で買い替えるとすると購入確率は 1/ 5。

社会人( 23〜 60歳)は 10年で買い替えるとすると購入確率は 1/ 10。

高齢者( 61〜 80歳)は買い替えをしないから購入確率は 0。

年代別の人口分布が均一、平均寿命 80歳として、それぞれの年代の人数に 1年以内に購入確率を掛けたものを足し上げると、 {( 10 1/ 3) ( 10 1/ 5) ( 38 1/ 10) ( 20 0) }( 1億 3000万 80) = 1480万台自転車の年間販売台数は 1480万台と推定される。

したがって、市場規模は、 1. 5万円 1480万台 = 2220億円

となる。

自転車市場のセグメントを考えると、ママチャリと呼ばれる一般的自転車、子供用自転車、電動アシスト自転車、そしてロードバイク、マウンテンバイクなどと、昨今では市場の広がりも考えられる。

また、ガソリン代の高騰やエコ意識の向上など利用者増加の要因も大きく、高付加価値セグメントである電動アシスト自転車やロードバイク、マウンテンバイクが増加する可能性もある。

これらの自転車は価格も一桁は違う。

したがって、「自転車市場は市場性を評価すると新規参入を検討する価値は十分にある。

自転車市場を細分化し、高付加価値セグメントをメインターゲットに市場参入すべきである」という結論もありうる。

背後のメカニズムを把握して、現時点での結論を持つということがどういうことか、わかったことと思う。

「 10分以内に回答せよ」と言われれば、やむをえずでも、とにかくだれもが「結論を出す」。

そのためには、一般家庭ではゴキブリ殺虫剤をどれくらい使用するのか、数種類の殺虫剤の位置づけをどうとらえるのか、市場は日本全国に広がっているのか等々を推測しながら殺虫剤の市場メカニズムを考えようとするだろう。

考えないと答えが出てこないのだ。

自転車の例も同じである。

結論を出す過程でとりあえず推定した数字が、もし違っていることが後でわかったり、あるいは数字に自信が持てなかったら、そこの数字だけを調べて計算し直せばよいのだ。

まったくゼロから調べるよりも、そのほうが効率的である。

こうすれば、一応出した結論に基づいてアクションプランを立て、同時に裏を取るというように、分析とアクションを同時並行で進められる。

3「ベスト」を考えるよりも「ベター」を実行する背後の理由やメカニズムを同時に把握しながら結論を出す。

しかし、どの時点を結論として具体的実行に移していけばよいのかという疑問がつきまとう。

それは、とにかく実行に移せるレベルでの結論ということなのだが、その場合、実行することにより、いまよりもベターな状況が想定されれば、とにかく実行に移すことを考えればよい。

実行した人の勝ち、と思っていい。

なぜかというと、まず、ビジネスの現場には絶対的正解はありえないからだ。

数学の方程式の問題であれば、異なる正解が2つも3つもあるということはありえない。

だが、環境の変化が激しく、競合の打ち手も日々変化するビジネスの現場では1つだけの正解などないし、まずは競合のベスト・プラクティスをベンチマーキングしてからなどと、マーケット・リーダーの表面的な動きばかりを意識しすぎては、どこかで足元をすくわれる。

現在の置かれている状況に何か問題があるとすれば、ベストは難しくても、何かしらベターな解決策は必ずあるものだ。

さらに、「ベターな解決策」であればだれでも考えられるはずだ。

ベターな解決策を見つけたらすぐに実行すればよいのである(図 1 9)。

そして、どんどん軌道修正すればよい。

ベストな策というものは、追いかければ追いかけるほど時間もかかるし、行き詰まることが多い。

「もっともっと」を連発しているうちに、ベストが見つからないまま時間だけが過ぎ、前に戻ってベター案を採用しようとしても時すでに遅し、というケースもある。

ベター案を実行に移そうと思ったら「ベストではないんですが……」などと躊躇してはいけない。

もしそのベター案を批判する人がいたら、その人にもっと優れた代案を出してもらえばいい。

コンサルタントの場合は、プロジェクトチームを組んで短期間で状況分析をこなし、クライアント企業に対して「ベスト・ソリューション」を提供するのが仕事である。

ところが実際に企業の実行部門の責任者になって現場を動かしながら問題解決を図ってみると、面白いことがわかる。

ベターな解決策でも現場を動かし始めると、じっくりとベスト案を求めて分析するよりも、精度の高い、すぐに役立つ情報が自動的に入ってくるのだ。

したがって、結果的には成果に到達する時間が短縮されるだけでなく、成果自体も当初の期待値を上回り、一石二鳥となる。

GEのジャック・ウェルチ前会長の言う「走りながら解決する」というのは、企業活動を止めて問題を解決するわけにはいかないというよりも、むしろ走りながら解決したほうが非常に効率的で、良い結果が出やすいということを言っているのだ。

アメリカのある消費財企業が日本市場に本格参入し始めたころ、日本企業の商品数とその開発スピードについていけない事態が起きたことがある。

日本企業はかなり当てずっぽうに近い面もあったのだが、どんどん商品を出す。

数撃ちゃ当たるの論理でとにかく出してしまう。

そして、どれかがうまくいくとそれをスピーディに改良し、消費者ニーズに合わせてしまう。

いわゆる、ショットガン・アプローチをとっていた。

一方アメリカ企業は、商品開発の教科書的アプローチ。

消費者の精緻な市場調査から始まって、きめの細かい市場のセグメンテーション、そして最後はモニター調査、テスト販売と、ステップ・バイ・ステップのアプローチである。

やっとの思いで自社の商品を市場導入したころには、時すでに遅しで市場の決着がついてしまっていた。

そればかりか、日本企業はさらに違う新商品群を出しているではないか。

このアメリカ企業がとった、じっくりと狙いを定めたスナイパー・アプローチ(狙撃型)も、狙いを定めている間にターゲットが競合の手に渡っていては後の祭りである。

この企業はこの失敗から日本市場での戦い方を学習し、調査・開発のプロセスを極端に短縮化してマーケティング体制を立て直した。

その後の結果は、言うまでもなくアメリカ企業の勝ち。

なぜなら、アメリカ企業はスピードと精度を兼ね備えた、自己誘導型ミサイル・アプローチに変えたからだ。

要するに 仮説思考 の重要なポイントは、解決できる可能性を必ず頭の片隅に残しながら、ベターな解決策が見えたらすぐに実行に移してみることである。

成功した創業者が何年か後に、その完成された理念と素晴らしい事業コンセプトを体系づけて講演することはよくあるが、明確な事業コンセプトのほとんどは必ずしも初めにありきではなく、試行錯誤と現場での実践の中から生まれている。

つまり、大成功したビジネスマンでさえ、ベストが本当に見えたのは最後の最後ということだ。

——情報収集に時間を使いすぎない「ベスト」を考えるより「ベター」を実行する、を実践に結び付けていくときに忘れてはいけないことを、1つ付け加えておく。

それは情報収集に時間を取りすぎるなということだ。

自然科学や社会科学の分野では、現象を究明し、理論化する際に必ずこの 仮説思考 を用いる。

仮説に基づいてデータを集め、検証する。

しかしビジネスの分野で用いる 仮説思考 の場合は、集める情報量は自然科学や社会科学と同じではない。

なぜなら、前述したようにビジネスの現場に絶対的正解はないからだ。

言い換えれば、時間と環境が

変化するに従い、刻一刻と解決策も変化する(ミサイルの標的が思わぬところへ移動してしまう)からだ。

そうした状況の中では、ただやみくもに延々と情報を集めて分析しても、結論を出したときには世の中が変わっているということになりかねない。

また、情報収集を始めるとついはまり込んでしまい、考えることに時間を使わない、あるいは使う時間がなくなってしまうことになりがちだ、ということも忘れてはいけない。

「思考と情報のパラドックス」である(図 1 10)。

いまの世の中、情報を集めようとすればいくらでも集められる。

ところが集め始めると、つい収集自体が自己目的化してしまう。

山のように玉石入り混じった情報を集めてはみたものの、整理しきれないうえ、考えが足りないためにまったく結論に至らず、「さらに検討を要する」という結論に陥ることが多い。

それでは、 SO WHAT?ということになってしまう。

そして、集めた情報はただの紙屑となり、まったくの時間の無駄に終わる。

ビジネスで必要なのはまず右か左かの方向性なのだ。

6割レベルの情報が集まったら、とにかく一度、方向性の判断を行うべきだ。

しかし、昔成功したからといって、まったく状況分析のないまま、過去の経験値に頼る判断はもちろん論外である(図 1 11)。

このように、ビジネスの現場ではその時点における結論を持ち、検証・実行というプロセスを素早く小刻みに繰り返すと、柔軟に状況の変化に対応できるため、無駄な情報収集はかなり抑えられる。

実際、仮説を持って検証・実行すると、より精度の高い情報がより楽に集まるため、効率はかなり高まる。

一方、初めに結論を持たずに状況の説明から始めると、 SO WHAT?という質問に対して、さらに検討いたしますという答弁になりやすく、決定ができないままに終わってしまうことになる。

とにかく、限られた時間、限られた情報であっても、常に SO WHAT?を自問自答し、具体的結論 =仮説を持つように心がけることが大事だ。

初めに結論を言って人を説得しようとすると、結論の後に十分な理由を述べなければ相手は納得しない。

そして、結論が陳腐であれば次の行動に結び付かない。

仮説思考 のポイントは初めにアクションに結び付く結論を言い、その結論に導く理由を説明できればそれでよいのだ。

MECE(ミッシー) と ロジックツリー は、問題を解決する過程で問題の原因を追求したり、解決策を考えるときに、思考の広がりと深さを論理的に押さえるための基本的な技術である。

第 1章の2つの思考が問題解決のための基本態度とすると、この第 2章の2つの技術は問題解決のための基本スキルといえる。

MECE という言葉は聞いたことがないかもしれないが、原因を考えるときに「ほかには原因が考えられないだろうか」とか「解決策をダブって考えていないだろうか」などと、だれもが意識していることだ。

それが MECE の原点である。

そして、問題の原因や解決策を考えるときに、それを箇条書きにしていく人もいるかもしれないが、四角や円の中に言葉を書き入れて矢印でフローチャートを作ったり、ツリー状に整理して考えたりすることがあるだろう。

それが ロジックツリー の初歩なのだ。

MECE と ロジックツリー は、だれもが普段何げなくやっていることを、意識してシステマティックに行うための技術だ。

限られた時間の中で問題を解決する際に非常に汎用性が高く、あらゆるビジネスの現場で応用の利く基本技術だと理解してほしい。

そして、いったん習得すれば出来合いのフレームワークを使わなくても、それぞれのビジネスの現場にいちばんフィットする、オリジナルの問題解決フレームワークを作ることができる。

そこで、成熟市場といわれながらも 1987年にアサヒビールが出した「スーパードライ」によって業界の構図が大きく塗り変えられたビール業界を題材に、戦略の立案・実施の面で MECE と ロジックツリー の重要性を考えてみよう。

このときアサヒ・スーパードライの商品戦略がいったいどこから出てきたのか、そしてどのように実行されたのかを MECE と ロジックツリー で推察する。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

コメント

コメントする

CAPTCHA


目次