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Part2戦略編

01デザインと戦略の関係戦略を理解した上でデザインの方針を決めるパッケージデザインを制作する際には、ターゲットをイメージし、伝えるべきベネフィットやデザインの世界観などをまとめてデザインの制作に入っていきます。しかし、ここでもう1つ大切なのが、戦略との整合性です。この章ではデザインと戦略の関係性を、できるだけ分かりやすく紹介していきます。たとえ素晴らしいパッケージデザインが出来上がったとしても、戦略に合っていないと売れるパッケージにはなりません。戦略とは経営の世界でよく使われる「競争にどう勝つか」という考え方です。企業経営においては戦略のことを「中長期的に、まねされない利益を生み出す仕組みや戦い方」というニュアンスで使うことが多いと思います。学術的には様々な定義や歴史がありますが、ここでは割愛します。「こういうときは、こういう戦い方をすると負けにくいよ」とか「勝てる可能性が高まるよ」という先人の教えをまとめてくれているのが戦略論なのです。上手に先人の知恵を学び、デザイン制作の方針に落とし込むことが大切です。これがパッケージデザインとどう関わってくるかというと、場合によっては競争相手のまねをしていいときもありますし、競合相手も含めてみんなで同じようなデザインにしたほうがいいときもあります。競争相手が巨大でとても勝てそうにないのか、少しは勝ち目がありそうかでも、戦い方は異なります。戦い方が異なればデザインもその戦い方に準じるのです。経営学の言葉で「組織は戦略に従う」という言葉がありますが、同じようにデザインも戦略に従います。とはいえ戦略そのものが具体的なデザイン案を教えてくれるわけではありません。「どういうことをしたほうがいいか、どういうことをしてはいけないのか」という感じで、デザインを制作する立場からすると少しぼんやりはしているのですが、正しい道筋を教えてくれるのです。そして売れる確率を高めてくれるのです。例えば、今回の商品は広告にお金を使うことをやめて、販売してくれるお店へのマージンを厚くするという戦略を選んだとします。この場合、広告を見て消費者が店頭に買いに来ることは少なくなりますが、販売店は競合商品よりあなたの会社の商品を売ったほうが利益が出るので、積極的にあなたの会社の商品をお客様に説明してくれます。これをプッシュ戦略といいます。この場合、パッケージデザインはどのようなデザインにするのがいいでしょうか。この答えは後ほど紹介しますが、こういった戦略を理解した上でデザインの方針を決めることはとても大切なことなのです。

02製品ライフサイクルとデザイン製品ライフサイクルに合わせてデザインを考える製品には誕生から死に至るまでのライフサイクルがあり、4つのステージに分けて考えられています。市場が初期の段階では、一部のイノベーターと呼ばれる、新しいものに敏感な人たちしか購入しないため、まだ売り上げは小さく、競合もいません。商品がどういうものであるかをしっかりと伝えることが必要になります。商品が売れ始め、徐々に競合が現れ始めると、自社商品をいかに市場に展開していくか、また商品を拡張していくかということが重要になってきます。多くの人たちが購入するようになり、成熟期を迎えると、それぞれのプレーヤーが利益の最大化を狙って、競争地位別にマーケティング活動を展開します。やがて、商品を購入する人が少なくなってくるにつれて、各企業は投資を控え、利益の確保と撤退のタイミングを考えます。また市場そのものが衰退しないように、技術開発を行い、新しい市場をつくる試みも行われます。こういった製品ライフサイクルによるマーケティング戦略とデザインには整合性が求められます。例えば、市場の導入期には、その商品が何なのかという基本機能をパッケージで伝えることと、売り場をつくるために共通のトーン&マナーを守ることが大切です。これによって、売り場が形成され、顧客に認知されていきます。市場をつくる初期はみんなで力を合わせることが有効です。成長期には様々な商品が出てくるので、差異化ポイント、商品ラインによる違いをしっかりと消費者に伝えることが重要になります。それとともに、来るべき成熟期に向けて、デザインのアイデンティティーを育てていく必要があります。成熟期には商品の技術的差異で勝負するのが難しくなっていくので、育ててきたデザインのアイデンティティー、ブランド戦略が重要になります。記録メディアなどは商品のライフサイクルが周期的に入れ替わる典型的な市場です。

03新しい市場をつくるときのパッケージデザイン従来商品から離れたデザインテイストを取り入れる今までにない市場を新たにつくるような商品の場合、デザインは今までのカテゴリーによくあるものから離れたテイストである必要があります。従来のデザインのトーン&マナーを踏襲してしまうと、消費者に今までの商品と同じようなものと認識されてしまうからです。例えば、以前、江崎グリコがストレスを解消するGABAを多く含むチョコレートで新市場をつくりましたが、パッケージは従来のチョコレートらしいものとはかなり違うデザインになっています。それはこの商品が従来のチョコレートとは違った、新しい機能性を持った商品だというメッセージなのです。大塚製薬の「カロリーメイト」や「ポカリスエット」も、今までの食品や飲料とはかなり違った斬新なパッケージデザインをしています。この商品も同じように、今までの商品とは違うんだという主張をパッケージを通じて伝えています。このように新しい市場をつくる際のパッケージは、まず「今までと違う」というメッセージを伝えることが重要です。また商品パッケージの中に、ベネフィットを伝えるキャッチコピーを入れることもかかせません。江崎グリコ「GABA」には発売当初、「ストレス社会で闘うあなたに」というコピーが入っていました。緊急の下痢に水なしで飲める薬「ストッパ」には、「突発性の下痢に」「水なし1錠で効く」と書かれています。そもそも消費者にとって初めての商品を世に出すわけですから、分かりにくいものを伝えなければならないという前提に立って、ベネフィットを短く分かりやすく伝えるキャッチコピーが重要なのです。また、市場創造に成功した際には、様々なブランドエクステンションが考えられるため、ブランドカラーやロゴなどのアイデンティティーをしっかりとつくっておく必要があります。そもそも新市場をつくり上げるには、パッケージデザインだけでは限界があり、どこかで広告投資が必要になりますが、その際にも、パッケージデザインに強いアイデンティティーがあれば、広告とパッケージ、店頭での結びつきを強めてくれる強い絆になります。新しい市場を今までにないデザインでつくり出したときには、そのデザインは市場を代表する顔として君臨し、高い競争優位性を企業にもたらします。

04ブルーオーシャン戦略とパッケージデザイン「差異化」と「低価格」を実現した物語を伝える世の中の企業は日々、多くの競争にさらされています。いち早く新しい商品を市場に投入する企業があれば、ライバル社はそれに遅れまいと似たような商品で対抗し、できるだけ多くの消費者に自社の商品を買ってもらおうとします。こういった競争は消費者にとってはとてもありがたいことで、そのおかげで品質は進化し、価格も安くなり、人々の生活は豊かになるでしょう。一方、企業側から見ると血で血を洗うような戦いです。一歩間違うと赤字になってしまう。こういった競争が激しい市場をレッドオーシャンと呼びます。逆に、競争相手がいない未開拓の市場を青い海と捉えて、市場を開拓していこうという戦略が「ブルーオーシャン戦略」です。競争相手のいないところに市場を開拓するわけですからとても大変なのですが、いったん市場が生まれれば血みどろの戦いを避けつつ、安定的な成長と利益を得ることができます。そんな夢のような市場創造はどのようにすればできるのでしょうか。ポイントは「差異化」と「低価格」で、この2つを一気に達成することで、競争相手がいない魅力的な青い海で市場創造ができるといわれます。例えば、1000円カットの「QBハウス」を考えてみましょう。QBハウスは従来の理髪店のプロセスを徹底的に省き、必要最低限にすることで、10分1000円というヘアカットサービスを実現しました。髪を切る時間短縮と価格低下を願う人は意外に多かったのです。QBハウスはそのノウハウを軸に多店舗展開を行い、今では全国600店舗近く、海外でも100店舗を超えるほどに成長しています。このように、従来の商品やサービスから何かを「取り除く」「増やす」「減らす」「付け加える」ことで、今までになかった差別化と低価格を実現することができます。さて、この戦略とパッケージデザインを考えると、「差異化」「低価格」が「なぜ」できたのかというストーリーをしっかりと反映させることが大切です。この点で成功した例としてIKEAと初期の無印良品があります。IKEAは組み立てというプロセスを取り除き、同じ商品を大量に生産することで、スウェーデンのデザイン性と低価格の両方を実現しました。無印良品は「わけあって、安い」をコンセプトに、生産工程で商品にならずに捨てられていた部位を商品にすることで「差異化」「低価格」を実現しています。いずれのパッケージも色数をできるだけ抑える方法を採用し、この物語を上手にパッケージに反映させています。まさにその会社が生み出したいと願っている思いを具象化しているデザインです。

05戦略的模倣追随するというデザイン戦略まねをするデザインは、いけないのでしょうか。意匠権や著作権の観点からすると、既存のデザインを意図的にそっくりまねることは許されません。一方で戦略上の模倣という企業戦略は存在します。商品の意匠などの模倣は、消費者を誤認させることが狙いですが、戦略上の模倣は、消費者の誤認を狙うのではなく、同じような商品群として認識してもらうためだという違いがあります。戦略上、こういったデザイン戦略が有効なパターンは2つあります。1つは、リーダーの戦略としての模倣です。リーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーという4つの競争ポジションがあり、それぞれの戦い方の定石が存在しますが、リーダーの戦略の定石の1つは模倣です。リーダーは通常、他の企業に比べて商品を最も安く作れ、市場へ商品を配荷する力もあります。このため体力で劣る競合の新商品を模倣することで、安い価格で、かつ広い市場に向けて商品を供給できるのです。もう1つは、市場が立ち上がるフェーズでの模倣です。新しい市場が立ち上がるときには多くの企業が参入してきますが、売り場にしっかりとカテゴリーをつくり、消費者にそういった商品群があると認識させていく必要があります。そういうフェーズでは、各社はある程度共通のデザインテイストを守りながら市場そのものを一緒につくっていくということが大切になります。このようにデザインは戦略との関わりが非常に強く、自社の戦略との適合性を意識する必要があります。デザインの場合、デザイン案を目の前にするとその主観的評価に集中するあまり、戦略との適合性を忘れてしまいがちですが、自社の戦略をしっかりと意識し、それに沿ったデザインをすることが重要になります。

06ポジショニング戦略とパッケージデザインそれはスープなのかヌードルなのかポジショニングとは商品やブランドの相対的な位置づけを明確にしたものです。マーケティングでよく使われるポジショニングという言葉には2つの意味があります。1つはカテゴリー選択の意味。もう1つはカテゴリー内での位置づけです。どちらも大切です。「カップヌードル」は1970年代に米国市場を開拓する際、3つの選択肢がありました。麺として売るか、スープとして売るか、全く新しいものとして売るかです。結果、カップヌードルはスープというカテゴリーを選択したことで成功を手にします。新商品の場合、どのカテゴリー、どの棚で売るのかはとても大事な選択になります。置かれる棚によって競合商品が変わってきますし、求められるデザインのトーン&マナーも変わってくるからです。どの棚で売るのかが不明確な商品の多くは失敗します。戦略に一貫性を保てないからです。スープとして売るならばスープとしての戦略、麺として売るなら麺としての一貫したマーケティング戦略が求められます。「スープとして行くぞ!」と決めたら、スープとしての味、価格、品ぞろえ、パッケージにしていく必要があります。もう1つのポジショニングの意味、カテゴリー内の位置づけを説明します。カップヌードルはスープというカテゴリー選択をした後で、そのカテゴリーの中で「具がたくさん入ったスープ」と位置づけました。スープというカテゴリーにおいて消費者に「具がたくさん入ったスープ」と認識してもらえることを目標にしたのです。どのカテゴリーの商品として販売するのか、決定したカテゴリーの中でどのような商品として消費者に認識してもらうのか。この2つがポジショニング戦略ではとても大切です。この戦略を受けてパッケージを考えてみましょう。カテゴリーにはそのカテゴリー特有のデザインのトーン&マナーがあります。色やシズル表現など、そのカテゴリー独特のデザインのルールのようなものです。例えば牛乳であれば青や緑、牧場や牛の絵といった牛乳らしいデザインがあります。まずはこれを外さないことが大事です。次に他の商品との違いをしっかりと伝えることです。特にカテゴリー内での位置づけに関しては、嗜好性の高いカテゴリーであるほど、目標とする位置づけがデザイン制作時に重要になるのです。ビールやタバコ、高級化粧品などはカテゴリー内での位置づけ目標が何よりも明確なデザインのゴールになります。あえて全く新しいカテゴリーをつくり上げていく選択もありますが、その場合は市場創造のための長期にわたる投資が必要になります。

07競争ポジション(リーダー・チャレンジャー・フォロワー・ニッチャー)競争ポジションによってデザインは決まる競争戦略の考え方の中で、競争地位(競争ポジション)という概念があります。慶應義塾大学名誉教授の嶋口充輝氏は、競争ポジションはリーダー、チャレンジャー、フォロワー、ニッチャーと大きく4つに分け、市場で最大の経営資源とシェアを持つ企業をリーダー、リーダーと首位争いを狙えるだけの地位にいる企業をチャレンジャー、リーダーを狙う経営資源や際立った独自性を持たない企業をフォロワー、リーダーを狙う経営資源はないが、何らかの独自性を有する企業をニッチャーと定義しています。それぞれには戦略の定石があります。リーダーは、市場の拡大の恩恵を最も受けることができるので、周辺の需要を拡大し、コスト競争力や市場への配荷力を生かして、良い商品があれば同質化競争をすることで市場シェアを拡大していく。チャレンジャーはリーダーと同じことをしても経営資源に差があるため、差異化を実現しなければならない。フォロワーは迅速にリーダーやチャレンジャーを模倣し、ニッチャーは特定市場において、市場を拡大し、非価格対応をしていくというものです。これをデザイン戦略に当てはめた場合、リーダーは同質化デザイン、つまり嫌われないような守りのデザインをしたり、競合相手が良いデザインを出してきたらそれを意識したデザイン戦略を採ります。チャレンジャーは、リーダーと差異化されたデザインを重視し、フォロワーは迅速にリーダーやチャレンジャーを模倣するデザイン戦略を実施し、ニッチャーは独自のターゲットに響く個性的なデザインを追求していくことになります。必ずしもこのデザイン戦略だけがすべてではないですが、自社の競争地位とデザインの関係性、定石については理解しておくべきでしょう。数年おきに大きくデザイントーンが変わるコンビニ各社のデザイン戦略などは、競争ポジションとデザインを考える上で参考になります。

08コーポレートブランド戦略と個別ブランド戦略自社のブランド戦略をパッケージデザインに反映させるブランド戦略には、自社のコーポレートブランドを前面に押し出していくコーポレートブランド戦略と、個別のブランドを育成していく個別ブランド戦略があります。コーポレートブランド戦略は自社のブランドを前面に押し出すことで、安心感や品質感といった企業として蓄積してきたイメージを活用できるため、コミュニケーション効率が高い戦略といえます。一方で自社のイメージに合わないカテゴリーに展開しにくい、すべてのカテゴリーで企業としてのブランドを前面に押し出してしまうと、結果としてコーポレートブランドそのものがぼやけてくるというデメリットがあります。個別ブランド戦略はその点で、1つひとつのブランドが独立しているため、固有のブランドイメージをつくりやすく、他のブランドでダメージがあっても、影響を最小限に食い止められるといったメリットがあります。例えば、その企業が不祥事を起こしてしまった場合、コーポレートブランドを前面に出していると、傷ついた企業ブランドによってすべての商品ブランドに影響が出ます。個別ブランド戦略の場合は、育成にコストがかかりますが、育成されれば活用しやすく、例えばブランドを売却するなど戦略の自由度も高まります。日本の場合は、戦後に市場が急成長し、次々と出る新商品を安心して購入してもらうために企業ブランド戦略を重視してきたという特徴があります。最近は多様化する顧客ニーズに合わせて、コーポレートブランド戦略と個別ブランド戦略をミックスしたり、コーポレートブランドを少しずつ小さくして、個別ブランドとして1人立ちさせていくブリッジング戦略などを採用する場合もあります。いずれの場合も、自社のブランド戦略をパッケージデザインに反映することが重要です。

09流通戦略❶売り場とパッケージデザイン売られる場所とパッケージデザインの役割パッケージデザインは戦略面の他に、どういった業態で売るかにも影響されます。業態によって対象となる顧客やコミュニケーション戦略、商品が変わります。これによってあるべきデザインの姿も大きく変わるのです。例えば、コンビニエンスストアなどは販売データを基に非常に短期間で商品の評価がなされるため、初回購入(トライアル)をいかに獲得するかが重要になります。また、狭い売り場での陳列になるため、単品、1フェースでもしっかりと存在を主張するデザインが求められます。コンビニでは自分で消費するための購入が多いので、面白いデザインに対する許容範囲が広く、新しいデザインに挑戦しやすい面があります。スーパーマーケットはその逆で、家族のための購入が多く、顧客はコンビニよりも保守的になります。安心感のあるデザインの重要性が増すわけです。郊外型のスーパーやドラッグストアなどは広い店内で大量に陳列する売り方が多く、単品の見え方だけでなく、大量陳列での見え方や外箱のデザインなども重要になってきます。このように売り場によってデザインは変わってきますが、最近はWEBによる通販が急速に伸びています。通販でのパッケージデザインは、店頭でトライアルを喚起させるというチラシ的役割が少ない分、情緒的価値を中心にデザインすることができます。通販のパッケージで重要なのは、どういったメディアにパッケージが掲載されるのかということでしょう。掲載メディアにデザイン案を張り込んで検討してみることが重要です。新聞広告中心なのに、カラーやグラデーションにいくら凝っても意味がありません。もう1つは、届いてから廃棄するまでのプロセスを想定してデザインすることです。届いたときの喜び、開けたときの驚きなど、こういったものまで想定してデザインすることが重要です。

10流通戦略❷プル戦略とプッシュ戦略流通戦略によって異なるパッケージデザインプル戦略とプッシュ戦略は、マーケティングの教科書にもよく出てくる大切な戦略です。パッケージデザインの制作にも大きく関わってきます。プル戦略とは、広告に投資することによって、消費者に買いにきてもらうという戦略です。「広告でこんな商品見たんですけど、このお店に置いてありますか?」と、販売店に消費者が訪ねてくるイメージです。プッシュ戦略は、販売店へのマージンを厚くして、積極的に自社の商品を消費者に推奨してもらう戦略です。ドラッグストアなどで「その商品もいいけど、こちらもいいですよ。効果は同じで、価格が安いんです」などと、販売スタッフがお客に推奨するイメージです。プル戦略のパッケージデザインでは、広告との連動が重要です。広告での記憶が店頭で商品とつながるようなデザインアイデンティティーや表現の一貫性が欠かせません。「あっ、あの広告で見た商品だ」と店頭で思い出してもらえるようなコミュニケーション上のつながりを、広告活動全体でつくっていく必要があります。通販でも、CMを見てすぐにAmazonで購入できるように、記憶に残り、正しく検索・購入できる商品名やデザインが重要です。プッシュ戦略とは、「同じカテゴリーであれば、こちらを売ったほうが、利益が出るので、こちらを売っていこう」と販売店に動いてもらう戦略です。消費者に対して、その商品やサービスの良さを積極的に推奨してもらうことで販売を伸ばします。これはネット上でも変わりません。ネット上の有力サイトや有名人を通じて強く推奨してもらい、購入を喚起していきます。プッシュ型のパッケージデザインでは、専門情報をしっかりと記載することがポイントです。なぜならば、プッシュ型のパッケージデザインは、プレゼンツールそのものだからです。商品を持ちながら、販売スタッフがあなたにその商品の良さを説明しているシーンをイメージしてください。売る人が商品の良さを上手に説明できるようなパッケージデザインが必要です。具体的な情報の流れをよく整理した上で、効果効能、商品の特徴などを示す図やイラストなどが特に効果を発揮します。側面や裏面もプレゼンツールとして大切にデザインしてください。

11プライベートブランド揺るぎないストアコンセプトがあるかプライベートブランド(PB)が成功すると、店のブランド力を高めることができます。PBのパッケージデザインを考える際に大きな影響を受けるのが、その店がどのようなコンセプトを持っているかというストアコンセプトの存在でしょう。揺るぎないストアコンセプトの存在はデザインの方向性を明確にし、長年ぶれることがありません。無印良品、IKEA、LOHACOなどがその好例でしょう。一方でこの10年くらい、著名なデザイナーに依頼した結果、個性的なデザインで話題になったにもかかわらず、数年でまた元のデザインに戻るという迷走を繰り返しているケースも見かけます。なぜこういったことが起こるのでしょうか。要因の1つはストアコンセプトの薄さにあります。自社の存在価値ともいえるストアコンセプトが明確でない場合、デザインの方向性もぶれてしまいがちです。スーパー、コンビニ、ドラッグストアなどはいずれも、各カテゴリーの中でほぼ同質の価値を提供し、店舗数競争で成長してきた結果、消費者にとっては生活になくてはならないインフラになりました。それは素晴らしいことなのですが、その結果、差異化されたストアコンセプトという視点が欠けてしまっているように感じます。今まではそれでもよかったと思いますが、日本市場が成熟する中で各ストアは揺るぎない独自のコンセプトが求められる時代に入ってきています。例えばコンビニの中でも、「ナチュラルローソン」はコンセプトが明確で、パッケージデザインにも一貫性がある好例だと思います。もう1点、著名なデザイナーを採用して、多くのPB商品を一気にリデザインしようとすると、どうしてもそのデザイナーのテイストと合わない商品群が出てきてしまいます。ここ数年の傾向を見ていると、味噌汁のような典型的な和のデザインで苦労していることが多いようです。それぞれの商品カテゴリーに特有のパッケージデザインの“らしさ”があります。これを上手に取り入れないと、消費者が購入したいと思うデザインが完成しないのです。揺るぎないストアコンセプトを基に、時間をかけて育てていくことが、強いPBのパッケージデザインを成功させるポイントだと思います。

12広告投下量とパッケージデザインの関係広告が大きく入るならパッケージデザイン表現の選択肢は広がる広告がどれだけ投入されるかで、パッケージデザインの表現は大きく変わってきます。前述したように、パッケージデザインは手に取ってもらうというチラシ的役割からスタートして、消費者の記憶に残る記号として育成していくプロセスです。このプロセスの中で広告は「時間を購入する」役割、エンジンでいえばターボの役割を発揮します。広告が大量に投下される商品では、ロゴやカラー、イラストなどにアイデンティティーを持たせ、大胆なデザインをすることができます。テレビ、WEB、店頭で共通のアイデンティティーを認識させることで、広告から購入までのフックをしっかりとつくることができ、それがデザイン上のアイデンティティーとしてもブランド資産になっていくのです。その意味で、デザイン制作をスタートするときに、広告がどれくらい投下されるのかは重要な情報です。また、クリエイティブ面でパッケージデザインにどのような役割を持たせるかも、広告とパッケージの関係性において重要になります。ブランドの世界感としてのクリエイティブの共通性、トーン&マナーのすり合わせという視点と、コミュニケーションとストーリーの中でパッケージをどのように登場させ、どのような意味を持たせるのかという点が関わってきます。サントリー「ザ・プレミアム・モルツ」のパッケージデザインには、ビールを注いだときに衝撃が少なく泡持ちがいいといわれる、腰にくびれのあるビールグラスを想起させるモチーフが入っています。これが優雅でおいしいビールの時間を思い起こさせてくれます。コミュニケーションの中でも、くびれタンブラーが数多く登場し、このモチーフはザ・プレミアム・モルツのブランドイメージの中で強いアイデンティティーになっています。こういった成功は、デザイン制作時に広告コミュニケーション全体が計画されていてこそ達成できます。広告を打ってブランドを育成していく場合には、パッケージデザインの役割を明確にし、大胆なデザインに挑戦して、早期に記憶に残るアイデンティティーを形成することが可能になります。

13パッケージを中心にしたコミュニケーション芸能人ではなくパッケージをコミュニケーションの中心にパッケージデザインをコミュニケーションの中心にした完成度の高いコミュニケーション戦略も見られます。過去の日本のマーケティングコミュニケーションには、テレビCMと芸能人を中心にしたものが多く見られましたが、メディアの多様化によりテレビCM中心のコミュニケーション計画は変わりつつあります。また、芸能人を中心にしたコミュニケーションは話題になりやすく、パブリシティー効果も高いというメリットもありますが、商品のコミュニケーションではなく芸能人の宣伝になっているケースも散見されます。広告費が高くなる、事務所からの表現規制が入る、同じ有名人が複数の広告に登場していると商品との結びつきが弱くなるといったデメリットもあります。本来、メーカーの中心となるのは商品であり、その商品やブランドが、使う人に対してどんなベネフィットを与えるのかがコミュニケーションの軸になります。パッケージを中心にコミュニケーションをすることで、コミュニケーションの軸がずれないというメリットがあります。長期的なブランド育成という視点に立ちコミュニケーションプランを考えた場合、パッケージデザインをコミュニケーションの中心に据え、ブランド資産を育てていくことによって、印象に残るコミュニケーションができます。例えば、ミネラルウオーターの「クリスタルガイザー」はその源泉である米国の国立森林公園保護区にあるマウント・シャスタをテーマにしたパッケージデザインを軸に、パッケージを中心としたコミュニケーションを展開しています。一時的な注目度、話題性は芸能人を中心としたキャンペーンにかないませんが、商品を中心にしたコミュニケーションを長く続けることで、商品にひも付いた強いブランド連想を育成できるのです。すべてのケースに当てはまるとはいえませんが、パッケージを中心にしたコミュニケーション計画は、昔から続くコミュニケーション戦略の1つです。

14IMCの概念統合型コミュニケーションの重要性IMCとはIntegratedMarketingCommunicationの略で、統合型コミュニケーションと訳されているマーケティングコミュニケーションの考え方です。1990年代初めに米ノースウェスタン大学のドン・E・シュルツ教授らによって提唱されました。「企業と顧客の間には、広告や店頭、サービススタッフ、商品など様々な接点があります。これをブランドコンタクト(顧客とブランドの接点)と呼びますが、この様々な接点で一貫したコミュニケーションを消費者視点で行おう」という考え方です。例えば、いくらテレビCMで顧客を心から大切にしますという感動的な企業広告を流していたとしても、商品が故障してサポートセンターに電話をしたら、散々待たされた揚げ句、ひどい対応だった……そんな場合はとても一貫したイメージやメッセージを伝えているとは言えません。これほどではなくても、SNSで伝えているメッセージ、トーン&マナー、ブランドの世界観と、雑誌広告でのそれがずれているということはあります。こうなると顧客は何がそのブランドの本質なのかがよく分からず、コミュニケーションとして弱いものになってしまいます。一貫性を持たせるために、必ずしも同じことを言わなければいけないというわけではありません。それぞれのブランドコンタクトの特性にあった形で、コミュニケーション全体に統一感を持たせることがポイントです。パッケージデザインのコンタクトポイントは大変多く、消費財の場合には広告、店頭、購買、使用、廃棄といった場面のすべてにパッケージが登場します。メディアが多様化し、様々なコンタクトポイントが存在する今、パッケージを中心にコミュニケーション全体を再構築することは有効な戦略です。また、ブランドのコミュニケーションは企業から消費者への一方的なものではなく、SNSを利用して消費者同士で商品のことを話題にすることによっても、ブランドイメージが形成されていきます。消費者間でどのように自社の商品やブランドが広まっているかも見ながら、全体として統合化されたコミュニケーションを構築していくことが求められています。

15世界共通デザインかローカライズデザインか世界共通デザインは最強デザイン競争がグローバルになるにつれて問題になってくるのが、世界共通のパッケージデザインでいくべきか、ローカルに合わせたデザイン展開をしていくべきかという判断です。世界共通デザインのメリットには、ローカライズの手間が省ける、コスト(デザイン制作・在庫調整など)がかからない、共通の広告素材を使える、一貫したブランドイメージをつくれるといったことがあります。ローカライズの場合にはコストがかかりますが、現地の消費者に受け入れられやすいというメリットがあります。また、現地で働くスタッフのやりがいにもつながります。その商品が自社のオリジナルである場合は、世界共通デザインでいくことができます。オリジナルとはつまり、今までそういった商品がその国になかったということです。ないのですから、ローカライズのしようがありません。「コカ・コーラ」などはもともと各国にそういった商品がありませんでしたから、米国のデザインが世界基準になっています。日本企業の商品では「ヤクルト」や「キッコーマンの醤油」などがあります。ただ、パッケージデザインは商品の中身や生産方式などと比べて、低コストでローカライズできるために、何らかの形で現地のマーケットに合わせる工夫をしている場合が多いようです。また、嗜好品ではオリジナルデザインが受け入れられるカテゴリーも存在します。化粧品、タバコ、アルコール飲料などは消費者の関与度が高く、オリジナルデザインの価値が認められるために、ローカライズが必要ないケースもあります。ワインなどは代表例でしょう。逆に、ネーミングや色が明らかにその国で受け入れられないようなケースでは、ローカライズが必須になります。「カルピス」はカウピス(牛の尿)と聞こえてしまうので、英語圏では「カルピコ」として販売しています。宗教上の問題で使用が禁止されている原料や、それにまつわる表示が必要な場合もあります。

16ローカライズの際のポイント言語レベルビジュアルレベル意味レベル現地適合化に向けたローカライズには、いくつかの段階があります。その段階を意識してデザインすることが大切です。最も基本的なレベルは言語レベルです。言語を現地の言葉にすることによって商品理解を促進するものです。言葉には商品名、キャッチコピー、商品特徴など表面に入る情報の他、原材料や製法などの一括表示などがあります。商品名は各国で意図したブランドのイメージや特徴が伝わるか、別の特定の意味を持たないかなどを考慮して変更する場合もあります。キャッチコピーや商品特徴の伝え方に関しては、現地の生活スタイルに合わせたりニュアンスが伝わるように、現地の人と相談しながら丁寧につくっていく必要があります。ビジュアルレベルでは、シズル写真やキャラクター、ベースカラーなどを変更します。写真は現地の生活に合ったものを検討したり、ベースカラーはその国のカテゴリーごとのトーン&マナーに合わせるなどの調整をします。意味レベルは、商品のコンセプトやポジションそのものを変えていくローカライズです。「カップヌードル」が米国に進出したときに、麺ではなく、具だくさんのスープとポジショニングしたように、その商品がその国でどのような存在になり得るのかといった意味までさかのぼってローカライズするパターンを指します。その国の消費者や競合情報を分析し、その国の消費者にとってどのような商品として位置づけることが最も消費を押し上げるかを問うことは、実はとても大切なプロセスです。とはいえ、その市場の責任者がどこまで自由にデザインしていいのかは実務的にはとても重要です。少なくとも同じブランドで展開するのであれば、そのブランドのブランドプロミスやパーソナリティーなど基礎となる考え方はしっかりと共有した上で、ある程度のデザインルールを設けることが必要でしょう。最終デザインはデザインをグローバルで統括している本社部門が確認するというパターンもあります。ローカライズをどのレベルで行うのかを決定し、ルールや決定プロセスを柔軟に設け、各市場で受け入れられる強いブランドをつくっていくデザインマネジメントが求められます。

17グローバル企業のデザインマネジメント複合的で段階的なマネジメント企業がグローバルに事業を展開する際の基本的な考え方は、現地に適合化する戦略か、同じ商品として世界標準かという議論が続いていました。しかし、それぞれにメリットとデメリットがあり、実際にはこの2つの戦略を、環境に合わせて複合的に使うパターンが多いと思います。パッケージデザインも基本的には戦略に従いますので、各企業の戦略に従う形で組織や制作チーム、意思決定のプロセスを考えていくべきです。マネジメントの一例としては主力商品と地域限定商品、もしくは期間限定商品でデザインの自由度を分けるやり方があります。主力商品は世界共通デザインを使用し、自由度をかなり制限します。一方で地域限定、期間限定などローカル色が強い商品は、ある程度現地のデザインチームに裁量を与えます。このマネジメント手法で重要なのが、デザインマニュアル、ブランドマネジメント、ローカライズ手法の開発の3点です。通常、世界標準化戦略としてパッケージデザインをマネジメントする場合には、明確な取り決めを記載したデザインマニュアルを作り、そのマニュアルに沿ってデザインをしていきます。デザインマニュアルは一度作ったら終わりではなく、主力商品の定期的なリニューアルのたびにブラッシュアップします。デザインマニュアルの前半部分を構成するのがブランドマネジメントに関わる記載です。文化の異なる様々な国のスタッフに、自社ブランドの歴史や思い、プロミス、パーソナリティーなどをしっかりと共有させる必要があります。その上で、デザイン実務上の決まりごとを記載します。ただ、こういったパターンは組織が発展していく中の1つのマネジメント形態であり、常に最適化を目指して変化しています。組織が発展し、戦略に自由度が生まれるためには、現地スタッフの充実、競争優位性、現地生産化の3つの軸が広がり、適合化と世界標準化の両方を複合的に組み合わせられる環境が欠かせません。現地スタッフの育成が進めば、デザイン制作を含め、マーケティングディレクションを現地でできるようになります。商品に優位性があればオリジナルデザインをそのまま使うこともできますし、ローカライズを選択することもできます。現地で生産できれば、期間限定商品などを利用してローカライズを進めやすくなるでしょう。こういった現地企業の置かれた状況に合わせてマネジメントの方法を進化させていくことが求められます。

01ブランド戦略とパッケージデザインパッケージデザインにはブランド要素が集約されているブランドとは、顧客の頭の中に存在するものであり、味や使い勝手、売る人やサービスをしてくれる人の服装や笑顔、CM、ポスター、WEBサイト、顧客同士の印象など、様々なイメージや情報から成り立っています。こういったイメージは、商品の名前やロゴ、スローガン、キャラクターなど、基本的なシンボルに集約されて記憶されていきます。いわばこういった基本的なシンボルが記憶のフックとなって、ブランドのイメージが膨らんでいくのです。強いブランドは顧客に対して、強い絆をつくり続けます。その結果、顧客は、単に安いものを買うのではなく、その企業や商品のブランドを信頼し、長い間愛用してくれるのです。パッケージデザインは、ブランドの基本要素が多数集約された大切なブランド資産と考えられます。実際にパッケージにはネーミング、ロゴ、スローガン、色など、基本的なブランド要素の多くが含まれています。また、パッケージデザインは、接触頻度が高い点でも重要です。その商品を購入した人のうち、その商品の広告を見たことのない人はいても、パッケージデザインを見たことのない人は、いないでしょう。パッケージデザインは、購入時から使用時、廃棄に至るまで、常に購入者の近くにいるブランド要素であり、実際に触れるという点でも、顧客の五感に響く、大切なブランド要素なのです。パッケージデザインは、ブランドの基本シンボルが最も凝縮され、かつ接触頻度の高いブランド要素であり、パッケージデザインをどう扱っていくのかは、ブランドマネジメントという視点においても大変重要な鍵を握っているのです。

02ブランド価値の定義ブランド価値はデザインのぶれない軸になるパッケージデザインをつくっていくときには、ブランド価値が基礎となります。何十年にもわたって、力強さを蓄積しているデザインの根底にはブランド価値の考え方があります。デザインは長期にわたって顧客の意識に蓄積されるという意味で、ブランドそのものと言っていいでしょう。博報堂コンサルティングはこのブランド価値の核となる要素として、ブランドエッセンスとブランドパーソナリティーを挙げています。ブランドエッセンスとは、「このブランドは、顧客に何を約束するのか?」と規定されています。一方、ブランドパーソナリティーは、「このブランドを人に例えるとどのような人格を持つべきか」と規定されています。さらに、ブランドエッセンスは①事実・特徴(製品やサービスの特徴)と②機能的価値(得られる物理的・機能的な効用)の2つから成り立ち、ブランドパーソナリティーは③情緒的価値(感じられる感覚や気分)と④社会・生活価値(生活のスタイルや自己表現)の2つから成るものとしています。これをブランドの価値規定=ブランドサーキットとしていますが、デザイン制作の際には、このブランドサーキットがしっかりと規定されていることが大切です。デザインを制作する過程は、ブランドの価値を表現する「あるべき姿」を具象化していく作業でもあります。人に例えたらどんな人で、どんな雰囲気を醸しだすのか、このブランドから得られる生活スタイルや自己表現、感じられる感覚や気分、こういったブランド価値を可視化していくのがデザインの大切な役割です。何年、何十年とたったとき、同じブランドで様々な商品が展開されたときに、どの商品にもそのブランドらしいデザインが施され、デザイン群がしっかりと同じベクトルを向き、多くの人の記憶に残るブランド資産になっていくためには、ぶれることのないブランド価値をしっかりと定義し、社内で共有しておくことが欠かせません。

03ブランド資産としてのデザイン資産としてのパッケージデザインブランドは資産だという考え方があります。不動産などの資産と同じように、企業に長期的に利益をもたらす源泉であるということです。同じ商品でも、ブランド力があれば高く売ることができます。この高く売ったお金はすなわち、企業に長期的にもたらされる利益となります。パッケージデザインはこのブランドを形成し、顧客との接点になる大切なブランド資産です。ロングセラーブランドのパッケージの多くは顧客の記憶と深く結びついて、信頼され、選ばれる橋渡しをしています。このブランド資産が何からできているのかを整理し、長期にわたって企業に利益をもたらすように強化していこうというのが、ブランドマネジメントの考え方です。この考え方をパッケージデザインのマネジメントに置き換えると、以下の取り組みを長期的視点を持って継続することが必要です。1.ブランドが具象化されたパッケージデザインを生み出し、同じ内容であっても高いお金を出して選んでもらえる商品を作る2.複数の商品を発売する際にはブランドの方向に沿った商品・デザインを生み出し、ブランドの資産を食いつぶすことがないようにする。商品・デザインを生み出していくことが資産強化につながるようにする3.デザインリニューアルなどを通じて、ユーザーの記憶に残るデザイン資産を強化する例えば「ハーゲンダッツ」はそのパッケージデザインとともに多くの人に愛され、新しい商品の登場を心待ちにしている人が多いブランドです。

04アイデンティティーの育成アイデンティティーの育成に向けてパッケージデザインはブランドの資産であると言いましたが、その中でも特に重要なのが、パッケージデザイン上のアイデンティティーです。パッケージデザイン上のアイデンティティーとは、パッケージデザインのカラーやロゴ、イラストなどの中で消費者の記憶に残り、その商品のブランドイメージや世界観とのつながりを想起させるデザイン要素です。パッケージデザインのマネジメントは、まず消費者の手に取ってもらうことから始まり、記憶に残る独自の記号をつくることです。この独自の記号こそがアイデンティティーであり、ロングセラー商品の多くはこのアイデンティティーを持っています。アイデンティティーをつくる上で大切なことは、パッケージのデザイン要素の中のどこをアイデンティティーとして大切にしていくのかという「物語」です。例えば「カルピス」のパッケージにデザインされている水玉は、カルピスブランドの強力なアイデンティティーとなっていますが、あの水玉は天の川をイメージしたものです。ギリシャ神話では、女神の母乳がこぼれおちたのが天の川です。そして日本では夏の七夕の物語があります。水玉はまさに夏のカルピスにぴったりの物語を背景に持っています。「ポカリスエット」のロゴに書かれた波は、水とポカリスエットの体への浸透スピードの違いを表しています。このように物語がしっかり反映されたアイデンティティーは、長く大切にされる傾向があります。デザインを手掛ける先輩から物語とアイデンティティーを聞かされた後輩は、自分が先輩になったときに後輩にその物語を引き継ぎ、担当者が変わっても、大事なアイデンティティーを簡単に変えてはいけないという意識が共有されていくのではないでしょうか。リニューアルに当たっては少しずつデザイン要素をそぎ落とし、特定のアイデンティティーに集中させながらデザインをシンプルにしていくという方法や、コミュニケーション活動全体の中で常にアイデンティティーを登場させることで強化していくという方法があります。

05ブランドを強くするリニューアル時代に合わせて、よりシンプルにしていくパッケージデザインは定期的にリニューアルを繰り返していきます。早いものでは発売と同時並行で次のシーズンのリニューアルの準備を始めるものもありますが、平均して1~3年くらいを目途にリニューアルするケースが多いようです。リニューアルの目的の一つは、商品の鮮度を保つことです。シーズンごとに多くの新商品が出てくるので、新たに登場した商品と比べて古い印象にならないようにリニューアルを繰り返し、ブランドのポジションを維持します。また、リニューアルの効果は消費者だけでなく、商品を取り扱う小売店へのアピールにもなります。ロングセラー商品にもしっかりとマーケティング投資を行い、育成しているという企業姿勢を示すことになるからです。マーケターには、リニューアルを繰り返してブランドを強くしていくことが求められます。そのために必要なのはアイデンティティーとなるデザイン要素を主役にして、デザインをよりシンプルにする方向に改善していくことです。時代に合わせて色味やフォント、キャラクターの表情などを少しずつ調整していきます。ブランドプロミスやパーソナリティーという核となる価値は変わることがなくても、デザイン表現は時代に合わせて変化させていく必要があります。「ポッキー」は発売以来、定期的にデザインを進化させていますが、どんどんシンプルになってきています。また「マールボロ」は白と赤で作る三角形にブランド資産を集中させるために、ロゴのカラーを消しました。このようにリニューアルを起点にデザインを的確にマネジメントすれば、ブランドを強くできます。逆に、リニューアルごとに全く新しいデザインをつくるケースもありますが、この方法はデザインの新鮮さや話題にはなるかもしれませんが、ブランドを強くするという視点では難しいと思います。

06ブランドのリポジショニング大幅なデザイン変更のリスクとリターンパッケージデザインの変更は、ブランドの世界観を損ねることなく時代に合わせ、段階的にシンプルにして独自の記号にしていくというのが定石です。過大なリスクを取ることなくブランドの鮮度を保ち、強化していくことができます。一方、場合によっては大きなデザイン変更を迫られるときもあります。競争環境が激化し、自社のブランドポジションを失うような場合です。同じような商品が競合から発売され、競争環境が厳しくなることによって、従来オリジナリティーの高い存在だったブランドの独自性が薄まり、市場で負け始めてしまうような場合です。このようなときはポジショニングそのものを見直し、新たなブランドポジション獲得に向けた1歩を踏み出さなければならないでしょう。当然リスクもありますが、慎重にポジショニングを再検討し、マーケティング活動を進めることで、再び輝き始めたブランドも存在します。この場合、ポジションが変わるのですから、パッケージデザインもそれに応じて大きく変更する必要があります。消費者が見ても、「あっ、変わったな」と思ってもらう必要があるのです。例えば、キリンビバレッジの「生茶」は長年親しまれてきたブランドですが、ここ数年は資本力のある競合メーカーや小売店のプライベートブランド商品の人気が出てきており、カテゴリー内で4位というブランドポジションになり、ブランドの存在そのものが危ぶまれる状況になっていました。そこで、「食べるほど濃いお茶」というリポジショニングを狙いました。その結果、パッケージは従来の春を思わせる爽やかな色合いから濃い緑に変わり、明らかに商品が変わったことを伝え、見事にブランドに輝きが戻りました。東ハトは自社の基幹商品である「キャラメルコーン」に大胆にキャラクターをあしらい、商品そのものを擬人化することによって大きな話題を呼び、大成功しました。これは東ハトが企業として新しいチャレンジに踏み出すタイミングで行われ、消費者だけでなく小売店や株主に対しても新しい挑戦と成長の可能性を伝えるのに役立ちました。ブランドのリポジショニングにはリスクが伴いますが、綿密なマーケティング戦略に基づいたリポジショニングは大きな成功の可能性も秘めています。デザインはその成功をバックアップする大切な要素となります。

07ブランドの拡張縦と横に正しく展開するあるブランドの商品が売れてくるとバリエーションやサイズ違い、価格帯の高いプレミアムバージョンや価格の安いバリュータイプなど、様々な商品が登場します。商品が売れて、ブランドが縦と横に広がっていくことはうれしいことです。ここでは価格帯の違いによるバリエーションは縦、価格以外の違いでラインアップが増えていくことを横の展開と呼ぶことにします。このブランド展開とパッケージの関係性において、大切なのはブランド体系をきちんと反映したデザインをつくることです。ブランド体系とは、ブランドの縦と横の展開を整理したものです。縦と横の意味をしっかりと整理し、商品の広がりをブランドの方向性や世界観としっかり関連づけることで、ブランドの広がりとパワーを強化していくことができます。逆にこれができていないと、ブランドを様々な商品、カテゴリーに無秩序に付与して商品化していき、その結果、ブランドの本質が分からなくなり、本来の主力商品の競争力さえ弱まるという事態もあり得ます。消費者から見ると、バラバラでよく分からないブランドになっていきます。ブランドマネジャーやデザイン部門の責任者は、ブランドの体系に合ったデザイン戦略をコントロールする必要があるのです。例えば、「このブランドではこのカテゴリーは発売しない」といった意思決定もとても大切です。こういった判断を現場ができるように、ブランドの価値定義を明確にし、社内で共有しておきたいものです。ブランドマニュアルやデザインルールを決めるという方法もありますが、ブランド体系が変わるときなどは、もう一度デザインルールやブランドブックを見直して進化させることが必要です。また、誰がデザインの最終的な決定者かという意思決定プロセスも重要です。ブランド体系とデザインが上手に整理されている例として、イオンの「トップバリュ」があります。縦・横のブランド体系とデザインの在り方がきちんと整理されています。

08ブランド要素選択の際、重要なことブランド要素選択に重要な5つの基準ブランド要素にはキャラクターやブランドネーム、ジングル、ロゴ、スローガンなど様々ありますが、パッケージデザインはそういったブランド要素を豊富に含んでいます。新商品の場合、ネーミングやロゴ、イラスト、キャラクターといったブランド要素をパッケージデザイン開発時に同時に制作していくことが多いと思います。ブランド研究者のケビン・レーン・ケラーは『戦略的ブランド・マネジメント』という書籍の中で、ブランド要素を選択したり、デザインしたりするに当たって参考になる5つの基準を明示しています。1.記憶可能性──再認されやすく、再生されやすいこと2.意味性──視覚的なイメージにおいても言語的なイメージにおいても、楽しく、興味深く、豊かであると同時に、信頼性があり、示唆に富んでいること3.移転可能性──製品カテゴリーにかかわらず、あるいは地理的境界や文化を超えて利用できること4.適合可能性──柔軟性に富み、容易に最新化できること5.防御可能性──法的に安全で、競争上巧みに防御できること平易な言葉で言い換えると、は「覚えやすくイメージが適切である」「ブランドエクステンションがしやすい」「世界中で使え、様々なサイズ・形状にフィットする」「リニューアルしやすい」「商標、意匠登録ができる」といったところでしょうか。例えば、長過ぎて覚えられない名前や、特定の国で特別の隠語的な意味を持ってしまう言語や記号などは用いるべきではありません。また、縦長の箱にはぴったりくるデザインでも、横にしたり、袋に入れたりしたときにデザインが展開しにくいといった場合もあります。このすべてを満たすことが必ず必要というわけではありませんが、1つの基準としてブランド要素を選択する上で参考になります。

01イノベーションとパッケージデザインイノベーションの立役者としてのパッケージデザイン特定の商品やサービスが浸透し、人々の生活を大きく変えることをイノベーションといいます。イノベーションの成功は企業に大きな成長と利益をもたらします。歴史を振り返れば蒸気機関やエジソンの白熱電球、パソコンやインターネット、スマートフォンなどは人々の生活や文化を大きく進化させました。ここまで大きなイノベーションを起こすことはまれだとしても、多くの企業は従来にない新しい市場創造に向けて努力を続けています。パッケージデザインとイノベーションを考えると、人々の生活に密着しているパッケージデザインにはチャンスが多くあります。大きく3つの視点があると考えられます。1つ目は最新技術をパッケージデザインに取り込むことによるイノベーションです。パッケージに関連する技術には人々の生活を大きく変える可能性があります。例えば日本が強い国際競争力を有する素材分野では、環境にやさしい素材開発が進んでいます。こういった素材をいち早く取り入れ、人々の生活を変えていくことはパッケージデザインに課せられた使命でもあります。他にもAI(人工知能)の活用に可能性を感じますし、各種センサーの小型化やペーパー化などが進むにしたがって、IoTがパッケージに取り入れられていく可能性があります。2つ目の視点はイノベーションへのアイデアを可視化していくというデザインの役割です。デザイン思考やデザイン・ドリブン・イノベーションといった考え方に代表されるように、イノベーションを起こそうとする商品やサービスの開発では、開発の早い段階でいったんアイデアをデザインにして可視化することが求められます。可視化することで開発チームの目標が明確になったり、ターゲットのニーズをより深く理解できたりします。特にイノベーションを狙うような新規性の高いアイデアは、形にしてみないと開発チームが何をしたいのか、何をしていくべきかが分かりにくい場合が多いのです。従来はマーケティングプランやコンセプトが用意されて、そこからデザインがスタートしていましたが、今はコンセプトをつくるためにデザインを活用するという役割が求められています。3つ目はユーザーの使い方からイノベーションを狙うという方法です。消費者の商品の使い方を丁寧に分析することにより、新しい使い方や商品開発のヒントを掘り下げていきます。

02新素材とパッケージデザイン素材技術は人の生活をゆっくり大きく変えていく紙、金属、プラスチックなどパッケージを構成する素材は、これまで大きなイノベーションを何度も起こしてきました。中身の保存期間を大幅に長期化し、輸送を効率的にし、人々の生活を大きく変えました。缶詰の発明は数年を超える長期保存を可能にし、プラスチックはフィルムやパウチなど様々な形態が用意され、人々の生活を豊かにしています。ペットボトルの登場は飲料を購入し、消費するという意味を大きく変えました。缶ジュースが主流だった頃、飲料を買うという行為はそもそもハレの日の行為に近く、ふたを開けたら飲み切るという飲用シーンがメインでした。ところがペットボトルが浸透してきたことで、飲みかけの飲料にふたをするという行為が生まれ、飲み切る必要がなくなりました。その結果、常温でもおいしく飲めるお茶や水、ニアウオーターのような市場が出来上がっていきます。飲料は遠足やお出かけの日に購入するものから、毎日購入する日常のモノに変わりました。この変化は40~50年くらいかけて起きた話なので、若い方にはピンとこないかもしれませんが、本当のイノベーションは数十年かけて人々の生活を変えていき、多くの人々はその変化に気づかずに受容しているというものかもしれません。私は1990年に大学に入りました。新設の学部で、これからは世界中がネットワークでつながるコンピューターの時代だと教わりましたが、企業に就職してもパソコンもメールもなく、実際にインターネットが大きく人の生活を変えるのには30年ほどかかりました。新しい素材をパッケージに導入する際には、その新しい容器が生み出すベネフィットや生活を継続的に意識することと同時に、全体のシステムやサイクルを考えることも欠かせません。エジソンは白熱電球を発明したときに、中央発電所と送電の仕組みを考えました。ペットボトルはパッケージへの採用と同時に、リサイクルの仕組みも考えられました。今、人々の生活を便利にしてきたプラスチックが、環境問題により大きな変革を迫られています。新しい素材の技術や仕組みを積極的に取り込み、パッケージからイノベーションを起こしていくべき重要なタイミングに、私たちはいると感じます。

03IoTが変えるパッケージデザインセンサー、バッテリーの小型化がパッケージデザインを変えるIoTとは「InternetofThings」のことで、あらゆる商品やサービスがインターネットにつながることを表現しています。実際多くの商品がインターネットにつながることで新しいサービスを生み出しています。例えば、ブルドーザーやショベルカーを作っているコマツは世界中の建設機械の稼働状況をインターネットを通じて把握し、先回りしてメンテナンスしたり、買い替えを促したりと、サービス品質の向上とマーケティング施策に生かしています。こういった流れは住宅や自動車など様々な分野で広がっています。IoTの技術はセンサーで商品の動きをデータ化し、そのデータをWiFiやBluetoothでネットワークに飛ばすといった複合的なもので成り立っています。センサーやバッテリーの小型化によって、IoTが今後パッケージに搭載され、商品開発やマーケティング施策に生かせる可能性があります。例えば、化粧品メーカーが、家庭での化粧水の使用量をIoTで把握できるようになったとしましょう。同じ家族構成なのに、極端に使用量が多い家庭が一定数あることが分かり、調べたところ、それらの家庭は母親だけでなく家族みんなで使っていたことが明らかになりました。早速、マーケティング担当者は「化粧水を家族で使おう」というキャンペーンを始めます。IoTで使用状況が分かるようになると、こういったことができるのです。他にも、ビールの在庫がなくなったらカートンが検知して自動発注してくれたり、上手なお化粧の仕方をパッケージが教えてくれたりするかもしれません。

04AIが変えるパッケージデザインパッケージデザインの評価・生成・使い方をAIが変えていくAIとは人工知能のことで、特にこの数年は脳神経の動きをヒントにしたディープニューラルネットワークがビジネスの現場でも利用されるようになってきました。入力と出力の間に層をいくつも設け、情報を集約していくことでプログラムが画像を認識したり、判断したりすることを可能にします。有名なものにコンピューターに画像を与えて「犬か猫か」を判断させる犬猫問題があります。犬と猫の画像をコンピューターに学習させることで、それぞれの特徴を探し当て、犬か猫かを当てるというプログラムです。こういった方法は、レントゲン写真やMRIから病気を見つけ出したり、自動運転の技術などにつながったりしています。AI技術は今後、パッケージデザインにも大きな影響を与えるでしょう。先述のIoTで取得したデータを分析するにはAIの力がとても頼りになります。例えば、ある商品のユーザーの中で特殊な使い方をしている人を見つける場合、膨大なデータの中から異常値を検出していきます。AIは分類したり何かを予測したりすることが得意です。IoTで膨大なデータを処理しようとするとAIの力が必要になってきます。また、消費者のデザインの嗜好を蓄積することでパッケージデザインの消費者評価を予測したり、デザインを要素に分解して、その組み合わせによって何万通りものデザインを生成したりする技術は既に出てきています。芸術家の作風をまねたり、特定のスタイルをAIがつくりだしたりする研究も進んでいます。3Dで作成した車のデザインをワゴンスタイルに変えたり、スポーツカースタイルに変化させたりするAI技術はかなり進んでいるようです。抽象的な表現ですが、蓄積した膨大なデータを使い、より早く目的を達成することをサポートするのがAIです。「AIは信じられるのか」「人間の能力を超えるのか」「人の仕事を奪うのか」などという議論もありますが、AIの基本的な構造を理解し、自分の業務に積極的に取り入れることで、他社に先駆けて次のイノベーションに向けた第一歩を踏み出すことができると思います。

05デザイン思考とパッケージデザイン変わるデザイナーとデザインの役割デザイン思考とはイノベーション実現のための製品開発方法のことで、米国のデザインコンサルティング会社IDEOが提唱しました。IDEOの代表であるティム・ブラウン氏は、デザイン思考について、「人間を中心にしたデザインに基づくイノベーション活動であり、デザイナーでない人に対してデザイナーの道具を手渡し、その道具を幅広い問題解決に応用する」と主張しています。日本でもデザイン思考はイノベーションを可能にするためのビジネスの1つの方法とする考え方が紹介され、その理解と活用が拡大してきています。このデザイン思考は企業の開発プロセスに新しい視点を導入してきました。デザイン思考のポイントは「人間中心思考」「チーム(様々な経験を持つ人の集まり)による共創」「非線形プロセス」の3つです。インプットとしての観察、アイデアづくりのためのワークショップ、アイデアを可視化するアウトプットとしてのプロトタイピングという3つのステップで主に構築されており、これらの3つのステップを行ったり来たりしながら開発を進めるといった特徴があります。従来の開発プロセスは、決められたステップを1つひとつクリアして直線的に進むステージゲート型でしたが、デザイン思考の面白いところは、開発途中で発見したことを開発の前段階までさかのぼってもう一度考えて、より良い商品を作っていこうとする点です。デザイン思考はパッケージとも密接に関わっています。1つは主に容器開発に適しているという点です。観察とアイデアワークショップ、プロトタイピングを繰り返していくことで、今までにない新しい容器の開発がしやすくなります。もう1つは商品開発におけるパッケージデザインの役割です。従来は商品コンセプトが固まり、オリエンシートができてから制作に取り掛かりましたが、今は「コンセプトをつくるためにパッケージデザインをつくる」という役割が重視されています。デザイナーもデザインも、役割が変わりつつあります。

06デザイン思考の進め方観察、ワークショップ、プロトタイプを繰り返す前ページの図で紹介したように、デザイン思考の基本的な3つの考え方は「人間中心思考」「チームによる共創」「非線形プロセス」です。そしてこの3つの考え方を基にして具体的な進め方として、「観察」「ワークショップ」「プロトタイピング」を繰り返していきます。容器開発もしくはパッケージが登場する商品開発を念頭に、デザイン思考の進め方をご紹介したいと思います。観察においては、テーマ設定がとても重要です。どんな場面を見にいくのかで発見できることの質や量が異なります。ピンポイントで特定の商品の使い方をテーマにするより、テーマをやや広げると発見が多くなります。例えば「洗剤の使い方」と「洗濯の一連の行為」とでは、後者のほうが時間はかかりますが発見は多くなるでしょう。全体を見ることで、使用者の目的やその商品・行為の文脈を理解することができるからです。観察の際には、「違和感」を大切にしましょう。「なぜ、こんなに不便そうなのか」「なぜ、こんなに何回も繰り返すのだろう」といった違和感をひも解いていくと、発見があることが多いのです。使用している人はそれが当たり前だと思っているので、不便だとは言いません。そこにチャンスがあります。発見を持ち寄ってアイデアをつくっていくワークショップは、「私たちは何を発見したのか」という情報を整理して、解決すべき課題を絞り込んでいく時間と、絞り込んだ課題を「どう解決していくのか」を考える時間に分けます。発見したことを整理していくフェーズでは、観察に行けなかった人にも情報がきちんとインプットされるように、情報共有の時間をつくりましょう。撮ってきた写真や動画、インタビューの内容などの1次情報をしっかりメンバーで共有することで、内容の濃いワークショップを行うことができます。プロトタイピングでは、あまり作り込む必要はありません。アイデアを分かりやすく共有することが目的ですから、そのアイデアの核となることが伝わるレベルで十分です。そしてプロトタイプができたら、それを開発チームで共有し、想定するユーザーに使ってもらい、また発見を繰り返していきます。繰り返していくことで、商品のアイデアやコンセプトが昇華されていくのがデザイン思考の特徴です。

07プロトタイプとしてのパッケージデザインなぜプロトタイプを作るのかデザイン思考のキーワードとしてよく登場するプロトタイピングですが、従来の試作との違いは、制作するタイミングと完成度です。従来の試作は商品のコンセプトが出来上がって、開発の後半で行うことが多かったのですが、デザイン思考では出てきたアイデアをいったん見える形にします。完成度は低くてもよく、開発の早い段階で行うのがプロトタイピングです。プロトタイピングは「手で思考する」、あるいは「BuildtoThink=作りながら考える」といわれている通り、コンセプトを練り上げていくための1つの手段です。ここが製品の完成段階をチェックする目的で作られる従来の試作品との違いです。プロトタイプが存在することのメリットはいくつかありますが、1つ目は開発チームが何をゴールにしているのかが明確になる点です。開発チームが共有するゴールはプロトタイプによって初めて可視化され、その結果それぞれが持つゴールイメージの差が明らかになります。2つ目は、想定するターゲットにプロトタイプを見てもらい、使ってもらうことで改善点をたくさん発見できます。文章でコンセプトを評価してもらうのとプロトタイプで評価してもらうのでは、ターゲットからのフィードバックの質と量に大きな差が出ます。その結果として、早い段階で何をすべきか、何をすべきでないのかという開発に必要な情報、優先順位を手に入れることができるのです。このことをデザイン思考の提言者でもあるIDEOのトム・ケリー氏は「早く、たくさん失敗する」と表現し、その重要さを説いています。この前進こそがアイデアを昇華させ、新しい魅力的な商品を完成させていく大切なプロセスとなります。デザイン・イノベーション・ファーム、Takramの田川欣哉氏は、プロトタイピングには「創造のためのプロトタイピング」「改善のためのプロトタイピング」「コミュニケーションのためのプロトタイピング」の3つがあるとしています。目的によってプロトタイプの完成度や注力すべき点が違うので、注意してください。

08ユーザーイノベーションイノベーションのヒントはユーザーにありイノベーションとパッケージの関係を考えるに当たって、素材やAI(人工知能)をはじめとする技術的視点と、ユーザーに寄り添いアイデアを素早く形にするデザイン思考のアプローチをご紹介してきました。ここでは、ユーザーイノベーションという考え方をご紹介したいと思います。これは名前の通り、ユーザーの使い方の中にイノベーションのヒントがあるという考え方です。イノベーションというと、通常、作り手やサービスを提供する企業側による市場への働きかけのように感じますが、マサチューセッツ工科大学のエリック・フォン・ヒッペル教授は、使い手であるユーザーが商品やサービスを使っていく過程でイノベーションが発生すると主張します。実際にヘビーユーザーと呼ばれる人の中には、自分流に商品の使い方や商品そのものをアレンジしている例があります。そういったアレンジの中にイノベーションのヒントが隠されていることがあるのです。代表なものに自転車があります。自転車愛好家の間で一時期、オートバイのタイヤに付け替えて遊ぶという使い方が見られました。自転車のフレームを強化して、わざわざ重いバイクのタイヤに付け替えるのです。なぜかというと、頑丈にした自転車で森や林、山で遊ぶためです。ユーザーは自分なりのアレンジを施して自転車の楽しさを引き出していました。このユーザーの使い方から商品化したのがマウンテンバイクです。マウンテンバイクは今や自転車の中の代表的な商品になりました。こういったユーザーイノベーションの事例は、パッケージでは特に大切です。毎日多くのユーザーが使うパッケージには、メーカーが考えつかないような様々な使い方があったり、改造がされていたりすると考えられます。そこにイノベーションの大きなヒントがあるのです。P&Gや花王といった卓越したマーケティング力のある会社は、自社の商品がどのように使われているのかについて、熱心に研究しているといいます。パッケージの代表的な例でいえば、「サランラップ」でしょう。サランラップはもともと弾丸を湿気から守るために軍で使われていたラップでした。それをある母親がピクニックにレタスを持っていくために使いました。これがきっかけで生まれたサランラップは、家庭用品として大きな市場を開拓しました。ちなみにサランラップはこのレタス用にラップを最初に使ったサラさんとアンさんの2人の名前から命名されています。

09デザインドリブンイノベーションイノベーションはデザインがリードする最後にもう1つ、デザインドリブンイノベーションという考え方をご紹介したいと思います。この考え方はミラノ工科大学のロベルト・ベルガンティ教授が提供したもので、名前の通りデザインがイノベーションをリードしていくという考え方です。例えば「スターバックス」は従来のコーヒーショップにはない、オフィスでも家でもない第3のくつろぎの場所を提供しました。しかし、このコンセプトは、形になって初めて理解されます。デザインにはアイデアやコンセプトを形にすることで、顧客自身が気づいていなかったニーズや欲求を引き出す力があります。この力を活用してイノベーションを起こしていくのがデザインドリブンイノベーションです。洋服に合わせて着替える時計があったらどうだろうと問いかけられても、人々は想像することができません。「スウォッチ」というさまざまなバリエーションでデザインがされた時計を見せられて、そのアイデアや商品の素晴らしさに初めて気づき、「欲しい!」と思うのです。もう1つ、デザインドリブンイノベーションで大切なメッセージは、デザインは商品に「意味」を与える力を持っているという点です。意味の革新で商品は新しい価値を持つことになります。例えば、ろうそくはもともと暗い場所を明るくするものでしたが、電球やLEDの登場で、利便性でいえばその存在価値をなくしてしまいます。しかし、ろうそくはその明かりで人々の心を癒やすものとしての側面があり、ろうそくに香りを加えた商品は大ヒットしたといいます。つまり、ろうそくは暗闇を明るくするものから、人々の心を癒やすものとして意味を獲得したのです。パッケージで言えば、「キットカット」がそうでしょう。手軽に食べられるチョコレートから、「きっと勝つ」を語呂合わせにした受験のお守りという意味に変えることで、日本一売れるチョコレートになりました。デザイン思考もデザインドリブンイノベーションも、イノベーションにおいてデザインが重要だという視点は共通しています。

01競争優位性としてのデザイン自社にとってのデザインの価値を明確にすることから1970年代から軍事的用語の「戦略」という言葉が経営でも使われ始め、どうしたら安定して競争に勝てるのかという考え方が議論されるようになってきました。「競争優位性」とは、簡単にはまねできない、中長期にわたって競争に勝つための仕組みをいいます。競争に勝つには、市場価値が高い技術を持つ従業員が1つになって、顧客に素晴らしいサービスを提供するなど色々な方法がありますが、デザインもそのうちの1つです。市場が成熟するにつれて、企業は圧倒的な差のある商品やサービスを開発することが困難になってきました。そうなると、機能面ではなく情緒的なデザイン面での差異化が必要になってきます。デザインの重要性が高まるにつれ、どのようにして「他社よりも質の高いデザインを世に出せる会社になるか」が問われてきます。売れるデザインをつくれる会社になるにはどうしたらいいのでしょうか。それがこの章のテーマです。有名なデザイナーに高いお金を払って発注するだけでは、売れるデザインをつくれる会社にはなれません。「デザインとはどのような価値を顧客に届けるものか」という明確な目標があり、そのために「どのようなデザインを良いデザインとするのか」「それをどのように判断するのか」「社内の組織をどうつくり、人材を教育し、デザイナーとの継続的な関係性をどのように構築していくのか」といった仕組みをつくっていくことが必要です。会社によって競争優位性のパターンは色々あります。必ずしも社内にデザイナーがいる必要はありません。しかし、自社と顧客にとっての良いデザインの価値観を明確に持ち、その仕組みづくりをするというフレーム自体は変わりません。例えばデザイン力のある会社として無印良品と小林製薬があります。無印良品は「空っぽ(エンプティネス)」という日本の美に通ずるデザインのゴールを明確に持っています。小林製薬は「“あったらいいな”をカタチにする」というスローガンの下、商品の効能をとにかく分かりやすく伝えています。まずはこういったデザインの目標を持つことが大切です。

02デザイン経営とパッケージデザインデザインができる3つのこと2018年に経済産業省と特許庁が発信した「『デザイン経営』宣言」は、デザインを経営に取り入れて競争力を高めていこうとする考え方です。「『デザイン経営』は、ブランドとイノベーションを通じて、企業の産業競争力の向上に寄与する。」と書かれている宣言書には、ブランド構築に資するデザインとイノベーションに資するデザインの2つが描かれており、デザインを活用していくことでブランド構築とイノベーションを促進していきましょうと提案しています。世界で躍進している企業がデザインを競争力の源泉として活用していることを見ると、日本企業が競争力をつけるのにデザインを活用していこうというメッセージを国が投げかけるのは、とても大切なことだと思います。一方で、デザイン経営をパッケージデザインの制作や活用で考えたときにはどのように整理していったらいいでしょうか。確かにデザインはブランドを構築する中心的な要素です。いったん形にしてみるというデザイン思考やデザインドリブンイノベーションの考え方にも見られるように、デザインはイノベーションをリードするツールでもあります。しかし、実務的な視点で見ると、やはり商品のコンセプトや魅力を伝える情報伝達力と審美性によって、商品を売るという基本が大事だという気がします。コンセプト伝達、ブランド構築、イノベーションの3つのフレームでパッケージデザインを考えてみると、とても整理がしやすくなります。それぞれにおいて、業務の流れや組織、ミッション、意思決定、内部化・外部化といった仕組みをつくり上げていくことで、デザインを経営に活用できる組織に近づいていきます。例えばコンセプト伝達であれば、売れるデザインをどうつくるかという、まさに本書のテーマになります。ブランド構築であれば、ブランドエクステンションやリニューアルを繰り返しながら、ブランド資産をいかに蓄積し、高めていくかがゴールになります。イノベーションであれば、開発の初期段階でプロトタイプとしてのパッケージデザインをいかにしてみんなが活用するかといったテーマが重要になります。

03デザインを取り巻く環境の変化環境の変化は大きなチャンスデザイン経営というキーワードが注目され、デザインは経営の大事な資源だという認識が広がっています。デザインという資源を上手に使い、目標を設定し、仕組みをつくっていくことで、他社が簡単にはまねのできないデザイン力のある会社に成長していきます。この目標・仕組みづくりに大きな影響を与えるのが環境の変化です。これからの10年、パッケージデザインを大きく変えていくのはデジタル化と環境問題の2つでしょう。スマホとIoTにより、人々の生活や、商品が提供できる価値が大きく変わりつつあります。企業は活動そのものをデジタル化するDX(デジタルトランスフォーメーション)に向けて仕事の流れを大きく変えようとしています。この動きがパッケージデザインのつくり方や在り方に大きな影響を与えることは間違いありません。パッケージデザインにセンサーが付くようになり、購入、使用、廃棄に至る大量のビッグデータを取得できるようになったとしたら、企業はそのデータをどのようにマーケティング活動に生かしていくのでしょうか。AI(人工知能)がデザインを評価・生成できるようになったら、どのようにデザインの開発に生かしていくのでしょうか。QRコードをはじめとしてパッケージデザインとつながるデジタルコンテンツを商品の価値としてどう取り込んでいくべきでしょうか。もう1つはSDGs(持続可能な開発目標)としての環境問題があります。特にパッケージは大量の資源を使うため、環境への配慮が求められています。自社の競争優位性としてどのように環境に配慮したパッケージを商品化していくか。業界としてのエコシステムの確立。日本が国際的競争力を誇る素材の開発力をどう自社の商品に生かすのか。今進行している大きな環境の変化は、チャンスでもあるのです。大切なのは先に実行することです。日本企業は市場が成長していたときの名残でしょうか、挑戦スピードが遅いと感じることがあります。競争上、先にアクションを起こしたときの利益は先行者利益として大きな成功につながります。ぜひ環境の変化を機会と捉え、新しい価値の実現に積極的に挑戦していただきたいと思います。

04デザインマネジメント体制目標と組織設計・運用ルールを明確にするパッケージデザインのマネジメントにおいては、目標を明確にし、その目標に沿った組織設計と運用ルールをつくることが重要です。「あなたの企業にとって、デザインはコストですか?マーケティングツールですか?資産ですか?競争優位の源泉ですか?」経営者がこの問いに明確に答えることができるのであれば、デザインマネジメントの組織設計と運用ルールが決まります。「パッケージデザインは、マーケティングツールである」と考えているなら、スムースな開発、一貫したコミュニケーションができるような組織設計や組織の目標を設定できます。逆に「デザインはコストである」と定義している場合には、最も早く、間違いのない正確なデザインを効率的につくり上げる組織設計をすることになります。競争優位の源泉にしたいのであれば、自社内で優秀なデザイナーを育てたり、優秀なデザイナーに「この企業と一緒に仕事をしたい」と思わせたりする会社にしなければなりません。このように、パッケージデザインが自社にとってどういう位置づけにあるのかを経営者が明確にすることが、デザインマネジメントの出発点になります。この位置づけが明確でなかったり、目標と組織の設計・運用ルールが合っていなかったりするために、デザインマネジメントがうまくいっていないケースが見られます。組織設計は、後述(P.244)パッケージデザイン組織に求められる5つの機能(スタッフィング機能、パッケージ情報の共有機能、品質管理機能、プロジェクトマネジメント機能、デザイン制作機能)を、どの組織が担い、どこまでを内部化してどこからを外部化するのかを設計します。運用ルールでは、組織の目標に沿った採用(配置)、教育、評価のガイドラインを作成し、ルールを年々進化させていきます。

05デザインで勝つ企業をつくるにはデザインを競争優位の源泉にする2つのパターンデザインを競争優位の源泉にするための方法は色々あります。その1つが、優秀なデザイン人材を集めることです。例えば、資生堂のパッケージデザインはその美しさや完成度の高さが世界的に評価されており、デザインを企業の競争優位性の1つにしている企業といえるでしょう。資生堂のデザイン部門は歴史があり、会社が部署の存在を長きにわたり大切にしてきたと感じます。美大生の就職先として資生堂は憧れの存在です。優秀な人材を引き付ける力は、資生堂デザインの源泉になっているように思えます。他にもポーラやサントリーなど、美大生に人気の企業は高いデザイン力を維持しています。デザインを大事にする文化が優秀な学生を引き寄せているというパターンです。もう1つ、明確でぶれないデザインポリシーを持つことも、デザインで抜きんでる企業をつくる有効な方法です。小林製薬は、日常生活に役立つ商品を分かりやすく伝えるというパッケージデザインで、一貫したポリシーを貫いています。「トイレその後に」「ナイシトール」「熱さまシート」など、商品名とキャッチコピー、ビジュアルで分かりやすく伝えるデザインパターンを持っています。このパターンを続けることで、消費者も、小林製薬らしいパッケージを受容しています。デザインポリシーでいえばIKEAやポルシェも秀逸なデザインポリシーを体現し続けています。IKEAは北欧の優れたデザイン性はもちろんですが、価格もデザインであるという信念に基づき、できるだけコストをかけずに生産できるようなデザインを徹底しています。そのためIKEAのデザインは無駄のないデザインを生み出し続けています。デザインポリシーは、その国の美の歴史と無関係で存在できないと思います。デザインで勝つ企業の代表といえば、私は無印良品だと思います。その高いデザイン性は世界中で認められ、MoMAにも展示されるほどですが、そのデザイン性の高さはしっかりとしたデザインマネジメントに裏付けられています。ここではすべてをご紹介できませんが、そのポイントを図でご紹介します。

06デザイン教育良いデザインは企業の選択眼で決まるその企業が良いパッケージデザインの商品を出せるかどうかは、最終的にはその企業の選択眼にかかっています。いくら良いデザイン案があっても、それを選ぶ力がなければ、その企業のデザイン力は一向に上がりません。デザイン教育の目的の1つは会社全体の選択眼を上げることです。良いデザインを選ぶ力は、パッケージデザインに直接関わる現場の人だけではなく、むしろ意思決定権のある役職が高い人にとって大切です。難しいのは、良いデザインと売れるデザインは違うということです。マーケティングや経営視点では、良いデザイン=売れるデザインですが、芸術的視点では、良いデザインと売れるデザインは違います。デザインの選択眼を磨くには、今売れているデザイン、新商品のデザインの流れ、最新の素材や容器などの情報を役職に関係なく、しっかりと社内で共有することが大切です。また、様々な賞を獲得したデザインをじっくりと見ておくこともよいでしょう。長期的にはそういったデザインの良さを多くの人が認め、売れるデザインの大きな流れをつくるきっかけになることがあるからです。また、社外のデザインセミナーなどを活用して、自社のデザイン開発プロセスを見直してみる、標準化してみる、ガイドラインをつくってみるといった取り組みも、デザイン教育の一環として有効です。デザインを社内でつくる組織の教育に大切なのは、対外試合を経験させることです。社外のデザインチームとコンペをさせたり、海外のパッケージデザイン事務所に研修に行かせたりする方法があります。自社の中だけにいると自社の商品カテゴリーの情報には目が行きますが、消費者はもっと多くのカテゴリーのデザインから影響を受けているのです。カテゴリーの壁を越え、他の業界からもデザインのトレンドを学ぶようにしましょう。

07パッケージデザイン組織の役割パッケージデザイン組織に求められる5つの機能良いパッケージデザインをつくるために、企業が持つべき機能は5つあります。デザイン部門があればデザイン部門にこういった機能を集約しますが、機能分担がしっかりとできていれば必ずしもデザイン部門をつくる必要はありません。1.スタッフィング機能:そのデザインをつくり上げるのに必要なスタッフィングを適切に行うとともに、長期的な信頼関係を構築する機能2.パッケージ情報の共有機能:パッケージの素材や技術・デザイントレンドなどを収集し、共有する機能3.品質管理機能:目標に合ったデザイン品質を管理する機能4.プロジェクトマネジメント機能:予算・期間を計画し、計画どおりに完了させる機能5.デザイン制作機能:デザインを制作する機能この5つの機能を、どのようなガイドラインで運営するかがデザインマネジメントの実務的な部分です。この5つの機能の役割分担を明確にし、どれかの機能で他社に勝てる優位性をつくることが大切です。大量のデザインを効率的につくっていきたいのであれば、プロジェクトマネジメント機能を強化する必要があります。デザイン品質で他社と差異化するならば、品質管理機能を強化してもいいですし、デザイン制作機能を強化する方法もあります。ブランド目標に沿ったデザイン制作もこの品質管理機能に含まれます。必ずしもすべてを内部化する必要はなく、うまく外部化しながら5つの機能が回る組み合わせを考えればいいのです。

08パッケージデザイン組織のパターン自社の戦略戦に合った組織体制をパッケージデザインの制作をどういった組織が担うかは企業によって異なりますが、大きく分けると3つのパターンがあります。1つは、商品企画部門にいる担当者が、それぞれデザイン事務所に直接発注するパターンです。この方法は、担当者の商品への思い入れやイメージをデザイナーと共有しやすい面がありますが、デザインの知識や評価について担当者によって差が出てしまうというデメリットがあります。2つ目は、デザイン部門を持つパターンです。デザイン部門は独立して存在しているケースもありますし、広告部門の一部が担うこともあります。デザイン部門はさらに2つのタイプに分かれます。美大出身者などが中心になってデザインまで社内で行うタイプと、デザインを制作する部分は外部化し、デザイナーやデザイン事務所に対するディレクションやプロジェクトマネジメントだけを行うタイプです。デザイン部門があると情報の一元管理ができるので、情報の共有化がしやすく、デザイン資産を長期にわたって管理することが可能になります。3つ目は、広告担当者が管理するパターンです。パッケージデザインからテレビCM、雑誌広告、WEBなどと一緒に、1つのブランドのクリエイティブを1人の広告担当者が管理します。これによって、クリエイティブ表現に一貫性を出すことができます。パッケージデザインの制作は大きくこの3つの部門によって行われるケースがほとんどですが、ポイントは自社の戦略にどのパターンが合っているのかという点です。テレビCMはほとんど打たず、商品数が非常に多いケースではデザイン部門を持つほうがいいと思います。マス商品・マス広告による基幹ブランドの成否が重要な場合には、広告担当者が一貫してコントロールするスタイルが向いています。

09パッケージデザインの組織❶商品企画部門思い入れが伝わり、意思決定が速い商品企画部、プロダクトマネジメント部といった商品・ブランドの損益責任を持つ部門の担当者が、直接デザイン事務所やデザイナーに発注するパターンです。自分が担当する商品ですから、どんな思いで商品を作っているのか、どんなデザインにしたいのかという思いを、デザイナーと共有しやすいというメリットがあります。デザインの世界では時として、商品担当者とデザイナーの間に何人もの人が介在することがあります。この場合、デザイナーの立場からすると、最初の商品担当者の思いやデザインイメージに関する情報がほとんど伝わってこず、少ない情報でデザインしなければなりません。これは、砂のボールでラグビーをしているようなものです。最初はたくさんの思いや情報があったのに、何人もパスをつないでいるうちに、最後にパスを受けるデザイナーには大切な情報がほとんど残っていないのです。商品担当者からデザイナーへ直接発注すれば、十分な質と量の情報がデザイナーに伝わります。その半面、デザインの発注にはそれなりの経験や知識が必要なので、担当者間でかなりの差が出てしまうデメリットもあります。デザイン発注に関する知識や経験を共有することは通常、商品担当者に課された必須の業務ではないので、なかなか共有できないのが実情です。また、しっかりとしたデザインコントロールができる人材を育てるには時間がかかります。商品担当者は単年での結果を求められることが多いため、中長期的視点でデザインの資産を守るというモチベーションが上がりにくい、広告・販促との連動が取りにくいといった問題もあります。どの組織がデザインを管理するにせよ、メリットとデメリットがあるので、運営にはメリットを最大にし、デメリットを最小にする工夫が大切です。

10パッケージデザインの組織❷広告部門一貫性のあるクリエイティブの実現広告部門の制作担当スタッフが、特定のブランドについて、商品のパッケージから店頭、広告までを一貫して担うというパターンです。この場合、商品担当者やプロダクトマネジャーと広告部門の制作担当スタッフが二人三脚でブランドづくりをするために、一貫性のあるクリエイティブを実現しやすいといえるでしょう。IMC(統合型マーケティングコミュニケーション)の考え方に沿って、一貫したコミュニケーションを様々なブランド・コンタクト・ポイントで実現するにはメリットが大きいパターンです。パッケージから広告、WEB、店頭がしっかりと1つの世界観でつながっていると非常に強いメッセージを訴求でき、広告でのイメージが店頭の商品に結びつきやすくなります。また、全体を見ながら制作を進めるため、先を見越したデザイン制作が可能になり、ゆとりを持ってデザイン制作を進めることができます。例えば、予算面でも全体の予算をコントロールできるために、全体最適がしやすいでしょう。パッケージに多少予算をかけても、他の制作やメディア予算をコントロールするといったことが可能になります。一方で、こういった人材を育成するにはかなりの時間がかかります。よほど社内スタッフに力がないと、経験豊富な広告代理店のクリエイティブディレクターに丸投げして、実際の業務は発注だけということになりかねません。通常、コミュニケーションプランの企画・制作では、2カ月ほどの間に制作作業が集中するために、その管理だけでも相当な業務量になります。時間がない中で、実務を効率よくこなし、一貫したクリエイティブを指示・統括できるスタッフは育成が難しい分、会社にとって強みにもなります。異動を少なくしたり、専任を作ったりして経験を積ませるといった育成方法も有効ですが、どこまで内部でやり、どこから外部に任せるかという基準の明確化や、外部パートナーの能力評価など、社内担当者をサポートする体制づくりが重要になるでしょう。

11パッケージデザインの組織❸デザイン部門デザイン資産をしっかりと守ることができるデザイン部門を持つ組織には2つのパターンがあります。1つは美大出身者など、専門の勉強や経験を積んできたスタッフが制作まで行うパターンです。もう1つは、デザイン制作は社外に発注し、デザイン部門はデザインのディレクションや品質管理、プロジェクト管理を行うというパターンです。前者のメリットは、コスト面が抑えられることです。また、デザイン品質が安定し、長期的にデザイン資産を社内に蓄積し守れます。一方で、一定の範囲の同じようなデザインしか出てこないように思えたり、デザインスタッフがマンネリ化してしまい、外からの刺激や情報が入りにくくなったりするデメリットもあります。そもそもデザイナーの組織とモノづくりの組織は、文化や評価制度、年齢とパフォーマンス、人材の流動性、教育制度などに違いがあり、同じ物差しでマネジメントするには無理があります。デザイン部門に適したマネジメント体制が求められるのです。一方、デザイン制作を外注するパターンでは、外部デザイナーの情報やノウハウ、デザイン資産のコントロールなど、中長期的視点などのメリットを生かすことができますが、専門部署にしてしまうと孤立したり、新しい情報やノウハウが不足したりするリスクもあります。こういったデメリットを回避するためには、常に社外の情報を取り込む仕組みをつくり、社外デザイナーとコンペをしたり、自主的に商品開発担当者に新商品提案をしたり、デザインサービス部門としての目標管理を行うなどの組織運営が必要になります。特にデザイナーを社内で抱える場合には、長期的な視点に立って、デザイン組織の目標、組織設計、運営方針を明確にする必要があります。デザイン組織はあるものの、その目標や役割が曖昧なケースも見られるからです。

 

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